説明

蛍光体、その製造方法及び発光装置

【課題】
発光強度の高い蛍光体とその製造方法及びこの蛍光体を用いた高輝度な発光装置を提供する。
【解決手段】
一般式:MeReSiAlで示される蛍光体である。ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、ReはEuを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。また、a=1−x、b=x、c=(2+2p)×(1−y)、d=(2+2p)×y、e=(1+4p)×(1−z)、f=(1+4p)×z、とするとき、パラメータp、x、y及びzが、1.620<p<1.635、0.005<x<0.300、0.200<y<0.250、0.070<z<0.110、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸窒化物の母体結晶を有し、紫外線から青色光の波長領域で励起され発光する蛍光体とその製造方法及びこの蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の硫化物系母体を有する蛍光体及び酸化物母体を有する蛍光体、例えばケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体に代わり、化学的安定性が高く耐熱構造材料として知られる窒化物系母体を有するサイアロン蛍光体が提案されている(特許文献1乃至3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/093298号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/037059号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/105631号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Acta Crystallographica Section B-Structural Science, vol. 65, 567-575, Part 5(OCT 2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の蛍光体よりも発光強度の高い蛍光体とその製造方法及びこの蛍光体を用いた高輝度な発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般式:MeReSiAl(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)で示される蛍光体であって、
組成比a、b、c、d、e及びfを、
a=1−x
b=x
c=(2+2p)×(1−y)
d=(2+2p)×y
e=(1+4p)×(1−z)
f=(1+4p)×z
とするとき、
パラメータp、x、y及びzが、
1.620<p<1.635
0.005<x<0.300
0.200<y<0.250
0.070<z<0.110
である蛍光体を提供する。
【0007】
組成比c、d、e及びfは、
0.250<d/c<0.320、
0.080<f/e<0.200
であるのが好ましい。
【0008】
Meは、Srのみからなるのが好ましい。
【0009】
Reは、Euのみからなるのが好ましい。
【0010】
pは1.625であるのが好ましい。
【0011】
前述の蛍光体は、波長300nm以上500nm以下の光によって励起され、波長495nm以上530nm以下に発光ピーク波長を有するものが好ましい。
【0012】
前述の蛍光体は、(Me1−xReX)(Mで示される結晶構造モデルで記述される(ただし、mとnはp=n/mを満たす整数値であり、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Mは、Si、Ge、Al及びGaから選ばれる一種以上の元素であり、Xは、酸素と窒素から選ばれる一種以上の元素である。)のが好ましい。
【0013】
前述の蛍光体は、結晶のユニットセル中にm個の(Me1−xReX)構造とn個の(M)構造を含有する結晶構造モデルで記述されるのが好ましい。
【0014】
他の観点からの本発明は、前述の蛍光体を製造する蛍光体の製造方法であって、原料を混合する混合工程と、混合工程後の混合物を焼成する焼成工程とを有し、
原料が、
(1)Meの窒化物、炭化物、水素化物、珪化物、炭酸塩又は酸化物(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(2)Reの窒化物、水素化物、炭化物、ハロゲン化物又は酸化物(ただし、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(3)Si窒化物、Si酸化物、Si酸窒化物又はSi金属の一種又は複数種、及び、
(4)Al窒化物、Al酸化物、Al酸窒化物又はAl金属の一種又は複数種である蛍光体の製造方法を提供する。
【0015】
この蛍光体の製造方法における焼成工程は、0.1MPa以上の雰囲気圧力下において1600℃以上2000℃以下で焼成する焼成工程であるのが好ましい。
【0016】
この蛍光体の製造方法にあっては、焼成工程後の蛍光体を1200℃以上1900℃以下においてアニール処理するアニール工程を設けることが好ましい。
