説明

薬剤散布車

【課題】 傾斜地に対し薬剤散布をする際でも斜面に沿って良好な散布が可能な薬剤散布車を提供する。
【解決手段】 エンジン9と送風部10とは一体化され、機台11に対し送風部10が固定されずに浮いた状態である。モータ49を駆動すると、回転軸45が回動する。この回動によりチェーン41が移動されることで、ファンケース5が回動可能である。ファンケース5が回動された場合、静翼内側円筒部25が円筒部19回りにベアリング23を介して回動する。このとき、ノズル31も傾斜され、傾斜散布を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は薬剤散布車に係わり、特に傾斜地に対し薬剤散布をする際でも斜面に沿って良好な散布が可能な薬剤散布車に関する。
【0002】
【従来の技術】傾斜地に栽培された立木、ホップ、棚等に対しスピードスプレーヤ等の薬剤散布車により薬剤散布をする場合、従来、薬剤散布対象の状況に応じてノズルの向きを制御したり、噴頭部からの吐出風の向きを制御板により制御したりする構成の傾斜散布装置が知られている(特開平8−71469号公報)。
【0003】また、別の例として、機台に対し駆動軸を回動自在に支承する。そして、この駆動軸に取り付けられた羽根車を有する2基の送風部を機台に対しそれぞれ270度程度回動可能とした構成の傾斜散布装置が知られている(特公昭40−15420号公報)。
【0004】更に、別の例として、2基のファンケースが対とされ、このファンケース外周にスプロケットが形成され、1台のモータの駆動力を利用してそれぞれのファンケースを関係変位可能とした構成の傾斜散布装置が知られている(実公昭58−45806号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の傾斜散布装置は部品点数が多く、機構が複雑であった。このため、コスト高となっている。また、送風機からの風を制御板にて方向を変えるため、風速のロスが生じるおそれがあった。
【0006】更に、図7の噴頭部断面図に示すように、動翼1の回転により生成された風が静翼3に作用することで、ファンケース5が動翼1の回転方向に力を受け、ファンケース5が徐々に固定位置から回転してしまうおそれがあった。
【0007】更に、従来の傾斜散布装置では、送風部10とエンジン9とが、機台11に対しそれぞれ独自に据え付けられた後、駆動軸7のカップリングがされる。このため、図8に示すように、ファンケース脚13と機台11の間に対し、組立時にシム調整等を行い、ファンケース5の軸心と駆動軸7の軸心をあわせる必要があった。
【0008】かかる軸心の調整は煩雑であり、軸心が一致しない場合には送風部10より吐出される風に偏りを生じてしまう。
【0009】本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、傾斜地に対し薬剤散布をする際でも斜面に沿って良好な散布が可能な薬剤散布車を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】このため本発明(請求項1)は、機台(11)に配設されたエンジン(9)と、該エンジン(9)により回転伝達手段(15、17)を介して回転駆動される駆動軸(7)と、該駆動軸(7)に配設され風を供給する送風手段(1、3、5、19、23、25、35)とを備え、該送風手段(1、3、5、19、23、25、35)は前記エンジン(9)に重量を支持され該エンジン(9)と一体構成され、前記機台(11)に対し固定されずに浮いていることを特徴とする。
【0011】送風手段(1、3、5、19、23、25、35)はエンジン(9)と一体構成されている。このため、一体化後に機台(11)に据え付けることができ、シム調整やカップリング等を行う必要はなく調整工程を省略できる。送風手段(1、3、5、19、23、25、35)と駆動軸(7)の軸心が一致している分、送風手段(1、3、5、19、23、25、35)より吐出される風は均一となる。機構が簡単で部品点数が少なく、軽量かつ安価である。
【0012】また、本発明(請求項2)は、前記送風手段(1、3、5、19、23、25、35)は、前記駆動軸(7)に取り付けられた動翼(1)と、前記エンジン(9)に軸受(19、23、25)を介して該駆動軸(7)回りに回動自在に支持されるファンケース(5)とを有し、該ファンケース(5)を回動させる回動手段(41、43、45、47、49)を備えて構成した。
【0013】ファンケース(5)を回動させることで風の吐出方向を変えることができる。従って、例えばファンケース(5)にノズル(31)を取り付ければ、霧の散布方向を変えることができる。このことにより、傾斜地を散布する際に、送風手段(1、3、5、19、23、25、35)を左右に傾斜させ、斜面に沿って良好な薬剤噴霧を行うことが可能となる。
