蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法
【課題】発光効率を改善するとともに品質を容易にまた正確に評価できる蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光体は、その組成式をM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表せる。そして含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下となることを特徴とする。水酸基の含有量を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【解決手段】蛍光体は、その組成式をM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表せる。そして含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下となることを特徴とする。水酸基の含有量を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法に関し、より詳しくは輝度が改善された蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光源と、これに励起されて光源の色相とは異なる色相の光を放出できる波長変換部材とを組み合わせることで、光の混色の原理により多様な色相の光を放出可能な発光装置が開発されている。例えば発光素子より、紫外から可視光に相当する短波長側領域の一次光を出射し、この出射光でもって蛍光体を励起する。この結果、一次光の少なくとも一部が波長変換されて、赤色、青色、緑色など所望の光を得ることができ、これらの各成分光が加色混合されて白色光を実現できる。
【0003】
この原理を利用して、光源に発光ダイオード(LED)を用いたLEDランプは、信号灯、携帯電話、各種電飾、車載用表示器、あるいは各種の表示装置など、多くの分野に利用されている。特にLEDと蛍光体とを組み合わせて形成した白色LED発光装置は、液晶表示器のバックライト、小型ストロボ等へと盛んに応用されており、普及が進んでいる。また最近では照明装置への利用も試みられており、長寿命・水銀フリーといった長所を活かすことで、環境負荷の小さい蛍光灯代替光源として期待される。
【0004】
同時に、LED発光装置の発光特性を向上させる研究も盛んに行われてきた。例えば白色光の輝度を高めるためには、各色味の成分光の輝度をそれぞれ向上させることが重要となる。つまりLEDからの出射光でもって励起されて効率良くエネルギー変換し、所定の色味に高輝度に発光できる蛍光体が好ましい。したがって蛍光体のエネルギー変換効率の改善が絶えず望まれてきた。
【0005】
特に酸化物系蛍光体は、窒化物系蛍光体と比較して簡便に製造できるため注目されている。例えば特許文献1〜4には、ユーロピウム付活アルカリ土類金属珪酸塩よりなる酸化物系蛍光体が開示される。ユーロピウムは付活剤であるが、ユーロピウムによる発光は、母体ホストの組成、結晶構造、付活剤の濃度などに大きく影響を受ける。またユーロピウムは、主に2価と3価の価数をとり、通常、化合物の状態では3価が安定である。ただ、LED用途で蛍光体の発光に寄与するのは2価のユーロピウムであることが多いため、原料での3価状態から2価へと還元する必要がある。これを受け特許文献1の蛍光体では、蛍光体中に必要なEu2+の含有量を特定し、このEu2+の含有量でもって蛍光体の発光特性を評価可能としている。またEu2+の定量は、EuのX線吸収端近傍微細構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)を測定することによって達成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−23129号公報
【特許文献2】特表2004−516688号公報
【特許文献3】特表2005−520916号公報
【特許文献4】WO2003−021691号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Eu2+の含有比を特定することは現実には極めて困難である。なぜなら、X線吸収端近傍微細構造スペクトルを容易に測定可能な環境を整えることが難しいからである。さらに特許文献1に記載のように、X線吸収端近傍微細構造スペクトル以外にEuの還元率を明らかにする手段がなく、したがってEuの価数比による発光特性の判定は現実的ではなかった。また仮にEuの価数比を判別できたとしても、上述の通りEu付活による発光は、母体結晶の組成や構造など濃度以外にも複数の要因に大きく影響を受ける。したがって、蛍光体に必要なEu2+の含有量だけを評価しても蛍光体全体の性能を判定することにならない。ゆえにEuの価数比を基準にした発光特性の判定は、信頼性に欠ける虞があった。
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点を解消するためになされたものである。すなわち本発明の主な目的は、発光効率を改善するとともに品質を容易にまた正確に評価できる蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蛍光体は、組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される。そして含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下とする。水酸基の含有量を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【0010】
また他の蛍光体は、組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、赤外線を照射し透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下とできる。水酸基及びSiOにおける赤外吸収スペクトルのピーク強度比を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【0011】
さらに他の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜600nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長を500nm〜580nmの波長域に配置できる。この蛍光体をLEDと組み合わせることで高輝度と高演色性を両立できる発光を得ることができる。
【0012】
また発光装置は、近紫外から青色領域の光を発光可能な光源と、この光源からの光の少なくとも一部を励起光として吸収して発光可能な蛍光体を備え、この蛍光体として上述の蛍光体を利用できる。これによりエネルギー変換効率が高く、また所望の色相を高輝度に放出可能な発光装置とでき、消費電力の削減効果を見込める。
【0013】
また蛍光体の製造方法は、下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、蛍光体の組成元素であるM、Siが下記の一般式に示すモル比を満たすように、組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する第1の工程と、この混合された原料を、少なくとも一方向に開口した容器に配置し、還元雰囲気中で焼成する第2の工程とを有する。また第2の工程において、混合された原料は、かさ体積に対する表面積の比率が0.5以上となる状態で容器に配置されて焼成できる。これにより混合原料の比表面積を十分に大きくして、混合原料と還元雰囲気との反応を促進できる結果、水酸基の含有量を低減した蛍光体を得ることができる。
M2SiO4(但し、Mは少なくともSrまたはBaを含み、さらにMg、Ca、Znの群から選ばれる元素を含有することができ、かつMの一部をEuで置換可能である。)
【0014】
また第2の工程において、容器は全体の容量に対する開口部の面積の比率が0.5以上を満たす容器とできる。つまり容器を、ここに投入される混合原料が還元雰囲気と接触面積を十分に稼ぐことができる形状に予め設計することで、混合原料を容器に配置するだけで、自ずと混合原料の比表面積を適切に調節できる。したがって混合原料の配置位置を厳密に制御することなく、焼成工程を簡便に行うことができる。また水素を含む還元雰囲気中で混合原料を焼成することで、水酸基の脱離を一層促進させることができる。
【0015】
また第2の工程において、混合された原料を容器に略均等に配置した状態で、混合された原料のかさ体積に対する容器の開口部の面積の比率が0.5以上となる関係を満たすように、前記混合された原料を前記容器に配置してもよい。これにより、混合された原料の還元雰囲気に露出される領域が、容器の開口部に限定された場合であっても、混合原料と還元雰囲気との反応を促進できる。
【0016】
また第1の工程において、混合された原料の単位体積当たりの重量が1.60〜1.80g/cm3であるように、各原料を混合することもできる。かさ密度を上述の範囲に特定することで、混合原料が単位体積当たりに還元雰囲気と接触する表面積の比率を適当な範囲に制御でき、混合原料と還元雰囲気との反応を効率良く促進させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、水酸基の含有量によって発光特性を制御できる。つまり水酸基の含有量を特定することで、エネルギー変換効率の高い、すなわち高輝度に発光する蛍光体やこれを備える発光装置を得られる。この水酸基の含有量は、母体結晶中に必須であってかつ安定して配置される原子団、具体的にはSiOを基準として相対的に同定されるため、発光特性を信頼性高く評価できる。また水酸基の含有量は、SiOの含有量とともに、それぞれの官能基を構成する元素間の結合量によって換算しており、つまり蛍光体の結晶構造を構成する原子団がそれぞれに固有する赤外線吸収スペクトルの強度比を基準にして判定できる。したがって化学物質の同定に古くから用いられてきた赤外分光法を利用できるため、比較的簡単な装置で容易に発光特性を判定することができる。また本発明の蛍光体の製造方法であれば、混合原料の比表面積を大きくして十分に還元雰囲気にさらすことができるため、効率良く水酸基を脱離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1の蛍光体に係る焼成工程の一部を示す説明図である。
【図2】実施例1〜3、比較例1〜4の各蛍光体に係る赤外スペクトルである。
【図3】図2を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図4】図2を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図5】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフである。
【図7】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図8】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図9】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図10】実施例4〜6、比較例5〜8の各蛍光体に係る赤外スペクトルである。
【図11】図10を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図12】図10を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図13】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフである。
【図14】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフである。
【図15】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図16】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図17】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図18】実施例7、8の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図19】実施例7、8の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図20】実施例7、8の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図21】実施例9に係る発光装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0020】
なお色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。
