説明

虚弱を治療する方法

特に60歳以上の高齢患者における虚弱の治療または予防方法が開示されている。この方法は、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の組合せの同時非経口投与を提供する。好ましい組合せは、デカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロール(ビタミンD3)を含む。さらに好ましいことに、本発明は、入院を経験したまたは外科手術を受けた虚弱高齢者が、自立を維持し、自身の規則正しい身体的および精神的な活動を取り戻すように援助するための回復支援を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢患者における虚弱の治療方法に関する。本発明はまた、そのような方法に使用するための医薬組成物に関する。本発明は特に、虚弱高齢者のための回復支援(recovery booster)療法に関する。
【背景技術】
【0002】
虚弱は、意図しない体重減少による低体重、極度の疲労、衰弱、歩行緩慢および身体活動の低下などの症状を伴う臨床的な症候群である。虚弱は、複数の生理学系にわたる衰退が蓄積することにより、ストレッサーに対する予備力および抵抗力が減少し、それにより有害転帰に対する脆弱性をもたらすことを特徴とする。これらにインスリン抵抗性の増加、メタボリックシンドロームおよび骨粗鬆症も加わる。
【0003】
この複雑な老年症候群の広く使用されている定義は、Fried他(2001) J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56:M146〜M156頁によって提唱されているように、5つの明確な特徴の評価に基づいている。以下の5つの特徴:過去1年以内の意図しない体重減少;握力の衰弱;持久力の不足/極度の疲労;緩慢;および身体活動レベルの低下のうちの少なくとも3つを有する場合、個体は虚弱であるとみなされる。
【0004】
虚弱は、IL-6、CRP、25-OH-ビタミン-D、IGF-1、D-ダイマーなどのバイオマーカーの変化に関連付けられており、高齢者において特に顕著である。本発明の状況において、高齢者は、特に60歳以上であり、されに特定すると65歳以上である。
【0005】
虚弱は、効果的なタンパク質代謝の緩徐な低下に関連している。次には、このことが代謝率に影響を及ぼし、以上に言及されているような症候群に至る。
【0006】
虚弱の主要な面は、虚弱が筋肉量および筋力に影響を及ぼし、これによって転倒の発生率が増加し、関連する骨折などの外傷および運動障害を招くことである。筋肉量に関連した免疫低下とともに、治癒率の減少および精神機能低下、これが自立の喪失につながる。
【0007】
現在のところ、虚弱の治療のための治療法は、具体的に表明されていない。種々の治療が個々の虚弱症状に及ぼす影響に関して、ある臨床研究が行われている。これは、例えば、当業者にはよく知られている、タンパク同化ステロイドが筋肉量に及ぼす影響を含む。
【0008】
タンパク同化ステロイドであるオキサンドロロンが高齢男性における筋肉量に及ぼす影響に関する参考文献は、Schroeder他 2005 J Gerontol A Biol Sci Med Sci 60:1586〜1592頁である。
【0009】
カルシトリオール欠乏のマーカーである25-OH-ビタミン-Dの低い血清中濃度は、高齢者によく見られ、虚弱症状の発症を伴うことが見出されている。
【0010】
ビタミンD療法を主張する参考文献は、CampbellおよびSzoeke, Journal of Pharmacy Practice and Research, vol.39, no.2, 2009年6月, 147〜151頁であり、これは、高齢者における虚弱の薬理学的代替治療の概要を提供している。そのような治療の1つは、ビタミンDを用いるものであり、ビタミンDが骨、筋肉および平衡性に及ぼす影響に関して言及されている。そのような治療のもう1つは、タンパク同化ホルモンを用いるものであるが、この治療は、虚弱高齢者において明らかな利益を有さないと言われている。
【0011】
高齢者における虚弱症候群を治療するための新しい療法に関する参考文献は、Cherniack他, Alternative Medicine Review Volume 12, Number 3 2007, 246〜258頁である。ここでは、焦点は、例えばビタミン、カロテノイド、クレアチン、DHEAまたはベータ-ヒドロキシ-ベータ-メチルブチレートを用いた栄養補給および運動様式(太極拳および丸石ウォーキング)に向けられている。ビタミンDでの補給は、虚弱症候群の要素を緩和するための将来有望な手段といわれている。また、高齢者において高い頻度で起こるビタミンD欠乏症に関して、ビタミンDの補給は、虚弱を予防し得ると仮定されている。
【0012】
