説明

薬剤調製器具

【課題】バイアルの装着方向や装着順序を誤った場合でも、簡単にリカバリーすることの出来る、新規な構造の薬剤調製器具を提供すること。
【解決手段】第一バイアルポート14と引き抜きポート30を連通する第一外部連通路48と、第二バイアルポート16と引き抜きポート30を連通する第二外部連通路50と、それら第一外部連通路48と第二外部連通路50とを択一的に連通/遮断する切換手段60,62とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのバイアル内に保存された製剤や薬剤、溶解液等の内容物を混合して、得られた薬液をシリンジ等の外部デバイスに取り出すために用いられる、薬剤調製器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗生物質や血液製剤等、輸液の状態では化学的に不安定となり変質のおそれのある製剤については、ゴム栓で密封されたバイアル中に凍結乾燥状態で保存する一方、使用直前に蒸留水や生理食塩水、ブドウ糖液等の溶解液に溶解調製して、患者へ投薬等することが行われている。
【0003】
このようなバイアル中に凍結乾燥状態で保存された製剤と溶解液等との調製を簡便に行うことができる薬剤調製器具として、例えば、特許文献1(特表2006−527024号公報)に記載のものが知られている。この薬剤調製器具は、内圧差のある二つのバイアルが接続可能な第一および第二バイアルポートを備えている。各バイアルポートには針状の内部連通路の両端部が突出して設けられており、各バイアルポートに接続されたバイアルの内部が、内部連通路を通じて連通されるようになっている。さらに、薬剤調製器具には、外部に開口する引き抜きポートが設けられており、第二バイアルポートと引き抜きポートに両端部が開口してバイアル内と引き抜きポートを連通状態とする外部連通路が設けられている。
【0004】
このような薬剤調製器具では、先ず、第一バイアルポートに内部が常圧である溶解液等が収容された一方のバイアルが装着される一方、第二バイアルポートに内圧が負圧である凍結乾燥製剤が収容された他方のバイアルが装着される。この際、バイアル間の内圧差により、一方のバイアル内の溶解液が内部連通路を通じて他方のバイアル内に吸引され、他方のバイアル内に収容された製剤と混合調製される。その結果得られた混合薬液は、引き抜きポートに接続されたシリンジにより吸引されて、外部に取り出される。
【0005】
ところが、かかる従来構造の薬剤調製器具では、引き抜きポートに連通された第二バイアルポートに接続された他方のバイアル内に最終的な混合薬液が収容されるように、バイアルの装着方向(各バイアルポートに取り付けるべきバイアル)やバイアルの取り付け順が定まっている。それ故、バイアルの装着方向や取り付け順を間違えると、リカバリーの手順が煩雑となったり、調製が行なえないおそれがあった。
【0006】
すなわち、バイアルの装着方向を間違って、引き抜きポートが接続されている第二バイアルポートに、内部が常圧である溶解液等が収容された一方のバイアルを接続する一方、引き抜きポートが接続されていない第一バイアルポートに内部が負圧である凍結乾燥製剤が収容された他方のバイアルを装着してしまうと、他方のバイアル内に一方のバイアル内の溶解液が吸引されて、引き抜きポートが接続されていない第一バイアルポートに接続された他方のバイアル内に最終的な混合薬液が収容されてしまう。それ故、引き抜きポートから混合薬液を吸引する場合には、先ず引き抜きポートにシリンジを接続して吸引して、第一バイアルポートに接続された他方のバイアル内の混合薬液を、第二バイアルポートに接続された一方のバイアル内に強制的に移動させる。そして、該吸引でシリンジ内に入った空気を押し出すために、シリンジを一旦引き抜きポートから取り外してシリンジ内の空気を排出した後に、再び引き抜きポートに接続して吸引することで混合薬液をシリンジ内に充填しなければならなかった。
【0007】
一方、バイアルの取り付け順を間違って、先ず内部が負圧である凍結乾燥製剤が収容された他方のバイアルを第二バイアルポートに接続してしまうと、他方のバイアルの内部が薬剤調製器具の内部連通路を介して外部空間と連通されて、内部の負圧が解消されてしまう。それ故、その後に第一バイアルポートに内部が常圧である一方のバイアルを接続しても、内圧差による溶解液の移動が生じず、調製が行なえなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−527024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、バイアルの装着方向や装着順序を誤った場合でも、簡単にリカバリーすることの出来る、新規な構造の薬剤調製器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
