説明

薬理測定装置およびシステム並びにそれに用いるウェル容器

バッチ式の薬液滴下交換方式時に混入する外乱成分を急峻に低減することにより、生体試料の薬理的活動に起因する微小で短時間の電気信号の変化を迅速に、かつ、高感度に検出しうる薬理測定装置を提供することを目的とする。生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号変化を検出するための薬理測定装置20であって、上面に開口部8を有する導電箱2と、前記開口部8に配置されたウェル容器19を有し、前記ウェル容器19は、前記生体試料6を配置する凹部4を有する基体1と、前記凹部2の底面に形成された測定電極10と、前記測定電極10と電気的に絶縁された参照電極13とを備え、前記参照電極13が前記導電箱2とともに前記ウェル容器19を静電的に遮蔽することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号変化を測定するための薬理測定装置およびシステム並びにそれに用いるウェル容器に関する。
【背景技術】
従来より、細胞の電気生理的活動を測定する技術が知られている。このような技術は、例えば細胞の電気生理的活動を指標にして薬品をスクリーニングするために用いられる。細胞の電気生理的活動とは、主として細胞のイオンチャンネルの活性度をいう。細胞においては、イオンチャンネルの活性度に対応するイオン透過性の変化に伴って細胞膜内外のイオン濃度が変化する。したがって、細胞膜電位の変化の測定により、イオンチャンネルの開閉時間、タイミング、その回数等、イオンチャンネルの活性度(細胞の電気的活動)の測定が可能である。
細胞膜電位の変化を測定する方法として、従来より、ガラス製の細胞外電位測定用電極または金属製(白金など)の電極をマイクロマニュピレータなどを用いて細胞近傍に設置することにより測定する方法が知られている。また、別の方法として、同様な電極を細胞内に刺入することにより、細胞内電位の変化を測定する方法が知られている。
上記方法によると、細胞のイオンチャンネルの活性度を定量的かつ詳細に測定することができる。しかしながら、電極の調製およびその操作などに熟練した技術を要し、一つの試料の測定に多くの時間を要するので大量の薬品候補化合物を高速でスクリーニングするには適していない。また、細胞に傷害を与えやすいという側面もある。
高速の薬品スクリーニングの用途、特にファーストスクリーニング(第一候補の絞り込み)の用途には、必ずしも電極刺入法に見られるイオンチャンネルの定量的測定は必要なく、イオンチャンネルの開閉の定性的検出で十分であり、測定の迅速性、簡便性がより重視されるため、このような用途には、平板電極を使った細胞外電位記録法が適していると考えられる(特許文献1;特許第2949845号公報,特許文献2;米国特許第5810725号明細書,特許文献3;米国特許第5563067号明細書,特許文献4;特開平9−827318号公報,特許文献5;米国特許第5187069号明細書)。
平板電極を使った細胞外電位記録法は、生体内塩濃度組成に近い溶液中で生体試料を平板電極上に配置し、その電極の電位変化を測定することによりイオンチャンネルを通過するイオン流を測定できるということを利用したものである。すなわち、細胞の電気生理的活動は、その近傍に配置された電極電位に変化をもたらすということを利用したものである。
上記細胞外電位記録法は、細胞を平板電極上に配置しただけで、細胞内に電極を刺入する必要等がないので、簡便かつ迅速に細胞の電気生理的活動を測定することができる。また、平面電極の作製には、半導体加工技術を適応できるため、微小かつ大量に基板上に電極を形成することが可能である。したがって、多種類の薬品の高速スクリーニング等に適している。
しかしながら、細胞の電気生理的活動に起因する電気信号の変化は非常に微弱であり、平板電極を用いた細胞外電位記録法においては、かかる信号の変化を溶液を介して検出することになるためさらに微弱化する。したがって、精度の高い測定を行うためには、細胞の電気生理的活動に起因する電気信号の変化を感度良く検出する必要がある。
微小信号をS/N比 良く検出するためには、一般的には、測定系に外乱ノイズが混入しないように測定部を静電的に遮蔽すればよい(非特許文献1;M.Krause,S.Ingebrandt,D.Richter et al,Extended gate electrode arrays forextracellular signal recordings,Sensors and Actuators B 70(2000)pp.101−107)。しかしながら、薬品の高速スクリーニング用途に使用するためには、以下の理由で測定部にすべて静電的に遮蔽を施すことができない。多種類の薬品の高速スクリーニングには、簡単な構成で短時間に複数種類の薬剤溶液を交換することが要求される。このことから、各溶液保持部に個別に溶液を注入・排出する機構を毎々設け、同時に溶液の移動を制御することはセンサ基板と装置の構成をより複雑とする。現実的に薬液の交換は、一つまたは、一列に並んだ、XY移動式の溶液注入排出装置を溶液保持部の上方で駆動させ、各溶液保持部分のある一定の単位ごとの溶液を上方からバッチ式で溶液添加・吸引することになる。しかしながら、バッチ式の溶液添加・吸引方式では、溶液面に注入するための開口領域を形成させる必要があり、測定部を静電的に遮蔽することができない。その結果、溶液の滴下に伴う外乱が、微弱な電気信号に対し無視できないほど大きな値となって電極に発生した。また、溶液交換に伴い発生する外乱が、溶液の滴下が終了した後も長時間持続した。このため、薬剤に対して小さな反応を起こすイオンチャネルの応答、および、薬剤の交換時から短時間以内に活動し、その後不活性化する、急速不活化イオンチャネル開閉応答は測定できないという問題が起こった。