【0014】更に、本発明(請求項3)は、前記回動手段(41、43、45、47、49)はモータ(49)を有し、該モータ(49)の回動が停止されたとき前記ファンケース(5)の停止位置を強制的に保持する停止保持手段(55)を備えて構成した。
【0015】このことにより、ファンケース(5)の回転角度が一旦調整された後には、動翼(1)の回転による送風中であってもファンケース(5)を常に固定することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である噴頭装置の縦断面図を図1に、図1中のA−A矢視断面図を図2に示す。また、図3にエンジン及び送風部が一体化された状態での縦断面図を示す。
【0017】図1〜図3において、エンジン9には、断接可能なクラッチの内蔵されたクラッチケース15及びエンジン9による回転速度を可変するギヤの内蔵されたギヤケース17が連設されている。そして、このギヤケース17には円筒部19が突設され、この円筒部19の中央を駆動軸7が貫通している。駆動軸7の先端部には動翼1がハブ21により取り付けられている。
【0018】円筒部19の外周にはベアリング23を介して静翼内側円筒部25が回動自在に配設されている。静翼内側円筒部25には複数枚からなる静翼3が固定され、この静翼3の端部にはファンケース5が固着されている。また、エンジン9のクラッチケース15とは反対側にはVプーリ27が配設され、このVプーリ27に掛けられるVベルトにより、スピードスプレーヤの図示しない車輪や薬液ポンプが駆動されるようになっている。
【0019】ファンケース5の周囲には化粧胴29が形成されている。そして、この化粧胴29の後端には防塵網30が配設されている。また、化粧胴29のエンジン9側にはノズル31がノズルパイプ33より分岐され、化粧胴29の外部に突出されている。動翼1により外部より吸引され、静翼3を通過した風を放射状に案内するため、化粧胴29に対し導風板35が取り付けられている。この導風板35は、ノズル31側に向けて拡開されている。
【0020】図2に示すように、26個のノズル31が、ハブ21の中心を通る水平軸線37の上側を含み、垂直軸線39を境に左回り、右回りにそれぞれ135度程度にわたりほぼ均等に配設されている。
【0021】なお、ファンケース5の周囲の機台11にはローラ60が配設されている。このローラ60は、ファンケース5とは軽く接触しており、ファンケース5の荷重を補助的に支持している。そして、振動等によりファンケース5がぶれた場合のストッパとしても機能している。
【0022】図4に、ファンケース5を回動させる回動駆動装置の詳細図を示す。図1、図2、図4において、ファンケース5の周囲の2か所にはチェーン41の端部が固定されている。チェーン41は、スプロケット43に歯合されている。
【0023】スプロケット43は、回転軸45により貫通固定され、この回転軸45には、ギヤ47を介してモータ49の軸動力が伝達されるようになっている。回転軸45はブラケット51、53により支承され、ブラケット51、53は機台11に固定されている。また、回転軸45の端部には、電磁ブレーキ55が配設されている。
【0024】次に、本発明の実施形態の動作を説明する。エンジン9に送風部10を一体的に構成する。モータ49を駆動すると、回転軸45が回動する。この回動によりチェーン41が移動されることで、ファンケース5が垂直軸線39を境に左右にそれぞれ25〜30度程度まで回動可能である。
【0025】26個のノズル31が、左回り、右回りにそれぞれ135度程度にわたりほぼ均等に配設されているため、ファンケース5の回動角度は小さくてすむ。従って、回動駆動装置の構成も簡素にできる。
【0026】ファンケース5が回動された場合、静翼内側円筒部25が円筒部19回りにベアリング23を介して回動する。従って、ノズル31も傾斜され、図5に示すように傾斜散布を行うことができる。ノズルパイプ33は、ファンケース5の周囲に沿って複数に分割されており、この分割されたノズルパイプ33の弁をそれぞれ開閉制御可能である。
【0027】このことにより、傾斜地を散布する際に、送風部10を左右に傾斜させ、斜面に沿って良好な薬剤噴霧を行うことが可能となる。なお、このように、左右の回動角度は25〜30度程度と小さいため、チェーン41に代えて、シリンダ等でも構成可能である。
【0028】エンジン9と送風部10とは一体化され、機台11に対し送風部10が固定されずに浮いた状態である。また、エンジン9と送風部10とは、一体化後に機台11に対し据え付けることが可能である。
【0029】このため、組立時にシム調整やカップリング等を行う必要はなく、ファンケース5と駆動軸7の軸心が一致している分、送風部10より吐出される風は均一となる。従って、送風部10からの風の抵抗も少なく、風速の落ち込みが少なく、霧の到達性も向上する。