本発明の第一の態様は、二つのバイアル内に収容された内容物を混合して薬剤を調製する薬剤調製器具であって、前記二つのバイアルの一方が接続される第一バイアルポートと、前記二つのバイアルの他方が接続される第二バイアルポートと、前記第一バイアルポートと前記第二バイアルポートに両端部が突出して配設されており、該第一および第二バイアルポートに接続された前記二つのバイアル内を連通する中空管体状の内部連通路と、開口部が開放可能に密封されており、該開口部が開放されることにより外部デバイスが接続可能とされた引き抜きポートと、前記第一バイアルポートと前記引き抜きポートに両端部が開口して前記一方のバイアル内を前記引き抜きポートに連通する第一外部連通路と、前記第二バイアルポートと前記引き抜きポートに両端部が開口して前記他方のバイアル内を前記引き抜きポートに連通する第二外部連通路と、前記第一外部連通路と前記第二外部連通路を択一的に連通/遮断する切換手段と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に従う構造とされた薬剤調製器具によれば、引き抜きポートと二つのバイアル内を各別に連通する第一外部連通路と第二外部連通路が、切換手段により択一的に連通/遮断されるようになっている。これにより、各バイアルを接続すべきバイアルポートを間違えて、引き抜きが出来ないバイアル側に混合薬液が貯留された場合や、各バイアルの接続順序を間違えて、内圧差による溶解液の移動と調製が行なえなくなった場合でも、シリンジなどの外部デバイスによる押圧/吸引の簡単な操作によって、薬剤の調製と外部デバイスへの吸引を行なうことが出来る。
【0013】
すなわち、引き抜きポートにシリンジなどの外部デバイスを接続して、且つ切換手段によって第一外部連通路を連通、第二外部連通路を遮断した状態で、シリンジ内の空気を第一バイアルポートに取り付けられた一方のバイアル内に注入する。その結果、一方のバイアル内の内容物(溶解液や混合薬液)が他方のバイアル内へ内部通路を通じて移動する。なお、バイアルの装着方向を間違えて、一方のバイアル内に混合薬液が貯留されていた場合には、この時点で混合薬液が他方のバイアル内に移動されることとなる。また、バイアルの取り付け順序を間違って、負圧の抜けにより他方のバイアル内に凍結乾燥剤が溶解液と未混合で残留していた場合には、この時点で一方のバイアル内の溶解液と混合されて、混合薬液が他方のバイアル内に貯留されることとなる。その後、切換手段により第二外部連通路を連通、第一外部連通路を遮断した状態で、シリンジ等の外部デバイスを吸引作動することにより、他方のバイアル内に貯留された混合薬液を吸引することが出来る。
【0014】
要するに、本発明に従う構造とされた薬剤調製器具によれば、バイアルの取り付け方向や取り付け順序を間違えた場合でも、シリンジ等の外部デバイスを引き抜きポートに接続したまま、一回の押圧および吸引という簡易な操作を行なうのみで、混合薬液を外部デバイスに充填することが出来る。従って、バイアルの装着方向や装着順序を間違えた場合でも、簡単な操作で且つ衛生的にリカバリーして、混合薬液を取り出すことが出来る。また、バイアルの装着順序を間違って、一方のバイアル内の負圧が解消されて二つのバイアルが内圧差を有さない場合でも、混合薬液の調製と吸引が可能とされている。従って、本発明の薬剤調製器具は、内部が常圧同士で、内圧差を有さない二つのバイアルに使用することも可能である。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、前記切換手段が、前記第一外部連通路に設けられて前記引き抜きポートから前記一方のバイアル内への流体流動を許容してその逆を遮断する第一逆止弁と、前記第二外部連通路に設けられて前記他方のバイアルから前記引き抜きポートへの流体流動を許容してその逆を遮断する第二逆止弁と、を含んで構成されているものである。
【0016】
本態様によれば、外部からの特別な操作を要することなく、シリンジ等の外部デバイスによる空気の注入および吸引による流体流動に伴って、自動的に第一外部連通路と第二外部連通路の連通/遮断状態を択一的に切り換えることが出来る。これにより、操作性の更なる向上を図ることが出来る。