【発明の開示】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、バッチ式の薬液滴下交換方式時に混入する外乱成分を急峻に低減することにより、生体試料の薬理的活動に起因する微小で短時間の電気信号の変化を迅速に、かつ、高感度に検出しうる薬理測定装置およびシステム並びにそれに用いるウェル容器を提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、上述した外乱が発生する原因は、イオン性の測定溶液をウェル容器内に注入した場合、瞬間的に溶液中に電気的な偏りが発生してしまい、そのため微弱ではあるが、本測定において無視しがたい程の電流が発生してしまうためであり、ウェル容器を静電的に遮蔽すれば外乱を抑えることができることを見出した。
かかる知見に基づき、本発明に係る薬理測定装置は、
生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号を検出するための薬理測定装置であって、
前記薬理測定装置は、開口部を有する導電箱と、前記開口部に配置されたウェル容器を有し、
前記ウェル容器は、前記生体試料を配置するウェル凹部を有する基体と、
前記ウェル凹部の底面又は裏面に形成された測定電極と、
前記測定電極と電気的に絶縁された参照電極とを備え、
前記参照電極が前記導電箱とともに前記ウェル容器を静電的に遮蔽することを特徴とする。ここで、静電的に遮蔽するとは、外乱の発生を抑制することをいい、電磁波を遮断できる程参照電極を広くしたり、また参照電極と導電箱とを接続し大量の電流を逃がすことによって可能であることが見出されている。
したがって、本発明に係る好ましい薬理測定装置は、参照電極が、導電箱と電気的に接続されていることを特徴とする。このように、参照電極と導電箱を電気的に接続すると、遮蔽外部に配置される溶液溜めから遮蔽開口部へイオン性溶液を注入もしくは排出する時に生じる電流を導電性の導電箱に流し、外乱成分を急峻に低減することができる。
また、本発明に係る他の好ましい薬理判定装置は、参照電極が、ウェル凹部以外のウェル容器上部を覆うように形成されていることを特徴とする。このように参照電極を広く形成すると、参照電極を遮蔽の一部として機能させることができる。また、測定溶液に浸漬される参照電極の面積が大きいため、測定溶液注入時に発生する電流を瞬時に散逸させることができ、外乱を発生させることがない。さらに、外乱を発生させることなく、バッチ式に高速スクリーニングを行うことができる。
さらに、上記の外乱の発生を抑制する構成を採用することにより、本発明に係る薬理測定装置は、生体試料を含む溶液を凹部へ注入および排出し得る注入排出器を複数配列し、この注入排出器がスライドするようにして、ウェル凹部に注入することができる。これにより、短時間で複数の凹部に測定液を注入することができる。
また、微弱電流を測定するためには、信号増幅部を設けることが好ましいが、測定時に、該信号増幅部も外部からの電磁波等により影響を受けるため、該信号増幅部を静電的に遮蔽する必要がある。本発明に係る薬理測定装置は、測定電極に電気的に接続された第一の信号増幅部を備え、この第一の信号増幅部がこの導電箱内部に配置されることを特徴とする。第一の信号増幅部が参照電極及び導電箱により静電的に遮蔽されているので、別個に信号増幅部を設ける必要がなく、構造的に簡易化することができる。
また、本発明において、測定電極と参照電極の間に絶縁部が形成され、この絶縁部に生体毒性がないことが好ましい。測定すべき生体細胞に悪影響を与えないようにするためである。
本発明において、ウェル凹部が上方に拡大するテーパ側壁を有し、参照電極が上記凹部側壁に作製され、ウェル凹部の底面に位置する測定電極に隣接するテーパ側壁面付近の参照電極部分を除去加工して測定電極と参照電極の間に絶縁部を形成してもよい。このような構成とすることで、スペーサー等を設けなくとも、参照電極と測定電極の絶縁性を高めることができる。
本発明において、上記基板の凹部の底面に、少なくとも一つ以上の貫通孔を設け、この貫通孔に固定される生体試料と接続する位置に測定電極を形成することが好ましい。これにより、生体試料と密着するように保持することができ、測定感度を向上させ、安定して測定を行うことができる。さらに、上記基板の貫通孔に、生体試料を誘導する吸引手段を備えることが好ましい。
また、本発明において、ウェル凹部に収納される溶液を取り替えることもできる。
本発明に係る薬理測定装置において、ウェル容器は、上記導電箱の開口部において、取り付け、取り外しが可能であり、使い捨て可能であることを特徴とする。ウェル容器が取り付け取り外し可能で、使い捨て可能である場合、高速に大量の試料を測定することができる。さらに、このような使い捨ての容器を使うことは衛生的でもある。また、ウェル容器だけを交換できるので、薬理測定装置全体を交換する場合よりコストがかからなくてすむ。
本発明に係る薬理測定システムは、上述の薬理測定装置と、第1の信号増幅部で増幅された信号をデータ処理する計算部とを備えることを特徴とする。
