説明

薬物の経口投与用の急速溶解フィルム

投与ユニットは、第1のポリマーを含む基体と、活性成分を含む付着物と、第2のポリマーを含むカバー層とを備え、カバー層は、付着物をカバーし、付着物を取り囲む結合剤によって基体の第1の表面に結合され、第1及び第2のポリマーの少なくとも一方はグラフトコポリマーである。投与ユニットは、上記第1及び第2のポリマーが同一であってもよく、また、グラフトコポリマーは、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフトコポリマーであってもよい。また、付着物が静電乾燥薬物付着によって基体に形成される投与ユニットも開示される。投与ユニットは、グラフトコポリマーであるポリマーと、活性成分と、を含んでもよく、グラフトコポリマーは、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
[0001]固形薬剤投与は、従来、経口投与される固形形状品、例えば、カプセル、錠剤及び他のユニット投与形態を含んでおり、各形態は、医薬的に又は生物学的に活性な成分と、少なくとも1つの追加「賦形剤」成分と、を含有する。賦形剤は、治療上効果がなく毒性のないキャリアであるものと意図されており、例えば、稀釈剤、結合剤、潤滑剤、錠剤分解物質、安定剤、緩衝剤又は防腐剤として作用させることとしてもよい。これらの標準経口投与形態は、口中の滞留時間が短いように設計され、すなわち、これらの投与形態からの薬剤の吸収が胃腸管で発生するため、全体として飲み込まれ又は噛まれるように意図されている。
【0002】
[0002]様々な活性製薬成分は、賦形剤と混合されるときには、化学安定性に関する問題を呈する。もっとも広く使用される「不活性な」賦形剤のいくつかは、事実、それ自体でまったく反応的である。薬物は、多数の機構を経由して賦形剤と反応することができ、結果として化学的に不安定になり劣化する。
【0003】
[0003]従来の固形製剤の別の制限は、老人患者や小児患者では、固形投与形態を飲み込むことに関連する困難さである。
【0004】
[0004]容易に投与され、所望の場合には、活性成分が賦形剤と相互作用することによって生じる不安定性を回避する投与製剤が、必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
[0005]1つの態様において、本発明は、グラフトコポリマーであるポリマーを含む急速溶解フィルムと、活性成分とを備える投与ユニットに関する。活性成分は、フィルムをキャストする前にフィルム内に組み込まれてもよく、又は、多数の公知の方法にしたがって、予め形成されたフィルム層に付着されてもよい。
【0006】
[0006]関連の態様において、本発明は、第1のポリマーを含む基体と、活性成分を含む付着物と、第2のポリマーを含むカバー層とを備える投与ユニットに関し、カバー層は、付着物をカバーし、付着物を取り囲む結合剤によって基体の第1の表面に結合され、第1及び第2のポリマーの少なくとも一方はグラフトコポリマーである。投与ユニットの一実施形態において、基体及びカバー層は、同一のポリマーを含む。
【0007】
[0007]また、関連の態様において、本発明は、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含む投与ユニットに関する。一実施形態において、活性成分は、静電乾燥薬物付着によって基体上に付着される。
【本発明の詳細説明】
【0008】
[0008]ここに挙げられるすべての特許、出願、公開又は他の刊行物は、参照として本明細書に組み込入れられる。下記の説明において、専門用語の用法に関しては一定の慣用に従う。
活性成分(active ingredient)」という用語は、治療的に又は医薬的に活性な物質を意味する。
乾燥薬物付着(dry drug deposition)」という用語は、液体媒体を使用せずに材料を付着させる方法を意味する。
静電気乾燥付着(electrostatic dry deposition)」及び電子誘引乾燥付着(electro−attractive dry deposition)」という用語は、帯電粉末を乾燥付着するために静電気的帯電表面又は電磁場を使用する方法を意味する。
「グラフトコポリマー(graft co−polymer)」という用語は、モノマーBから作られた第1のポリマーの鎖が、モノマーAの第2のポリマー鎖にグラフトされるコポリマーを意味する。本発明に使用される好ましいグラフトコポリマーは、ポリエチレングリコールバックボーンにグラフトされたポリビニルアルコールの鎖から構成されるコポリマーである。
【0009】
[0009]本発明は、粘膜表面に投与されるときに医薬的に活性な薬剤を放出する急速溶解フィルムを備える投与形態を意図したものである。下記の説明において、例として口腔が特に参照されているが、本発明の範囲は口腔に限定されるものではない。
【0010】
[0010]一実施形態において、本発明の投与形態は、フィルムの調製中に、すなわち、フィルムがキャストされる前に、活性成分が組み込まれる食用フィルムからなる。本発明のグラフトコポリマーフィルムからなる投与形態は、分解及び溶解がより速いという利点を有し、さらに、例えば、従来のフィルム形成ポリマーに比較したときに、口の感触という面で改良された特性を有する。
