説明

藻類増殖部材

【課題】比較的簡易な構成で海底面に生息する植食貝類等の食害を回避するとともに、藻類を育成することができる藻類増殖部材を提供する。
【解決手段】藻類を育成し活着させ得る藻類増殖部材本体1と、この藻類増殖部材本体1を海底に保持し得る台座部材2とを具備してなる藻類増殖部材Pであって、前記藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍と前記台座部材2との間に隙間gを形成してなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場を形成する藻類を育成し、増殖させるための藻類増殖部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆる磯焼け現象などにより消失した藻場をより効率よく回復し、あるいは従前は藻場が存在しなかった箇所に新たに藻場を造成して優良な漁場を創出する方策として、藻類を育成、増殖する機能と海底に保持するための機能とを分けて考慮し、これらを着脱可能に取り付けられるようにした着脱式の藻類増殖部材が考えられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
藻類増殖部材は、藻類を育成し活着させ得る藻類増殖部材本体と、この藻類増殖部材本体を海底に保持し得る台座部材とを具備するものである。
【0004】
藻類増殖部材の使用方法は次の通りである。まず、藻類増殖部材本体を用いて生育に適した生育ゾーンで藻類を胞子から初期培養し或いは幼芽から中間培養し、藻類がある程度の大きさになるまで生育する。次に、生育した藻類が付着した藻類増殖部材本体を移設し、藻場の造成エリアである海底に設置した台座部材に取り付ける。このようにして使用される藻類増殖部材を海底に複数配置することにより、藻場を造成し得るものである。
【特許文献1】特許第3532865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、海底面には磯焼け現象の原因となる食害を引き起こす貝類やウニ等の植食動物(以下、「植食貝類等」という)が生息し、一定の大きさに生育した藻類を海底に移設しても、植食貝類等が藻類増殖部材本体の上面側に乗り上がり藻類を食べてしまうという不具合が生じていた。
【0006】
この不具合に対しては、植食貝類等の侵入を防御し得るフェンスを藻類増殖部材の周囲に設けるなどの対策が考えられているが、フェンス等の設置には大掛かりな設備や設置作業を必要とするため時間的・コスト的な負担が大きく、海底に複数配置する藻類増殖部材には必ずしも適切な対策とは言えなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、比較的簡易な構成で海底面に生息する植食貝類等の食害を回避するとともに、藻類を育成することができる藻類増殖部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の藻類増殖部材は、藻類を育成し活着させ得る藻類増殖部材本体と、この藻類増殖部材本体を海底に保持し得る台座部材とを具備してなる藻類増殖部材であって、前記藻類増殖部材本体の外周縁近傍と前記台座部材との間に隙間を形成してなるものであることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、藻類増殖部材本体の外周縁近傍と台座部材との間に形成される隙間により、海底に生息する植食貝類等は藻類増殖部材本体に乗り上がることができず、植食貝類等による食害を効果的に回避することができる。しかも、前記藻類増殖部材本体の外周縁近傍と台座部材との間に隙間を形成すれば植食貝類等による食害を回避することができるため、フェンス等の大掛かりな設置を必要とせず、実用性に富んだものとなる。
【0010】
なお、前記隙間は、前記藻類増殖部材本体と前記台座部材との間に、スペーサ部材を介設して形成することができる。
【0011】
また、前記藻類増殖部材本体が、表面に複数の突起部を配してなる薄板状のプレート部材を具備してなるものであれば、藻類が良好に生育及び活着する場を提供することができるとともに、軽量な部材を用いて構成することができるため移設作業等において使い勝手の良いものとなる。
【0012】
