説明

蛍光体および電磁波検出装置

【課題】X線等の電磁波が通過する場合に赤色発光する蛍光体を提供すること。
【解決手段】電磁波(2a)が通過する場合に励起されるホスト物質に、励起されたホスト物質の電子のエネルギーを発光に変換するゲスト物質が添加された蛍光体(4)であって、硫黄、バリウムおよびガリウムを少なくとも含む前記ホスト物質と、サマリウムを少なくとも含み、前記電子のエネルギーを赤色発光に変換する前記ゲスト物質と、を備えた蛍光体(4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体および電磁波検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の診断装置や非破壊検査機器、空港等における保安検査装置等において、X線等の電磁波を使用した構成が広く採用されている。X線等の不可視の電磁波を可視化して検出するために使用されるシンチレータとして、以下の特許文献1、2に記載の技術が公知である。
特許文献1としての特開2007−248283号公報には、X線等の電磁波を可視化する材料の一例として、代表的なGdS:Tb(通称「GOS」、Tbドープのガドリニウムオキサルファイド)やCaWO(通称「CWO」)が記載されている。
特許文献2としての特開2001−59899号公報には、シンチレータの材料として、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)が添加(ドープ)されたシンチレータ材料(CsI:Tl)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248283号公報(「0030」)
【特許文献2】特開2001−59899号公報(請求項4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
特許文献1、2に記載されたシンチレータ材料では、X線が通過した場合に、GOSは緑色(ピーク発光波長が550nm程度)、CWOは青色(ピーク発光波長が425nm程度)、CsI:Tlは黄緑色(ピーク発光波長が570nm)の発光となる。
これらに対して、光検出器として広く使用されているCCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)等では、検出部にSiが使用され、受光ピークが700nm〜800nmとなっており、赤色の光に対する受光感度が高くなっている。すなわち、従来から広く使用されているシンチレータ材料では、半導体検出器を使用した場合に、感度特性に対してずれがあり、高感度化に限界があるという問題があった。また、各波長に適した検出器を使用しようとすると、検出器を特別注文(最適化)する必要があり、費用が高騰する問題があった。
【0005】
本発明は、X線等の電磁波が通過する場合に赤色発光する蛍光体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の蛍光体は、
電磁波が通過する場合に励起されるホスト物質に、励起されたホスト物質の電子のエネルギーを発光に変換するゲスト物質が添加された蛍光体であって、
硫黄、バリウムおよびガリウムを少なくとも含む前記ホスト物質と、
サマリウムを少なくとも含み、前記電子のエネルギーを赤色発光に変換する前記ゲスト物質と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項2に記載の発明の電磁波検出器は、
請求項1に記載の蛍光体により構成されたシンチレータと、
前記シンチレータからの赤色発光を検出する半導体検出器と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、2に記載の発明によれば、X線等の電磁波が照射された場合に、可視光である赤色発光する蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は実施例1のX線検査装置の概略説明図である。
【図2】図2はシンチレータ材料の作成方法の説明図である。
【図3】図3は実験例および比較例の組成を示す説明図であり、実験例および比較例のホスト物質の元素量を示す表である。
【図4】図4は実験例の吸収係数の測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸に透過率を取ったグラフである。
【図5】図5は波長960nmにおける吸収係数のサマリウム濃度依存性の説明図であり、横軸にサマリウムの濃度を取り、縦軸に吸収係数を取ったグラフである。
【図6】図6はPL測定の実験で使用した装置の概略説明図である。
