薬物送達血管内ステント及び使用方法
【課題】
ステント療法が原因で起こる再狭窄及び血栓症を引き起こさないステントの提供。
【解決手段】
血管損傷部位における再狭窄を抑制するために前記部位に配置するように設計された半径方向に拡張可能な血管内ステント、該ステントの使用方法、及び該ステントの製造方法。このステントは、1つ又は複数の金属フィラメントから形成された半径方向に拡張可能なボディを含み、これらのフィラメントの少なくとも1つの表面が、テクスチャ付与又は研磨された表面を有する。このステントは、研磨された表面に治療薬を含むことができる。
ステント療法が原因で起こる再狭窄及び血栓症を引き起こさないステントの提供。
【解決手段】
血管損傷部位における再狭窄を抑制するために前記部位に配置するように設計された半径方向に拡張可能な血管内ステント、該ステントの使用方法、及び該ステントの製造方法。このステントは、1つ又は複数の金属フィラメントから形成された半径方向に拡張可能なボディを含み、これらのフィラメントの少なくとも1つの表面が、テクスチャ付与又は研磨された表面を有する。このステントは、研磨された表面に治療薬を含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
再狭窄(restenosis)などの合併症は、経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)などの医療手技の形態の動脈硬化症治療を受けた患者に再発する問題である。再狭窄は普通、ステンティング(stenting)として知られる手技によって治療される。ステンティングでは、手技後に動脈が閉塞することを防ぐために、病気に冒された動脈に医療装置が外科的に埋め込まれる。
【0002】
ステントは一般に円筒形状で、通常は、チタンや外科用鋼などの生物適合性金属から作られる。大部分のステントは折り畳むことができ、経管カテーテルによって閉塞した動脈まで運ばれる。ステントはカテーテルに取り付けられ、単独で拡張することができ、又はステントの内側のバルーンの膨張によって拡張させることができる。バルーンは、装置が所定の位置に置かれた後にカテーテルと一緒に取り除かれる。一般的なタイプのステントの例が、Palmazの「病訴埋込み可能医療装置及びその製造方法(Complaint Implantable Medical Devices and Methods of Making Same)」という名称の米国特許出願公開第6936066号に開示されている。
【0003】
ステント療法が原因で起こる合併症は再狭窄及び血栓症である。これらの合併症を克服する努力として、制御された薬物溶出という追加の特徴を有するステントが日常的に開発されている。これを達成するため、Hunterに発行された「抗血管新生組成物及び使用方法(anti−angiogenic Compositions and Methods of Use)」という名称の米国特許第5,716,981号に記載されているように、金属ステントが、ポリマーと混合されたAPIでコーティングされる。このようにして送達される代表的な治療薬の例は、抗増殖薬、抗凝固薬、抗炎症薬及び免疫抑制薬だが、使用することができる化学及び生物作用薬はこのほかにも数多くある。体内への薬物の制御された放出を調節するために、このコーティング層の上にはしばしば、生分解性材料の多孔質層が形成される。ポリマーでコーティングされた一般的なタイプの薬物溶出ステントが、Raghebに発行された「コーティングされた埋込み可能医療装置(Coated Implantable Medical Device)」という名称の米国特許第6,774,278号及び6,730,064号によって開示されている。
【0004】
このポリマーの存在は、この層が分離することにより血栓症に寄与すると推定される。時間が経つにつれ、この保護ポリマーは裸の金属又は基体から分離して、赤血球と直接に接触する鋭い先端又は縁を形成すると考えられる。その結末は、深刻な疾病又は死の原因となる血栓症である。BSI生分解性PLLAのような永続性のポリマーを含まないステントが設計された。いくつかのステント設計は、表面にテクスチャが付与されたステント、生物適合性油コーティングなど、ポリマーを一切含まないステントを目指している。
【0005】
薬物装填容量(drug loading capacity)を増大させるために、粗面化された表面(roughened surface)を有するようにステントを加工することができる。粗面化されたステント表面は、ステントの総表面積を増大させ、それによってステントに結合させることができるAPIの量を増大させる、山及び谷を提供する。ステント表面の粗面化は、Yanに発行された「医療用多孔質ステント(Porous Medical Stent)」という名称の米国特許第5,843,172号に開示されているように、焼結など、いくつかの方法で達成される。Leitaoに発行された「生物活性物質の取込み及び放出のための装置(Device For Incorporation and Release of Biologically Active Agents)」という名称の欧州特許第0806212号に開示されているように、表面の凹凸は、サンドブラスティング、還元性酸エッチング(reductive acid etching)などの研摩技法によっても達成される。ステント表面の粗面化は、Thomasに発行された「薬物溶出ステントを形成する方法(Method of Forming a Drug Eluting Stent)」という名称の米国特許第号7,055,237号に開示されているように、装置の表面に直接に凹みを加圧成形し、或いは一般的なショットピーニング又はレーザピーニング金属作業技法を使用することによっても達成することができる。本出願と同じ所有権者の米国特許公開第2006/0069427号には、機械式固定層を有するステントが記載されている。しかしながら、ステント及びカテーテルの断面は、コーティングの厚さを物理的に制限する役目を果たす。粗面化されたステントを使用することによって遭遇する問題は、ステント及びカテーテルの断面を、閉塞した動脈に通すのに十分な厚さに制限しなければならないということである。
【0006】
ステント療法に関連したこれらの合併症を考慮すると、粗面化されたステントの大きな表面積を有するステントであって、構造完全性及び薬物装填容量を最大化するような方法で製造することができるステントを開発することが望ましいと思われる。さらに、後期のステント血栓症の危険を低下させ又は排除するためにAPIを送達することができる無ポリマーステントを開発することが望ましいと思われる。最後に、薬物装填容量を最大化し、同時にステント−カテーテル断面の全厚を最小化するステントを開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、構造完全性を犠牲にすることなく断面の厚さを小さくするステントなどの医療装置、及び薬物溶出ステントを処理する方法を提供することによって、上記の1つ又は複数の問題を解決する。開示された実施形態はさらに、薬物装填容量を最大化し、且つ/又は耐疲労性を高める。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、非ポリマー性治療薬溶出ステントが提供される。好ましくは、このステントは、テクスチャ付与又は研磨された微小構造を有する少なくとも1つの表面の少なくとも一部分を含む。好ましい一実施形態では、少なくともステント表面のテクスチャが付与された部分に治療薬が配置される。
【0009】
他の態様では、少なくとも1つの「粗面化された」表面を有するステントを調製する方法が開示される。一実施形態では、この方法は、ステントの内層と側面のうちの少なくとも一方を覆うマスクを形成する炭化水素フィルム層の中へ、裸金属ステントを押し縮めることを含む。次いで外面が研磨剤で処理され、続いてマスク層が溶解され、又は他の方法で除去される。好ましくは、このステントは次いで、ASTM規格に従って超音波処理され、洗浄され、不動態化される。
【0010】
他の実施形態では、ステント表面がピーニング工程によって処理される。未処理のステントがマンドレルに固定され、ショットと呼ばれる金属粒子をプレート又はローラを使用してステント表面に押し付けることによって粗面化が達成される。凹凸は、ジェットブラスティングなどによって、ステント表面にショットを吹き付けることによっても達成することができる。他の実施形態では、表面の粗面化を、ショットではなくレーザを使用する同様の方法で達成することもできる。
【0011】
他の実施形態では、粗面化された表面を生み出すために、空気圧又は液圧プレスによってステントが処理される。未処理のステントがマンドレルに取り付けられ、ステントの表面に、空気圧又は液圧プレスによってパターンが刻印される。一実施形態では、このパターンが予め決められている。他の実施形態では、空気圧又は液圧プレスがコンピュータ制御される。このプレス法の利点は、ステントボディの微結晶構造を破砕して、ステントボディの耐疲労性を高めることができる点である。
【0012】
他の実施形態では、完全な長さのステント、例えば長さ約2.5mのステントが所望の長さの複数のステントにカットされる前に、この完全な長さのステントが処理される。この完全な長さのステントがマンドレルに取り付けられ、次いで、この完全な長さのステントが開示された方法の1つによって処理される。
【0013】
さらに他の実施形態では、活性製薬成分(API)又はAPIとポリマーの合剤でステントがコーティングされる。このコーティングは、所望の薬物又は薬物/ポリマー合剤をステント表面に直接に吹き付けることによって達成することができる。また、所望の化学成分によるステントのコーティングは、所望のAPIコーティングの溶液の中にステントを浸すことによっても達成することができる。さらに他の実施形態では、ステントの反管孔側表面が、オートピペットによってAPI又はAPI/ポリマー合剤でコーティングされる。
【0014】
本発明のこれらの態様及び実施形態並びに他の態様及び実施形態は、以下の「発明を実施するための形態」を添付図面とともに検討することによってより明白となろう。
【0015】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」及び添付図面からより完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】金属フィラメントボディを有する血管内ステントの走査像である。
【図2A】研磨されたステント表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2B】研磨後にステント表面に形成された山の数量化を示す図2Aの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2C】研磨後にステント表面に形成された谷の数量化を示す図2Aの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3A】ステント表面を処理している空気圧プレスを示す図である。
【図3B】複数のピーナを有する空気圧プレスを示す、図3Aの固定ヘッドパンチアセンブリの拡大正面図である。
【図3C】図3Bの固定ヘッドパンチアセンブリの拡大側面図である。
【図3D】例示的な1つのパターンを示す、図3Aの空気圧プレスのパンチアセンブリの固定ヘッドアタッチメントの拡大正面図である。
【図4】薬物コーティング処理されたステントの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】累積時間の間に放出された薬物の総量の百分率によって示された、本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIステントからの薬物Biolimus A9(登録商標)の溶出プロファイルである。
