説明

薬剤耐性病原性微生物の薬剤感受性増強方法、および高度薬剤耐性菌の出現予防方法

【課題】
薬剤耐性を持った菌による免疫力のない患者の日和見感染や、手術後の感染など重大な院内感染問題を軽減することを課題とする。
【解決手段】
抗菌性物質存在下に、405nmをピークとする400−410nmの波長を有するLEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の当該抗菌性物質に対する感受性を増強する方法、および高濃度の抗菌性物質存在下にLEDを照射して、高度薬剤耐性を有するMRSA等の病原性微生物の出現を予防する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性物質の存在下にLED(Light Emitting Diode:光ダイオード)を照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の薬剤感受性を回復し、増強する方法、および高濃度の抗菌性物質存在下にLEDを照射して、高度薬剤耐性を有する病原性微生物の出現を予防する方法に関する。特に、本発明は、セパシア菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、セラチア菌等の細菌の抗生剤に対する感受性を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在先進諸国においては、細菌やウイルスなどの多くの病原性微生物に対して有効な抗生剤が開発されており感染症の驚異は低下している。しかし、特定の病原性微生物に対して特定の薬剤を投与し続けると、やがて微生物は当該薬剤に対して耐性を獲得するようになる。近年、このようにして薬剤耐性を持った菌が出現し、日和見感染症や、菌交代症、新規な多剤耐性菌の出現による院内感染症が克服すべき問題となってきている。
【0003】
セフェム系抗生剤を含むベータ・ラクタム剤の多用に対して耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が発現して社会問題となった後、さまざまな対策研究がなされた。MRSA感染症に対する新規な薬剤組成物として、抗生剤や抗菌剤、例えばアミノグリコシド系抗生剤、グリコペプチド系抗生剤、マクロライド系抗生剤、クロラムフェニコール、フォスホマイシンおよび/またはキノロン系抗菌薬に、フラボノイドを含有させた製剤を開示している(特許文献1)。多剤耐性結核菌による結核感染症の治療や予防効果については、薬剤耐性原生生物感染症患者より採取した血液中のリンパ球を、インターロイキン2等によって増殖・活性化させて主成分とした製剤が有効であることが開示されており(特許文献2)、バンコマイシン等の薬剤耐性菌保菌乃至感染している家畜・家禽・魚介類の感染防除剤としては、乳酸菌、特にエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、またはその死菌体、その処理物を有効成分とする薬剤が開示されている(特許文献3)。また、光照射によるMRSA耐性菌の殺菌方法としては、室内にフェオフォーバイドのナトリウム塩を含む水溶液を噴霧、散布又は清拭した後、室内に600〜700nmの波長を含む光を照射する室内の消毒方法が明かにされている(特許文献4)。光ダイオードによる殺菌方法に関しては、青色発光ダイオードアレイから閃光パルスを発生させて殺菌対象物に照射して殺菌する方法が開示されているが、光源が466nmをピークとする419−519nmの範囲の波長を持つものである(特許文献5)。
【特許文献1】特開2003−171274号公報
【特許文献2】特開2006−143709号公報
【特許文献3】特開2006−89421号公報
【特許文献4】特開2004−261595号公報
【特許文献5】特開2004−275335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、薬剤耐性を有する病原性微生物にLEDを照射して、病原性微生物の薬剤感受性を回復し、増強する方法は知られていなかった。本発明は、薬剤耐性を持った菌による免疫力のない患者の日和見感染や、手術後の患部からの感染など重大な院内感染問題を軽減することを課題とし、薬剤耐性を有する病原性微生物の当該抗生剤に対する感受性を増強する方法、および高度薬剤耐性を有する病原性微生物の出現を予防する方法を提供することをその主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、薬剤耐性を有する病原性微生物に対し、抗生剤存在下でLEDを照射すると、当該抗生剤の効力が回復し高まったことを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)を提供する。
【0007】
(1)LEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の抗菌性物質に対する感受性を増強する方法。
【0008】
(2)抗菌性物質存在下にLEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の当該抗菌性物質に対する感受性を増強する方法。
