説明

蘇生液

脂質ベース蘇生液を用いて血液供給の不足と関係する状態を治療するための方法が開示される。蘇生液は脂質成分および水性担体を含有する。脂質成分は水性担体と乳濁液を形成する。蘇生液は、血圧を上昇させ且つ組織に酸素を運搬するために使用することができる。蘇生液は、移植用のドナー臓器の生物学的完全性を維持するために用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本明細書は、いずれもその全文が参照文献として本明細書に援用される、2007年12月22日出願の米国仮特許出願番号第61/016,443号および2008年3月18日出願の米国仮特許出願番号第61/064,639号の優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
技術分野は医学的治療法であり、より具体的には、血液供給の欠乏に関連する状態の治療を目的とした方法および組成物である。
【背景技術】
【0003】
大量の血液が失われる場合、残った赤血球が身体組織に引き続き酸素を供給できるよう、血漿増量剤によって損失体積をすみやかに置換して循環体積を維持することが極めて重要である。極端な例では、患者に対して十分な組織酸素供給を維持するために、本物の血液または代用血液の注入が必要とされることもある。代用血液は、代用血液が本物の血液と同様に酸素を輸送する能力を有する点で、単純な血漿増量剤と異なる。
【0004】
現在使用される代用血液は、酸素担体としてパーフルオロカーボン(PCF)またはヘモグロビンを用いる。PFCは、炭化水素中の水素原子をフッ素原子で置換することにより、炭化水素より誘導される化合物である。PFCは、比較的高濃度の酸素を溶解することができる。しかし、医学的な用途には高純度のパーフルオロカーボンを必要とする。窒素結合を有する不純物は毒性が高くなることがある。水素を含有する化合物(フッ化水素を放出することがある)および不飽和化合物も除去しなければならない。精製工程は複雑で費用がかかる。
【0005】
ヘモグロビンは、赤血球内にある鉄含有酸素輸送金属タンパク質である。純粋なヘモグロビンは赤血球から分離されるが、しかし、腎毒性を引き起こすため使用することはできない。ヘモグロビンを有用且つ安全な人工酸素輸送担体に変換するために、架橋、重合、及びカプセル封入などの多様な修飾が必要とされる。得られる生成物は、しばしばHBOC(ヘモグロビン酸素輸送担体)と呼ばれ、高価であり且つ有効期限が比較的短い。
【0006】
したがって、血漿増量剤として機能すると共に大量の酸素を輸送することが可能なよりコストが低い蘇生液に対するニーズが未だに存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
血液供給の不足と関係する状態を治療するための方法が開示される。方法は、このような治療を必要とする対象に対し、脂質成分および水性担体を含有する有効量の脂質ベース蘇生液を投与することを含む。脂質成分は水性担体と乳濁液を形成する。
【0008】
また、哺乳類ドナー生体の臓器の生物学的完全性を維持するための方法も開示される。方法は、脂質成分が水性担体と乳濁液を形成する、脂質成分と水性担体を含有する有効量の脂質ベース蘇生液によって臓器を灌流することを含む。
【0009】
また、脂質ベース蘇生液も開示される。蘇生液は酸化した脂質乳濁液および緩衝剤を含有する。
【0010】
また、蘇生キットも開示される。蘇生キットは、脂質成分および水性担体を有する脂質ベース蘇生液および酸化装置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
「発明を実施するための形態」は、同様の番号が同様の要素を示す、以下の図面に言及する。
【0012】
【図1】重度の出血性ショックの後、異なる蘇生液で処置したマウスの収縮期血圧を示す図である。
【図2】重度の出血性ショックの後、異なる蘇生液で処置したマウスの拡張期血圧を示す図である。
【図3】重度の出血性ショックの後、体積の異なる蘇生液で処置したマウスの収縮期血圧を示す図である。
【図4】重度の出血性ショックの後、体積の異なる蘇生液で処置したマウスの拡張期血圧を示す図である。
【図5】重度の出血性ショックの後、アルブミン含有蘇生液で処置したマウスおよび出血した血液で処置したマウスの収縮期血圧の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の1つの態様は、脂質ベース蘇生液を用いて血液供給の不足と関係する状態を治療することを目的とした、蘇生液組成物に関する。蘇生液は脂質成分および極性液状担体を含む。脂質成分は極性液状担体内に分散され、極性の外面および内側の疎水性空隙を有する脂質ミセルを典型的に含有する乳濁液を形成する。蘇生液は、血圧を上昇させ且つ組織に酸素を運搬するために使用することができる。
