説明

薬物の放出を制御した速崩錠及びその製法

【課題】薬物の放出が制御された速崩錠を提供する。
【解決手段】(1)(a)薬物がワックスマトリックス中に包含される顆粒、及び/又は(b)薬物含有顆粒を水溶性高分子又は水不溶性高分子皮膜により被覆した顆粒と
(2)賦形剤を混合し
(3)溶媒を加えて練合し
(4)鋳型に入れ成形した錠剤
又はその製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内で速やかに崩壊し、しかも薬物の放出を制御出来る錠剤、およびこのような錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に高齢者の人口に占める割合が増加し、それに伴って、高齢患者用薬剤の開発が進められてきた。高齢者は種々の生理機能等の低下を生じており、とりわけ、経口による薬剤摂取のし易さの観点から、嚥下力の低下が高齢患者の薬物治療において注目されるようになり、その改善のための剤形工夫がなされるようになってきた。具体的には薬物を分散、溶解した液やペーストを、予め錠剤の形状に成型されたブリスターシートのポケットに充填し、凍結乾燥して製する錠剤(特公昭62ー50445)や薬物を含む湿潤粉体を鋳型の中に充填して低圧で圧縮成型した後、乾燥して製する錠剤(特開平8ー19589)などにより口腔中で速やかに溶解する剤形が検討されている。
【0003】
しかしながら、上述の速崩性錠剤は、崩壊が非常に速やかであるために薬物の放出速度は錠剤の崩壊に依存せず、薬物の溶解性にのみ依存することが知られている。一方、薬物の放出を制御出来るように工夫された錠剤は、様々な徐放機構を用いて数多く存在するが、それらの放出制御錠剤は速やかに口腔内で崩壊するという工夫がなされていない。即ち、嚥下し易いように口腔内で速やかに崩壊するが、薬物の放出を制御出来るように工夫された薬物の放出を制御した速崩錠は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、嚥下し易いように口腔内で速やかに崩壊するが、薬物の放出を制御出来るように工夫された速崩錠の開発を試みた。従来、徐放性錠剤の薬物放出機構で採用されている水不溶性でしかもpH非依存的な高分子フィルムの皮膜を錠剤表面に形成する方法や高分子、ワックス等をマトリックスとした錠剤は口腔内では容易に崩壊しない。本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、以下に示す構成により目的を達成することを見出し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)(a)薬物が水溶性高分子マトリックス又はワックスマトリックス中に包含される顆粒、及び/又は(b)薬物含有顆粒を水溶性高分子又は水不溶性高分子皮膜により被覆した顆粒と
(2)賦形剤を混合し
(3)溶媒を加えて練合し
(4)鋳型に入れ成形した錠剤
又はその製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における水溶性高分子とは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールから選ばれる1種以上の水溶性高分子である。これら水溶性高分子は1種でも2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0007】
本発明におけるワックスとは、硬化油即ち魚油又は植物性若しくは動物性の脂肪油に水素を添加して得た脂肪であり、例えば硬化綿実油、硬化大豆油、硬化ヒマシ油等を挙げることができる。
【0008】
また、顆粒を製造するには乳糖、マンニトール、結晶セルロース、デンプン等の製剤化助剤をあわせて用いることもできる。即ち、本発明における顆粒は、薬物に水溶性高分子又はワックスを加え更に必要に応じ乳糖、マンニトール等の賦形剤を加え溶媒を添加して混練合し造粒乾燥して得ることができる。この様にして得られた顆粒においては、薬物が高分子又はワックスマトリックス中に分散しているため薬物は水中又は胃腸管内において徐々に放出される。
【0009】
本発明における顆粒はまた薬物に乳糖、マンニトール等の賦形剤を加え、少量の結合剤及び溶媒を添加し、造粒して、上記とは異なる高分子マトリックスに分散していない通常の顆粒を製造し、この顆粒に水溶性高分子及び/又は水不溶性高分子をコーティングする
ことにより得ることもできる。この場合も薬物は水中又は胃腸管内において徐々に放出される。これらの造粒及びコーティングは通常用いられる装置により行うことができる。
【0010】
本発明における水不溶性高分子とは、エチルセルロース、メチルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート・メタクリル酸共重合体、セルロースアセテートフタレートから選ばれる1種以上の水不溶性高分子である。これら水不溶性高分子は2種以上を組合わせて用いてもよく、また水溶性高分子と組合わせてもよい。この様にして得られた顆粒の粒子径は400μm以下が好ましい。400μm以下の場合は錠剤が口中で崩壊後のザラ感がほとんどなく服用性が良好である。
【0011】
本発明における賦形剤とは、マンニトール、乳糖、白糖、エリスリトール、キシリトール、Dーソルビトール、ブドウ糖、マルトース、マルチトールなどの糖類、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、ポテト澱粉などの澱粉類、部分アルファー化澱粉などの澱粉誘導体などを意味する。これら賦形剤は2種以上を組合わせて使用することができる。特に、マンニトール、乳糖、エリスリトール、キシリトール及び澱粉類が好ましい。顆粒と賦形剤の量比は特に限定されないが、通常は、顆粒1重量部に対して賦形剤2重量部以上であり、好ましくは3重量部以上である。賦形剤に薬物を混合してもよい。