さらに、上記第1の増幅部で増幅された測定電極からの出力信号をさらに増幅し、帯域制限を施す第2の信号増幅部を備えることが好ましい。
また、上記電極に所望のタイミングで所望の電流を印加する電気刺激発生装置を備え、さらに、上記装置を所望の温度、湿度、ガス濃度に調整する、測定環境調整装置を備えていることが好ましい。
また、本発明は、生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号を検出するための薬理測定装置用ウェル容器であって、
前記ウェル容器は、前記生体試料を配置する多数のウェル凹部を有する基体と、
前記ウェル凹部の底面又は裏面に形成された測定電極と、
前記測定電極と電気的に絶縁された参照電極とを備え、
前記参照電極と前記導電箱とが電気的に接続するように脱着可能であることを特徴とするウェル容器にある。ウェル容器を導電箱に対して脱着することができることにより、容易に測定溶液の交換、ウェル容器の洗浄等を行うことができる。また、ウェル容器を導電箱に取り付けたときにウェル容器の参照電極と導電箱とが導通するようにウェル容器を作製しているため、このウェル容器を導電箱に電気的に接続した場合、ウェル容器を静電的に遮蔽することができ、溶液の注入・排出時に生じる外乱を急峻に低減することができる。
以上説明したように、本発明の薬理測定装置によると、上方からの薬剤滴下・交換に伴う外乱がセンサに影響を及ぼさないので、短時間で多種類の薬理判定が可能となる。また、急速な不活化を伴うイオンチャネルの開閉を測定することができ、広範な判定試験が可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施形態1の薬理判定装置の構成を模式的に示す概念図である。
図2は、実施形態1のウェル容器の一例を示す部分断面図である。
図3は、実施形態1のウェル容器の一例を示す部分断面図である。
図4は、実施形態1のウェル容器の上面図である(参照電極13は省略)。
図5は、図4のウェル容器のA0−A1断面図である。
図6は、実施形態2のウェル容器の一例を示す部分断面図である。
図7は、実施形態2のウェル容器の上面図である。
図8は、図7のウェル容器のC0−C1断面図である。
図9は、本特許の薬理判定装置の構成を模式的に示す概念図である。
図10は、比較例1の薬理判定装置の構成を模式的に示す概念図である。
図11は、実施例1における電圧の測定結果を示す図である。
図12は、比較例1における電圧の測定結果を示す図である。
図13は、比較例2の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。
(実施形態1)
(実施形態1の薬理測定装置の構成)
図1は、実施形態1の薬理測定装置20の構造を模式的に示す図である。実施形態1の薬理測定装置は、上面に開口部8を有する導電箱2および開口部8に配置されたウェル容器19を有する。このウェル容器19は、導電箱2の開口部8において固定可能であってもよく、この開口部8から取り外し可能であってもよい。また、必要に応じて、溶液注入排出器7、導電箱2の内部のプリアンプ(第1の信号増幅器)3、ウェル容器19を固定するための基板設置台11、測定電極10とプリアンプ(第1の信号増幅器)3とを電気的に接続する接点12を備える。溶液注入排出器7の排出部の数は、基体内に配列された一列の凹部の数に対応させ、スライド式に測定液を滴下することが好ましい。
実施形態1のウェル容器19は、生体試料6を含む測定液5を注入するための凹部4を有する基体1と、凹部4の底面に形成された測定電極10、および測定電極と電気的に絶縁された参照電極13を有する。測定に際しては、凹部4に測定液5が満たされ、生体試料6(以下、具体例として細胞6ともいう)は測定電極10近傍に配置される。
参照電極13は、図1に示すように、凹部4の底面とその近傍を除いたウェル容器19の上面すべてに形成される。参照電極13は、測定電極10と直接導通せずに配置し、かつ、ノイズを低減するために参照電極の面積は測定電極の面積より十分大きくする必要がある。これは、参照電極の面積が大きい方が、インピーダンスが低く、外乱に対する信号の変動要因が小さくなるからである。具体的には、参照電極13の面積の合計は、すべての測定電極の面積の合計に対して5倍以上大きい構成となるように形成されているのが望ましい。参照電極13の最表面は、金、白金、銀−塩化銀などの材料で作製されたものであるが、任意の形状であり得る。また、参照電極13は、培養液5に一部を浸漬する必要がある。
測定電極10からの電気信号は、参照電極13の電位を基準として測定される。つまり、測定電極10はプリアンプ(第1の信号増幅器)3の入力端子の一方3Aに接続されている。プリアンプ3の他方の入力端子3Bは、参照電極13の電位と等しくなるように接続される。図1に示したように、入力端子3Bと参照電極13は、導電箱2を接地点として互いに同電位に接続する構成もとりうる。プリアンプ3は、導電箱2の内部に置かれ、かつ、測定電極10の電位をごく近傍で測定することができる。かかる構成により、測定電極10で測定される微小な信号を低ノイズ環境下でSN比よく測定することが出来る。
ウェル容器19は、導電箱2の開口部8に配置され、参照電極13と導電箱2は、電気的に接続される。かかる構成により、溶液をバッチ式で滴下するための開口面積の内、静電遮蔽されていない開口面積を凹部4の一部のみに減じることができ、溶液交換に伴う外乱変動を減じることができる。