前記台座部材は、前記藻類増殖部材本体を海底に保持し得るものであるが、裏面を海底面に取着し得る薄板状の台座プレート部と、この台座プレート部に配設され、前記藻類増殖部材本体と接続し得る本体接続部とを具備してなるものとすることができる。
【0013】
なお、「植食貝類等」とは、具体的には、サザエ、コシダカガンガラ、クボガイ等の貝類、キタムラサキウニ、エゾバフンウニ、ムラサキウニ、バフンウニ、ナガウニ、アカウニ、シラヒゲウニ、ガンガゼ等のウニ類、またはアメフラシやウミウシ等が該当する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、比較的簡易な構成で海底面に生息する植食貝類等の食害を回避することができる藻類増殖部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
本発明の藻類増殖部材Pは、図1〜図5に示すように、藻類(図示せず)を育成し活着させ得る藻類増殖部材本体1と、藻類増殖部材本体1を海底に保持し得る台座部材2と、藻類増殖部材本体1と台座部材2との間に介設され、藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍と台座部材2との間に隙間gを形成し得るスペーサ部材Sとを具備してなる。
【0017】
藻類増殖部材本体1は、表面11Aに複数の突起部である第一突起部111a、第二突起部111b、第三突起部111cを配してなる薄板状のプレート部材11とを具備してなる。
【0018】
プレート部材11は、20cm×6cm程度の平面視上下左右対称の略長方形状をなし、3〜4mm程度の厚みを有する樹脂製のものである。そして、プレート部材11の表面11Aに、藻類の生育段階に合わせて3段階に高さを異ならせた複数の突起部である第一突起部111a、第二突起部111b、第三突起部111cを互いに隣接した状態に配設し、図示しないアラメ、カジメ、クロメ、アカモク、ホンダワラ等の海藻が突起部111a、111b、111cの周辺に活着しやすい構成としている。なお、複数の突起部111a、111b、111cには、アラメ等の藻類の胞子や遊走子等を付着させた図示しない種糸を掛け回して取り付けることができる。
【0019】
第一突起部111aは、プレート部材11の表面11Aを凸の形状をなすように部分的に盛り上げる隆起部であり、前記プレート部材11と一体に形成している。この第一突起部111aは、藻類の根が生える前の生育段階に適した高さをなすものである。なお、本実施形態における第一突起部111aは、プレート部材11の表面11Aからの高さを0.5mm程度、その直径を2mm程度のものとしている。
【0020】
第二突起部111bは、第一突起部111aと同様にプレート部材11の表面11Aを凸の形状をなすように部分的に盛り上げる隆起部であり、前記プレート部材11と一体に形成している。この第二突起部111bは、第一突起部111aより高く形成してなるもので、藻類の根が生え始めた生育段階に適した高さをなすものである。なお、本実施形態における第二突起部111bは、プレート部材11の表面11Aからの高さを3mm程度、その直径を2mm程度としている。
【0021】
第三突起部111cは、第一突起部111aや第二突起部111bと同様にプレート部材11の表面11Aを凸の形状をなすように部分的に盛り上げる隆起部であり、前記プレート部材11と一体に形成している。この第三突起部111cは、第二突起部111bより高く形成してなるもので、藻類の根が延びた生育段階に適した高さをなすものである。本実施形態における第三突起部111cは、プレート部材11の表面11Aからの高さを1.5cm程度、その直径を1cm程度としている。
【0022】
また、プレート部材11の略中央部の位置には、プレート部材11の厚み方向に貫通した14mm程度の幅の挿通孔12を具備してなる。挿通孔12は後述する台座部材2の本体接続部22と接続するためのものであるが、具体的な接続方法等については後述する。
【0023】
プレート部材11は、図示しない種糸を差し込んで固定可能な切欠部13を具備してなる。切欠部13は、プレート部材11の対向する両側端から中央に向かってプレート部材11の一部を長手方向に沿って切り欠いてなるものである。
【0024】