【0017】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載のものにおいて、前記引き抜きポートの流通経路上にフィルタが設けられているものである。このようにすうれば、混合薬液を引き抜きポートから外部デバイスに吸引する際に、混合薬液をフィルタで濾過することによって、コアリング(バイアルのゴム栓の削り取り)によって混合薬液中に混入したゴム小片や、薬剤および薬液中の異物、薬剤の溶け残りなどを取り除くことが出来る。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、第一バイアルポートと引き抜きポートを接続する第一外部連通路と、第二バイアルポートと引き抜きポートを接続する第二外部連通路とを設け、それら第一外部連通路と第二外部連通路を択一的に連通/遮断する切換手段を設けた。これにより、バイアルの装着方向や装着順序を間違えた場合でも、シリンジの一度の押圧吸引操作によって、第一バイアルポートに接続された一方のバイアル内の溶解液や混合溶液を、第二バイアルポートに接続された他方のバイアル内に移動させることが可能であり、簡易な操作でリカバリーして薬剤の調製と取り出しを行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態としての薬剤調製器具の斜視図。
【図2】図1に示した薬剤調製器具の上面図。
【図3】図2におけるIII−III断面図。
【図4】図1に示した薬剤調製器具の正常な使用手順を説明するための説明図。
【図5】バイアルの装着位置を誤った場合の使用手順を説明するための説明図。
【図6】図5に示した手順以降の手順を説明するための説明図。
【図7】バイアルの装着順序を誤った場合の使用手順を説明するための説明図。
【図8】図7に示した手順以降の手順を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
先ず、図1〜図3に、本発明の一実施形態としての薬剤調製器具10を示す。なお、図3は、理解を容易とするために、図1および図2よりも大きく図示している。薬剤調製器具10は、全体として略正八角形断面の筒状部12を有すると共に、第一バイアルポート14、第二バイアルポート16、および中間部18を有している。
【0022】
第一バイアルポート14と第二バイアルポート16は、筒状部12の軸方向(図3中、上下方向)の両端にそれぞれ設けられており、互いに略同一形状を有している。第一バイアルポート14は、筒状部12の一方の端部によって構成された筒部20を有している。筒部20は、一方端が開放され、他方端が中間部18において筒状部12の軸直角方向に広がる仕切板部22で塞がれた有底の筒形状を有しており、その内部に装着口24を形成している。筒部20において、それぞれの対向方向が互いに直交する4つの内面には、筒部20の内方に突出して筒部20の軸方向(図3中、上下方向)に延びる位置決めリブ25,25,25,25がそれぞれ形成されている。同様に、第二バイアルポート16は、筒部26とその内部に装着口28を有しており、筒部26の4つの内面には、4つの位置決めリブ29,29,29,29がそれぞれ突設されている。装着口24および装着口28は、後述する溶解液用バイアル74および薬剤用バイアル76の着脱が可能な形状とされている。
【0023】
これら第一バイアルポート14と第二バイアルポート16の間に、中間部18が形成されている。中間部18には、引き抜きポート30が一体形成されている。引き抜きポート30には、薬剤が流通可能な流通経路としての薬剤吸引用流路32が形成されている。引き抜きポート30は、筒状部12の外周上で筒状部12の軸直角方向に突出する管形状とされており、薬剤吸引用流路32は、筒状部12の軸直角方向に延びると共に、筒状部12の外周上に突出して外部空間に開口する開口部34を有している。また、引き抜きポート30の外周面上には雄ネジが形成されており、該雄ネジにキャップ36が外挿状態で螺着される。キャップ36の内部には、キャップ36の開口方向に突出する封止突部37が形成されており、引き抜きポート30への螺着状態において、この封止突部37が薬剤吸引用流路32の開口部34に挿入されることにより、開口部34がキャップ36で密封されるようになっている。なお、薬剤吸引用流路32の経路上には、異物除去フィルタ39が設けられている。これにより、後述する混合薬液90を引き抜きポート30から取り出すに際して、混合薬液90を異物除去フィルタ39で濾過して、コアリングによって混合薬液90中に混入したゴム小片や、後述する溶解液82や固形薬剤88に含まれる異物、固形薬剤88の溶け残り等を除去することが出来る。
