説明

蛍光体及びその製造方法、並びに当該蛍光体を用いた発光装置

【課題】 発光特性及び耐久性に優れた蛍光体、及び大量生産が容易である蛍光体の製造方法、当該蛍光体を用いた白色LED照明を始めとする発光装置、並びに上記蛍光体を用いた電子線励起用の蛍光体膜及び電子線励起カラ−表示装置を提供すること。
【解決手段】 組成式Si6-xAlxOxN8-x:Z(Z元素は、蛍光体中において付活剤として作用する元素である。)と表記され、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素を、0.10 ppm以上、10000 ppm以下含有する蛍光体であり、上述の昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素とは、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)から選択される1種以上の元素である。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラウン管(CRT)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイ(PDP)などのディスプレイや、半導体発光素子(以下、LEDと記載することがある。)、蛍光灯、蛍光表示管などの照明装置や、液晶用バックライト等の発光器具に使用される、窒素を含有する蛍光体及びその製造方法、当該蛍光体と例えば半導体発光素子(LED)とを組み合わせた白色LED照明を始めとする発光装置、並びに上記蛍光体を用いた電子線励起用の蛍光体膜及び電子線励起カラ−表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、主に照明装置として用いられている放電式蛍光灯や白熱電球などは、水銀などの有害な物質が含まれている、寿命が短いといった諸問題を抱えている。ところが、近年になって近紫外・紫外 〜 青色に発光する高輝度LEDが次々と開発され、そのLEDから発生する近紫外・紫外 〜 青色の光と、その波長域に励起帯を持つ蛍光体から発生する光と、を混ぜ合わせて白色光を作りだし、その白色光を次世代の照明として利用できないかといった研究、開発が盛んに行われている。この白色LED照明が実用化されれば、電気エネルギーを光へ変換する効率が高く熱の発生が少ないこと、LEDと蛍光体から構成されているため、従来の白熱電球のように切れることがなく長寿命であること、水銀などの有害な物質を含んでいないこと、また照明装置を小型化できるといった利点があり、理想的な照明装置が得られる。
【0003】
上記、LEDと蛍光体から構成された発光装置はワンチップ型と呼ばれ、青色LEDと黄色蛍光体(Y, Gd)3(Al, Ga)5O12:Ce (YAG:Ce)、Tb3Al5O12:Ce、Ca3Sc2Si3O12:Ceなど)を組み合わせたもの、近紫外・紫外LEDと赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体とを組み合わせたものが代表的であり、既に実用化が始まっている。ワンチップ型はマルチチップ型に比べ、演色性に優れた白色光を得ることが可能、駆動回路の単純化及び小型化が可能、混色するための導光路が不要、各LEDの駆動電圧や光出力の違い、温度特性などを考慮する必要がなく低コストといった多くの優位点を持っている。
【0004】
通常の蛍光灯などの発光装置と同様に、当該LEDと蛍光体から構成されている発光装置の場合においても、低い消費電力で高輝度な効率の良い装置が求められている。装置自体の効率を高くするには、励起源である半導体素子からの光の取り出し効率を高めることとともに、励起源となる光を効率良く異なる波長の光に変換する蛍光体が求められ、特に励起源として多く用いられているLEDの発光波長である近紫外・紫外から青色の発光に対して効率良く発光する蛍光体が求められている。
【0005】
このため、効率の良い蛍光体についての研究が現在盛んに行われており、従来からある酸化物系、硫化物系、りん酸系蛍光体のさらなる改善と共に、Ca2Si5N8:Eu、Sr2Si5N8:Eu、Ba2Si5N8:Eu、CaSrSi5N8:Eu、Sr2Si5N8:Ceなどの窒化物蛍光体(特許文献1、2参照)、Sr2Si3Al2N8O2:Euなどの酸窒化物蛍光体(特許文献3参照)などのように、新しい組成の蛍光体が次々と開発されている。また最近では、非特許文献1に示すように、緑色に発光する酸窒化物蛍光体としてβ−SIALON蛍光体が開発され、緑色から赤色に掛けて様々な蛍光体が得られている。これら窒素を含んだ蛍光体は、温度特性、耐久性に優れるという特徴を持っており、白色LED照明などの発光装置に使用されつつある。
【0006】
【特許文献1】特表2003-515655号公報
【特許文献2】特開2004-244560号公報
【特許文献3】国際公開第2004/055910 A1号パンフレット
【非特許文献1】平成17年春季 第52回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 p1615 (30a-YH-7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した窒素を含有した蛍光体は、熱や水に対しての耐久性に優れているものがあるが、反面、近紫外・紫外から青色の励起光により励起された場合の発光効率が満足すべき水準になく、十分な発光強度及び輝度が得られていない。そのため、発光装置としては最も重要な要素である輝度が不十分なものであった。特に発光スペクトルのピーク波長が500 nmから600 nmにある蛍光体は、発光装置の輝度に直接影響するため、発光特性及び耐久性の点でより満足すべきものが求められている。
【0008】
非特許文献1に示されたβ-SiAlON蛍光体は、発光効率は良いものの、焼成温度1900℃、炉内圧力1MPaもの高温高圧下での製造方法で製造されるため、当該製造には特殊な製造装置が必要であった。さらに、工業的に生産する場合においては、生産性を向上させることが困難な条件であった。
【0009】
本発明の目的は、上述の課題を考慮してなされたものであり、発光特性及び耐久性に優れた蛍光体であって、大量生産が容易である蛍光体、およびその製造方法、当該蛍光体を用いた白色LED照明を始めとする発光装置、並びに上記蛍光体を用いた電子線励起用の蛍光体膜及び電子線励起カラ−表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述に示す課題を解決するため、多種の窒素を含有した蛍光体組成及び製造方法について研究を進めた結果、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を添加剤として使用し、組成式Si6-xAlxOxN8-x:Z(Z元素は、窒化物蛍光体または酸窒化物蛍光体中において付活剤として作用する元素である。)で示される化合物を焼成すると、近紫外・紫外から青色の励起光により励起された場合の発光効率が満足すべき水準にあり、熱や水に対して耐久性に優れる、新規な窒素を含有する蛍光体を得ることができること、および当該新規な蛍光体は、容易で安価な製造方法にて製造できることに想到し、本発明を完成したものである。
【0011】
上述の課題を解決する第1の構成は、
組成式Si6-xAlxOxN8-x:Z(但し、Z元素は、蛍光体中において付活剤として作用する元素である。)と表記される生成相と、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素とを、含み、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素を、0.10 ppm以上、10000 ppm以下含有することを特徴とする蛍光体である。
【0012】
第2の構成は、第1の構成に記載の蛍光体であって、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素が、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)でから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする蛍光体である。
【0013】
第3の構成は、第1または第2の構成に記載の蛍光体であって、
0.3 ≦ x ≦ 0.9であることを特徴とする蛍光体である。
【0014】
第4の構成は、第1から第3の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
Z元素がEu、Ce、Pr、Tb、Yb、Mnから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする蛍光体である。
【0015】
第5の構成は、第1から第4の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の生成相の結晶系が、六方晶であることを特徴とする蛍光体である。
【0016】
第6の構成は、第1から第5の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の生成相の結晶子の大きさ(Dx)が、50 nm以上であることを特徴とする蛍光体である。
【0017】
第7の構成は、第1から第6の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体が粉末状であることを特徴とする蛍光体である。
【0018】
第8の構成は、第7の構成に記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の粒子の平均粒子径(D50)が、0.5μm以上、50.0μm以下であることを特徴とする蛍光体である。
【0019】
第9の構成は、第1の構成から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を焼成炉内に設置して加熱し、焼成物とする工程と、
前記焼成物を粉砕して蛍光体を得る工程とを有し、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物として、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)の各酸化物から選択される1種類以上の化合物を、前記混合物へ添加することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0020】
第10の構成は、第9の構成に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記混合物を、粉末状のままBNるつぼに収めて焼成炉内に設置し、
前記焼成炉内の雰囲気ガスを、窒素ガス、希ガス、及びアンモニアガスから選択される1種類以上を含むガスとし、且つ、当該選択されたガスを、焼成炉内に0.1ml/min以上流通させながら、1400℃以上、1800℃以下の温度で加熱することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0021】