【0014】
(脂質成分)
脂質成分は、水と乳濁液を形成することのできるあらゆる脂質とすることができる。本明細書で用いるところの用語「脂質」は、脂質材料の疎水性部分が脂質ミセルの内側部分に配向する一方で親水性部分が水相に配向するような、水性環境内で単層または脂質ミセルを生成するのに適したあらゆる材料を指す。親水性はホスファト、カルボン酸、スルファト、アミノ、スルフヒドリル、ニトロなどの基の存在に由来する。疎水性は、長鎖飽和および不飽和脂肪族炭化水素基であり、それらが1つまたはそれ以上の芳香族、脂環式、または複素環基によって置換されてもよい基を含むが、これに限定されない基の包含によってもたらされる。
【0015】
脂質の例は、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)などのリン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール脂質、プレノール脂質、糖脂質(saccharolipids)、ポリケチド、非天然脂質、カチオン脂質およびその混合物などであるが、これに限定されない。1つの実施形態においては、脂質はイントラリピッド(登録商標)(発売および販売元:バクスターインターナショナル社、イリノイ州ディアフィールド)に用いられるような、大豆油および卵黄リン脂質の混合物である。
【0016】
(極性液状担体)
極性液状担体は、脂質と乳濁液を形成することができる、医薬品として許容できるあらゆる極性液状物とすることができる。用語「医薬品として許容できる」は、本発明の組成物または医薬品の製剤化における用途にとって十分な純度および品質であり、且つ動物またはヒトに適切に投与する場合に有害な、アレルギー性の、またはその他の不適当な反応を引き起こさない分子体および組成物を指す。ヒトに対する使用(臨床および店頭販売)および動物に対する使用は、いずれも本発明の範囲に同等に含まれるので、医薬品として許容できる製剤はヒトまたは動物に対する使用のいずれかを目的とした組成物または医薬品を含むであろう。1つの実施形態においては、極性液状担体は水または水性溶液である。他の実施形態においては、極性液状担体はジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコールおよび極性シリコン液などの非水性極性液状物である。
【0017】
水性溶液は、一般に全血と等張な生理学的に適合する電解質担体を含む。担体は、たとえば生理食塩水、生理食塩水−ブドウ糖混液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液、ロック−リンゲル液、クレブス−リンゲル液、ハルトマンの調節生理食塩液、ヘパリン化クエン酸ナトリウム−クエン酸−デキストロース溶液、およびポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびエチレンオキシド−プロピレングリコール縮合体などの高分子代用血漿としてもよい。蘇生液は、当業者の決定および医薬品として許容できる担体、希釈剤、充填剤および塩の性質に応じて、その選択が利用する剤型、治療する状態、達成すべき特定の目的によって異なるそれらの添加剤などの他の成分をさらに含んでもよい。
【0018】
(血漿成分)
蘇生液は血漿成分をさらに含んでもよい。1つの実施形態においては、血漿は動物血漿である。他の実施形態においては、血漿はヒト血漿である。何らかの科学的理論と関連付けることは意図しないものの、代用血液の投与によって凝固因子の濃度が望ましくないレベルにまで希釈されることがあると考えられる。したがって、血漿を酸素輸送組成物の希釈剤として用いれば、この問題が回避される。血漿は、赤血球、白血球および血小板がほぼ除去されていれば、技術上既知であるあらゆる手段で採取することができる。好ましくは、自動化血漿泳動装置を用いて得られる。血漿泳動装置は市販されており、たとえば限外濾過または遠心分離によって血液より血漿を分離する装置を含む。AutoC,A200(バクスターインターナショナル社、イリノイ州ディアフィールド)が製造するような限外濾過による血漿泳動装置は、凝固因子を保持しながら赤血球、白血球および血小板を効率よく除去するので適切である。
【0019】
血漿は、その多くが技術上既知である抗凝固剤と共に採取してもよい。好ましい抗凝固剤は、クエン酸塩などカルシウムをキレートするものである。1つの実施形態においては、クエン酸ナトリウムは最終濃度0.2〜0.5%、好ましくは0.3〜0.4%および最も好ましくは0.38%で抗凝固剤として用いられる。血漿は新鮮であっても、凍結、プールおよび/または滅菌されていてもよい。体外採取源由来の血漿が好ましい一方で、蘇生液の製剤化および投与の前に対象より採取した自己由来血漿を用いることも本発明の範囲内である。