次に、ウェル容器19の1つの測定電極を含む部分について、詳細な構成の一例を図2および図3に示す。製作工程の観点からは、ウェル容器19は、基板101上に測定電極10を形成したセンサ基板16と、上部基体102に凹部4(以下、状況に応じて、枠、穴とも呼ぶ)を設けて測定溶液5を保持し得る溶液保持部17から構成されている。つまり、図1の基体1は基板101と上部基体102より形成され、凹部4の内側が、細胞培養領域となる。凹部4は、好適には、すりばち状が望ましい。かかる構成により、上方からの反射光を利用して、集積化された微小領域に培養した細胞を光学的に観察することができる。
基板101の材料としては、高抵抗のもの、絶縁性のものが望ましい。また、基板1は、容易に微細加工できる材料が好適に用いられる。具体的に列挙すると、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表される半導体材料およびシリコン・オン・インシュレータ(SOI)などに代表されるこれら半導体材料の複合素材、もしくは、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素の群から選ばれる無機絶縁材料、もしくは、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホン等の群から選ばれる有機材料が挙げられる。好適に用いられる材料は、単結晶シリコン、SOI、PET、PCである。
測定電極10には、基板1上に層状に積層できる金属材料、金属酸化物材料、導電性高分子材料等の導電性材料が用いられる。金属材料としては、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、タングステンの群から選ばれる金属材料が挙げられる。金属酸化物材料としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛、ITO(インジウム錫酸化物)の群から選ばれる材料を用いることもできる。上記材料を最表面に堆積させるために、別の金属の層を基板との間に堆積させてもよい。この目的で好適に用いられる材料は、ニッケル、クロム、ITO、タングステン、チタン、スズ、マンガン、鉛およびその合金からなる群から選ばれる。測定電極10は、さらに導電性高分子によって被覆しても良く、また、単分子膜によって被覆してよい。測定電極10に接続するリード線9にも、上記と同様の電極材料が適用できる。
次に、複数の測定電極を有するウェル容器19の構成例を図4および図5に示す。図4は上面図であり、図5は図4のA0−A1断面図である。図5で点線で囲んだ部分が1つの測定電極を含むウェル容器に相当する。複数のウェル容器の配列方法については、図4、図5に示すように、1つの凹部(枠)4に対して、測定電極10を1個設置する構成でもよいし、1つの凹部4に対して、複数の測定電極10を設置してもよい。1つの凹部4に対して1つの測定電極10を設置する構成は、例えば各電極10上に固定された細胞の薬品応答性を測定する際に有用であるのに対し、1つの凹部4に対して複数の測定電極10を設置する構成は、例えば各電極10上に固定化した神経細胞間でネットワークを形成させることができ、ネットワークに関する解析を行う際に有用である。
(実施形態1の薬理測定装置のうちウェル容器の作成方法)
実施形態1の薬理測定装置20のウェル容器19の作成方法について説明する。図2、図3のウェル容器19は、センサ基板16の作製工程および溶液保持部17の作製工程及びセンサ基板16及び溶液保持部17の接着工程より形成される。
ウェル容器19のセンサ基板16の作製方法について説明する。まず、上記電極材料を基板1上に蒸着した後、フォトレジストを用いてエッチングすることにより、電極10、および対応するリード線9を1セットとしてかかるセットを複数セット有する所望のパターンを形成する。なお、電極10のパターン形成は、その他に、予め電極パターンを形成させたステンシルマスクを通じて蒸着するマスク法や、リフトオフ法も適応できる。その後、外部接続部を除くリード線9部分を絶縁膜18で被覆した後、ダイシングし、所定角の小片に切り出し、一つの小片を上記センサ基板16とする。一つの小片には、電極10及びリード線9が1セット形成されているようにする。
上記所望のパターンは、各小片の略中心に一つの電極10が形成されるものとし、電極10の形状は、代表的には正方形もしくは円形であって、例えば、1辺の長さ、もしくは直径を約1〜2000μmの範囲に形成し得る。電極10の大きさが生体試料6より大きい場合、一つの電極により複数の生体試料の測定が可能となる。
一つの細胞の電気生理的活動を測定するためのウェル容器19においては、測定対象の細胞の大きさによるが、例えば測定対象が長径略15μmの細胞である場合には、直径略5μmの円形の電極10が好ましい。この場合、電極10上に一つの細胞のみを固定化することが容易となり、一つの細胞の電気生理的変化に起因する電気信号を容易に測定することができるからである。
リード線9を被覆し絶縁するための絶縁膜18の材料としては、ポリイミド(PI)樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。ネガティブフォトセンシティブポリイミド(NPI)などの感光性樹脂が好ましい。感光性樹脂の材料を用いると、例えば、フォトエッチングによるパターン形成を利用して、電極10上の絶縁膜18部分に孔を開けて、該電極10のみを露出させることが可能となる。このように、絶縁膜18は、各電極10上及びリード線9の外部接続部を除いて、基板101のほぼ全面を被覆するように設けられることが、生産効率などの点で好ましい。
