説明

蛍光体粒子

【解決手段】(Axyz3512(式中、AはY,Gd及びLuから選ばれる1種以上の希土類元素、BはCe,Nd及びTbから選ばれる1種以上の希土類元素、CはAl及びGaから選ばれる1種以上の元素であり、x,y及びzは0.002<y≦0.2、0<z≦2/3、及びx+y+z=1を満たす正数である。)で示される組成のガーネット相を含有し、平均粒子径が5〜50μmであり、複数の一次粒子で構成された球形の多結晶体二次粒子である蛍光体粒子。
【効果】本発明の蛍光体粒子は、発光中心をなす希土類元素が、従来の蛍光体粒子と比べて、より均一分散しており、発光効率の高い黄色発光蛍光体として機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般照明、バックライト光源、ヘッドライト光源などの照明装置や、発光ダイオード、特に、光源からの発光を波長変換する蛍光体を備える照明装置や、白色系等の発光ダイオードに好適に用いられる蛍光体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードは、現在利用可能な光源の中で最も効率的な光源の一つである。白色発光ダイオードは、白熱電球、蛍光灯、CCFLバックライト、ハロゲンランプなどに代わる次世代光源として急激に市場を拡大している。白色LEDは青色LEDの青色と青色励起により発光する蛍光体との組合せにより実現できる。青色発光ダイオードと黄色発光ダイオードにより擬似白色を発光可能な黄色発光蛍光体としては、Y3Al512:Ce、(Y,Gd)3(Al,Ga)512:Ce、(Y,Gd)3Al512:Ce、Tb3Al512:Ce、CaGa24:Eu、(Sr,Ca,Ba)2SiO4:Eu、Ca−α−サイアロン:Eu等が知られている。
【0003】
特許第3700502号公報(特許文献1)には、Y、Gd、Ceの希土類元素を所定の化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させ、沈殿物を焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウムを混合して、この混合原料にフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰めて、空気中1,400℃の温度で3時間焼成した後、その焼成品を、ボールミルを用いて湿式粉砕して、洗浄、分離、乾燥後、最後に篩を通すことにより作製する蛍光体の製造方法が記載されている。
【0004】
しかし、従来の粒子混合による固相反応によって合成された蛍光体は、フラックス中での結晶成長により生じる結晶により製造されているため、蛍光体を構成する原子の元素ごとの比率は定比になるのが普通である。発光中心として導入する元素は結晶の格子の被導入元素のイオン半径に影響を受けてしまうが、そのために、フラックスという融液中での成長では、イオン半径の違う、とりわけ導入する発光中心の元素が被導入元素に比較して大きい場合、結晶成長時に結晶中から排斥される傾向にある。特許第3700502号公報(特許文献1)の場合を例に挙げると、Y3Al512:Ce蛍光体で導入されるCe3+イオンのイオン半径は置換されるY3+イオンのイオン半径よりも大きい。そのため、原料粉末をフラックス中で結晶成長させる従来の方法では、Ce3+イオンは結晶成長の過程でY3Al512の結晶中から排斥されやすい傾向をもつため、所定量のCe3+イオンを結晶中に導入し難いという欠点があった。実際にこのような方法で結晶成長させた蛍光体粒子の元素の分布を分析すると、Ce3+イオンが結晶粒子以外の部分に濃縮されていることがわかる(例えば、図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3700502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、従来よりも発光効率が向上した蛍光体粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記組成式(1)
(Axyz3512 (1)
(式中、AはY,Gd及びLuから選ばれる1種以上の希土類元素、BはCe,Nd及びTbから選ばれる1種以上の希土類元素、CはAl及びGaから選ばれる1種以上の元素であり、x,y及びzは0.002<y≦0.2、0<z≦2/3、及びx+y+z=1を満たす正数である。)
