説明

薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法

【課題】真空打栓法を用いてガスケットを配置しても液漏れすることのない高い密封性を付与することができ、またガスケットと注射筒との摺動性を向上させることができ、しかも放射性医薬品がガスケットに付着するのを防止することができる薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法を提供する。
【解決手段】ガスケット11を、注射筒内周面と接触する外周面に連続して円周方向に突出した2以上の環状凸部13a、13b、13cを有する形状とする。また、このガスケットの医薬品接触面17および医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部13aを含む成型体をフッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体15で形成する。これにより、薬液充填済み注射器の製造時、保存時および使用時にガスケットへの放射性医薬品の付着(吸着を含む)を防止すると共に、薬液充填済み注射器における高い密封性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品が予め注射筒内部に充填された薬液充填済み注射器(プレフィルドシリンジ)、および薬液充填済み注射器の注射筒内部に配置されるガスケットに関するものであり、特に、医薬品が放射性医薬品である薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性医薬品の容器として、内部に放射性医薬品が予め充填された注射筒を密封した薬液充填済み注射器が一般的に使用されており、この薬液充填済み注射器においては、注射筒内部の医薬品を密封するために、通常、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等のゴム弾性体で形成されたガスケットが注射筒の内部に配置される。
【0003】
従来、このような薬液充填済み注射器に用いられるガスケットにおいては、ゴムに含有される配合剤、例えば硫黄、加硫促進剤等が保存時に医薬品中へ滲出するのを防止するため、また、医薬品に含まれる防腐剤あるいは医薬品そのものがガスケットに吸着するのを防止するために、フッ素系樹脂の薄膜をガスケットの医薬品接触部へ部分的にコーティングまたは積層する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ガスケットと注射筒の内壁に塗布される潤滑剤が、異物、微粒子として医薬品に混入し、人体への悪影響が問題視されていたため、医薬品への異物、微粒子の混入を防止し、かつ、ガスケットと注射筒との摺動性を向上させるために、ガスケットの医薬品接触部および注射筒内周面との摺動部分の全面を厚さ0.01〜0.1mmのテトラフロロエチレン樹脂フィルムで積層する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらにまた、医薬品への異物の混入や溶出の虞がなく、保存時に十分な液密性と気密性を有し、使用時に摺動性の良いガスケットを得るために、ガスケットの表面に摺動性の良いプラスチックの薄膜を被覆する技術が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
図6は、前述した薬液充填済み注射器を示す断面図である。薬液充填済み注射器52は、通常、内部に放射性医薬品(注射液)54が充填された透明ガラス製の注射筒56と、注射筒56の先端部内に挿入されたゴム栓58と、注射筒56の後端部内に挿入されたゴム製ガスケット60と、注射筒56の先端に取り付けられ、先端側が注射針72の針基74に嵌合される注射針装着部62とを備え、ゴム栓58とガスケット60との間に注射液54が充填されている。
【0007】
上述した薬液充填済み注射器において、注射筒56の内部に注射液54を充填する際には、ゴム栓58が挿入された注射筒56の内部に注射液54を充填し、その後ガスケット60を注射筒56の内部に配置して密封する。注射筒56の内部を密封する際、ゴム栓58とガスケット60との間に存在する気体を取り除くために、通常次のような方法でガスケット60が注射筒56の内部に配置される。
(1)ゴム栓58が挿入された注射筒56の内部に注射液54を充填する。
(2)硬度を有する細い中空針(または針金)を注射筒56の内部に後端開口部から挿入し、中空針が注射液54に接触しない位置で注射筒56の内周面に接触するように配置する。
(3)ガスケット60を注射筒56の内部に挿入してガスケット60と注射筒56の内周面との間に上記中空針を挟み込み、ガスケット60の上下の空間が中空針によって連通する状態とする。
(4)(3)の状態の注射筒56を減圧器に入れ、減圧器内を減圧する。ガスケット60が注射液54の直上まで押し込まれたら中空針を注射筒56の内部から取り除き、その後、減圧器内の気圧を常圧に戻す。
【0008】