次に、ウェル容器19の溶液保持部17の作製方法について説明する。溶液保持部17の作製方法は、当業者に公知の技術を用いて切削してもよく、光造形法によっても作製し得る。特に、参照電極13の作成例の一つを示す。かかる構成の参照電極13の作製工程は、蒸着、スパッタなどの金属堆積法、電解・無電解めっきなどを用い得る。金属堆積法を用いて参照電極13を作製する場合は、溶液保持部材17を堆積装置の回転ステージに対して傾斜させて取り付ける処置を施すことで、容易に枠4の側壁にターゲット金属を堆積させることができる。また、めっき法を用いて参照電極13を作製する工程を以下に説明する。溶液保持部17の上部基体102の材料としては、絶縁材料が望ましい。好適に用いられるものは、例えば、アクリル、ABS樹脂が挙げられる。化学めっき可能なABS樹脂で形成された上部基体102の下面と側面を当業者に公知の方法を用いてマスキングする。ゴム状マスキング剤、もしくはマスキングテープが作業性の面から望ましい。その後、めっき槽に溶液保持部17を浸して、化学銅を無電解めっきする。上記化学銅を介して金を電解めっきすることができる。上記工程を経て、上部基体102の上面および枠4の側壁に参照電極13が作製される。めっき法は、金属堆積法に比べ一括・大量処理が可能かつ、枠4の側壁など、形状に依存しない均一な電極の形成が可能なため、生産性の面から望ましい。
さらに、センサ基板16と溶液保持部17を接着させる。この際、基板101に形成された測定電極10と、溶液保持部17に形成された参照電極13が直接導通しないように、構成する必要がある。図2に示したように、溶液保持部17とセンサ基板16との間に、絶縁体のスペーサー25を介在させてもよい。穴4に対応する位置に穴のあけたスペーサー25は、粘着性を持つことが溶液の封止の面で望ましい(以下、スペーサー25は、粘着性媒体とも呼ぶ。)。かかる用途で用いられる粘着性媒体25は、シリコンゴムシートや、好ましくは生体毒性のない成分を持つ接着剤、接着シートが挙げられる。例えば、具体的には、熱融着シートNS−1000(日東シンコー社製)やシリコンゴム接着剤一液型KE42T(信越シリコーン社製)を用いて作製し得る。
溶液保持部17とセンサ基板16とを、他の接合形態で接合する例を、図3に示す。図3においても、溶液保持部17とセンサ基板16とを接着剤(図示せず)で接着する点は、図2の場合と同様である。ただし、本図の場合には、接着剤を挿入することにより、絶縁性を確保する必要性はない。本図では、電極10,13の絶縁を確保するために、図3では、溶液保持部17とセンサ基板16を接合する前に、上部基体102の凹部4を金でメッキ後に、テーパーの異なるバイスを用いて、すり鉢状の穴4の底面付近のみを切削し、底面付近の参照電極13を削除する工程を経ることにより、形成している。
(試料の挿入と測定準備)
次に、電極10上への細胞の固定化工程の一例を説明する。まず、ウェル容器19の凹部4内の領域に固定化材(図示せず)を固定化することが好ましい。固定化材とは、細胞の固定化を容易及び/又は強固にする材料のことをいう。固定化材の固定化は、凹部(枠)4を設置する前に行ってもよい。
細胞6を固定化する固定化剤としては、通常、誘電体が用いられる。誘電体としては、強塩基性もしくは強酸性官能基を持つ高分子が好適に用いられる。具体的には、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリオルニチン(PO)、ポリリジン(PL)等の正荷電性ポリマーが好適に用いられる。正に荷電したこれらのポリマーは、負に荷電した細胞を引き付ける効果も併せ持つ。同様に、細胞接着能を併せ持つ材料は、ビグアニド基、もしくはカルバモイルグアニジド基を持つ高分子が上げられる。具体的にはアリルビグアニド−co−アリルアミン(PAB)、アリル−N−カルバモイルグアニジノ−co−アリルアミン(PAC)が好適に用いられる。また、マトリクス材料を用いることができる。マトリクス材料として、細胞接着性のタンパク質が好適に用いられ、かかるタンパク質としてはコラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン等が挙げられる。
固定化剤の電極10への被覆は、上記固定化材料を所定の濃度で溶解させた固定化溶液を、電極10上に曝し、所定時間経過後、電極10の表面から固定化溶液を取り除き、表面を洗浄液で少なくとも1回以上洗浄し、乾燥することにより行うことができる。または、上記固定化溶液を、電極10の上面だけにスポットし、被覆する方法であってもよい。
固定化剤による電極の被覆は、細胞の大きさに対する電極10表面の平坦性に影響を与えることはない。従って、細胞の固定化の妨げとはならない。
次に、溶液保持部17の凹部4内に培養液5を満たす。培養液5としては、20mM〜400mMの塩化ナトリウムを主成分とする生理食塩水溶液、および種々の栄養素、成長因子、抗生物質などを含有する培地、所定の化学物質、化合物、薬剤を溶解させた緩衝溶液などが好適に用いられる。
その後、培養液5内に、所望の細胞を播種する。細胞の培養が進行すると同時に、付着性細胞が、固定化材が固定化されている場合はこれを介して、電極10最表面に固定化される。