【0011】
[0011]別の実施形態において、投与形態は、基体とカバー層とを含み、各々が実質的に平坦で可撓性のあるフィルム又はシートからなる。いくつかの実施形態において、基体又はカバー層のいずれか一方が、縦横に配列された半円のバブル、凹面、ブリスター又は窪みのアレイを含む。
【0012】
[0012]フィルムは、急速に溶解する水溶性グラフトコポリマーを含み、場合により、1種以上の医薬的に容認可能な成分、例えば、透過エンハンサーを含む。本発明の投与ユニット製剤は、さらに活性成分を単独で、又は、場合により、別の活性成分か又は界面活性剤、甘味剤等を含む他の賦形剤と組み合わせて包含する。しかし、本発明の1つの利点は、一定の活性成分が賦形剤と相互作用することによって生じる不安定さを回避する固形投与製剤を調製することができることである。
【0013】
[0013]本発明の投与形態のフィルムを作る際に使用される好ましいポリマーは、グラフトコポリマーであり、好ましいコポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリエチレングリコール(PEG)からなるものである。PVA−PEGグラフトコポリマーは、Kollicoat(登録商標)IR(BASF、ニュージャージー州、マウントオリーブ)として販売されている。PVA−PEGグラフトコポリマーは、75%のポリビニルアルコールユニットと25%のポリエチレングリコールユニットとから構成され、PEGは分岐コポリマーのバックボーンを提供し、PVAは分岐を形成する。PVA−PEGは、非常に容易に水に溶け、主に、錠剤用の瞬間放出コーティングを作るために使用されている。
【0014】
[0014]本発明の投与ユニットのフィルムを製造するための方法は、Z.W.Wicks、F.Jones and S.P.Pappas,Organic Coatings: Science and Technology,Vol1;Film Formation,Components and Appearance,Wiley,NY 1992に記載された溶剤キャスト方法を含む。本発明の一実施形態において、溶剤キャスト方法は、均質な製剤を形成するために、混合下で水に又は水アルコール溶液に完全に溶解又は分散しているポリマーを使用する。40%までの濃度でのKollicoat(登録商標)IRの溶液は、水及び水性系の、例えば、弱酸又は塩基に調製されることが可能である。25%までの溶液を、1:1エタノール−水混合物で調製することができる。
【0015】
[0015]固形含有量が5〜40%の、より好ましくは5〜25%の均質な混合物が、脱気され、滑らかな表面、例えば、ポリエステルフィルムの非シリコーン処理側にコーティングされ、30〜80°Cの間の温度で曝気下で乾燥される。この方法によって形成された乾燥フィルムは、独自で光沢があり、自立式で、非粘着性であり、可撓性があるフィルムである。
【0016】
[0016]活性成分が調製中にフィルム内にまだ組み込まれていない場合には、その際、フィルムは活性成分を付着させる準備ができている。乾燥フィルムは次いで、好ましい部位で活性成分を送出するために、適切な形状及び表面積に切断される。例えば、キャストフィルムは、回転ダイを使用して、異なる形状及びサイズにダイカットされることができる。フィルムは、例えば、単一の投与ユニットを含むサイズにカットされてもよい。例えば、単一の投与ユニットは、20〜250mgの範囲の活性物質の投与を含む5cmの表面積のフィルムサイズを含むものとすることができる。フィルムのサイズは、必要な投与にしたがって変動させてもよい。各平方センチメートルに含まれる投与は、活性物質にしたがって選択される。フィルムは最終的に、単一のパウチパッケージ、マルチユニットブリスターカード又はマルチユニットディスペンサーにパッケージされる(米国特許第6,394,306号及び米国特許出願第10/122,808号)。
【0017】
[0017]本発明の一実施形態においては、米国特許第6,319,541号、米国特許第5,699,649号、米国特許第5,960,609号及び国際公開公報第006/64592号に記載されているもののような静電気付着法を使用して、活性物質が基体層に付着される。その方法では、活性成分の荷電粒子のクラウド(cloud)又はストリームが、基体にさらされ又は基体に向けて方向づけられ、基体の表面で逆の電荷のパターンが形成される。このようにして、追加のキャリア、結合剤等を必要とせずに、規定投与量の活性成分を基体に付けることができる。
【0018】
[0018]静電気付着の他の適切な手段は、例えば、米国特許第5,714,007号、第5,846,595号及び第6,074,688号に記載されており、その開示内容は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。静電粉体クラウド付着法に加えて、活性成分は、溶液の形態で、又は、微細に分割された薬品の懸濁液、例えば、コロイド懸濁液の形態で、基体にコーティングされてもよい。
【0019】
[0019]活性成分の付着に続いて、基体及びカバー層は、付着された材料の近傍にありこれを取り囲む結合剤又は溶接によって、互いに取着される。結合は、例えば、熱又は超音波溶接によって、又は、適切な接着剤によって、達成することができる。
【0020】
