説明

蛍光体が組み込まれたフォトニックバンドギャップ材料

本発明は、蛍光体が組み込まれたフォトニックバンドギャップ材料の使用に関する。フォトニックバンドギャップ材料は、高い放射輝度が望まれるアプリケーション又はLEDが光学系に用いられるアプリケーションにおける光源としてのLEDのために重要な役割を果たす。現在のLEDの光学特性は、放射輝度が相対的に低く且つ標準的な手段によっては増加させられないようなものである。本発明の目的は、蛍光体が組み込まれたフォトニックバンドギャップ材料を用いることにより発光デバイスの放射輝度を改善することにある。本発明によれば、特定の方向にのみ、光子の状態密度とも称される光子周波数の範囲を調整するフォトニック構造を有し、光子周波数が前記フォトニック構造により調整される前記範囲にある少なくとも1つの放射モードを持つ蛍光体材料をさらに有する構造化材料であって、当該構造化材料は、前記フォトニック構造が3つより少ない方向に前記蛍光体材料の前記少なくとも1つの放射モードにより放射される光子の生成を調整するように立方よりも低い対称性を持つことを特徴とする構造化材料が提供される。このようにして、放射輝度を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体が組み込まれたフォトニックバンドギャップ材料(photonic band gap materials)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップ材料は、高い放射輝度(radiance)が望まれるアプリケーション又はLEDが光学系に用いられるアプリケーションにおける光源としてのLED(light emitting diodes)のために重要な役割を果たす。現在のLEDの光学特性は、放射輝度が相対的に低く且つそれらのエテンデュー(etendue)にかんがみて、該放射輝度が標準的な手段によっては増加させられないようなものである。エテンデューEは、光学系が光を受け入れる能力を特徴づける。エテンデューは、放射源の面積とそれが伝播する立体角との関数である。それゆえ、エテンデューは、システムスループットの限界関数(limiting function)である。LEDは高いスイッチング速度を示すが、広角度に光を放射する。このことが、LEDを光学系にそれ程適さないものにしている。LEDは、一旦電気的または光学的に励起されると光子(photons)を放出する所謂発光材料(emissive materials)である。フォトニックバンドギャップ材料は、非常に効率よく1つ以上の角度から選択波長域の光を反射する上記発光材料のための鏡をデザインするために用いられ得る。さらに、フォトニックバンドギャップ材料は、特定の波長及び方向に光を放射するLEDを作るため発光層内に組み込まれ得る。
【0003】
相対的に低い放射輝度を被るLEDの作用は、以下のように説明される。放射輝度Lは、エテンデューEで除された光束φにより与えられる。エテンデューEは、光発生面積Aと光がデバイスを出る立体角Ωとの乗算により与えられる。すなわち、
L=φ/E
E=A×Ω
である。
【0004】
熱力学平衡にある光源について、エテンデューは保存される。これは、例えば光学素子を適用することによる立体角の低減が、実効光発生面積の増加と両立することを意味する。ゆえに、熱力学平衡にあるLEDについての光束φを考えれば、LEDの放射輝度Lを増加させることはできない。
【0005】
LEDの低い放射輝度は妨げとなり、内視鏡検査のように高い放射輝度が必要とされるアプリケーションや自動車ランプのように特定の配光を生成するためにLEDが光学系に適用されるアプリケーションからLEDを阻む。これらの不利な点は以下の表に示される。
【表1】

