説明

薬剤添着活性炭

【課題】細孔径の小さい活性炭、すなわち賦活度の低い活性炭に、物理吸着能を阻害することなくアルカリ性添着剤を添着加工することで、物理吸着した臭気成分の脱離を抑制しつつ、酸性臭気の脱臭性能に優れた活性炭を提供することを課題とする。
【解決手段】比表面積が1000m/g以下の活性炭に、炭酸水素塩または水酸化物を1〜20wt%添着した活性炭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性臭気の除去性能に優れた薬剤添着活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用、家庭用フィルター等の分野において、濾材の高機能化・多様化の要請が急激に高まっており、脱臭機能を有する空気浄化用濾材の検討が多くなされている。そして、これら空気浄化用濾材として、粒子状または繊維状の吸着剤と接着剤を用いてシート化する方法が多く採用されており、例えば、基材層間に粒状吸着剤と粒状接着剤の混合物を散布し、これを加熱接着してなる吸着濾材が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
一般に臭気、有毒ガスは中性ガス、酸性ガス、塩基性ガスに大別されるが、活性炭のような無極性吸着剤では中性ガスを物理吸着作用で吸着は充分可能であるが、酸性ガスや塩基性ガスには、そのままではあまり吸着効果が得られない。したがって、活性炭に薬剤処理を施し、酸性ガスや塩基性ガスの吸着効果を高めたりする。例えば特許文献2には活性炭を担持させたシート状基材に有機酸やアミン化合物を添着させ、有機酸添着の効果でアンモニアやアミン類ガスを、一方アミン化合物添着効果でアルデヒド、硫化水素、メルカプタン等の除去効果を高めようとする方法が開示されている。
【0004】
従来、活性炭に添着剤を添着する方法として、含浸法が知られている。しかし、この方法では、活性炭との親和性が高い薬剤しか添着出来ないという問題があった。
【0005】
また、酸性臭気を活性炭で除去する場合は、活性炭にアルカリ性の薬剤を添着する技術が知られている。アルカリ性の薬剤は、通常は活性炭との親和性が低く、含浸法では添着することが出来ないが、この問題は、薬剤の水溶液を活性炭に吸収させる方法(吸収法)を採用することで解決できている。
【0006】
活性炭による臭気の除去メカニズムは物理吸着と化学吸着の2つに大別することができる。物理吸着、すなわち活性炭に比表面積の大きさによって、臭気成分の分子を分子間力等で活性炭表面に吸着させて除去する方法と、化学吸着、すなわち活性炭に薬剤を添着し、中和反応や酸化還元反応を利用して臭気成分を化学変化によって除去する方法である。
【0007】
酸性臭気は、一般に物理吸着では十分に除去できず、活性炭に薬剤を添着して化学吸着による除去を行う必要がある。ここで言う酸性臭気には、酢酸、二酸化硫黄、二酸化窒素などを挙げることができる。
【0008】
酸性臭気を除去する目的で活性炭に薬剤を添着する場合、一般にアルカリ性の剤を添着し、中和反応によって除去する方法がとられる。また、アルカリ性の薬剤は、通常は活性炭との親和性が低いため吸収法によって添着加工する。
【0009】
物理吸着は、可逆的な反応であるため、活性炭が物理吸着によって吸着した臭気成分は、脱離することがある。この脱離を防ぐためには細孔径の小さい活性炭を使用することが好ましいが、細孔径の小さい活性炭に前述のアルカリ性薬剤の添着を施すと物理吸着能が大幅に低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−5058号公報
【特許文献2】実開平4−41718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細孔径の小さい活性炭、すなわち賦活度の低い活性炭に、物理吸着能を阻害することなくアルカリ性添着剤を添着加工することで、物理吸着した臭気成分の脱離を抑制しつつ、酸性臭気の脱臭性能に優れた活性炭を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、活性炭添着剤を鋭意検討した結果、活性炭の脱臭性能を阻害することなく、酸性臭気の除去できる方法を見出した。すなわち本発明は以下の構成からなる。
1.比表面積が1000m/g以下の活性炭に、炭酸水素塩または水酸化物を1〜20wt%添着した活性炭。
2.前記炭酸水素塩が炭酸水素カリウムである上記1に記載の活性炭。
3.前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである上記1に記載の活性炭。
4.前記水酸化物が水酸化カリウムである上記1記載の活性炭。
5.前記水酸化物が水酸化ナトリウムである上記1記載の活性炭。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成による薬剤添着活性炭は、賦活度の低い活性炭への添着加工による脱臭性能の低下を抑制できるので、優れた脱臭特性を示し、脱臭剤として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における活性炭は、比表面積が1000m/g以下であることが好ましい。比表面積が1000m/g以下である活性炭は、賦活度が低いレベルの活性炭であり、細孔径および細孔容積が小さい。
【0015】
細孔径が小さい活性炭は、一般に物理吸着した臭気成分を脱離する割合が小さいため、吸着成分の脱離を抑制しようとした時は、細孔径の小さい活性炭を選択するとよい。しかし、賦活度の低い活性炭に吸収法によって薬剤を添着した場合、活性炭の吸着性能が著しく低下する。これは、薬剤の添着によって径の小さな細孔が閉塞されることによると考えられる。
【0016】
本発明は、低賦活活性炭に薬剤を添着した際に、吸着性能が低下する問題を解決するものであり、比表面積が1000m/gの活性炭で効果が高く、900m/g以下の活性炭ではより効果が高い。
【0017】