股関節骨折から回復期にある女性を対象とした、デカン酸ナンドロロン、経口コレカルシフェロール(ビタミンD3)およびカルシウム補給での併用治療は、BMD、筋肉量および歩行スコアを改善することが示された(Hedstrom他 J Bone Joint Surg Br 2002; 84: 497〜503頁)。この文書は、虚弱を扱ったものではない。さらに、対象は自立した生活をしており、23という平均BMI状態を有していたことから、この研究の対象は虚弱ではないことが示唆された。この研究は、ビタミンDをタンパク同化ステロイドと併せて与えているが、例えば、上記のCampbell他の参考文献以外の開示は、骨に関連したビタミンDの役割ならびに骨および筋肉に関連したタンパク同化ステロイドの役割を強調することに、従来の知恵を反映している。
【0013】
病態生理学が発展し、関連する医療費が増加する道程を考慮すると、虚弱症状の効果的な治療は、真の満たされていない医療の必要性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Fried他 (2001) J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56:M146〜M156頁
【非特許文献2】Schroeder他 2005 J Gerontol A Biol Sci Med Sci 60:1586〜1592頁
【非特許文献3】CampbellおよびSzoeke, Journal of Pharmacy Practice and Research, vol.39, no.2, 2009年6月, 147〜151頁
【非特許文献4】Cherniack他, Alternative Medicine Review Volume 12, Number 3 2007, 246〜258頁
【非特許文献5】Hedstrom他 J Bone Joint Surg Br 2002; 84: 497〜503頁
【非特許文献6】A.T. Kicman, British Journal of Pharmacology (2008) 154, 502〜521頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
虚弱症状の緩和および予防において、より多くの症状を、同時に治療または予防することができることが望まれている。虚弱の治療において、その状態を実際に治療し、特に、高齢患者にとって好ましい臨床的エンドポイントである機能的な能力の向上および自立を目指す単独療法を施すことが望まれている。虚弱の典型的な結果は、患者が衰退の下方スパイラルに陥りやすく、ほとんど必然的に長期介護施設への入所へ向かうというものである。本来ならば必然的なさらなる衰退を予防し逆行させ、患者がより長い期間、自立した生活をすることができることが望まれている。これは、入院後の回復期にある患者にとって、特に危機的である。入院は、虚弱高齢者において高い頻度で転機となり、自立を維持する(ならびに身体的および精神的な活動を取り戻し、健康を改善へと導く)よりもむしろ、ナーシングホームでの長期滞在(およびさらなる衰退)につながるためである。したがって、医学的介入が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の所望内容のうちの1つまたは複数により良く対処するために、本発明は、一態様において、有効量のタンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の組合せの同時非経口投与を含む、特に60歳以上の高齢患者における虚弱の治療または予防方法である。
【0017】
別の態様において、本発明は、有効量のタンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の同時非経口投与を含む、特に60歳以上の高齢患者における虚弱の治療に使用するための、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物を含む組成物を提供する。
【0018】
その上さらなる態様において、本発明は、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物を、非経口投与に適した担体液体中に含む医薬組成物である。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物を非経口投与に適した担体液体中に含む液剤の筋肉内投与のための注射デバイスを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ヒト骨格筋細胞(衛星細胞)、バッチhSkMC2において、ナンドロロンおよび/またはDHVD3での処理から5日後に、アンドロゲン(AR)受容体発現が陽性である細胞の百分率の変化に及ぼす、ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(DHVD3)の影響を示す棒グラフである。テストステロンは、参照として使用された。