【図6】埋込みブタモデル内の本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIから、それぞれ3か月及び2か月の間に放出された薬物Biolimus A9(登録商標)の百分率を示すグラフである。
【図7】質量分光法によって測定された、埋込みブタモデル内の本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIステントから放出された末梢血中の薬物Biolimus A9(登録商標)のピーク濃度(ng/ml)を、時間の経過に対して示したグラフである。
【図8】薬物を含まないステント及びBiolimus A9(登録商標)薬物を含むステントの閉塞面積の百分率を示すグラフである。
【図9A】裸金属ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9B】裸金属ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9C】Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有する金属フィラメントステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9D】Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有する金属フィラメントステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9E】Biolimus A9(登録商標)コーティングを有する金属フィラメント微小構造ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9F】Biolimus A9(登録商標)コーティングを有する金属フィラメント微小構造ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図10A】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10B】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10C】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10D】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10E】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10F】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10G】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10H】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10I】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10J】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10K】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.血管内ステント
図1は、本発明に従って構築された、収縮状態にあるステントを示す。このステントは、後に詳述するように、少なくとも1つの表面が、少なくとも抗再狭窄化合物を保持し放出するために少なくとも部分的に粗面化され又は研磨された構造部材又はボディ(body)を含む。
【0018】
示された実施形態では、ステントボディが、リンカ(linker)4と呼ばれるフィラメント(filament)によって互いに接続されたストラット(strut)3と呼ばれる一連の管状部材から形成されている。それぞれのストラット3は、拡張可能なジグザグ形、鋸歯形、螺旋リボンコイル形又は正弦波形の構造を有し、それぞれのリンカ4への接続は、ステント全体の柔軟性を増大させる役目を果たす。収縮状態のステントの直径は約0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.71から1.65mmであり、長さは5〜100mmである。拡張したステントの直径は、収縮状態にあるステントの直径の少なくとも2倍、最大8〜9倍であり、例えば、収縮状態の直径が0.7から1.5mmのステントは、2.0〜8.0mm又はそれ以上の選択された拡張状態に半径方向に拡張することができる。リンクされた複数の拡張可能管状部材のこの全体ステント−ボディアーキテクチャを有するステントは、例えば本出願と所有権者が同じであり、参照によって本明細書に明示的に組み込まれるPCT公開第WO99/07308号に記載されているように知られている。
【0019】
このステント構造物は、ステンレス鋼などの生体適合材料でできていることが好ましい。このステント構造物に対して一般に使用される生体適合材料の他の例は、タンタル、チタン、ニチノール、金、白金、インコネル、イリジウム、銀、タングステン若しくは他の生物適合性金属、又はこれらの任意の金属の合金;炭素若しくは炭素繊維;酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、ポリエチレンテラフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン若しくは他の生物適合性ポリマー材料、又はこれらの混合物若しくはコポリマー;ポリL乳酸、ポリグリコール酸若しくはポリグリコール酸のコポリマー、ポリアンヒドリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩(polyhydroxybutyrate valerate)若しくは他の生分解性ポリマー、又はこれらの混合物若しくはコポリマー;タンパク質、細胞外基質成分、コラーゲン、フィブリン若しくは他の生物学的作用薬;或いはこれらの任意の材料の適当な混合物である。一般的なステントの一例が米国特許第6,730,064号に記載されている。それぞれのステントの寸法はそのステントが送達される体腔によって異なる。例えば、ステントは、約0.5mmから約25.0mmの直径、約4mmから約100mm又はそれ以上の長さを有することができる。ステント寸法の一例が、本出願と所有権者が同じであり、参照によって本明細書に明示的に組み込まれるShulzeの米国特許第6,939,376号に記載されている。
【0020】
図2Aに示されているように、ステントの少なくとも1つの表面の少なくとも一部分は、粗面化又は研磨された微小構造(microstructure)を有し、或いはテクスチャが付与された表面を有する。この微小構造は、微小構造から溶出する少なくとも1種の治療薬を含むことができる。図2B〜2Cに示されているように、粗面化された表面又はテクスチャが付与された表面は、裂け目(interstice)又は垂直に突き出した表面フィーチャ(feature)、及び/或いはアンダーカット(undercut)又は凹み(recess)の領域を提供する。治療薬の溶液又は治療薬を含む溶液は、例えば毛管力によってこのような凹みの中へ吸い込まれ、突き出した表面を覆うことができることが理解される。このようにすると、ステントをコーティングする表面積を増大させることができる。このような層の厚さとは、層の平均厚さ、例えば層の不溶解部分の平均深さを言う。好ましくは、図2Aに示されているように、ステントの管孔とは反対側の表面(abluminal surface)(反管孔側表面)の少なくとも一部分が、微小構造表面処理を含む。
【0021】
II.テクスチャが付与された表面を調製する方法
一実施形態では、この方法が、マスクを使用して、ステントの少なくとも一部分が研磨されないようにすることを含む。このマスクは、PARAFILM(登録商標)などの炭化水素フィルムであることが好ましいが、これらの方法において使用するものとしては、研磨を妨げる適当な任意の障害物が適当であることが理解される。これに応じて、好ましい一実施形態では、少なくともステントの管孔側表面(luminal surface)が研磨されない。一実施形態では、約5mm×60mmの1枚のマスクが、1.4mmのガラス毛細管などのマンドレル(mandrel)の直径の周囲に巻き付けられる。このマンドレル上にステントが配置され、炭化水素マスクの中へ手で押し縮められる。研磨しない部分のステントがマスクによって覆われることを保証するため、10倍から40倍の立体顕微鏡を使用してもよい。好ましい一実施形態では、全ての表面のステント壁の厚さの少なくとも80%が炭化水素フィルム層によってマスクされる。
【0022】
一実施形態では、ステント表面5が次いで、Comco,Inc.社のMICRO BLASTER(登録商標)及びPROCENTER(登録商標)等のマイクロブラスティング(microblasting)システムを利用することによって処理される。一実施形態では、ステント表面5を粗面化するために、酸化アルミニウムなどの25μmの研磨材が使用される。圧力は40psi±5psiに調整され、ステント表面5から約2.5cmから5.0cmのところに吹付けノズルが配置され、ステントの上を数回通過させる。
【0023】
他の実施形態では、超音波洗浄などの適当な手段によってマスクが除去される。一般に、超音波洗浄器に、45℃に加熱された脱イオン水が満たされる。HPLC等級のクロロホルムのサンプルバイアルがホットプレート上で50〜60℃に加熱される。処理されたステントを有するガラス毛細管マンドレルが、40℃及び50℃のHPLC等級クロロホルムのバイアルの中で5〜10分間保温される。次いで、クロロホルム及びマンドレルを含むバイアルが45℃の脱イオン水中で2分間超音波洗浄される。
【0024】
ステント表面5を粗面化することによって、腐食に対する感受性を増大させうるさまざまな要素が金属表面に出現する。その結末として、処理されたステントは一般にASTM規格に従って不動態化され、クロロホルム、アセトン及び/又はイソプロピルアルコールなどの一連の溶媒中で洗浄される。一実施形態では、マスクが除去され、処理されたステントが超音波洗浄された後で、処理されたステントがクロロホルムのバイアルから取り出される。別のサンプルバイアルがアセトンで洗浄され、次いでこのバイアルにアセトンが再び満たされる。このバイアルの中に処理されたステントが置かれ、超音波洗浄器で2分間超音波洗浄される。このバイアルはイソプロピルアルコールで洗浄され、次いでこのバイアルにイソプロピルアルコールが再び満たされる。ステントは超音波洗浄器でさらに2分間超音波洗浄される。処理されたステントは次いで、60℃±3℃の20体積%硝酸浴中で30分間不動態化される。ステントは次いで、大量の脱イオン水で10回洗浄される。ステントは次いで、イソプロピルアルコールなどの溶媒600mLの中に置かれ、超音波洗浄器で5分間超音波洗浄され、空気乾燥される。
【0025】
他の実施形態では、ステントの表面が、ショットピーニング(shot peening)により、制御された方法で均一に研磨される。ステント表面5の粗面化は、約1ないし5ミクロンのサイズを有し、少なくとも43g/モルの重量を有する原子状元素から作られたショットと呼ばれる金属粒子を使用して達成される。例えば、このショットは、微粒子状タンタル、微粒子状タングステン、微粒子状白金、微粒子状イリジウム、微粒子状金、微粒子状ビスマス、微粒子状バリウム、微粒子状ジルコニウム及びこれらの合金の形態をとることができる。適当な合金の例には、白金/ニッケル合金及び白金/イリジウム合金が含まれる。
【0026】