細胞を固定化して所定時間の後、以下の薬理測定システムを用いて、薬理判定を行う。
(高速薬理測定システム)
本発明の薬理測定システム30は、図9に示すように、薬理測定装置20と、薬理測定装置20のプリアンプ出力22を増幅或いは帯域制限を施す第2の信号増幅部26と、第2の信号増幅部26で増幅された信号をデータ処理する計算部28を有する。必要に応じて、薬理測定システム30は、さらに、電気刺激発生装置27、撮像装置29または、測定環境調節装置24を備える。薬理測定システムは、簡易なシステムで、測定電極10上に固定化された細胞の薬理応答としての出力信号を処理するシステムとして提供され得る。すなわち、かかる薬理測定システム30においては、溶液注入・排出器7によって提供される様々な薬剤に対する細胞の細胞膜電位または細胞膜電位の変化を、細胞外電位変化による電圧の変化として測定し得る。
薬理測定システム30は、薬理測定装置のプリアンプ出力22を処理するため、適切な測定用ソフトウェアを備えた計算部28によって一体として構成される。ウェル容器19で測定、初段増幅された細胞からの出力信号は、出力端子22を介して、第2の信号増幅部26で増幅され、周波数帯域を制限された後、A/D変換器を介してコンピュータ(計算部)28に入力される。測定用ソフトウェアは、コンピュータの画面上に、信号処理・測定条件などを設定し得るパラメータ設定画面、細胞から検出された電位変化を記録し、リアルタイムで表示し得る記録画面、および記録されたデータを解析し得るデータ解析画面などを与える。
さらに、薬理測定システム30は、所望の測定電極10に刺激信号を付与ための電気刺激発生装置27を備えるものであってもよい。印加する刺激信号は、電気刺激発生装置27で刺激条件が設定される。もしくは、適切な測定用ソフトウェアを備えた計算部28によって刺激条件が設定される。好ましくはコンピュータ28からの刺激信号は、D/A変換器を介して電極10へと出力され、そして細胞からの出力信号は、信号増幅装置26によって増幅されてもよい。もちろん、薬理測定システム30は、電気信号発生装置から刺激信号を与えることなく細胞において発生する自発電位のみの測定も行うこともできるものである。
さらに、薬理測定システム30は、ウェル容器19に設けられている電極10を撮像もしくは観察する撮像装置29、ウェル容器19を所定の温度、ガス濃度、湿度に保つための測定環境調節装置24等を備えるものであってもよい。
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1とは異なる構成の電極を備えた薬理測定装置にかかるものである。図6は、本実施形態の薬理測定装置のウェル容器19の構造を模式的に示す断面図である。図7は、6行6列の格子状の各交点に電極10が配置されている構成である。図8は図7のC0−C1断面図である。図8で点線で囲んだ部分が1つの測定電極を含むウェル容器に相当する。図6では、凹部(枠)4内に一つの測定電極10のみが形成されているウェル容器19を示したが、枠4内に複数の電極10とこれに対応するリード線9が形成されているものであってもよいのは、実施形態1と同様である。尚、本実施形態のセンサ基板16においては、センサ基板16の裏面に配線が形成されていないので、基板101と上部基体102とを用いてそれぞれセンサ基板16及び溶液保持部17を別々に形成して接合する必要は無く、一体の基体1に凹部4や電極10,13を形成することも可能である。
本実施形態のウェル容器19は、図1に示すものとは、センサ基板16の構成が異なるのみであるので、センサ基板16以外の構成の説明は省略する。
センサ基板16は貫通孔14を有する。貫通孔14により、生体試料が密着して保持される。貫通孔14の形状は、目的の生体試料が保持されるものであれば特に制限されない。図6において、貫通孔14は、上面開口部が下面開口部より大きい円筒状である。貫通孔14のサイズは、目的の生体試料に依存した任意の大きさを採用し得、目的の生体試料が保持される大きさであれば特に制限されない。具体的な貫通穴14のサイズは、センサ基板16上面での開口部の直径が10〜500μmの範囲にあり、望ましくは直径が10〜100μmの範囲にあり、より好適な例示としては生体試料として用いる細胞の長径が略30μmの場合、直径が略20μmである。
貫通孔14は図7に示したとおり、一つの電極10に対して複数形成されている構成を有する。貫通孔14の数及び位置関係は任意である。位置関係は、例えば図示したように放射状とし得る。本改変例においては、複数の貫通孔14に保持された細胞6に起因する電気信号が一つの電気信号として一つの電極10から検出されることになる。本改変例は、複数の細胞の応答を同時に検出する薬品スクリーニング等において有用である。
貫通孔14の形成方法は、基板1材料によって異なるが、例えば基板1がPETである場合には、エキシマレーザを用いて形成することができる。また、例えば基板1がSiウェハーである場合には、エッチングにより形成することができる。
さらに、貫通孔14を下方から細胞吸引手段に連結することにより、貫通孔14における細胞の保持をより強固なものとすることができ、測定感度が向上し、測定の安定性も増す。この構成により、浮遊性の細胞であっても貫通孔14に保持することができる。