【0020】
天然採取源からの血漿に加えて、合成血漿を用いることもできる。本明細書で用いるところの用語「合成血漿」は、少なくとも等張であり且つ少なくとも1つの血漿タンパク質をさらに含有するあらゆる水溶液を指す。
【0021】
(膨張剤)
1つの実施形態において、蘇生液はさらに膨張剤を含む。膨張剤は、毛細血管床の開窓を通過して、これが循環から身体組織の間質腔内に損失することを防止するのに十分な大きさを有する分子より構成される。膨張剤の例は、ヒト血清アルブミンなどのアルブミン、デキストランなどのポリサックリド、およびヒドロキシメチルα−(1,4)または(1,6)重合体、Herastarch(登録商標)(McGaw社)およびシクロデキストリンなどのポリサッカライド誘導体を含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、膨張剤は約5%(w/v)アルブミンである。他の実施形態においては、膨張剤はデキストランなどの分子量の範囲が30,000から50,000ドルトン(D)の多糖類である。さらに他の実施形態においては、膨張剤はデキストランなどの分子量の範囲が50,000から70,000Dである多糖類である。高分子量デキストラン溶液は、その毛細血管からの漏出率が低いので、組織の腫脹を予防する効果がより高い。1つの実施形態においては、多糖類の濃度は(ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの塩化物塩、有機ナトリウム塩由来の有機イオンおよび上記で論じたヘキソース糖と共に考慮する時)正常なヒト血清に近いコロイド浸透圧約28mmHgを達成するために十分である。
【0022】
(晶質剤)
蘇生液はさらに晶質剤を含むこともある。晶質剤は、蘇生液組成物の形態において、好ましくは800mOsm/Lよりも大きなオスモル濃度を達成することが可能であるあらゆる晶質剤とすることができ、すなわち蘇生液を「高張」とする。適切な晶質剤の例およびその蘇生液中の濃度は、6%w/vデキストラン中NaCl3%w/v、NaCl7%、NaCl7.5%およびNaCl7.5%を含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、蘇生液は800と2400mOsm/Lの間のオスモル濃度を有する。
【0023】
蘇生液がさらに晶質を含み高張である場合、蘇生液は、コロイド成分を含む、他の代用血液組成物を上回る、血行動態パラメータを迅速に回復するための改善された機能を提供することもある。少量の高浸透圧の晶質剤の注入(例:1〜10mL/kg)により、出血の抑制において許容できる血行動態パラメータを迅速且つ持続的に回復する際に大きな利益が提供される。(たとえば、Winslow,R.M.,K.D.VandegriffおよびM.Intaglietta,eds.Advances in Blood Substitutes. Industrial Opportunities and Medical Challenges.Boston,Birkhauser(1997),71−85のPrzybelski,R.J.,E.K.DailyおよびM.L.Birnbaum,“The pressor effect of hemoglobin−good or bad?”を参照されたい。)他の実施形態においては、使用される脂質乳濁剤はイントラリピッド(登録商標)である。他の実施形態においては、使用される脂質乳濁剤は20%イントラリピッド(登録商標)である。1つの実施形態においては、脂質はω−3脂肪酸などの抗炎症性脂質を含む。
【0024】
(イオン濃度)
1つの実施形態においては、本発明の蘇生液は血漿中におけるカルシウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカリウムイオンの正常な生理学的濃度の範囲内にある濃度の前記イオンを含む。一般に、これらのイオンの所望の濃度は溶解したカルシウム、ナトリウムおよびマグネシウムの塩化物塩より得られる。ナトリウムイオンは、これも溶液中に存在する溶解したナトリウムの有機塩からももたらされる。
【0025】
1つの実施形態においては、ナトリウムイオン濃度は70mMから約160mMの範囲内である。他の実施形態においては、ナトリウムイオン濃度は約130から150mMの範囲内である。
【0026】
1つの実施形態においては、カルシウムイオン濃度は約0.5mMから4.0mMの範囲内である。他の実施形態においては、カルシウムイオン濃度は約2.0mMから2.5mMの範囲内である。
【0027】