【図7】図7は実験例および比較例のPL発光の測定結果の説明図であり、横軸にサンプルを取り、縦軸にPL発光の強度を取った片対数グラフである。
【図8】図8は実験例1に波長405nm励起光を照射した場合のPLスペクトルの測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸に強度を取ったグラフである。
【図9】図9は実施例1のX線励起発光の測定装置の説明図である。
【図10】図10は実験例1のX線励起発光の測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸にXL強度を取ったグラフである。
【図11】図11は実験例1のX線励起発光の高感度カメラにより撮影された画像の説明図である。
【図12】図12は実験例1のX線励起発光をカメラで撮影した写真の説明図であり、図12AはX線が照射された状態の全体の写真、図12Bは図12Aにおける蛍光体部分の写真、図12CはX線の照射が行われていない状態の蛍光体部分の写真である。
【図13】図13は実験例1のX線回折図であり、横軸に回折角2θをとり縦軸に強度を取ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0011】
図1は実施例1のX線検査装置の概略説明図である。
図1において、本発明の電磁波検出器の一例としての実施例1のX線検査装置1は、電磁波源の一例として、X線2aを照射するX線源2を有する。前記X線源2からのX線2aは、検査対象の物体である被検査体3に照射され、被検査体3を透過したX線が、蛍光体の一例としてのシンチレータ4に到達する。シンチレータ4に到達したX線2aによりシンチレータ4で発生する可視光4aは、撮像装置の一例であって半導体検出器の一例として、Siが使用されたCCDカメラ6で撮像される。CCDカメラ6には、画像処理装置の一例としてのコンピュータ7が接続されており、コンピュータ7によりCCDカメラ6で撮像された画像の処理が行われ、撮像された画像が表示器の一例としてのディスプレイ7aに表示される。
【0012】
(シンチレータの説明)
実施例1のシンチレータ4は、X線が通過する場合に励起されるホスト物資に、励起されたホスト物質の電子のエネルギーを発光に変換するゲスト物質が添加された材料により構成されており、ホスト物質として、硫黄(S)、バリウム(Ba)およびガリウム(Ga)を少なくとも含み、ゲスト物質として、赤色発光するサマリウム(Sm)を少なくとも含む。このようなシンチレータ4の材料の一例として、実施例1では、化学式:Ga−BaS:Sm、すなわち、硫化サマリウムが添加(ドープ)された硫化ガリウム−硫化バリウムの多結晶体を好適に使用可能である。
【0013】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のX線検査装置1では、被検査体3を通過したX線がシンチレータ4を通過する際に、赤色発光する。したがって、X線に対して青色や緑色の発光をするシンチレータに比べて、赤色光に高い感度を有する半導体検出器であるCCDカメラ6と感度特性が良く合っており、高感度化することが可能になる。よって、X線を高感度で検出することが可能になると共に、比較的低価格なCCDカメラ6を使用して感度を向上させることができる。
【0014】
(実験例)
次に、本願発明のシンチレータ4の機能を検証するための実験を行った。
【0015】
(シンチレータ材料の作成方法)
図2はシンチレータ材料の作成方法の説明図である。
図2において、実験例および比較例のシンチレータ材料のサンプルを作製する際に、内径10mmの石英ガラスアンプル11を使用した。
なお、実験例では、硫黄(S)を使用し、硫黄を主成分とするサンプルは昇温中に破裂する恐れがあるために、石英ガラスアンプル11の内部にカーボンコートを行った。すなわち、アンプル11中にアセトンを流し込み、高温で加熱することによって、シリコンカーバイド系の非常に薄い膜をアンプル11内に形成する。カーボンコートをすることによって、アンプル11の強度を上げ、破裂を避けることが可能である。なお、アンプル11内に残留する炭素は少量であり、カルコゲン元素(S、Se、Te等)と反応しないため、作製されるサンプル(シンチレータ材料)には影響が無いと考えられる。
【0016】
なお、実験例では、アンプル11内にカーボンコートを行う前に、石英ガラスアンプル11内を、有機溶媒およびフッ化水素を用いて洗浄した。そして、洗浄後にカーボンコートされたアンプル11内に原料を秤量し、原料が溶解中に酸化すること等を防ぐために、アンプル11を真空封入する。なお、実験例では、作製したいサンプル(シンチレータ材料)が4[g]となるように、秤量した。