【0024】
さらに、薬剤調製器具10には、流路形成部38が形成されている。流路形成部38は、筒状部12の略中心軸上を延びて、第一バイアルポート14と第二バイアルポート16との間で一方向に延伸する形状を有している。流路形成部38は、第一バイアルポート14から中間部18を貫通し、第二バイアルポート16に達するように形成されている。
【0025】
流路形成部38の一方の先端部40は第一バイアルポート14の装着口24内に位置されている。一方、他方の先端部42は第二バイアルポート16の装着口28内に位置されている。これら先端部40,42は、後述する溶解液用バイアル74および薬剤用バイアル76のゴム栓80,86を貫通可能なように針形状を有している。
【0026】
流路形成部38には、内部連通路44が形成されている。内部連通路44は、流路形成部38を貫通して、先端部40と先端部42の間で流路形成部38の軸方向に一直線状に延びる中空管体状とされており、先端部40で第一バイアルポート14の装着口24内に開口されていると共に、先端部42で第二バイアルポート16の装着口28内に開口されている。なお、内部連通路44は、先端部40において軸方向(図3中、上方向)に開口されている。一方、先端部42には、流路形成部38を軸方向(図3中、上下方向)に直交する方向に貫通して、流路形成部38の外周面上に矩形状をもって開口する一対の側方開口部46,46(図3では一方のみ図示)が、内部連通路44の径方向(図2中、上下方向)で対向して形成されている。これにより、内部連通路44は、先端部42において、一対の側方開口部46,46を通じて、流路形成部38の外周面上に開口されている。
【0027】
さらに、流路形成部38には、内部連通路44から独立して、第一外部連通路48と第二外部連通路50が形成されている。第一外部連通路48は、流路形成部38の軸方向に延びる中空管体状とされており、一方の端部が第一バイアルポート14の装着口24内に開口された開口部52とされている一方、他方の端部が引き抜きポート30に連通する連通部54とされている。また、第二外部連通路50は、流路形成部38の軸方向に延びる中空管体状とされており、一方の端部が第二バイアルポート16の装着口28内に開口された開口部56とされている一方、他方の端部が引き抜きポート30に連通する連通部58とされている。従って、本実施形態における引き抜きポート30は、第一外部連通路48と第二外部連通路50の両方に連通されている。
【0028】
そして、第一外部連通路48と第二外部連通路50のそれぞれの経路上において、中間部18の内部には、第一逆止弁60と第二逆止弁62がそれぞれ設けられている。第一逆止弁60は、収容空間64内に弁体68が収容された構造とされている。収容空間64は、中間部18の内部において、第一外部連通路48の流路断面積を部分的に拡大するように形成されている。収容空間64は、引き抜きポート30と流路形成部38の間で、略円形断面をもって筒状部12の軸直角方向に延びるように形成されており、一方の端部が流路形成部38内に連通されていると共に、他方の端部が薬剤吸引用流路32と連通されている。
【0029】
弁体68は球形状を有している。そして、収容空間64の内径寸法は、流路形成部38側において弁体68の直径よりも大きく、引き抜きポート30側において弁体68の直径よりも小さくされている。従って、流路形成部38から引き抜きポート30への流体流動が生ぜしめられると、弁体68が、収容空間64の引き抜きポート30側を塞ぐ位置に移動される。これにより、第一逆止弁60は、引き抜きポート30から第一バイアルポート14に向かう流体流動を許容する一方、第一バイアルポート14から引き抜きポート30に向かう流体流動を遮断するようになっている。
【0030】
一方、第二逆止弁62は、第一逆止弁60と略同様に、収容空間70内に弁体72が収容された構造とされている。そして、収容空間70の内径寸法は、引き抜きポート30側において弁体72の直径よりも大きく、流路形成部38側において弁体72の直径よりも小さくされている。従って、引き抜きポート30から流路形成部38への流体流動が生ぜしめられると、弁体72が、収容空間70の流路形成部38側を塞ぐ位置に移動される。これにより、第二逆止弁62は、第二バイアルポート16から引き抜きポート30に向かう流体流動を許容する一方、引き抜きポート30から第二バイアルポート16に向かう流体流動を遮断するようになっている。
【0031】