【0017】
混合工程での原料には、前記焼成工程で得られた蛍光体を含ませるのが好ましい。
【0018】
他の観点からの本発明は、発光素子と前述の蛍光体とを備える発光装置であって、蛍光体が前述の蛍光体である発光装置である。
【0019】
発光装置は、前述の蛍光体に加え、前述の蛍光体より長波長の発光ピーク波長を有する蛍光体を一種以上用いてもよい。
【0020】
発光素子は、340nm以上500nm以下の発光を有する無機発光素子又は有機発光素子のいずれかであることが好ましい。
【0021】
発光素子は、LED素子であることが好ましい。
【0022】
発光装置は、液晶TV用バックライト、プロジェクタの光源装置、照明装置又は信号装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る蛍光体は、従来の蛍光体よりも高い輝度を有する。本発明に係る蛍光体の製造方法は、従来の蛍光体よりも高い輝度を有する蛍光体を製造することができる。本発明に係る発光装置は、より高い輝度を有する発光装置である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1及び2の蛍光体の発光及び励起スペクトルを示す図である。
【図2】比較例1乃至5の蛍光体の発光及び励起スペクトルを示す図である。
【図3】比較例6の蛍光体の発光及び励起スペクトルを示す図である。
【図4】本発明の実施例1による蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】比較例2の蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図6】比較例4の蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図7】比較例6の蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】本発明の実施例1及び2の蛍光体の発光強度の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、一般式:MeReSiAl(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)で示される蛍光体であって、
組成比a、b、c、d、e及びfを、
a=1−x
b=x
c=(2+2p)×(1−y)
d=(2+2p)×y
e=(1+4p)×(1−z)
f=(1+4p)×z
とするとき、
パラメータp、x、y及びzが、
1.620<p<1.635
0.005<x<0.300
0.200<y<0.250
0.070<z<0.110
である蛍光体である。
組成比a、b、c、d、e及びfは元素の比を表しており、a、b、c、d、e及びfに正の任意の数値を掛けたものも同じ組成式を与える。本発明では、a+b=1となるように規格化しているので、ある組成式を有する材料が本発明の範囲となるかどうかは、a+b=1となるように規格化したa、b、c、d、e及びfの組成比を用いて判断される。
【0026】
pは、1.620<p<1.635であり、1.622<p<1.630が好ましく、さらに好ましくは、p=1.625である。pの値が1.620よりも下回る、又は、1.635よりも上回る場合、目的とする組成物以外の第二相の形成などを助長し、色純度の悪化や発光強度の低下をもたらす。
【0027】
組成比c、d、e及びfは、
0.250<d/c<0.320、
0.080<f/e<0.200
であるのが好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る蛍光体において、xはReの発光イオンの原子割合である。発光イオンの割合が小さいと十分な発光強度が得られず、一方、発光イオンの割合が大きいと、隣接する発光イオン同士による励起エネルギーの再吸収効果である濃度消光と呼ばれる現象が生じ十分な発光強度が得られない。xは0.005<x<0.30であり、0.01<x<0.25が更に好ましい。
【0029】
本発明の蛍光体において、y及びzはそれぞれ結晶構造中のSi元素とAl元素の比率、N元素とO元素の比率を表す。パラメータy及びp、並びに、z及びpを用いて一般式の組成比c、d、e及びfを決定し、d/c及びf/eを導く。yとzは結晶中の電荷を中性に保つために自由度が1の関係を持っているため、パラ-メータpとyあるいはpとzが与えられれば全ての組成比c、d、e及びfを設計できる。d/c及びf/eを、0.250<d/c<0.320、0.080<f/e<0.200とするのが好ましく、0.255<d/c<0.310、0.085<f/e<0.190とするのがさらに好ましい。d/c及びf/eが下限値を下回る場合は、目的とする組成物以外の第二相の形成などを助長し、色純度の低下や発光強度の低下をもたらす。
電荷中性を保つための組成設計として、yとzには、z={2y(p+1)+4p−7/(4p+1)}の関係がある。
【0030】
Meは、Srのみからなるのが好ましい。
【0031】
Reは、Euのみからなるのが好ましい。
【0032】
pは1.615であるのが好ましい。
【0033】
上述の蛍光体は、波長300nm以上500nm以下の励起光によって波長495nm以上530nm以下の発光ピーク波長を有する蛍光を発するものが好ましい。