図2において、原料が封入されたアンプル11を、中空円筒形の回転型電気炉12中に重り13をつけて接続線14でぶら下げた。なお、実施例では、接続線14としてニクロム線を使用したがこれに限定されず、利用可能な任意の接続線を使用可能である。
前記回転型電気炉12は、昇温速度を手動で100℃/min〜200℃/minに制御して790℃まで昇温し、0.6℃/min〜0.7℃/minで1000℃程度まで上昇させ、12時間1000℃で保持する。実施例1の回転型電気炉12は、最初は水平な状態に保ち、原料が均一に混ざるように、硫黄の融点(112.8℃)付近で3時間保ち、30分に1度撹拌を行う。そして、1000℃になった後も、30分に一度撹拌して、12時間経過した後、水16中に入れて水中急冷してバルクガラスを作製した。
【0017】
前記シンチレータ材料の作成方法で実験例1、2および比較例1〜12を作製した。
(比較例1〜6、8)
比較例1〜6、8は、ホスト物質としてのゲルマニウム(Ge)と硫黄(S)とガリウム(Ga)に、ゲスト物質としてのサマリウム(Sm)が添加されたサンプルであり、以下の化学式を満足する。
(GexSyGa100-x-y99.5Sm0.5
なお、x=14〜40、y=60〜80である。
すなわち、ゲスト物質は、原子%濃度(at%)で、Geがx[at%],Sがy[at%]、Gaが100−x−y[at%]であり、このゲスト物質99.5[at%]に0.5[at%]のSmが添加された組成となっている。なお、Smについては、他の希土類の光励起発光(PL発光)の実験結果などから、Smが0.1[at%]〜3[at%]ぐらいの範囲でPL発光し、X線励起発光(XL発光)も同程度ではないかと本件発明者の経験から考えて、代表的な値として、0.5[at%]を採用して実験を行った。
以下の各比較例および実験例では、各化学式を満足するように、原料として、純度99.9999%のSとGa,Ge、純度99.9%のSm2S3が秤量されてアンプル11中に収容される。
【0018】
(比較例7)
比較例7は、比較例1〜6においてカルコゲン元素の比較のため、硫黄(S)をセレン(Se)に置き換えた。具体的には、(GexSeyGa100-x-y99.5Sm0.5において、x=28.2、y=65.8とした。なお、比較例7では、比較例1〜6,8と異なり、純度99.999%のSeや、SmSeを原料とした。
(比較例9,10)
比較例9,10では、比較例1〜7のホスト物質に対して、ゲスト物質として、原子番号が50以上の重元素の一例としてのヨウ化セシウム(CsI)を添加したサンプルとした。なお、比較例9,10では、純度99.9%のCsIを原料とした。
(比較例11,12)
比較例11,12では、ゲルマニウムを含まないゲスト物質において、ゲスト物質として、重元素の一例としてのバリウム(Ba)を添加したサンプルとした。なお、比較例11,12では、純度99.9%のBaSを原料とし、製造過程において、1000℃で保持する時間を6時間とした。
(実験例1)
実験例1および実験例2では、ゲルマニウムを含まないゲスト物質において、ゲスト物質として、重元素の一例としてのバリウム(Ba)を添加したサンプルとした。なお、実験例1では、純度99.9%のBaSを原料とした。また、実験例では、製造過程において1000℃で保持する時間を、実験例1では12時間、実験例2では2時間とした。
【0019】
図3は実験例および比較例の組成を示す説明図であり、実験例および比較例のホスト物質の元素量を示す表である。
図3において、したがって、比較例1〜12および実験例1、2は、以下の組成となった。
比較例1:(Ge20.8S64.2Ga1599.5 Sm0.5
比較例2:(Ge19S75Ga699.5 Sm0.5
比較例3:(Ge29S65Ga699.5 Sm0.5
比較例4:(Ge14S80Ga699.5 Sm0.5
比較例5:(Ge19.4S77.6Ga399.5 Sm0.5
比較例6:(Ge23.5S70.5Ga699.5 Sm0.5
比較例7:(Ge28.2Se65.8Ga699.5 Sm0.5
比較例8:(Ge40S6099.5 Sm0.5
比較例9:(Ge2.8S33.6Ga27.6Cs18I1899.5 Sm0.5
比較例10:(Ge5.7S37.1Ga25.2Cs16I1699.5 Sm0.5
比較例11:(S53Ga12Ba3599.5 Sm0.5 1000℃ 6時間
比較例12:(S52.5Ga10Ba37.599.5 Sm0.5 1000℃ 6時間
実験例1:(S53.5Ga14Ba32.599.5 Sm0.5 1000℃ 12時間
実験例2:(S54Ga16Ba3099.5 Sm0.5 1000℃ 2時間
【0020】