すなわち、第一逆止弁60と第二逆止弁62は、引き抜きポート30に対して、流体流動の許容方向が互いに反対方向に設定されている。これにより、第一外部連通路48は、引き抜きポート30側の連通部54から第一バイアルポート14側の開口部52への流体流動のみが許容されている一方、第二外部連通路50は、第二バイアルポート16側の開口部56から引き抜きポート30側の連通部58への流体流動のみが許容されている。これにより、引き抜きポート30から正圧が及ぼされた場合には、第一外部連通路48が連通、第二外部連通路50が遮断されて、引き抜きポート30から第一バイアルポート14への流体の流入のみが許容される一方、引き抜きポート30から負圧が及ぼされる場合には、第一外部連通路48が遮断、第二外部連通路50が連通されることによって、第二バイアルポート16から引き抜きポート30への流体の流出のみが許容されるようになっている。このように、本実施形態においては、第一逆止弁60と第二逆止弁62を含んで、第一外部連通路48と第二外部連通路50を択一的に連通/遮断する切換手段が構成されている。
【0032】
なお、本実施形態における薬剤調製器具10は、第一バイアルポート14、第二バイアルポート16、中間部18および引き抜きポート30が、樹脂材料によって一体に成形されている。但し、薬剤調製器具10は、例えば金属から形成されていても良いし、流路形成部38の先端部40,42のみが金属で形成されて、その他の部分が樹脂材料から形成されていても良い。なお、薬剤調製器具10に用いられる材料としては、薬剤に溶出するといった、薬剤に対して悪影響を与えることのないものが使用され、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS(acrylonitrile butadiene styrene)、環状ポリオレフィン、ポリアセタール、ステンレス等が使用される。
【0033】
次に、このような薬剤調製器具10を用いて、薬剤を調製する方法について図4に基づいて説明する。先ず、薬剤調製器具10と、溶解液用バイアル74および薬剤用バイアル76を準備する。なお、図4〜図8中に記載の矢印は、後述する溶解液82や混合薬液90、空気等の流体の流動方向を示している。
【0034】
溶解液用バイアル74は、ガラス瓶78と、ガラス瓶78の開口を塞ぐゴム栓80とから構成されている。溶解液用バイアル74の内部には、液体状の溶解液82が封入されている。溶解液用バイアル74の内部は常圧とされている。
【0035】
一方、薬剤用バイアル76は、溶解液用バイアル74と略同様の構造を有しており、ガラス瓶84とゴム栓86から構成されている。薬剤用バイアル76の内部には、凍結乾燥された固形薬剤88が封入されている。薬剤用バイアル76の内部は真空の負圧状態とされている。なお、薬剤用バイアル76の内部は、必ずしも厳密な真空状態である必要はなく、薬剤用バイアル76の内部が負圧である結果、薬剤用バイアル76と溶解液用バイアル74との間に内圧差が生じていれば良い。
【0036】
そして、図4(a)に示すように、薬剤調製器具10の引き抜きポート30をキャップ36で封止した状態で、溶解液用バイアル74を、第一バイアルポート14に装着する。なお、薬剤調製器具10の姿勢は特に限定されるものではないが、好適には、机などの上に溶解液用バイアル74を載置し、その溶解液用バイアル74の上方から第一バイアルポート14を装着する。これにより、流路形成部38の先端部40がゴム栓80を貫いて、内部連通路44および第一外部連通路48が溶解液用バイアル74の内部と連通する。その結果、溶解液用バイアル74の内部が、第一外部連通路48を通じて引き抜きポート30の薬剤吸引用流路32と連通される。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、薬剤調製器具10の姿勢を、溶解液用バイアル74を装着した第一バイアルポート14を鉛直上側(図4中、上側)に位置決めし、第二バイアルポート16が鉛直下側に位置決めされる状態とする。この状態で、薬剤用バイアル76を第二バイアルポート16に装着する。これにより、流路形成部38の先端部42がゴム栓86を貫いて、内部連通路44および第二外部連通路50が薬剤用バイアル76の内部と連通する。その結果、薬剤用バイアル76の内部が、第二外部連通路50を通じて引き抜きポート30の薬剤吸引用流路32と連通される。
【0038】