1つの実施形態においては、マグネシウムイオン濃度は0mMから10mMの範囲内である。他の実施形態においては、マグネシウムイオン濃度は約0.3mMから0.45mMの範囲内である。高マグネシウムイオン濃度は心収縮活動の強度に好ましくない影響を与えるので、本発明の蘇生液に過量のマグネシウムを含まないことが最良である。本発明の好ましい実施形態においては、溶液は生理学的な量を下回るマグネシウムイオンを含有する。
【0028】
1つの実施形態においては、カリウムイオンの濃度は生理学的な量を下回る範囲の0〜5mEq/LK(0〜5mM)、好ましくは2〜3mEq/LK(2〜3mM)である。したがって、蘇生液は貯蔵された輸血用血液中のカリウムイオン濃度の希釈を考慮に入れている。その結果、高濃度のカリウムイオンおよびそれによって引き起こされる可能性のある心不整脈および心不全は、より容易に抑制することができる。生理学的量を下回るカリウムを含有する蘇生液は、血液の代用および対象の低温維持の目的にとっても有用である。
【0029】
1つの実施形態においては、塩化物イオン濃度は70mMから160mMの範囲内である。他の実施形態においては、塩化物イオン濃度は110mMから125mMの範囲内である。
【0030】
(炭水化物)
蘇生液は炭水化物または炭水化物の混合物を含有することもある。適切な炭水化物は、単純なヘキソース(例:ブドウ糖、果糖およびガラクトース)、マンニトール、ソルビトールまたは技術上既知な他のものを含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、蘇生液はさらに生理学的レベルのヘキソースを含む。「生理学的レベルのヘキソース」は約2mMから50mMのヘキソース濃度を含む。1つの実施形態においては、蘇生液はグルコース5mMを含有する。時として、対象の組織の液体保持を低下させるためにヘキソースの濃度を高めることが望ましい。したがって、ヘキソースの範囲は必要であれば50mMまで拡大して、投与を受ける対象の腫脹を予防または制限することもある。
【0031】
(緩衝剤)
本発明の蘇生液は、液のpHを生理学的範囲であるpH7〜8に維持するために、さらに生物学的緩衝剤を含んでもよい。生物学的緩衝剤の例は、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2−([2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ)エタンスルホン酸(TES)、3−[N−トリス(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−2−ヒドロキシエチル]−1−ピペラジンプロパンスルホン酸(EPPS)、トリス[ヒドロキシメチル]−アミノエタン(THAM)、およびトリス[ヒドロキシメチル]メチルアミノメタン(TRIS)を含むが、これに限定されない。
【0032】
1つの実施形態においては、緩衝剤はヒスチジン、イミダゾール、イミダゾール環の両性部位を保持した置換ヒスチジンまたはイミダゾール化合物、ヒスチジンを含有するオリゴペプチドまたはその混合物である。ヒスチジンは反応性酸素種を還元することができる(例:Simpkins他:J Trauma.2007,63:565−572を参照されたい)。ヒスチジンまたはイミダゾールは、典型的には約0.01Mから0.5Mの濃度範囲で用いられる。
【0033】
他の実施形態においては、本発明の蘇生液はin vivoで生物学的pHを維持するために通常の生物学的成分を用いる。簡潔に言うと、乳酸などの一部の生物学的成分は、動物においてin vivoで代謝を受けることができ、且つ他の生物学的成分と共に作用して生物学的に適切なpHを維持する。生物学的成分は、低体温で且つ血液がほとんどない条件でも生物学的に適切なpHを維持する際に有効である。通常の生物学的成分の例はカルボン酸、その塩およびエステルを含むが、これに限定されない。カルボン酸は一般構造式RCOOXを有し、式中Rは炭素が置換されてもよい1〜30個の炭素を含む分枝または直鎖のアルキル、アルケニルまたはアリールであり、且つXは水素またはナトリウムまたは酸素位に結合することができる他の生物学的に適合するイオン置換基、またはたとえば−CH、−CHCHなどの1〜4個の炭素を含む短い直鎖または分枝アルキルである。カルボン酸およびカルボン酸塩の例は、乳酸および乳酸ナトリウム、クエン酸およびクエン酸ナトリウム、グルコン酸およびグルコン酸ナトリウム、ピルビン酸およびピルビン酸ナトリウム、コハク酸およびコハク酸ナトリウム、および酢酸および酢酸ナトリウムであるが、これに限定されない。
【0034】
(その他の成分)
蘇生液は、上で論じた成分に加えて、さらに抗生物質、ビタミン、アミノ酸、アルコールおよびポリアルコールなどの血管拡張剤、界面活性剤および腫瘍壊死因子(TNF)またはインターロイキンなどの有害なサイトカインに対する抗体などの他の添加剤をさらに含むことがある。さらに、血圧制御因子である硫化水素、または虚血再灌流傷害などの病的状態の発生を予防するために用いることができる細胞保護的性質を有する一酸化炭素などの他のガスを添加することもある。
