説明

蛍光体の製造方法

【課題】 簡便な製造方法で蛍光体粒子の組成・粒子径を制御し、発光効率が高く信頼性に優れたIII族窒化物蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造のIII族窒化物蛍光体の製造方法であって、界面活性剤で包摂された前記コアの前駆体の製造工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体を溶液中で混合する工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱し前記コアにシェルを成長させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造の蛍光体の製造方法に関し、特に合成手順が簡便であり、合成収率が高く、発光強度、蛍光の発光効率を向上させた2層構造のIII族窒化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶を励起子ボーア半径程度に小さくすると、量子サイズ効果、例えばバンドギャップエネルギーの増大、遷移確立の増大、非線型光学係数の増大およびホールバーニングなどを示すことが知られている。しかし、このような量子サイズ効果が現れる半導体結晶の表面はタングリングボンド(未結合手)が支配的であるため、半導体結晶をそのバンドギャップ(バンド間のエネルギーギャップをいう、以下同じ)より大きなバンドギャップを有する材料で覆うことにより、半導体結晶表面の欠陥をキャッピングする技術が提案されている(非特許文献1)。ここで上記非特許文献1には、半導体コアとしてInAsを用い、半導体シェルとしてGaAs、InP、CdSeを用いたものが提案されている。また、ワイドギャップの半導体として窒化物系半導体の微粒子合成の試みがなされている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−220213号公報
【非特許文献1】Yun Wei Cao and Uri Banin著(Journal of American Chemical Society 2000,122,9692)American Chemical Society出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非特許文献1に記載されている種々のシェルで被覆されているInAsコアは、主に近赤外領域での発光波長を有する。したがって、例えば励起光源として窒化ガリウム系半導体の発光素子により励起されて赤色、緑色、青色の蛍光を示し、これらを混色して白色発光を得ることはできない。つまり、前記コア/シェル半導体粒子は蛍光体として利用することができない。また、非特許文献1に記載されているコア/シェル半導体粒子の製造方法は一旦コアを製造し、次にコア表面上にシェルを製造する2段階の製造方法を採っている。一方、特許文献1に記載の窒化物系半導体の微粒子は、表面修飾されておらず、微粒子の粒子径の制御方法は、反応温度と反応時間にのみ依存している。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑み、簡便な製造方法で発光効率(発光の際の内部量子効率をいう、以下同じ)が高く信頼性に優れたIII族窒化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造の蛍光体の製造方法であって、界面活性剤で包摂された前記コアの前駆体の製造工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体を溶液中で混合する工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱し前記コア上にシェルを成長させる工程を含むことを特徴とする前記2層構造の蛍光体の製造方法に関する。ここで前記コアの前駆体および前記シェルの前駆体が、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物であることが望ましい。また前記コアの前駆体および/または前記シェルの前駆体は、三塩化インジウムとリチウムジメチルアミドから合成されるインジウム化合物であることが望ましい。
【0006】
また本発明の蛍光体の製造方法において、前記コアの前駆体が、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物であり、かつ、前記シェルの前駆体が酸化物であることが望ましい。ここでIII族元素は、好適にはインジウムおよび/またはガリウムである。また、本発明の製造方法において前記コアは、好適には励起子ボーア半径の2倍以下の微粒子に調整される。
【0007】
更に、本発明の蛍光体の製造方法において、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱する温度が、180〜500℃であり、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱する時間が、6〜72時間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蛍光体の製造方法によれば溶液中で加熱する1段階の製造操作による液相合成で、蛍光体粒子の高収率、大量合成が可能である。そして界面活性剤の作り出すミセル場の大きさを調整することによってコアの粒子径が制御可能である。コアの前駆体とシェルの前駆体とは界面活性剤で分離されているため、それぞれの前駆体の混合比を制御することにより、400〜410nmの励起光で、シェルによる励起光の吸収が可能となり、シェルからコアへのエネルギー遷移とコアでの発光により、発光効率の高いIII族窒化物蛍光体を合成できる。
【0009】
更に、シェルの前駆体に酸化物前駆体化合物を用いることにより、コアの表面欠陥を被覆できる。コアの前駆体およびシェルの前駆体として用いるIII族元素と窒素との結合を有する化合物のIII族元素が、インジウムとガリウムであることにより、高効率で400〜410nmの励起光を吸収し、発光効率の高い赤色、緑色、青色発光が可能となり、これらを混色して白色発光を得ることができる。励起子ボーア半径の2倍以下の粒子径に制御することにより、量子サイズ効果を示し高効率の蛍光体を製造できる。
【0010】
