説明

蛋白質の加水分解物の製造方法

【課題】製造中に腐敗の生じにくい、蛋白質加水分解物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】蛋白質の加水分解物の製造に際し、加水分解反応をデキストリンの存在下で行う。加水分解の方法としては、加水分解反応が長時間行われる方法、たとえば蛋白質分解酵素を用いる方法があげられる。デキストリンは、蛋白質100重量部に対して、5〜50重量部存在していることが好ましく、10〜30重量部存在していることがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質の加水分解物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然調味料等の飲食品の中には蛋白質を加水分解して製造されるものがある。このような食品の製造において蛋白質を加水分解する方法としては、塩酸等の酸により加水分解する方法、蛋白質分解酵素等の酵素により加水分解する方法が知られている。
酸により加水分解する方法では、蛋白質の分解率が高く、ほぼ完全にアミノ酸を遊離させることができるため呈味性の強い加水分解物が得られるが、酸の中和に塩基等を添加する必要があるため塩濃度が高くなるという問題がある。
【0003】
蛋白質分解酵素により加水分解する方法では、製造期間が長いため製造中に腐敗が起こりやすいという問題がある。
蛋白質の加水分解中の腐敗を防止する方法として、反応液に食塩を添加する方法、反応液に酢酸等の有機酸(特許文献1参照)を添加する方法、反応液を高温で保持する方法(特許文献2参照)等が知られている。
【0004】
しかし、食塩を添加する方法は、近年の減塩志向に反しており、また味質に好ましくない影響を与える恐れがある。また、有機酸の添加による方法では、効果的に腐敗を防止するためには有機酸を高濃度で添加する必要があり、好ましくない風味を与える恐れがある。高温で保持する方法では、高温により酵素活性が低下する、味質が低下する等の問題がある。
【0005】
これらのことから、味質、風味等への影響が少なく、かつ腐敗の生じにくい蛋白質の加水分解物の製造方法が求められている。
【特許文献1】特開昭53−18797号公報
【特許文献2】特開昭54−110366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、製造中に腐敗の生じにくい、蛋白質の加水分解物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記(1)〜(4)に関する。
(1) 加水分解反応をデキストリンの存在下で行うことを特徴とする、蛋白質の加水分解物の製造方法。
(2) 蛋白質の加水分解が、蛋白質分解酵素により行われる、上記(1)の方法。
(3) 蛋白質が植物性蛋白質である、上記(1)または(2)の方法。
(4) 植物性蛋白質が、大豆蛋白質である、上記(3)の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、製造中に腐敗の生じにくい、蛋白質の加水分解物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にける蛋白質の加水分解は、デキストリンの存在下で行われる限りいずれの加水分解方法によってもよいが、加水分解反応が長時間行われる方法が好ましくあげられる。たとえば、蛋白質分解酵素を用いる方法があげられる。
蛋白質分解酵素を用いる方法において、蛋白質と蛋白質分解酵素とを加水分解反応のために接触させる方法としては、例えば両者をそのまま混合する方法、両者を水、無機塩水溶液、緩衝液等の水性媒体に溶解または分散させる方法等があげられる。以下、蛋白質と蛋白質分解酵素とが接触している状態にある組成物を、反応組成物という。
【0010】
デキストリンの存在下で蛋白質の加水分解を行うにあたり、デキストリンは加水分解反応中に反応組成物に含有されていればよいが、反応開始時には反応組成物中に含有されていることが好ましい。デキストリンは、反応組成物中、蛋白質100重量部に対して、5〜50重量部含有されていることが好ましく、10〜30重量部含有されていることがさらに好ましい。
【0011】
本発明に用いられる蛋白質は、植物性蛋白質、動物性蛋白質のいずれであってもよいが、植物性蛋白質が好ましく用いられる。
植物性蛋白質としては、大豆、落花生等の豆類、小麦、トウモロコシ等の穀類の種子由来の植物性蛋白質があげられるが、豆類由来の蛋白質が好ましく用いられ、大豆由来の蛋白質(以下、大豆蛋白質という)がさらに好ましく用いられる。
植物性蛋白質としては、これらの豆類、穀類等をそのまま、または粉砕等の物理的処理を行って得られる処理物を用いてもよい。たとえば、大豆蛋白質として、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白質、分離大豆蛋白質等があげられる。
【0012】
本発明に用いられる蛋白質分解酵素は、蛋白質のペプチド結合を加水分解する酵素であればいずれの蛋白質分解酵素であってもよく、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼのいずれも用いることができるが、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、バチルス(Bacillus)属等の微生物に由来する酵素、または植物由来の酵素が好ましく用いられる。
【0013】
アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素としては、具体的には、Flavorzyme(ノボザイム社製)、コクラーゼP(ジェネンコア協和社製)、プロテアーゼ「アマノ」AG(ジェネンコア協和社製)、プロテアーゼ「アマノ」P3G(天野エンザイム社製)、スミチーム FP(新日本化学工業社製)、Promod P279P(ジェネンコア協和社製)、ウマミザイム(天野エンザイム社製)等があげられる。 リゾプス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素としては、具体的には、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)等があげられる。バチルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素としては、プロチンPC-10(ジェネンコア協和社製)、オリエンターゼ5N(ジェネンコア協和社製)、Multifect Neutral(ジェネンコア協和社製)、サーモアーゼPC-10(ジェネンコア協和社製)、Protex 6L(ジェネンコア・インターナショナル社製)、Alcalase2.4LFG(ノボザイム社製)等があげられる。
【0014】
植物由来の酵素としては、パパイン、ブロメライン等があげられる。具体的には、Papain 30,000(ジェネンコア協和社製)等があげられる。