以上のような方法、いわゆる真空打栓法により、ゴム栓58とガスケット60との間に存在する気体を一定量以上取り除いて、注射筒56の内部に注射液54を密封している。
【0009】
しかしながら、従来のガスケットにおいては、前述したように、フッ素系樹脂の薄膜がガスケット60の医薬品接触部や注射筒56との摺動部分へコーティングまたは積層されていたり、あるいは、ガスケット60の表面にプラスチックの薄膜が被覆されていたりするため、前記(3)で記載したようにガスケット60と注射筒56の内周面との間に中空針が挟み込まれた際に、ガスケット60のコーティングまたは積層されている薄膜の部分は皺が生じるなどして形状が変形してしまう。この変形した部分は中空針を取り除いた後にも形状が復元されない場合が多く、形状が変形した部分には、ガスケット60と注射筒56の内周面との間に間隙が形成されることとなり、この間隙から注射筒56内部に充填された注射液54が外部に漏れるという問題点があった。
【0010】
また、医薬品の中でも、特に放射性医薬品は、放射性核種がガスケット60の医薬品接触部に付着(吸着を含む)しやすい性質があり、このようにガスケット60に付着した当該核種は、生理食塩水、塩酸等の水性溶媒や、ジエチルエーテルのような非水性溶媒で洗浄しても完全に洗い出すことは困難である。また、放射性医薬品の場合、濃度が通常極めて低いことから、放射性核種の付着量がときには充填された放射能量の20%を超える場合もあるので、正確な放射能量の投与を行うためには付着に伴う損失補填をする必要が生じ、その結果、放射能含有量を増加しなければならないという問題点があった。他方、放射性核種が付着した使用済みのガスケットの廃棄やそれに関連した被曝の問題も生じるため、作業者の被曝管理に格別の対処を必要としなければならなかった。
【0011】
【特許文献1】実公昭52−19435号公報
【特許文献2】特公平7−47045号公報
【特許文献3】特許第3211223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のような問題点に鑑み、本発明は、真空打栓法を用いてガスケットを配置しても液漏れすることのない高い密封性を付与することができ、またガスケットと注射筒との摺動性を向上させることができ、しかも放射性医薬品がガスケットに付着するのを防止することができる薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、かかる課題を解決するために鋭意研究を行った結果、放射性医薬品が予め注射筒内部に充填された薬液充填済み注射器において、その注射筒内部に配置されるガスケットが、フッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体を有することにより、高い摺動性を保有しつつ密封性が向上し、かつ、放射性医薬品がガスケットに付着するのを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、注射筒内部に放射性医薬品を予め充填した薬液充填済み注射器に、ガスケットを注射筒の内周面に接触して配置する場合において、該ガスケットを注射筒内周面と接触する外周面に連続して円周方向に突出した2以上の環状凸部を有する形状とし、該ガスケットの医薬品接触面および医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部を含む成型体をフッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体で形成することにより、薬液充填済み注射器の製造時、保存時および使用時に該ガスケットへの放射性医薬品の付着(吸着を含む)を防止すると共に、薬液充填済み注射器における高い密封性を確保することを特徴とする薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、真空打栓法を用いてガスケットを配置しても液漏れすることのない高い密封性を付与することができ、またガスケットと注射筒との摺動性を向上させることができ、しかも放射性医薬品がガスケットに付着するのを防止することが可能な薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
【0017】
(第一実施形態)
図1は本発明による薬液充填済み注射器の一実施形態を示す断面図であり、また、図2は、図1中のガスケットを拡大した断面図である。図1および図2に示すように、本例の薬液充填済み注射器1は、硬質ガラス製の注射筒3と、注射筒3の先端部内に挿入されたゴム栓(閉塞部材)7と、注射筒3内部の後端部側に配置されたガスケット11と、注射筒3の先端に取り付けられた注射針装着部5とを備えており、放射性医薬品(注射液)9が注射筒3内部に充填され、ゴム栓7とガスケット11との間に注射液9が密封されている。
【0018】
ガスケット11は、薬液充填済み注射器1の注射筒3の内周面と接触する外周面に、連続して円周方向に突出した3つの環状凸部13a、13b、13cを有し、フッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体15からなる。したがって、医薬品接触面17および3つの環状凸部13a、13b、13cを含む部分はフッ素ゴム成型体15で形成されている。なお、ガスケット11には、プランジャー21の先端部が装着可能な中空部19が設けられている。