前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱する温度を180〜500℃の範囲に調整することで、気相反応より低温で操作が簡便である。また加熱時間を6〜72時間とすることで、蛍光体粒子は十分に結晶性が高く欠陥が少ないものに調整し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明は、蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造の蛍光体の製造方法であって、界面活性剤で包摂された前記コアの前駆体の製造工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体を溶液中で混合する工程と、前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱し前記コア上にシェルを成長させる工程を含む。
【0012】
例えば、蛍光体の製造方法のフローを示す図1において、前記コアの前駆体と、前記シェルの前駆体を溶液中で混合した後に、この混合物を加熱して1段階で反応させ、任意的な冷却回収工程を経て2層構造の蛍光体を製造する。得られた蛍光体は、図3に示される如く、コア21と該コア21を被覆するシェル22の2層構造で構成される。
【0013】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
<コアの前駆体の製造工程>
コアの前駆体は、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物が好適に使用される。そこで分子中にインジウムと窒素との結合および、ガリウムと窒素との結合を有する化合物を用いたコアの前駆体製造方法を例に以下説明する。
【0014】
リチウムジメチルアミドと三塩化インジウムを、n−ヘキサンの溶媒中で攪拌しながら、反応温度5℃〜30℃、さらに望ましくは10℃〜25℃で、反応時間は24時間〜120時間、さらに好ましくは48時間〜72時間である。反応終了後、副生成物である塩化リチウムを取り除き、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーを取り出す。この反応を化学式(1)で示す。
【0015】
【化1】

【0016】
同様の方法で、リチウムジメチルアミドと三塩化ガリウムを、n−ヘキサン溶媒中で攪拌しながら、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを合成する。この反応を化学式(2)で示す。
【0017】
【化2】

【0018】
次に上記の方法により合成したトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを、n−ヘキサン溶媒中で攪拌しながら、合成温度5℃〜30℃、さらに望ましくは10℃〜25℃で、24時間〜120時間、さらに好ましくは48時間〜72時間、反応を行い、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを取り出す。この反応を化学式(3)で示す。
【0019】
【化3】

【0020】
リチウムジメチルアミドと生成物のトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムは反応性が高いので全て不活性ガス雰囲気中で行なうのが好ましい。
<コアの前駆体の界面活性剤による包摂>
前記コアの前駆体は界面活性剤で包摂される。本発明において、界面活性剤とは、油溶性を示す大きな非極性炭化水素末端である有機基と水溶性を示す極性末端である親水基が存在する化合物である。また、包摂とは、図2に示すようにコアの前駆体11が界面活性剤13によって形成されるミセルの親水性基の内側に保持される状態をいう。ミセル中のコアの粒子径は界面活性剤の種類・有機基の長さによって調整される。
【0021】
本発明で用いる界面活性剤の例としては、ラウリルリン酸ナトリウム(C12274PNa)、ラウリル硫酸ナトリウム(C12274SNa)、ヂオクチルスルホサクシアネートナトリウム(C20377SNa)、などがある。
【0022】
例えば、コア前駆体材料としてヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーの所定量を、ベンゼンと水とラウリルリン酸ナトリウム(C12274PNa)を混合した溶液に溶解させ、十分に攪拌すると、コアの前駆体を界面活性剤にて包摂することができる。そして、このときコアの前駆体は、ミセルの内部で強く凝集する。
【0023】
ここで、コアの粒子径は、適当な界面活性剤を選択し溶媒との混合比によって調整される。例えば、一般的に有機基が長く、かさ高い界面活性剤の場合は、コアの粒子径は小さくなる。また、上記溶液中の水に対するベンゼンの量が少なくすると、それに応じてコアの粒子径は小さくなる。
<コアの前駆体とシェルの前駆体を混合する工程>
図2は、コアの前駆体とシェルの前駆体を混合する工程を示した構造図である。この状態は、溶液中で界面活性剤13にコアの前駆体11が取り囲まれ、その周りをシェルの前駆体12が前記界面活性剤を内包するように被覆している状態である。なお、溶液中のコア前駆体/ミセルおよびシェルの前駆体は十分に濃度が薄いので、シェルの前駆体は、コア前駆体/ミセルの内部には入っていかない。
【0024】
この混合溶液を、加熱することにより、1段階でのコア/シェル2層構造の蛍光体の製造方法が可能となる。シェルの前駆体は、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物が望ましい。したがって、分子中にインジウムと窒素との結合および、ガリウムと窒素との結合を有する化合物を用いた方法を例に以下説明する。
【0025】
まず、コアの前駆体製造工程で記載した同様の方法で、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを製造する。そして、界面活性剤で包摂されたコアの前駆体が攪拌した前記ミセル溶液に、インジウム・ガリウム混晶シェルの前駆体として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーとを所定量、混合する。
<コア上にシェルを成長させる工程>
次に界面活性剤で包摂された蛍光性のコアの前駆体とシェルの前駆体との混合液を一気に加熱することにより、そのコアを核としてシェルが成長していく。この加熱は、不活性ガス雰囲気中で行い、合成温度180℃〜500℃、さらに望ましくは280℃〜400℃で、6時間〜72時間、さらに好ましくは12時間〜48時間、反応を行なう。
【0026】
加熱の後、生成物を冷却し回収する際に、有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールで数回洗浄を行なう。
<2層構造の蛍光体の説明>
上述の製造方法で得られた蛍光体のコアは、Gax1In(1-x1)Nの結晶であり、シェルはGax2In(1-x2)Nの結晶の2層で構成されている。本発明による蛍光体の構造は、図3に示すように、III族元素と窒素の結合を有する化合物のコア21をIII族元素と窒素の結合を有する化合物のシェル22で被覆した2層構造である。TEM観察を行い、高倍率での観察像により、格子像を確認することで、コアの粒子径およびシェルの厚さを確認できる。