ステント表面5の所定の部分の上に、所望の量及び所望のパターンのショットを配置することによって、ステント表面5を処理することができる。ステント表面5に凹みを作るために、プレート又はローラを使用してこれらの粒子に圧力が加えられる。凹凸は、凹みを作るのに十分な速度でステント表面5に粒子をジェットブラスティング(jet blasting)することによっても達成することができる。金属表面をショットピーニングする一例が米国特許第6,911,100号に記載されている。
【0027】
他の実施形態では、この均一な制御された表面の凹凸を、ショットではなくレーザを使用することによって上記と同じように達成することができる。ステントの外面又は内面5の所望の部分に一連の放電が印加される。この放電は、ステントの表面の材料を蒸発させるのに十分なエネルギーでその表面と接触し、時にボイド(void)と呼ばれるピット(pit)を生成する。これらのピットの総体としての効果は表面積が増大した粗い表面である。この工程の一例が米国特許第6,913,617号に記載されている。
【0028】
他の実施形態では、圧縮によってステントの表面が均一に処理される。マンドレルにステントが取り付けられ、このマンドレルが、所望の量、形状、サイズ及びパターンの凹みをステント表面5に形成する予め形成された一段高い複数の部分を備えたダイの中へ挿入される。凹みは、ステント表面5への溶接、サンドブラスティング(sandblasting)など、いくつかの方法で形成することができる。次いで、ステントを取り巻いてダイが閉じられ、所望の表面領域を覆う、所望の深さの凹みが形成される。ダイの設計に応じて、ステントはその表面全体又は表面の一部にわたって処理される。この工程の一例が米国特許第7,055,237号に記載されている。
【0029】
他の実施形態では、ステント表面5が、空気圧プレス又は液圧プレスによって処理される。米国特許第4,079,617号に記載されているように空気圧プレスは当技術分野でよく知られている。米国特許番号第7,033,155号に記載されているように液圧プレスも当技術分野でよく知られている。図3A〜3Dに示されているように、ステントは、固定された又は回転するマンドレル1上に配置される。コンピュータ制御の空気圧又は液圧プレス8が、ステントの表面を所定のいくつかのやり方の1つで処理するように、例えばステントの表面をランダムに又は所望のパターンに処理するように構成される。プレスのパンチアセンブリ9を、本明細書では凹み形成機構と定義される1つ又は複数のピーナ(peener)10、11を含むように構成することができる。好ましい一実施形態では、パンチアセンブリが複数のピーナを含む。表面微小構造を形成するために、ピーナは、均一な長さ又は異なる長さを有することができることが理解される。ステント表面5を処理するようコンピュータがプログラムされるまで、それぞれのピーナ10、11は引っ込められた位置に留まる。選択されたプログラムに従って、ピーナ10、11は、凹みを形成するのに十分な力でステント表面5に打ち下ろされる。パンチアセンブリ9は一般に、所望のステントの幅以下になるように構成され、例えばステントストラット3が15ミクロンである場合、複数のピーナ10、11の幅も合計で15ミクロン以下にする。所与のパンチアセンブリ9上のピーナ10、11の数は、ステントの幅によって異なる。同様に、パンチアセンブリ9を、プレスに取り付けられた予め形成されたヘッドとして構成することもできる。どのパターンが望ましいかに応じてヘッドは相互に交換可能である。さらに、ヘッドを固定し、ステントを回転させること、或いはヘッドを可動とすることもでき、このヘッドは、ステント表面5にランダムに凹みを作る、プレスに取り付けられた単一のピーナ10、11において具体化される。
【0030】
他の実施形態では、完全な長さのステント、例えば長さ約2.5mのステントを所望の長さの複数のステントにレーザカットする前に、この完全な長さのステントが処理される。ステントは、1つ又は複数のマンドレル1に水平又は垂直に取り付けられ、本出願に開示された方法の1つを使用して研磨される。研磨技法に関しては、ステントが、ランダムに、均一に又は所望のパターンに処理される。さらに、ステントの長さ及び側が、縦に、垂直に又は螺旋状に処理される。さらに、ステント表面5が、固定された粗面化機構の上でステント表面5を移動させることによって処理され、或いは、ステント管の全長を固定し、管の全長の上で粗面化機構を、開示された方法の1つで、例えば水平に、垂直に、又は螺旋状に移動させてもよい。
【0031】
不動態化ステップの望ましさ及び効果を確認するため、処理されたステントに対してポテンショダイナミック(potentiodynamic)腐食試験を実施した。データは、処理され不動態化されたステントの破壊電圧が、ASTMの規定電圧レベル規格内に十分に収まることを示している。したがって、粗面化工程及び不動態化の後、処理されたステントは、処理されていない対照ステントと比べたときに、より大きな腐食可能性を示さず、粗面化工程は、再狭窄及び血栓症の可能性を増大させない。
【0032】
処理されていないステント壁のおおよその厚さは一般に約0.05mmである。図2B〜2Cに示されているように、開示された方法でステント表面5を処理すると、山6の平均高さが約1.30μm、谷7の平均深さが2.08μmの処理されたステント表面が得られる。もしあるのであれば、ステントの構造完全性に対する粗面化工程の効果を測定するため、処理されたステントに対して軸方向疲労試験及びオージェ分析(auger analysis)を実施した。軸方向疲労試験は、破壊の影響を最も受けやすいステントの部分、すなわちステントストラット3間のリンク4に重点を置いた。シミュレートされた生理学的条件での3百万回超のサイクルの後、処理されていない対照ステントと粗面化されたステントの両方が無損傷であった。粗面化工程では処理されたステントの一部が除去されること、及び、処理されたステントは、より大きな表面積を有する処理されていない無損傷のステントが耐えることができる条件と同じ条件に耐えることができることから、粗面化工程は、ステントボディの破砕された微結晶構造によって、ステントの耐疲労性を事実上増大させることが理解される。最後に、表面化学を特徴づけるために、処理されたステントに対してオージェ分析を実施した。この分析は、不動態化された処理されていないステントと処理され不動態化されたステントとで、同一の元素の比が同様であることを明らかにした。このことは、処理されていない対照ステントを開示された方法で不動態化する工程は、ステントの表面化学に有害な影響を与えないことを示す。
【0033】
好ましくは、抗増殖性Biolimus A9(登録商標)などのAPIが、少なくともステントの反管孔側部分に塗布される。APIは、ステント表面に、APIの溶液をステントの処理された表面に吹き付けることを含む適当な手段によって塗布することができる。API溶液は、所望のAPIにステント全体を浸すことによって、又は所望のAPIをステント表面5に手作業で直接に塗ることによっても塗布することができる。Biolimus A9(登録商標)は、他のいくつかの結晶質リムス化合物のように亀裂が入ったり、又は割れたりしない非晶質ないし半結晶質の構造を有する。したがって、Biolimus A9(登録商標)のこれらの特性は、非拡張状態及び拡張状態のステントの粗面化処理された表面への付着を可能にする。
【0034】
本出願と同じ所有権者の米国特許第6,939,376号に記載されているように、API材料は、オートピペットによってステントの反管孔側部分に塗布されることが好ましい。酢酸エチルなどの適当な溶媒に所望のAPIを溶かすことによって、濃度約25mg/mlから約100mg/mlの溶液が調製される。この溶液は、所定の流量で溶液を送達するように設計されたポンプによってリザーバに入れられる。このポンプは、I&J Fisnar Inc.社から販売されている4−Axis Dispensing Robot Modelなどのマイクロコントローラによって制御される。リザーバの底には、この混合溶媒をステント表面5に送達する溶液送達管が取り付けられる。リザーバ及び送達管は、溶媒送達管をステントの縦軸に沿って連続的に又は小さなステップで、例えば0.2mmステップで移動させる可動支持体に取り付けられる。
【0035】
少なくとも一端がステントの内面と接触する回転チャックによって、コーティングされていないステントが把持される。ステントを連続的に、又は0.5度ステップなどの小さな角度ステップで回転させることによって、ステントの軸方向回転が達成される。或いは、送達管が固定位置に保持され、コーティング工程を実施するため、ステントが、回転運動だけでなく、その縦方向に沿って動かされる。
【0036】
必要に応じてステントの長さ及び側に沿って変化させることができる薬物/混合溶媒の正確の塗布のために、送達管はさらに、ブンゼンバーナの下で引き伸ばされる。協力して機能する2タイプ以上の流体分配管を使用してコーティングを形成すること、或いは異なる先端を備えた2つ以上の可動溶液リザーバ、又は異なる粘度の複数の溶液若しくは異なる化学組成の複数の溶液を含む2つ以上の可動溶液リザーバを同じ工程で使用してコーティングを形成することは、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
他の実施形態では、処理されたステント表面に、パリレン、パリレン誘導体又は他の生物適合性ポリマーの非多孔質の層が塗布され、その上に所望のAPIが積層される。任意選択で、APIの上に直接に、時間の経過に伴う制御された放出を助けるわずかに非多孔質のポリマーの追加の層が塗布される。本発明によれば、ステントが、その1つの表面に置かれた少なくとも1つのAPI層を含み、残りの表面がAPIを含まないか、又は1種若しくは数種の異なるAPIを含む。このようにすると、ステントの管孔側表面から1種又は数種のAPIを血流に送達することができ、ステントの面の血管損傷部位に異なる条件の異なる治療が送達される。
【0038】
他の実施形態では、ポリマーを必要とすることなく、API分子でステントをコーティングすることができる。図4に示されているように、以上に開示された方法の1つでステントの全体又は一部を粗面化する工程は、処理されたステント14の表面にAPIを直接に付着させることを可能にする。いくつかの実施形態では、粗面化された表面の谷及び空洞の中にAPIが吸い込まれる。処理されたステントに一般に塗布されるAPI分子は、抗血小板物質又は抗血栓症薬、或いはデキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム又は他のデキサメタゾン誘導体、或いは抗炎症性ステロイドである。ステントを使用して、血栓崩壊薬、血管拡張薬、抗高血圧薬、抗菌物質又は抗生物質、抗有糸分裂薬、抗増殖薬、抗分泌薬、非ステロイド性抗炎症薬、免疫抑制薬、増殖因子及び増殖因子拮抗薬、抗腫瘍及び/又は化学療法薬、抗ポリメラーゼ薬、抗ウイルス薬、光ダイナミック療法薬、抗体標的療法薬(antibody targeted therapy agent)、プロドラッグ、性ホルモン、フリーラジカルスカベンジャー、抗酸化薬、生物作用薬、放射線治療薬、放射性不透過性物質、放射性標識物質などの他のタイプのAPI分子を送達することもできる。
【0039】
本発明の実施形態では、タキソール(パクリタキセル)、アンチセンス化合物、ドキソルビシンなどの抗増殖薬、特に、後に示す一般構造を有し、総称して「リムス」化合物とも呼ばれる大環状トリエン免疫抑制化合物を含むさまざまな抗再狭窄化合物を使用することができる。いくつかの「リムス」化合物及びそれらの合成が例えば、米国特許第4,650,803号、5,288,711号、5,516,781号、5,665,772号及び6,153,252号、PCT公開第WO97/35575号、米国特許第6,273,913B1号、米国特許出願第60/176086号、2000/021217A1号及び2001/002935A1号に記載されている。