【0009】
(3)前記LEDが405nmをピークとする400−410nmの波長を有するものである上記(1)または(2)に記載の感受性を増強する方法。
【0010】
(4)薬剤耐性を有する病原性微生物に対し、405nmの波長を有するLEDを用い、強度2〜10mW/cm2の光を16〜50時間照射することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【0011】
(5)薬剤耐性を有する病原性微生物が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、肺炎桿菌、腸内細菌エンテロバクテリア、プロテウス菌、サルモネラ・チフス菌、サルモネラ菌、シトロバクター菌、赤痢菌、腸炎ビブリオ菌、肺炎球菌、ヘリコバクター・ピロリ菌、古草菌、セレウス菌、セラチア菌、化膿レンサ球菌、アシネトバクテリア菌、インフルエンザ菌、セパシア菌、腸球菌、表皮ブドウ球菌、カタル球菌、B群レンサ球菌、バクテロイド属菌等の細菌、または白癬菌、表在性真菌、石膏状小胞子菌、アスペルギルス菌、カンジダ菌、クリプトコッカス菌、ノルカジア菌、ムコール菌、瘢風菌等の真菌、またはQベータファージ、M13バクテリオファージ、インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エイズウイルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)等のウイルスから選ばれるものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【0012】
(6)抗菌性物質が、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系からなるベータ・ラクタム系抗生剤、アミノグリコシド系抗生剤、マクロライド系抗生剤、テトラサイクリン系抗生剤、クロラムフェニコール系抗生剤、リンコマイシン系抗生剤、グリコペプチド系抗生剤、サルファ剤抗生剤、キノロン系抗生剤等の抗生剤、または洗剤、消毒薬、漂白剤、植物由来の抗菌性物質、または光触媒による抗菌作用物質から選ばれるものである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【0013】
(7)薬剤耐性を有する病原性微生物の、抗菌性物質存在下における、当該抗菌性物質に対する感受性が下記の組み合わせから選ばれるものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
1)セパシア菌のエリスロマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンに対する感受性、または、
2)MRSAのアンピシリン、テトラサイクリンに対する感受性、または、
3)緑膿菌のクロラムフェニコール、テトラサイクリンに対する感受性、または、
4)セラチア菌のエリスロマイシンに対する感受性。
【0014】
(8)上記(1)に記載の病原性微生物の抗菌性物質に対する感受性を増強する方法であって、高濃度の抗菌性物質存在下にLEDを照射して、高度薬剤耐性を有する病原性微生物の出現を予防する方法。
【0015】
(9)前記LEDが405nmをピークとする400−410nmの波長を有するものである上記(8)に記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【0016】
(10)高度薬剤耐性を有する病原性微生物に対し、405nmの波長を有するLEDを用い、強度2〜10mW/cm2の光を16〜50時間照射することを特徴とする上記(8)または(9)に記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【0017】
(11)高度薬剤耐性を有する病原性微生物が、MRSAである上記(8)〜(10)のいずれかに記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【0018】
(12)高濃度の抗菌性物質がオフロキサシン、セファゾリン、セフォチアム、セファメタゾール、フロモキセフ、またはイミペネムから選ばれるものである上記(8)〜(11)のいずれかに記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、薬剤耐性を有する病原性微生物の感受性が増強するため、手術後の日和見感染や院内感染等による危険性を弱めることが可能である。更に、高濃度の抗菌性物質で処理するため耐性菌が出現しやすい状況において、LEDを照射することにより、耐性菌の出現を予防することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、LEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の抗菌性物質に対する感受性を増強する方法である。
【0021】
本発明で使用するLEDは、赤色ダイオード、緑色ダイオード、青色ダイオード、白色ダイオード、紫外色ダイオードが挙げられる。近紫外波長(350−410nm)を有するダイオードが効果的であり、405nmをピークとする400−410nmの波長を有する近紫外ダイオード(以後405nmLEDという)が人体や環境への影響を考慮するときもっとも適切である。