そして、薬剤用バイアル76の内部と溶解液用バイアル74の内部とが、内部連通路44を通じて連通される。薬剤用バイアル76の内圧が、溶解液用バイアル74の内圧よりも低いことから、この内圧差を駆動力として、溶解液用バイアル74の内部の溶解液82が、内部連通路44を通じて薬剤用バイアル76の内部に流入する。これにより、薬剤用バイアル76内で溶解液82と固形薬剤88が混合されて攪拌されることにより、混合薬液90が調製される。
【0039】
次に、図4(c)に示すように、引き抜きポート30のキャップ36を取り外して、引き抜きポート30に外部デバイスとしてのシリンジ92を接続する。なお、シリンジ92は、プランジャ94が押し込まれた状態で引き抜きポート30に接続される。続いて、薬剤調製器具10を上下反転させて、薬剤調製器具10の姿勢を、第二バイアルポート16が鉛直上側(図4中、上側)に位置されると共に、第一バイアルポート14が鉛直下側(図4中、下側)に位置される状態とする。これにより、第二外部連通路50の開口部56が、混合薬液90内に位置される。
【0040】
そして、図4(d)に示すように、シリンジ92のプランジャ94を引く。これにより、引き抜きポート30内に負圧が及ぼされて、第一外部連通路48が第一逆止弁60で遮断される一方、第二外部連通路50が、第二逆止弁62で連通される。その結果、第二バイアルポート16側に貯留された混合薬液90が、第二外部連通路50を通じてシリンジ92内に吸引される。
【0041】
このような構造とされた薬剤調製器具10によれば、例えば、装着位置を誤って溶解液用バイアル74を第二バイアルポート16、薬剤用バイアル76を第一バイアルポート14に接続した場合や、装着順序を誤って薬剤用バイアル76を先に装着した場合でも、溶解液と固形薬剤との混合や、混合薬液の取り出しを行なうことが出来る。
【0042】
すなわち、図5(a)に示すように、装着位置を誤って、溶解液用バイアル74を第二バイアルポート16に装着した後に、図5(b)に示すように、薬剤用バイアル76を第一バイアルポート14に接続したとする。この場合、溶解液用バイアル74と薬剤用バイアル76の内圧差により、溶解液用バイアル74の内部の溶解液82が、内部連通路44を通じて薬剤用バイアル76の内部に流入して、薬剤用バイアル76内で混合薬液90が調製される。
【0043】
薬剤用バイアル76が接続された第一バイアルポート14は、第一外部連通路48上に設けられた第一逆止弁60によって、引き抜きポート30側への流体流動が阻止されている。それ故、第一バイアルポート14から混合薬液90を取り出すことは出来ない。そこで、図5(c)に示すように、薬剤調製器具10を上下反転させて、薬剤調製器具10の姿勢を、第一バイアルポート14に装着された薬剤用バイアル76が鉛直上側(図5中、上側)に位置される状態とすると共に、引き抜きポート30のキャップ36を取り外して、引き抜きポート30にシリンジ92を接続する。なお、シリンジ92は、プランジャ94が引かれて押し込み可能とされた状態で引き抜きポート30に接続される。
【0044】
次に、図6(a)に示すように、シリンジ92のプランジャ94を押し込む。第一逆止弁60と第二逆止弁62により、第一外部連通路48における引き抜きポート30から第一バイアルポート14への流体流動は許容される一方、第二外部連通路50における引き抜きポート30から第二バイアルポート16への流体流動は阻止される。これにより、シリンジ92内の空気は第一外部連通路48を通じて第一バイアルポート14に装着された薬剤用バイアル76内に流入される。その結果、薬剤用バイアル76に正圧が及ぼされて、薬剤用バイアル76の内部に貯留された混合薬液90が内部連通路44を通じて、第二バイアルポート16に装着された溶解液用バイアル74の内部に流入される。
【0045】
続いて、図6(b)に示すように、薬剤調製器具10を上下反転させて、薬剤調製器具10の姿勢を、第二バイアルポート16に装着された溶解液用バイアル74が鉛直上側(図6中、上側)に位置される状態とする。これにより、第二外部連通路50の開口部56が、混合薬液90内に位置される。そして、図6(c)に示すように、シリンジ92のプランジャ94を引くことにより、第二外部連通路50を通じて、第二バイアルポート16側に貯留された混合薬液90がシリンジ92内に吸引される。
【0046】
このように、本実施形態に従う薬剤調製器具10によれば、溶解液用バイアル74と薬剤用バイアル76の装着位置を誤って、引き抜きポート30からの吸引が不可能な第一バイアルポート14側で混合薬液90が調製された場合(図5(b)参照)でも、シリンジ92のプランジャ94を押し込む(図6(a)参照)ことによって、混合薬液90を第一バイアルポート14から第二バイアルポート16に移動させることが可能となる。これにより、押し込んだプランジャ94を引くことによって、シリンジ92を薬剤調製器具10から一旦取り外すこと無く、混合薬液90をシリンジ92内に取り出すことが出来る。