【0040】
血管損傷部位にステントを配置するために使用されるカテーテルに取り付けられたしぼんだバルーンの周囲のステントボディを含むアセンブリに、ステントを含めることができる。このステントは、上腕動脈又は大腿動脈を通して患者の心臓血管系へ導入される。カテーテルアセンブリは、しぼんだバルーンとステントの組合せが、血管損傷部位を横切って配置されるまで、冠動脈系内を先に送られる。次いで、管腔と連続的に接触するのに十分な大きさの直径までステントを拡張させるため、バルーンが所定のサイズに膨らまされる。バルーンは次いで、患者の血管系からカテーテルを引き抜き、その場にステントを残し出すことを可能にするより小さな輪郭にすぼめられる。一般的なステント埋込み手技の一例が米国特許第6,913,617号に記載されている。
【0041】
III.使用法
この項では、本発明に基づく血管治療法及び本発明に従って構築されたステントの性能特性を説明する。
【0042】
本発明の方法は、限局性の血管損傷を負った患者、又は血管閉塞の危険がある患者の再狭窄の危険性及び/又は程度を最小化するように設計される。血管損傷は一般に、部分的に閉塞した冠動脈又は末梢動脈などの血管を開くための血管造影手技中に生じる。血管造影手技では、閉塞部位にバルーンカテーテルを配置し、遠位端のバルーンを1回又は数回、膨らませ、しぼませて、閉塞した血管を開通させる。この血管拡張、特にプラークが取り除かれる可能性のある血管壁の表面外傷を含む血管拡張はしばしば、時間が経つにつれ、細胞増殖及び再閉塞によって血管が反応する十分な限局性の損傷を生じさせる。当然ながら、再狭窄の発生又は重症度は、血管造影手技に伴う血管伸展の程度にしばしば関係する。特に過伸展が35%以上である場合には、高い頻度で、しばしばかなり重症の再狭窄、すなわち血管閉塞が起こる。
【0043】
本発明を実施する際には、ステントが、一般にカテーテルの遠位端のカテーテルの管孔内又は遠位端バルーン上に、収縮状態で置かれる。次いで、カテーテルの遠位端が、損傷部位又は潜在的な閉塞部位に導かれ、カテーテルの遠位端は、例えばステントが単独で拡張するタイプである場合には、トリップワイヤ(trip wire)を使用して、その部位の中へステントを放出することによって、又はバルーンを膨らませて、ステントが血管壁と接触するまで、実際にはその部位の組織壁の内部にステントを埋め込むまでバルーン上のステントを拡張させることによって、カテーテルから解放される。
【0044】
その部位に配置された後、ステントは、細胞増殖を抑制するために、血管部位の内側を覆っている細胞の中へ活性化合物を放出し始める。図5は、2つのステントからのBiolimus A9(登録商標)の放出速度を示しており、一方のステントは、テクスチャが付与された表面を覆う薬物を含み、もう一方のステントは、Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有するBiomatrix(登録商標)IIステントである。
【0045】
図6は、ポリマーコーティングされテクスチャが付与されたステントからのBiolimus A9(登録商標)薬物の放出の百分率を示す。このグラフに示されているように、テクスチャが付与されたステントからは、わずか2か月で、100%のBiolimus A9(登録商標)が放出された。対照的に、ステントでは、3か月後も約30%の薬物が残留していた。
【0046】
図7は、質量分析法によって測定された、ポリマーコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIステント及びテクスチャが付与されたステントのBiolimus A9(登録商標)のピーク血中濃度を示す。図7に示されているように、テクスチャが付与されたステントでは、Biolimus A9(登録商標)の血中濃度が約4時間でピークに達する。ポリマーコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIでは、Biolimus A9(登録商標)のピーク血中濃度が約2か月して出現する。
【0047】
図9A〜9Fは、埋め込まれた裸金属(bare metal)ステントを有する血管領域の断面(図9A〜9B)、PLAを225μg、Biolimus A9(登録商標)を225μg含むポリマーコーティングを有する金属Biomatrix(登録商標)IIステントを有する血管領域の断面(図9C〜9D)、及びBiolimus A9(登録商標)を225μg含むテクスチャが付与されたステントを有する血管領域の断面(図9E〜9F)を示しており、コーティングされたフィラメントの断面が示されている。この図は、それぞれのフィラメント領域から周囲の血管壁領域内への抗再狭窄化合物の放出を示す。時間が経つにつれて、血管壁を形成する平滑筋細胞が、ステントの格子又は螺旋形の開口の中へ増殖し始め、次いでそれらを通り抜け、最終的に、ステントの両側を包み込む連続した内側細胞層を形成する。ステントの埋込みが成功である場合には、その部位における後期の血管閉塞の程度が50%未満である。すなわち、血管の内側に残った流路の断面直径が、埋込み時の拡張したステント直径の少なくとも50%である。
【0048】
Schwartz他によって全般的に記載されたブタ再狭窄動物モデルの実験(「バルーン血管形成術後の再狭窄−ブタ冠動脈内における実用的な増殖モデル(Restenosis After Balloon Angioplasty−A Practical Proliferative Model in Porcine Coronary Arteries)」、Circulation 82:(6)2190−2200、1990年12月)は、再狭窄の程度を限定する本発明のステントの能力、及び現在提案されているステント及び試験されたステントに優る本発明のステントの利点を示す。これらの実験は実施例2に要約されている。
【0049】
手短に言うと、これらの実験は、ステントを埋め込んでから28日後の裸金属ステント、ポリマーコーティングされたステント及びテクスチャが付与されたステント内の再狭窄の程度を比較する。
【0050】
図9A〜9Fは、ポリマーコーティングされたステントとテクスチャが付与されたステントの両方が再狭窄のレベルを大幅に低減させたことを示している。一般に、ポリマー薬物コーティングされたステント及びテクスチャが付与されたステントで処置された血管は、内皮層が十分に確立されており、十分に治癒したように見え、埋め込んでから28日後には、完全な治癒及び血管ホメオスタシスの証拠が見られた。
【0051】
これらの写真は、テクスチャが付与されたステントが、薬物溶出ポリマーコーティングを有するステントと少なくとも同等であることを示している。
【0052】
以下の実施例は、本発明のステントを製作し使用するさまざまな態様を示す。以下の実施例が本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーでコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIステントと、Biolimus A9(登録商標)を含んだ反管孔側微小構造を含むステントとについて、知られている方法に従って、37℃のPBS pH7.4/Tween媒質中で、in vitro薬物放出を実施した。試料採取は定期的に実施し、Biolimus A9(登録商標)の総量はHPLCによって測定した。図5は、Biomatrix(登録商標)IIステント及び微小構造ステントからの薬物放出を示す。
【0054】
(実施例2)
動物埋込み試験
Biolimus A9(登録商標)を含むテクスチャが付与されたステント及びBiolimus A9(登録商標)を含まないテクスチャが付与されたステントを、異系交配の若齢のブタに埋め込んだ。バルーンカテーテルを使用して、10〜20%の過伸展を有する標準ブタ過伸展モデルに従いステントを配置した。ステントを配置する前に、若齢のブタを予め拡張させた。
【0055】
28日後、認められたプロトコルに従ってブタを安楽死させ、心臓及び周囲の組織をブタから摘出した。
【0056】
ディジタルカメラを含む顕微鏡を使用して、スライドに載せられた血管断面の高分解能画像を生成した。結果は図9A〜9Fに示されている。これらの画像を、以下の手順によって組織形態計測分析にかけた。
【0057】
ステント及び動脈を解剖し、これらを組織学者がミクロトームにかけた。試料を染色して、さまざまな増殖シグナル、細胞増殖及び他の細胞破片を着色させた。組織形態計測測定は以下のものからなる。
【0058】
動脈の面積(mm2)(図10A)、IEL(図10B)、内膜の面積(mm2)(図10C)、管腔の面積(mm2)(図10D)、内膜の厚さ(ミクロン)(図10E)、狭窄面積%(図10F)、損傷及び炎症に基づく組織学的等級付け(図10G)、内膜細胞外基質及びEB/GC反応に基づく組織学的等級付け(図10H)、内皮化(endothelialization)及び内膜フィブリンに基づく組織学的等級付け(図10I)、中膜炎症、壊死及び線維増多に基づく組織学的等級付け(図10J)、並びに外膜炎症及び線維増多に基づく組織学的等級付け(図10K)。
【0059】
下表は、追跡調査28日後の治療効果の結果を示す。下表の列見出し「管腔面積mm2」の下のデータは、追跡調査(f/u)28日後にブタから取り出したステント及び血管の形態計測分析の結果を示す。
【表1】
【0060】
図8は、テクスチャが付与された表面を有するステント及びテクスチャが付与された表面を有しBiolimus A9(登録商標)をμg含むステントのそれぞれの閉塞面積%のグラフを示す。
【0061】
本発明の以上の説明は事実上、単なる例示であり、したがって、本発明の要旨を逸脱しない変更は本発明の範囲に含まれることが意図される。このような変更は、本発明の趣旨及び範囲からの逸脱とはみなされない。
【背景技術】
【0001】
再狭窄(restenosis)などの合併症は、経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)などの医療手技の形態の動脈硬化症治療を受けた患者に再発する問題である。再狭窄は普通、ステンティング(stenting)として知られる手技によって治療される。ステンティングでは、手技後に動脈が閉塞することを防ぐために、病気に冒された動脈に医療装置が外科的に埋め込まれる。
【0002】
ステントは一般に円筒形状で、通常は、チタンや外科用鋼などの生物適合性金属から作られる。大部分のステントは折り畳むことができ、経管カテーテルによって閉塞した動脈まで運ばれる。ステントはカテーテルに取り付けられ、単独で拡張することができ、又はステントの内側のバルーンの膨張によって拡張させることができる。バルーンは、装置が所定の位置に置かれた後にカテーテルと一緒に取り除かれる。一般的なタイプのステントの例が、Palmazの「病訴埋込み可能医療装置及びその製造方法(Complaint Implantable Medical Devices and Methods of Making Same)」という名称の米国特許出願公開第6936066号に開示されている。
【0003】
ステント療法が原因で起こる合併症は再狭窄及び血栓症である。これらの合併症を克服する努力として、制御された薬物溶出という追加の特徴を有するステントが日常的に開発されている。これを達成するため、Hunterに発行された「抗血管新生組成物及び使用方法(anti−angiogenic Compositions and Methods of Use)」という名称の米国特許第5,716,981号に記載されているように、金属ステントが、ポリマーと混合されたAPIでコーティングされる。このようにして送達される代表的な治療薬の例は、抗増殖薬、抗凝固薬、抗炎症薬及び免疫抑制薬だが、使用することができる化学及び生物作用薬はこのほかにも数多くある。体内への薬物の制御された放出を調節するために、このコーティング層の上にはしばしば、生分解性材料の多孔質層が形成される。ポリマーでコーティングされた一般的なタイプの薬物溶出ステントが、Raghebに発行された「コーティングされた埋込み可能医療装置(Coated Implantable Medical Device)」という名称の米国特許第6,774,278号及び6,730,064号によって開示されている。