センサ基板16において、貫通孔14の孔壁面14a、又は、さらに孔の開口部周縁14bに、電極10が形成されている。センサ基板16の裏面には、電極10に接続するようにリード線9が形成されている。電極10に続くリード線9は絶縁被覆されうる場合もある。電極10は、真空蒸着法あるいはスパッタ法を用いて電極材料を貫通孔14の孔壁面14aおよび開口部周縁14bに付着させることにより形成する。
貫通孔14の形状は、図8に示す円筒状でもよいし、他の例として、図6に示すようなすり鉢状であってもよい。例えば、基板1の厚みの都合上、連続的な円筒状の貫通孔14の作製が困難である場合に、上面及び下面より窪み穴を設けてこれらを貫通させて一体として図6に示すような貫通孔14を形成してもよい。
【実施例】
以下、本発明をより具体的に例示する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
実施例1として、図1に示す実施形態1の薬理測定装置を試作した。また、比較例1として、図10に示す従来の構成の薬理測定装置も試作した。実施例1と比較例1について、電極の特性を調べる実験を行った。
(薬理測定装置の作製)
まず、ウェル容器19を構成するセンサ基板16および溶液保持部17の作成方法について説明する。
センサ基板16の作成には、実施例1、比較例1共に基板材料に4インチSOIウエハーを用いた。基板表面は、RIEを用いたドライエッチングにより貫通孔群をエッチングした。裏面は、TMAH(テトラメチルアンモニウム)を用いた異方性ウェットエッチングにより、表面と裏面とを貫通させた。基板全体を熱酸化し、表面およびデバイスの最表面にSiO層を堆積させた。その後、30mm角の小片にダイシングし、その小片化した基板の裏面SiO層の上に、真空蒸着法あるいはスパッタ法を用いて、電極をパターニングした。電極材料には金を用いた。これにより30mm角の基板に16個の電極がパターニングされ、その各電極に貫通孔が100個ずつ配置されたセンサ基板を得た。
実施例1の溶液保持部17の上部基体102には、5mm厚・30mm角に切り出したABS樹脂片を用いた。樹脂片102に、上述したセンサ基板の電極(16箇所)に対応する位置に上面直径3mm、下面直径1mmのテーパー穴を切削加工し、凹部4を形成した。その後、下面と側面をマスキングし、ABS樹脂片102に下地層として化学銅を無電解めっきを施した後、金をめっきした。その後、マスキングを剥離し、上述したテーパーよりもわずかに鈍角なテーパーバイスを用いて、ABS樹脂片102の穴側壁で下面付近にめっきされた金層を削り取った。これにより、参照電極13は、溶液保持部17の上面全体と溶液凹部壁面の上面に形成された。溶液保持部17を、熱融着シートNS−1000(日東シンコー社製)を用いてセンサ基板16と接着させた。
一方、比較例1のセンサ基板の参照電極131には、φ0.5mm白金撚り線を用いた。参照電極13は、同様にABS樹脂製の溶液保持部を取りつけたセンサ基板の凹部内に浸漬させ測定を行った。
導電箱は、アルミで構成される。上面に25mm角の開口が形成されている。実施例1では、ウェル容器19を開口部8に収まるように取りつけ、導電箱2とウェル容器19の参照電極13を電気的に接触させた。導電箱2内部でウェル容器19の直下にAD620(Analog Devices社)を用い、プリアンプ(第1の信号増幅器)3を作製した。プリアンプへの電源供給は18V乾電池を使用した。
比較例1の場合には、図10に示すように、導電箱2の中に、ウェル容器19を配置している。そして、導電箱2の上部は薬液の注入、排出のために開口されている。また、比較例1では、プリアンプ3は、導電箱2とは別のプリアンプシールド31内に配置している。すなわちデバイス部32およびプリアンプ部33は別々に構成している。
細胞は、遺伝子改変技術によりカルバコール(以下、CCh)感受性イオンチャネルを発現させたヒト腎臓胚細胞 HEK−293(以下、HEK)を用いた。溶液保持部17内を培養液で満たし、HEK細胞を保持部内に8000個 播種した。培養液は、HEPES緩衝DMEM+10重量%FBSを用いた。細胞を裏面から吸引し、穴にはめ込んだ後、培養液を測定液に置換した。測定液の組成は、リンガー液を基本とし、Ca濃度を2mMに、浸透圧を300 Osmに設定してある。
図11は、実施例1を用い、上述したリンガー液を、CCh100μMを含有するリンガー液に置換した電圧ノイズである。図11中インセットのグラフは、Y軸を拡大して表示している。CCh滴下によって電圧ノイズの増大が認められた(図11中 F1からG1)。一方、従来の方式(比較例1)で同様の実験を行った結果を図12に示す。測定は、プリアンプでの初段増幅を100倍した後、更に100倍増幅した。LPFは5kHzで設定した。図中白抜き四角で表した時間だけ薬剤(CCh)を滴下した。

薬剤滴下に伴う外乱の変化を表1にまとめた。表1に見られるように、比較例1では、溶液の置換による外乱ノイズ振幅値(図12中B)は約800μVp−pとなり、平常時ノイズ振幅平均値の約109倍となった。また、溶液の交換による電圧値の復帰(図12中A)には約30秒間かかっている。一方、実施例1では、定常時ノイズ振幅も6μVp−p(1μVrms)まで減少し、溶液の置換による外乱ノイズ振幅値は8.4μVp−pまで減少し、また、溶液の交換による電圧値は約0.4秒間で復帰する。よって、本特許の構成により、平常時ノイズ振幅を約1/7倍に減少させ、薬剤滴下時の外乱を約100倍 安定させることができた。また、薬剤滴下後の電位信号の復帰時間も75倍減少させることができ、この改善により、薬剤滴下から数秒で不活化するイオンチャネルの変化を捉えることができる。