【0022】
LEDの耐性菌に照射する光強度は、好ましくは、100μW〜100mW/cm2であるが、最も好ましいのは、2〜10mW/cm2である。照射対象物への照射方法は、照射装置の構造や対象物の形状・存在する環境によって異なる。人をはじめとする動物や植物などを対象とする場合には、近接(5〜20cm)もしくは対象物から200cmまでの間隔にして行う。
【0023】
薬剤感受性試験は、次のように行う。図1に示すように、検査対象菌を適切な固形培地上に塗布し、その上に試験する薬剤を含む濾紙を定着させる。カバーをした後、適切な培養温度で菌を増殖させる。このとき、薬剤の濾紙に近い培地には高濃度の薬剤が滲出し、濾紙から遠くになるに従いその薬剤濃度は低下する。検査対象菌の増殖不可能な薬剤濃度のところで、成育阻止円が形成される。その成育阻止円の半径により、検査対象菌のその薬剤に対する感受性(耐性)度が計測される。また、このときにLED光を照射すると、LED光による薬剤感受性変化を比較・測定することが出来る。
【0024】
本発明における「感受性」とは、例えば、病原微生物であるA菌に対して、ある抗菌性物質Bが有効であるとき、A菌は抗菌性物質Bに対して感受性があると言い、「感受性を増強する」とは、A菌に対する抗菌性物質Bの効果を高めることを意味する。
【0025】
本発明における「薬剤耐性を有する病原性微生物」とは、薬剤(抗菌性物質)に対して抵抗性を持ち、薬剤が効かない、あるいは効きにくくなった病原性微生物を指し、細菌、真菌、ウイルスが含まれる。
【0026】
細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin−resistant Staphylococcus aureus:MRSA)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、腸内細菌エンテロバクテリア(Enterobacter cloacae)、プロテウス菌(Proteus、Providencia、Morganella)、サルモネラ・チフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis)、シトロバクター菌(Citrobacter freundii)、赤痢菌(Shigella dysenteriae)、腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)、古草菌(Bacillus subtilis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、セラチア菌(Serratia marcescens)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、アシネトバクテリア菌(Acinetobacter calcoaceticus)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、セパシア菌(Pseudomonas cepacia)、腸球菌(Enterococcus)、 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、カタル球菌(Moraxella(Branhamella)catarrhalis)、B群レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)およびバクテロイド菌(Bacteroides fragilis)等をあげることができる。
【0027】
真菌としては、白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)、表在性真菌(Epidermophyton floccosum)、石膏状小胞子菌(Microsporum gypseum)、アスペルギルス菌(Aspergillus)、カンジダ菌(candida albicans)、クリプトコッカス菌(Cryptococcus)、ノルカジア菌、ムコール菌(mucormycos)および瘢風菌等をあげることができる。
【0028】
ウイルスとしては、大腸菌に感染するファージウイルスであるQベータファージや、M13バクテリオファージの他、インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)、およびエイズウイルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)等をあげることができる。
【0029】
本発明で使用する抗菌性物質とは、抗生剤、抗真菌剤および抗ウイルス剤、洗剤、消毒薬、漂白剤、植物由来の抗菌性物質、光触媒による抗菌作用物質をいう。特に、細菌、真菌、ウイルス等の病原性微生物が耐性を有する抗生剤、抗真菌剤および抗ウイルス剤を指す。
【0030】