【0004】
このポリマーの存在は、この層が分離することにより血栓症に寄与すると推定される。時間が経つにつれ、この保護ポリマーは裸の金属又は基体から分離して、赤血球と直接に接触する鋭い先端又は縁を形成すると考えられる。その結末は、深刻な疾病又は死の原因となる血栓症である。BSI生分解性PLLAのような永続性のポリマーを含まないステントが設計された。いくつかのステント設計は、表面にテクスチャが付与されたステント、生物適合性油コーティングなど、ポリマーを一切含まないステントを目指している。
【0005】
薬物装填容量(drug loading capacity)を増大させるために、粗面化された表面(roughened surface)を有するようにステントを加工することができる。粗面化されたステント表面は、ステントの総表面積を増大させ、それによってステントに結合させることができるAPIの量を増大させる、山及び谷を提供する。ステント表面の粗面化は、Yanに発行された「医療用多孔質ステント(Porous Medical Stent)」という名称の米国特許第5,843,172号に開示されているように、焼結など、いくつかの方法で達成される。Leitaoに発行された「生物活性物質の取込み及び放出のための装置(Device For Incorporation and Release of Biologically Active Agents)」という名称の欧州特許第0806212号に開示されているように、表面の凹凸は、サンドブラスティング、還元性酸エッチング(reductive acid etching)などの研摩技法によっても達成される。ステント表面の粗面化は、Thomasに発行された「薬物溶出ステントを形成する方法(Method of Forming a Drug Eluting Stent)」という名称の米国特許第号7,055,237号に開示されているように、装置の表面に直接に凹みを加圧成形し、或いは一般的なショットピーニング又はレーザピーニング金属作業技法を使用することによっても達成することができる。本出願と同じ所有権者の米国特許公開第2006/0069427号には、機械式固定層を有するステントが記載されている。しかしながら、ステント及びカテーテルの断面は、コーティングの厚さを物理的に制限する役目を果たす。粗面化されたステントを使用することによって遭遇する問題は、ステント及びカテーテルの断面を、閉塞した動脈に通すのに十分な厚さに制限しなければならないということである。
【0006】
ステント療法に関連したこれらの合併症を考慮すると、粗面化されたステントの大きな表面積を有するステントであって、構造完全性及び薬物装填容量を最大化するような方法で製造することができるステントを開発することが望ましいと思われる。さらに、後期のステント血栓症の危険を低下させ又は排除するためにAPIを送達することができる無ポリマーステントを開発することが望ましいと思われる。最後に、薬物装填容量を最大化し、同時にステント−カテーテル断面の全厚を最小化するステントを開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、構造完全性を犠牲にすることなく断面の厚さを小さくするステントなどの医療装置、及び薬物溶出ステントを処理する方法を提供することによって、上記の1つ又は複数の問題を解決する。開示された実施形態はさらに、薬物装填容量を最大化し、且つ/又は耐疲労性を高める。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、非ポリマー性治療薬溶出ステントが提供される。好ましくは、このステントは、テクスチャ付与又は研磨された微小構造を有する少なくとも1つの表面の少なくとも一部分を含む。好ましい一実施形態では、少なくともステント表面のテクスチャが付与された部分に治療薬が配置される。
【0009】
他の態様では、少なくとも1つの「粗面化された」表面を有するステントを調製する方法が開示される。一実施形態では、この方法は、ステントの内層と側面のうちの少なくとも一方を覆うマスクを形成する炭化水素フィルム層の中へ、裸金属ステントを押し縮めることを含む。次いで外面が研磨剤で処理され、続いてマスク層が溶解され、又は他の方法で除去される。好ましくは、このステントは次いで、ASTM規格に従って超音波処理され、洗浄され、不動態化される。
【0010】
他の実施形態では、ステント表面がピーニング工程によって処理される。未処理のステントがマンドレルに固定され、ショットと呼ばれる金属粒子をプレート又はローラを使用してステント表面に押し付けることによって粗面化が達成される。凹凸は、ジェットブラスティングなどによって、ステント表面にショットを吹き付けることによっても達成することができる。他の実施形態では、表面の粗面化を、ショットではなくレーザを使用する同様の方法で達成することもできる。
【0011】
他の実施形態では、粗面化された表面を生み出すために、空気圧又は液圧プレスによってステントが処理される。未処理のステントがマンドレルに取り付けられ、ステントの表面に、空気圧又は液圧プレスによってパターンが刻印される。一実施形態では、このパターンが予め決められている。他の実施形態では、空気圧又は液圧プレスがコンピュータ制御される。このプレス法の利点は、ステントボディの微結晶構造を破砕して、ステントボディの耐疲労性を高めることができる点である。
【0012】
他の実施形態では、完全な長さのステント、例えば長さ約2.5mのステントが所望の長さの複数のステントにカットされる前に、この完全な長さのステントが処理される。この完全な長さのステントがマンドレルに取り付けられ、次いで、この完全な長さのステントが開示された方法の1つによって処理される。
【0013】
さらに他の実施形態では、活性製薬成分(API)又はAPIとポリマーの合剤でステントがコーティングされる。このコーティングは、所望の薬物又は薬物/ポリマー合剤をステント表面に直接に吹き付けることによって達成することができる。また、所望の化学成分によるステントのコーティングは、所望のAPIコーティングの溶液の中にステントを浸すことによっても達成することができる。さらに他の実施形態では、ステントの反管孔側表面が、オートピペットによってAPI又はAPI/ポリマー合剤でコーティングされる。
【0014】
本発明のこれらの態様及び実施形態並びに他の態様及び実施形態は、以下の「発明を実施するための形態」を添付図面とともに検討することによってより明白となろう。
【0015】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」及び添付図面からより完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】金属フィラメントボディを有する血管内ステントの走査像である。
【図2A】研磨されたステント表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2B】研磨後にステント表面に形成された山の数量化を示す図2Aの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2C】研磨後にステント表面に形成された谷の数量化を示す図2Aの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3A】ステント表面を処理している空気圧プレスを示す図である。
【図3B】複数のピーナを有する空気圧プレスを示す、図3Aの固定ヘッドパンチアセンブリの拡大正面図である。
【図3C】図3Bの固定ヘッドパンチアセンブリの拡大側面図である。
【図3D】例示的な1つのパターンを示す、図3Aの空気圧プレスのパンチアセンブリの固定ヘッドアタッチメントの拡大正面図である。
【図4】薬物コーティング処理されたステントの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】累積時間の間に放出された薬物の総量の百分率によって示された、本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIステントからの薬物Biolimus A9(登録商標)の溶出プロファイルである。
【図6】埋込みブタモデル内の本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIから、それぞれ3か月及び2か月の間に放出された薬物Biolimus A9(登録商標)の百分率を示すグラフである。
【図7】質量分光法によって測定された、埋込みブタモデル内の本発明のステント及びBiomatrix(登録商標)IIステントから放出された末梢血中の薬物Biolimus A9(登録商標)のピーク濃度(ng/ml)を、時間の経過に対して示したグラフである。
【図8】薬物を含まないステント及びBiolimus A9(登録商標)薬物を含むステントの閉塞面積の百分率を示すグラフである。
【図9A】裸金属ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9B】裸金属ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9C】Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有する金属フィラメントステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9D】Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有する金属フィラメントステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9E】Biolimus A9(登録商標)コーティングを有する金属フィラメント微小構造ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図9F】Biolimus A9(登録商標)コーティングを有する金属フィラメント微小構造ステントを埋め込んでから28日後の血管の組織学的切片標本の走査像である。
【図10A】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10B】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10C】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10D】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10E】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10F】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10G】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10H】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10I】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10J】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【図10K】微小構造ステントの組織形態計測のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.血管内ステント