【0027】
ここで、コアの平均粒子径は、X線回析測定の結果スペクトル半値幅より通常5〜6nmと見積もられ、これは励起子ボーア半径の2倍以下の微粒子であり、シェルの厚さは1〜10nmの範囲に調整される。ここでシェルの厚さが1nmより小さいとコアの表面を十分に被覆できず、また量子閉じ込めの効果が弱くなるため、好ましくない。一方10nmより大きいとシェルを均一に作ることが難しくなり欠陥が増え、原材料コストの面においても望ましくない。
【0028】
本発明による2層構造の蛍光体の発光機構は、以下の通りである。励起光のエネルギーは、外層のシェルによって吸収され、ついでシェルによって周囲を囲まれたコアに遷移する。ここでコアの粒子径は、量子サイズ効果を有する程度に小さいので、コアは離散化した複数のエネルギー準位のみとり得るが、一つの準位になる場合もある。コアに遷移した光エネルギーは、伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。
【0029】
インジウム・ガリウム混晶コア/シェル2層構造の蛍光体は、シェルのインジウム組成比が、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができるよう調整されているため、特に外部量子効率の高い波長の発光を効率よく吸収できる。また、蛍光性のコアのインジウム組成比は調整することによって、シェルからコアへのエネルギー遷移により赤色、緑色、青色の蛍光を示すことができる。
実施の形態2.
実施の形態1で示した、コアの前駆体とシェルの前駆体を混合する工程において、インジウム・ガリウム混晶シェルの前駆体を用いる代わりに、酸化ガリウムシェルの前駆体を用いることも可能である。この場合、界面活性剤で包摂されたコアの前駆体が攪拌した前記ミセル溶液に、硝酸ガリウムと尿素とを所定量で混合し、実施の形態1と同様に加熱を行なう。その結果、図5に示されるようなIII族元素と窒素との結合を有する化合物であるインジウム・ガリウム混晶のコア21を、酸化物である酸化ガリウムのシェル31で被覆した2層構造の蛍光体20が得られる。
実施の形態3.
実施の形態1で示した、コアの前駆体とシェルの前駆体を混合する工程において、インジウム・ガリウム混晶シェルの前駆体を用いる代わりに、酸化ケイ素シェルの前駆体を用いることも可能である。この場合、界面活性剤で包摂されたコアの前駆体が攪拌した前記ミセル溶液に、酸化ケイ素シェルの前駆体として、テトラエトキシオルトケイ酸と尿素とを所定量でミセル溶液に混合し、実施の形態1と同様に加熱を行なう。その結果、図5に示されるようなIII族元素と窒素との結合を有する化合物であるインジウム・ガリウム混晶のコア21を、酸化物のシェル31として、酸化ケイ素で被覆した2層構造の蛍光体20が得られる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
コアもしくはシェルの前駆体として用いる分子中にインジウムと窒素との結合および、ガリウムと窒素との結合を有する化合物の合成について説明する。前記化学式(1)〜(3)により、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを合成することができる。
【0031】
なおリチウムジメチルアミドと生成物のトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムは反応性が高いので全て不活性ガス雰囲気中で行った。
【0032】
まず、グローブボックス内で、リチウムジメチルアミド0.03モルと三塩化インジム0.01モルを秤量し、n−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、50時間反応を行った。反応終了後、副生成物である塩化リチウムを取り除き、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーを取り出した(化学式(1))。
【0033】
同様の方法により、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを合成した(化学式(2))。さらに、上記の方法により合成したトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー0.005モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.005モルを秤量し、n−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、50時間反応を行った。その後、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを取り出した(化学式(3))。
【0034】
次に、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.02モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.03モルとを、ラウリルリン酸ナトリウム(C12274PNa)10g、ベンゼン20ml、水200mlを混合した溶液に溶解させコアの前駆体が製造された(コアの成長:化学式(4)参照)。
【0035】
【化4】

【0036】
十分に攪拌した後、さらにシェルの前駆体としてヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.04モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.01モルとを、前記ミセル溶液に混合させた(シェルの成長:化学式(5)参照)。この溶液を加熱した。
【0037】
【化5】

【0038】
この加熱は、不活性ガス雰囲気中で行い、加熱温度300℃で、15時間反応を行った。
【0039】
つぎに有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールで数回洗浄を行った。これにより、図3に示すようなインジウム・ガリウム混晶のコア/シェル2層構造の蛍光体を得ることができた。
【0040】
この蛍光体において、そのシェルのIn0.1Ga0.9N半導体は、吸収端が420nmとなるようにインジウム組成比が調整されているため、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できた。また、コアのIn0.2Ga0.8N半導体は、発光波長が460nmとなるようにインジウム組成比が調整されているため、シェルからコアへのエネルギー遷移により青色発光を示すことができた。