【図2】図1に同じく、ビタミンD受容体(VD3R)発現陽性に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【図3】(a)および(b)は、ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(DHVD3)の2種の濃度の、単独およびそれらの組合せが、筋肉量の尺度として使用されるヒト骨格筋細胞(バッチhSkMC1および2)の増殖に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、虚弱の治療に関する。「虚弱」という用語は、本明細書において、特に、前述の定義(Fried他 2001)を参照して定義される。治療されるべき患者は、一般に、男女両方の、通常60歳以上の高齢のヒトである。より特には、治療される患者は、65歳以上の高齢者である。
【0022】
広い意味では、本発明は、虚弱の個々の症状に向けられている、現在の断片的な研究が、実際の治療へとつながるには不十分であるという認識に基づいている。本発明は、活性物質の賢明な組合せの特定の投与経路によって、そのような治療を提供することに対処している。理論によって制限されることを所望することなく、本発明者らは、タンパク同化ステロイド、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびビタミンD化合物、好ましくはビタミンD3(コレカルシフェロール)の併用非経口投与の有効性が、特に筋肉量および筋機能に及ぼす、2つの化合物の間の相乗効果に基づいていると考えている。この考えは、2つの化合物に対する受容体の分子作用および2つの化合物が筋芽細胞/衛星細胞において活性化し得る経路に基づいている。アンドロゲン受容体およびビタミンD受容体の両方は、核転写因子のファミリーに属するが、それらのそれぞれの作用機序は、かなり異なっている。ビタミンD受容体は、細胞の増殖および分化に関与していることが知られている。アンドロゲン受容体は、細胞の成長に関与している。それ故に、それらは、組み合わせた状態で、筋細胞の成長をより最適に刺激することになると考えられる。さらに、タンパク同化ステロイドをビタミンD化合物と同時に投与することは、ビタミンD受容体活性に正の影響を及ぼすと考えられる。また、ビタミンDは、筋神経系に正の影響を及ぼす。
【0023】
本発明は、有効量のタンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の同時非経口投与を含む。「同時投与」という用語は、当技術分野においてよく理解されており、一般に、2つの活性物質を同時にまたはほとんど同時に投与することを指す。本発明において、このことは、両方の化合物が、同じ時間間隔内で投与されることを意味する。したがって、化合物のうちの一方が毎日投与される場合、他方の化合物も毎日、同じ日に投与される。化合物のうちの一方が毎週投与される場合、他方の化合物も毎週、同じ週に投与される。化合物のうちの一方が毎月投与される場合、他方の化合物も毎月、同じ月に投与される。「日」、「週」および「月」という用語が、必ずしも暦の上での日、週または月を指すとは限らず、それぞれの長さを有する時間間隔を指すことは理解される。好ましくは、両方の化合物が互いの直後に投与され、より好ましくは、それらが同時に投与される。最も好ましくは、同時投与が、両方の化合物を含む単一の組成物を通じて実施される。
【0024】
「非経口投与」という用語は、当技術分野においてよく理解されており、一般に、胃腸管を経由する以外の全ての投与経路を指し、これには、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、経粘膜または吸入投与が含まれるが、これらに限定されない。本発明において、非経口投与は、好ましくは、筋肉内注射または皮下注射である。
【0025】
治療される患者群である高齢者を視野に入れて、最も好ましい投与経路は、皮下注射によるものである。高齢者は、高い頻度で、(特に虚弱に苦しんでいる場合には)低い筋力を有することを特徴とする。他方では、彼らは、多くのしわを有する比較的大きい皮膚を有している傾向がある。したがって、特に虚弱の治療において、皮下注射は、筋肉内注射に比べて、患者にとってはるかに容易であり、痛みがより少ないという特定の利点を有する。
【0026】