で示される組成のガーネット相を含有し、複数の一次粒子で構成された球形の多結晶体二次粒子であり、該二次粒子の平均粒子径が5〜50μmである蛍光体粒子が、発光中心として導入される上記Bで示される希土類元素の、より均一な分布が促進され、青色LEDからの励起光により励起されて発光する、発光効率の高い黄色発光蛍光体として、白色LED等に好適に用いることができることを見出した。
【0008】
また、このような蛍光体粒子が、上記組成式(1)中のA、B及びCで示される元素の1種又は2種以上を含む酸化物を原料とし、該酸化物の粉末を1種で又は2種以上、上記A、B及びCで示される元素がC/(A+B)>5/3の比率(原子比)となるように混合して平均粒子径5〜65μmに造粒し、得られた造粒粒子をプラズマ中で溶融してプラズマ外で球状に固化させ、更に、得られた粒子を、非酸化性雰囲気中800℃を超えて1,700℃以下の温度で加熱処理することにより製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の蛍光体粒子を提供する。
請求項1:
下記組成式(1)
(Axyz3512 (1)
(式中、AはY,Gd及びLuから選ばれる1種以上の希土類元素、BはCe,Nd及びTbから選ばれる1種以上の希土類元素、CはAl及びGaから選ばれる1種以上の元素であり、x,y及びzは0.002<y≦0.2、0<z≦2/3、及びx+y+z=1を満たす正数である。)
で示される組成のガーネット相を含有し、複数の一次粒子で構成された球形の多結晶体二次粒子であり、該二次粒子の平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする蛍光体粒子。
請求項2:
上記一次粒子の粒子径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1記載の蛍光体粒子。
また、本発明は、上記蛍光体粒子の製造方法として、以下の製造方法が関連する。
[1] 上記蛍光体粒子を製造する方法であって、上記組成式(1)中のA、B及びCで示される元素の1種又は2種以上を含む酸化物を原料とし、該酸化物の粉末を1種で又は2種以上、上記A、B及びCで示される元素がC/(A+B)>5/3の比率(原子比)となるように混合して平均粒子径5〜65μmに造粒し、得られた造粒粒子をプラズマ中で溶融してプラズマ外で球状に固化させ、更に、得られた粒子を、非酸化性雰囲気中800℃を超えて1,700℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする蛍光体粒子の製造方法。
[2] 上記原料酸化物にフラックスを添加することなく製造することを特徴とする[1]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛍光体粒子は、発光中心をなす希土類元素が、従来の蛍光体粒子と比べて、より均一分散しており、発光効率の高い黄色発光蛍光体として機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた蛍光体粒子の電子顕微鏡像である。
【図2】電子線マイクロアナライザーにより測定した実施例1で得られた蛍光体粒子の断面像及び断面上の元素分布を示す図である。
【図3】実施例1で得られた蛍光体粒子のX線回折プロファイルである。
【図4】比較例1で得られた蛍光体粒子の電子顕微鏡像である。
【図5】電子線マイクロアナライザーにより測定した比較例1で得られた蛍光体粒子の断面像及び断面上の元素分布を示す図である。
【図6】比較例1で得られた蛍光体粒子のX線回折プロファイルである。
【図7】比較例2で得られた蛍光体粒子の電子顕微鏡像である。
【図8】電子線マイクロアナライザーにより測定した比較例2で得られた蛍光体粒子の断面像及び断面上の元素分布を示す図である。
【図9】比較例2で得られた蛍光体粒子のX線回折プロファイルである。
【図10】実施例2で得られた蛍光体粒子の電子顕微鏡像である。
【図11】実施例2で得られた蛍光体粒子のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の蛍光体粒子は、下記組成式(1)
(Axyz3512 (1)
(式中、AはY,Gd及びLuから選ばれる1種以上の希土類元素、BはCe,Nd及びTbから選ばれる1種以上の希土類元素、CはAl及びGaから選ばれる1種以上の元素であり、x,y及びzは0.002<y≦0.2、0<z≦2/3、及びx+y+z=1を満たす正数である。)
で示される組成のガーネット相を含有する。
【0013】