第11の構成は、第9または第10の構成に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記焼成炉内の内圧を、0.001 MPa以上、0.5 MPa以下とすることを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0022】
第12の構成は、第1から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体を含み、第1の波長の光を発する発光部とを有し、前記第1の波長の一部または全部を励起光とし、前記蛍光体から前記第1の波長と異なる波長を発光させることを特徴とする発光装置である。
【0023】
第13の構成は、第12の構成に記載の発光装置であって、
第1の波長とは、350 nmから500 nmの波長であることを特徴とする発光装置である。
【0024】
第14の構成は、第12または第13の構成に記載の発光装置であって、
平均演色評価数Raが、80以上であることを特徴とする発光装置である。
【0025】
第15の構成は、第12から第14の構成のいずれかに記載の発光装置であって、
特殊演色評価数R15が、80以上であることを特徴とする発光装置である。
【0026】
第16の構成は、第12から第15の構成のいずれかに記載の発光装置であって、
特殊演色評価数R9が、60以上であることを特徴とする発光装置である。
【0027】
第17の構成は、第12から第16の構成のいずれかに記載の発光装置であって、
相関色温度が、7000 Kから2500 Kの範囲にあることを特徴とする発光装置である。
【0028】
第18の構成は、第12から第17の構成のいずれかに記載の発光装置であって、
第1の波長を発する発光部がLEDであることを特徴とする発光装置である。
【0029】
第19の構成は、第1から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体を用いて作製された電子線励起用の蛍光体膜である。
【0030】
第20の構成は、第1から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体を用いて作製された電子線励起カラ−表示装置である。
【発明の効果】
【0031】
第1から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体は、近紫外・紫外から青色の範囲に平坦な励起帯を持ち、発光スペクトルはブロードなピークを持ち、発光効率及び輝度が優れた緑色蛍光体(発光スペクトルのピーク波長は500 nmから600 nm付近)であり、熱や水に対する耐久性に優れている。
【0032】
第9から第11の構成のいずれかに記載の蛍光体の製造方法によれば、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を添加することで、これまでの窒素を含有した蛍光体に比べ、低い焼成温度、低い炉内圧力で所望の蛍光体の合成が可能となり、安価な製造コストで容易に蛍光体を製造することができる。
【0033】
第12から第18の構成のいずれかに記載の発光装置によれば、所望の発光色を有し、発光強度及び輝度が高い、高効率な発光装置を得ることができる。
【0034】
第19または第20の構成に記載の発光装置によれば、本発明の蛍光体が、電子線励起でも優れた発光特性を示すので、輝度が高い電子線励起用の蛍光体膜及び電子線励起カラ−表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施形態の蛍光体は、組成式Si6-xAlxOxN8-x:Zと表記されるβ-SiAlON蛍光体を始めとする窒化物蛍光体または酸窒化物蛍光体である。従来、これらの蛍光体は、合成の際に高温・高圧下での焼成が必要であったものである。Z元素は、前記蛍光体中において付活剤として作用する元素であって、希土類元素または遷移金属元素から選択される1種類以上の元素である。また、当該蛍光体において、xが0.2 ≦ x ≦ 2.0の範囲にあり、より好ましくは0.3 ≦ x ≦ 0.9の範囲にあると、発光強度、輝度、耐久性などに優れた蛍光体となる。
【0036】
上述の特徴を有する組成式Si6-xAlxOxN8-x:Zに係る蛍光体は、波長500 nmから600 nmの範囲に発光スペクトルはブロードなピークを持ち、近紫外・紫外から青色(波長250 nm 〜 500 nm)という広範囲に渡って平坦な励起帯を持ち、高効率な発光が得られるうえ、熱や水に対して耐久性に優れた蛍光体が得られる。よって、当該蛍光体と適宜な他色の蛍光体とを混合して蛍光体混合物とし、当該蛍光体混合物と、近紫外・紫外LEDや青色LED等の発光部とを組み合わせることで、発光強度及び輝度が高い発光装置を得ることができる。
【0037】
また本実施形態の蛍光体は、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素を、0.10 ppm以上、10000 ppm以下、より好ましくは0.10 ppm以上、100 ppm以下、含有している。これは、後述する本実施形態の蛍光体の製造方法において、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を、本実施形態の蛍光体原料へ添加した結果である。添加された化合物の昇華もしくは蒸発温度は1000℃から1800℃の範囲であるため、焼成の過程において、これらの化合物は、蛍光体の原料中から殆どが揮散してしまうが、液相を介してわずかに蛍光体の母体構造中に取り込まれ、化合物を構成する金属元素が、本実施形態の蛍光体の生成相中に0.10 ppm以上、10000 ppm以下、残存する。残留した金属元素が0.10 ppm以上であれば、添加剤の液相生成効果により、β-SiAlON構造の生成を促進させるという効果が充分得られ、優れた発光特性の蛍光体を得ることができる。一方、残留した金属元素が、10000 ppm以下、さらに好ましくは100 ppm以下であれば、当該残留に起因する発光特性の低下を招くことなく、β-SiAlON構造中にEuを固溶させることができ、緑色に発光する優れた発光特性のβ-SiAlON蛍光体を得ることができる。
【0038】
上記条件を満たす代表的な、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としては、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)を構成元素としている、窒化物、フッ化物、塩化物、硫化物、リン化物、酸化物、炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、水酸化物、含水水酸化物、オキシ水酸化物等を挙げることができるが、好ましくは前記金属元素の酸化物が好ましい。その中でもZn酸化物であるZnOがより好ましい。添加する化合物しては、昇華もしくは蒸発するものであれば問題ないが、蛍光体のキラー元素として、一般的に知られているFeを含んでいるものは回避することが好ましい。
【0039】
次に、本実施形態に係る蛍光体の発光特性について説明する。
まず、本実施形態に係る蛍光体を用いることで、演色性の高い発光を得ることができる。ここで、演色性とは、光源からの光が照射された物の色の見え方が、当該光源の種類によって変わって見えることを指す。光源の種類による、照明された物の色の再現性を示す演色性は、一般的に平均演色評価数(Ra)によって数値的に表すことができる。基準光で見た場合と全く同じ色が再現できれば最良の平均演色評価数(Ra = 100)となり、再現される色の差異が大きくなるほどRa値が低下する(Ra < 100)。
【0040】
勿論、照明用光源としては、色の見え方が基準光を用いた場合と同じであるほど好ましいが、基準光が、可視光全域にわたり均一な光を持った白色光源であるのに対し、既存の白色LED照明は、可視光領域のある波長では光の強度が高く、ある波長では低いといったように光の強度にムラがあるため、光の強度が不足している波長域では色再現性が悪く演色性が低下してしまう。特に、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LED照明は、青色と黄色の光を混ぜて白色を合成しているため、赤色成分と緑色成分の光が不足しているという問題があった。
【0041】
結局のところ、演色性の高い発光を得るためには、白色LED照明に使用される蛍光体の発光スペクトルのピークがブロードであること、そして、可視光領域の光をムラなく全てカバーできる蛍光体を揃えることが必要である。そして、本実施形態に係る蛍光体の発光スペクトルは、波長470 nmから650 nm付近の広い波長域においてブロードであり、ピークを500 nmから600 nmの範囲に持つ蛍光体であるため、白色LED照明用蛍光体として有望である。特に、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた現行品に当該蛍光体を加えると、これまで不足していた緑色成分の光を補えるため演色性に優れたものを得ることができる。
【0042】
本実施形態の蛍光体は、波長250 nmから500 nmという広範囲に渡って効率の高い励起帯を有し、特に、波長270 nmから330 nmの範囲に励起ピークがあり、最も高い発光効率を示す。つまり、本実施形態の蛍光体は、白色LED照明に使用されている近紫外・紫外から青色の励起光との組み合わせによって高輝度な白色LED照明を作製することが可能である。また、効率の高い励起帯が広範囲にあるため、YAG:Ce蛍光体のように、励起光が最適な励起帯の範囲から少しでも外れてしまうと、青色と黄色の発光強度のバランスが崩れ、白色光の色調が変化するという問題を抑えることができる。
【0043】
本実施形態の蛍光体が、緑色から黄色の範囲(波長500 nmから600 nm)に発光スペクトルのブロードなピークを持ち、近紫外・紫外から青色(波長250 nm 〜 500 nm)という広範囲に渡って平坦な励起帯を持ち、高効率な発光が得られるうえ、熱や水に対して耐久性に優れ、特に高温下での温度特性が優れている。詳細な理由は不明であるが、概ね次のように考えられる。まず、本実施形態の蛍光体の組成式Si6-xAlxOxN8-x:Zのxが0.3 ≦ x ≦ 0.9の範囲内であることで、β-SiAlON構造をとり、付活剤が構造中で規則的に存在でき、また、発光に使用される励起エネルギーの伝達が効率よく行われるため、発光効率が向上するのではないかと考えられる。また、近紫外・紫外から青色(波長250 nm 〜 500 nm)という長波長側の可視光領域までの広範囲に渡る励起帯を持っているのは、酸化物蛍光体に比べ窒素が含まれることにより共有結合性が強いことが理由と考えられる。
【0044】