【0034】
上述の蛍光体は、(Me1−xReX)(Mで示される結晶構造モデルで記述される(ただし、mとnはp=n/mを満たす整数値であり、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Mは、Si、Ge、Al及びGaから選ばれる一種以上の元素であり、Xは、酸素と窒素から選ばれる一種以上の元素である。)のが好ましい。
【0035】
前述の蛍光体は、結晶のユニットセル中にm個の(Me1−xReX)構造とn個の(M)構造を含有する結晶構造モデルで記述されるものであるのが好ましい。
m及びnは、結晶モデルにおけるユニットセルに内包するそれぞれの構造数を決定しているため、ユニットセルの総量を決定させる数値であるが、この結晶モデルにおいてmとnは有限の整数値ならびにその組み合わせを満たすことが必要であり、所望の蛍光体を得るためには、少なくとも1.620<p(=n/m)<1.635の範囲であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明に係る蛍光体の製造方法を説明する。
本発明による蛍光体の製造方法では、原料を混合する混合工程と、混合工程後の混合物を焼成する焼成工程とを有し、
原料が、
(1)Meの窒化物、炭化物、水素化物、珪化物、炭酸塩又は酸化物(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(2)Reの窒化物、水素化物、炭化物、ハロゲン化物又は酸化物(ただし、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(3)Si窒化物、Si酸化物、Si酸窒化物又はSi金属の一種又は複数種、及び、
(4)Al窒化物、Al酸化物、Al酸窒化物又はAl金属の一種又は複数種と、
で構成される。
【0037】
原料としては、上述の原料にフラックスを加えてもよい。フラックスとしては、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、Alのハロゲン化物があり、蛍光体原料100wt%に対して0.01〜20wt%の範囲で添加するのが好ましい。
【0038】
Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を用いることができる。Meは、Sr以外に、Mg、Ca及びBaから選ばれる一種以上の元素を含んでもよいが、好ましいのは、Srのみからなる場合である。
【0039】
Reは、Euを必須の元素としてMn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を用いることが出来る。Reは、Eu以外にはCe、Ybから選ばれる一種以上の元素を含んでもよいが、好ましいのは、Euのみからなる場合である。
【0040】
この蛍光体の製造方法における焼成工程は、0.1MPa以上の雰囲気圧力下において1600℃以上2000℃以下で焼成する焼成工程が好ましい。
【0041】
この蛍光体の製造方法にあっては、焼成工程後の蛍光体を、1200℃以上1900℃以下においてアニール処理するアニール工程を設けることが好ましい。
【0042】
混合工程での原料には、前述の焼成工程で得られた蛍光体を含ませることが好ましい。
【0043】
他の観点からの本発明は、発光素子と、前述の蛍光体とを備える発光装置である。
【0044】
発光装置は、前述の蛍光体に加え、前述の蛍光体より長波長の発光ピーク波長を有する蛍光体を一種以上用いてもよい。
【0045】
前述の蛍光体が発する蛍光と比べて長波長の発光ピーク波長を有する蛍光体としては、β−SiAlON:Eu、YAG:Ce、α−SiAlON:Eu、(Li,Ca)(Al,Si)(N,O):Ce、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、SrAlSi:Eu及び(Ca,Sr)AlSiN:Euがある。
【0046】
発光素子は、340nm以上500nm以下の発光を有する無機発光素子又は有機発光素子のいずれかであることが好ましい。
【0047】
発光素子は、LED素子であることが好ましい。
【0048】
発光装置は、液晶TV用バックライト、プロジェクタの光源装置、照明装置又は信号装置であることが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態に係る蛍光体は、(Me1−xReX)(Mで示される結晶構造モデルで記述されることを特徴としている(ただし、MeはSrを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、ReはEuを必須の元素としてMn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、MはSi、Ge、Al及びGaから選ばれる一種以上の元素であり、Xは酸素と窒素から選ばれる一種以上の元素である)。同じ元素の組み合わせの蛍光体であっても上述の構造モデルに表せない蛍光体は、目的とする組成以外の第二相の形成が助長され、発光強度の低下が起きる。
【0050】