【0021】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る蛍光体は、酸化物系蛍光体である。具体的には、組成式がM2SiO4で表されるオルソシリケートであって、蛍光体に含有される水酸基の量はSiOの量に対して0.7%以下とする。ただし、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含む元素であり、したがってMは複数の元素で構成できる。またSiはケイ素、Oは酸素である。この蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて、480nm〜600nmの光を発光可能であり、特に発光スペクトルのピーク波長を500nm〜580nmの波長域に設定できる。
【0022】
実施の形態1の蛍光体において重要なことは、母体結晶中に含まれる水酸基が十分に低減されていることである。詳しくは、蛍光体の母体結晶において必須のSiOを基準として、水酸基の含有量を十分に低い値、具体的には0.7%以下とする。また好ましくは実質上水酸基を含んでいない形態とする。
【0023】
これは本発明者らの鋭意研究の結果得られた次の知見に基づく。すなわちEuを付活剤とするオルソシリケート蛍光体において、その発光効率は母体結晶中に含有される水酸基の量と相関関係にあることを新規に見出した。詳細は後述するが、水酸基の量を減少させることで蛍光体の発光効率を改善できる。特に水酸基とSiOの含有量を上記の関係に規定する蛍光体は、蛍光体の発光効率が改善するとともに輝度も上昇し、発光特性の良好な蛍光体として評価できる。なお、蛍光体における水酸基の含有は、空気中に存在する水分や水蒸気の水酸基が原料に付着することに起因するものと考えられる。
【0024】
(赤外分光法)
実施の形態1では、蛍光体中の各官能基の含有比率を把握する手段として、赤外分光法を採用した。赤外分光法は、赤外吸収スペクトルを利用する分光分析である。赤外吸収スペクトルは、分子の個性を鋭敏に反映した特徴的なパターンを示す。これは、赤外吸収を与える励起状態が、分子運動に起因する振動に関係するものであるために、その固有エネルギーが分子の構造のわずかな差異によっても敏感に変化するからである。したがって赤外吸収法は、あらゆる種類の化合物(分子、結晶、イオン)の分析に適している。この特徴を利用して、赤外吸収スペクトルによって物質の同定、定性分析などを行うことができる。また赤外吸収帯の強度(吸光度)は原則としてベールの法則に従うので、定量分析にも利用できる。したがって実施の形態1では、蛍光体内の官能基の含有量を、赤外吸収スペクトルの吸光度でもって同定し、さらに特定の原子団の吸光度を基準に他の原子団の吸光度を相対的に表して、これを含有比率に置換した。
【0025】
実施の形態1の蛍光体では、上述の通り水酸基の含有量に注視しており、この水酸基の含有量を、SiOの含有量に対する比率で認識する。これは、SiO1++が蛍光体の母体結晶において必須の原子団であって、かつ安定して配位される特性を利用したものである。したがって蛍光体の母体結晶中におけるSiOの赤外吸収スペクトルの吸光度は略一定とみなしてこれを基準とすることで、水酸基の相対的な含有量を把握し、つまり水酸基の含有量の増減を理解し易くした。
【0026】
具体的に実施の形態1の蛍光体は、これに赤外線を照射し、透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下となる条件を満たす。この範囲に特定する蛍光体は、エネルギーを効率良く変換できるため高輝度に発光する。
【0027】
また赤外分光分析法は第2次大戦中に開発され、分光分析において長い歴史を有する手法である。現在、数多くの化合物の赤外吸収スペクトルがデータバンクとして蓄積されており、コンピューターによる検索によって、スペクトルから未知化合物を同定することが可能である。また赤外分光分析法は、迅速な点、試料が少量で足りる点、簡便な点など数々の長所を持つ。さらに赤外吸収スペクトルは、分子の置かれた環境にも敏感であり、状態分析にも適している。したがって、赤外分光分析法によって蛍光体中の原子団の比率を容易にまた正確に定量することができる。実施の形態1では、この赤外分光法による赤外線吸収スペクトルの測定として、フーリエ変換型赤外分光器(FT−IR)であるニコレー・ジャパン製Nexus870を使用した。またATR法(ダイヤモンドクリスタル)にて測定を行い、検出器としてDTGSを用いて波長領域400〜4000cm-1のデータを取得した。
【0028】
また実施の形態1の蛍光体は、蛍光体の組成Mを構成するSrとBaの比率を変更することで、発光スペクトルのピーク波長域を連続的にシフトすることができる。言い換えるとSrとBaの比率でもって蛍光体の発光の色度を調節できる。さらにMの一部はEuで置換可能である。Euは付活剤であって蛍光体の発光中心となる。Euの組成比を大きくすることで蛍光体の発光強度を上昇させることができるが、Euが過多になると濃度消光が生じる。したがってMにおけるEuの置換の割合は1%〜30%とすることが好ましい。ただし、付活剤はEuのみに限定されず、その一部を他の希土類金属やアルカリ土類金属に置き換えて、Euと共付活させたものも使用できる。特にEuとMnとを共付活させると発光色を長波長化できる。
【0029】
(粒径)
また実施の形態の蛍光体は、平均粒径値が2μmないし60μm、好ましくは5μmないし40μmの範囲内にあることが好ましい。あるいは、この平均粒径値を有する蛍光体が頻度高く含有されていることが好ましい。粒径を上述の範囲とする蛍光体は、光の吸収率及び変換効率を高めることができる。一方、2μmより小さい粒径の蛍光体は、凝集体を形成し易い傾向にある。さらに蛍光体は、粒度分布においても狭い範囲に頻度よく分布しているものが好ましい。これにより粒径及び粒度分布のバラツキが小さく、光学的に優れた特徴を有する粒径の大きな蛍光体とできる。また、この蛍光体を用いた発光装置は、より色ムラが抑制された良好な色調を有する出射光を得られる。色ムラが抑制された発光装置は、発光装置同士の色バラツキを抑えることができるため、発光装置を量産したときの歩留まりを向上させることができる。
【0030】
粒径は、F.S.S.S.No(Fisher Sub Sieve Sizer's No)における空気透過法で得られる平均粒径によって示すことができる。具体的には、気温25℃、湿度70%の環境下において、1cm3分の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り平均粒径に換算した値である。
【0031】
(蛍光体の製造方法)
以下、実施の形態1に係る蛍光体の製造方法を説明する。このオルソシリケート蛍光体は、蛍光体の組成を構成する元素を含む原料を混合して、これを焼成することで得られる。詳細には蛍光体の組成に含有される各元素の単体や酸化物、炭酸塩あるいは窒化物などを原料とし、各元素が所定のモル比となるようにそれぞれの原料を秤量する。ただし実施の形態1に係る蛍光体は、その製造工程中に一部の元素が飛散あるいは溶出してしまうことがあるため、これを考慮して最終生成物における組成比とは異なる仕込比でもって出発原料を秤取してもかまわない。
【0032】
オルソシリケート蛍光体は、蛍光体の組成元素であるM、Siが一般式に示すモル比を満たすように、MとSiの組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する。または、これらの原料にさらにフラックスなどの添加材料を適宜加え、混合機を用いて湿式又は乾式で混合する。また、一の組成Mの組成比を、複数の原料で構成してもよい。この場合、複数の原料にそれぞれ含まれる組成を合計した組成比が、上述の組成比を満たすように各原料の量を調節する。
【0033】
混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕して比表面積を大きくすることもできる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器などの湿式分離機、サイクロン、エアセパレータなどの乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0034】
そして混合した原料を、少なくとも一方向に開口した容器に詰め、大気中、不活性ガス雰囲気中、還元雰囲気中など任意に選択した雰囲気中で焼成する。焼成温度は900℃から1250℃の温度で1から60時間行う。また、同じ条件あるいは別の条件で段階的に焼成してもよい。ただ混合原料は、少なくとも一時的に還元雰囲気中で焼成されることが好ましく、これにより混合原料中の水酸基を脱離させ易くできる。還元雰囲気は、不活性ガス及びN2、H2、一酸化炭素など種々の様態とできる。また焼成雰囲気はアルゴン雰囲気、アンモニア雰囲気なども使用することができるが、不活性ガスと水素の混合雰囲気中で焼成することが好ましい。これにより混合原料中の水酸基を還元し易くでき、蛍光体中の水酸基の量を効率良く低減させることができる。
【0035】
また容器は耐熱性の観点から坩堝が好ましく、例えばSiC、アルミナ、BN等の材質とする。実施の形態1の蛍光体の製造方法において重要なことは、混合原料の比表面積を大きくして焼成することである。すなわち単位体積あたりの表面積を増加させるように混合原料を容器に配置させることが大切である。これにより混合原料と還元雰囲気との反応を促進させ、特に混合原料と還元雰囲気との界面における水素基の脱離を効率良く促進させることができる。
【0036】
(焼成条件)
混合原料は、上述の通り比表面積を大きくして焼成されることが好ましい。詳細には混合原料のかさ体積に対して、気体と接触する表面積を大きくすることが好ましい。実施の形態1の蛍光体は、混合原料のかさ体積あたりの表面積の割合を0.5以上としながら、還元雰囲気中で焼成される。
【0037】
ただし、混合原料は粉体であり微細な粒子が集合しているため、粒状間に隙間を有することがある。したがって本明細書で言う「かさ体積」とは、標準状態の混合原料において、この粒状間の隙間も包含した総体積を指す。また本明細書で言う「表面積」とは、混合原料全体と気体との界面域を指し、いわば混合原料を一つのかたまりとして視認した際の最も外側の表面積を意味する。つまり、粒子間の隙間に露出した表面積は含有しておらず、粒子それぞれの表面積の総合計を意味するものではない。
【0038】
上記に示す焼成条件の範囲は、焼成する際の混合原料の好適な配置状態を数値化したものであるが、実際の混合原料は微細な粒子の集合体であるため、かさ体積や表面積を直接測定することは困難である。しかしながら混合原料のかさ体積や表面積を、混合原料を投入する容器の容量や開口部でもって換算することができる。以下に容器と焼成条件の関係について図1を用いて説明する。
【0039】
図1は、実施の形態1の蛍光体の製造方法における焼成工程の様子を示した説明図である。この図1に示すように、混合原料24を容器20に投入して焼成する。図1の容器20は、半径rの円状の底面22と、この底面22の外周から上方に立設された側面23とからなる筒状である。また容器20は、内部を開口しながら上面を略全て開放しており、すなわち上方に開口部21を備える。蛍光体の混合原料24は、容器20の底面22の略全てを被覆する状態で敷き詰められて、筒状の側面23に接しながら上方に積層される。また混合原料24は、その最上面25を略水平面として容器20内に略均等に配置される。
【0040】
このように混合原料24を底面から上方にかけて均等に積層させることで、容器の容量から混合原料のかさ体積を推定できる。また、混合原料24は底面と側面に接触して積層されるため、積層時は実質上その最上面が気体にさらされる。つまり、この混合原料24の最上面が表面積に相当し、したがって混合原料24の表面積を容器の開口部の面積として換算できる。例えば図1の例では混合原料24が円柱状の容器20にかさ高さh分だけ投入されているため、混合原料24のかさ体積をπr2hと表すことができる。一方混合原料24の表面積はπr2となる。したがって混合原料のかさ体積に対する表面積の比率、すなわち混合原料の配置状態値は、f(h)=πr2/πr2h=1/hと表せる。この比率が0.5以上を満たすことが好ましい。
【0041】
このように容器を円筒状とした図1の例では、混合原料の配置状態値、すなわち混合原料のかさ体積に対する表面積の比率は、上述の通り1/hである。したがって混合原料の配置状態値は、容器中の混合原料のかさ高hに反比例する。つまり、かさ高hが小さいほど配置状態値が大きくなり、これは混合原料と還元雰囲気の気体、すなわち水素との界面領域が大きいことを意味する。還元ガスである水素と蛍光体の接触面積を大きくすることによって、水素による水酸基へのアタックが容易になる。したがって水酸基が効率良く離脱されるため、水酸基の低減された蛍光体を得ることができる。
【0042】