さらに、当該蛍光体のxが0.3 ≦ x ≦ 0.9の範囲にあることで、化学的に安定な組成となるため、当該蛍光体中に不純物相が生じにくくなり、発光強度の低下が抑制されるのではないかと考えられる。特に、当該蛍光体のxが0.3 ≦ x ≦ 0.9の範囲内にあれば、六方晶のβ相以外に不純物相としての立方晶のα相が生成し難くなる。このα相が生成すると、ねらいとする緑色発光ではなく黄色発光の蛍光体となってしまう。つまり、α相だけでなく、不純物相が多く生じた場合には、単位面積当たりのねらいとする発光特性の蛍光体量が減少し、更に、生成した不純物相が、励起光や蛍光体から発生した光を吸収することで蛍光体の発光効率が低下し、高い発光強度が得られなくなると考えられる。
また、xが0.3 ≦ x ≦ 0.9の場合、蛍光体中に含まれるAl元素濃度は、2.8wt%以上、8.6wt%以下となる。
【0045】
当該推論は、焼成後の本実施形態に係る蛍光体に対するX線回折測定において、xの値が上述の範囲内にあると、AlN、Si3N4などの未反応原料の不純物相ピーク、及びねらいとする発光に寄与する相とは異なる不純物相のピークが確認されないか、または確認される場合でもきわめて低い回折強度であるのに対し、xの値が上述の範囲外にあると、AlN、Si3N4、及び発光に寄与する相とは異なる相の顕著なピークが確認されることからも裏付けられると考えられる。そして、焼成後の蛍光体に対するX線回折パターン中に、上記不純物相のピークが見られないという特徴は、測定対象である蛍光体が、ねらいとする発光特性を持ち、高い発光強度を有していることを示していると考えられる。
【0046】
組成式Si6-xAlxOxN8-x:Zにおいて、Z元素は希土類元素または遷移金属元素から選択される1種類以上の元素であり、付活剤として、どのサイトかはまだ解ってはいないが、母体構造に規則的に入り込んでいると考えられる。
本実施形態の蛍光体を用いた白色LED照明を始めとする各種の光源に、十分な演色性を発揮させる観点からは、当該蛍光体の発光スペクトルにおけるピークの半値幅は広いことが好ましい。そして、当該観点からZ元素は、Eu、Ce、Pr、Tb、Yb、Mnから選択される1種類以上の元素であることが好ましいと考えられる。中でもZ元素としてEuを用いると、当該蛍光体は、緑色から黄色にかけてブロードで発光強度が高い発光スペクトルを示すため、白色LED照明を始めとする各種光源の付活剤として好ましい。
【0047】
また、Z元素を選択することにより、本実施形態の蛍光体における発光のピーク波長を可変とすることができ、また、種類の異なるZ元素を付活することによって、ピーク波長の可変、更には増感作用により、発光強度及び輝度を向上させることが可能となる。例えば、Euの代わりにCeを付活した場合には、励起光405 nmで475 nm付近に発光スペクトルのピークを持つ蛍光体を得ることができる。
【0048】
Z元素の添加量は、本実施形態の蛍光体をSi6-x-zAlxOxN8-x:Zzと表記したとき(Z元素がSi元素の一部を置換していると考えられるため、当該表記となる。)、Si元素とZ元素とのモル比であるz/(6-x)の値が0.0001以上、0.50以下の範囲にあるように、添加量を定めることが好ましい。Z元素の添加量が当該範囲にあれば、付活剤(Z元素)の含有量が過剰であることに起因して濃度消光が生じ、これにより発光効率が低下することを回避でき、他方、付活剤(Z元素)の含有量が過少であることに起因して発光寄与原子が不足し、これにより発光効率が低下することも回避できる。さらに、z/(6-x)の値が0.0001以上、0.10 以下の範囲内であればより好ましい。但し、Z元素の添加量の範囲の最適値は、付活剤(Z元素)の種類及び組成式、母体構造により若干変動する。さらに、付活剤(Z元素)の添加量制御によっても、当該蛍光体の発光のピーク波長をシフトさせることができ、得られた光源において輝度、演色性の調整の際に有効である。
【0049】
また、本実施形態の蛍光体の生成相の結晶子サイズは大きいほど好ましい。結晶子の大きさが大きいほど発光に寄与する相が均一に得られるからであり、より単一な生成相が得られるからである。結晶子のサイズが10nm以下であると非晶質に近い相となり、発光に寄与しない不純物相となる。従って、蛍光体の発光効率の観点から考慮すると、蛍光体の結晶子の大きさは10nm以上であることが発光効率の低下を回避でき、好ましくは50 nm以上であることが好ましい。尚、結晶子サイズとは、本実施形態の蛍光体の粉末X線回折測定における各回折ピークの半価幅 Bを算出し、その半価幅Bを用いてシェラーの式より求めた平均の値である。
【0050】
本実施形態の蛍光体が粉末状とされることで、白色LED照明を始めとする多様な発光装置に容易に適用可能となる。ここで当該蛍光体は、粉体の形で用いられる場合には、50.0μm以下の1次粒子及び当該1次粒子の凝集体を含み、当該1次粒子及び凝集体を含んだ蛍光体粉末の平均粒子径(D50)が、0.5μm 以上、50.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上、15μm以下であると良い。これは、平均粒径が50.0μm以下であれば、その後の粉砕が容易に行えることと、蛍光体粉体においては発光が主に粒子表面で起こると考えられるため、平均粒径が50.0μm以下であれば、粉体単位重量あたりの表面積を確保でき輝度の低下を回避できるからであり、さらに、当該粉体をペースト状とし、発光体素子等に塗布した場合にも当該粉体の密度を高めることができ、この観点からも輝度の低下を回避できるからである。また、本発明者らの検討によると、詳細な理由は不明であるが、蛍光体粉末の発光効率の観点から、平均粒径が0.5μmより大きいことが好ましいことも判明した。以上のことより、本実施形態の蛍光体における粉体の平均粒径は、0.5μm以上50.0μm以下であることが好ましい。ここでいう平均粒子径(D50)は、ベックマン・コールター社製 LS230(レーザー回折散乱法)により測定された値である。
【0051】
また、上述したように、本実施形態では、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発が同時に進行するような化合物を添加している。ここで、当該化合物の昇華もしくは蒸発する温度があまりにも低い場合には、焼成工程において十分に昇温する前に、添加した化合物が揮散しまうため反応促進剤としての効果を十分発揮することができない。また、昇華もしくは蒸発する温度があまりにも高い場合には、焼成中も固相のまま存在してしまい、反応促進剤として機能しないか、または、液相を形成して反応促進剤として機能したとしても、焼成後において蛍光体をガラス化してしまう可能性が高いからである。
【0052】
また、焼成後の蛍光体中には、添加した化合物を構成する金属元素である亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)等が0.10 ppm以上、10000 ppm以下、含有することが好ましい。より好ましくは0.10 ppm以上、100 ppm以下である。当該残留した元素は、上述したように、残留した金属元素が0.10 ppm以上であれば添加剤の液相生成により、β-SiAlON構造生成の反応促進効果が充分得られ、優れた発光特性の蛍光体を得ることができ、10000 ppm以下さらに好ましくは100 ppm以下であれば、当該残留に起因する発光特性の低下を招くことなく、β-SiAlON構造中にEuを固溶させることができ、緑色に発光する優れた発光特性のβ-SiAlON蛍光体を得ることができる。
【0053】
一方、組成式Si6-xAlxOxN8-x:Zで示されるβ-SiAlON蛍光体の原料を、上述の1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を加えずに焼成を行うと、ねらいとする六方晶のβ相を単相で得ることができず、低温で安定と考えられている立方晶のα相が生成してしまう。このα相が生成してしまうと、当該実施形態で使用している付活剤のEuは、β相に入り込まず、α相に入り込み、α-SiAlONを形成してしまうために、緑色発光では無く、黄色発光を示してしまう。そこで、高温で安定と考えられる六方晶のβ相のみを得るために、焼成温度を1800℃より高温にすると、原料であるSi3N4からNが抜け、金属Siが試料中に生成してしまい、やはりβ-SiAlON蛍光体を得ることができない。このSi3N4からNが抜けるのを防ぐために炉内圧を約1.0 Mpaの高圧とすることも考えられるが、生産性や設備の観点から、蛍光体の量産には向かず、製造コストも高くなってしまう。
【0054】
以上のことから、蛍光体原料の焼成時に、1000℃から1800℃の温度で昇華または蒸発する化合物を加えるという本実施形態は、不純物相であるα相の生成を抑えて、β相のみの生成をおこなうとができること。β-SiAlON構造中に上記化合物を構成する金属元素、例えばZnが若干固溶することにより、付活剤であるEu等がβ-SiAlON構造中に固溶する反応を促進させることができること。さらに、耐圧性の高い特別な焼成装置を必要とせず、特性に優れた新規なβ-SiAlON蛍光体を容易且つ低コストで製造すること、を可能にしたものである。
【0055】
次に、該蛍光体と、第1の波長の光を発する発光部とを有し、前記第1の波長の光の一部または全部を励起光とし、前記蛍光体から前記第1の波長と異なる波長の光を発光させる発光装置について説明する。
【0056】
第1の波長の光を発する発光部として、例えば、近紫外・紫外から青色のいずれかの範囲で発光するLED発光素子、または紫外光を発生する放電灯を用いることができる。そして、本実施形態の蛍光体を含んだ蛍光体混合物を該LED発光素子と組み合わせた場合には、各種の照明ユニットや、ディスプレイ装置用バックライト等を製造することができ、また、本実施形態の蛍光体混合物を該放電灯と組み合わせた場合には、各種蛍光灯や照明ユニットやディスプレイ装置用バックライト等を製造することができる。
【0057】
本実施形態の蛍光体は、窒化物、酸窒化物であり温度特性に優れているため、長時間の点灯使用により、発光装置の温度が上昇した際にも、色ずれがほとんど起こらないものを作製することが可能となる。また、発光スペクトルが緑色から黄色の範囲にピークを持ち、ピーク形状がブロードであるため、演色性向上の観点から白色LED照明用蛍光体としてふさわしい。さらに、励起帯が近紫外・紫外 〜 青色(波長域 250 〜 500 nm)の広範囲に平坦な励起帯を有するため、例えば、白色LED照明として提案されている高輝度青色LED(波長 460 nm付近)の青色発光と、蛍光体の黄色発光の補色関係とを利用して白色を得る方式の白色LED照明の場合にも、或いは近紫外・紫外を発光するLEDと、該LEDから発生する近紫外・紫外光により励起されて赤色(R)発光する蛍光体、緑色(G)発光する蛍光体、青色(B)発光する蛍光体とを組み合わせ、該R・G・B他の蛍光体から得られる光の混色を利用して白色を得る方式の白色LED照明の場合にも、いずれも最高の発光強度に近い状態を発揮させながら使用することが可能である。即ち、近紫外・紫外 〜 青色の光を発する発光部と該蛍光体を組み合わせることにより、高出力、演色性の良い白色光源及び白色LED照明、さらにはこれらを使用した照明ユニットを得ることができる。