【0035】
(蘇生液の調製)
蘇生液は脂質成分、水性担体および他の成分を混合して乳濁液を形成することにより調製することもある。一般的に用いられる混合法は、攪拌、振とう、振動および超音波処理を含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、蘇生液はイントラリピッド(登録商標)などの事前に形成された脂質乳濁液を水性担体および他の成分と混合することにより生成する。
【0036】
蘇生液の酸素含有量を高めるために、純酸素または酸素含有量が21%から100%(v/v)、好ましくは40%から100%(v/v)、より好ましくは60%から100%(v/v)、また最も好ましくは80%から100%(v/v)の範囲のガスを30秒またはそれ以上、好ましくは1〜15分、より好ましくは1〜5分間蘇生液に通気することによって蘇生液を酸化することもある。特定の組成の蘇生液の酸化時間は、実験によって決定することもある。1つの実施形態においては、蘇生液は適用の直前に酸化する。
【0037】
1つの実施形態においては、蘇生液は酸化脂質乳濁液を含む。本明細書で用いるところの用語「酸化脂質乳濁液」または「酸化蘇生液」は、そこに含まれる総酸素濃度が大気平衡条件において同液に存在する濃度よりも大きくなるよう酸素を吸収させた、特定の種類のガス化脂質乳濁液またはガス化蘇生液を指す。
【0038】
(キット)
本発明の他の態様は蘇生キットに関する。1つの実施形態においては、蘇生キットは酸化蘇生液および少なくとも1つの添加剤を含む。添加剤の例は、膨張剤、晶質剤、血管拡張剤、心停止剤または強心剤、フリーラジカルまたはメディエータの捕捉剤、細胞シグナリングモジュレーター、および受容体刺激剤または拮抗剤を含むが、これに限定されない。他の実験においては、キットはさらに静脈内注入(IV)セットを含む。他の実施形態においては、酸化蘇生液は緊急適用を目的とした1つまたはそれ以上の事前装填シリンジに収容される。他の実施形態においては、キットは適用の直前に蘇生液を再酸化するために使用することができる酸素容器をさらに含む。酸素容器は純酸素を含んでも、または硫化水素または一酸化炭素またはその両者と酸素の混合ガスを含んでもよい。他の実施形態においては、キットは蘇生液、および適用の直前に周囲空気によって蘇生液を酸化するためのエアーポンプを含む。
【0039】
(治療法)
本発明の他の態様は、脂質ベース蘇生液を用いた血液供給の不足と関係する状態の治療を目的とした方法に関する。血液供給の不足と関係する状態は、血液量減少、虚血、血液希釈、外傷、敗血性ショック、癌、貧血、心臓麻痺、低酸素症および臓器灌流を含むが、これに限定されない。本明細書で用いるところの用語「血液量減少」は、体内を循環する体液(血液または血漿)の量の異常な減少を指す。この状態は「出血」、すなわち血管からの血液の脱出によって起こることがある。本明細書で用いるところの用語「虚血」は、通常は血管が機能的に狭窄または実際に閉塞することによって引き起こされる、身体の一部における血液の欠乏を指す。
【0040】
蘇生液は、このような治療を必要とする対象に対して静脈内または動脈内投与することがある。蘇生液の投与は、蘇生液の使用の目的に応じて数分間から数時間行うことができる。たとえば、重度の出血性ショックの治療を目的として血液増量剤および酸素運搬剤として用いる場合、通常は投与の時間経過をできるだけ迅速にし、その範囲は約1mL/kg/時間から約15mL/kg/分となることがある。
【0041】
臓器移植時の臓器灌流に用いる場合、蘇生液は数時間にわたってゆっくり投与することがある。
【0042】
本発明の蘇生液が投与され、対象の中を循環している間に、心停止剤または強心剤などの多様な薬剤を対象の循環系に直接投与するか、対象の心筋に直接投与するか、または本発明の蘇生液に添加することがある。これらの組成物は、規則的な心筋収縮活動を維持する、心筋細動を停止させる、または心筋または心臓の筋肉の収縮活動を完全に阻害するなどといった所望の生理学的効果を達成するために添加される。
【0043】
心停止剤は、心筋収縮の停止を引き起こす物質であり、リドカイン、プロカインおよびノボカインなどの麻酔剤、および心筋収縮の阻害を達成するのに十分な濃度のカリウムイオンなどの1価イオンを含む。この効果を達成するために十分なカリウムイオンの濃度は、一般に15mM超である。
【0044】
対象の蘇生中、記載した蘇生液を対象から貯血または献血者より入手した血液と混合して対象に再注入してもよい。全血は、対象が許容できるヘマトクリット値、通常は約30%を上回るヘマトクリット値を達成するまで注入する。許容できるヘマトクリット値が達成されたならば、注入を中止し、さらに従来の手技を用いて手術創を閉鎖した後、対象を蘇生させる。