抗生剤としては、ベータ・ラクタム系抗生剤のペニシリン系抗生剤として、オキサシリン(MPIPC)、ベンジルペニシリン(PCG)アンピシリン(ABPC)、ピペラシン(PIPC)、アモキシシリン、メチシリン等を、セフェム系抗生剤として、セファゾリン(CEZ)、セフォチアム(CTM)、セフメタゾール(CMZ)、フロモキセフ(FMOX)、セフォペラゾン(CPZ)、スルバクタム・セフォペラゾン(SBT/CPZ)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)、セフピロム(CPR)、セフェピム(CFPM)、セフォゾプラン(CZOP)等を、カルバペネム系抗生剤として、イミペネム(IPM)、パニペネム(PAPM)、メロペネム(MEPM)等を、モノバクタム系抗生剤として、アズトレオナム(AZT)、カルモナム(CRMN)等を、また、アミノグリコシド系抗生剤として、ゲンタマイシン(GM)、トブラマイシン(TOB)、アミカシン(AMK)、アルベカシン(ABK)、ストレプトマイシン、カナマイシン等を、マクロライド系抗生剤としてエリスロマイシン(EM)、テトラサイクリン系抗生剤としてミノサイクリン(MINO)、リンコマイシン系抗生剤としてクリンダマイシン(CLDM)、およびクロラムフェニコール系抗生剤をあげることができる。さらに、グリコペプチド系抗生剤として、バンコマイシン(VCM)やテイコプラニン(TEIC)、キノロン系抗生剤として、オフロキサシン(OFLX)やレボフロキサシン(LVFX)、またサルファ剤系抗生剤等をあげることができる。
【0031】
抗真菌剤としては、アンフォテリシンB等のポリエンマクロライド系、およびフルシトシン等のピリミジン誘導体、およびミコナゾール、クロトリマゾール、ビホナゾール等のイミダゾール系、およびフルコナゾール、イトラコナゾール等のトリアゾール系等の抗真菌剤をあげることができる。
【0032】
抗ウイルス剤としては、ジドブジン、スタブジン、デラビルジン、イドクスウリジン、アシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、アマンタジン、リマンタジン等があげられるが、ウイルスは、病原性微生物の中では、最も形態変異を起こしやすい生物であるため、多くの薬剤が短期間で耐性になり効果を失う。
【0033】
LEDを照射することにより、抗生剤存在下で、薬剤耐性を有する病原性微生物の当該抗生剤に対する感受性の増強は、下記の組み合わせにおいて見出されるものである。すなわち、大腸菌のカナマイシン、ストレプトマイシン等のアミノグルコシド系抗生剤、アンピシリン等のペニシリン系抗生剤、クロラムフェニコール、テトラサイクリン系抗生剤に対する感受性、あるいはMRSAのメチシリン、アンピシリン、クロキサシン、オキサシリン等のペニシリン系抗生剤、セフェム系抗生剤、テトラサイクリン系抗生剤に対する感受性、あるいは緑膿菌のカンバペネム抗生剤、テトラサイクリン系抗生剤、クロラムフェニコールに対する感受性、あるいは肺炎桿菌のセフタジジム、セフォタキシム等のセフェム系抗生剤に対する感受性、あるいは腸内細菌エンテロバクテリアのセフェム系抗生剤に対する感受性、あるいはシトロバクター菌のセフェム系抗生剤に対する感受性、あるいは肺炎球菌のペニシリン系抗生剤に対する感受性、あるいはセラチア菌のペニシリン系抗生剤、セフェム系抗生剤、カルバペネム抗生剤、エリスロマイシンに対する感受性、セパシア菌のエリスロマイシン、ゲンタマイシンに対する感受性、あるいは化膿レンサ球菌のペニシリン系抗生剤、マクロライド系抗生剤に対する感受性等である。
【0034】
本発明はまた、高濃度の抗菌性物質存在下にLEDを照射して、高度薬剤耐性を有する病原性微生物の出現を予防する方法である。高度薬剤耐性を有する病原性微生物とは、高濃度で使用された抗菌性物質に対し、薬剤耐性を強く持つようになった病原性微生物のことをいう。高度薬剤耐性を有する病原性微生物としては、MRSA、緑膿菌、セパシア菌、セラチア菌があげられ、病原性微生物が耐性を有する抗菌性物質としては、オフロキサシン、セファゾリン、セフォチアム、セファメタゾール、フロモキセフ、またはイミペネム等があげられる。上記の抗菌性物質の存在下に、LEDを照射することにより、高度薬剤耐性を有する病原性微生物の感受性が高まり、出現を予防することができるが、特に著しい効果を現す組み合わせは、MRSAのオフロキサシンに対する感受性であり、オフロキサシン存在下でMRSAの出現を予防することができる。
【0035】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0036】
1)使用菌株
試験に用いた菌株は、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:MSSA)を、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:MRSA)、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa PAO1、セパシア菌(Pseudomonas cepacia)およびセラチア菌Serratia marcescensを用いた。
【0037】
2)培地及び器材
液体培地:LB−Broth(Lennox)(nacalai tesque)
固形培地:ミュラーヒントン寒天培地−N「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)