【0058】
実施形態の蛍光体の混合物と発光部との組み合わせの方法は、公知の方法で行っても良いが、発光部にLEDを用いた発光装置の場合は、下記のようにして発光装置を作製することが出来る。以下、図面を参照しながら、発光部にLEDを用いた発光装置について説明する。
図8(A)〜(C)は、砲弾型LED発光装置の模式的な断面図であり、図9(A)〜(E)は、反射型LED発光装置の模式的な断面図である。尚、各図面において、相当する部分については同様の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0059】
まず、図8(A)を用いて、発光部にLEDを用い、前記蛍光体混合物と組み合わせた発光装置の1例について説明する。砲弾型LED発光装置においては、リードフレーム3の先端に設けられたカップ状の容器5内に、LED発光素子2が設置され、これらが透光性の樹脂4にてモールドされている。該実施の形態では、前記蛍光体混合物または前記蛍光体混合物をシリコンやエポキシ等の透光性のある樹脂に分散させた混合物(以下、混合物1と記載する。)を、カップ状の容器5内の全てに埋め込むものである。
次に、図8(B)を用いて、異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、混合物1をカップ状の容器5上及びLED発光素子2上面に塗布したものである。
次に、図8(C)を用いて、さらに異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、蛍光体混合物1をLED発光素子2の上部に設置したものである。
【0060】
以上、図8(A)〜(C)を用いて説明した砲弾型LED発光装置は、LED発光素子2からの光の放出方向は上方向であるが、光の放出方向が下方向でも同様の方法で発光装置の作成は可能である。例えば、該LED発光素子2の光の放出方向に反射面、反射板を設け、同発光素子2から放出される光を反射面に反射させて外部に発光させるのが反射型LED発光装置である。そこで、図9(A)〜(E)を用い、反射型LED発光装置と本実施形態の蛍光体混合物とを、組み合わせた発光装置の例について説明する。
【0061】
まず、図9(A)を用いて、発光部に反射型LED発光装置を用い、本実施形態の蛍光体混合物と組み合わせた発光装置の1例について説明する。反射型LED発光装置においては、片方のリードフレーム3の先端にLED発光素子2が設置され、このLED発光素子2からの発光は、下方に向かい反射面8により反射されて上方より放出される。該実施の形態では、混合物1を反射面8上に塗布するものである。尚、反射面8が形成する凹部内には、LED発光素子2を保護するため透明モールド材9が充填される場合もある。
次に、図9(B)を用いて、異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、混合物1をLED発光素子2の下部に設置したものである。
次に、図9(C)を用いて、異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、混合物1を、反射面8が形成する凹部内に充填したものである。
次に、図9(D)を用いて、異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、混合物1を、LED発光素子2を保護するための前記透明モールド材9の上部に塗布したものである。
次に、図9(E)を用いて、異なる発光装置の1例について説明する。該実施の形態では、混合物1を、LED発光素子2の表面に塗布したものである。
砲弾型LED発光装置と反射型LED発光装置とは、用途に応じて使い分ければよいが、反射型LED発光装置には、薄くできる、光の発光面積を大きくできる、光の利用効率を高められる等のメリットがある。
【0062】
以上説明した発光装置を高演色性照明用光源として使用する場合には、演色性に優れる発光スペクトルを有していることが必要であるので、JIS Z 8726の評価方法を用いて、本実施形態の蛍光体を含む蛍光体混合物を組み込んだ発光装置の演色性を評価した。JIS Z 8726の評価において、該光源の平均演色評価数Raが80以上であれば、優れた発光装置といえる。そして、好ましくは、日本人女性の肌色の成分を示す指標である特殊演色評価数R15が80以上であり、更に特殊演色評価数R9が60以上であれば、非常に優れた発光装置といえる。ただし、演色性を求めない用途や異なる目的によっては上記指標を満たさなくても良い。
【0063】
そこで、波長250nmから500nmの範囲のいずれかの発光をおこなう発光部からの光が本実施形態の蛍光体を含む蛍光体混合物へ照射され、該蛍光体混合物が発光をおこなう発光装置を作製した。尚、発光部としては波長405nmの発光をおこなう紫外LEDを用いた。そして、該発光装置の発光スペクトルと演色性を評価した。その結果、本実施形態の蛍光体を含む蛍光体混合物を組み込んだ発光装置の発光特性は、本実施形態の蛍光体と赤色、青色を発光する蛍光体を選択することによって、3つのピークを有するスペクトルを有することができる。このため、相関色温度7000K〜2500Kの範囲において、Raが80以上、R15が80以上、R9が60以上の高い演色性を示すことが可能であり、該発光装置は、高輝度で演色性に優れた光源であることが判明した。
【0064】
また、本実施形態の蛍光体は、電子線励起によっても発光特性を示すため、ブラウン管(CRT)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の電子線励起カラ−表示装置用の蛍光体としても有望である。
【0065】
次に、本実施形態に係るβ-SiAlON蛍光体の製造方法の一例について説明する。
一般的に蛍光体は固相反応により製造されるものが多く、本実施形態の蛍光体の製造方法も固相反応によって得ることができる。Si元素、Al元素の各原料は窒化物、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩などの市販されている原料でよいが、純度は高い方が好ましいことから、好ましくは2N以上、さらに好ましくは3N以上のものを準備する。各原料粒子の粒径は、一般的には、反応を促進させる観点から微粒子の方が好ましいが、原料の粒径や形状により、得られる蛍光体の粒径、形状も変化する。このため、最終的に得られる蛍光体に求められる粒径や形状に合わせて、近似の粒径を有する窒化物等の原料を準備すればよい。本実施形態の蛍光体の製造においては、各原料として粒子径が0.1μm以上10μm以下のものを用いることが好ましい。Z元素も原料は市販の窒化物、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩、もしくは単体金属が好ましい。勿論、Z元素についても純度は高い方が好ましく、2N以上、さらに好ましくは3N以上のものを準備する。
【0066】
本実施形態で重要な原料である、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物については、焼成温度を考慮して決める必要があるが、基本的に
亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)から選択される元素の、窒化物、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩、フッ化物、塩化物、硫化物、リン化物などの化合物でよく、昇華もしくは蒸発温度が上記条件を満たしていれば良い。勿論、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物についても、純度は高い方が好ましく、2N以上、さらに好ましくは3N以上のものを準備する。
【0067】
例えばSi元素、Al元素の原料として、それぞれSi3N4(3N)、AlN(3N)を準備し、Z元素としてはEu2O3(4N)を準備し、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としてZnOを準備するとよい。これら各原料の混合比をそれぞれ、Si3N4を2.67 mol、AlNを1.0 mol、Eu2O3を0.015 mol 、ZnOを1.00 mol秤量し混合する。1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としてZnOを用いたのは、ZnOの昇華が1350℃付近から始まり、昇華点が1725℃であることと、Znがβ-SiAlON構造中に0.10 ppm以上、10000 ppm以下、固溶させることで、付活剤であるEuの蛍光体への固溶を促進させる効果のためである。
【0068】
当該秤量・混合については大気中で行っても良いが、各原料元素の窒化物が水分の影響を受けやすいため、水分を十分取り除いた不活性雰囲気下のグローブボックス内での操作が便宜である。混合方式は湿式、乾式どちらでも構わないが、湿式混合の溶媒として純水を用いると原料が分解するため、適当な有機溶媒を選定する必要がある。装置としてはボールミルや乳鉢等を用いる通常のものでよい。
【0069】
混合が完了した原料をるつぼに入れ、窒素、希ガス等の不活性ガス、アンモニアガスから選択される1種類以上のガスを含んだ雰囲気中で1400℃以上、より好ましくは1600℃以上1800℃以下で5分以上焼成する。焼成温度が1400℃以上であれば、固相反応が良好に進行して発光特性に優れた蛍光体を得ることが可能となる。また1800℃以下で焼成すれば、Si3N4の分解によるSi金属の生成を抑制でき、さらに、過剰な焼結や融解が起こることを防止できる。尚、焼成温度が高いほど固相反応が迅速に進むため、保持時間を短縮出来る。一方、焼成温度が低い場合でも、当該温度を長時間保持することにより目的の発光特性を得ることが出来る。しかし、焼成時間が長いほど粒子成長が進み、粒子形状が大きくなるため、目的とする粒子サイズに応じて焼成時間を設定すればよい。
【0070】
当該焼成中の炉内圧力(本発明において、炉内圧力とは大気圧からの加圧分の意味である。)は、0.001MPa以上、0.5 MPa以下が好ましく、更に好ましくは0.1 MPa以下である。これは、0.5 MPa以下の圧力下で焼成することにより、粒子間の焼結が進み過ぎることを回避でき、焼成後の粉砕を容易化できるためである。尚、るつぼとしてはAl2O3るつぼ、Si3N4るつぼ、AlNるつぼ、サイアロンるつぼ、C(カーボン)るつぼ、BN(窒化ホウ素)るつぼなどの、上述のガス雰囲気中で使用可能なものを用いれば良いが、BNるつぼを用いると、るつぼからの不純物混入を回避することができ好ましい。
【0071】