前記実験例1および比較例1〜10の作製されたサンプルについて、各サンプルが結晶(ガラスセラミックス)になったか、非晶質(アモルファス)になったかを、XRD(X−ray Diffraction:X線回折)測定装置で測定した。
なお、実験例では、XRD測定装置として、株式会社リガク製RINT2000を使用して、粉末にしたサンプルをグリースでガラス板上に固定して測定を行った。なお、測定条件は以下の通りである。
発生X線:CuKα
ディフラクトメータとシンチレーション計数管
管電圧:40kV
管電流:200mA
走査軸:2θ/θ
スキャンスピード:2deg/min
サンプリング幅:0.01deg
スキャン範囲:20〜60deg
発散スリット:2deg
散乱スリット:2deg
受光スリット:0.6mm
【0021】
前記XRD測定装置により、比較例1〜10および実験例1のサンプルを測定すると、比較例1〜8では、スペクトルがブロード(なだらか)であり、非晶質と判別された。一方で、比較例9,10,11,12では、スペクトルがシャープな(尖った)ピークを持ち、結晶が主成分であると判断できた。これらに対して、実験例1では、非晶質の成分も結晶の成分も見られたので、両相の混在したガラスセラミックスと判断した。
【0022】
図4は実験例の吸収係数の測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸に透過率を取ったグラフである。
図5は波長960nmにおける吸収係数のサマリウム濃度依存性の説明図であり、横軸にサマリウムの濃度を取り、縦軸に吸収係数を取ったグラフである。
サマリウムがガラス中に分散していることを確かめるために吸収係数を測定した。実験は、比較例8のホスト物質Ge40S60を母材として使用し、それにSmを0[at%]、0.5[at%]、1[at%]、4[at%]、8[at%]添加したものについて吸収係数を測定した。実験結果を図4、図5に示す。
図4において、サマリウム特有の吸収帯が900〜1600[nm]に観測されており、サマリウム(Sm)がガラス中に分散していることがわかった。図5において、波長960nmにおける実験結果から、サマリウムの増加に応じて、吸収係数もほぼ比例して増加しており、母材へのサマリウムの溶解性が高いことが確認された。
【0023】
(光励起発光(Photoluminescence:PL発光)の測定)
X線励起発光の測定は、X線の取り扱いが難しいため、X線励起発光の測定よりも容易に測定が可能なPL発光の測定をまず行った。PL(Photoluminescence)で発光しない材料は、希土類(実験例および比較例ではSm)が光学的に活性で無い可能性があるので、X線励起でも強い強度で発光しないと考えられるからである。なお、比較例11,12および実験例2については、PL発光の測定を省略した。
【0024】
(PL測定装置の説明)
図6はPL測定の実験で使用した装置の概略説明図である。
図6において、PL測定の実験装置21は、光源22を有する。光源22からの光22aは、光学系の一例としての集光レンズ23で集光されて反射鏡24で、光照射対象のサンプル25に向けて反射される。サンプル25に照射された光22aによる光励起発光26は、光学系の一例としての集光レンズ27で集光されて測定器28に導入される。測定器28は、波長の一部をカットするフィルタ28aと、フィルタ28aを通過した光励起発光26を分光する分光器28bと、分光器28bで分光された光を検出する検出器28cとを有する。前記検出器28cには、ケーブル29を介して、データ処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ30に接続されており、パーソナルコンピュータ30で検出器28cで検出された検出データのデータ処理および処理結果の表示が行われる。
【0025】
なお、実施例1のPL測定の実験装置21では、光源22として、(1)波長405nmの半導体レーザ(出力:23.8[mW])、(2)波長488nmのイオンレーザ(出力:27.1[mW])、(3)波長532nmの半導体レーザ(出力:21.5[mW])を使用した。
また、測定器28として、(1)分光器28b:日本分光株式会社製CT−10(グレーティング:900[本/mm])、検出器28c:浜松ホトニクス株式会社製フォトマルR446、(2)JOBIN YVON社製TRIAX320(グレーティング1200[本/mm])を使用した。なお、実験では、PLの強度の測定には、(1)の測定器を使用し、PLのスペクトルの測定には、(2)の測定器を使用した。