化合物は、有効量で投与される。「有効量」という用語は、当技術分野においてよく理解されている。薬理学において、有効量は、薬物の所望の効果を生み出す用量中央値である。有効量は、多くの場合、薬物に特有の用量-反応関係を解析することに基づいて決定される。試験集団の半数に所望の効果を生み出す投与量は、ED-50と呼ばれており、これが一般に、有効量であると認められている。本発明の状況において、用量は、それが虚弱の複数(すなわち、2つ以上)の症状を緩和する働きをする場合に、有効であると考えられる。好ましい有効量は、虚弱の状態を治療する働きをし、それは、適したバイオマーカーおよび/または適した臨床的エンドポイントによって評価され得る。本発明の状況において、「有効量」という用語は、2つの活性物質の併用用量に関する。有効量および投与間隔は、男性患者および女性患者の間で、時には異なって選択されることがある。例えば、男性ホルモン作用タンパク同化ステロイドの用量は、男性のほうがより高い可能性がある。さらに、女性は、男性よりも低い年齢で虚弱に苦しむ傾向があり、一定の用量の長期にわたる治療を必要とすることがあるが、一方、より高い年齢で虚弱になりつつある男性は、短期間およびより高含量の回復支援療法を必要とすることがある。
【0027】
本発明の活性物質の組合せは、タンパク同化ステロイドを含む。「タンパク同化ステロイド」という用語は、ホルモンであるテストステロンに類縁するステロイドホルモンの類であると、当技術分野においてよく理解されている。タンパク同化ステロイドの概説に関しては、A.T. Kicman, British Journal of Pharmacology (2008) 154, 502〜521頁を参照されたい。タンパク同化ステロイドは、一般に、タンパク同化作用と男性ホルモン作用との重複部分を有し、それ故に、時には男性ホルモン作用-タンパク同化ステロイド(AAS)と表される。AASの男性ホルモン作用:タンパク同化作用比は、これらの化合物の臨床適用を決定する際の重要な因子である。本発明において、筋細胞の成長を促進するタンパク同化(筋肉同化)作用が、男性ホルモン作用に優先することが望まれていることは理解される。この点において、タンパク同化ステロイドは、ノルボレトン、オキシメトロン、オキサンドロロン、ナンドロロンおよびそのエステルからなる群から選択されることが好ましい。本発明に使用するための好ましいタンパク同化ステロイドは、ナンドロロンまたはそのエステルであり、最も好ましくはデカン酸ナンドロロンである。
【0028】
本発明によると、デカン酸ナンドロロンは、(好ましくは筋肉内注射によって、より好ましくは皮下注射によって)毎月1回、より好ましくは3週間毎に1回、最も好ましくは毎週1回投与されることが好ましい。時間間隔毎に投与される総投与量は、一般に、15mg、好ましくは25mg/月から、600mg、好ましくは400mg/月まで変化し得る。本発明による虚弱の治療において、用量は低すぎないことが好ましい。必然的な男性ホルモン作用を考慮して、投与量は高すぎないことも好ましい。可能な限り低く、必要な限り高い好ましい投与量は、1週間当たり、5mgから、好ましくは10mgから150mgまでの範囲であり、好ましくは50mgであり、または1か月当たり、20mgから、好ましくは40mgから600mgまでの範囲であり、好ましくは200mgである。
【0029】
別のタンパク同化ステロイドが使用される場合、好ましい投与量範囲は、デカン酸ナンドロロンについて言及されているものと同等である。当業者は、種々のタンパク同化ステロイドの間で、投与量換算を行う方法を承知している。
【0030】
本発明の活性物質の組合せは、ビタミンD化合物を含む。本発明の状況において、「ビタミンD化合物」という用語は、ビタミンDおよびその種々の形ならびにビタミンDの前駆体および類似体を指す。この類の化合物は、当技術分野においてよく知られている。好ましくは、ビタミンD化合物は、ビタミンDの一般的な形の1つであり、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシジオール、カルシトリオール、ドキセルカルシフェロールおよびカルシポトリエンからなる群から選択される。本発明に使用するための、ビタミンDの最も好ましい形は、コレカルシフェロール(ビタミンD3)である。
【0031】
本発明において、ビタミンD欠乏症に関連する血漿レベルを超えるレベルに導く投薬含量(dosage strength)で、ビタミンDを投与することが好ましい。ビタミンD欠乏症は、一般に、25-ヒドロキシビタミンDの血漿中濃度が20ng/mL(50nmol/L)未満であると定義されている。140nmol/Lを超える血漿中濃度は、副作用を伴っている。それ故に、ビタミンD化合物の好ましい投与量は、50から70nmol/Lまでと140nmol/Lとの間の血漿中レベルをもたらすように選択される。
【0032】
本発明によると、好ましいビタミンD化合物であるコレカルシフェロールは、(最も好ましくは筋肉内注射によって)毎月1回、より好ましくは3週間毎に1回、最も好ましくは毎週1回投与されることが好ましい。コレカルシフェロールの投与量は、100〜4000IU/日の経口用量に相当する非経口用量の範囲または1週もしくは1か月当たりの対応する用量の範囲である。しかし、600000IU(15mg)という高い非経口投与量の筋肉内コレカルシフェロールが可能である。