また、焼成中は、上述のガス雰囲気を、例えば0.1 ml/min以上の流量で流通させた状態で焼成することが好ましい。これは、焼成中には原料からガスが発生するが、上述の窒素、希ガス等の不活性ガス、アンモニアガスから選択される1種類以上のガスを含んだ雰囲気を流通(フロー)させることにより、原料から発生したガスが焼成炉内に充満して反応に影響を与えることを回避でき、この結果、蛍光体の発光特性の低下を防止できるからである。特に、原料に炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩など、高温で酸化物に分解する原料を使用した際には、原料からのガスの発生量が多いため、焼成炉内にガスを流通させ、発生したガスと伴に排気させることが好ましい。
【0072】
本実施形態では原料を粉末のまま焼成することが好ましい。一般的な固相反応では、原料同士の接点における原子の拡散による反応の進行を考慮し、原料全体で均一な反応を促進させるために、原料をペレット状にして焼成することが多い。ところが、当該蛍光体原料の場合には、原料を粉末のまま焼成することで、焼成後の解砕が容易になると同時に、1次粒子の形状が理想的な球状となることから、粉末として扱い易いものとすることができ好ましい。更に、原料として、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩を使用した場合には、焼成時の原料の分解によりCO2ガスなどが発生するが、原料が粉体、特に各原料の粒子径が0.1μm以上10μm以下の原料であれば、これらのガスが十分に抜けきってしまうので発光特性に悪影響を及ぼさないという観点からも、原料が粉体であることが好ましい。
【0073】
焼成が完了した後、焼成物をるつぼから取り出し、乳鉢、ボールミル等の粉砕手段を用いて、所定の平均粒径となるように粉砕し、本実施の形態に係るβ-SiAlON蛍光体を製造することができる。得られた蛍光体はこの後必要に応じて、洗浄、分級、表面処理を行う。
M元素、A元素、B元素、Z元素として、他の元素を用いた場合、及び付活剤であるEuの付活量を変更した場合も、各原料の仕込み時の配合量を所定の組成比に合わせることで、上述したものと同様の製造方法により蛍光体を製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としてZnOを選択し、ZnO-AlN-Si3N4-Eu2O3より、β-SiAlON蛍光体を作製した。原料としては市販のZnO(3N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)、Eu2O3(4N)を準備し、各原料として、ZnOを1.00 mol、AlNを1.00 mol、Si3N4を2.67 mol、Eu2O3を0.010 mol秤量し、大気中にて乳鉢を用いて混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、焼成炉内を一度真空引きした後、窒素雰囲気中(流通量、4.0 L/min)、炉内圧0.05 MPaで1800℃まで15 ℃/minで昇温し、1800℃で5.0 min保持・焼成した後、1800℃から50℃まで1時間30分で冷却した。その後、焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて解砕し、実施例1に係るβ-SiAlON蛍光体を得た。得られた蛍光体試料の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。分析結果は、Siは重量法、O、NはLECO社製の酸素―窒素同時分析装置(TC-436)を使用し、その他の元素はICPによって、平均粒子径(D50)はレーザー回折散乱法によって、比表面積はBET法によって測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
得られた蛍光体は、Al濃度が5.63wt%のSi6-xAlxOxN8-x:Zの組成式を有するβ-SiAlON蛍光体であることがわかった。Zn元素の分析結果は25 ppmとなり、原料混合当初のZnO原料の仕込量に比べ非常に少なくなっている。これは、ZnOは蒸気圧(昇華圧)が高く、1800℃で焼成した場合には、殆どが昇華してしまい、混合原料系外に出てしまったためと考えられる。また、得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は4.305 μm、比表面積は1.833 m2/gであった。平均粒子径(D50)は4.305 μmであり、蛍光体粉末として好ましい0.5μm以上、50.0μm以下であることが解った。粒子のFE-SEM観察を行うと、1次粒子サイズは約1.0μm程度であった。そのため、製法の条件を詰め1次粒子サイズを大きくすると、更に発光特性は向上するものと考えられる。さらに、当該蛍光体試料の真密度を測定したところ、3.170g/cc であった。尚、真密度の測定にはQUANTACHROME社製のUltrapycnometer 1000を使用した。蛍光体の組成または結晶構造が変化すると粒子の密度も変化すると考えられるため、当該蛍光体の真密度は、3.170g/cc±3%の範囲にあることが好ましいと考えられる。
【0077】
次に、実施例1の蛍光体の発光スペクトルを測定した。励起光として波長460nm、波長405 nmの光を照射したときの当該測定結果を表2に示し、更に励起光として波長460nmの光を照射したときの発光スペクトルについて図1に太実線にて示した。図1は、縦軸に蛍光体の発光強度を相対強度としてとり、横軸には光の波長をとったグラフである。ここで、発光スペクトルとは、ある波長の光またはエネルギーを蛍光体に照射した際、蛍光体より放出される光のスペクトルである。
【0078】
【表2】

【0079】
まず、図1を用いて、当該蛍光体の発光スペクトルについて説明する。
図1から明らかなように、当該蛍光体の発光スペクトルは、波長470 nmから650nm付近の広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は549.1nmであった。(このときの発光強度の相対強度を100%とした。)また、半値幅を求めたところ64.8 nmであった。当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.3731、y =0.5879であった。尚、粉末は薄黄色をしており、目視でも緑色の発光色が確認できた。実施例1の蛍光体は、広い波長域において半値幅の広いピークを持つため白色LED照明用蛍光体として使用した場合には、シャープなピークを持つ蛍光体を使用したものに比べ、輝度、演色性に優れた白色LED照明を作製することが可能となる。また、従来の青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LED照明は、青色と黄色の光を混ぜて白色を合成しているため、緑色成分の光が不足しているという問題があったが、当該蛍光体は緑色発光するため、当該蛍光体を加えることにより、この問題を解決することが可能となる。
これ以降に説明する実施例、比較例の発光強度についても、実施例1の蛍光体に励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの最大値を相対強度100%としている。
【0080】
次に、図2(A)を用いて、実施例1の蛍光体の励起スペクトルについて説明する。図2(A)は縦軸に蛍光体の発光強度をとり、横軸には励起光の波長をとったグラフである。ここで、励起スペクトルとは、種々の波長の単色光を励起光として用いて被測定対象の蛍光体を励起し、蛍光体が発光する一定波長の発光強度を測定し、その発光強度の励起波長依存性を測定したものである。本測定においては、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を実施例1の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長 549.1 nmの発光強度の励起依存性を測定したものである。
図2(A)は実施例1の蛍光体の励起スペクトルである。この図2(A)から明らかなように、当該蛍光体の励起スペクトルは、波長250 nm付近から500 nm付近までの広い範囲の励起光で、高強度の緑色の発光を示すことがわかった。励起帯のピーク波長は296.1 nmであり、現在、ワンチップ型白色LED照明用の励起光として使用されている青色LED、近紫外・紫外LEDの発光波長である460 nm、405 nm付近でも高い発光強度を示し、更に平坦な励起帯を持った蛍光体である。
【0081】
次に、実施例1の蛍光体の温度特性を測定した。当該測定結果を表3に示し、更に図3に示した。
図3を用いて、実施例1の蛍光体の温度特性について説明する。図3は縦軸に蛍光体の発光強度をとり、横軸には発光強度を測定する測定温度をとったグラフである。測定は25℃から300℃への昇温過程における任意の温度で行い、300℃での測定が終わった後、冷却を行い再び25℃における発光強度の測定を行なった。昇温前の25℃における発光強度の相対強度を100%とした。
表3は実施例1の蛍光体の温度特性の測定結果である。当該蛍光体の温度特性は、温度が高くなるにつれ発光強度は徐々に低下し、100℃では89.8%、300℃では57.5%となった。また、冷却後の相対発光強度は100.9%となり、昇温前と冷却後での変化は見られなかった。白色LED照明の励起源であるLED等の長時間点灯に伴う発熱によって、白色LED照明に組み込まれた蛍光体自身も50℃から100℃程度となると考えられるが、100℃における当該蛍光体の発光強度の低下は15%以内であり、昇温前、冷却後での発光強度に変化は無いことから、温度特性、熱耐久性に優れた蛍光体であることが解った。
【0082】
【表3】

【0083】
次に、図4を用いて、実施例1の蛍光体の粉末X線回析測定について説明する。図4は縦軸に強度(a.u.)をとり、横軸には回折角度2θ(CoKα)をとったグラフである。また、図4には実測値の他に、得られた回折結果を元にリートベルト手法を用いて結晶構造解析を行った解析値も示している。リートベルト法とは実際に測定して得られた実測回折強度と、その結晶構造を予測して組み立てた結晶構造モデルから理論的に計算で得られる回折強度を比較し、両方の差を小さくするように後者のモデルにおける種々の構造パラメータを最小二乗法により精密化して、より正確な結晶構造を導くものである。本実施形態の蛍光体についてリートベルト法により精密化を行った。なおリートベルト解析にはプログラム“RIETAN-2000”を用いた。解析結果と実際の測定結果には非常によい一致が得られ、本実施形態のβ-SiAlON蛍光体の結晶格子のa軸の値は7.605 Å、c軸の値は2.912 Åの六方晶系の結晶構造をとることが判明した。当該蛍光体の結晶格子定数が大きく変化すると発光に寄与する原子の周辺の原子状態が変化し、発光特性が低下すると考えられる。そこで、a軸、c軸の値は、上記に示した値を取ることが好ましく、より発光効率の良い蛍光体を得る為には、a軸の値は7.60±0.05Å、c軸の値は2.91±0.05Åの範囲内であることが好ましいと考えられる。