【0019】
注射筒3内部の注射液9を投与する際には、ガスケット11の中空部19にプランジャー21を装着し、次いで注射筒3の先端に備えられた注射針装着部5に注射針(両刃針)の針基を装着してゴム栓7を注射針にて穿通する。その後、プランジャー21を押すことによってガスケット11を摺動させることができる。
【0020】
(第二実施形態)
図3は本発明によるガスケットの一実施形態を示す側面図であり、また、図4は、図3のA−A線におけるガスケットの断面図である。図3および図4に示すように、本例のガスケット31は、薬液充填済み注射器の注射筒内周面と接触する外周面に、連続して円周方向に突出した3つの環状凸部33a、33b、33cを有し、フッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体35と、ブチルゴムを含有して成型されるブチルゴム成型体37とが接合されている。また、本例では、ガスケットの医薬品接触面39および医薬品接触面側に形成された1の環状凸部33aを含む成型体が、上記フッ素ゴム成型体35で形成されている。なお、ガスケット31には、プランジャー21の先端部が装着可能な中空部41が設けられている。
【0021】
以下、本発明における薬液充填済み注射器およびガスケットについてさらに述べる。本発明における薬液充填済み注射器は、通常、硬質ガラス、非晶性ポリオレィン、ポリエチレン系樹脂等で形成された注射筒と、注射筒の先端部内に挿入され注射筒の内部の放射性医薬品を液密に閉塞する閉塞部材と、注射筒内部の後端部に配置されたガスケットと、注射筒の先端に取り付けられた注射針装着部とを備えている。注射液投与の際に注射針装着部に注射針(両刃針)の針基が装着され、注射針にて閉塞部材が突き刺され穿通される。閉塞部材は通常ゴム状弾性体で形成されている。
【0022】
本発明における薬液充填済み注射器に配置されるガスケットは、その形状が注射筒内周面と接触する外周面に連続して円周方向に突出した2以上の環状凸部を有するものであればよく、例えば、環状凸部が内周方向から外周方向に向けて厚さ(軸方向の厚さ)が薄くなっているもの、内周方向から外周方向に向けて厚さが厚くなっているもの、内周方向から外周方向に向けて厚さが等しいもの、また、環状凸部の縁端部が鋭角や鈍角の角度を有するもの、あるいは丸みを有するもの等を用いることができる。ガスケットは、注射筒内の密封性と注射液投与時の安定した摺動性を確保し、ノッキングを防止するという点から、注射筒内周面と接触する外周面に連続して円周方向に突出した2つ以上の環状凸部を有するものであり、通常3つの環状凸部を有し、環状凸部の厚さが内周方向から外周方向に向けて薄くなると共に環状凸部の縁端部が丸みを有するものが好ましい。
【0023】
また、本発明におけるガスケットは、医薬品接触面および医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部を含む成型体がフッ素ゴム成型体で形成されているものであり、例えば、フッ素ゴム成型体のみからなるガスケット、あるいは、フッ素ゴム成型体とフッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体とが接合されたガスケットが挙げられ、フッ素ゴム成型体と1のゴム状弾性成型体との2つの成型体が接合されてなるガスケットや、フッ素ゴム成型体と2のゴム状弾性成型体との3つの成型体が接合されてなるガスケット等を用いることができる。
【0024】
さらに、本発明におけるガスケットは、例えば、フッ素ゴム成型体とゴム状弾性成型体との2つの成型体が接合されてなるガスケットにおいては、医薬品接触面および医薬品接触面側に形成された1の環状凸部を含む成型体がフッ素ゴム成型体で形成されているもの、また、医薬品接触面および医薬品接触面側に形成された2の環状凸部を含む成型体がフッ素ゴム成型体で形成されているもの等を用いることができる。
【0025】
本発明では、ガスケットの医薬品接触面がフッ素ゴム成型体で形成されていることにより、放射性医薬品の放射性核種がガスケットの医薬品接触面に付着するのを防止することができる。例えば、ガスケットの医薬品接触面がフッ素ゴム成型体ではなくブチルゴムやシリコーンゴムを含有して成型されたものであると、放射性医薬品の放射性核種や主成分となるキャリアーがガスケットの医薬品接触面に付着してしまうため好ましくない。
【0026】
また、ガスケットの医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部を含む成型体がフッ素ゴム成型体で形成されていることにより、ガスケットを注射筒の内部に配置する際に真空打栓法を用いても、液漏れすることなく高い密封性を確保することができる。すなわち、真空打栓を行う際に、ガスケットと注射筒の内周面との間に中空針(または針金)が挟み込まれてガスケットに皺が生じる等の形状変形が生じても、中空針を取り除いた後に変形した形状が元の形状に復元されるため、ガスケットと注射筒の内周面との間に間隙が形成されることはない。