図1は、本発明に従って構築された、収縮状態にあるステントを示す。このステントは、後に詳述するように、少なくとも1つの表面が、少なくとも抗再狭窄化合物を保持し放出するために少なくとも部分的に粗面化され又は研磨された構造部材又はボディ(body)を含む。
【0018】
示された実施形態では、ステントボディが、リンカ(linker)4と呼ばれるフィラメント(filament)によって互いに接続されたストラット(strut)3と呼ばれる一連の管状部材から形成されている。それぞれのストラット3は、拡張可能なジグザグ形、鋸歯形、螺旋リボンコイル形又は正弦波形の構造を有し、それぞれのリンカ4への接続は、ステント全体の柔軟性を増大させる役目を果たす。収縮状態のステントの直径は約0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.71から1.65mmであり、長さは5〜100mmである。拡張したステントの直径は、収縮状態にあるステントの直径の少なくとも2倍、最大8〜9倍であり、例えば、収縮状態の直径が0.7から1.5mmのステントは、2.0〜8.0mm又はそれ以上の選択された拡張状態に半径方向に拡張することができる。リンクされた複数の拡張可能管状部材のこの全体ステント−ボディアーキテクチャを有するステントは、例えば本出願と所有権者が同じであり、参照によって本明細書に明示的に組み込まれるPCT公開第WO99/07308号に記載されているように知られている。
【0019】
このステント構造物は、ステンレス鋼などの生体適合材料でできていることが好ましい。このステント構造物に対して一般に使用される生体適合材料の他の例は、タンタル、チタン、ニチノール、金、白金、インコネル、イリジウム、銀、タングステン若しくは他の生物適合性金属、又はこれらの任意の金属の合金;炭素若しくは炭素繊維;酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、ポリエチレンテラフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン若しくは他の生物適合性ポリマー材料、又はこれらの混合物若しくはコポリマー;ポリL乳酸、ポリグリコール酸若しくはポリグリコール酸のコポリマー、ポリアンヒドリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩(polyhydroxybutyrate valerate)若しくは他の生分解性ポリマー、又はこれらの混合物若しくはコポリマー;タンパク質、細胞外基質成分、コラーゲン、フィブリン若しくは他の生物学的作用薬;或いはこれらの任意の材料の適当な混合物である。一般的なステントの一例が米国特許第6,730,064号に記載されている。それぞれのステントの寸法はそのステントが送達される体腔によって異なる。例えば、ステントは、約0.5mmから約25.0mmの直径、約4mmから約100mm又はそれ以上の長さを有することができる。ステント寸法の一例が、本出願と所有権者が同じであり、参照によって本明細書に明示的に組み込まれるShulzeの米国特許第6,939,376号に記載されている。
【0020】
図2Aに示されているように、ステントの少なくとも1つの表面の少なくとも一部分は、粗面化又は研磨された微小構造(microstructure)を有し、或いはテクスチャが付与された表面を有する。この微小構造は、微小構造から溶出する少なくとも1種の治療薬を含むことができる。図2B〜2Cに示されているように、粗面化された表面又はテクスチャが付与された表面は、裂け目(interstice)又は垂直に突き出した表面フィーチャ(feature)、及び/或いはアンダーカット(undercut)又は凹み(recess)の領域を提供する。治療薬の溶液又は治療薬を含む溶液は、例えば毛管力によってこのような凹みの中へ吸い込まれ、突き出した表面を覆うことができることが理解される。このようにすると、ステントをコーティングする表面積を増大させることができる。このような層の厚さとは、層の平均厚さ、例えば層の不溶解部分の平均深さを言う。好ましくは、図2Aに示されているように、ステントの管孔とは反対側の表面(abluminal surface)(反管孔側表面)の少なくとも一部分が、微小構造表面処理を含む。
【0021】
II.テクスチャが付与された表面を調製する方法
一実施形態では、この方法が、マスクを使用して、ステントの少なくとも一部分が研磨されないようにすることを含む。このマスクは、PARAFILM(登録商標)などの炭化水素フィルムであることが好ましいが、これらの方法において使用するものとしては、研磨を妨げる適当な任意の障害物が適当であることが理解される。これに応じて、好ましい一実施形態では、少なくともステントの管孔側表面(luminal surface)が研磨されない。一実施形態では、約5mm×60mmの1枚のマスクが、1.4mmのガラス毛細管などのマンドレル(mandrel)の直径の周囲に巻き付けられる。このマンドレル上にステントが配置され、炭化水素マスクの中へ手で押し縮められる。研磨しない部分のステントがマスクによって覆われることを保証するため、10倍から40倍の立体顕微鏡を使用してもよい。好ましい一実施形態では、全ての表面のステント壁の厚さの少なくとも80%が炭化水素フィルム層によってマスクされる。
【0022】
一実施形態では、ステント表面5が次いで、Comco,Inc.社のMICRO BLASTER(登録商標)及びPROCENTER(登録商標)等のマイクロブラスティング(microblasting)システムを利用することによって処理される。一実施形態では、ステント表面5を粗面化するために、酸化アルミニウムなどの25μmの研磨材が使用される。圧力は40psi±5psiに調整され、ステント表面5から約2.5cmから5.0cmのところに吹付けノズルが配置され、ステントの上を数回通過させる。
【0023】
他の実施形態では、超音波洗浄などの適当な手段によってマスクが除去される。一般に、超音波洗浄器に、45℃に加熱された脱イオン水が満たされる。HPLC等級のクロロホルムのサンプルバイアルがホットプレート上で50〜60℃に加熱される。処理されたステントを有するガラス毛細管マンドレルが、40℃及び50℃のHPLC等級クロロホルムのバイアルの中で5〜10分間保温される。次いで、クロロホルム及びマンドレルを含むバイアルが45℃の脱イオン水中で2分間超音波洗浄される。
【0024】
ステント表面5を粗面化することによって、腐食に対する感受性を増大させうるさまざまな要素が金属表面に出現する。その結末として、処理されたステントは一般にASTM規格に従って不動態化され、クロロホルム、アセトン及び/又はイソプロピルアルコールなどの一連の溶媒中で洗浄される。一実施形態では、マスクが除去され、処理されたステントが超音波洗浄された後で、処理されたステントがクロロホルムのバイアルから取り出される。別のサンプルバイアルがアセトンで洗浄され、次いでこのバイアルにアセトンが再び満たされる。このバイアルの中に処理されたステントが置かれ、超音波洗浄器で2分間超音波洗浄される。このバイアルはイソプロピルアルコールで洗浄され、次いでこのバイアルにイソプロピルアルコールが再び満たされる。ステントは超音波洗浄器でさらに2分間超音波洗浄される。処理されたステントは次いで、60℃±3℃の20体積%硝酸浴中で30分間不動態化される。ステントは次いで、大量の脱イオン水で10回洗浄される。ステントは次いで、イソプロピルアルコールなどの溶媒600mLの中に置かれ、超音波洗浄器で5分間超音波洗浄され、空気乾燥される。
【0025】
他の実施形態では、ステントの表面が、ショットピーニング(shot peening)により、制御された方法で均一に研磨される。ステント表面5の粗面化は、約1ないし5ミクロンのサイズを有し、少なくとも43g/モルの重量を有する原子状元素から作られたショットと呼ばれる金属粒子を使用して達成される。例えば、このショットは、微粒子状タンタル、微粒子状タングステン、微粒子状白金、微粒子状イリジウム、微粒子状金、微粒子状ビスマス、微粒子状バリウム、微粒子状ジルコニウム及びこれらの合金の形態をとることができる。適当な合金の例には、白金/ニッケル合金及び白金/イリジウム合金が含まれる。
【0026】
ステント表面5の所定の部分の上に、所望の量及び所望のパターンのショットを配置することによって、ステント表面5を処理することができる。ステント表面5に凹みを作るために、プレート又はローラを使用してこれらの粒子に圧力が加えられる。凹凸は、凹みを作るのに十分な速度でステント表面5に粒子をジェットブラスティング(jet blasting)することによっても達成することができる。金属表面をショットピーニングする一例が米国特許第6,911,100号に記載されている。
【0027】
他の実施形態では、この均一な制御された表面の凹凸を、ショットではなくレーザを使用することによって上記と同じように達成することができる。ステントの外面又は内面5の所望の部分に一連の放電が印加される。この放電は、ステントの表面の材料を蒸発させるのに十分なエネルギーでその表面と接触し、時にボイド(void)と呼ばれるピット(pit)を生成する。これらのピットの総体としての効果は表面積が増大した粗い表面である。この工程の一例が米国特許第6,913,617号に記載されている。
【0028】
他の実施形態では、圧縮によってステントの表面が均一に処理される。マンドレルにステントが取り付けられ、このマンドレルが、所望の量、形状、サイズ及びパターンの凹みをステント表面5に形成する予め形成された一段高い複数の部分を備えたダイの中へ挿入される。凹みは、ステント表面5への溶接、サンドブラスティング(sandblasting)など、いくつかの方法で形成することができる。次いで、ステントを取り巻いてダイが閉じられ、所望の表面領域を覆う、所望の深さの凹みが形成される。ダイの設計に応じて、ステントはその表面全体又は表面の一部にわたって処理される。この工程の一例が米国特許第7,055,237号に記載されている。
【0029】
他の実施形態では、ステント表面5が、空気圧プレス又は液圧プレスによって処理される。米国特許第4,079,617号に記載されているように空気圧プレスは当技術分野でよく知られている。米国特許番号第7,033,155号に記載されているように液圧プレスも当技術分野でよく知られている。図3A〜3Dに示されているように、ステントは、固定された又は回転するマンドレル1上に配置される。コンピュータ制御の空気圧又は液圧プレス8が、ステントの表面を所定のいくつかのやり方の1つで処理するように、例えばステントの表面をランダムに又は所望のパターンに処理するように構成される。プレスのパンチアセンブリ9を、本明細書では凹み形成機構と定義される1つ又は複数のピーナ(peener)10、11を含むように構成することができる。好ましい一実施形態では、パンチアセンブリが複数のピーナを含む。表面微小構造を形成するために、ピーナは、均一な長さ又は異なる長さを有することができることが理解される。ステント表面5を処理するようコンピュータがプログラムされるまで、それぞれのピーナ10、11は引っ込められた位置に留まる。選択されたプログラムに従って、ピーナ10、11は、凹みを形成するのに十分な力でステント表面5に打ち下ろされる。パンチアセンブリ9は一般に、所望のステントの幅以下になるように構成され、例えばステントストラット3が15ミクロンである場合、複数のピーナ10、11の幅も合計で15ミクロン以下にする。所与のパンチアセンブリ9上のピーナ10、11の数は、ステントの幅によって異なる。同様に、パンチアセンブリ9を、プレスに取り付けられた予め形成されたヘッドとして構成することもできる。どのパターンが望ましいかに応じてヘッドは相互に交換可能である。さらに、ヘッドを固定し、ステントを回転させること、或いはヘッドを可動とすることもでき、このヘッドは、ステント表面5にランダムに凹みを作る、プレスに取り付けられた単一のピーナ10、11において具体化される。