更に、プレート部材11の中央部近傍には、複数の突起部111a、111b、111cを配設しない平面で形成される添接路14を備えている。この添接路14は、藻類育成部材本体1を用いて藻類を中間育成する際に、図示しないロープを添接路14に添接させた状態にし、種々の方法で海中に吊すなどして利用される。なお、前述の挿通孔12は、藻類増殖部材本体1を海中に吊す際には、図示しないロープ等を取り付けるために利用される。
【0025】
台座部材2は、海底の岩場やコンクリート等で形成した人工礁等に配置されるもので、藻類増殖部材本体1を海底Bに保持し得るものである。
【0026】
本実施形態の台座部材2は、図1〜図5に示すように、薄板状の台座プレート部21と、台座プレート部21の表面21Aに配設され藻類増殖部材本体1と接続し得る本体接続部22と、台座プレート部21の表面21Aに配設され藻類増殖部材本体1のプレート部材11の外周縁r近傍と台座部材2の台座プレート部21との間に隙間gを形成し得るスペーサ部材Sとを具備してなる。
【0027】
台座プレート部21は、藻類増殖部材本体1のプレート部材11よりも面積を広くした23cm×10cm程度の平面視上下左右対称の略長方形状をなし、3〜4mm程度の厚みを有する鉄製のものである。
【0028】
ここで台座プレート部21の面積をプレート部材11の面積よりも広いものとしたのは、藻類増殖部材本体1のプレート部材11の外周縁r近傍と台座部材2の台座プレート部21の間に隙間gを確実に形成させ、海底面の起伏によって隙間gが影響を受けるのを避けるためである。
【0029】
台座プレート部21の表面21Aは、本体接続部22やスペーサ部材Sを溶接等により取り付け可能な平面状をなし、台座プレート部21の裏面21Bは、水中用接着剤等を塗布し海底Bの岩場やコンクリート等で形成した人工礁等に取着するのに好適な平面状をなすものである。もちろん台座プレート部21を海底Bに取り付ける方法は種々の態様があり、本実施形態に示したものに限定されるものではない。
【0030】
本体接続部22は、外周面にねじ溝を有する円柱状のボルト部材221と、このボルト部材221に螺合進退可能に取着し得る取付具Xとを具備してなる。ボルト部材221は、台座プレート部21の表面21Aの略中央部の位置に垂直に取着されたものである。また、取付具Xは、樹脂製のもので藻類増殖部材本体1を着脱可能に取付し得るものである。ここで、藻類増殖部材本体1のプレート部材11を台座部材に取付する際は、藻類増殖部材本体1のプレート部材11に設けられた挿通孔12を台座プレート部21のボルト部材221に挿通させた後に、取付具Xにより螺着して固定する。
【0031】
しかして、台座部材2は、藻類増殖部材本体1のプレート部材11の外周縁111近傍と台座部材2の台座プレート部21との間に隙間gを形成し得るスペーサ部材Sを具備したものである。
【0032】
スペーサ部材Sは、鉄等を素材とした横幅15mm〜20mm程度の六角ナット形状の部材であり、台座プレート部21の中央部に取着されたボルト部材221の近傍に藻類増殖部材本体1の安定を考慮して複数配設されたものである。なお、スペーサ部材Sは、藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍よりも、藻類増殖部材本体1の中央部寄りに配設される。また、このスペーサ部材Sの高さ方向の寸法により、藻類増殖部材本体1の外周縁rと台座部材2との間に所定の隙間gが形成される。
【0033】
なお、スペーサ部材Sは、藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍に隙間gを形成し得るものであればどのような部材を用いてもよい。すなわち、スペーサ部材23の、材料、形状等は種々のものを採用することができる。
【0034】
ここで、隙間gとは、藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍と、台座部材2の台座プレート部21の表面21Aとの間に形成されるもので、植食貝類等Mが藻類増殖部材本体1の上面側に移動することを困難にさせ得る空間をいう。
【0035】