これらの蛋白質分解酵素は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
反応組成物中の蛋白質の量および蛋白質分解酵素の量は、蛋白質の種類および蛋白質分解酵素の種類に応じて適宜設定する。
【0015】
蛋白質の加水分解反応における温度、時間およびpHは、蛋白質および蛋白質分解酵素の種類および量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、植物性蛋白質を微生物由来の蛋白質分解酵素で加水分解する場合、25〜65℃、好ましくは40〜55℃で、20〜100時間、好ましくは30〜60時間反応させる。pHはpH4.5〜7、好ましくはpH5〜6に調整することが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるデキストリンとしては、デンプンを直接、または酸を加えて乾燥後高温で焙焼、分解して得られる乾式分解物、デンプン糊液を酸、酵素、またはこれらを組み合わせて加水分解して得られる湿式分解物、乾式分解物をさらに湿式で酵素分解して得られる難消化性デキストリン等のいずれも用いることができるが、デンプンの加水分解の度合(DE)が5〜40のものが好ましく、10〜40のものがより好ましく、20〜30のものがさらに好ましく、25のものが特に好ましい。
【0017】
デンプンとしては、サツマイモ、バレイショ、トウモロコシ、タピオカ、小麦等に由来するデンプンがあげられるが、サツマイモ由来のデンプンが好ましく用いられる。
加水分解反応後の反応組成物(以下、反応後の反応組成物という)は、無機塩、酸、アミノ酸、核酸、糖類、天然調味料、香辛料等の飲食品に使用可能な各種添加物を含有してもよい。
【0018】
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等があげられる。
酸としては、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等があげられる。
アミノ酸としては、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等があげられる。
核酸としては、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等があげられる。
【0019】
糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等があげられる。
天然調味料 としては、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキスがあげられる。
香辛料としては、スパイス類、ハーブ類等があげられる。
反応後の反応組成物は、蛋白質の加水分解物としてそのまま用いてもよいが、濃縮処理、乾燥処理、滅菌処理等の処理に供し、得られる処理物を蛋白質の加水分解物として用いてもよい。蛋白質の加水分解物は、そのまま調味料等の飲食品として用いることができるが、通常の飲食品の製造方法にしたがって、調味料等の飲食品の製造に用いてもよい。
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0020】
サツマイモ由来のデンプンを用いて製造されたDE25のデキストリン(松谷化学工業社製)0.36g、3.6gの分離大豆蛋白質〔ニューフジプロAE(不二製油社製)〕、蛋白質分解酵素〔0.03gのスミチームFP(新日本化学工業社製)および0.03gのFlavorzyme(ノボザイム社製)〕を20mlの水に溶解させ、これを反応液として、48℃で加水分解反応を行った。反応中、適時塩酸にてpHを約5.5に調整した。
【0021】
また、デキストリンを添加しない以外は同様の操作を行った試験区をコントロールとした。
反応開始時(0時間目)、24時間目および48時間目の反応液をサンプリングした。サンプリングした反応液を生理食塩水で適時希釈し、食品検査用標準寒天培地(栄研化学社製)に塗布し、37℃で48時間インキュベートした。
インキュベート後、寒天培地上に生育したコロニー数を計測し、反応液1ml中に存在する微生物の数を算出した。結果を第1表に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
第1表より明らかなとおり、デキストリンの存在下で蛋白質の加水分解反応を行った試験区では微生物の増殖が抑制され、腐敗が防止されていた。
【実施例2】
【0024】
デキストリンとして、タピオカ、トウモロコシおよびサツマイモ由来のデンプンの混合物を用いて製造されたDE28のデキストリンであるコクミゲン(ニッシ社製)を用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、デキストリンの非存在下で蛋白質の加水分解反応を行った試験区では、反応開始から48時間目において腐敗が認められたのに対し、デキストリンの存在下で蛋白質の加水分解反応を行った試験区では、反応開始から48時間目において腐敗は認められなかった。
【実施例3】
【0025】
デキストリンとして、トウモロコシ由来のデキストリン(DE8,19および40のもの、松谷化学工業株式会社製)を用い、反応中、pHを調整しない以外は実施例1と同様の操作を行った。なお、デキストリンを添加しない以外は同様の操作を行った試験区をコントロールとした。
結果を第2表に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
第2表に示すとおり、反応液のpHを調整しない場合、反応開始から24時間目で腐敗が認められたが、デキストリンの存在下で蛋白質の加水分解反応を行った試験区では、いずれのデキストリンを用いた場合も、腐敗は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、製造中に腐敗の生じにくい、蛋白質の加水分解物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解反応をデキストリンの存在下で行うことを特徴とする、蛋白質の加水分解物の製造方法。
【請求項2】
蛋白質の加水分解が、蛋白質分解酵素により行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蛋白質が植物性蛋白質である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
植物性蛋白質が、大豆蛋白質である、請求項3記載の方法。

【公開番号】特開2007−215540(P2007−215540A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334771(P2006−334771)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】