薬剤感受性ディスク:SNディスク、SNディスク−K(日水製薬株式会社製)
405nmLED照射装置:(小糸製作所製)
その他の器材:ニッスイ角シャーレ2号、滅菌綿棒(日水製薬株式会社製)
【0038】
3)薬剤感受性ディスク
SNディスクおよびSNディスク−K(日水製薬株式会社)を用いた。抗菌性物質としては、オキサシリン(MPIPC)、ベンジルペニシリン(PCG)アンピシリン(ABPC)、ピペラシン(PIPC)、セファゾリン(CEZ)、セフォチアム(CTM)、セフメタゾール(CMZ)、フロモキセフ(FMOX)、セフォペラゾン(CPZ)、スルバクタム・セフォペラゾン(SBT/CPZ)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)、セフピロム(CPR)、セフェピム(CFPM)、セフォゾプラン(CZOP)、イミペネム(IPM)、パニペネム(PAPM)、メロペネム(MEPM)、アズトレオナム(AZT)、カルモナム(CRMN)、ゲンタマイシン(GM)、トブラマイシン(TOB)、アミカシン(AMK)、アルベカシン(ABK)、ミノサイクリン(MINO)、エリスロマイシン(EM)、クリンダマイシン(CLDM)、バンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)、オフロキサシン(OFLX)、レボフロキサシン(LVFX)を使用した。
【0039】
4)培養方法
LB−Brothに接種した使用菌をO/Nで培養し、新しいLB−Brothに再度接種し対数増殖期の菌を生理食塩水でOD600nm=0.05に調節した菌液をミュラーヒントン寒天培地−N 80mlを固めたニッスイ角シャーレ2号に滅菌綿棒に菌液をよく浸し、余分な菌液は試験管の管壁で除き図2の様に菌液を塗布した。その上に試験する8種類の薬剤を含む濾紙を定着させた。カバーをした後、同じ角シャーレを2枚作成しLEDを照射するものと、照射しないものに分け、24時間照射容器で培養した。
【0040】
5)LEDの照射実験
LED照射装置を含むシャーレ(LEDを照射するもの、しないもの)は、32リットル(内寸約320mm×425mm×230mm)のプラスチック容器内に置いて照射実験を行った。(図3、図4)本照射装置で10mAの電流、405nmLEDで130mmの距離から24時間照射した。照射容器の外部温度は約29℃で405nmLED照射表面は約34℃で、同容器内の405nmLEDの照射されない空間の温度は約29℃であった。405nmLEDを照射しない角シャーレはこの空間に置いた。LEDを照射するシャーレには培地の乾燥を防止する目的でシャーレの縁から約1mmの隙間をもたせサランラップで覆った。
【0041】
6)結果
LED光を照射による薬剤感受性変化について、図5にはセラチア菌、セパシア菌、MRSA菌についての実際の実験結果を、図6には、セパシア菌、MRSA菌、緑膿菌、セラチア菌についての感受性評価を示した。
【実施例2】
【0042】
1)使用菌株
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:MRSA)を試験に用いた。
【0043】
2)培地および器材感受性ディスク
実施例1で使用したものと同じものを使用した。
【0044】
3)薬剤感受性ディスク
SNディスクおよびSNディスク−K(日水製薬株式会社)を用いた。抗菌性物質としては、オキサシリン(MPIPC)、ベンジルペニシリン(PCG)アンピシリン(ABPC)、セファゾリン(CEZ)、セフォチアム(CTM)、セフメタゾール(CMZ)、フロモキセフ(FMOX)、イミペネム(IPM)、ゲンタマイシン(GM)、アルベカシン(ABK)、ミノサイクリン(MINO)、エリスロマイシン(EM)、クリンダマイシン(CLDM)、バンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)、オフロキサシン(OFLX)を使用した。
【0045】
4)培養方法およびLED照射実験は実施例1と同様に行った。
【0046】
5)結果
図7に示すように、高濃度でMRSAが耐性を有するセファゾリン(CEZ)、セフォチアム(CTM)、セフメタゾール(CMZ)、フロモキセフ(FMOX)、イミペネム(IPM)、オフロキサシン(OFLX)で、生育抑制効果を著しかったことにより、抗菌性物質存在下、LED照射により高度薬剤耐性菌の出現を予防できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の薬剤耐性を有する病原性微生物にLEDを照射して、病原性微生物の薬剤感受性を回復し、増強する方法を利用することにより、薬剤耐性を持った菌による免疫力のない患者の日和見感染や、手術後の患部からの感染など重大な院内感染問題を軽減することができる。特に高濃度に使用する薬剤に対するMRSAの出現を抑制することができることは、社会的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】薬剤感受性実験の概念を示す図面である。
【図2】細菌の塗布方法を示す図面である。
【図3】照射実験の外観を示す図面に代わる写真である。