【0027】
ガスケットの医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部を含む成型体がフッ素ゴム成型体で形成されていない場合、例えば、フッ素樹脂等の薄膜がガスケットの環状凸部にコーティングや積層されている場合は、真空打栓を行うと、ガスケットと注射筒の内周面との間に中空針が挟み込まれた際に、ガスケットのコーティングまたは積層されている薄膜の部分に皺が生じる等の形状変形が生じ、変形した形状が中空針を取り除いた後にも復元されず、ガスケットと注射筒の内周面との間に間隙が形成され、間隙から注射筒内部に充填された注射液が外部に漏れてしまうため密封性が確保できない。
【0028】
本発明において、ガスケットのフッ素ゴム成型体に含有されるフッ素ゴムは、例えば、フッ化ビニリデン、六フッ化プロピレン、四フッ化エチレン、パーフロロメチルビニルエーテル、および二フッ化ポリビニルから選ばれるフッ素化合物を1種以上含む共重合体を挙げることができ、プロピレン、エチレンを含むことができる。中でも、フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン、六フッ化プロピレン、および四フッ化エチレンから選ばれるフッ素化合物を1種以上含む共重合体が好ましく、例えば、四フッ化エチレンとプロピレンとの共重合体、二フッ化ポリビニルと六フッ化プロピレンとの共重合体、二フッ化ポリビニルと六フッ化プロピレンと四フッ化エチレンとの共重合体、四フッ化エチレンとプロピレンと二フッ化ポリビニルとの共重合体等を用いることができる。
【0029】
また、上記フッ素ゴム成型体に含有されるフッ素ゴムは、放射性医薬品の放射性核種の付着を防止するという点で、通常フッ素を55重量%以上含有するもの、好ましくはフッ素を60〜65重量%含有するものを用いることができる。
【0030】
さらに、上記フッ素ゴムは、ポリオール加硫、パーオキサイド加硫、放射線加硫、電子線加硫、およびプラズマ加硫等の方法で架橋することができる。これらの方法で架橋すると、フッ素ゴム中に副産物等が含まれるのを防止できるので、放射性医薬品に用いられるゴム弾性体として良好な状態、すなわち二硫化炭素、二級アミンや、その他の副産物等が含まれるのを低減でき、フッ素ゴムが放射性医薬品と接触しても副産物等が放射性医薬品に溶出して化学的な変化を起こすことを抑制できる。特に、パーオキサイド加硫は、医薬品に対する溶出物が特に少なく、耐薬品性、耐スチーム性に優れるため、放射性医薬品を充填した薬液充填済み注射器のガスケットに適している。
【0031】
なお、上記フッ素ゴムは、JIS−K6253による規格で定められた国際ゴム硬さが40〜70IRHDの範囲のもの、特に55〜60IRHDの範囲のものを好適に用いることができる。国際ゴム硬さが40IRHDより小さいと、ガスケットに圧力をかけて薬液充填済み注射器から医薬品を投与する際に、ガスケットの注射筒の内周面との接触部分から液漏れを起こす可能性があり、密封性が確保できないため好ましくない。また、国際ゴム硬さが70IRHDより大きいと、ガスケットの摺動抵抗が大きくなり、薬液充填済み注射器から医薬品を投与するのが困難になる場合が生じたり、真空打栓を行う際に減圧器でガスケットを医薬品の直上まで押し込むことができずに打栓できない可能性が生じたり、また、ガスケットの柔軟性が劣るため、真空打栓において中空針が注射筒とガスケットとの間に挟まれた際に、変形したガスケットの形状が元に戻りにくくなり、ガスケットと注射筒の内周面との間に間隙が形成され、注射筒内部に充填された医薬品が外部に漏れる可能性が生じてしまい密封性が確保できないため好ましくない。
【0032】
また、フッ素ゴム成型体には、本発明の目的を損なわない範囲で、補強剤、着色顔料、加工助剤、受酸剤、架橋剤および架橋助剤等から選ばれる1種以上の添加剤を適宜含有させることができる。例えば、補強剤としてはシリカ、カーボンブラック、クレー、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、タルク、珪酸カルシウム等、着色顔料としては酸化チタン、カーボンブラック等、加工助剤としてはステアリン酸、ステアリルアミン、オクタデシルアミン、ステアリン酸ナトリウム等、受酸剤としては水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等、架橋剤としてはポリアミン、ポリオール、パーオキサイド等、架橋助剤としてはトリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、1,3−ブチレンジメタアクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタアクリレート、ポリエチレングリコールジメタアクリレート等が挙げられる。また、フッ素ゴム成型体には、柔軟性を向上させるためにフッ化ビニリデン、六フッ化プロピレン等の共重合体からなるフッ素オイルを配合することができる。
【0033】