【0033】
前述の化合物は、非経口投与に適した単一の医薬組成物中に含まれることが好ましい。より好ましくは、これは、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロールの組合せを、非経口投与に適した担体液体中に含む医薬組成物を指す。担体液体は、好ましくは油であり、より好ましくは、ラッカセイ油、綿実油およびゴマ油からなる群から選択される。
【0034】
理論によって制限されることを所望することなく、本発明者らは、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の両方(特に、デカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロール)が油溶性であるという事実が、油ベースの注射調製物の安定性への相互に有益な影響に寄与し得ると考えている。その上、単一の注射調製物における2つの化合物の組合せは、同時投与を容易にし、患者への侵襲性がより少なく、両方の薬物の投与計画のより良好なコンプライアンスに向けて取り組むのに役立つ。
【0035】
本発明の医薬組成物が、そのような調製物中に普通に使用されるような、さらなる賦形剤を含み得ることは理解される。非経口剤形に使用するための賦形剤、添加剤、アジュバントなどは、当業者には知られており、本明細書において説明を必要としない。
【0036】
虚弱の治療において、本発明の組成物は、一般に、少なくとも3か月から12か月の期間、好ましくは4から8か月の期間、最も好ましくは6か月の期間投与される。本発明は、高齢患者における虚弱の治療への新規な医学的介入を提供する。
【0037】
虚弱のこの治療は先例がないが、本発明者らは(理論によって制限されることを所望することなく)、本発明の医学的介入は、さらなる利益を有すると考えている。
【0038】
これは特に、入院後に虚弱に苦しんでいる高齢患者が、もはや自身の自立を維持することができない可能性がある、前述の転機にあてはまる。ナーシングホームでの長期滞在は、適切な理学療法および精神療法も行うにもかかわらず、これらの患者から、下方スパイラルを予防する際の重要なツールを本質的に奪う、すなわち、患者自身が日々の規則正しい身体的および精神的な活動を行いながら自立した生活をすることを本質的に奪う。
【0039】
この点において、本発明は、そのような転機にいる患者における十分な医学的介入が、虚弱の状態自体を治療するのみならず、自立を維持し、身体的および精神的な活動を取り戻す際に、患者を援助するのに役立つという洞察に基づいている。したがって、これらの患者を改善された健康に向かって援助するために、本発明はまた、特に入院または外科手術後の、虚弱高齢者のための回復支援療法を提供する。本発明のこの態様において、比較的高い投与量の2つの活性物質、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロールは、比較的高い頻度で、好ましくは毎週1回、必要とされる薬理作用をもたらすのに十分に長い期間であるが、(慢性的な疾病を反映している)永続的な薬物治療よりもむしろ、(自立を取り戻すための)短期支援療法であると感じられるのに十分に短い期間投与される。支援治療の好ましい期間は、4〜8か月であり、好ましくは6か月である。
【0040】
本発明はまた、入院後に虚弱になりやすい患者における、虚弱の予防に関する。一般に、これらの患者は、サルコペニアの状態を超えて、免疫機能の低下に苦しむ。
【0041】
前述の支援療法が、各投与時に、両方の化合物を含む単一の医薬組成物を使用して行われることが好ましい。
【0042】
本発明に使用される化合物の非経口投与のためのデバイスは、当業者には知られている。そのような、知られている金属器具に基づいて、本発明はまた、以上に記載されているような、本発明による組成物である液剤の、筋肉内投与のための注射デバイスに関する。
【0043】
本発明は、以下の限定されない実施例および添付の図を参照して、以下にさらに説明される。
【0044】
実施例は、ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3が、筋肉の衛星細胞の増殖ひいては筋肉量に相乗効果をもたらすことを実証するインビトロ試験である。よって、その組合せを用いた場合に、デカン酸ナンドロロンを単独で用いた場合と同じ、筋肉量および/または機能への影響を達成するために、本発明は、ヒトにおいて使用される、より低用量のデカン酸ナンドロロンを目指す。これは、より良い安全プロフィールに向けて取り組むのに役立つ。
【実施例1】
【0045】
材料および方法