【0047】
さらに、本実施形態に従う構造とされた薬剤調製器具10によれば、溶解液用バイアル74と薬剤用バイアル76の装着順序を誤った場合でも、混合薬液90の調製と取り出しを行なうことが出来る。
【0048】
すなわち、図7(a)に示すように、装着順序を誤って、溶解液用バイアル74よりも先に、薬剤用バイアル76を第二バイアルポート16に装着したとする。第二バイアルポート16に装着されるに際して、薬剤用バイアル76のゴム栓86が流路形成部38の先端部42で貫かれて、薬剤用バイアル76の内部が内部連通路44を通じて外部空間と連通されることにより、薬剤用バイアル76の内部の負圧が解消される。
【0049】
次に、図7(b)に示すように、溶解液用バイアル74を、第一バイアルポート14に装着する。薬剤用バイアル76の負圧が解消されていることから、溶解液用バイアル74の内部の溶解液82は、薬剤用バイアル76に流入しない。
【0050】
そこで、図7(c)に示すように、薬剤調製器具10の姿勢を、第一バイアルポート14に装着された溶解液用バイアル74が鉛直上側(図8中、上側)に位置された状態で、引き抜きポート30のキャップ36を取り外して、引き抜きポート30にシリンジ92を接続する。なお、シリンジ92は、プランジャ94が引かれて押し込み可能とされた状態で引き抜きポート30に接続される。
【0051】
そして、図8(a)に示すように、シリンジ92のプランジャ94を押し込む。これにより、第一バイアルポート14に装着された溶解液用バイアル74の内部に正圧が及ぼされて、溶解液用バイアル74の内部に貯留された溶解液82が内部連通路44を通じて、第二バイアルポート16に装着された薬剤用バイアル76の内部に流入される。その結果、薬剤用バイアル76の内部で溶解液82と固形薬剤88が混合されて、混合薬液90が調製される。
【0052】
続いて、図8(b)に示すように、薬剤調製器具10を上下反転させて、薬剤調製器具10の姿勢を、第二バイアルポート16に装着された薬剤用バイアル76が鉛直上側(図8中、上側)に位置される状態とする。これにより、第二外部連通路50の開口部56が、混合薬液90内に位置される。そして、図8(c)に示すように、シリンジ92のプランジャ94を引くことにより、第二外部連通路50を通じて、第二バイアルポート16側に貯留された混合薬液90がシリンジ92内に吸引される。
【0053】
このように、本実施形態に従う薬剤調製器具10によれば、溶解液用バイアル74と薬剤用バイアル76の装着順序を誤って、先に薬剤用バイアル76を装着して薬剤用バイアル76の負圧が解消される(図7(a)参照)ことにより、溶解液用バイアル74から薬剤用バイアル76に溶解液82が流入しない場合でも、シリンジ92のプランジャ94を押し込んで溶解液用バイアル74の内部に正圧を及ぼす(図8(a)参照)ことによって、溶解液82を薬剤用バイアル76内に流入させて、混合薬液90を調製することが出来る。これにより、押し込んだプランジャ94を引くことによって、シリンジ92を薬剤調製器具10から一旦取り外したりすること無しに混合薬液90をシリンジ92内に取り出すことが出来る。また、このことから明らかなように、本発明に従う薬剤調製器具によれば、一方のバイアル内の負圧が解消されて、二つのバイアル間で内圧差を生じない場合でも、混合薬液の調製と吸引を行なうことが可能とされている。従って、本発明の薬剤調製器具は、内部が何れも常圧とされて、内圧差を有さない二つのバイアルに使用することも可能である。
【0054】
以上のように、本実施形態に従う構造とされた薬剤調製器具10によれば、溶解液用バイアル74と薬剤用バイアル76の装着位置を誤った場合と、装着順序を誤った場合の何れにおいても、シリンジ92を引き抜きポート30に接続した状態を維持しつつ、プランジャ94を一度だけ押し込んで引くという簡易な操作でリカバリして、溶解液82と固形薬剤88との混合および混合薬液90の取り出しを行なうことが出来る。
【0055】