[0020]投与ユニットは、有効量を送出することができるフィルムを選択し、口腔粘膜等の粘膜面にフィルムを置くことによってフィルムを患者に投与することで、使用に供され、そこで例えば唾液等の体液に溶解し液体形態で飲まれるか又は粘膜組織によって吸収されるとよい。粘膜組織による吸収は、透過エンハンサーをフィルム内に組み込むことによって、容易化できる。
【0021】
[0021]活性成分が投与ユニットから放出される速度は、多数の要因によって決定される。これらの要因として、活性剤の濃度、粘膜面における薬剤の溶解度、及び、フィルム厚を含むユニット投与形態の寸法が挙げられる。フィルムの厚さは、溶解の速度を決定する要因である。一般に、厚いフィルムは、薄いフィルムよりも緩徐に溶解する。しかし、厚いフィルムは、より高い投与に必要な活性剤用のより大きな保持能力のために、望ましい。本発明の投与形態を作るのに使用されるフィルムは、フィルムの厚さが増加しても分解及び溶解の時間が速いという予期されない利点を有する。本発明の投与ユニットのフィルム用の好ましい厚さは、2.0〜8.0ミル(0.0508〜0.2032mm)(1ミル=0.001インチ)であり、3〜5ミル(0.0762〜0.127mm)がより好適である。
【0022】
[0022]本発明の投与ユニットは、広範囲の活性剤を送出するための媒体として使用されてもよく、例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アデノハイポホシールホルモン、アドレナリン作動性ニューロン遮断薬、副腎皮質ステロイド、副腎皮質ステロイドの生合成の阻害剤、αアドレナリン作用薬、α遮断薬、選択性αアドレナリン作用薬、鎮痛薬、下熱剤及び抗炎症剤、男性ホルモン、麻酔薬、抗中毒剤、抗アンドロゲン、抗不整脈剤、抗喘息薬、抗コリン剤、抗コリンエステラーゼ剤、抗凝血剤、抗糖尿病薬、下痢止め薬、抗利尿薬、抗嘔吐薬及び運動促進剤、抗てんかん薬、抗エストロゲン、抗真菌薬、血圧降下薬、抗菌剤、抗片頭痛薬抗、抗ムスカリン薬、抗腫瘍薬、駆虫剤、抗パーキンソン薬、抗血小板薬、抗黄体ホルモン、抗甲状腺薬、鎮咳薬、抗ウイルス薬、非定型抗うつ剤、アザスピロデカネジオン、バルビツール、ベンゾジアゼピン、ベンゾサイアジアザイド、βアドレナリン作用薬、β遮断薬、選択性β遮断薬、選択性βアドレナリン作用薬、胆汁塩、体液の容積及び組成に影響する薬剤、ブチロフェノン、石灰化に影響する薬剤、カルシウムチャネル遮断薬、心臓脈管薬、カテコールアミン及び交感神経刺激薬、コリン作動薬、コリンエステラーゼ再活性化薬、外皮用剤、ジフェニルブチルピペリジン、利尿薬、麦角アルカロイド、エストロゲン、神経節遮断薬、神経節刺激薬、ヒダントイン、胃液酸度の制御及び消化性潰瘍の治療のための薬剤、造血剤、ヒスタミン、ヒスタミン拮抗薬、5−ヒドロキシトリプタミン拮抗薬、高リポタンパク血症の治療のための薬物、睡眠薬及び鎮静剤、免疫抑制剤、下剤、メチルキサンチン、モノアミン酸化酵素抑制剤、神経筋遮断薬、有機硝酸塩、オピオイド鎮痛薬及び拮抗薬、膵酵素、フェノチアジン、プロゲスチン、プロスタグランジン、精神疾患治療用薬剤、レチノイド、ナトリウムチャネル阻害薬、痙縮及び急性筋痙攣用の薬剤、スクシニミド、チオキサンチン、血栓溶解剤、甲状腺薬剤、三環系抗鬱薬、有機化合物の管状輸送の抑制剤、子宮運動に影響を与える薬物、血管拡張薬、ビタミン等の単独又は組み合わせである。このリストは、広範囲ではあるが、包括的であることは意図していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のポリマーを含む基体と、
(b)活性成分を含む付着物と、
(c)第2のポリマーを含むカバー層と
を備え、
前記カバー層が、前記付着物をカバーし、前記付着物を取り囲む結合剤によって前記基体の第1の表面に結合され、
前記第1及び第2のポリマーの少なくとも一方がグラフトコポリマーである、投与ユニット。
【請求項2】
前記第1及び第2のポリマーが同一である、請求項1記載の投与ユニット。
【請求項3】
前記グラフトコポリマーが、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフトコポリマーである、請求項1記載の投与ユニット。
【請求項4】
前記付着物が、静電乾燥薬物付着によって前記基体に作られる、請求項1記載の投与ユニット。
【請求項5】
(a)グラフトコポリマーであるポリマーを含む急速溶解フィルムと、
(b)活性成分と
を備える投与ユニット。
【請求項6】
前記グラフトコポリマーが、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフトコポリマーである、請求項5記載の投与ユニット。

【公表番号】特表2006−514058(P2006−514058A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565662(P2004−565662)
【出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/041073
【国際公開番号】WO2004/060298
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(599134012)サーノフ・コーポレーション (59)
【Fターム(参考)】