さらに、フィルタ28cとして、強度が強い光源22からの光22aをカットするために、光源22として使用する各レーザに応じて、ハイパスフィルタO430(波長430nm以上を透過)、Y530(波長530nm以上を透過)、R617(波長617nm以上を透過)を使用した。
【0026】
(PL発光の測定結果)
図7は実験例および比較例のPL発光の測定結果の説明図であり、横軸にサンプルを取り、縦軸にPL発光の強度を取った片対数グラフである。
前記PL発光測定の実験装置21を使用して、比較例1〜10および実験例1について実験を行った。実験結果を図7に示す。
図7において、比較例1〜7では、照射される光の波長が短くなる(エネルギーが大きくなる)に連れてPL発光の強度が大きくなることが確認された。比較例1〜7の中では波長405nmの光励起に関して、比較例5のサンプルの強度が強くなった。これは、比較例5には、Gaが他の比較例に比べて少なく、Gaの割合がPLの強度に影響を与えることがわかった。
比較例8では、PL発光のスペクトルが測定されず、強度が求められなかった。比較例8のホスト物質として使用されているSe系が、比較例1〜7のS系ガラスに比べて強度が弱くなる理由としては、Se系ではガラス中で光が吸収されてしまうためではないかと考えられる。
【0027】
比較例10および実験例1では、PL発光の強度が非常に強く肉眼でも確認できるほど発光した。比較例5のPL発光強度に対して、比較例10、実験例1は、それぞれ、0.72倍、1100倍であった。
次に、励起源、すなわち、光源22の依存性を検討すると、405nmの励起源が他の2つの励起源と比べて、比較例5では、強度が10倍以上になることが確認された。これはSmが400nmに吸収帯(エネルギー準位5/25/2)を有しており、その400nmに近い励起源ほどPL発光の強度が強くなるのではないかと考えられる。
【0028】
図8は実験例1に波長405nm励起光を照射した場合のPLスペクトルの測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸に強度を取ったグラフである。
図8において、実験例1のサンプルに対して、室温(300K)で波長405nmの励起光を照射した場合のスペクトルにおいて、ピークは563nm帯(エネルギー準位5/25/2)、598nm帯(エネルギー準位5/27/2)、645nm帯(エネルギー準位5/29/2)、707nm帯(エネルギー準位5/211/2)と同定された。
したがって、サマリウム特有のエネルギー準位5/2から7/2への遷移が確認され、Smの発光を確認できた。
また、図8中のa1,a2、b1,b2、c1,c2、d1,d2などの1,2の添え字はシュタルク分裂した5/2準位からの遷移が見えている。これらによりサマリウムの発光を確認できた。
【0029】
(X線励起発光の測定)
図9は実施例1のX線励起発光の測定装置の説明図である。
図9において、実施例1のX線励起発光の測定装置31は、X線が外部に漏れることを防止するために周囲を囲むX線防護シールド32を有する。X線防護シールド32内には、電磁波源の一例として、X線33aを照射するX線源33が配置されている。このX線はCuKα線で、40mA,50-200kVで出力している。X線防護シール32内には、X線源33からのX線33aが照射される位置に、サンプル34が配置されている。
前記サンプル34からの発光は、X線防護シールド32の鉛ガラス36の外側に配置された分光器の一例としての透過型グレーティング37で分光される。分光された光は、透過型グレーティング37に近接して配置された検出器の一例としてのデジタルカメラ38で検出される。なお、実施例1では、透過型グレーティング37として、600本/mmのブレーズド回折格子を使用し、デジタルカメラ38として、レンズの焦点距離35mm、F値3.5のデジタルカメラを使用し、15秒の露出で低分解能のスペクトルを鉛ガラスを通して撮影した。
前記デジタルカメラ38には、情報処理装置の一例としての従来公知のパーソナルコンピュータ39が接続されており、パーソナルコンピュータ39は、デジタルカメラ38での検出データのデータ処理および処理結果の表示を行う。なお、実施例1のX線励起発光の測定装置31では、デジタルカメラ38およびパーソナルコンピュータ39により、スペクトル強度を測定した。
【0030】
図10は実験例1のX線励起発光の測定結果の説明図であり、横軸に波長を取り、縦軸に強度を取ったグラフである。
前記X線励起発光の測定装置31を使用して、比較例1〜12および実験例1、2のサンプルのX線励起発光(XL発光:X-ray Luminescence)の確認を行った。実験結果を図10に示す。