【0084】
また、本実施形態の蛍光体の粉末X線回折測定により得られた回折パターンの複数の回折ピークについて半価幅 Bを算出し、シェラーの式Dx = 0.9λ/Bcosθ(ここで、Dxは結晶子の大きさ、λは測定に用いたX線の波長、Bは回折ピークの半価幅、θは回折ピークのブラッグ角である。)より、実施例1に示す蛍光体について、(1,0,0)、(1,1,0)、(2,2,0)、(1,0,1)、(2,1,0)、(2,0,1)、(3,0,1)、(3,2,1)の回折ピークから結晶子の大きさを求めたところ、平均結晶子サイズは81.1nmであり50.0nm以上であった。
【0085】
(実施例2)
実施例2では、表1に示すように、Eu2O3の仕込量を0.015 molとし、1750℃まで昇温し、1750℃で3.0 h保持・焼成した以外は、実施例1と同様にして実施例2のβ-SiAlON蛍光体を得た。得られた蛍光体粉末の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。
得られた蛍光体は、Al濃度が5.39wt%のSi6-xAlxOxN8-x:Zの組成式を有するβ-SiAlON蛍光体であることがわかった。Zn元素の分析結果は23 ppmであった。また、得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は4.280 μm、比表面積は1.982 m2/gであった。平均粒子径(D50)は4.280 μmであり、蛍光体粉末として好ましい粉体特性であった。
【0086】
次に、実施例2の蛍光体の発光スペクトルを測定した。当該測定結果を表2、図1に細実線にて示す。表2、図1の結果は、励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの測定結果を示しており、当該蛍光体は、実施例1と同じく波長470 nmから650 nmの広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は547.1 nmであった。また、半値幅を求めたところ65.4 nmであり、当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.3684、y = 0.5885であった。尚、粉末は薄黄色をしており、目視でも緑色の発光色が確認できた。実施例1の相対強度を100%とした場合、実施例2の発光強度の相対強度は83.7 %であった。
【0087】
次に、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を実施例2の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長547.1 nmの発光強度の励起依存性を測定したところ、当該蛍光体の励起スペクトルも実施例1と同様に、波長250 nm付近から500 nmまでの広い範囲の励起光で、高強度の緑色の発光を示すことがわかった。
実施例2は、実施例1とは焼成条件が異なる組成であるが、実施例1と同様に優れた発光特性を示した。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としてZnOの代わりに、Ga2O3を選択し、当該Ga2O3を1.0 mol秤量・混合し、1800℃で3.0 h保持・焼成した以外は、実施例1と同様にして実施例3のβ-SiAlON蛍光体を得た。得られた蛍光体粉末の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。
得られた蛍光体は、Al濃度が5.83wt%のSi6-xAlxOxN8-x:Zの組成式を有するβ-SiAlON蛍光体であることがわかった。Ga元素の分析結果は30 ppmであった。また、得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は5.484 μm、比表面積は1.468 m2/gであった。平均粒子径(D50)は5.484 μmであり、蛍光体粉末として好ましい粉体特性であった。
【0089】
次に、実施例3の蛍光体の発光スペクトルを測定した。当該測定結果を表2、図1に太破線にて示す。表2、図1の結果は、励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの測定結果を示しており、当該蛍光体は、実施例1と同じく波長470 nmから650 nmの広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は543.4 nmであった。また、半値幅を求めたところ61.6 nmであり、当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.3449、y = 0.6066であった。尚、粉末は薄黄色をしており、目視でも緑色の発光色が確認できた。実施例1の相対強度を100%とした場合、実施例3の発光強度の相対強度は77.6 %であった。
【0090】
次に、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を実施例3の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長543.4 nmの発光強度の励起依存性を測定したところ、当該蛍光体の励起スペクトルも実施例1と同様に、波長250 nm付近から500 nmまでの広い範囲の励起光で、高強度の緑色の発光を示すことがわかった。
実施例3は、実施例1で使用したZnOの代わりにGa2O3を使用し合成した試料の結果であるが、実施例1と同様に優れた発光特性を示した。
【0091】
(実施例4)
実施例4では、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物としてZnOの代わりに、MnO2を選択し、当該MnO2を0.5 mol秤量し、混合した以外は、実施例3と同様にして実施例4のβ-SiAlON蛍光体を得た。得られた蛍光体粉末の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。
得られた蛍光体は、Al濃度が5.43wt%のSi6-xAlxOxN8-x:Zの組成式を有するβ-SiAlON蛍光体であることがわかった。Mn元素の分析結果は2400 ppmであった。また、得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は5.629 μm、比表面積は1.436 m2/gであった。平均粒子径(D50)は5.629 μmであり、蛍光体粉末として好ましい粉体特性であった。
【0092】
次に、実施例4の蛍光体の発光スペクトルを測定した。当該測定結果を表2、図1に太一点鎖線にて示す。表2、図1の結果は、励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの測定結果を示しており、当該蛍光体は、実施例1と同じく波長470 nmから650 nmの広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は539.2 nmであった。また、半値幅を求めたところ61.2 nmであり、当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.3283、y = 0.6043であった。尚、粉末は薄黄色をしており、目視でも緑色の発光色が確認できた。実施例1の相対強度を100%とした場合、実施例4の発光強度の相対強度は50.1 %であった。
【0093】
次に、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を実施例4の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長539.2 nmの発光強度の励起依存性を測定したところ、当該蛍光体の励起スペクトルも実施例1と同様に、波長250 nm付近から500 nmまでの広い範囲の励起光で、緑色の発光を示すことがわかった。
実施例4は、実施例1で使用したZnO 1.0 molの代わりにMnO 0.50 molを使用し合成した試料の結果であるが、実施例1と同様に優れた発光特性を示した。
【0094】
(比較例1)
比較例1では、ZnO等の1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を使用しないで試料を作成した。
原料としては実施例1と同様に、市販のAlN(3N)、Si3N4(3N)、Eu2O3(4N)を準備し、各原料を、AlNを1.00 mol、Si3N4を10.26 mol、Eu2O3を0.108 mol秤量し、大気中にて乳鉢を用いて混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、焼成炉内を一度真空引きした後、窒素雰囲気中(流通量、4.0 L/min)、炉内圧0.05 MPaで1800℃まで15 ℃/minで昇温し、1800℃で3.0h保持・焼成した後、1800℃から50℃まで1時間30分で冷却した。その後、焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて解砕し、比較例1の蛍光体を得た。得られた蛍光体粉末の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。
得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は2.922 μm、比表面積は2.959 m2/gであった。
【0095】
次に、実施例1と同様にして、比較例1の蛍光体の発光スペクトルを測定した。当該測定結果を表2、図1に細破線にて示す。表2、図1の結果は、励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの測定結果を示しており、当該蛍光体は、波長520 nmから670 nmの広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は581.9 nmであった。また、半値幅を求めたところ91.5 nmであり、当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.4741、y = 0.4831であった。尚、粉末は黄土色をしており、目視では黄色の発光色を確認できた。実施例1の相対強度を100%とした場合、比較例1の発光強度の相対強度は34.6%であった。
次に、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を比較例1の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長581.9 nmの発光強度の励起依存性を測定したところ(図2(B))、当該蛍光体の励起スペクトルは、波長250 nm付近から470 nmまでの励起光で黄色の発光を示すことがわかった。