比較例2として、細胞にガラス製のパッチピペットをあて、細胞内の電位を測定する従来法である、パッチクランプ法を使って、同じ薬剤に対するHEK細胞の細胞内電位の応答を同様に測定した結果を図13に示す。CChの濃度は同様に100μMとした。図13に示すように、細胞内の電位は、CCh滴下後に、6秒間で約10mV脱分極した。また、CCh感受性イオンチャネル応答によるノイズ変化(図13中FからG)が見られた。
上記のCCh反応は、比較例1では取得不可能である。CCh反応に代表される細胞の薬剤応答を細胞外電極で取得するためには、実施例1の構成が必須であることが示された。
【産業上の利用の可能性】
本発明は、生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号変化を測定することに利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号を検出するための薬理測定装置であって、
前記薬理測定装置は、開口部を有する導電箱と、前記開口部に配置されたウェル容器を有し、
前記ウェル容器は、前記生体試料を配置するウェル凹部を有する基体と、
前記ウェル凹部の底面又は裏面に形成された測定電極と、
前記測定電極と電気的に絶縁された参照電極とを備え、
前記参照電極が前記導電箱とともに前記ウェル容器を静電的に遮蔽することを特徴とする薬理測定装置。
【請求項2】
前記参照電極が、前記導電箱と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項3】
前記参照電極が、ウェル凹部以外のウェル容器上部を覆うように形成されていることを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項4】
前記生体試料を含む溶液を前記凹部へ注入および排出し得る注入排出器が、複数配列され、該注入排出器がスライドするように、凹部に注入することができることを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項5】
さらに前記測定電極に電気的に接続された第一の信号増幅部を備え、前記第一の信号増幅部が前記導電箱内部に配置される請求項1に記載の薬理測定装置。
【請求項6】
前記測定電極と前記参照電極の間に絶縁部が形成され、該絶縁部に生体毒性がないことを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項7】
前記ウェル凹部が上方に拡大するテーパ側壁を有し、前記参照電極が該凹部側壁に作製され、前記ウェル凹部の底面に位置する測定電極に隣接するテーパ側壁面付近の参照電極部分を除去加工して前記測定電極と前記参照電極の間に絶縁部が形成される請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項8】
前記基板の前記凹部の底面に、少なくとも一つ以上の貫通孔を持ち、該貫通孔に固定される生体試料と接続する位置に前記測定電極が形成されている請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項9】
前記基板の前記貫通孔に、前記生体試料を誘導する吸引手段をさらに備える請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項10】
前記ウェル凹部に収納される溶液が取り替え可能であることを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項11】
前記ウェル容器は、前記導電箱の開口部において、取り付け、取り外しが可能であり、使い捨て可能であることを特徴とする請求項1記載の薬理測定装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つに記載の薬理測定装置と、
前記第1の信号増幅部で増幅された信号をデータ処理する計算部とを備えた薬理測定システム。
【請求項13】
さらに、前記第1の増幅部で増幅された前記測定電極からの出力信号をさらに増幅し、帯域制限を施す第2の信号増幅部を備える請求項12記載の薬理測定システム。
【請求項14】
さらに、前記電極に所望のタイミングで所望の電流を印加する電気刺激発生装置を備える、請求項12又は13に記載の薬理測定システム。
【請求項15】
さらに、前記装置を所望の温度、湿度、ガス濃度に調整する、測定環境調整装置を備える、請求項12又は13に記載の薬理測定システム。
【請求項16】
生体試料の薬理的活動もしくは電気生理的活動に起因する電気信号を検出するための薬理測定装置用ウェル容器であって、
前記ウェル容器は、前記生体試料を配置する凹部を有する基体と、
前記凹部の底面に形成された測定電極と、
前記測定電極と電気的に絶縁された参照電極とを備え、
前記参照電極と前記導電箱とが電気的に接続するように脱着可能であることを特徴とするウェル容器。

【国際公開番号】WO2005/001018
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511007(P2005−511007)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008685
【国際出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】