【0006】
国際特許出願公開第WO 01/69309 A2号公報に、フォトニックバンドギャップ透明電極構造を備える発光構造が開示されている。この記載によると、LCD(liquid crystal displays)デバイスにおける、ITO(indium tin oxide)等の半導体/金属酸化物からなる従来の透明電極が、電磁スペクトルの可視域の波長を透過するフォトニックバンドギャップ構造を呈する、透明な多層電極、すなわち、透明なスタックと置き換えられる。特定の実施例によると、活性層の下の基板層が、炭化珪素(Silicon Carbide: SiC)組成からなる半導体基板層である。
【0007】
国際特許出願公開第WO 03/087441 A1号公報は、フォトエミッションモード(mode of photoemission)を抑制するフォトニック材料を述べている。好ましくは、これら材料は、フォトニック格子(photonic lattice)のためのテンプレートとしてポリスチレン球(polystyrene spheres)をアセンブルし、これら材料間のギャップに第1の材料を充填し、前記球を取り除き、次いで、前記球により残された空間に第2の材料を充填することにより製造される。何れの材料も蛍光体でドープされてもよい。ルミネセンス蛍光体の2つの重要なクラス、すなわち、放射される光の波長が吸収される光の波長よりも長いストークス蛍光体(Stokes phosphors)、及び吸収される光よりも短い波長の光を放射するアンチストークス蛍光体(anti-Stokes phosphors)が言及されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、蛍光体が組み込まれたフォトニックバンドギャップ材料を用いることにより発光デバイスの放射輝度を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、特定の方向にのみ、光子の状態密度(photon density of states)とも称される光子周波数の範囲を調整するフォトニック構造と、光子周波数が前記フォトニック構造により調整される前記範囲、すなわち、光子の状態密度にある少なくとも1つの放射モードを持つ蛍光体材料と、を有する構造化材料であって、当該構造化材料は、前記フォトニック構造が3つより少ない方向に前記蛍光体材料の前記少なくとも1つの放射モードにより放射される光子の生成を調整するように立方よりも低い対称性を持つことを特徴とする構造化材料が提供される。このようにして、放射輝度を増加させる。
【0010】
好ましい実施例においては、前記蛍光体材料が、前記フォトニック構造に埋め込まれている。
【0011】
他の実施例によれば、前記蛍光体材料が、前記フォトニック構造内で少なくとも部分的に被覆されている。
【0012】
当該構造化材料は、前記蛍光体材料の前記少なくとも1つの放射モードにより放射される光子を調整する反射性材料を有することが好ましい。
【0013】
他の好ましい実施例においては、前記フォトニック構造が周期格子(periodic lattice)を有する。
【0014】
本発明によれば、上述の実施例の1つにしたがう構造化材料を有するLEDも提供される。
【0015】
本発明の本質的な特徴は、吸収及び放射がもはや同一の波長で必然的に生じないユニットを作ることに役立つ、フォトニックバンドギャップ材料に組み込まれる物質の適用である。(アンチ)ストークスシフト((anti-)Stokes Shift)により、光は、ルミネセンス材料が吸収しないスペクトル域で放射される。このようにして、熱力学平衡が相当に回避され、その結果、波長を変えることにより放射輝度を増大させることができる。結果として、LEDの短所を解消することができる。なぜなら、光の発生が熱力学平衡で生じないからである。しかしながら、このことは、非フォトニックバンドギャップ材料でも当てはまり、本発明の特別な特徴ではない。
【0016】
本発明のより重要な側面は、フォトニックバンドギャップ材料が、ホストフォトニック結晶の適切な対称性を選択することにより、1つ以上の好ましい方向に、該フォトニックバンドギャップ材料に組み込まれる1つ以上のルミネセンス材料の光放射(optical emission)を調整するため、及び他の方向への放射を禁じるために用いられるということである。このようにして、熱力学平衡を回避することができる。このため、立方よりも低い対称性を備えたホストフォトニック結晶が選択されなければならない。結果として、エテンデューを減少させ、放射輝度を増大させるように、立体角を大幅に減らすことができ、及び/又は上述の式にしたがって実効発光面積を減らす。
【0017】
LEDで発生する光は、ある立体角で放射される。エテンデューの保存をかんがみて、このことは、立体角の低減は、実効光発生面積の増加により達成されることを意味する。フォトニックバンドギャップ材料は、光伝播がある波長域で1つ以上の方向において抑制され得るようにデザインされ得る。ルミネセンス材料の適用は、放射波長を変える。好ましい実施例によれば、LEDにより放射される全ての光を用いるが、該光を1つまたは2つの方向にしか放射しないフォトニックバンドギャップ構造が用いられる。LEDにより放射される全ての光を用いることは、光がフォトニックバンドギャップ材料内で全ての方向に伝播し得るスペクトル域におけるルミネセンス材料による吸収を意味する。
【0018】
本発明を、例として、添付の図面を参照して以下述べる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図は、黒丸により表されている、遥かに小さなルミネセンス部分(luminescent moieties)がドープされている、白丸により表されている、光の波長のオーダーの大きさのビルディングブロックからなるフォトニック結晶の断面図を示す。ルミネセンス部分はフォトニック結晶の周期性に影響を及ぼさない。ルミネセンス粒子は500nmより小さい径を持つべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】黒丸により表されている、遥かに小さなルミネセンス部分がドープされた、白丸により表されている、光の波長のオーダーの大きさのビルディングブロックからなるフォトニック結晶の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の方向にのみ光子周波数の範囲を調整するフォトニック構造と、
光子周波数が前記フォトニック構造により調整される前記範囲にある少なくとも1つの放射モードを持つ蛍光体材料と、
を有する構造化材料であって、
当該構造化材料は、前記フォトニック構造が3つより少ない方向に前記蛍光体材料の前記少なくとも1つの放射モードにより放射される光子の生成を調整するように立方よりも低い対称性を持つことを特徴とする構造化材料。
【請求項2】
前記蛍光体材料は、前記フォトニック構造に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の構造化材料。
【請求項3】
前記蛍光体材料は、前記フォトニック構造内で少なくとも部分的に被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造化材料。
【請求項4】
前記蛍光体材料の前記少なくとも1つの放射モードにより放射される光子を調整する反射性材料を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の構造化材料。
【請求項5】
前記フォトニック構造が周期格子を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の構造化材料。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の構造化材料を有するLEDデバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2008−507839(P2008−507839A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522093(P2007−522093)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052344
【国際公開番号】WO2006/011095
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】