【0096】
(比較例2)
比較例2では、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物であるZnOを使用しない以外は、実施例2と同様にして比較例2の蛍光体を得た。得られた蛍光体粉末の分析結果、平均粒子径(D50)、比表面積(BET)を表1に示す。
得られた蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は2.641 μm、比表面積は3.886 m2/gであった。
【0097】
次に、実施例1と同様にして、比較例2の蛍光体の発光スペクトルを測定した。当該測定結果を表2、図1に細一点鎖線にて示す。表2、図1の結果は、励起光として波長460 nmの単色光を照射した際の発光スペクトルの測定結果を示しており、当該蛍光体は、実施例1と同様に波長520 nmから670 nmの広い波長域においてブロードなピークを持ち、そのピーク波長は576.4 nmであった。また、半値幅を求めたところ92.7 nmであり、当該発光スペクトルの色度(x , y)を求めたところx = 0.4619、y = 0.4901であった。尚、粉末は黄土色をしており、目視では黄色の発光色を確認できた。実施例1の相対強度を100%とした場合、比較例2の発光強度の相対強度は33.1%であった。
次に、波長が250 nmから550 nmまでの単色光を比較例2の蛍光体に照射し、当該蛍光体が発光する波長576.4 nmの発光強度の励起依存性を測定したところ、当該蛍光体の励起スペクトルは、比較例1と同様に波長250 nm付近から470 nmまでの励起光で黄色の発光を示すことがわかった。
【0098】
(実施例1から実施例4及び比較例1、比較例2についての検討)
表2、図1、図2から明らかなように、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を加えた実施例1から実施例4の試料については、発光スペクトルのピーク波長が550 nm付近にあり、緑色発光する蛍光体を得ることができているが、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を加えていない比較例1、比較例2については、発光スペクトルのピーク波長が580 nm付近にあり、黄色発光する蛍光体が得られた。後述するが、実施例1から実施例4の試料はβ-SiAlONを母体とした蛍光体であるのに対し、比較例1、比較例2はα-SiAlONを母体とした蛍光体であるため発光特性が異なっている。当該実施例1から実施例4の蛍光体は、緑色発光を示すため、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LED照明に使用すると、不足していた緑色成分の光を確保するこができ、高演色性の白色LED照明を作成することが可能となる。
【0099】
次に、図2より、実施例1と比較例1の励起スペクトルを比較してみると、実施例1の励起スペクトルは500 nm付近まで高効率であるのに対し、比較例1は青色LEDの発光波長である460 nm付近から励起スペクトルが急激に落ち込んでおり、実施例1と比較例1では異なる発光特性を持った蛍光体が生成していることが解る。更に、青色LEDの発光波長が少しズレてしまった場合でも、実施例1の蛍光体は平坦な励起帯を有するため、発光強度のバランスが崩れ、白色の色調が変化するという問題が発生せず好ましい。
また、実施例1から実施例4で得られた蛍光体は、発光強度、輝度が優れており、更には、熱や水に対する耐久性に優れたβサイアロン構造を持つため、発光特性、寿命に優れた白色LEDを作製することが可能となる。
【0100】
<粉末X線回折パターン>
実施例1から実施例3及び比較例1に係る蛍光体の粉末X線回折パターンを図5に示す。また、同時にβ-Si3N4のJCPDSカード(PDF#33-1160)の回折パターンも示す。
ここで、図5の粉末法によるX線回折パターンの測定方法について説明する。
測定する蛍光体は、焼成後に乳鉢、ボールミル等の粉砕手段を用いて所定(好ましくは0.5μm 〜 50.0μm)の平均粒径となるように粉砕し、材質がチタン製のホルダーに平らになるように詰め、XRD装置 理学電気株式会社製「RINT 2000」にて測定を行った。測定条件を下記に示す。
使用測定機 : 理学電気株式会社製「RINT 2000」
X線管球 : CoKα
管電圧 : 40 kV
管電流 : 30 mA
スキャン方法 : 2θ/θ
スキャン速度 : 0.3°/min
サンプリング間隔 : 0.01°
スタート角度(2θ) : 10°
ストップ角度(2θ) : 90°
【0101】
また、ブラッグ角度(2θ)のズレについては、X線が照射される試料面が平らでないこと、X線の測定条件、特にスキャンスピードの違いなどにより生じていると考えられる。そのため、特徴的な回折ピークが見られる範囲も若干のズレが起きることは許容されると考えられる。当該ズレをなるべく抑えるために、スキャンスピードを0.3°/minとした上で、蛍光体試料中にSiを混ぜ、X線の測定後にSiピークのズレを補正することにより、ブラッグ角度(2θ)を求めている。以下、図5の実施例2、3及び比較例1についても同様に測定を行った。
【0102】
図5の粉末法によるX線回折パターンの結果から明らかなように、実施例1から実施例3に係る蛍光体は、β-Si3N4と同じX線回折パターンであることからβ-SiAlON構造を有しており、それに対し、比較例1に係る蛍光体は、β-SiAlONのX線回折パターンも見られるものの、それ以外に、α-SiAlONのX線回折パターンも確認することができ、α相とβ相の2相が生成していることが判明した。つまり、上述した、発光スペクトルのピーク波長が、実施例1から実施例3と比較例1とで異なっているのは、この生成している相が異なっているためと考えられる。実施例1から実施例3に係る蛍光体の試料は、原料に1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を加えたことにより、β相の生成が促進され、付活剤であるEuがβ-SiAlON構造中に上手く入り込んだために緑色発光を示したと考えられる。これに対し、比較例1の試料は、原料に1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を加えていないために、β相がほとんど生成せず、α相が安定的に生成し、付活剤であるEuがα相に優先的に入り込んでいるため黄色発光を示したと考えられる。
【0103】
また、従来、β-SiAlON蛍光体は高温・高圧下でないと合成できないと考えられていたが、本実施例に示すように、ZnOのような1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を添加することで、当該構成を有しない従来の製造方法に比べ、低い焼成温度、低い炉内圧力で合成が可能となった。当該新規な蛍光体は、大掛かりな製造装置を必要とせず、工業的に十分生産可能である。さらに、当該新規な蛍光体は、大気中で不安定な窒化物原料や金属原料を用いることなく、大気中でも容易で安定的に混合できる原料構成であり、安価な製造コストで容易に製造できるという特徴を持っている。
【0104】
(実施例6)
<電子線励起>
実施例6では、実施例1と同様にZnO-AlN-Si3N4-Eu2O3よりβ-SiAlON蛍光体を作製した。原料としては市販のZnO(3N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)、Eu2O3(4N)を準備し、各原料を、ZnOを1.00 mol、AlNを1.00 mol、Si3N4を2.67 mol、Eu2O3を0.010 mol秤量し、大気中にて乳鉢を用いて混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、焼成炉内を一度真空引きした後、窒素雰囲気中(流通量、4.0 L/min)、炉内圧0.05 MPaで1800℃まで15 ℃/minで昇温し、1800℃で5.0 min保持・焼成した後、1800℃から50℃まで1時間30分で冷却した。その後、焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて解砕し、実施例1と同様のβ-SiAlON蛍光体を得た。
【0105】
製造された蛍光体の粉体を溶液中に分散させ、水ガラスを用いた凝集沈降法を用いて、銅製基板上へ均一塗布し、実施例6に係る蛍光体の発光特性を評価する基板試料とした。作製した基板試料における蛍光体膜厚は、蛍光体が塗布された基板の厚みと蛍光体膜を剥がし落とした後の基板の厚みを測定し、その厚みの差から算出した。このようにして測定した各基板試料の蛍光体膜厚は、33.1μmであった。また、作製した各基板試料の単位面積当りの蛍光体塗布量は、蛍光体が塗布された基板の重量と蛍光体膜を剥がし落とした後の基板の重量を測定し、その重量の差から蛍光体塗布量を算出した後、算出した蛍光体塗布量を基板試料の表面積で割ることにより求めた。このようにして測定した各基板試料の単位面積当りの蛍光体塗布量は3.46mg/cm2であった。
【0106】
作製した各基板試料へ、電子ビ−ム加速電圧25kV、電子ビ−ム照射面積8×4mmの電子ビ−ムを照射し、当該電子ビ−ムの励起電流値を1μAに設定し、基板試料の発光強度を測定した。当該測定結果を図6に示す。ただし、図6は、横軸に発光波長(nm)、縦軸に蛍光体の発光強度(相対エネルギー強度)をとったものである。
本実施例6の蛍光体は、電子ビームを照射された場合において、極めて強い発光を示すことが判明した。従って、当該蛍光体は、電子線励起用蛍光体としても十分使用可能である。
【0107】
(実施例7)
実施例7おいては、実施例1に係る蛍光体へ、さらに、青色蛍光体、赤色蛍光体を加え、波長405 nmに発光する発光素子(LED)で励起させた場合に相関色温度5000Kの発光を行う蛍光体混合物を製造し、該蛍光体混合物を組み込んだ発光装置の発光特性、演色性を評価した。尚、本実施例では、青色蛍光体としてSrAlSi6.5O1.25N9.5:Euを用いたが、BaMgAl10O17:Euやハロりん酸塩蛍光体である(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO4)6Cl2:Euを用いることも可能である。また、該赤色蛍光体としてCaSiAlN3:Euを用いたが、Sr4AlSi11O2N17:Eu、(Ca,Sr)Si5N8:Euなどの窒素を有する赤色蛍光体、またはSrS:Eu、CaS:Euなどの硫化物系の赤色蛍光体を用いることも可能である。
【0108】
(1)蛍光体試料の準備
緑色蛍光体は実施例1にて説明した方法により、実施例1と同様の蛍光体を製造した。
青色蛍光体SrAlSi6.5O1.25N9.5:Euを、以下の方法により製造した。
