説明

蛍光体の製造方法及び非晶質緑色蛍光体

【課題】合成に特殊な装置を必要とせず、比較的低温で合成することを可能とし、近紫外線で励起すると緑色に発光する蛍光体の製造方法及び非晶質緑色蛍光体提供する。
【解決手段】溶液法により得られた蛍光体前駆体を800〜930℃で焼成することを特徴とする一般式M1TbSiO2+x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦0.9)で表される非晶質緑色蛍光体の製造方法および一般式M1TbSiO2+x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦0.9)で表される非晶質緑色蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な蛍光体の製造方法及び非晶質緑色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な白色LEDは、近紫外線や青色光を発するLEDと、LEDの発する光を吸収し、赤色に発光する蛍光体と緑色に発光する蛍光体とを組み合わせて作製されている。こうした白色LEDに使用される緑色蛍光体としては、(Ba,Sr)3Si2O3N(BSON)が知られている。しかし、この種の緑色蛍光体は1,200〜2,000℃の高温で合成され、しかも1次焼成、2次焼成の2工程で長時間(場合によっては100時間以上)にわたる焼成工程が必要とされるため、その分使用エネルギーのコストが高くなるものとされている(例えば特許文献1参照)。このため従来から低エネルギー(低温度、短時間)で合成される緑色蛍光体の開発が望まれている。
【0003】
一方、比較的低温で蛍光体を合成する方法としては、メタケイ酸ナトリウム水溶液を原料としたゾルゲル法により得られたゲルを、還元性雰囲気中で800〜1400℃で焼成し、mM1O・nM2O・2SiO(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上、M2は、Mg及びZnから選ばれる1以上、0.5≦m≦3.5、0.5≦n≦2.5)で表されるものが知られ、この蛍光体は146nmで励起すると青色に発光するものとされる(特許文献2参照)。さらにpH1〜3にしたメタケイ酸ナトリウム水溶液とアルカリ性水溶液を反応させて得られた前駆体を、1,260℃で焼成し、(Zn(2-x)Mn)SiO(式中、0<x≦0.3で表される)も知られ、この蛍光体は146nmで励起すると緑色に発光するPDPパネル用ケイ酸亜鉛マンガン蛍光体とされている(例えば特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの蛍光体の発光領域は、励起波長が146nm程度の紫外線であるため、近紫外線や青色光を発するLEDを励起源として用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−287027号公報
【特許文献2】特開2005−89688号公報
【特許文献3】特開2006−321692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、合成に特殊な装置を必要とせず、比較的低温で合成することを可能とし、近紫外線で励起すると緑色に発光する蛍光体の製造方法及び非晶質緑色蛍光体提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体の製造方法のうち請求項1に係るものは、溶液反応により得られた蛍光体前駆体を500〜930℃で焼成し、一般式M1TbSiO2+x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦1.3)
で表される非晶質緑色蛍光体を得ることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係るものは、請求項1の蛍光体の製造方法において、前記溶液反応において、Si原料がメタケイ酸ナトリウム、水ガラスまたはアルコキシシランであり、Tb原料がTb(III)の塩またはアルコキシドであり、M1原料がM1元素の塩またはアルコキシドであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係るものは、請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法において、前記一般式において、M1がCaであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係るものは、請求項1ないし3のいずれかに記載の蛍光体の製造方法において、前記蛍光体前駆体は800〜930℃で焼成し、一旦常温まで冷却した後、400〜850℃で再度加熱し、焼成したものである。
【0011】
請求項5に係る蛍光体は、請求項1から4のいずれかの蛍光体の製造方法により得られることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る非晶質緑色蛍光体は、一般式M1TbSiO2+1x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦1.3)で表されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非晶質緑色蛍光体を800〜930℃で合成できるので、特殊な装置を必要としない。
また、蛍光体が非晶質であるため、結晶性蛍光体であれば濃度消光が発生するような付活剤の添加量であっても、濃度消光が起きない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の蛍光体のX線回折図を示す。
【図2】実施例1の蛍光体の励起及び発光スペクトルを示す。
【図3】実施例1〜3の蛍光体の発光スペクトルを示す。