【0045】
本発明の他の態様は、記載の蘇生液を用いて、哺乳類ドナー生体に由来する臓器の生物学的完全性を維持する方法に関する。1つの実施形態においては、対象臓器を冷却し、遠心式ポンプ、ローラーポンプ、蠕動ポンプまたは他の既知で入手可能な循環ポンプなどのポンプ式循環装置を用いて、蘇生液を対象臓器に灌流させる。循環装置は、適切な静脈および動脈に外科的に挿入されたカニューレを経て対象臓器に接続される。蘇生液を冷却した対象臓器に投与する場合は、一般的には動脈カニューレを経て投与され、静脈カニューレを経て対象より取出され、廃棄または保存される。
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、本発明の方法を遂行する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するよう提案され、且つ本発明の範囲を制限することを意図していない。使用する数値(例:量、温度など)については正確さを確保するよう努力しているが、多少の実験的誤差および逸脱は考慮に入れる必要がある。特に明示しない限り、割合は重量に対する割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0047】
(実施例1:材料と方法)
(脂質乳濁液)
20%イントラリピッド(発売および販売元:バクスターインターナショナル社、イリノイ州ディアフィールド)をモデル脂質乳濁液として用いた。これは大豆油20%、卵黄リン脂質1.2%、グリセリン2.25%、水およびpHを8に調節するための塩酸より構成される。
【0048】
(イントラリピッドの酸素含有量の測定)
溶解ガス分析の前に、蒸留水、乳酸加リンゲル液(RL)およびイントラリピッド(20%)(各1mL)のサンプルを2.0mL試験管に入れ、蓋をせずに30分間空気にふれさせた。これらの液体より体積50μLずつを抜き取り、1M HCl32mLおよび0.5Mアスコルビン酸4mLよりなる弱酸性の溶液36mLの入った37℃のSieversパージ容器にインジェクションする。溶液を高純度ヘリウムで連続的にパージし、サンプルより放出される酸素を全て質量分析装置(HP5975)に送って直接ガス分析を実施する。RLおよび脂質乳濁液サンプルをインジェクションした時にm/z=32で生成するシグナルを、Peakfitを用いて積分し、蒸留水より得られた値と比較する。
【0049】
(動物および動物手技)
体重27〜47gの雄性および雌性マウスを使用した。系統はCD−1またはNFR2であった。全ての比較には同じ系統を用いた。マウスはケタミン/キシラジン麻酔薬の皮下投与を用いて麻酔した。麻酔薬の心筋抑制効果によるデータのゆがみを防止するために、算出した用量よりも多くの麻酔薬が必要とされるまれな場合には実験を中止し、マウスを安楽死させた。マウスが十分麻酔されたことが明らかとなったならば、頸動脈にカニューレを挿入する。1分間でできるだけ多くの血液を抜き取る。これにより血液量の55%が損失し、注入を行わない場合の致死率は100%となった。血液を抜き取った直後、点滴薬を1分間かけて投与した。
【0050】
抜き取った血液の量と等しい体積のRLまたはイントラリピッドのいずれかを投与した。Columbus Instruments(オハイオ州コロンバス)製のBP−2モニターを用いて、頸動脈で血圧を測定した。このモニターは血圧を電圧として測定する。検量線を作成した。以下の式を用いて、測定した電圧を血圧(BP)に変換した。
BP=[電圧−0.1006]/0.0107
【0051】
マウスに対して加温処置は実施しなかった。呼吸維持のための処置は実施しなかった。
【0052】
(統計分析)
対応のないStudentのt−検定を用いてデータを分析した。
【0053】
(実施例2:蘇生液の酸素含有量)
イントラリピッド(登録商標)20%I.V.脂肪乳濁液(発売および販売元:バクスターインターナショナル社、イリノイ州ディアフィールド)をサンプル蘇生液として用いた(RF)。イントラリピッド(登録商標)の組成は、大豆油20%、卵黄リン脂質1.2%、グリセリン2.25%、水およびpHを8に調節するための塩酸である。質量分析法を用いてRF中の酸素含有量を測定した。表Iに示すように、RFの酸素含有量は、大量の血液が失われた場合に注入される標準的な蘇生液である乳酸加リンゲル液(RL)のほぼ2倍であった。RLの酸素含有量は水と同等であった。表IIに示すように、約1分間酸素を通気することにより、RFの酸素含有量は5倍増加した。酸素装填後、RFの酸素含有量は最小許容ヘモグロビンレベル(すなわち7.0g/dL)を有する血液に十分匹敵した。表IIIは、高脂質含有量のRFにおけるその理論的酸素含有量を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