また当然ながら容器の形状は円筒状に限定されず、半球状、直方体状など種々の形状とできる。ただ、容器全体の容量に対する開口部の面積が0.5以上を満たす容器とすることが好ましい。これにより混合原料をこの容器いっぱいに投入した際、すなわち混合原料のかさ高hが最も大きい状態で、混合原料のかさ体積及び表面積は、容器の容量及び開口部の面積にそれぞれ略一致する。したがって容量に対する開口部の面積が0.5以上を満たす容器とすることで、混合原料の配置状態値f(h)を少なくとも0.5に制御できる。一方、混合原料をこの容器に薄く投入すると、すなわち混合原料のかさ高hを小さい状態で配置すると、上述の配置状態値f(h)は0.5よりも大きくなる。すなわち混合原料の体積あたりの表面積を大きくでき、水酸基の脱離を効率良く促進できる。このように、混合原料の配置状態値f(h)が0.5以上となるように、予め容器の形状を上述の範囲に設計しておくことで、この容器に投入した混合原料は、自ずと混合原料の配置状態値f(h)の条件を満足する。したがって混合原料の充填状態を制御する手間を省いて簡便に焼成することができる。
【0043】
また、図1に示すように、混合原料24を容器20に略均等に配置した状態では、混合原料24が容器20の底面22の全域を被覆し、かつ側面23に接触しながら上方に均等に積層される。つまり図1の例では、円柱状に積層された混合原料24の略水平な最上面25が、還元雰囲気と接触される界面領域に相当し、そしてこの最上面25は容器20の開口部の面積に略等しい。したがって実質上、混合原料24の表面積は容器20の開口部21の面積に略一致する。
【0044】
そして混合原料を焼成した後、焼成されたものを粉砕、混合処理、分散、濾過等を施して目的の蛍光体粉末を得る。粉砕は軽度に行われることが好ましい。すなわち粉砕時間を通常のレベルよりも短かくし、あるいは粉砕前後の粒径サイズの変化を低減して、簡易な粉砕とする。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。ただ、洗浄や分級処理などは、焼成の前や、あるいは焼成が複数段階に分かれて実施される場合は、焼成の前または途中段階で行うことが好ましい。これにより蛍光体への損失を低減して、結晶欠陥や不純物の少ない蛍光体を得られる。結晶欠陥の低減された蛍光体は、不要な光吸収を抑制してエネルギー変換効率を高めることができる。
【0045】
また蛍光体は、大部分が結晶を有することが好ましい。例えばガラス体(非晶質)は結晶構造を保持しないため、蛍光体として機能しないおそれがある。したがって、これを回避するため生産工程における反応条件を厳密に一様になるよう制御する必要が生じる。一方、実施の形態に係る蛍光体は、ガラス体でなく結晶を有する粉体あるいは粒体とできるため、製造及び加工が容易である。また、この蛍光体は有機媒体に均一に溶解でき、発光性プラスチックやポリマー薄膜材料の調整が容易に達成できる。具体的に、実施の形態に係る蛍光体は、少なくとも50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶を有している。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られるため好ましい。ゆえに結晶相が多いほど良い。これにより発光輝度を高くすることができ、かつ加工性が高まる。
【0046】
以下、蛍光体の組成元素をそれぞれ含有する各原料に関して説明する。まず蛍光体組成のSiは、酸化物を使用することが好ましいが、窒素化合物、イミド化合物、アミド化合物などを使用することもできる。例えば、SiO2、Si3N4、Si(NH2)2、Mg2Siなどである。一方、Si単体のみを使用して、安価で結晶性の良好な蛍光体ともできる。原料のSiの純度は、2N以上のものが好ましいが、Li、Na、K、Bなどの異なる元素が含有されていてもよい。さらに、Siの一部をAl、Ga、In、Tlで置換することもできる。また、蛍光体組成のSiをGe、Sn、Ti、Zr、Hfに置換してもよい。
【0047】
またMgやアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baは、ハロゲン塩と酸化物、炭酸塩などを組み合わせて、所定のハロゲン比率となるように使用することができる。また、ハロゲンを導入する場合、アルカリ土類のハロゲン塩の変わりにハロゲンを含むアンモニウム塩を用いることができる。
【0048】
さらに、賦活剤のEuは、好ましくは単独で使用されるが、ハロゲン塩、酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩などを使用することができる。また、Euの一部を、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等で置換してもよい。また、Euを必須とする混合物を使用する場合、所望により配合比を変えることができる。このようにEuの一部を他の元素で置換することで、他の元素は、共賦活剤として作用する。これより色調を変化させることができ、発光特性の調整を行うことができる。ユーロピウムは、主に2価と3価の価数を持つが、実施の形態の蛍光体では、Eu2+を賦活剤として用いる。また、原料としてEuの化合物を使用しても良い。この場合、原料は精製したものを用いる方が良いが、市販の物を用いても良い。具体的にはEuの化合物として酸化ユーロピウムEu2O3、金属ユーロピウム、窒化ユーロピウムなども使用可能である。また、原料のEuは、イミド化合物、アミド化合物を用いることもできる。酸化ユーロピウムは、高純度のものが好ましく、また市販のものも使用することができる。また、原料の混合物中に希土類元素やアルカリ金属元素を添加することができる。
【0049】
上述の原料は精製したものが好ましい。これにより精製工程を必要としないため、蛍光体の製造工程を簡略化でき、安価な蛍光体を提供することができるからである。これらの原料でもって上述の製造工程を経て得られた蛍光体は、光源とともに使用することで所定の色に発光し、発光装置の全体の放出光の成分光とできる。実施の形態の蛍光体は、上述の通り近紫外〜青色光により励起されて黄〜緑色に発光する。特に青色光によって効率良く励起される。したがって近紫外〜青色光に、特に青色光に発する発光素子と、この蛍光体とを組み合わせて用いることによって、発光効率及び演色性の高い発光装置を得ることができる。なお本明細書において、紫外線領域から可視光の短波長領域は、特に限定されないが250〜500nmの領域をいう。特に、290nm〜470nmの範囲が好ましい。より好ましくは、青紫〜青色光を発する420nm〜470nmの範囲である。
【実施例】
【0050】
以下、実施の形態の蛍光体における一例として、蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明の蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を下記のものに特定しない。
【0051】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
まず実施例1〜実施例3の蛍光体の一般式は(Sr0.8、Ba0.2)1.93Eu0.07SiO4で表される。この蛍光体は、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)を原料とし、各原料中に含有される蛍光体の組成元素が、上記の一般式に示す組成比を満たすように各原料を秤量した。この原料にさらにフラックスとしてNH4Clを添加し混合した。これらの混合原料を坩堝に配置して、1100℃〜1250℃にて焼成した。
【0052】
実施例1〜3で使用した坩堝は、開口部の口径をφ70mmとし、開口面積が38.485cm2であった。また実施例1〜3の混合原料は、かさ密度すなわち単位体積当たりの重量が1.686g/cm3であり、15gの混合原料を坩堝に配置した。したがって開口部の面積/混合原料の体積=4.326の配置状態値f(h)でこの坩堝に配置され、所定の焼成時間でもって焼成された。一方、比較例1〜4で用いた坩堝は、開口部の口径をφ20mmとし、開口面積が3.142cm2であった。また比較例1〜4の混合原料は、実施例1〜3と同様のかさ密度(1.686g/cm3)であり、したがって開口部の面積/混合原料の体積=0.353の配置状態値でもってこの坩堝に配置され、所定の焼成時間でもって焼成された。
【0053】
また実施例1〜3の蛍光体は焼成時間がそれぞれ異なり、実施例1では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例2では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例3では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。一方、比較例1の蛍光体は、実施例1と同じ組成式で表されるが、サイズの異なる坩堝を使用し、大気中で約25時間焼成を行った。比較例2〜4の蛍光体は、サイズの異なる坩堝を使用した以外は、実施例1〜3と同じ組成式で表され、略同じ手法で製造された。つまり、比較例2では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例3では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例4では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0054】
表1は、これら実施例1〜3及び比較例1〜4の各蛍光体の発光特性を示す。具体的には、460nmの波長による励起時の色度(x、y)、粉体輝度Y(%)、また赤外吸収スペクトルにおいてSiOに対するOHのピーク強度比(%)([OH]/[SiO])をそれぞれ評価した。さらに各蛍光体のこの赤外スペクトルを図2に、また図2の550〜1200cm-1における拡大スペクトルを図3に、そして2800〜3800cm-1における拡大スペクトルを図4にそれぞれ示す。加えて、蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフを図5に、一方、蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフを図6にそれぞれ示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3及び比較例2〜4の各蛍光体において、460nm励起による発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図7、図8、図9に示す。なお比較例1の蛍光体は非発光であったため、各スペクトルを表示していない。実施例1〜3の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて500nm〜600nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長が530nm〜580nmの波長域にある。
【0057】
また実施例及び比較例の各蛍光体において、図2、図4に示すように、吸光波数3300cm-1附近で水酸基に相当する吸光を確認し、具体的には図4に示すように3350±350cm-1に水の吸収が出現した。また図3に示すように、吸光波数1000±100cm-1でSiOの吸光を確認した。これら[SiO]と[OH]のピーク値から、SiO基に対するOHの相対的なピーク強度比を各蛍光体においてそれぞれ算出した。なおピーク強度比は吸光度の高さのみならず、高さをx軸方向に積分した値、すなわち面積比で規定したものである。
【0058】
図5に示すように、比較例は還元雰囲気での焼成時間が長くなるほど粉体輝度が上昇した。しかし容器の開口面積が大きい実施例では、開口面積の小さい比較例に比べて粉体輝度の上昇率が高く、同じ焼成時間であっても10.0%〜17.3%の上昇を確認した。また図6に示すように、実施例及び比較例とも焼成時間が長くなるほど、SiOに対する水酸基の含有率が減少した。特に開口面積/体積の大きい状態で焼成された実施例の蛍光体では、比較例と同じ焼成時間であっても、SiOに対する水酸基のピーク強度比の減少率が大きい。つまり焼成時間が増加するにつれて、蛍光体内の水酸基の含有率が低減されると同時に、輝度が上昇することが確認され、特に開口面積/体積が0.5以上の条件でこの特徴が顕著であることが確認された。これは、図8、図9に示すように、比較例、実施例とも励起スペクトル及び反射スペクトルの波形が類似しているが、図7の発光スペクトルでは、実施例の蛍光体が比較例の蛍光体よりも発光強度が高い結果と一致する。
【0059】
(実施例4〜6、比較例5〜8)
また実施例1〜3の蛍光体と同じ組成元素を有するが、組成の比率を変更しながら類似の手法で生成された蛍光体を実施例4〜6及び比較例5〜8とした。以下にその製造方法及び特性を記載する。まず実施例4〜6の蛍光体の一般式は(Sr0.45、Ba0.55)1.93Eu0.07SiO4表され、すなわちSrとBaのモル比率が実施例1〜3の蛍光体と異なる。この組成比になるよう実施例1〜3と同じ原料を秤量し、さらにフラックスを添加して混合した。混合した原料のかさ密度は1.760g/cm3であり、この混合原料を実施例1〜3と同一条件の坩堝、すなわち開口部の口径φ70mm、開口面積が38.485cm2の坩堝に、開口部の面積/混合原料の体積が4.515の配置状態値でもって15gの混合原料を配置した。混合原料は1000℃〜1150℃にて焼成された。一方、比較例5〜8で用いた坩堝は、開口部の口径をφ20mmとし、開口面積は3.142cm2であった。比較例5〜8の混合原料は、実施例4〜6と同様のかさ密度(1.760g/cm3)であり、したがって開口部の面積/混合原料の体積=0.369の配置状態値でもってこの坩堝に配置され、実施例4〜6と同様の焼成温度でもってそれぞれ焼成された。