隙間gは、所定の幅(高さ方向の長さ)に設定されるものである。例えば、この隙間gが、植食貝類等Mの高さ方向の長さと比較して長いものであると、植食貝類等M(特に貝類が該当し得る)が台座部材2の台座プレート部21の表面21Aを移動してスペーサ部材Sを這い上がり、藻類増殖部材本体1のプレート部材11の裏面11Bを移動して、プレート部材11の上面側に辿り着いてしまう。一方、隙間gが、植食貝類等Mの大きさと比較して短か過ぎるものであると、植食貝類等Mが台座部材2の台座プレート部21から隙間gを乗り越え、藻類増殖部材本体1の上面側に辿り着いてしまうものとなる。
【0036】
すなわち、隙間gは、藻類増殖部材Pの設置海域を考慮して、主たる植食貝類等Mの高さ方向の長さよりも短い長さであり、且つ、植食貝類等Mが藻類増殖部材本体1の上面側に乗り上ることが困難な高さ方向の長さに形成される。
【0037】
具体的に、隙間gの長さは、植食貝類等Mであるサザエ、コシダカガンガラ、クボガイ等の貝類の大きさが1cm〜8cmであることを考慮して、1cm〜8cmの範囲に設定される。
【0038】
また、藻類の根(仮根部)が藻類の成長により伸長した場合に、海底面と接触することができる余地を残しておくためには、隙間gの長さが3cm以下であることが好ましい。
【0039】
したがって、隙間gの長さは、1cm〜3cmの範囲に設定されることがより好ましい。
【0040】
なお、隙間gが形成される場所を、藻類増殖部本体1(プレート部材11)の外周縁r近傍としているのは、植食貝類等Mが藻類増殖部本体1の表面11Aに侵入を試みる場所を考慮したものである。したがって、外周縁r「近傍」とは、藻類増殖部本体1の外周縁rから藻類増殖部材本体1の中央部側の所定領域であって、植食貝類等Mが藻類増殖部材本体1の外周縁rにより移動が制限された場合に、植食貝類等Mが触れることが可能な所定領域をいう。
【0041】
ところで、本実施形態では、スペーサ部材Sが台座部材2の台座プレート部21に取着された形態として説明しているが、スペーサ部材Sは藻類増殖部材本体1の外周縁r近傍と台座部材2との間に隙間gを形成し得るものであればよく、藻類増殖部材本体1のプレート部材11の裏面11Bに取着されたものでも、いずれにも取着されていない独立のものでもよい。すなわち、取付具Xを用いればプレート部材11と台座プレート部21とによってスペーサ部材Sが挟持されるため、スペーサ部材Sを所定位置に固定することが可能である。
【0042】
次に、藻類増殖部材本体1を台座部材2に取り付ける方法について説明する。
【0043】
まず、藻類増殖部材本体1は、図示しない垂下式中間育成システム等の種々の方法により、藻類増殖部材本体1の上に藻類(図示しない)を一定の大きさになるまで育成する。その後、藻類が一定の大きさに成長した後に、藻類増殖部材本体1を移動し、海底の所要箇所に予め設置された台座部材2に取り付けをする。
【0044】
そして、藻類増殖部材本体1のプレート部材11を台座部材に取付する際は、藻類増殖部材本体1のプレート部材11に設けられた挿通孔12を台座プレート部21のボルト部材221に挿通させた後に、取付具Xにより螺着して固定する。本実施形態においては、台座プレート部21の所定箇所にスペーサ部材Sが備えられているので、藻類増殖部材本体1と台座部材2との間には、スペーサ部材Sの高さ方向の長さと略同じ長さの隙間gが形成される。
【0045】
このように、本実施形態に係る藻類増殖部材Pは、比較的簡易な構成で海底面に生息する植食貝類等Mの食害を回避するとともに、藻類を育成することができる藻類増殖部材Pを提供することができる。
【0046】
<変形例>
図6及び図7に示すものは、藻類増殖部材Pの変形例である。なお、図中において、これまでの実施形態のものと同様の部材については同一の符号を付すこととする。
【0047】
図6に示すように、藻類増殖部材Pは、平面視略円形状をなす台座部材2aの台座プレート部22aと接続し、藻類増殖部材本体1及びこの藻類増殖部材本体1に活着する藻類SWを上面を開放した状態で包囲する側面包囲部3を更に具備してなるものである。
【0048】
このような構成を備えたものであれば、側面包囲部3が上面を開放した状態で藻類増殖部材1及びこれに活着した藻類SWを包囲するため、海底面に生息する植食貝類等Mだけでなく植食魚類(図示せず)の侵入をも遮ることができる。しかも、側面包囲部3が上面を開放した状態で藻類増殖部材1及びこれに活着した藻類SWを包囲するため、上面を覆って植食成魚の侵入を防いでいたものと比較して藻類SWに必要な日光が遮られることがなく、藻類SWの成長に支障を来たすことがないものとなる。