ヒト骨格筋細胞または衛星細胞の2つの異なるバッチ(33歳健常女性から得られたhSkMC1および64歳健常女性から得られたhSkMC2)を、PromoCell(Heidelberg、Germany)から得、供給業者による使用説明書に従って、フラスコ内で培養した。細胞を回収し、実験に使用するまで液体窒素中で保存した。細胞は、15代を超える継代数では使用されなかった。実験のために、細胞の培養は、5%活性炭(Sigma-Aldrich)処理したウシ胎仔血清(FBS)(PAA, Germany)を加えた基礎培地(PromoCell)中、3,500〜7,000細胞/cm2の密度で、24-ウェルプレート(Costar)を使用して、約80%の密集度まで、37℃および5%CO2にて行った。ナンドロロン、テストステロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0046】
受容体試験のために、1μMおよび10μMのナンドロロン(デカン酸ナンドロロンの活性代謝物質)または10μMおよび100μMの1α,25-ジヒドロキシビタミンD3を加えて、細胞を5日間培養した。アンドロゲンおよびビタミンD受容体の染色プロトコルは、その後のフローサイトメトリー法による視覚化とともに、Krishan他(2000)およびFolgueira他(2000)の出版物から得られた。最良の染色パターンをもたらす方法には、ホルマリン固定後、Tween20での浸透処理ならびに標識されていない一次抗体(抗-アンドロゲン受容体(Epitomics)および抗-ビタミンD受容体(GeneTex))および蛍光体標識された二次抗体(ビタミンD受容体を染色するためにPE-結合されたヤギ抗-ラットIgGおよびアンドロゲン受容体を染色するためにFITC-結合されたヤギ抗-ウサギ、両方ともにRocklandからのもの)での二重染色が含まれた。2つの二次抗体での染色は、バックグラウンドとしてのみ使用した。Fc-受容体を、血清含有緩衝液を用いたインキュベーションによってブロックした。染色実験の全体を通して、すべての溶液は、細胞の浸透状態を維持するための界面活性剤として、Tween20(Sigma Aldrich)をさらに含有した。刺激を受けていない細胞および刺激を受けた細胞における染色を、細胞における染色の強度および染色されている細胞の%を決定することによって比較した。測定は、2カラーフローサイトメーター(Beckman Coulter FC500型Cytomics)を用いて行った。マーカーの設定値を超えて染色されている細胞の%の増加(バックグラウンド染色については1%に設定)を、ホルモン処理しておよびホルモン処理することなく決定した。
【0047】
増殖試験のために、100および1000nMのナンドロロン単独または10および100nMの1α,25-ジヒドロキシビタミンD3ならびにナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の組合せを用いて、細胞を8日間培養した。培地およびホルモンを、1、4、7日目に取り換えた。レサズリンアッセイを使用して、増殖を測定した(Stern-Straeter他、2008)。増殖データの統計解析は、スチューデントのt-検定を用いて行った。
【実施例2】
【0048】
受容体試験
ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の両方が細胞に及ぼす作用は、それらの同族受容体の存在によって決まる。それ故に、本発明者らは、使用したヒト骨格筋細胞において、アンドロゲンおよびビタミンの両方の受容体の存在を検討した。図1および2は、アンドロゲンおよびビタミンD受容体発現が変化する細胞の百分率に及ぼす、ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の影響を、二次抗体単独での染色と比較して示す。hSkMC2細胞において、アンドロゲンおよびビタミンD受容体が陽性である細胞数の増加を、ナンドロロンにおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3に曝した後に観察する。柱状グラフはまた、細胞がホルモン処理前に受容体をすでに含有していた場合の、細胞当たりの受容体数の増加を示唆する、細胞における染色の強度の増加を示す。これらの結果は、細胞が処理前に受容体陽性であった場合に、より多くの細胞がアンドロゲン受容体陽性となることおよび細胞当たりの受容体数も増加することを示唆している。hSkMC1細胞における影響は、それほど顕著ではなかった(データは示していない)。
【0049】
これらの受容体試験は、アンドロゲンおよびビタミンDの両方の受容体が、ヒト骨格筋細胞中に存在することならびにナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3が、互いの受容体の発現を刺激することを示している。
【実施例3】
【0050】
増殖試験
実施例1に示されているように、2つの化合物による、アンドロゲン受容体およびビタミンD受容体陽性細胞の百分率の増加は、より多くの細胞が、潜在的に治療に反応することができることを示唆している。