【0060】
また実施例4〜6の蛍光体は焼成時間がそれぞれ異なり、実施例4では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例5では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例6では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。一方、比較例5の蛍光体は、実施例4と同じ組成式で表され、サイズの異なる坩堝を使用し、大気中で約25時間焼成を行った。比較例6〜8の蛍光体は、サイズの異なる坩堝を使用した以外は、実施例4〜6と同じ組成式で表され、略同じ手法で製造された。比較例6では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例7では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例8では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0061】
表2は、これら実施例4〜6及び比較例5〜8の各蛍光体の発光特性を示す。また各蛍光体の赤外スペクトルを図10に、また図10の550〜1200cm-1における拡大スペクトルを図11に、そして2800〜3800cm-1における拡大スペクトルを図12にそれぞれ示す。加えて、蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフを図13に、一方、蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフを図14にそれぞれ示す。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例4〜6及び比較例6〜8の各蛍光体において、460nm励起による発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図15、図16、図17に示す。なお比較例5の蛍光体は非発光であったため、各スペクトルを表示していない。これらの図に示すように実施例4〜6の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜580nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長が500nm〜550nmの波長域にある。実施例4〜6の蛍光体は、実施例1〜3の蛍光体と比較して発光スペクトルが短波長側にシフトされた。これに併せて表2の色度結果より、SrとBaのモル比率を制御することで発光の色味を調節できることが確認できた。
【0064】
また図10〜図12に示すように実施例4〜6の蛍光体も、実施例1〜3の蛍光体と同様の波数域にOH基及びSiO基の吸光を認めた。さらに実施例4〜6及び比較例5〜8の蛍光体は、実施例1〜3及び比較例1〜4の蛍光体と同様の特性を示した。すなわち焼成時間が長くなるにつれて、SiOに対する水酸基の含有率が減少し、これと同時に蛍光体の粉体輝度が上昇した。特に、開口面積の大きい容器に、開口面積/体積の大きい状態で混合原料を配置して焼成した実施例4〜6の蛍光体は、開口面積の小さい容器でもって比表面積を小さい状態で混合原料を焼成した実施例4〜6の蛍光体と比較して、粉体輝度が上昇した。焼成時の比表面積の差による粉体輝度は、焼成時間が長いほどその上昇率が顕著であった。
【0065】
(実施例7、8)
さらに実施例1〜6と同じ坩堝、すなわち開口部の口径をφ70mmとする坩堝を使用しながら、製造条件の一部を変更して得られた蛍光体をそれぞれ実施例7、実施例8とし、特性を評価した。具体的に実施例7の蛍光体は、一般式をSr1.95Eu0.05SiO4と表せる。この蛍光体の製造方法は、SrCO3、Eu2O3、SiO2を原料とし、各原料中に含有される蛍光体の組成元素が、上記の一般式に示す組成比を満たすように各原料を秤量した。この原料にさらにフラックスとしてNH4Clを添加し混合し、これらの混合原料を坩堝に配置して、1000℃〜1150℃にて約45時間焼成した。実施例7では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0066】
また実施例8の蛍光体は、一般式をBa1.95Eu0.05SiO4と表され、原料をBaCO3、Eu2O3、SiO2とする以外は実施例7と同様の方法で製造された。実施例7及び実施例8の蛍光体に係る発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図18、図19、図20に併記する。実施例7及び実施例8の蛍光体はいずれも、比較例の蛍光体よりも輝度が向上した。また図18に示すように、実施例7の蛍光体は実施例8の蛍光体よりも長波長側に発光スペクトルのピーク波長を有しており、したがって蛍光体の組成を構成するアルカリ土類金属元素を変更することで、発光スペクトルの波長をシフト制御できることが確認された。
【0067】
(実施例9)
以下、上述の実施の形態に係る蛍光体を採用した発光装置を実施例9として説明する。図21は、一般的な発光装置を示す概略断面図である。この発光装置100は、上部に開口したカップ形状のパッケージ110と、このパッケージ110のカップ形状内に搭載された発光素子101とを備える。またパッケージ110の表面には正負のリード電極111が形成されている。発光素子は、このリード電極111の一方の電極に載置されて、他方の電極とは導電ワイヤ104を介して電気的に接続されている。さらにパッケージ110のカップ内は蛍光体102を含有する封止樹脂103により充填されており、この封止樹脂103でもって発光素子101を封止している。
【0068】
そして発光素子101は、リード電極111を介して外部より電力の供給を受けて発光する。発光素子101より出射された光は、封止樹脂103内を透過しながらその一部を蛍光体102でもって波長変換されて、封止樹脂103の上部から混色光が放出される。また発光装置100は、反射部材112でもって発光素子101からの出射光を光取り出し側へと反射させ、光取り出し効率を向上させることができる。この反射部材112は一般的に金属で構成され、例えば反射率の高い銀や金、アルミニウムでもってリード電極111上を被覆して設けられる。以下、発光装置の各部材について説明する。
【0069】
(発光素子)
発光素子は、近紫外線から可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。好ましくは青紫〜青色光を発するもの、つまり420nm〜470nmに発光ピーク波長を有するものとする。これにより、本発明に係る蛍光体を効率よく励起し、また可視光を有効活用することができるからである。また、励起光源に発光素子を利用することによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0070】
(蛍光体)
本発明に係る上述の蛍光体は、単独で用いることもできるが、他の蛍光体と組み合わせて使用することもできる。特に本発明の実施の形態に係る蛍光体は、発光ピーク波長の色相と隣接する他の色相の光を吸収しにくく、つまり他の色相に発光する蛍光体への影響を与えにくいため、加色により混色光を放出する発光装置に好適に採用できる。他の蛍光体と干渉しにくい蛍光体は、励起による変換効率を高めて、意図する色相の波長光を高輝度に放出することができる。したがって、複数の蛍光体を含有する発光装置の場合、少なくとも一の蛍光体を本発明の蛍光体とすることが好ましい。この場合、他の蛍光体は発光素子からの光を吸収し、発光素子及び一の蛍光体と異なる波長の光に波長変換できるものとする。
【0071】
また発光装置に搭載する複数の蛍光体を、実施の形態及び実施の形態の変形例で示す蛍光体で構成することが好ましい。つまりホスト結晶の組成を同一としながら発光の色相をそれぞれ黄色及び緑色とする各蛍光体をそれぞれ含有する発光装置とできる。この発光装置は、それぞれの蛍光体の比重を略同一とできるため、封止樹脂に包含される各蛍光体を略均一に拡散させることができる。略一様に配置される蛍光体は、各色相の光が偏在することを低減できるため、混色の割合を均等として、発光の指向性を緩和させることができる。つまり色ムラが防止された発光装置とでき好ましい。また、上述の通り互いに干渉しにくい蛍光体を複数含有させることで、該蛍光体における蛍光を二次的に吸収することを回避して、輝度の低下を防止できる。
【0072】
また発光装置に含有される蛍光体は上記に限定されず、上記の蛍光体に代えて、あるいは上記の蛍光体に加えて、種々のものが採用できる。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類金属ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類金属珪酸塩、アルカリ土類金属硫化物、アルカリ土類金属チオガレート、アルカリ土類金属窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類珪酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか一以上であることが好ましい。例えば、(Y,Gd)3(Ga,Al)5O12:Ce、(Ca,Sr)2Si5N8:Eu、CaAlSiN3:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si2O2N2:Euなどが列挙される。種々の蛍光体を搭載することで様々な色調の発光装置を提供することができる。また、蛍光体をデバイスに搭載する形態において、その2種類以上の蛍光体を混合して用いても良いし、それぞれ別の層として配置しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法は、蛍光表示管、ディスプレイ、PDP、CRT、FL、FEDおよび投射管等、特に青色発光ダイオード又は紫外線発光ダイオードを光源とする発光特性に極めて優れた白色の照明用光源、LEDディスプレイ、バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
20…容器
21…開口部
22…底面
23…側面
24…混合原料
25…最上面
100…発光装置
101…発光素子
102…蛍光体
103…封止樹脂
104…導電ワイヤ
110…パッケージ
111…リード電極
112…反射部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法に関し、より詳しくは輝度が改善された蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光源と、これに励起されて光源の色相とは異なる色相の光を放出できる波長変換部材とを組み合わせることで、光の混色の原理により多様な色相の光を放出可能な発光装置が開発されている。例えば発光素子より、紫外から可視光に相当する短波長側領域の一次光を出射し、この出射光でもって蛍光体を励起する。この結果、一次光の少なくとも一部が波長変換されて、赤色、青色、緑色など所望の光を得ることができ、これらの各成分光が加色混合されて白色光を実現できる。
【0003】
この原理を利用して、光源に発光ダイオード(LED)を用いたLEDランプは、信号灯、携帯電話、各種電飾、車載用表示器、あるいは各種の表示装置など、多くの分野に利用されている。特にLEDと蛍光体とを組み合わせて形成した白色LED発光装置は、液晶表示器のバックライト、小型ストロボ等へと盛んに応用されており、普及が進んでいる。また最近では照明装置への利用も試みられており、長寿命・水銀フリーといった長所を活かすことで、環境負荷の小さい蛍光灯代替光源として期待される。
【0004】
同時に、LED発光装置の発光特性を向上させる研究も盛んに行われてきた。例えば白色光の輝度を高めるためには、各色味の成分光の輝度をそれぞれ向上させることが重要となる。つまりLEDからの出射光でもって励起されて効率良くエネルギー変換し、所定の色味に高輝度に発光できる蛍光体が好ましい。したがって蛍光体のエネルギー変換効率の改善が絶えず望まれてきた。
【0005】
特に酸化物系蛍光体は、窒化物系蛍光体と比較して簡便に製造できるため注目されている。例えば特許文献1〜4には、ユーロピウム付活アルカリ土類金属珪酸塩よりなる酸化物系蛍光体が開示される。ユーロピウムは付活剤であるが、ユーロピウムによる発光は、母体ホストの組成、結晶構造、付活剤の濃度などに大きく影響を受ける。またユーロピウムは、主に2価と3価の価数をとり、通常、化合物の状態では3価が安定である。ただ、LED用途で蛍光体の発光に寄与するのは2価のユーロピウムであることが多いため、原料での3価状態から2価へと還元する必要がある。これを受け特許文献1の蛍光体では、蛍光体中に必要なEu2+の含有量を特定し、このEu2+の含有量でもって蛍光体の発光特性を評価可能としている。またEu2+の定量は、EuのX線吸収端近傍微細構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)を測定することによって達成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−23129号公報