本発明の実施形態である蛍光体は、特に発光がEuイオンに由来する場合において、従来の蛍光体に比べて波長300nm以上500nm以下の励起光によって、波長495nm以上530nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光強度の高い青緑色〜緑色の蛍光を発する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を、比較例を参照しつつ詳細に説明する。
【0052】
実施例1及び2の蛍光体について説明する。
原料粉末は、窒化珪素粉末(Si)、窒化アルミニウム粉末(AlN)、酸化アルミニウム(Al)酸化ストロンチウム粉末(SrO)、窒化ストロンチウム粉末(Sr)及び酸化ユーロピウム粉末(Eu)を用いた。
一般式MeReSiAlにおいて、表1に示すp、x、y、z、a、b、d/c及びf/eの設計組成とした。
【0053】
表1に示す比較例1乃至5は、pが実施例1及び2と同様にp=1.625であるが、d/c又はf/eが下限値を下回るものであり、また、比較例6はp=1.625であるが、d/c又はf/eが上限値を上回るものである。
【0054】
【表1】

【0055】
上記の原料粉末は、内部を不活性ガスで充填したグローブボックス内において、表2の各質量比にて秤量し、メノウ乳鉢と乳鉢を用いて30分間の乾式混合をおこなった。MeはSrのみ、ReはEuのみとした。
【0056】
【表2】

【0057】
続いて、乾式混合によって得られた混合粉末を、窒化ホウ素(BN)製のルツボに充填した。
【0058】
混合粉末を充填した前記窒化ホウ素製ルツボを、炭素繊維成形体を断熱材とした黒鉛ヒーター加熱の方式を用いた電気炉にセットした。
焼成は、まず拡散ポンプにより電気炉の加熱筺体内を真空として、室温から1000℃まで毎分20℃の速度で昇温し、1000℃になった時点で1.0MPaの窒素ガスにて加熱筺体を充填し、毎時10℃で1900℃まで加熱し、1900℃で2時間保持して行った。
【0059】
このようにして得られた焼成物を、メノウ乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、所望の蛍光体粉末(実施例1及び2、比較例1乃至8)を得た。
【0060】
次に、得られた蛍光体粉末(実施例1及び2、比較例1乃至6)の発光スペクトル及び励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。図1に実施例1及び2、図2に比較例1乃至5及び図3に比較例6の発光及び励起スペクトルの測定結果を示した。発光スペクトルは励起波長450nmにおける測定結果である。その発光スペクトルから得た発光ピーク波長と発光強度を上記の焼成条件とともに表3に記す。発光ピーク強度は、測定装置間の誤差や測定装置に使用される光源には揺らぎが存在しており、測定条件等によっても値が変化するため、基準となる蛍光体に対する相対値(%)として表3に記載した。
【0061】
【表3】

【0062】
表1乃至表3から導かれる結果について詳細に説明する。
得られた前記焼成物は、設計組成比によって、発光ピーク波長及び発光強度が変化した。本発明の実施例1及び2は、発光ピーク波長が497nm以上530nm以下の範囲にあり、単一的な発光形状を持っており、且つ、発光強度が高い。一方、d/c又はf/eの値が本発明で特定した範囲の下限値より低い比較例1乃至5においては、図2に示すように、550nm以上700nm以下の範囲に第二相以上からなる幅広い発光が見られており、発光強度が実施例1及び2に比べて低い。他方、設計組成においてd/c又はf/eの値が本発明で特定した範囲の上限値より大きい比較例6においては、明確な第二相の発光は存在していないものの、発光ピーク波長が488nmと短波長側へシフトしており、発光形状も短波長側と長波長側に裾を引いていた。発光強度も実施例1及び2と比べると低かった。
【0063】
表4に、実施例1及び2について、設計組成及び化学分析から得られた組成比a、b、d/c、f/eを記す。いずれも、本発明で特定した範囲内である。f/eは、設計組成と比べて高めの数値である。fは蛍光体中の理想的な酸素比を表しているが、分析では蛍光体の結晶格子中に含まれる酸素、原料や焼成中の雰囲気に含まれる酸素、空気中の水分などを介して蛍光体粒子の表面に吸着した酸素などを区別なく求めているため、設計値よりも高めの値を示すことがある。
【0064】
【表4】

【0065】
図4は実施例1の蛍光体の粉末X線回折パターンの測定結果である。図5、6及び7は、それぞれ比較例2、4及び6の粉末X線回折パターンである。実施例1は、本発明の蛍光体に特徴的なパターンであるのに対し、比較例2、4及び6は本発明の蛍光体とは異なるパターンであった。
X線回折の測定結果について(Me1−xRexM2X)(M2X4)13からなる結晶構造を初期モデルとして、非特許文献1の方法に従ってリートベルト解析を行ったところ収束したことから、本結晶はp=1.625(m=8,n=13)の(Me1−xRexM2X)(M2X4)で示される結晶構造モデルで記述されることが確認された。
【0066】