【0049】
ここで、「上面を開放した状態」とは、側面包囲部3の上端側に、側面包囲部3により形成された内部空間に日光を十分に取り込み得る開口部33が形成されている状態である。なお、開口部33とは、側面包囲部3に形成された網目や孔の広さよりも広いものであればよい。
【0050】
ところで、側面包囲部3は、藻類増殖部材本体1及びこれに活着した藻類SWを上面を開放した状態で包囲してなるものであるため、側面包囲部3の上端側に形成された開口部33から植食魚類が侵入し、側面包囲部3の内部空間に身を入れて藻類SWを食べてしまうことが懸念されるが、植食魚類の習性上かかる可能性は極めて少ないものである。
【0051】
すなわち、植食魚類は藻類SWが自生している海域において、窪地に成育する藻類を食べ残していることが調査により判明しており、次のような理由が考えられている。
【0052】
まず、植食魚類のうち、藻場の藻類SWを食べ尽くす被害をもたらすものは一定の体長を備えた成魚(以下、「植食成魚」という)であるが、植食成魚は藻類SWを噛み切る力が一般的に弱いため、藻類を食べるためには藻類を銜えた状態で体を大きく前後左右に運動させ藻類SWを引き千切る必要がある。このため、植食成魚の運動領域が制限される場所に身を置いて藻類SWを食べることは困難であると考えられる。
【0053】
次に、植食成魚は常時頭部を下方にした状態を維持して藻類SWを食することが困難であるため、仮に藻類SWの上端部を食されたとしてもその被害は極めて少ないものであると考えられる。
【0054】
したがって、側面包囲部3の開口部33の幅及び側面包囲部3の内部空間の幅が、植食成魚の運動領域を制限し得るものであれば、側面包囲部3が上面を開放した状態であっても、藻類SWが植食成魚に食べられる可能性は極めて少ないものである。
【0055】
なお、ブダイ、アイゴ等に代表される植食成魚の体長が約40cm〜45cmであることを考慮すると、植食成魚の運動領域が制限される側面包囲部3の開口部33の開口端の幅は、50cm以下であることが望ましい。
【0056】
また、側面包囲部3により形成される内部空間の左右幅は、植食成魚の体長及び内部空間で常時揺れ動く藻類の存在を考慮すると、60cm以下であることが望ましい。
【0057】
側面包囲部3は、丸鋼棒等を利用した金属性のフレーム部材を複数配し網目状(格子状)に形成したもので、図6に示す側面包囲部3の全体形状は下端部と上端部の間を若干外側に広げた円筒状のものである。このような形状にすると、内部空間の藻類が側面包囲部3と接触し、藻類SWの側葉等が損傷することを回避し得るものとなる。また、側面包囲部3を網目状に形成したものであるので、側面包囲部3及び台座プレート部22により形成された内部空間に潮通りを許容し、藻類増殖部材本体1及びこれに活着した図示しない藻類に新鮮な海水を供給することができる。さらに、金属性のフレーム部材を配して形成したものであると、軟質の網を用いたものと比較して海中での耐用期間が飛躍的に長くなり実用性に富んだものとなる。
【0058】
詳述すると、側面包囲部3は、水平方向に配設され平面視環状に形成された複数の第一フレーム部材31と、高さ方向に配設され上端部と下端部の間を若干外側に曲げて形成された複数の第二フレーム部材32とを具備してなるものである。側面包囲部3に形成された正面視略矩形状をなす複数の網目の寸法は、植食成魚の通過できない程度の大きさに設定される。具体的には、並設される第一フレーム部材31同士の間隔(高さ方向の間隔)及び第二フレーム部材32同士の間隔(横方向の間隔)が5cm以下であるものが好適である。なお、本実施形態における網目の寸法は、5cm×5cm程度のものとしている。もちろん、網目の寸法は設置海域の植食成魚の大きさ等に対応して適宜調整してもよい。例えば、網目の寸法を台座プレート部22aに近づくにつれて小さくなるように形成すれば、ウニ、巻貝等の植食動物の侵入をも阻害し得るものとなる。また、側面包囲部3は、第一フレーム部材31及び第二フレーム部材32をそれぞれ3〜4本程度用いて円筒状の骨枠を形成し、その側面に網等を包囲してなるものでもよい。
【0059】