このガーネット相は、その結晶構造において、結晶格子中の上記組成式(1)のAで示される元素(以下、A元素と称することがある)のサイトの一部に、発光中心をなす上記組成式(1)のBで示される元素(以下、B元素と称することがある)が置換するタイプのガーネット相において、更に、上記組成式(1)のCで示される元素(以下、C元素と称することがある)が置換する(特に限定するものではないが、通常、A元素のサイトにC元素が置換するものと考えられる。)構造である。このようなガーネット相では、置換しにくいA元素からB元素への置換が促進されており、蛍光体粒子中で、B元素の高分散が達成されるものと考えられる。このような結晶構造を有するガーネット相は、従来の製法では、製造することができなかったものである。
【0014】
このようなガーネット相を含有する蛍光体粒子は、上記組成式(1)中のA、B及びCで示される元素の1種又は2種以上を含む酸化物を原料とし、この酸化物の粉末を1種で又は2種以上、A、B及びCで示される元素がC/(A+B)>5/3、特に、C/(A+B)≧5.02/2.98であり、また、その上限が、好ましくはC/(A+B)≦6/2、特に、C/(A+B)≦5.6/2.4の比率(原子比)となるように混合して平均粒子径5〜65μmに造粒し、得られた造粒粒子をプラズマ中で溶融してプラズマ外で球状に固化させ、更に、得られた粒子を、非酸化性雰囲気中800℃を超えて1,700℃以下の温度で加熱処理することにより製造することができる。
【0015】
上記組成式(1)中のA、B及びCで示される元素が所定の比率となるように原料酸化物を混合して造粒し、この造粒粒子をプラズマ中に導入することで、造粒粒子は溶融物(液滴)となり、これをプラズマ外に出せば、冷却されて固化する。溶融、固化後の粒子は、非晶質(アモルファス)の複合酸化物粒子となり、造粒粒子の大きさである平均粒子径5〜65μmの球状粒子として生成する。この方法では、一般的な蛍光体粒子の製造方法である、固体混合した原料酸化物をフラックス中で焼成することにより各元素を混合する方法とは異なり、プラズマ中に導入して再び固化することで、各元素が均一に分散したアモルファス状態として、平均粒子径が5〜50μmの球状粒子を生成させることができ、粒子間の組成のばらつきも小さい。
【0016】
その後、この固化した球状粒子を、800℃を超えて1,700℃以下、好ましくは900℃以上1,600℃以下、より好ましくは1,000℃以上1,500℃以下の温度で、非酸化性雰囲気中で加熱処理をすることにより、上記組成式(1)で示される組成のガーネット相を含む結晶性の球状粒子が得られる。
【0017】
加熱処理後に得られる球状粒子は、結晶化の際に、結晶性の微小な一次粒子が多数形成され、成長した一次粒子が複数集合した多結晶体二次粒子として生成する。
【0018】
この一次粒子の粒子径は、通常0.1〜5μm、特に0.1〜3μmとなり、また、二次粒子の平均粒子径は、5〜50μm、特に10〜30μmとなる。
【0019】
上記組成式(1)で示される組成を有するガーネット相は、本発明の蛍光体粒子のガーネット相の構造を限定するものではないが、(Aab3512(式中、A、B及びCは組成式(1)と同じであり、a及びbはa+b=1を示す正数である。)で示される組成のガーネット相とは異なり、更に、C元素が置換した構造となっている。また、この場合、通常、B元素はC元素によって置換されず、A元素がC元素によって置換されているものと考えられる。C元素はA元素と比較してイオン半径が小さいため、C元素がA元素のサイトを占有することは、結果としてB元素を結晶格子内に取り込みやすくする効果があると考えられる。
【0020】
また、本発明の場合、溶融、固化後に得られた粒子の主成分が非晶質であること、加熱処理により結晶化させる前に、蛍光体粒子の大きさがほぼ決まっていることから、粒子内部でのB元素の拡散がより容易であり、かつ粒子内部以外にB元素が移動する場所がないことから、B元素は従来法に比較して結晶中により均一に取り込まれる。
【0021】
従来の蛍光体粒子の製造方法では、原料酸化物の混合、焼成に際し、フラックスの添加が一般的であるが、フラックスを用いると、本来、蛍光体粒子のガーネット相に導入されるべきB元素は、蛍光発光に寄与しない部分、特に、フラックス由来の元素とで形成された部分に取り込まれ易い傾向にある。これは、例えばフラックスとしてフッ化バリウム、B元素としてCeを用いて従来法で製造した蛍光体粒子のXRD分析において、BaCeOF3に同定されるピークが存在することや、電子線マイクロアナライザーを用いた各元素の分布状態からも裏づけられる(例えば、図5,6参照)。