(実施例3:重度出血ショックを有するマウスの動脈圧の回復における蘇生液の効果)
実施例2のRFの血圧に対する効果をマウスで判定した。マウスは麻酔し、頸動脈にカニューレを挿入した。頸動脈より抜き取ることが可能な量の血液を全て抜き取った。血液を抜き取った後、抜き取った血液の量と等しい体積のRLまたはRFを投与した。RF群のマウスは6匹、RL群のマウスは6匹であった。観察時間は1時間であった。RLを投与されたマウスは、2匹が10分以内に死亡した。RFを投与されたマウスは、全て1〜4時間後に屠殺されるまで全観察時間を通じて生存した。動物は、麻酔から覚醒し始めた場合は常に、または観察時間が終了した時に屠殺して苦痛を予防した。
【0058】
図1および2は、出血後と、RLまたはRFの注入後の時間=0、30および60分における収縮期血圧(Systolic Blood Pressure)(図1)および拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure)(図2)の差を示す。Y軸は、注入後に達した血圧−出血後の血圧をmmHg単位で示す。X軸は投与(蘇生)後の各時間(Time after the resuscitation)を示す。全てのデータは、対応のない両側t−検定を用いて統計的有意性について分析した。これらのグラフは、RFによる血圧上昇がRLよりも高いことを示す。
【0059】
他の実験においては、抜き取った血液量の2倍体積のRFを投与した。これによって、図3および4に示すように、血圧の上昇がさらに高くなった。グラフの点は6匹のマウスの平均±標準偏差を表す。Y軸は、RFを1×血液体積(菱形)または2×血液体積(四角)で注入した後の収縮期(図3)および拡張期(図4)血圧−出血前の血圧初期値の差をmmHg単位で示したものである。したがって、この方法の下で0は出血前の実験開始時の血圧を表す。X軸は投与後の各時間を示す。2×血液体積による血圧上昇は、1×血液体積の注入後に到達した血圧よりも高かった(p<0.01)。さらに、2×抜き取った血液の体積の注入後に達成した血圧は、出血後にあった血圧を上回った。
【0060】
他の実験においては、アルブミン(シグマアルドリッチ、純度99%、無脂肪酸、グロブリンをほとんど含まない、カタログ番号A3782−5G)をイントラリピッド(登録商標)20%に溶解して最終濃度を50mg/mLとすることにより、イントラリピッド(登録商標)20%およびアルブミン5%(w/v)を含有する蘇生液を調製した。新たなアルブミン含有蘇生液(RFA)を、上記の実験手順により試験した。生理食塩水(NSA)および乳酸加リンゲル液(RLA)に50mg/mLとして溶解したアルブミン、さらには出血した血液(すなわちマウスから抜き取った血液:Shed blood)を対照として用いた。図5では、Y軸は多様な液の注入により達成された出血前の収縮期血圧の割合を示す。X軸は投与後の各時間を示す。データより、RFAは血圧の維持において出血した血液に対しても優れていた。拡張期血圧についても同様の結果が得られた(示さず)。各測定時について、6〜7匹のマウスの平均値をプロットした。5,15および30分後の出血した血液とRFAの差は統計的に有意であった(p<0.05)。
【0061】
これらの実験結果は、蘇生液中の脂質ミセルは浸透圧力を発揮し、かつプロスタグランジン、一酸化窒素、ロイコトリエンおよび血小板活性化因子などの血管強度のメディエータを吸収することができるという事実と一致する。
【0062】
本明細書で用いた用語および説明は、例示の手段によってのみ説明され、制限を意味することはない。当業者は、特に示さない限りその中で全ての用語がその考えられる最も広い意味で理解されるべきである、以下の請求項およびその同等物に定義する本発明の趣旨および範囲の中で、多くの変法が可能であることを認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物対象における血液供給の不足と関係する状態の治療方法であって、そのような治療を必要とする該対象に脂質成分と水性担体を含む有効量の脂質ベース蘇生液を投与することを含み、前記脂質成分が前記水性担体と乳濁液を形成する、前記方法。
【請求項2】