本発明に使用するアルカリ性の薬剤は、炭酸水素塩または水酸化物であることが好ましい。活性炭に添着加工するアルカリ性の薬剤としては、通常は炭酸塩が用いられるが、炭酸塩を賦活度の低い活性炭に使用すると吸着性能の著しい低下を招く。
【0018】
ここで言う炭酸水素塩には、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
ここで言う水酸化物には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のアルカリ性薬剤添着による活性炭の吸着性能低下を抑制する効果は、活性炭に添着加工するアルカリ性薬剤の量が、活性炭重量に対して1〜20wt%の時に得ることが出来、3〜20wt%の時により高い効果を得ることが出来、5〜20wt%の時にさらに高い効果を得ることが出来る。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。実施例中に示した特性は以下の方法で測定した。
(臭気除去性能)
サンプルの活性炭0.2gをガラス製カラムに入れ、除去対象である臭気(酢酸:1ppm、トルエン:20ppm、共に窒素希釈)を流速30ml/minにて流通させ入口及び出口の濃度を炭化水素計にてモニターした。入口濃度と出口濃度の差が5%となるまで測定を継続し、総除去量を吸着量とした。その後、窒素を流速30*ml/minにて流通させ、流通を始めてから1分後から6分後までの5分間の出口濃度を炭化水素計にて測定することで脱離量を得、脱離量/吸着量を百分率にて表して脱離率とした。
【0022】
<実施例1>
比表面積1000m/gの活性炭に、炭酸水素カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0023】
<実施例2>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸水素カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0024】
<実施例3>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸水素カリウムを10wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0025】
<実施例4>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸水素カリウムを20wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0026】
<実施例5>
比表面積1000m/gの活性炭に、炭酸水素ナトリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0027】
<実施例6>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸水素ナトリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0028】
<比較例1>
比表面積1000m/gの活性炭に、炭酸カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0029】
<比較例2>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0030】
<比較例3>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸カリウムを10wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0031】
<比較例4>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸カリウムを20wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0032】
<比較例5>
比表面積1000m/gの活性炭に、炭酸ナトリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0033】
<比較例6>
比表面積900m/gの活性炭に、炭酸ナトリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0034】
<比較例7>
比表面積1500m/gの活性炭に、炭酸水素カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0035】
<比較例8>
比表面積1500m/gの活性炭に、炭酸カリウムを5wt%吸収法により添着し、添着活性炭を得た。
【0036】
実施例1〜6、比較例1〜8について、臭気除去性能評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の活性炭は、酸性臭気の除去性能に優れ、物理吸着により除去した臭気の脱離を抑制できるので脱臭剤として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1000m/g以下の活性炭に、炭酸水素塩または水酸化物を1〜20wt%添着した活性炭。
【請求項2】
前記炭酸水素塩が炭酸水素カリウムである請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである請求項1に記載の活性炭。
【請求項4】
前記水酸化物が水酸化カリウムである請求項1記載の活性炭。
【請求項5】
前記水酸化物が水酸化ナトリウムである請求項1記載の活性炭。

【公開番号】特開2012−56822(P2012−56822A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204220(P2010−204220)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】