【0051】
ヒト骨格筋細胞の増殖は、ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の組合せが、筋肉量に相乗効果をもたらすかどうかを試験するために、反応パラメータとして使用された。
【0052】
図3は、(a)hSkMC1細胞に関して、個々の化合物による増殖に影響は見られなかったが、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3をナンドロロンと組み合わせた場合には、有意な影響が、試験した4種の組合せすべてに見られた(100nMナンドロロン+100nM 1α,25-ジヒドロキシビタミンD3は、P<0.05で有意であるが、それ以外はP< 0.001)ことを示している。(b)hSkMC2細胞に関しては、より高い濃度の1α,25-ジヒドロキシビタミンD3が、増殖の増加を示し、この場合もまた、4種の組合せが、対照と比較して有意な影響を示している(100nMナンドロロン+10nM 1α,25-ジヒドロキシビタミンD3は、P<0.001で有意であるが、それ以外はP<0.05)。種々の処理について対照と比較した増加率を、下表1に示す。hSkMC1細胞に関しては、すべての組合せについての増加率が、組合せにおける個々の化合物についての増加率の合計を上回っている。このことは、ナンドロロン+1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の組合せが、ヒト骨格筋細胞に及ぼす相乗効果を証明している。hSkMC2細胞に関しては、試験した4種の組合せのうちの3種において、相乗効果が観察される。
【0053】
表1:
ナンドロロンおよび1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(dhvitD3)単独ならびに2つの化合物の組合せによる、ヒト骨格筋細胞(hSkMC1およびhSkMC2)の増殖において、対照と比較した増加率(%Δ)。Σ:種々の組合せに使用された、ナンドロロン単独の%ΔとdhvitD3単独の%Δとの合計を表す。
hSkMCl hSkMC2
%Δ Σ %Δ Σ
100nMナンドロロン 3 4
1000nMナンドロロン 1 1
10nM dhvit D3 1 1
100nM dhvit D3 -5 8
100nMナンドロロン + 10nM dhvit D3 12 4 11 5
100nMナンドロロン + 100nM dhvit D3 11 -2 13 12
1000nMナンドロロン + 10nM dhvit D3 13 2 13 2
1000nMナンドロロン + 100nM dhvit D3 10 -4 15 9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のタンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の組合せの同時非経口投与を含む、特に60歳以上の高齢患者における虚弱の治療方法。
【請求項2】
投与を少なくとも毎月、好ましくは毎週行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与を少なくとも3か月の期間、好ましくは6か月の期間行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク同化ステロイドが、ノルボレトン、オキシメトロン、オキサンドロロン、ナンドロロンおよびそのエステルからなる群から選択され、好ましくはデカン酸ナンドロロンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ビタミンD化合物が、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシジオール、カルシトリオール、ドキセルカルシフェロールおよびカルシポトリエンからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の両方、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロールの組合せを含む単一の製剤の非経口注射によって投与を行う、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
単一の製剤が、5から600mgまでのデカン酸ナンドロロンおよび17.5μgから15mgまでのコレカルシフェロールの投与量を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
特に入院または外科手術後の、虚弱高齢者における回復支援としての、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