【特許文献2】特表2004−516688号公報
【特許文献3】特表2005−520916号公報
【特許文献4】WO2003−021691号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Eu2+の含有比を特定することは現実には極めて困難である。なぜなら、X線吸収端近傍微細構造スペクトルを容易に測定可能な環境を整えることが難しいからである。さらに特許文献1に記載のように、X線吸収端近傍微細構造スペクトル以外にEuの還元率を明らかにする手段がなく、したがってEuの価数比による発光特性の判定は現実的ではなかった。また仮にEuの価数比を判別できたとしても、上述の通りEu付活による発光は、母体結晶の組成や構造など濃度以外にも複数の要因に大きく影響を受ける。したがって、蛍光体に必要なEu2+の含有量だけを評価しても蛍光体全体の性能を判定することにならない。ゆえにEuの価数比を基準にした発光特性の判定は、信頼性に欠ける虞があった。
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点を解消するためになされたものである。すなわち本発明の主な目的は、発光効率を改善するとともに品質を容易にまた正確に評価できる蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蛍光体は、組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される。そして含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下とする。水酸基の含有量を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【0010】
また他の蛍光体は、組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、赤外線を照射し透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下とできる。水酸基及びSiOにおける赤外吸収スペクトルのピーク強度比を上記の範囲とする蛍光体は、エネルギー変換効率が高く、また高輝度に発光できる。
【0011】
さらに他の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜600nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長を500nm〜580nmの波長域に配置できる。この蛍光体をLEDと組み合わせることで高輝度と高演色性を両立できる発光を得ることができる。
【0012】
また発光装置は、近紫外から青色領域の光を発光可能な光源と、この光源からの光の少なくとも一部を励起光として吸収して発光可能な蛍光体を備え、この蛍光体として上述の蛍光体を利用できる。これによりエネルギー変換効率が高く、また所望の色相を高輝度に放出可能な発光装置とでき、消費電力の削減効果を見込める。
【0013】
また蛍光体の製造方法は、下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、蛍光体の組成元素であるM、Siが下記の一般式に示すモル比を満たすように、組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する第1の工程と、この混合された原料を、少なくとも一方向に開口した容器に配置し、還元雰囲気中で焼成する第2の工程とを有する。また第2の工程において、混合された原料は、かさ体積に対する表面積の比率が0.5以上となる状態で容器に配置されて焼成できる。これにより混合原料の比表面積を十分に大きくして、混合原料と還元雰囲気との反応を促進できる結果、水酸基の含有量を低減した蛍光体を得ることができる。
M2SiO4(但し、Mは少なくともSrまたはBaを含み、さらにMg、Ca、Znの群から選ばれる元素を含有することができ、かつMの一部をEuで置換可能である。)
【0014】
また第2の工程において、容器は全体の容量に対する開口部の面積の比率が0.5以上を満たす容器とできる。つまり容器を、ここに投入される混合原料が還元雰囲気と接触面積を十分に稼ぐことができる形状に予め設計することで、混合原料を容器に配置するだけで、自ずと混合原料の比表面積を適切に調節できる。したがって混合原料の配置位置を厳密に制御することなく、焼成工程を簡便に行うことができる。また水素を含む還元雰囲気中で混合原料を焼成することで、水酸基の脱離を一層促進させることができる。
【0015】
また第2の工程において、混合された原料を容器に略均等に配置した状態で、混合された原料のかさ体積に対する容器の開口部の面積の比率が0.5以上となる関係を満たすように、前記混合された原料を前記容器に配置してもよい。これにより、混合された原料の還元雰囲気に露出される領域が、容器の開口部に限定された場合であっても、混合原料と還元雰囲気との反応を促進できる。
【0016】
また第1の工程において、混合された原料の単位体積当たりの重量が1.60〜1.80g/cm3であるように、各原料を混合することもできる。かさ密度を上述の範囲に特定することで、混合原料が単位体積当たりに還元雰囲気と接触する表面積の比率を適当な範囲に制御でき、混合原料と還元雰囲気との反応を効率良く促進させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、水酸基の含有量によって発光特性を制御できる。つまり水酸基の含有量を特定することで、エネルギー変換効率の高い、すなわち高輝度に発光する蛍光体やこれを備える発光装置を得られる。この水酸基の含有量は、母体結晶中に必須であってかつ安定して配置される原子団、具体的にはSiOを基準として相対的に同定されるため、発光特性を信頼性高く評価できる。また水酸基の含有量は、SiOの含有量とともに、それぞれの官能基を構成する元素間の結合量によって換算しており、つまり蛍光体の結晶構造を構成する原子団がそれぞれに固有する赤外線吸収スペクトルの強度比を基準にして判定できる。したがって化学物質の同定に古くから用いられてきた赤外分光法を利用できるため、比較的簡単な装置で容易に発光特性を判定することができる。また本発明の蛍光体の製造方法であれば、混合原料の比表面積を大きくして十分に還元雰囲気にさらすことができるため、効率良く水酸基を脱離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1の蛍光体に係る焼成工程の一部を示す説明図である。
【図2】実施例1〜3、比較例1〜4の各蛍光体に係る赤外スペクトルである。
【図3】図2を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図4】図2を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図5】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフである。
【図7】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図8】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図9】実施例1〜3、比較例2〜4の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図10】実施例4〜6、比較例5〜8の各蛍光体に係る赤外スペクトルである。
【図11】図10を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図12】図10を一部拡大した赤外スペクトルである。
【図13】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフである。
【図14】実施例及び比較例における各蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフである。
【図15】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図16】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図17】実施例4〜6、比較例6〜8の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図18】実施例7、8の各蛍光体に係る発光スペクトルである。
【図19】実施例7、8の各蛍光体に係る励起スペクトルである。
【図20】実施例7、8の各蛍光体に係る反射スペクトルである。
【図21】実施例9に係る発光装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、蛍光体及びこれを備える発光装置並びに蛍光体の製造方法を以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0020】
なお色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。
【0021】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る蛍光体は、酸化物系蛍光体である。具体的には、組成式がM2SiO4で表されるオルソシリケートであって、蛍光体に含有される水酸基の量はSiOの量に対して0.7%以下とする。ただし、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含む元素であり、したがってMは複数の元素で構成できる。またSiはケイ素、Oは酸素である。この蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて、480nm〜600nmの光を発光可能であり、特に発光スペクトルのピーク波長を500nm〜580nmの波長域に設定できる。
【0022】
実施の形態1の蛍光体において重要なことは、母体結晶中に含まれる水酸基が十分に低減されていることである。詳しくは、蛍光体の母体結晶において必須のSiOを基準として、水酸基の含有量を十分に低い値、具体的には0.7%以下とする。また好ましくは実質上水酸基を含んでいない形態とする。
【0023】
これは本発明者らの鋭意研究の結果得られた次の知見に基づく。すなわちEuを付活剤とするオルソシリケート蛍光体において、その発光効率は母体結晶中に含有される水酸基の量と相関関係にあることを新規に見出した。詳細は後述するが、水酸基の量を減少させることで蛍光体の発光効率を改善できる。特に水酸基とSiOの含有量を上記の関係に規定する蛍光体は、蛍光体の発光効率が改善するとともに輝度も上昇し、発光特性の良好な蛍光体として評価できる。なお、蛍光体における水酸基の含有は、空気中に存在する水分や水蒸気の水酸基が原料に付着することに起因するものと考えられる。
【0024】
(赤外分光法)
実施の形態1では、蛍光体中の各官能基の含有比率を把握する手段として、赤外分光法を採用した。赤外分光法は、赤外吸収スペクトルを利用する分光分析である。赤外吸収スペクトルは、分子の個性を鋭敏に反映した特徴的なパターンを示す。これは、赤外吸収を与える励起状態が、分子運動に起因する振動に関係するものであるために、その固有エネルギーが分子の構造のわずかな差異によっても敏感に変化するからである。したがって赤外吸収法は、あらゆる種類の化合物(分子、結晶、イオン)の分析に適している。この特徴を利用して、赤外吸収スペクトルによって物質の同定、定性分析などを行うことができる。また赤外吸収帯の強度(吸光度)は原則としてベールの法則に従うので、定量分析にも利用できる。したがって実施の形態1では、蛍光体内の官能基の含有量を、赤外吸収スペクトルの吸光度でもって同定し、さらに特定の原子団の吸光度を基準に他の原子団の吸光度を相対的に表して、これを含有比率に置換した。
【0025】
実施の形態1の蛍光体では、上述の通り水酸基の含有量に注視しており、この水酸基の含有量を、SiOの含有量に対する比率で認識する。これは、SiO1++が蛍光体の母体結晶において必須の原子団であって、かつ安定して配位される特性を利用したものである。したがって蛍光体の母体結晶中におけるSiOの赤外吸収スペクトルの吸光度は略一定とみなしてこれを基準とすることで、水酸基の相対的な含有量を把握し、つまり水酸基の含有量の増減を理解し易くした。
【0026】
具体的に実施の形態1の蛍光体は、これに赤外線を照射し、透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下となる条件を満たす。この範囲に特定する蛍光体は、エネルギーを効率良く変換できるため高輝度に発光する。
【0027】