実施例1及び2の発光強度の温度依存性の結果を、温度30℃を1として規格化して図8に示した。励起波長は、450nmとした。温度を150℃まで上昇させても発光強度は0.75(75%)以上あり、温度上昇に伴う消光が小さい蛍光体であった。電力−光変換の原理を用いた発光素子において、発光に寄与しなかった電力エネルギーはその大部分は熱に変換されることから、点灯駆動中の発光素子は実際に相当高い温度になっている。したがって、本発明に係る蛍光体は、高温下でも発光強度の低下が小さいものであり、発光素子と組み合わせた発光装置に非常に適するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:MeReSiAl(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、ReはEuを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)で示される蛍光体であって、
組成比a、b、c、d、e及びfを、
a=1−x
b=x c=(2+2p)×(1−y)
d=(2+2p)×y
e=(1+4p)×(1−z)
f=(1+4p)×z
とするとき、
パラメータp、x、y及びzが、
1.620<p<1.635
0.005<x<0.300
0.200<y<0.250
0.070<z<0.110
である蛍光体。
【請求項2】
組成比c、d、e及びfが、
0.250<d/c<0.320
0.080<f/e<0.200
である請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
Meが、Srのみからなる請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
Reが、Euのみからなる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
p=1.625である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
波長300nm以上500nm以下の光によって励起され、波長495nm以上530nm以下に発光ピーク波長を有する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
(Me1−xReX)(Mで示される結晶構造モデルで記述される(ただし、mとnはp=n/mを満たす整数値であり、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよく、Mは、Si、Ge、Al及びGaから選ばれる一種以上の元素であり、Xは、酸素と窒素から選ばれる一種以上の元素である。)請求項1記載の蛍光体。
【請求項8】
結晶のユニットセル中にm個の(Me1−xReX)構造とn個の(M)構造を含有する結晶構造モデルで記述される請求項7記載の蛍光体。
【請求項9】
請求項1記載の蛍光体を製造する蛍光体の製造方法であって、原料を混合する混合工程と、混合工程後の混合物を焼成する焼成工程とを有し、
原料が、
(1)Meで示される元素の窒化物、炭化物、水素化物、珪化物、炭酸塩又は酸化物(ただし、Meは、Srを必須の元素とし、Na、Li、Mg、Ca、Ba、Sc、Y及びLaから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(2)Reで示される元素の窒化物、水素化物、炭化物、ハロゲン化物又は酸化物(ただし、Reは、Euを必須の元素とし、Mn、Ce、Tb、Yb及びSmから選ばれる元素の一種以上を含んでもよい。)の一種又は複数種と、
(3)Si窒化物、Si酸化物、Si酸窒化物又はSi金属の一種又は複数種、及び、
(4)Al窒化物、Al酸化物、Al酸窒化物又はAl金属の一種又は複数種である蛍光体の製造方法。
【請求項10】
焼成工程が、0.1MPa以上の雰囲気圧力下において1600℃以上2000℃以下で焼成する焼成工程である請求項9記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
焼成工程後の蛍光体を1200℃以上1900℃以下でアニール処理するアニール工程を有する請求項9又は10に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
混合工程での原料に、前記焼成工程で得られた蛍光体を含ませた請求項9乃至11のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項13】
発光素子と、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の蛍光体とを備える発光装置。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の蛍光体より長波長の発光ピーク波長を有する一種以上の蛍光体をさらに備える請求項13記載の発光装置。
【請求項15】
前記発光素子が、340nm以上500nm以下の発光を有する無機発光素子又は有機発光素子のいずれかである請求項13又は14に記載の発光装置。
【請求項16】
発光素子が、LED素子である請求項13乃至15のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項17】
発光装置が、液晶TV用バックライト、プロジェクタの光源装置、照明装置又は信号装置である請求項13乃至16のいずれか一項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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