本発明によるガスケットにおいて、フッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体は、例えば、合成ゴムおよび熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる1種以上のゴム状弾性体を含有して成型することができる。合成ゴムとしては、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ジビニルベンゼン部分架橋ゴム、臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、スチレン−ブタジェンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられ、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、ポリエステル系、オレフィン系、フッ素系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。フッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体としては、密封性、摺動性に優れるという点で、ブチルゴムを主たる成分として含有して成型される塩素化ブチルゴム成型体が好ましい。
【0034】
本発明における薬液充填済み注射器に用いられるガスケットの製造方法としては、フッ素ゴム成型体のみからなるガスケットについては、成型用金型を使用して一般的な方法により成型することができる。
【0035】
また、フッ素ゴム成型体とフッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体とが接合されてなるガスケットについては、例えば、図5に示す手順で作製することができる。
(1)一次成型用金型80にフッ素ゴム未加硫シート81を置く。
(2)フッ素ゴム未加硫シート81を上からプレスし、温度をかけて架橋する。
(3)フッ素ゴム成型体82を成型して所望の大きさに打ち抜く。
(4)フッ素ゴム成型体82を本成型用(二次成型用)金型83に入れて上面に接着剤84を塗布する。
(5)本成型用金型83に、一次加硫されたブチルゴムシート等のフッ素ゴム以外のゴム状弾性体シート85を置く。
(6)ゴム状弾性体シート85を上からプレスし、温度をかけて架橋することにより、フッ素ゴム成型体82とブチルゴム成型体86とを接合させる。
(7)フッ素ゴム成型体82とブチルゴム成型体86との接合体を打ち抜くことによって、ガスケット87を形成する。
【0036】
さらに、フッ素ゴム成型体とフッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体とが接合されてなるガスケットについては、フッ素ゴム成型体と、フッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体とをそれぞれ個別に成型用金型にて成型し、それらの成型体を接着剤等で接合させてもよい。
【0037】
本発明における薬液充填済み注射器の注射筒内部に予め充填される放射性医薬品としては、ヨード123、ヨード131、タリウム201およびフッ素18から選ばれる1種以上の放射性核種を有する医薬品を特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
(ガスケットの作成)
未加硫フッ素ゴム(フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体)を架橋助剤等の添加剤と共に混練してシート状に一次加硫したもの(フッ素ゴム未加硫シート)をガスケット成型用金型に置き、パーオキサイド加硫法により加硫して成型し、フッ素ゴム成型体からなるガスケットを形成した。得られたガスケットは、3つの環状凸部を有する円柱状の形状を有し、環状凸部の最大外周の径は9.2mmであり、プランジャーの先端部が装着可能な中空部が設けられていた。
(薬液充填済み注射器の準備)
一定量のシリコーンが内周面に塗布され、先端部内がゴム栓で閉塞された注射筒(内周の径:8.6mm)の内部に、ヨード123(I−123)を含む放射性医薬品2mL(濃度:74MBq/mL、放射能量:148MBq)を充填し、上記で得られたガスケットを用いて真空打栓法により放射性医薬品を密封した。なお、放射性医薬品の充填および真空打栓は25℃の温度下にて行い、また、真空打栓には中空針を用いた。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様のフッ素ゴム未加硫シートをガスケットの一次成型用金型に置き、パーオキサイド加硫法により加硫して成型し、ガスケットの医薬品接触面および医薬品接触面側の1の環状凸部を含む成型体をフッ素ゴム成型体にて形成した。次に、上記で形成されたフッ素ゴム成型体について、塩素化ブチルゴム成型体との接合面に接着剤を塗布して二次成型金型に入れ、その上に塩素化ブチルゴムシートを置いて成型し、フッ素ゴム成型体と塩素化ブチルゴム成型体とを接合してなるガスケットを形成した。得られたガスケットの形状および大きさは、実施例1のガスケットと同様とした。実施例1と同様にして、上記で得られたガスケットを用いて真空打栓法により放射性医薬品を密封した。