【0030】
他の実施形態では、完全な長さのステント、例えば長さ約2.5mのステントを所望の長さの複数のステントにレーザカットする前に、この完全な長さのステントが処理される。ステントは、1つ又は複数のマンドレル1に水平又は垂直に取り付けられ、本出願に開示された方法の1つを使用して研磨される。研磨技法に関しては、ステントが、ランダムに、均一に又は所望のパターンに処理される。さらに、ステントの長さ及び側が、縦に、垂直に又は螺旋状に処理される。さらに、ステント表面5が、固定された粗面化機構の上でステント表面5を移動させることによって処理され、或いは、ステント管の全長を固定し、管の全長の上で粗面化機構を、開示された方法の1つで、例えば水平に、垂直に、又は螺旋状に移動させてもよい。
【0031】
不動態化ステップの望ましさ及び効果を確認するため、処理されたステントに対してポテンショダイナミック(potentiodynamic)腐食試験を実施した。データは、処理され不動態化されたステントの破壊電圧が、ASTMの規定電圧レベル規格内に十分に収まることを示している。したがって、粗面化工程及び不動態化の後、処理されたステントは、処理されていない対照ステントと比べたときに、より大きな腐食可能性を示さず、粗面化工程は、再狭窄及び血栓症の可能性を増大させない。
【0032】
処理されていないステント壁のおおよその厚さは一般に約0.05mmである。図2B〜2Cに示されているように、開示された方法でステント表面5を処理すると、山6の平均高さが約1.30μm、谷7の平均深さが2.08μmの処理されたステント表面が得られる。もしあるのであれば、ステントの構造完全性に対する粗面化工程の効果を測定するため、処理されたステントに対して軸方向疲労試験及びオージェ分析(auger analysis)を実施した。軸方向疲労試験は、破壊の影響を最も受けやすいステントの部分、すなわちステントストラット3間のリンク4に重点を置いた。シミュレートされた生理学的条件での3百万回超のサイクルの後、処理されていない対照ステントと粗面化されたステントの両方が無損傷であった。粗面化工程では処理されたステントの一部が除去されること、及び、処理されたステントは、より大きな表面積を有する処理されていない無損傷のステントが耐えることができる条件と同じ条件に耐えることができることから、粗面化工程は、ステントボディの破砕された微結晶構造によって、ステントの耐疲労性を事実上増大させることが理解される。最後に、表面化学を特徴づけるために、処理されたステントに対してオージェ分析を実施した。この分析は、不動態化された処理されていないステントと処理され不動態化されたステントとで、同一の元素の比が同様であることを明らかにした。このことは、処理されていない対照ステントを開示された方法で不動態化する工程は、ステントの表面化学に有害な影響を与えないことを示す。
【0033】
好ましくは、抗増殖性Biolimus A9(登録商標)などのAPIが、少なくともステントの反管孔側部分に塗布される。APIは、ステント表面に、APIの溶液をステントの処理された表面に吹き付けることを含む適当な手段によって塗布することができる。API溶液は、所望のAPIにステント全体を浸すことによって、又は所望のAPIをステント表面5に手作業で直接に塗ることによっても塗布することができる。Biolimus A9(登録商標)は、他のいくつかの結晶質リムス化合物のように亀裂が入ったり、又は割れたりしない非晶質ないし半結晶質の構造を有する。したがって、Biolimus A9(登録商標)のこれらの特性は、非拡張状態及び拡張状態のステントの粗面化処理された表面への付着を可能にする。
【0034】
本出願と同じ所有権者の米国特許第6,939,376号に記載されているように、API材料は、オートピペットによってステントの反管孔側部分に塗布されることが好ましい。酢酸エチルなどの適当な溶媒に所望のAPIを溶かすことによって、濃度約25mg/mlから約100mg/mlの溶液が調製される。この溶液は、所定の流量で溶液を送達するように設計されたポンプによってリザーバに入れられる。このポンプは、I&J Fisnar Inc.社から販売されている4−Axis Dispensing Robot Modelなどのマイクロコントローラによって制御される。リザーバの底には、この混合溶媒をステント表面5に送達する溶液送達管が取り付けられる。リザーバ及び送達管は、溶媒送達管をステントの縦軸に沿って連続的に又は小さなステップで、例えば0.2mmステップで移動させる可動支持体に取り付けられる。
【0035】
少なくとも一端がステントの内面と接触する回転チャックによって、コーティングされていないステントが把持される。ステントを連続的に、又は0.5度ステップなどの小さな角度ステップで回転させることによって、ステントの軸方向回転が達成される。或いは、送達管が固定位置に保持され、コーティング工程を実施するため、ステントが、回転運動だけでなく、その縦方向に沿って動かされる。
【0036】
必要に応じてステントの長さ及び側に沿って変化させることができる薬物/混合溶媒の正確の塗布のために、送達管はさらに、ブンゼンバーナの下で引き伸ばされる。協力して機能する2タイプ以上の流体分配管を使用してコーティングを形成すること、或いは異なる先端を備えた2つ以上の可動溶液リザーバ、又は異なる粘度の複数の溶液若しくは異なる化学組成の複数の溶液を含む2つ以上の可動溶液リザーバを同じ工程で使用してコーティングを形成することは、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
他の実施形態では、処理されたステント表面に、パリレン、パリレン誘導体又は他の生物適合性ポリマーの非多孔質の層が塗布され、その上に所望のAPIが積層される。任意選択で、APIの上に直接に、時間の経過に伴う制御された放出を助けるわずかに非多孔質のポリマーの追加の層が塗布される。本発明によれば、ステントが、その1つの表面に置かれた少なくとも1つのAPI層を含み、残りの表面がAPIを含まないか、又は1種若しくは数種の異なるAPIを含む。このようにすると、ステントの管孔側表面から1種又は数種のAPIを血流に送達することができ、ステントの面の血管損傷部位に異なる条件の異なる治療が送達される。
【0038】
他の実施形態では、ポリマーを必要とすることなく、API分子でステントをコーティングすることができる。図4に示されているように、以上に開示された方法の1つでステントの全体又は一部を粗面化する工程は、処理されたステント14の表面にAPIを直接に付着させることを可能にする。いくつかの実施形態では、粗面化された表面の谷及び空洞の中にAPIが吸い込まれる。処理されたステントに一般に塗布されるAPI分子は、抗血小板物質又は抗血栓症薬、或いはデキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム又は他のデキサメタゾン誘導体、或いは抗炎症性ステロイドである。ステントを使用して、血栓崩壊薬、血管拡張薬、抗高血圧薬、抗菌物質又は抗生物質、抗有糸分裂薬、抗増殖薬、抗分泌薬、非ステロイド性抗炎症薬、免疫抑制薬、増殖因子及び増殖因子拮抗薬、抗腫瘍及び/又は化学療法薬、抗ポリメラーゼ薬、抗ウイルス薬、光ダイナミック療法薬、抗体標的療法薬(antibody targeted therapy agent)、プロドラッグ、性ホルモン、フリーラジカルスカベンジャー、抗酸化薬、生物作用薬、放射線治療薬、放射性不透過性物質、放射性標識物質などの他のタイプのAPI分子を送達することもできる。
【0039】
本発明の実施形態では、タキソール(パクリタキセル)、アンチセンス化合物、ドキソルビシンなどの抗増殖薬、特に、後に示す一般構造を有し、総称して「リムス」化合物とも呼ばれる大環状トリエン免疫抑制化合物を含むさまざまな抗再狭窄化合物を使用することができる。いくつかの「リムス」化合物及びそれらの合成が例えば、米国特許第4,650,803号、5,288,711号、5,516,781号、5,665,772号及び6,153,252号、PCT公開第WO97/35575号、米国特許第6,273,913B1号、米国特許出願第60/176086号、2000/021217A1号及び2001/002935A1号に記載されている。
【0040】
血管損傷部位にステントを配置するために使用されるカテーテルに取り付けられたしぼんだバルーンの周囲のステントボディを含むアセンブリに、ステントを含めることができる。このステントは、上腕動脈又は大腿動脈を通して患者の心臓血管系へ導入される。カテーテルアセンブリは、しぼんだバルーンとステントの組合せが、血管損傷部位を横切って配置されるまで、冠動脈系内を先に送られる。次いで、管腔と連続的に接触するのに十分な大きさの直径までステントを拡張させるため、バルーンが所定のサイズに膨らまされる。バルーンは次いで、患者の血管系からカテーテルを引き抜き、その場にステントを残し出すことを可能にするより小さな輪郭にすぼめられる。一般的なステント埋込み手技の一例が米国特許第6,913,617号に記載されている。
【0041】
III.使用法
この項では、本発明に基づく血管治療法及び本発明に従って構築されたステントの性能特性を説明する。
【0042】
本発明の方法は、限局性の血管損傷を負った患者、又は血管閉塞の危険がある患者の再狭窄の危険性及び/又は程度を最小化するように設計される。血管損傷は一般に、部分的に閉塞した冠動脈又は末梢動脈などの血管を開くための血管造影手技中に生じる。血管造影手技では、閉塞部位にバルーンカテーテルを配置し、遠位端のバルーンを1回又は数回、膨らませ、しぼませて、閉塞した血管を開通させる。この血管拡張、特にプラークが取り除かれる可能性のある血管壁の表面外傷を含む血管拡張はしばしば、時間が経つにつれ、細胞増殖及び再閉塞によって血管が反応する十分な限局性の損傷を生じさせる。当然ながら、再狭窄の発生又は重症度は、血管造影手技に伴う血管伸展の程度にしばしば関係する。特に過伸展が35%以上である場合には、高い頻度で、しばしばかなり重症の再狭窄、すなわち血管閉塞が起こる。
【0043】
本発明を実施する際には、ステントが、一般にカテーテルの遠位端のカテーテルの管孔内又は遠位端バルーン上に、収縮状態で置かれる。次いで、カテーテルの遠位端が、損傷部位又は潜在的な閉塞部位に導かれ、カテーテルの遠位端は、例えばステントが単独で拡張するタイプである場合には、トリップワイヤ(trip wire)を使用して、その部位の中へステントを放出することによって、又はバルーンを膨らませて、ステントが血管壁と接触するまで、実際にはその部位の組織壁の内部にステントを埋め込むまでバルーン上のステントを拡張させることによって、カテーテルから解放される。
【0044】
その部位に配置された後、ステントは、細胞増殖を抑制するために、血管部位の内側を覆っている細胞の中へ活性化合物を放出し始める。図5は、2つのステントからのBiolimus A9(登録商標)の放出速度を示しており、一方のステントは、テクスチャが付与された表面を覆う薬物を含み、もう一方のステントは、Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーコーティングを有するBiomatrix(登録商標)IIステントである。
【0045】
図6は、ポリマーコーティングされテクスチャが付与されたステントからのBiolimus A9(登録商標)薬物の放出の百分率を示す。このグラフに示されているように、テクスチャが付与されたステントからは、わずか2か月で、100%のBiolimus A9(登録商標)が放出された。対照的に、ステントでは、3か月後も約30%の薬物が残留していた。