側面包囲部3の上端には、開口部33が形成されている。この開口部33の大きさは、植食成魚が侵入を嫌う所定の大きさに形成される。具体的には開口部13の開口端の幅が50cm以下であることが望ましい。これは、ブダイ、アイゴ等に代表される植食成魚の体長が40cm〜45cm程度であり、この植食成魚が藻類を食するために必要とする運動領域を考慮したものである。なお、開口部33の開口端の幅が35cm以上のものであると藻類増殖部材本体1を両手で保持した状態で、側面包囲部3の内部に藻類増殖部材本体1を設置することができるため好適である。したがって、開口部33の開口端の幅は30cm〜40cmに形成してなるものがよく、より好ましくは35cm程度のものである。
【0060】
また、側面包囲部3の高さ方向の寸法は、50cm〜70cmのものが好適であり、より好ましくは60cm程度のものである。これは、藻類増殖部材本体1を手に持って、開口部33から運び入れる人間の作業の便宜を考慮したものである。
【0061】
図7に示すものは、図6に示すものと基本的な構成は変わらないが、台座部材2bの台座プレート部22b及び側面包囲部3bの形状のみが異なる。
【0062】
すなわち、図7に示すものは、台座プレート部22bが平面視略長方形状をなすものであり、側面包囲部3bが開口部13bを平面視略矩形状に形成し、全体形状を略四角筒状に形成してなるものである。その他、図7に示す実施形態の構成及び作用効果等は、図6にて説明したものと同様であるため、説明を省略する。
【0063】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0064】
例えば、藻類増殖部材本体は、藻類を育成し活着させ得るものであればよく、本実施形態に示すものに限定されるものではない。例えば、藻類増殖部材本体の形状は、平面視円状のものでも、多角形状のものでもよい。また、藻類増殖部材本体の厚み方向の長さも本実施形態に示すものに限定されず、種々の厚みのものとすることができる。
【0065】
また、台座部材は、藻類増殖部材本体を海底に保持し得るものであればよく、本実施形態に示すようなプレート状のものの他、海中に存在する岩などを台座として利用することも考えられる。
【0066】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態である藻類増殖部材を示す斜視図。
【図2】本発明の実施形態である藻類増殖部材を示す斜視図。
【図3】本発明の実施形態である藻類増殖部材のA−A断面図。
【図4】本発明の実施形態である台座部材を示す正面図。
【図5】本発明の実施形態である台座部材を示す平面図。
【図6】本発明の変形例である藻類増殖部材を示す斜視図。
【図7】本発明の変形例である藻類増殖部材を示す斜視図。
【符号の説明】
【0068】
1…藻類増殖部材本体
2…台座部材
P…藻類増殖部材
g…隙間
r…外周縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を育成し活着させ得る藻類増殖部材本体と、この藻類増殖部材本体を海底に保持し得る台座部材とを具備してなる藻類増殖部材であって、
前記藻類増殖部材本体の外周縁近傍と前記台座部材との間に隙間を形成してなるものであることを特徴とする藻類増殖部材。
【請求項2】
前記隙間が、前記藻類増殖部材本体と前記台座部材との間に、スペーサ部材を介設し形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の藻類増殖部材。
【請求項3】
前記藻類増殖部材本体が、表面に複数の突起部を配してなる薄板状のプレート部材を具備してなることを特徴とする請求項1又は2記載の藻類増殖部材。
【請求項4】
前記台座部材が、裏面を海底面に取着し得る薄板状の台座プレート部と、この台座プレート部に配設され、前記藻類増殖部材本体と接続し得る本体接続部とを具備してなるものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の藻類増殖部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−95239(P2009−95239A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266508(P2007−266508)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】