【図4】実施例5、6及び比較例1、2の蛍光体のX線回折図を示す。
【図5】実施例5、6及び比較例1、2の蛍光体の発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蛍光体の製造方法は、まず、溶液反応により蛍光体前駆体を製造する。具体的には、Si原料を含む溶液と、Tb(III)原料とM1原料を含む溶液とを反応させることにより、蛍光体前駆体を製造する。
【0016】
Si原料としては、オルトケイ酸ナトリウム9水和物、水ガラス、アルコキシシランなどが挙げられるが、安価で反応しやすいオルトケイ酸ナトリウム9水和物が好ましい。
Si原料を溶解させる溶媒としては、アルコールなどの有機溶媒、水などがあげられるが、Si原料がオルトケイ酸ナトリウム9水和物、水ガラスの場合は水、アルコキシシランの場合は有機溶媒が好ましい。
【0017】
M1原料としては、M1元素の塩またはアルコキシドがあげられる。M1の塩としては、溶媒に溶解すれば特に限定されず、塩化物、硝酸塩、酢酸塩などがあげられる。M1のアルコキシドのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基などがあげられる。
M1原料を溶解させる溶液としては、アルコールなどの有機溶媒、水などがあげられるが、Si原料を溶解させた溶媒と同じものを用いるのが好ましい。
【0018】
Tb(III)原料としては、Tb(III)の塩またはアルコキシドが挙げられる。Tb(III)の塩としては、溶媒に溶解すれば特に限定されず、塩化テルビウム6水和物、硝酸テルビウム6水和物などがあげられる。Tb(III)のアルコキシドのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基などがあげられる。
【0019】
Si原料、M1原料、Tb(III)原料の配合比は、得ようとする蛍光体のSi:M1:Tb(III)のモル比とほぼ同じにすればよい。
Si原料を含む溶液と、Tb(III)原料及びM1原料を含む溶液とを、通常20〜90℃、好ましくは40〜60℃で、通常1〜120分間、好ましくは10〜60分間、撹拌混合することにより白色生成物を生成する。
【0020】
このようにして得られた生成物をろ過することによりゲルが得られる。得られたゲルを水または有機溶媒により洗浄した後、必要に応じて300℃以下で乾燥することにより、蛍光体前駆体が得られる。
【0021】
本発明においては、得られた蛍光体前駆体を800〜930℃、好ましくは860〜920℃、特に好ましくは880〜910℃の温度で焼成し、蛍光体前駆体に含まれる付着水、構造水およびOH基をほぼ完全に除去して、非晶質蛍光体を得ることが特徴である。焼成温度が高すぎると得られる蛍光体が結晶化するおそれがあり、また焼成温度が低すぎると発光強度が低くなるおそれがあり、上記のような温度帯で焼成するのが好ましい。
【0022】
また焼成時間が短すぎると蛍光体前駆体に含まれる水およびOH基をほぼ完全に除去することができない。一方、焼成時間が長すぎるとウォラストナイトの結晶が生成するので、非晶質が維持される程度の時間である必要がある。そのため焼成時間は、焼成に供される蛍光体前駆体の量や蛍光体前駆体の乾燥状態などにより異なるが、通常5分間〜3時間、好ましくは10〜70分間、特に15〜30分間とするのが最適である。
焼成は、大気雰囲気などの酸化雰囲気で行う。還元雰囲気だとTb(III)がTb(II)に還元され、蛍光体の発光色が緑色ではなくなるので好ましくない。
【0023】
焼成後、常温まで冷却することにより得られた蛍光体は、通常450〜850℃、好ましくは600〜750℃で、20分〜数時間、再度加熱すると、発光強度が高くなるので好ましい。再度加熱することにより発光強度が高くなる理由については、焼成後、常温まで冷却することにより発生した結晶構造中の歪が、再度の加熱により除去されているためと推測される。
【0024】
このようにして得られる蛍光体は、非晶質であり、一般式M1TbSiO2+x+1.5yで表される。
一般式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素を表し、x、yは、0.6≦x+1.5y≦1.3、好ましくは0.8≦x+1.5y≦1.2で表される数である。酸素は2+x+1.5yで表される量より欠損していてもよい。また、一般式で表される非晶質蛍光体は、蛍光体1モルに対し、0.1モル以下の水またはOH基を含んでいてもよい。
また、得られた蛍光体のTb/M1のモル比は通常0.2〜1.0、好ましくは0.5〜0.9である。Tb/M1のモル比が小さすぎても、大きすぎても発光強度が低くなる傾向にある。
【0025】
蛍光体の組成は、得られた非晶質蛍光体が塩酸に溶解しにくいことから、蛍光体前駆体のCa、Tb及びSiの量を測定し、焼成によってこれらの元素は揮発しないとして、蛍光体の組成を決定した。蛍光体前駆体の組成は、蛍光体前駆体を塩酸で溶解した後、ICP(誘導結合プラズマ発光分析)などによりCa、Eu及びSiの量を測定することにより割合を決定した。Oの割合は、便宜的に、Caのモル数に対して1倍、Tbのモル数に対して1.5倍、Siのモル数に対して2倍して得られた数を和することにより決定した。また、非晶質蛍光体に含まれる水及びOH基の量は、TG(示差熱分析)の100〜800℃の減量により決定した。
【0026】
蛍光体が非晶質であることは、X線回折により確認することができる。
このようにして得られる本発明の非晶質蛍光体は、378nmの近紫外線により励起され、530〜560nmの範囲に主発光ピークを有する。
【0027】
本発明の非晶質緑色蛍光体は、近紫外線の照射により、緑色において高い発光強度を示すので、近紫外線LEDを用いた白色LEDに極めて有用である。
【実施例1】
【0028】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