【0040】
[比較例1〜5]
比較例として、実施例1と同様の形状および大きさを有する以下のガスケットを準備し、これらのガスケットを用いて実施例1と同様にして真空打栓法により放射性医薬品を密封した。
・比較例1:塩素化ブチルゴムからなるガスケット(薬液充填済み注射器に一般的に用いられるもの)。
・比較例2:シリコーンゴムからなるガスケット。
・比較例3:塩素化ブチルゴムからなるガスケットの医薬品接触面および3つの全環状凸部の表面に、50μmの厚さのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をラミネートしたガスケット。
・比較例4:塩素化ブチルゴムからなるガスケットの医薬品接触面および医薬品接触面側の第1の環状凸部の表面に、80μmの厚さのPTFEをラミネートしたガスケット。
・比較例5:塩素化ブチルゴムからなるガスケットの医薬品接触面および医薬品接触面側の第1の環状凸部の表面に、50μmの厚さのPTFEをラミネートしたガスケット。
【0041】
[薬液充填済み注射器に関する評価]
上記実施例1および2、比較例1〜5における薬液充填済み注射器について、以下の評価を行った。
(密封性に関する評価)
実施例1および2、比較例1〜5における薬液充填済み注射器について、真空打栓法によってガスケットを打栓した後に、ガスケットの医薬品接触面側の第1の環状凸部から第二の環状凸部間にかけての液のにじみ(いわゆる液上がり)の発生について目視で確認した。結果を表1に示す。
(吸着に関する評価)
実施例1および2、比較例1〜5における薬液充填済み注射器について、それぞれ25℃および50℃の環境下にて24時間保存した後、注射筒内部の放射性医薬品を射出して放射能量を測定した。この場合、薬液充填済み注射器から射出した薬液中の放射能濃度を単位容量当たりの放射能濃度に換算し吸着率を求めた。具体的には、ガスケットに対するヨード−123の吸着率を次式により算出した。結果を表1に示す。
A={(B−C)/B}×100
A:ヨード−123の吸着率(%)
B:注射筒充填前の放射性医薬品の放射能濃度(MBq/mL)
C:24時間保存後の放射性医薬品の放射能濃度(MBq/mL)
(摺動性に関する評価)
実施例1および2、比較例1〜5における薬液充填済み注射器について、各ガスケットの中空部にプランジャーを装着し、各注射筒に備えられた注射針装着部に両刃針を装着して閉塞されていたゴム栓を穿通した。次に、上記プランジャーを一定速度で押すことによりガスケットを摺動させてガスケットに加わった力を測定し、ガスケットが動き出すときに必要となる最大力を測定値とした。一般的な薬液充填済み注射器に用いられる塩素化ブチルゴムからなるガスケット(比較例1)を摺動させたときの測定値を1.0とした場合の測定値の結果を表1に示す。
(溶出物試験)
実施例1および2、比較例1〜5における薬液充填済み注射器にて用いられた各ガスケットについて、第14改正日本薬局方輸液用ゴム栓試験法により溶出物試験を実施した。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1の密封性評価の結果からわかるように、本発明による薬液充填済み注射器では、真空打栓法によってガスケットを打栓せしめた際に、ガスケットの環状凸部の周辺部への放射性医薬品の液上がりの発生は全く見られず、密封性が確保されていることが確認された。これに対し、PTFEをラミネートしたガスケットを用いた薬液充填済み注射器(比較例3〜5)では、真空打栓法によってガスケットを打栓せしめた際に、医薬品接触面側の第1の環状凸部から第二の環状凸部間にかけて液上がりが発生し、密封性が確保できなかった。
【0045】
また、表1の吸着評価の結果からわかるように、本発明による薬液充填済み注射器では、25℃の室温および50℃の高温で保存した際のいずれの場合もガスケットに対する放射性核種の吸着は見られなかった。これに対し、塩素化ブチルゴムからなるガスケットおよびシリコーンゴムからなるガスケットを用いた薬液充填済み注射器(比較例1および2)では、25℃の室温および50℃の高温で保存した際のいずれの場合もガスケットに対する放射性核種の吸着が認められ、特に50℃の高温で保存した場合は、塩素化ブチルゴムからなるガスケットでは20%、シリコーンゴムからなるガスケットでは27%の吸着が発生しているので、放射性医薬品投与時に必要な放射能量が確保できないばかりでなく、放射性医薬品基準に示される品質基準および製造時の品質基準にも適合しないことがわかった。
【0046】
また、表1の摺動性評価の結果からわかるように、本発明による薬液充填済み注射器では、一般的な薬液充填済み注射器に用いられる塩素化ブチルゴムからなるガスケット(比較例1)に近い値を示したため、注射液の投与に差し支えないと判断された。一方、シリコーンゴムからなるガスケットおよびPTFEをラミネートしたガスケットを用いた薬液充填済み注射器(比較例2〜5)では、2.5〜3.0と高い値を示したため、注射液投与の際に術者に対して違和感を覚えさせるばかりでなく、強い力が必要となるためスムーズに注射液の投与を行うことができず使いづらいことがわかった。