実施例1と同様に、原料としては市販のSrCO3(3N)、Al2O3(3N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)を準備し、Z元素としては、Eu2O3(3N)を準備する。これらの原料を、各元素のモル比がSr : Al : Si : O : Eu = 0.970 : 1 : 6.5 : 1.25 : 0.030となるように、各原料の混合比をそれぞれ、SrCO3を0.970 mol、Al2O3を0.25/3 mol、AlNを(1.0 - 0.25/3 × 2)mol、Si3N4を6.5/3 mol、Eu2O3を0.030/2 mol秤量し混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、焼成炉内を一度真空引きした後、窒素雰囲気中(流通量、4.0 L/min)、炉内圧0.05 MPaで1800℃まで15 ℃/minで昇温し、1800℃で3.0時間保持・焼成した後、1800℃から50℃まで1時間30分で冷却した。その後、焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて解砕し試料を得た。
【0109】
一方、赤色蛍光体CaSiAlN3:Euを、以下の方法により製造した。
市販のCa3N2(2N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)、Eu2O3(3N)を準備し、各元素のモル比がCa:Al:Si: Eu = 0.970 : 1.00 : 1.00 : 0.030となるように各原料を秤量し、窒素雰囲気中において乳鉢を用いて混合した。混合した原料を、粉末の状態で窒素雰囲気中1500℃まで15℃/minの昇温速度で昇温し、1500℃で12時間保持・焼成した後、1500℃から200℃まで1時間で冷却し、組成式CaSiAlN3:Euの蛍光体を得た。得られた試料を粉砕し、分級して赤色蛍光体試料として準備した。
【0110】
(2)蛍光体混合物の調製
前記青色、緑色、赤色蛍光体の3種類の蛍光体試料について、各々、波長405 nmの励起光で励起させた場合の発光スペクトルを測定し、該発光スペクトルから、両蛍光体混合物の相関色温度が、5000 Kとなる相対混合比をシミュレーションのより求めた。該シミュレーションの結果は、(青色蛍光体) : (緑色蛍光体:実施例1) :(赤色蛍光体) = 55.4 : 34.6 : 10.0であった。該結果に基づき、各蛍光体秤量し混合して蛍光体混合物を得た。
但し、発光部の発光波長(蛍光体混合物の励起波長)や、該励起光に対する蛍光体の発光効率により、好ましい混合比が該シミュレーション結果よりずれる場合がある。このような場合には、適宜、蛍光体の配合比を調整して、実際の発光スペクトル形状を整えればよい。
【0111】
(3)発光素子での評価
波長405 nmで発光する発光素子(LED)を用いて励起させた場合における、該発光装置の発光特性、演色性を評価した。まず、窒化物半導体である紫外光のLED素子(発光波長405nm)を発光部として準備した。さらに前記実施例1に係るβ−SIALON蛍光体と各種蛍光体を混合した蛍光体混合物、エポキシ樹脂、分散剤を混ぜ、蛍光体の混合物を用意した。樹脂は可視光の透過率、屈折率が高い方が好ましく、前記条件を満たせばエポキシ系に限らずシリコン系の樹脂でもよい。分散剤はSiO2の微粒子などを少量混合し使用しても良い。該混合物を十分に攪拌し、公知の方法で該LED素子上に塗布して白色LED照明(発光装置)を作製した。前記混合物の蛍光体と樹脂比率、塗布厚みにより発光色及び発光効率が変化するため、目的の色温度に合わせて前記条件を調整すればよい。
【0112】
作製された白色LED照明に20 mAを通電させた際の発光スペクトルの結果を表4、図7に示す。図7は、縦軸に相対発光強度をとり、横軸に発光波長(nm)をとったグラフである。そして、実施例7に係る白色LED照明の発光スペクトルを実線で示す。
該蛍光体は、発光部が発する青色光により励起・発光し、波長400nmから700nmの範囲に連続的にブロードなピークを有する発光スペクトルの白色光を発光する白色LED照明を得ることが出来た。該発光の色温度、色度及び演色性を測定したところ、色温度は 5003K、色度はx = 0.3456、y = 0.3584であり、平均演色評価数(Ra)は 88、特殊演色評価数R9は74、R15は96であった。
【0113】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施例1から実施例4の蛍光体並びに比較例1及び2の蛍光体のそれぞれの発光スペクトルを示すグラフである。
【図2A】実施例1の励起スペクトルを示すグラフである。
【図2B】比較例1の励起スペクトルを示すグラフである。
【図3】実施例1の蛍光体の温度特性を示すグラフである。
【図4】実施例1の蛍光体について、粉末X線回析測定における実測値と解析値を示すグラフである。
【図5】実施例1から実施例3及び比較例1の蛍光体についての粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図6】実施例6の蛍光体膜における電子線励起特性を示すグラフである。
【図7】実施例7の白色LED照明(発光装置)における発光スペクトルを示すグラフである。
【図8】砲弾型LED発光装置を模式的に示す断面図である。
【図9】反射型LED発光装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0115】
1、蛍光体混合物
2、LED発光料
3、リードフレーム
4、樹脂
8、反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Si6-xAlxOxN8-x:Z(但し、Z元素は、蛍光体中において付活剤として作用する元素である。)と表記される生成相と、1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素とを、含み、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素を、0.10 ppm以上、10000 ppm以下含有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体であって、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物を構成する金属元素が、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)でから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体であって、
0.3 ≦ x ≦ 0.9であることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の蛍光体であって、
Z元素が、Eu、Ce、Pr、Tb、Yb、Mnから選択される1種類以上の元素であることを特徴とす蛍光体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の生成相の結晶系が、六方晶であることを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の生成相の結晶子の大きさ(Dx)が、50 nm以上であることを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体が粉末状であることを特徴とする蛍光体。
【請求項8】
請求項7に記載の蛍光体であって、
前記蛍光体の粒子の平均粒子径(D50)が、0.5μm以上、50.0μm以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を焼成炉内に設置して加熱し、焼成物とする工程と、
前記焼成物を粉砕して蛍光体を得る工程とを有し、
前記1000℃から1800℃の温度で昇華もしくは蒸発する化合物として、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)の各酸化物から選択される1種類以上の化合物を、前記混合物へ添加することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記混合物を、粉末状のままBNるつぼに収めて焼成炉内に設置し、
前記焼成炉内の雰囲気ガスを、窒素ガス、希ガス、及びアンモニアガスから選択される1種類以上を含むガスとし、且つ、当該選択されたガスを、焼成炉内に0.1ml/min以上流通させながら、1400℃以上、1800℃以下の温度で加熱することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記焼成炉内の内圧を、0.001 MPa以上、0.5 MPa以下とすることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の蛍光体を含み、第1の波長の光を発する発光部とを有し、前記第1の波長の光の一部または全部を励起光とし、前記蛍光体から前記第1の波長と異なる波長の光を発光させることを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項12に記載の発光装置であって、
第1の波長とは、350 nmから500 nmの波長であることを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の発光装置であって、
平均演色評価数Raが、80以上であることを特徴とする発光装置。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載の発光装置であって、
特殊演色評価数R15が、80以上であることを特徴とする発光装置。
【請求項16】
請求項12から15のいずれかに記載の発光装置であって、
特殊演色評価数R9が、60以上であることを特徴とする発光装置。
【請求項17】
請求項12から16のいずれかに記載の発光装置であって、
相関色温度が、7000 Kから2500 Kの範囲にあることを特徴とする発光装置。
【請求項18】
請求項12から17のいずれかに記載の発光装置であって、
第1の波長を発する発光部がLEDであることを特徴とする発光装置。
【請求項19】
請求項1から8のいずれかに記載の蛍光体を用いて作製された電子線励起用の蛍光体膜。
【請求項20】
請求項1から8のいずれかに記載の蛍光体を用いて作製された電子線励起カラ−表示装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−39591(P2007−39591A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227157(P2005−227157)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】