患者が65歳以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物を、非経口投与に適した担体液体中に含む医薬組成物。
【請求項11】
タンパク同化ステロイドが、オキシメトロン、オキサンドロロン、ナンドロロンおよびそのエステルからなる群から選択され、好ましくはデカン酸ナンドロロンである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ビタミンD化合物が、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシジオール、カルシトリオール、ドキセルカルシフェロールおよびカルシポトリエンからなる群から選択される、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
5から600mgまでのデカン酸ナンドロロンおよび17.5μgから15mgまでのコレカルシフェロールを含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
サルコペニアを超えた状態であるが虚弱ではない人における、虚弱の予防として、特に回復支援として使用するための、請求項10から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
担体液体が、ラッカセイ油、綿実油およびゴマ油からなる群から選択される、請求項10から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項10から15のいずれか一項に記載の組成物である液剤の筋肉内投与のための注射デバイス。
【請求項17】
有効量のタンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の組合せの同時非経口投与を含む、特に60歳以上の高齢患者における虚弱の治療に使用するための、タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物を含む組成物。
【請求項18】
投与が、少なくとも毎月、好ましくは毎週行われる、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
投与が、少なくとも3か月の期間、好ましくは6か月の期間行われる、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
タンパク同化ステロイドが、オキシメトロン、オキサンドロロン、ナンドロロンおよびそのエステルからなる群から選択され、好ましくはデカン酸ナンドロロンである、請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
ビタミンD化合物が、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシジオール、カルシトリオール、ドキセルカルシフェロールおよびカルシポトリエンからなる群から選択される、請求項17から20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
タンパク同化ステロイドおよびビタミンD化合物の両方、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびコレカルシフェロールの組合せを含む単一の製剤の、非経口注射によって投与が行われる、請求項17から21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
単一の製剤が、5から600mgまでの量のデカン酸ナンドロロンおよび17.5μgから15mgまでの量のコレカルシフェロールを含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
特に入院または外科手術後の、虚弱高齢者における回復支援としての、請求項17から23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1から9のいずれか一項に記載の治療方法のための非経口組成物の製造における、タンパク同化ステロイド、好ましくはデカン酸ナンドロロンおよびビタミンD化合物、好ましくはコレカルシフェロールの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−502457(P2013−502457A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526677(P2012−526677)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050524
【国際公開番号】WO2011/025368
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(511281198)
【Fターム(参考)】