【0012】
本発明においては、顆粒、賦形剤とともに結合剤を混合することができる。結合剤を用いることにより錠剤の硬度を上げることができ、摩損度の減少等の製剤的な性質を向上することができる。結合剤は、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プルラン、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルアルコール、デキストラン、デキストリン、キサンタンガム等を意味する。これら結合剤は1種でも2種以上を混合してもよい。特に好ましくは、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。本発明に用いる薬物は特に限定されないが、水に対する溶解性のよい薬物や不快な味を有する薬物を用いると特に有用性が高い。
【0013】
本発明にかかる錠剤は、上述の顆粒に賦形剤及び必要に応じて結合剤を混合し、溶媒を加えて練合後、湿潤した粉体を鋳型に充填・成形し乾燥して得ることができる。本発明においては必要に応じて結合剤を用いることができるが、結合剤は、顆粒・賦形剤とともに
混合し、溶媒のみを加えてもよいし、溶媒に溶解又は分散して顆粒・賦形剤混合物に加えてもよい。結合剤は、多すぎると錠剤の崩壊が遅くなるため通常は顆粒及び賦形剤の重量に対し5%以下、好ましくは3%以下である。溶媒の組成は特に限定されないが、通常はヒトに対する安全性の高い溶媒が用いられ、例えば、水、エタノール、プロパノール等を挙げることができこれらを混合して用いてもよい。溶媒の量は、薬物、賦形剤の種類等により異なるが、通常は顆粒と賦形剤の混合物の重量に対して1〜20重量%、好ましくは3〜18重量%である。溶媒量が少ないと錠剤としての十分な強度が得られず、多すぎると混合物がペースト状となり充填成形が不可能となる。
【0014】
錠剤の成形には、いわゆるモールド(鋳型)錠の製造装置を用いることができるが、鋳型に充填後フィルムを介して圧縮成形できる装置を用いると製造時のハリツキがなく、外観が良好で、重量偏差、摩損度の小さい錠剤を得ることができる。得られた錠剤は、口腔内における崩壊時間が30秒以内である。
【0015】
薬物が水溶性高分子マトリックス又はワックスマトリックス中に包含される顆粒若しくは薬物含有顆粒を水溶性高分子及び/又は水不溶性高分子皮膜により被覆した顆粒からは、薬物が水又は胃腸管内において徐々に放出される。換言するとこれらの顆粒においては、水中又は胃腸管内における薬物の放出が制御されている。 即ち、本発明にかかる錠剤は、嚥下し易いように口腔内で速やかに崩壊するにも拘わらず、薬物の放出を制御することが可能となり、これにより薬物の血中濃度をコントロールすることができ、また、薬物の不快な味や匂いを抑制することができることとなる。また、非常に低圧で圧縮されるために薬物含有粒子の破壊が少なく、目的とする薬物放出に対する影響が少なく、しかも口腔内で30秒以内に速やかに崩壊するという特性が得られる。また、不快な味を有する薬物の場合はその隠蔽効果を有する。従来、湿潤粉体を用いた錠剤の場合は薬物の放出を制御することは不可能であると考えられていたため、これらは極めて顕著な効果である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の具体的態様を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、部および%とあるのは、それぞれ重量部および重量%を表わす。
【0017】
実施例 1
〈薬物含有顆粒の調製〉ロキソプロフェンナトリウム((株)ダイト製)60部とカルボキシメチルセルロースナトリウム((株)五徳薬品製)18部を攪拌型混合機を用いて混合し、精製水を加えて、練合、造粒を行い乾燥した。その後、乾燥した粉体を整粒装置(パワーミル(製品名)、昭和技研(株)製)を用いて粒子径を揃えた。
〈錠剤の調製〉上記顆粒78部にマンニトール(東和化成(株)製)320部を攪拌型混合機を用いて混合し、ポリビニールピロリドン(PVP K−30(製品名)、ISP製)2部を50%(w/w)エタノール水溶液に溶かした溶液を加え練合した。この練合物を湿潤粉体成形機(EMT15(型番)、(株)三共製作所製)を用いて鋳型に充填、成形した後、乾燥した。
【0018】
比較例 1
ロキソプロフェンナトリウム((株)ダイト製)60部とマンニトール(東和化成(株)製)338部を攪拌型混合機を用いて混合し、ポリビニールピロリドン(PVPK−30(製品名)、ISP製)2部を50%(w/w)エタノールに溶かした溶液を加え練合した。この練合物を湿潤粉体成形機(EMT15(型番)、(株)三共製作所製)を用いて鋳型に充填、成形した後、乾燥した。
【0019】
実施例 2
〈薬物含有顆粒の調製〉塩酸マプロチリン(シファビトール製)10部と硬化油(ラブリワックス(製品名)、フロイント産業(株)製)10部を攪拌型混合機を用いて混合後エクストルーダー((株)栗本鉄鋼製)を用いて造粒した。その後、造粒物を整粒装置(パワーミル(製品名)、昭和技研(株)製)を用いて粒子径を揃えた。
〈錠剤の調製〉上記顆粒20部にマンニトール(東和化成(株)製)257部を攪拌型混合機を用いて混合し、ポリビニルピロリドン(PVPK−30、ISP製)3部を25%(w/w)エタノールに溶かした溶液を加え練合した。この練合物を湿潤粉体成形機(EMT15(型番)、(株)三共製作所製)を用いて鋳型に充填、成形したした後、乾燥した。