塩化カルシウム(例えば関東化学株式会社製)0.9603g(0.00865モル)を純水200mlに溶解した溶液に塩化テルビウム(III)6水和物(例えば関東化学株式会社製)1.5354g(0.00411モル)を固体で添加してこの溶液を50℃に保持した。
【0029】
メタケイ酸ナトリウム9水和物(ナカライテスク(株)製)3.5043g(0.0123モル)を純水200mlに溶解して、50℃に保持した。酸化カルシウムと塩化ユウロピウムを含む溶液と、メタケイ酸ナトリウムを含む溶液とを混合したところ白色生成物が得られた。これを50℃に保持しながら、30分間撹拌して反応を完結させた。
【0030】
反応生成物を吸引ろ過し、得られた固体を純水100mlで洗浄、ろ過した後、40℃で24時間乾燥させ、蛍光体前駆体を得た。得られた蛍光体前駆体の組成をICPを用いて測定した結果、CaO:15.3mass%,Tb:22.9mass%,SiO:37.0mass%,HO:24.8mass%であった。
【0031】
得られた蛍光体前駆体を900℃に維持した電気炉に導入し、30分間焼成を行い、蛍光体を得た。得られた蛍光体の100〜800℃のTGにおける減量は、蛍光体1モルに対し0.1モルであり、蛍光体の組成はCa0.44Tb0.21SiO2.76であった。
【0032】
得られた蛍光体の結晶性をX線回折により確認した。結果を図1に示す。図1より明らかなように得られた蛍光体は非晶質であった。また、得られた蛍光体の励起スペクトル及び発光スペクトルを日立社製F−4500を用いて測定した。この結果を図2に示す。さらに、得られた蛍光体に378nmの近紫外線を照射したところ、波長544nm付近に強い発光が確認された。このときの発光スペクトルを図3に示す。
【実施例2】
【0033】
塩化カルシウムを1.1714g(0.01056モル)、塩化テルビウム(III)6水和物を1.1238g(0.00301モル)、メタケイ酸ナトリウム3.7048g(0.0130モル)とした他は、実施例1と同様に行い、900℃で加熱して蛍光体を得た。
【0034】
得られた蛍光体の組成はCa0.17Tb0.31SiO2.635で、X線回折の結果、非晶質であった。また、得られた蛍光体に378nmの近紫外線を照射したところ、波長544nm付近に発光が確認された。このときの発光スペクトルを図3に示す。
【実施例3】
【0035】
塩化カルシウムを0.8811g(0.00793モル)、塩化テルビウム(III)6水和物を01.6902g(0.00453モル)、メタケイ酸ナトリウム3.4288g(0.0121モル)とした他は、実施例1と同様に行い、900℃で加熱して蛍光体を得た。
【0036】
得られた蛍光体の組成はCa0.70Tb0.10SiO2.85で、X線回折の結果、非晶質であった。また、得られた蛍光体に378nmの近紫外線を照射したところ、波長544nm付近に発光が確認された。このときの発光スペクトルを図3に示す。
【0037】
<比較例1>
実施例1において、得られた蛍光体前駆体を700℃に維持した電気炉に導入した他は実施例1と同様に行い、蛍光体を得た。得られた蛍光体の結晶性をX線回折により確認したところ、非晶質であった。結果を図4に示す。また、得られた蛍光体に378nmの近紫外線を照射したところ、発光波長544nm付近に強い発光が確認された。このときの発光スペクトルを図5に示す。
【0038】
<比較例2>
実施例1において、得られた蛍光体前駆体を950℃に維持した電気炉に導入した他は実施例1と同様に行い、蛍光体を得た。
【0039】
得られた蛍光体の結晶性をX線回折により確認したところ、ウォラストナイトが生成していた。結果を図4に示す。また、得られた蛍光体に378nmの近紫外線を照射したところ、発光波長544nm付近に発光が確認された。このときの発光スペクトルを図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により得られる非晶質緑色蛍光体は、近紫外線の照射により、緑色において高い発光強度を示すので、近紫外線LEDを用いた白色LEDに極めて有用である。また、EL素子用の蛍光体、バックライト用のパネル、面発光体、照明体、掲示板などに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液反応により得られた蛍光体前駆体を800〜930℃で焼成し、一般式M1TbSiO2+x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦0.9)で表される非晶質緑色蛍光体を得ることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記溶液反応において、Si原料がメタケイ酸ナトリウム、水ガラスまたはアルコキシシランであり、Tb原料がTb(III)の塩またはアルコキシドであり、M1原料がM1元素の塩またはアルコキシドであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式において、M1がCaであることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体前駆体は800〜930℃で焼成し、一旦常温まで冷却した後、400〜850℃で再度加熱し、焼成したものである請求項1ないし3のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれに記載の蛍光体の製造方法により得られることを特徴とする非晶質緑色蛍光体。
【請求項6】
一般式M1TbSiO2+x+1.5y(式中、M1は、Ca、Sr及びBaから選ばれる1以上の元素、0.6≦x+1.5y≦1.3)で表される非晶質緑色蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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