【図4】照射実験槽の内部を示す図面に代わる写真である。
【図5】LEDの照射による薬剤感受性変化を示す結果を示す図面に代わる写真である。
【図6】LEDの照射による薬剤感受性評価を示す図面である。
【図7】高濃度薬剤耐性菌に対する出現の抑制結果を示す図面に代わる写真である。
【図8】オフロキサシンによる成育阻止(拡大図)の結果を示す図面に代わる写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の抗菌性物質に対する感受性を増強する方法。
【請求項2】
抗菌性物質存在下にLEDを照射して、薬剤耐性を有する病原性微生物の当該抗菌性物質に対する感受性を増強する方法。
【請求項3】
前記LEDが405nmをピークとする400−410nmの波長を有するものである請求項1または2に記載の感受性を増強する方法。
【請求項4】
薬剤耐性を有する病原性微生物に対し、405nmの波長を有するLEDを用い、強度2〜10mW/cm2の光を16〜50時間照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【請求項5】
薬剤耐性を有する病原性微生物が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、肺炎桿菌、腸内細菌エンテロバクテリア、プロテウス菌、サルモネラ・チフス菌、サルモネラ菌、シトロバクター菌、赤痢菌、腸炎ビブリオ菌、肺炎球菌、ヘリコバクター・ピロリ菌、古草菌、セレウス菌、セラチア菌、化膿レンサ球菌、アシネトバクテリア菌、インフルエンザ菌、セパシア菌、腸球菌、表皮ブドウ球菌、カタル球菌、B群レンサ球菌、バクテロイド属菌等の細菌、または白癬菌、表在性真菌、石膏状小胞子菌、アスペルギルス菌、カンジダ菌、クリプトコッカス菌、ノルカジア菌、ムコール菌、瘢風菌等の真菌、Qベータファージ、M13バクテリオファージ、インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エイズウイルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)等のウイルスから選ばれるものである請求項1〜4のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【請求項6】
抗菌性物質が、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系からなるベータ・ラクタム系抗生剤、アミノグリコシド系抗生剤、マクロライド系抗生剤、テトラサイクリン系抗生剤、クロラムフェニコール系抗生剤、リンコマイシン系抗生剤、ポリペプチド系抗生剤、サルファ剤抗生剤、キノロン系抗生剤等の抗生剤、または洗剤、消毒薬、漂白剤、植物由来の抗菌性物質、または光触媒による抗菌作用物質から選ばれるものである請求項1〜5のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
【請求項7】
薬剤耐性を有する病原性微生物の、抗菌性物質存在下における、当該抗菌性物質に対する感受性が下記の組み合わせから選ばれるものである請求項1〜4のいずれかに記載の感受性を増強する方法。
1)セパシア菌のエリスロマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンに対する感受性、または、
2)MRSAのアンピシリン、テトラサイクリンに対する感受性、または、
3)緑膿菌のクロラムフェニコール、テトラサイクリンに対する感受性、または、
4)セラチア菌のエリスロマイシンに対する感受性。
【請求項8】
請求項1に記載の病原性微生物の抗菌性物質に対する感受性を増強する方法であって、高濃度の抗菌性物質存在下にLEDを照射して、高度薬剤耐性を有する病原性微生物の出現を予防する方法。
【請求項9】
前記LEDが405nmをピークとする400−410nmの波長を有するものである請求項8に記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【請求項10】
高度薬剤耐性を有する病原性微生物に対し、405nmの波長を有するLEDを用い、強度2〜10mW/cm2の光を16〜50時間照射することを特徴とする請求項8または9に記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【請求項11】
高度薬剤耐性を有する病原性微生物が、MRSAである請求項8〜10のいずれかに記載の病原性微生物の出現を予防する方法。
【請求項12】
高濃度の抗菌性物質がオフロキサシン、セファゾリン、セフォチアム、セファメタゾール、フロモキセフ、またはイミペネムから選ばれるものである請求項8〜11のいずれかに記載の病原性微生物の出現を予防する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−79510(P2008−79510A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260536(P2006−260536)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】