図10において、サンプル34として、実験例1を使用した場合には、PL測定で得られたのと同様な560nm、600nm、640nmにおけるSm特有の発光が確認された。これにより、X線照射により、Smが発光していることが確認された。また、実験例2でも同様の結果が得られた。なお、比較例1〜12では、発光は確認されなかった。
【0031】
図11は実験例1のX線励起発光の高感度カメラにより撮影された画像の説明図である。
図12は実験例1のX線励起発光をカメラで撮影した写真の説明図であり、図12AはX線が照射された状態の全体の写真、図12Bは図12Aにおける発光体部分の写真、図12CはX線の照射が行われていない状態の発光体部分の写真である。
図11において、実験例1のサンプル34を、高感度CCDカメラで撮影すると、図11の画像に示すように、中央部で発光しているのが確認された。
また、実験例1のサンプルは、高感度のCCDカメラだけでなく、暗中で肉眼でも発光が観測された。その写真を図12に示す。なお、写真はフラッシュをたいている。図12に示すように、X線励起発光の部分が赤く光っているのがわかり、かなり強い発光であると推察される。
【0032】
(結晶の同定)
図13は実験例1のX線回折図であり、横軸に回折角2θをとり縦軸に強度を取ったグラフである。
次に、X線励起発光をした実験例1のサンプルに関して、XRD測定装置により、結晶相の同定を試みた。実験結果であるX線回折図形を、図13に示す。
図13において、実験例1の結果は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDFカード00−049−1599に一致し、Ba4Ga2S7が主成分であると同定できた。原料のBaS、Ga2S3からの信号は見られず、未反応の原料は残っていないことも確認された。
したがって、サマリウムを添加したバリウムを含むGa-S系のカルコゲナイドガラスセラミックスからX線励起の赤色発光を捕らえることができることが確認された。また、実施例1のサンプルは、単結晶を作製する作製法に比べて、作製法が複雑ではなく容易であり、多結晶でも発光しているため、作製が容易であると共に、作製コストも低減できる。
【0033】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した測定装置や測定条件等については、例示した数値等に限定されず、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例におけるX線検査装置は、被検査体3が人体である場合には、病気や患部の診断や診察等に使用するためのX線診察装置として使用可能である。また、被検査体が利用客や荷物の場合、危険物や持ち込み禁止品等の保安上の検査を行うための空港や港等の保安検査装置としても使用可能である。さらに、被検査体3が建築物や美術品、文化財等の場合、破損や過去の修理状況、内部の構造を非破壊で検査する非破壊検査装置として使用可能である。
【0034】
(H03)前記実施例において、電磁波の一例として、X線を例示したが、これに限定されず、紫外線や、ガンマ線等の放射線の赤色光への変換(可視化)にも適用が期待できる。
(H04)前記実施例において、X線を可視光である赤色光で観測することができ、目で見えるようになっているため、例えば、従来公知の緑色の蛍光体や青色の蛍光体も併用することで、R,G,Bの三原色の発光を利用したX線疑似カラー画像を得ることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…電磁波検出器、
2a…電磁波、
4…蛍光体、シンチレータ、
6…半導体検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波が通過する場合に励起されるホスト物質に、励起されたホスト物質の電子のエネルギーを発光に変換するゲスト物質が添加された蛍光体であって、
硫黄、バリウムおよびガリウムを少なくとも含む前記ホスト物質と、
サマリウムを少なくとも含み、前記電子のエネルギーを赤色発光に変換する前記ゲスト物質と、
を備えたことを特徴とする前記蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体により構成されたシンチレータと、
前記シンチレータからの赤色発光を検出する半導体検出器と、
を備えたことを特徴とする電磁波検出装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−36230(P2012−36230A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174525(P2010−174525)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】