【0041】
この蛍光体の発光機構において、励起光のエネルギーは、外層のシェルによって吸収され、ついでシェルによって周囲を囲まれたコアに遷移する。ここでコアの粒子径は、量子サイズ効果を有する程度に小さいので、コアは離散化した複数のエネルギー準位のみとり得るが、一つの準位になる場合もある。コアに遷移した光エネルギーは、伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。405nmの励起光により効率よく励起され、青色の発光を示す。
【0042】
実施例1に基づき得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。また、この実施例で得られた蛍光体の収率は95%であった。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで
B:X線半値幅[deg]、
λ:X線の波長[nm]、
Θ:Bragg角[deg]、
R:粒子径[nm]
である。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様の操作を行い、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを合成した。次に、化学反応式(4)、(6)により、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.02モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.03モルとを、ラウリルリン酸ナトリウム(C12274PNa)10g、ベンゼン20ml、水200mlを混合した溶液に溶解させ(化学式(4))、十分に攪拌した後、さらに硝酸ガリウム0.1モルと尿素0.5モルとを、前記ミセル溶液に混合させて(化学式(6))、加熱を行った。
【0046】
【化6】

【0047】
この加熱は、不活性ガス雰囲気中で行い、加熱温度300℃、50時間、反応を行った。
【0048】
つぎに、有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールで数回洗浄を行った。これにより、図5に示されるようなインジウム・ガリウム混晶コア/酸化ガリウムシェル2層構造の蛍光体を得ることができた。
【0049】
この実施例で得られた蛍光体はインジウム・ガリウム混晶コア/酸化ガリウムシェル2層構造の蛍光体である。この蛍光体において、そのシェルのGa23はコアIn0.2Ga0.8Nの表面を保護する役割を果たす。蛍光体の発光機構は、吸収端が420nmとなるようにIn組成比が調整されているため、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できる。
【0050】
この蛍光体の発光機構において、励起光のエネルギーは、コアによって吸収され、コアで吸収した光エネルギーは、伝導帯の基底準位と荷電子帯の基底準位との間で遷移し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。405nmの励起光により効率よく励起され、青色の発光を示す。
【0051】
得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0052】
(実施例3)
コアの前駆体として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.03モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.02モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/シェル2層構造緑色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0053】
(実施例4)
コアの前駆体として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.1モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/シェル2層構造赤色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0054】
(実施例5)
コアの前駆体として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.03モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.02モルを用いること以外は、実施例2と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/酸化ガリウムシェル2層構造緑色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると6nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0055】
(実施例6)
コアの前駆体として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.1モルを用いること以外は、実施例2と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/酸化ガリウムシェル2層構造赤色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると6nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0056】
(実施例7)
硝酸ガリウムを用いる代わりにテトラエトキシオルトケイ酸((C25O)4Si)を用いること以外は、実施例2と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/酸化ケイ素シェル2層構造青色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると6nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0057】
(実施例8)
硝酸ガリウムを用いる代わりにテトラエトキシオルトケイ酸((C25O)4Si)を用いること以外は、実施例5と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/酸化ケイ素シェル2層構造緑色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると6nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0058】