前記の血液供給の不足と関係する状態が血液量減少および虚血を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蘇生液が血漿成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記血漿成分がアルブミンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルブミンが約5%(w/v)の最終濃度を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記の蘇生液が膨張剤、クリスタロイド剤、緩衝剤、炭水化物、塩、ビタミン、抗体および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記蘇生液が緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記緩衝剤がヒスチジンを0.01Mと0.2Mの間の濃度で含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記対象に対する投与の前に前記脂質ベース蘇生液を酸化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記脂質ベース蘇生液に酸素含有ガスを1から5分間通気することにより前記脂質ベース蘇生液が酸化される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記脂質ベース蘇生液に酸素90%〜100%(v/v)を含むガスを約1分間通気することにより前記脂質ベース蘇生液が酸化される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記蘇生液が静脈内または動脈内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
哺乳類ドナー生体の臓器の生物学的完全性を維持するための方法であって、脂質成分と水性担体を含む有効量の脂質ベース蘇生液によって哺乳類ドナー生体の臓器を灌流することを含み、前記脂質成分が前記水性担体と乳濁液を形成する、前記方法。
【請求項14】
灌流の前に前記脂質ベース蘇生液を酸化することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
酸化脂質乳濁液、および
緩衝剤を含む脂質ベース蘇生液。
【請求項16】
血漿成分をさらに含む、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項17】
前記脂質乳濁液が精製大豆油20%(w/v)、精製卵黄リン脂質1.2%(w/v)、および無水グリセロール22%(w/v)を含み、且つ前記血漿成分がアルブミン約5%(w/v)である、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項18】
前記緩衝剤がヒスチジンを含む、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項19】
膨張剤、クリスタロイド剤、緩衝剤、炭水化物、塩、ビタミン、抗体および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項20】
ヒスチジンを0.01Mと0.2Mの間の濃度でさらに含む、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項21】
硫化水素または一酸化炭素をさらに含む、請求項15に記載の蘇生液。
【請求項22】
脂質成分および水性担体を含む脂質ベース蘇生液、および
酸化装置を含む蘇生キット。
【請求項23】
前記酸化装置が酸化ガスを収容する容器である、請求項22に記載の蘇生キット。
【請求項24】
前記酸化ガスが酸素90〜100%(v/v)を含む、請求項23に記載の蘇生キット。
【請求項25】
前記酸化ガスが酸素、硫化水素および一酸化炭素の混合物を含む、請求項23に記載の蘇生キット。
【請求項26】
前記脂質ベース蘇生液が精製大豆油20%(w/v)、精製卵黄リン脂質1.2%(w/v)、および無水グリセロール22%(w/v)を含む脂質乳濁液を含む、請求項22に記載の蘇生キット。
【請求項27】
前記脂質ベース蘇生液がアルブミン約5%(w/v)をさらに含む、請求項26に記載の蘇生キット。
【請求項28】
前記酸化装置がエアーポンプを含む、請求項22に記載の蘇生キット。
【請求項29】
静脈内注入(IV)セットをさらに含む、請求項22に記載の蘇生キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−507844(P2011−507844A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539463(P2010−539463)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/013781
【国際公開番号】WO2009/082449
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510172734)
【Fターム(参考)】