また赤外分光分析法は第2次大戦中に開発され、分光分析において長い歴史を有する手法である。現在、数多くの化合物の赤外吸収スペクトルがデータバンクとして蓄積されており、コンピューターによる検索によって、スペクトルから未知化合物を同定することが可能である。また赤外分光分析法は、迅速な点、試料が少量で足りる点、簡便な点など数々の長所を持つ。さらに赤外吸収スペクトルは、分子の置かれた環境にも敏感であり、状態分析にも適している。したがって、赤外分光分析法によって蛍光体中の原子団の比率を容易にまた正確に定量することができる。実施の形態1では、この赤外分光法による赤外線吸収スペクトルの測定として、フーリエ変換型赤外分光器(FT−IR)であるニコレー・ジャパン製Nexus870を使用した。またATR法(ダイヤモンドクリスタル)にて測定を行い、検出器としてDTGSを用いて波長領域400〜4000cm-1のデータを取得した。
【0028】
また実施の形態1の蛍光体は、蛍光体の組成Mを構成するSrとBaの比率を変更することで、発光スペクトルのピーク波長域を連続的にシフトすることができる。言い換えるとSrとBaの比率でもって蛍光体の発光の色度を調節できる。さらにMの一部はEuで置換可能である。Euは付活剤であって蛍光体の発光中心となる。Euの組成比を大きくすることで蛍光体の発光強度を上昇させることができるが、Euが過多になると濃度消光が生じる。したがってMにおけるEuの置換の割合は1%〜30%とすることが好ましい。ただし、付活剤はEuのみに限定されず、その一部を他の希土類金属やアルカリ土類金属に置き換えて、Euと共付活させたものも使用できる。特にEuとMnとを共付活させると発光色を長波長化できる。
【0029】
(粒径)
また実施の形態の蛍光体は、平均粒径値が2μmないし60μm、好ましくは5μmないし40μmの範囲内にあることが好ましい。あるいは、この平均粒径値を有する蛍光体が頻度高く含有されていることが好ましい。粒径を上述の範囲とする蛍光体は、光の吸収率及び変換効率を高めることができる。一方、2μmより小さい粒径の蛍光体は、凝集体を形成し易い傾向にある。さらに蛍光体は、粒度分布においても狭い範囲に頻度よく分布しているものが好ましい。これにより粒径及び粒度分布のバラツキが小さく、光学的に優れた特徴を有する粒径の大きな蛍光体とできる。また、この蛍光体を用いた発光装置は、より色ムラが抑制された良好な色調を有する出射光を得られる。色ムラが抑制された発光装置は、発光装置同士の色バラツキを抑えることができるため、発光装置を量産したときの歩留まりを向上させることができる。
【0030】
粒径は、F.S.S.S.No(Fisher Sub Sieve Sizer's No)における空気透過法で得られる平均粒径によって示すことができる。具体的には、気温25℃、湿度70%の環境下において、1cm3分の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り平均粒径に換算した値である。
【0031】
(蛍光体の製造方法)
以下、実施の形態1に係る蛍光体の製造方法を説明する。このオルソシリケート蛍光体は、蛍光体の組成を構成する元素を含む原料を混合して、これを焼成することで得られる。詳細には蛍光体の組成に含有される各元素の単体や酸化物、炭酸塩あるいは窒化物などを原料とし、各元素が所定のモル比となるようにそれぞれの原料を秤量する。ただし実施の形態1に係る蛍光体は、その製造工程中に一部の元素が飛散あるいは溶出してしまうことがあるため、これを考慮して最終生成物における組成比とは異なる仕込比でもって出発原料を秤取してもかまわない。
【0032】
オルソシリケート蛍光体は、蛍光体の組成元素であるM、Siが一般式に示すモル比を満たすように、MとSiの組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する。または、これらの原料にさらにフラックスなどの添加材料を適宜加え、混合機を用いて湿式又は乾式で混合する。また、一の組成Mの組成比を、複数の原料で構成してもよい。この場合、複数の原料にそれぞれ含まれる組成を合計した組成比が、上述の組成比を満たすように各原料の量を調節する。
【0033】
混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕して比表面積を大きくすることもできる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器などの湿式分離機、サイクロン、エアセパレータなどの乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0034】
そして混合した原料を、少なくとも一方向に開口した容器に詰め、大気中、不活性ガス雰囲気中、還元雰囲気中など任意に選択した雰囲気中で焼成する。焼成温度は900℃から1250℃の温度で1から60時間行う。また、同じ条件あるいは別の条件で段階的に焼成してもよい。ただ混合原料は、少なくとも一時的に還元雰囲気中で焼成されることが好ましく、これにより混合原料中の水酸基を脱離させ易くできる。還元雰囲気は、不活性ガス及びN2、H2、一酸化炭素など種々の様態とできる。また焼成雰囲気はアルゴン雰囲気、アンモニア雰囲気なども使用することができるが、不活性ガスと水素の混合雰囲気中で焼成することが好ましい。これにより混合原料中の水酸基を還元し易くでき、蛍光体中の水酸基の量を効率良く低減させることができる。
【0035】
また容器は耐熱性の観点から坩堝が好ましく、例えばSiC、アルミナ、BN等の材質とする。実施の形態1の蛍光体の製造方法において重要なことは、混合原料の比表面積を大きくして焼成することである。すなわち単位体積あたりの表面積を増加させるように混合原料を容器に配置させることが大切である。これにより混合原料と還元雰囲気との反応を促進させ、特に混合原料と還元雰囲気との界面における水素基の脱離を効率良く促進させることができる。
【0036】
(焼成条件)
混合原料は、上述の通り比表面積を大きくして焼成されることが好ましい。詳細には混合原料のかさ体積に対して、気体と接触する表面積を大きくすることが好ましい。実施の形態1の蛍光体は、混合原料のかさ体積あたりの表面積の割合を0.5以上としながら、還元雰囲気中で焼成される。
【0037】
ただし、混合原料は粉体であり微細な粒子が集合しているため、粒状間に隙間を有することがある。したがって本明細書で言う「かさ体積」とは、標準状態の混合原料において、この粒状間の隙間も包含した総体積を指す。また本明細書で言う「表面積」とは、混合原料全体と気体との界面域を指し、いわば混合原料を一つのかたまりとして視認した際の最も外側の表面積を意味する。つまり、粒子間の隙間に露出した表面積は含有しておらず、粒子それぞれの表面積の総合計を意味するものではない。
【0038】
上記に示す焼成条件の範囲は、焼成する際の混合原料の好適な配置状態を数値化したものであるが、実際の混合原料は微細な粒子の集合体であるため、かさ体積や表面積を直接測定することは困難である。しかしながら混合原料のかさ体積や表面積を、混合原料を投入する容器の容量や開口部でもって換算することができる。以下に容器と焼成条件の関係について図1を用いて説明する。
【0039】
図1は、実施の形態1の蛍光体の製造方法における焼成工程の様子を示した説明図である。この図1に示すように、混合原料24を容器20に投入して焼成する。図1の容器20は、半径rの円状の底面22と、この底面22の外周から上方に立設された側面23とからなる筒状である。また容器20は、内部を開口しながら上面を略全て開放しており、すなわち上方に開口部21を備える。蛍光体の混合原料24は、容器20の底面22の略全てを被覆する状態で敷き詰められて、筒状の側面23に接しながら上方に積層される。また混合原料24は、その最上面25を略水平面として容器20内に略均等に配置される。
【0040】
このように混合原料24を底面から上方にかけて均等に積層させることで、容器の容量から混合原料のかさ体積を推定できる。また、混合原料24は底面と側面に接触して積層されるため、積層時は実質上その最上面が気体にさらされる。つまり、この混合原料24の最上面が表面積に相当し、したがって混合原料24の表面積を容器の開口部の面積として換算できる。例えば図1の例では混合原料24が円柱状の容器20にかさ高さh分だけ投入されているため、混合原料24のかさ体積をπr2hと表すことができる。一方混合原料24の表面積はπr2となる。したがって混合原料のかさ体積に対する表面積の比率、すなわち混合原料の配置状態値は、f(h)=πr2/πr2h=1/hと表せる。この比率が0.5以上を満たすことが好ましい。
【0041】
このように容器を円筒状とした図1の例では、混合原料の配置状態値、すなわち混合原料のかさ体積に対する表面積の比率は、上述の通り1/hである。したがって混合原料の配置状態値は、容器中の混合原料のかさ高hに反比例する。つまり、かさ高hが小さいほど配置状態値が大きくなり、これは混合原料と還元雰囲気の気体、すなわち水素との界面領域が大きいことを意味する。還元ガスである水素と蛍光体の接触面積を大きくすることによって、水素による水酸基へのアタックが容易になる。したがって水酸基が効率良く離脱されるため、水酸基の低減された蛍光体を得ることができる。
【0042】
また当然ながら容器の形状は円筒状に限定されず、半球状、直方体状など種々の形状とできる。ただ、容器全体の容量に対する開口部の面積が0.5以上を満たす容器とすることが好ましい。これにより混合原料をこの容器いっぱいに投入した際、すなわち混合原料のかさ高hが最も大きい状態で、混合原料のかさ体積及び表面積は、容器の容量及び開口部の面積にそれぞれ略一致する。したがって容量に対する開口部の面積が0.5以上を満たす容器とすることで、混合原料の配置状態値f(h)を少なくとも0.5に制御できる。一方、混合原料をこの容器に薄く投入すると、すなわち混合原料のかさ高hを小さい状態で配置すると、上述の配置状態値f(h)は0.5よりも大きくなる。すなわち混合原料の体積あたりの表面積を大きくでき、水酸基の脱離を効率良く促進できる。このように、混合原料の配置状態値f(h)が0.5以上となるように、予め容器の形状を上述の範囲に設計しておくことで、この容器に投入した混合原料は、自ずと混合原料の配置状態値f(h)の条件を満足する。したがって混合原料の充填状態を制御する手間を省いて簡便に焼成することができる。
【0043】
また、図1に示すように、混合原料24を容器20に略均等に配置した状態では、混合原料24が容器20の底面22の全域を被覆し、かつ側面23に接触しながら上方に均等に積層される。つまり図1の例では、円柱状に積層された混合原料24の略水平な最上面25が、還元雰囲気と接触される界面領域に相当し、そしてこの最上面25は容器20の開口部の面積に略等しい。したがって実質上、混合原料24の表面積は容器20の開口部21の面積に略一致する。
【0044】
そして混合原料を焼成した後、焼成されたものを粉砕、混合処理、分散、濾過等を施して目的の蛍光体粉末を得る。粉砕は軽度に行われることが好ましい。すなわち粉砕時間を通常のレベルよりも短かくし、あるいは粉砕前後の粒径サイズの変化を低減して、簡易な粉砕とする。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。ただ、洗浄や分級処理などは、焼成の前や、あるいは焼成が複数段階に分かれて実施される場合は、焼成の前または途中段階で行うことが好ましい。これにより蛍光体への損失を低減して、結晶欠陥や不純物の少ない蛍光体を得られる。結晶欠陥の低減された蛍光体は、不要な光吸収を抑制してエネルギー変換効率を高めることができる。
【0045】
また蛍光体は、大部分が結晶を有することが好ましい。例えばガラス体(非晶質)は結晶構造を保持しないため、蛍光体として機能しないおそれがある。したがって、これを回避するため生産工程における反応条件を厳密に一様になるよう制御する必要が生じる。一方、実施の形態に係る蛍光体は、ガラス体でなく結晶を有する粉体あるいは粒体とできるため、製造及び加工が容易である。また、この蛍光体は有機媒体に均一に溶解でき、発光性プラスチックやポリマー薄膜材料の調整が容易に達成できる。具体的に、実施の形態に係る蛍光体は、少なくとも50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶を有している。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られるため好ましい。ゆえに結晶相が多いほど良い。これにより発光輝度を高くすることができ、かつ加工性が高まる。
【0046】
以下、蛍光体の組成元素をそれぞれ含有する各原料に関して説明する。まず蛍光体組成のSiは、酸化物を使用することが好ましいが、窒素化合物、イミド化合物、アミド化合物などを使用することもできる。例えば、SiO2、Si3N4、Si(NH2)2、Mg2Siなどである。一方、Si単体のみを使用して、安価で結晶性の良好な蛍光体ともできる。原料のSiの純度は、2N以上のものが好ましいが、Li、Na、K、Bなどの異なる元素が含有されていてもよい。さらに、Siの一部をAl、Ga、In、Tlで置換することもできる。また、蛍光体組成のSiをGe、Sn、Ti、Zr、Hfに置換してもよい。
【0047】
またMgやアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baは、ハロゲン塩と酸化物、炭酸塩などを組み合わせて、所定のハロゲン比率となるように使用することができる。また、ハロゲンを導入する場合、アルカリ土類のハロゲン塩の変わりにハロゲンを含むアンモニウム塩を用いることができる。