【0020】
比較例 2
塩酸マプロチリン(シファビトール製)10部とマンニトール(東和化成(株)製)267部を攪拌型混合機を用いて混合し、ポリビニルピロリドン(PVPK−30、ISP製)3部を25%(w/w)エタノールに溶かした溶液を加え練合した。この練合物を湿潤粉体成形機(EMT15(型番)、(株)三共製作所製)を用いて鋳型に充填、成形した後、乾燥した。
【0021】
上記実施例により得た錠剤を用いて以下の試験を行った。
1.崩壊試験
日本薬局方崩壊試験法に準じて測定した崩壊試験結果を表1に示す。尚、崩壊終点判定は崩壊終了自動検出装置(ディストッパー(製品名):富山産業(株)製)で行った。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より実施例で得た錠剤と比較例で得た錠剤の崩壊時間には差がなく、どちらも極めて早く崩壊することが分かる。
【0024】
溶出試験
図1および2に、日本薬局方溶出試験法(第二法:パドル法)に準じて測定した溶出試験結果を示す。尚、試験液は水で、パドル回転数は50回転で行った。以上より、本発明にかかる錠剤は、速やかな崩壊を示すとともに、薬物の放出を制御できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ロキソプロフェンの溶出を示す図である。
【図2】塩酸マプロチリンの溶出を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)薬物がワックスマトリックス中に包含される顆粒、及び/又は(b)薬物含有顆粒を水溶性高分子又は水不溶性高分子皮膜により被覆した顆粒と
(2)賦形剤を混合し
(3)溶媒を加えて練合し
(4)湿潤した粉体を鋳型に入れ成形した、徐放性口腔内速崩性錠剤。
【請求項2】
水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールから選ばれる1種以上の水溶性高分子であり、ワックスが硬化油である請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
水不溶性高分子がエチルセルロース、メチルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート・メタクリル酸共重合体、セルロースアセテートフタレートから選ばれる1種以上の水不溶性高分子である請求項1又は2記載の錠剤。
【請求項4】
賦形剤が、マンニトール、乳糖、白糖、エリスリトール、キシリトール、Dーソルビトール、ブドウ糖、マルトース、マルチトールなどの糖類、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、ポテト澱粉などの澱粉類、部分アルファー化澱粉などの澱粉誘導体から選ばれる1種以上の水溶性高分子である請求項1〜3記載の錠剤。
【請求項5】
請求項1〜4記載の錠剤において更に結合剤を添加し成形した錠剤。
【請求項6】
結合剤が、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プルラン、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルアルコール、デキストラン、デキストリン、キサンタンガムから選ばれる1種以上の結合剤である請求項5記載の錠剤。
【請求項7】
結合剤の添加量が顆粒と賦形剤の混合物に対して3重量%以内である請求項5又は6記載の錠剤。
【請求項8】
溶媒の添加量が顆粒と賦形剤の混合物に対して3重量%〜18重量%である請求項1〜7記載の錠剤。
【請求項9】
溶媒が、水、あるいは水−アルコール混合溶媒、またはアルコールである請求項1〜8記載の錠剤。
【請求項10】
錠剤が口腔内において30秒以内に崩壊する錠剤である請求項1〜9記載の錠剤。
【請求項11】
(1)(a)薬物がワックスマトリックス中に包含される顆粒、及び/又は(b)薬物含有顆粒を水溶性高分子又は水不溶性高分子皮膜により被覆した顆粒と
(2)賦形剤を混合し
(3)溶媒を加えて練合し
(4)湿潤した粉体を鋳型に入れ成形する、徐放性口腔内速崩性錠剤の製造方法。
【請求項12】
湿潤した粉体を鋳型に入れ成形する際にフィルムを介して打錠する請求項11記載の錠剤の製造方法。
【請求項13】
更に結合剤を添加し成形する請求項11又は12記載の錠剤の製造方法。
【請求項14】
結合剤の添加量が顆粒と賦形剤の混合物に対して3重量%以内である請求項13記載の錠剤の製造方法。
【請求項15】
溶媒の添加量が顆粒と賦形剤の混合物に対して3重量%〜18重量%である請求項11〜14記載の錠剤の製造方法。
【請求項16】
錠剤が口腔内において30秒以内に崩壊する錠剤である請求項11〜15記載の錠剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273989(P2008−273989A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157266(P2008−157266)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願平11−217121の分割
【原出願日】平成11年7月30日(1999.7.30)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】