そして、第一外部連通路48と第二外部連通路50を択一的に連通する切換手段が、互いに流体流動の許容方向が反対に設定された第一逆止弁60と第二逆止弁62を含んで構成されている。これにより、第一外部連通路48と第二外部連通路50を択一的に確実に連通することが出来る。特に本実施形態においては、第一逆止弁60の弁体68と第二逆止弁62の弁体72が何れも球体とされていることから、第一外部連通路48と第二外部連通路50の遮断をより確実に行なうことが出来る。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態における薬剤調製器具10は、第一バイアルポート14と第二バイアルポート16が略同一形状とされていたが、本発明における薬剤調製器具は、このような形に限定されるものではない。従って、薬剤調製器具10の外観は、調製操作の妨げとならない形状であれば特に限定されるものではなく、第一バイアルポート14と第二バイアルポート16が互いに異なる形状を有していても良い。
【0057】
さらに、第一バイアルポート14および第二バイアルポート16の装着口24,28の形状は、バイアルが着脱可能な形状であれば特に限定されることはない。前記実施形態における装着口24,28は正八角形形状とされていたが、例えばバイアルの開口部の外径と略等しい内径を有する円形状や、バイアルの開口部の外径と略同一長さの辺を有する正方形形状等とされても良い。
【0058】
更にまた、前記実施形態における第一逆止弁60および第二逆止弁62は、何れも球体の弁体68,72を備えたものであったが、弁体はこれに限定されるものではなく、例えば柱形状や平板形状でも良いし、或いは、ダックビル型やアンブレラ型等の従来公知の逆止弁が適宜に採用可能である。
【0059】
加えて、第一外部連通路48と第二外部連通路50を択一的に連通/遮断する切換手段は、前記実施形態における方向性の異なる逆止弁に限定されない。例えば、第一外部連通路48と第二外部連通路50にそれぞれバタフライバルブ等の切換弁を設け、外部から各連通路の連通/遮断を択一的に切り換えるようにして、切換手段を構成することも可能である。
【0060】
また、前記実施形態においては、二つのバイアルの一方に液体、他方に固体が封入されていたが、例えば本発明の薬剤調製器具に対して、液体を封入する二つのバイアルが装着されても良い。
【符号の説明】
【0061】
10:薬剤調製器具、14:第一バイアルポート、16:第二バイアルポート、30:引き抜きポート、32:薬剤吸引用流路(引き抜きポートの流通経路)、34:開口部、36:キャップ、38:流路形成部、39:フィルタ、40:先端部、42:先端部、44:内部連通路、48:第一外部連通路、50:第二外部連通路、60:第一逆止弁(切換手段)、62:第二逆止弁(切換手段)、74:溶解液用バイアル、76:薬剤用バイアル、82:溶解液、88:固形薬剤、90:混合薬液、92:シリンジ(外部デバイス)、94:プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのバイアル内に収容された内容物を混合して薬剤を調製する薬剤調製器具であって、
前記二つのバイアルの一方が接続される第一バイアルポートと、
前記二つのバイアルの他方が接続される第二バイアルポートと、
前記第一バイアルポートと前記第二バイアルポートに両端部が突出して配設されており、該第一および第二バイアルポートに接続された前記二つのバイアル内を連通する中空管体状の内部連通路と、
開口部が開放可能に密封されており、該開口部が開放されることにより外部デバイスが接続可能とされた引き抜きポートと、
前記第一バイアルポートと前記引き抜きポートに両端部が開口して前記一方のバイアル内を前記引き抜きポートに連通する第一外部連通路と、
前記第二バイアルポートと前記引き抜きポートに両端部が開口して前記他方のバイアル内を前記引き抜きポートに連通する第二外部連通路と、
前記第一外部連通路と前記第二外部連通路を択一的に連通/遮断する切換手段と、
を備えていることを特徴とする薬剤調製器具。
【請求項2】
前記切換手段が、前記第一外部連通路に設けられて前記引き抜きポートから前記一方のバイアル内への流体流動を許容してその逆を遮断する第一逆止弁と、前記第二外部連通路に設けられて前記他方のバイアルから前記引き抜きポートへの流体流動を許容してその逆を遮断する第二逆止弁と、を含んで構成されている請求項1に記載の薬剤調製器具。
【請求項3】
前記引き抜きポートの流通経路上にフィルタが設けられている
請求項1又は2に記載の薬剤調製器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217729(P2012−217729A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88599(P2011−88599)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】