【0047】
また、表2の結果からわかるように、本発明による薬液充填済み注射器に用いられるガスケットは、輸液用ゴム栓試験法の溶出物試験の規格に適合するものであることが確認できた。
【0048】
以上の結果から、本発明による薬液充填済み注射器は、真空打栓法を用いてガスケットを打栓しても液漏れすることのない高い密封性を有し、ガスケットの摺動性にも優れ、かつ、ガスケットに放射性医薬品が付着するのを防止できるものであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に用いる薬液充填済み注射器の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1中のガスケットを拡大した断面図である。
【図3】本発明に用いるガスケットの一実施形態を示す側面図である。
【図4】図3のガスケットのA−A線における断面図である。
【図5】本発明に用いるガスケットの製造方法を示す概略図である。
【図6】放射性医薬品の薬液充填済み注射器および注射針(両刃針)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 薬液充填済み注射器
3 注射筒
5 注射針装着部
7 ゴム栓(閉塞部材)
9 放射性医薬品(注射液)
11 ガスケット
13a、13b、13c 環状凸部
15 フッ素ゴム成型体
17 医薬品接触面
19 中空部
21 プランジャー
31 ガスケット
33a、33b、33c 環状凸部
35 フッ素ゴム成型体
37 ブチルゴム成型体
39 医薬品接触面
41 中空部
80 一次成型用金型
81 フッ素ゴム未加硫シート
82 フッ素ゴム成型体
83 二次成型用金型
84 接着剤
85 ゴム状弾性体シート
86 ブチルゴム成型体
87 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射筒内部に放射性医薬品を予め充填した薬液充填済み注射器に、ガスケットを注射筒の内周面に接触して配置する場合において、該ガスケットを注射筒内周面と接触する外周面に連続して円周方向に突出した2以上の環状凸部を有する形状とし、該ガスケットの医薬品接触面および医薬品接触面側に形成された少なくとも1の環状凸部を含む成型体をフッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体で形成することにより、薬液充填済み注射器の製造時、保存時および使用時に該ガスケットへの放射性医薬品の付着(吸着を含む)を防止すると共に、薬液充填済み注射器における高い密封性を確保することを特徴とする薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。
【請求項2】
ガスケットは、フッ素ゴムを含有して成型されるフッ素ゴム成型体と、フッ素ゴム以外のゴム状弾性体を含有して成型されるゴム状弾性成型体とが接合されていることを特徴とする請求項1に記載の薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。
【請求項3】
フッ素ゴム以外のゴム状弾性体は、合成ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上を含有してなる弾性体であることを特徴とする請求項2に記載の薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。
【請求項4】
放射性医薬品が、ヨード123、ヨード131、タリウム201およびフッ素18から選ばれる1種以上の放射性核種を有する医薬品であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。
【請求項5】
フッ素ゴム成型体に含有されるフッ素ゴムは、フッ素を55重量%以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。
【請求項6】
フッ素ゴム成型体に含有されるフッ素ゴムは、国際ゴム硬さが40〜70IRHDである請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬液充填済み注射器内の放射性医薬品の有効成分の損失防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61343(P2009−61343A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331741(P2008−331741)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【分割の表示】特願2003−179180(P2003−179180)の分割
【原出願日】平成15年6月24日(2003.6.24)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】