(実施例9)
硝酸ガリウムを用いる代わりにテトラエトキシオルトケイ酸((C25O)4Si)を用いること以外は、実施例6と同様の製造方法によって、インジウム・ガリウム混晶コア/酸化ケイ素シェル2層構造赤色蛍光体を得ることができる。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると6nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。
【0059】
(比較例1)
三塩化ガリウム0.007モル、三塩化インジウム0.003モル、ノナメチルトリシラザン(N(Si(CH333)0.01モルをトリオクチルホスフィン((C8173P)30mlに混合し、合成温度260℃で、3時間反応を行い、コアの合成を行った。この反応溶液を、室温にまで冷却しコアのトリオクチルホスフィン溶液とした。
【0060】
次に、前記コアのトリオクチルホスフィン溶液と、三塩化ガリウム0.009モル、三塩化インジウム0.001モル、ノナメチルトリシラザン(N(Si(CH333)0.01モルをトリオクチルホスフィン30mlに混合し、合成温度330℃で、24時間反応を行い、コア/シェル2層構造の蛍光体の合成を行った。
【0061】
この比較例1で得られた蛍光体は、2段階の昇温合成過程を有する。また、蛍光体前駆体に、III族元素と窒素との結合を有しないため、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源とし、所望の発光波長を実現するための精密なIII族元素の混晶組成制御が困難である。また、コア粒子径の制御は、反応温度と反応時間にのみ依存するので、粒子径の制御が困難である。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒子径(直径)は、前記Scherrerの式(数式(1))を用いると20nmと見積もられ、量子サイズ効果を示さない。また、この比較例1で得られた蛍光体の収率は、60%であった。合成段階が2段階であるため、1段階で合成を行なう実施例1より、収率は低い。
【0062】
図4は、上記蛍光体の発光特性を示す発光強度−コア粒子径特性図である。図中点(a)は実施例1、点(b)は比較例1の蛍光体の発光強度である。
【0063】
図6に、比較例1の製造手法のフロー図を示す。まず、蛍光性のコアの前駆体に加熱し、冷却することで、蛍光性のコアを製造する。そして、そのコアを包摂する蛍光性のシェルの前駆体と混合し、再び加熱し冷却することでコア/シェル2層構造の蛍光体を得る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造の蛍光体の製造方法であって、製造操作が簡便であり、合成収率が高く、発光強度、蛍光の発光効率を向上させた2層構造のIII族窒化物蛍光体の製造方法が提供される。
【0065】
特に、本発明の蛍光体の製造方法によれば溶液中で加熱する1段階の製造操作による液相合成で、蛍光体粒子の高収率、大量合成が可能である。コアの前駆体とシェルの前駆体とは界面活性剤で分離されているため、それぞれの前駆体の混合比を制御することにより、400〜410nmの励起光で、シェルによる励起光の吸収が可能となり、シェルからコアへのエネルギー遷移とコアでの発光により、発光効率の高いIII族窒化物蛍光体を合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明による蛍光体の製造方法概要を示したフロー図である。
【図2】コアの前駆体とシェルの前駆体を混合する工程を示した構造図である。
【図3】III族窒化物コア/シェル2層構造の蛍光体の構造図である。
【図4】この発明の実施例で得られた蛍光体と比較例で得られた蛍光体とを比較する発光強度−コア粒子径特性図である。
【図5】III族窒化物コア/酸化物シェル2層構造の蛍光体の構造図である。
【図6】この発明の比較例1の製造方法を示したフロー図である。
【符号の説明】
【0067】
10 コア/シェルの前駆体ミセル溶液、11 コアの前駆体、12 シェルの前駆体、13 界面活性剤、20 コア/シェル蛍光体、21 III族窒化物コア、22 III族窒化物シェル、31 酸化物シェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性のコアをシェルで被覆した2層構造の蛍光体の製造方法であって、
界面活性剤で包摂された前記コアの前駆体の製造工程と、
前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体を溶液中で混合する工程と、
前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱し前記コア上にシェルを成長させる工程、
を含むことを特徴とする前記2層構造の蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記コアの前駆体および前記シェルの前駆体が、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記コア前駆体および/または前記シェル前駆体は、三塩化インジウムとリチウムジメチルアミドから合成されるインジウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記コアの前駆体が、分子中にIII族元素と窒素との結合を有する化合物であり、かつ、前記シェルの前駆体が酸化物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
III族元素はインジウムおよび/またはガリウムであることを特徴とする請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記コアは、励起子ボーア半径の2倍以下の微粒子である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱する温度が、180〜500℃であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記コアの前駆体と前記シェルの前駆体の混合物を加熱する時間が、6〜72時間であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−328234(P2006−328234A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154269(P2005−154269)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505195384)国立大学法人奈良女子大学 (15)
【Fターム(参考)】