【0048】
さらに、賦活剤のEuは、好ましくは単独で使用されるが、ハロゲン塩、酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩などを使用することができる。また、Euの一部を、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等で置換してもよい。また、Euを必須とする混合物を使用する場合、所望により配合比を変えることができる。このようにEuの一部を他の元素で置換することで、他の元素は、共賦活剤として作用する。これより色調を変化させることができ、発光特性の調整を行うことができる。ユーロピウムは、主に2価と3価の価数を持つが、実施の形態の蛍光体では、Eu2+を賦活剤として用いる。また、原料としてEuの化合物を使用しても良い。この場合、原料は精製したものを用いる方が良いが、市販の物を用いても良い。具体的にはEuの化合物として酸化ユーロピウムEu2O3、金属ユーロピウム、窒化ユーロピウムなども使用可能である。また、原料のEuは、イミド化合物、アミド化合物を用いることもできる。酸化ユーロピウムは、高純度のものが好ましく、また市販のものも使用することができる。また、原料の混合物中に希土類元素やアルカリ金属元素を添加することができる。
【0049】
上述の原料は精製したものが好ましい。これにより精製工程を必要としないため、蛍光体の製造工程を簡略化でき、安価な蛍光体を提供することができるからである。これらの原料でもって上述の製造工程を経て得られた蛍光体は、光源とともに使用することで所定の色に発光し、発光装置の全体の放出光の成分光とできる。実施の形態の蛍光体は、上述の通り近紫外〜青色光により励起されて黄〜緑色に発光する。特に青色光によって効率良く励起される。したがって近紫外〜青色光に、特に青色光に発する発光素子と、この蛍光体とを組み合わせて用いることによって、発光効率及び演色性の高い発光装置を得ることができる。なお本明細書において、紫外線領域から可視光の短波長領域は、特に限定されないが250〜500nmの領域をいう。特に、290nm〜470nmの範囲が好ましい。より好ましくは、青紫〜青色光を発する420nm〜470nmの範囲である。
【実施例】
【0050】
以下、実施の形態の蛍光体における一例として、蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明の蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を下記のものに特定しない。
【0051】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
まず実施例1〜実施例3の蛍光体の一般式は(Sr0.8、Ba0.2)1.93Eu0.07SiO4で表される。この蛍光体は、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)を原料とし、各原料中に含有される蛍光体の組成元素が、上記の一般式に示す組成比を満たすように各原料を秤量した。この原料にさらにフラックスとしてNH4Clを添加し混合した。これらの混合原料を坩堝に配置して、1100℃〜1250℃にて焼成した。
【0052】
実施例1〜3で使用した坩堝は、開口部の口径をφ70mmとし、開口面積が38.485cm2であった。また実施例1〜3の混合原料は、かさ密度すなわち単位体積当たりの重量が1.686g/cm3であり、15gの混合原料を坩堝に配置した。したがって開口部の面積/混合原料の体積=4.326の配置状態値f(h)でこの坩堝に配置され、所定の焼成時間でもって焼成された。一方、比較例1〜4で用いた坩堝は、開口部の口径をφ20mmとし、開口面積が3.142cm2であった。また比較例1〜4の混合原料は、実施例1〜3と同様のかさ密度(1.686g/cm3)であり、したがって開口部の面積/混合原料の体積=0.353の配置状態値でもってこの坩堝に配置され、所定の焼成時間でもって焼成された。
【0053】
また実施例1〜3の蛍光体は焼成時間がそれぞれ異なり、実施例1では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例2では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例3では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。一方、比較例1の蛍光体は、実施例1と同じ組成式で表されるが、サイズの異なる坩堝を使用し、大気中で約25時間焼成を行った。比較例2〜4の蛍光体は、サイズの異なる坩堝を使用した以外は、実施例1〜3と同じ組成式で表され、略同じ手法で製造された。つまり、比較例2では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例3では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例4では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0054】
表1は、これら実施例1〜3及び比較例1〜4の各蛍光体の発光特性を示す。具体的には、460nmの波長による励起時の色度(x、y)、粉体輝度Y(%)、また赤外吸収スペクトルにおいてSiOに対するOHのピーク強度比(%)([OH]/[SiO])をそれぞれ評価した。さらに各蛍光体のこの赤外スペクトルを図2に、また図2の550〜1200cm-1における拡大スペクトルを図3に、そして2800〜3800cm-1における拡大スペクトルを図4にそれぞれ示す。加えて、蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフを図5に、一方、蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフを図6にそれぞれ示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3及び比較例2〜4の各蛍光体において、460nm励起による発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図7、図8、図9に示す。なお比較例1の蛍光体は非発光であったため、各スペクトルを表示していない。実施例1〜3の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて500nm〜600nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長が530nm〜580nmの波長域にある。
【0057】
また実施例及び比較例の各蛍光体において、図2、図4に示すように、吸光波数3300cm-1附近で水酸基に相当する吸光を確認し、具体的には図4に示すように3350±350cm-1に水の吸収が出現した。また図3に示すように、吸光波数1000±100cm-1でSiOの吸光を確認した。これら[SiO]と[OH]のピーク値から、SiO基に対するOHの相対的なピーク強度比を各蛍光体においてそれぞれ算出した。なおピーク強度比は吸光度の高さのみならず、高さをx軸方向に積分した値、すなわち面積比で規定したものである。
【0058】
図5に示すように、比較例は還元雰囲気での焼成時間が長くなるほど粉体輝度が上昇した。しかし容器の開口面積が大きい実施例では、開口面積の小さい比較例に比べて粉体輝度の上昇率が高く、同じ焼成時間であっても10.0%〜17.3%の上昇を確認した。また図6に示すように、実施例及び比較例とも焼成時間が長くなるほど、SiOに対する水酸基の含有率が減少した。特に開口面積/体積の大きい状態で焼成された実施例の蛍光体では、比較例と同じ焼成時間であっても、SiOに対する水酸基のピーク強度比の減少率が大きい。つまり焼成時間が増加するにつれて、蛍光体内の水酸基の含有率が低減されると同時に、輝度が上昇することが確認され、特に開口面積/体積が0.5以上の条件でこの特徴が顕著であることが確認された。これは、図8、図9に示すように、比較例、実施例とも励起スペクトル及び反射スペクトルの波形が類似しているが、図7の発光スペクトルでは、実施例の蛍光体が比較例の蛍光体よりも発光強度が高い結果と一致する。
【0059】
(実施例4〜6、比較例5〜8)
また実施例1〜3の蛍光体と同じ組成元素を有するが、組成の比率を変更しながら類似の手法で生成された蛍光体を実施例4〜6及び比較例5〜8とした。以下にその製造方法及び特性を記載する。まず実施例4〜6の蛍光体の一般式は(Sr0.45、Ba0.55)1.93Eu0.07SiO4表され、すなわちSrとBaのモル比率が実施例1〜3の蛍光体と異なる。この組成比になるよう実施例1〜3と同じ原料を秤量し、さらにフラックスを添加して混合した。混合した原料のかさ密度は1.760g/cm3であり、この混合原料を実施例1〜3と同一条件の坩堝、すなわち開口部の口径φ70mm、開口面積が38.485cm2の坩堝に、開口部の面積/混合原料の体積が4.515の配置状態値でもって15gの混合原料を配置した。混合原料は1000℃〜1150℃にて焼成された。一方、比較例5〜8で用いた坩堝は、開口部の口径をφ20mmとし、開口面積は3.142cm2であった。比較例5〜8の混合原料は、実施例4〜6と同様のかさ密度(1.760g/cm3)であり、したがって開口部の面積/混合原料の体積=0.369の配置状態値でもってこの坩堝に配置され、実施例4〜6と同様の焼成温度でもってそれぞれ焼成された。
【0060】
また実施例4〜6の蛍光体は焼成時間がそれぞれ異なり、実施例4では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例5では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。実施例6では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。一方、比較例5の蛍光体は、実施例4と同じ組成式で表され、サイズの異なる坩堝を使用し、大気中で約25時間焼成を行った。比較例6〜8の蛍光体は、サイズの異なる坩堝を使用した以外は、実施例4〜6と同じ組成式で表され、略同じ手法で製造された。比較例6では焼成時間を約35時間とし、そのうち約10時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例7では焼成時間を約40時間とし、そのうち約15時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。比較例8では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0061】
表2は、これら実施例4〜6及び比較例5〜8の各蛍光体の発光特性を示す。また各蛍光体の赤外スペクトルを図10に、また図10の550〜1200cm-1における拡大スペクトルを図11に、そして2800〜3800cm-1における拡大スペクトルを図12にそれぞれ示す。加えて、蛍光体の焼成時間と輝度の関係を示すグラフを図13に、一方、蛍光体の焼成時間とOH基の強度比率の関係を示すグラフを図14にそれぞれ示す。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例4〜6及び比較例6〜8の各蛍光体において、460nm励起による発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図15、図16、図17に示す。なお比較例5の蛍光体は非発光であったため、各スペクトルを表示していない。これらの図に示すように実施例4〜6の蛍光体は、470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜580nmの光を発光可能であり、発光スペクトルのピーク波長が500nm〜550nmの波長域にある。実施例4〜6の蛍光体は、実施例1〜3の蛍光体と比較して発光スペクトルが短波長側にシフトされた。これに併せて表2の色度結果より、SrとBaのモル比率を制御することで発光の色味を調節できることが確認できた。
【0064】
また図10〜図12に示すように実施例4〜6の蛍光体も、実施例1〜3の蛍光体と同様の波数域にOH基及びSiO基の吸光を認めた。さらに実施例4〜6及び比較例5〜8の蛍光体は、実施例1〜3及び比較例1〜4の蛍光体と同様の特性を示した。すなわち焼成時間が長くなるにつれて、SiOに対する水酸基の含有率が減少し、これと同時に蛍光体の粉体輝度が上昇した。特に、開口面積の大きい容器に、開口面積/体積の大きい状態で混合原料を配置して焼成した実施例4〜6の蛍光体は、開口面積の小さい容器でもって比表面積を小さい状態で混合原料を焼成した実施例4〜6の蛍光体と比較して、粉体輝度が上昇した。焼成時の比表面積の差による粉体輝度は、焼成時間が長いほどその上昇率が顕著であった。
【0065】
(実施例7、8)