【0030】また、従来の傾斜散布装置に比べ、送風部10が一体で回転するため、機構が簡単で部品点数が少なく、軽量かつ安価に構成できる。
【0031】なお、電磁ブレーキ55とモータ49の間の配線回路図を図6に示す。図6において、スイッチ57の一端は電源59に接続され、一方、スイッチ57の他端は電磁ブレーキ55とモータ49に接続されている。電磁ブレーキ55は、無励磁作動ブレーキであり、モータ49は正転、逆転の可能なモータである。
【0032】そして、スイッチ57を操作してモータ49の軸心を回動することで、ファンケース5の回転角度を調整可能である。電磁ブレーキ55は、モータ49がスイッチ57の操作により電源59に接続されたとき、同時に電磁ブレーキ55にも電流が流れて回転軸45のブレーキは解除される。
【0033】一方、モータ49が電源59から解放されたときには、電磁ブレーキ55にも電流は流れなくなり、回転軸45を押圧してブレーキがかけられる。このことにより、ファンケース5の回転角度が一旦調整された後には、動翼1の回転による送風中であってもファンケース5を常に固定することができる。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、送風手段(1、3、5、19、23、25、35)をエンジン(9)と一体化し、機台(11)に対し固定せずに浮かせて構成したので、一体化後に機台(11)に据え付けることができ、シム調整やカップリング等を行う必要はなく調整工程を省略できる。
【0035】送風手段(1、3、5、19、23、25、35)と駆動軸(7)の軸心が一致している分、送風手段(1、3、5、19、23、25、35)より吐出される風は均一となる。機構が簡単で部品点数が少なく、軽量かつ安価である。
【0036】また、ファンケース(5)を回動させる回動手段(41、43、45、47、49)を備えて構成したので、傾斜地を散布する際に、送風手段(1、3、5、19、23、25、35)を左右に傾斜させ、斜面に沿って良好な薬剤噴霧を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態である噴頭装置の縦断面図
【図2】 図1中のA−A矢視断面図
【図3】 エンジン及び送風部が一体化された状態での縦断面図
【図4】 ファンケースを回動させる回動駆動装置の詳細図
【図5】 傾斜散布が行われているときの様子を示す図
【図6】 配線回路図
【図7】 噴頭部断面図
【図8】 シム調整の様子を示す図
【符号の説明】
1 動翼
3 静翼
5 ファンケース
7 駆動軸
9 エンジン
10 送風部
11 機台
19 円筒部
21 ハブ
23 ベアリング
25 静翼内側円筒部
31 ノズル
33 ノズルパイプ
41 チェーン
43 スプロケット
45 回転軸
49 モータ
55 電磁ブレーキ
57 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 機台(11)に配設されたエンジン(9)と、該エンジン(9)により回転伝達手段(15、17)を介して回転駆動される駆動軸(7)と、該駆動軸(7)に配設され風を供給する送風手段(1、3、5、19、23、25、35)とを備え、該送風手段(1、3、5、19、23、25、35)は前記エンジン(9)に重量を支持され該エンジン(9)と一体構成され、前記機台(11)に対し固定されずに浮いていることを特徴とする薬剤散布車。
【請求項2】 前記送風手段(1、3、5、19、23、25、35)は、前記駆動軸(7)に取り付けられた動翼(1)と、前記エンジン(9)に軸受(19、23、25)を介して該駆動軸(7)回りに回動自在に支持されるファンケース(5)とを有し、該ファンケース(5)を回動させる回動手段(41、43、45、47、49)を備えたことを特徴とする請求項1記載の薬剤散布車。
【請求項3】 前記回動手段(41、43、45、47、49)はモータ(49)を有し、該モータ(49)の回動が停止されたとき前記ファンケース(5)の停止位置を強制的に保持する停止保持手段(55)を備えたことを特徴とする請求項2記載の薬剤散布車。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−158981(P2003−158981A)
【公開日】平成15年6月3日(2003.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−359812(P2001−359812)
【出願日】平成13年11月26日(2001.11.26)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】