【0046】
図7は、質量分析法によって測定された、ポリマーコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIステント及びテクスチャが付与されたステントのBiolimus A9(登録商標)のピーク血中濃度を示す。図7に示されているように、テクスチャが付与されたステントでは、Biolimus A9(登録商標)の血中濃度が約4時間でピークに達する。ポリマーコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIでは、Biolimus A9(登録商標)のピーク血中濃度が約2か月して出現する。
【0047】
図9A〜9Fは、埋め込まれた裸金属(bare metal)ステントを有する血管領域の断面(図9A〜9B)、PLAを225μg、Biolimus A9(登録商標)を225μg含むポリマーコーティングを有する金属Biomatrix(登録商標)IIステントを有する血管領域の断面(図9C〜9D)、及びBiolimus A9(登録商標)を225μg含むテクスチャが付与されたステントを有する血管領域の断面(図9E〜9F)を示しており、コーティングされたフィラメントの断面が示されている。この図は、それぞれのフィラメント領域から周囲の血管壁領域内への抗再狭窄化合物の放出を示す。時間が経つにつれて、血管壁を形成する平滑筋細胞が、ステントの格子又は螺旋形の開口の中へ増殖し始め、次いでそれらを通り抜け、最終的に、ステントの両側を包み込む連続した内側細胞層を形成する。ステントの埋込みが成功である場合には、その部位における後期の血管閉塞の程度が50%未満である。すなわち、血管の内側に残った流路の断面直径が、埋込み時の拡張したステント直径の少なくとも50%である。
【0048】
Schwartz他によって全般的に記載されたブタ再狭窄動物モデルの実験(「バルーン血管形成術後の再狭窄−ブタ冠動脈内における実用的な増殖モデル(Restenosis After Balloon Angioplasty−A Practical Proliferative Model in Porcine Coronary Arteries)」、Circulation 82:(6)2190−2200、1990年12月)は、再狭窄の程度を限定する本発明のステントの能力、及び現在提案されているステント及び試験されたステントに優る本発明のステントの利点を示す。これらの実験は実施例2に要約されている。
【0049】
手短に言うと、これらの実験は、ステントを埋め込んでから28日後の裸金属ステント、ポリマーコーティングされたステント及びテクスチャが付与されたステント内の再狭窄の程度を比較する。
【0050】
図9A〜9Fは、ポリマーコーティングされたステントとテクスチャが付与されたステントの両方が再狭窄のレベルを大幅に低減させたことを示している。一般に、ポリマー薬物コーティングされたステント及びテクスチャが付与されたステントで処置された血管は、内皮層が十分に確立されており、十分に治癒したように見え、埋め込んでから28日後には、完全な治癒及び血管ホメオスタシスの証拠が見られた。
【0051】
これらの写真は、テクスチャが付与されたステントが、薬物溶出ポリマーコーティングを有するステントと少なくとも同等であることを示している。
【0052】
以下の実施例は、本発明のステントを製作し使用するさまざまな態様を示す。以下の実施例が本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
Biolimus A9(登録商標)を含むポリマーでコーティングされたBiomatrix(登録商標)IIステントと、Biolimus A9(登録商標)を含んだ反管孔側微小構造を含むステントとについて、知られている方法に従って、37℃のPBS pH7.4/Tween媒質中で、in vitro薬物放出を実施した。試料採取は定期的に実施し、Biolimus A9(登録商標)の総量はHPLCによって測定した。図5は、Biomatrix(登録商標)IIステント及び微小構造ステントからの薬物放出を示す。
【0054】
(実施例2)
動物埋込み試験
Biolimus A9(登録商標)を含むテクスチャが付与されたステント及びBiolimus A9(登録商標)を含まないテクスチャが付与されたステントを、異系交配の若齢のブタに埋め込んだ。バルーンカテーテルを使用して、10〜20%の過伸展を有する標準ブタ過伸展モデルに従いステントを配置した。ステントを配置する前に、若齢のブタを予め拡張させた。
【0055】
28日後、認められたプロトコルに従ってブタを安楽死させ、心臓及び周囲の組織をブタから摘出した。
【0056】
ディジタルカメラを含む顕微鏡を使用して、スライドに載せられた血管断面の高分解能画像を生成した。結果は図9A〜9Fに示されている。これらの画像を、以下の手順によって組織形態計測分析にかけた。
【0057】
ステント及び動脈を解剖し、これらを組織学者がミクロトームにかけた。試料を染色して、さまざまな増殖シグナル、細胞増殖及び他の細胞破片を着色させた。組織形態計測測定は以下のものからなる。
【0058】
動脈の面積(mm2)(図10A)、IEL(図10B)、内膜の面積(mm2)(図10C)、管腔の面積(mm2)(図10D)、内膜の厚さ(ミクロン)(図10E)、狭窄面積%(図10F)、損傷及び炎症に基づく組織学的等級付け(図10G)、内膜細胞外基質及びEB/GC反応に基づく組織学的等級付け(図10H)、内皮化(endothelialization)及び内膜フィブリンに基づく組織学的等級付け(図10I)、中膜炎症、壊死及び線維増多に基づく組織学的等級付け(図10J)、並びに外膜炎症及び線維増多に基づく組織学的等級付け(図10K)。
【0059】
下表は、追跡調査28日後の治療効果の結果を示す。下表の列見出し「管腔面積mm2」の下のデータは、追跡調査(f/u)28日後にブタから取り出したステント及び血管の形態計測分析の結果を示す。
【表1】
【0060】
図8は、テクスチャが付与された表面を有するステント及びテクスチャが付与された表面を有しBiolimus A9(登録商標)をμg含むステントのそれぞれの閉塞面積%のグラフを示す。
【0061】
本発明の以上の説明は事実上、単なる例示であり、したがって、本発明の要旨を逸脱しない変更は本発明の範囲に含まれることが意図される。このような変更は、本発明の趣旨及び範囲からの逸脱とはみなされない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管損傷部位における再狭窄を抑制するために該部位に配置するよう設計された、半径方向に拡張可能な血管内ステントを製造する方法であって、
炭化水素フィルムの外部マスクによって覆われたマンドレル上にステントを配置するステップ、
マスクの中にステントを押し縮めるステップ、
研磨されるべきでないステントの少なくとも一部がマスクによって覆われることを確認するステップ、
ステントの少なくとも一部分にテクスチャを付与するステップ、及び
ステントのテクスチャが付与された部分の少なくとも一部分に治療薬を配置するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記治療薬を配置することが、テクスチャが付与された表面に形成された基層に該薬を染み込ませることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記テクスチャ付与の後に前記マスクを除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントの少なくとも一部分をマイクロブラスティングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントの少なくとも一部分をショットピーニングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントを差別的に圧縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記テクスチャ付与の後に、前記ステントの少なくとも一部分を不動態化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記治療薬が抗再狭窄薬を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
血管損傷部位における再狭窄を抑制するために該部位に配置するよう設計された、半径方向に拡張可能な血管内ステントを製造する方法であって、
炭化水素フィルムの外部マスクによって覆われたマンドレル上にステントを配置するステップ、
マスクの中にステントを押し縮めるステップ、
研磨されるべきでないステントの少なくとも一部がマスクによって覆われることを確認するステップ、
ステントの少なくとも一部分にテクスチャを付与するステップ、及び
ステントのテクスチャが付与された部分の少なくとも一部分に治療薬を配置するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記治療薬を配置することが、テクスチャが付与された表面に形成された基層に該薬を染み込ませることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記テクスチャ付与の後に前記マスクを除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントの少なくとも一部分をマイクロブラスティングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントの少なくとも一部分をショットピーニングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記テクスチャを付与することが、前記ステントを差別的に圧縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記テクスチャ付与の後に、前記ステントの少なくとも一部分を不動態化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記治療薬が抗再狭窄薬を含む、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図10K】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図10K】
【公開番号】特開2012−179476(P2012−179476A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145522(P2012−145522)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2009−533385(P2009−533385)の分割
【原出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(504395257)バイオセンサーズ インターナショナル グループ、リミテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2009−533385(P2009−533385)の分割
【原出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(504395257)バイオセンサーズ インターナショナル グループ、リミテッド (16)
【Fターム(参考)】
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