さらに実施例1〜6と同じ坩堝、すなわち開口部の口径をφ70mmとする坩堝を使用しながら、製造条件の一部を変更して得られた蛍光体をそれぞれ実施例7、実施例8とし、特性を評価した。具体的に実施例7の蛍光体は、一般式をSr1.95Eu0.05SiO4と表せる。この蛍光体の製造方法は、SrCO3、Eu2O3、SiO2を原料とし、各原料中に含有される蛍光体の組成元素が、上記の一般式に示す組成比を満たすように各原料を秤量した。この原料にさらにフラックスとしてNH4Clを添加し混合し、これらの混合原料を坩堝に配置して、1000℃〜1150℃にて約45時間焼成した。実施例7では焼成時間を約45時間とし、そのうち約20時間は窒素96%・水素4%からなる還元雰囲気中で焼成を行った。
【0066】
また実施例8の蛍光体は、一般式をBa1.95Eu0.05SiO4と表され、原料をBaCO3、Eu2O3、SiO2とする以外は実施例7と同様の方法で製造された。実施例7及び実施例8の蛍光体に係る発光スペクトル、励起スペクトル、反射スペクトルをそれぞれ図18、図19、図20に併記する。実施例7及び実施例8の蛍光体はいずれも、比較例の蛍光体よりも輝度が向上した。また図18に示すように、実施例7の蛍光体は実施例8の蛍光体よりも長波長側に発光スペクトルのピーク波長を有しており、したがって蛍光体の組成を構成するアルカリ土類金属元素を変更することで、発光スペクトルの波長をシフト制御できることが確認された。
【0067】
(実施例9)
以下、上述の実施の形態に係る蛍光体を採用した発光装置を実施例9として説明する。図21は、一般的な発光装置を示す概略断面図である。この発光装置100は、上部に開口したカップ形状のパッケージ110と、このパッケージ110のカップ形状内に搭載された発光素子101とを備える。またパッケージ110の表面には正負のリード電極111が形成されている。発光素子は、このリード電極111の一方の電極に載置されて、他方の電極とは導電ワイヤ104を介して電気的に接続されている。さらにパッケージ110のカップ内は蛍光体102を含有する封止樹脂103により充填されており、この封止樹脂103でもって発光素子101を封止している。
【0068】
そして発光素子101は、リード電極111を介して外部より電力の供給を受けて発光する。発光素子101より出射された光は、封止樹脂103内を透過しながらその一部を蛍光体102でもって波長変換されて、封止樹脂103の上部から混色光が放出される。また発光装置100は、反射部材112でもって発光素子101からの出射光を光取り出し側へと反射させ、光取り出し効率を向上させることができる。この反射部材112は一般的に金属で構成され、例えば反射率の高い銀や金、アルミニウムでもってリード電極111上を被覆して設けられる。以下、発光装置の各部材について説明する。
【0069】
(発光素子)
発光素子は、近紫外線から可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。好ましくは青紫〜青色光を発するもの、つまり420nm〜470nmに発光ピーク波長を有するものとする。これにより、本発明に係る蛍光体を効率よく励起し、また可視光を有効活用することができるからである。また、励起光源に発光素子を利用することによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0070】
(蛍光体)
本発明に係る上述の蛍光体は、単独で用いることもできるが、他の蛍光体と組み合わせて使用することもできる。特に本発明の実施の形態に係る蛍光体は、発光ピーク波長の色相と隣接する他の色相の光を吸収しにくく、つまり他の色相に発光する蛍光体への影響を与えにくいため、加色により混色光を放出する発光装置に好適に採用できる。他の蛍光体と干渉しにくい蛍光体は、励起による変換効率を高めて、意図する色相の波長光を高輝度に放出することができる。したがって、複数の蛍光体を含有する発光装置の場合、少なくとも一の蛍光体を本発明の蛍光体とすることが好ましい。この場合、他の蛍光体は発光素子からの光を吸収し、発光素子及び一の蛍光体と異なる波長の光に波長変換できるものとする。
【0071】
また発光装置に搭載する複数の蛍光体を、実施の形態及び実施の形態の変形例で示す蛍光体で構成することが好ましい。つまりホスト結晶の組成を同一としながら発光の色相をそれぞれ黄色及び緑色とする各蛍光体をそれぞれ含有する発光装置とできる。この発光装置は、それぞれの蛍光体の比重を略同一とできるため、封止樹脂に包含される各蛍光体を略均一に拡散させることができる。略一様に配置される蛍光体は、各色相の光が偏在することを低減できるため、混色の割合を均等として、発光の指向性を緩和させることができる。つまり色ムラが防止された発光装置とでき好ましい。また、上述の通り互いに干渉しにくい蛍光体を複数含有させることで、該蛍光体における蛍光を二次的に吸収することを回避して、輝度の低下を防止できる。
【0072】
また発光装置に含有される蛍光体は上記に限定されず、上記の蛍光体に代えて、あるいは上記の蛍光体に加えて、種々のものが採用できる。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類金属ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類金属珪酸塩、アルカリ土類金属硫化物、アルカリ土類金属チオガレート、アルカリ土類金属窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類珪酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか一以上であることが好ましい。例えば、(Y,Gd)3(Ga,Al)5O12:Ce、(Ca,Sr)2Si5N8:Eu、CaAlSiN3:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si2O2N2:Euなどが列挙される。種々の蛍光体を搭載することで様々な色調の発光装置を提供することができる。また、蛍光体をデバイスに搭載する形態において、その2種類以上の蛍光体を混合して用いても良いし、それぞれ別の層として配置しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法は、蛍光表示管、ディスプレイ、PDP、CRT、FL、FEDおよび投射管等、特に青色発光ダイオード又は紫外線発光ダイオードを光源とする発光特性に極めて優れた白色の照明用光源、LEDディスプレイ、バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
20…容器
21…開口部
22…底面
23…側面
24…混合原料
25…最上面
100…発光装置
101…発光素子
102…蛍光体
103…封止樹脂
104…導電ワイヤ
110…パッケージ
111…リード電極
112…反射部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、
含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下となることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、
赤外線を照射し透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下となることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体において、
470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜600nmの光を発光可能であり、
発光スペクトルのピーク波長が500nm〜580nmの波長域にあることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
近紫外から青色領域の光を発光可能な光源と、
前記光源からの光の少なくとも一部を励起光として吸収して発光可能な、請求項1から3のいずれか一に記載の蛍光体と、
を備える発光装置。
【請求項5】
下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、
前記蛍光体の組成元素であるM、Siが下記の一般式に示すモル比を満たすように、該組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する第1の工程と、
該混合された原料を、少なくとも一方向に開口した容器に配置し、還元雰囲気中で焼成する第2の工程と、
を有し、
該第2の工程において、前記混合された原料は、かさ体積に対する表面積の比率が0.5以上となる状態で前記容器に配置されて焼成されることを特徴とする蛍光体の製造方法。
M2SiO4(但し、Mは少なくともSrまたはBaを含み、さらにMg、Ca、Znの群から選ばれる元素を含有することができ、かつMの一部をEuで置換可能である。)
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第2の工程において、前記容器は全体の容量に対する開口部の面積の比率が0.5以上を満たす容器であることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第2の工程において、前記混合された原料を前記容器に略均等に配置した状態で、該混合された原料のかさ体積に対する前記容器の開口部の面積の比率が0.5以上となる関係を満たすように、前記混合された原料を前記容器に配置することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第1の工程において、混合された原料の単位体積当たりの重量が1.60〜1.80g/cm3であるように、前記各原料を混合することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項1】
組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、
含有される水酸基の量がSiOの量に対して0.7%以下となることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
組成式がM2SiO4(但し、MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの群から選ばれる元素のうち少なくともSrまたはBaを含み、またMの一部はEuで置換可能である。)で表される蛍光体であって、
赤外線を照射し透過あるいは反射した光を分光して得られたスペクトルにおいて、水酸基のOとH間の結合量を示すピーク強度が、SiOのSiとO間の結合量を示すピーク強度に対して0.7%以下となることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体において、
470nm以下の波長域の光に励起されて480nm〜600nmの光を発光可能であり、
発光スペクトルのピーク波長が500nm〜580nmの波長域にあることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
近紫外から青色領域の光を発光可能な光源と、
前記光源からの光の少なくとも一部を励起光として吸収して発光可能な、請求項1から3のいずれか一に記載の蛍光体と、
を備える発光装置。
【請求項5】
下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、
前記蛍光体の組成元素であるM、Siが下記の一般式に示すモル比を満たすように、該組成元素をそれぞれ含有する各原料を秤量して混合する第1の工程と、
該混合された原料を、少なくとも一方向に開口した容器に配置し、還元雰囲気中で焼成する第2の工程と、
を有し、
該第2の工程において、前記混合された原料は、かさ体積に対する表面積の比率が0.5以上となる状態で前記容器に配置されて焼成されることを特徴とする蛍光体の製造方法。
M2SiO4(但し、Mは少なくともSrまたはBaを含み、さらにMg、Ca、Znの群から選ばれる元素を含有することができ、かつMの一部をEuで置換可能である。)
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第2の工程において、前記容器は全体の容量に対する開口部の面積の比率が0.5以上を満たす容器であることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第2の工程において、前記混合された原料を前記容器に略均等に配置した状態で、該混合された原料のかさ体積に対する前記容器の開口部の面積の比率が0.5以上となる関係を満たすように、前記混合された原料を前記容器に配置することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法において、
前記第1の工程において、混合された原料の単位体積当たりの重量が1.60〜1.80g/cm3であるように、前記各原料を混合することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−16881(P2011−16881A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161136(P2009−161136)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]