【0022】
このことから、発光中心として導入されるB元素のイオン半径よりも、置換されるA元素のイオン半径の方が小さいために、従来法で製造した蛍光体粒子では、フラックス中で結晶成長させる際に、結晶格子中に発光中心となるB元素が取り込まれにくい傾向にあり、そのために、発光中心をなすB元素を高濃度に蛍光体粒子のガーネット相の結晶格子中に導入できないと考えられる。
【0023】
これに対して、本発明の蛍光体粒子では、B元素は蛍光体粒子の内部で均一に分散して存在しており、発光中心をなすB元素を効率よく蛍光体粒子のガーネット相の結晶格子中に導入できる(例えば、図2参照)。
【0024】
本発明において、蛍光体粒子に含まれる上記組成式(1)で示される組成のガーネット相は、蛍光体粒子に含まれる結晶相の主相であり、全結晶相中、このガーネット相が、99体積%以上であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明の蛍光体粒子の製造方法について、更に詳しく説明する。
本発明の蛍光体粒子におけるガーネット相は、上記組成式(1)で示される組成のA、B及びCで示される元素が(Axyz):C:O=3:5:12の比率で構成される。従来の製法では、蛍光体粒子の原料組成において、(Axyz):C=3:5未満の比率の場合、ガーネット相以外に、ペロブスカイト相(例えば、YAlO3)、希土類複合酸化物相(例えば、Y0.2Ce0.81.9)が出現することになる。一方、(Axyz):C=3:5超の比率の場合は、ガーネット相以外にアルミナ相が出現することになる。いずれの場合も、高効率で発光に寄与するガーネット相の生成が減少することとなり、蛍光体粒子として使用したときに、励起光の吸収率、発光量子効率が低下する。
【0026】
これに対して、本発明の蛍光体粒子を好適に製造し得る以下の方法では、蛍光体粒子の原料組成において、A、B及びCで示される元素をC/(A+B)>5/3の比率(原子比)として製造する。本発明の製造方法では、原料組成がこのような比率であっても、結晶相の主相がガーネット相である蛍光体粒子が製造される。
【0027】
本発明の蛍光体粒子の製造においては、まず、製造する蛍光体粒子の金属種に応じて、単一又は複数金属の酸化物、複合酸化物及び混合酸化物から適宜選択して蛍光体原料組成物を作製する。この蛍光体組成物を純水、有機溶剤などを用いてスラリー状とする。
【0028】
複合酸化物又は混合酸化物の製造方法は、例えば、以下の方法を挙げることができる。まず、本発明の蛍光体を構成する金属元素(Y、Gd、Lu、Ce、Nd、Tb、Al、Ga)を含む金属塩(硝酸塩、塩化物塩など)から適宜選定して、それらを水溶液とし、該水溶液から共沈物を得、又は上記金属塩と上記金属の酸化物から適宜選定して、それらを水溶液若しくはスラリーとし、該水溶液若しくはスラリーから共沈物を得、得られた共沈物を、大気中、800〜1,500℃で焼成することにより、複合酸化物又は混合酸化物を得ることができる。この焼成時間は、通常1〜10時間である。
【0029】
得られた複合酸化物又は混合酸化物から蛍光体組成物のスラリーを製造するのであるが、この蛍光体組成物のスラリーには、必要に応じて分散剤、バインダー等の有機添加剤を加えてもよく、必要に応じて粉砕して、好ましくは平均粒子径が0.01〜2.0μmの微粒子のスラリーとするのが好ましい。このスラリーを原料として、2流体ノズル法、4流体ノズル法、流動層造粒法、遠心噴霧法、転動造粒法、攪拌混合造粒法、ゴム型静水圧プレス成形法等による、圧縮造粒、押し出し造粒、解砕造粒等により、目的とする粒子径の、球形乃至略球形の粒子に成形して造粒粒子(前駆体)を得ることができる。スラリーからの造粒により、個々の造粒粒子間の組成は均一化される。この造粒粒子の大きさは、5〜65μmとすることが好ましいが、熱処理後に得られる蛍光体粒子の大きさと同程度のサイズ(例えば、平均粒子径として、熱処理後の蛍光体粒子の100〜130%)とすることが好ましい。
【0030】
造粒粒子の溶融は、造粒粒子を、プラズマ中を通過させることにより実施する。プラズマ源としては、高周波プラズマ、直流プラズマ等が用いられる。使用するプラズマの温度は、原料である希土類元素酸化物、AlやGaの酸化物の融点よりも高温にすることが必要である。
【0031】
プラズマ中を通過させて得られた粒子は、XRD回折では非常にブロードなピークを示す非晶質の球状粒子である。このままでは蛍光体としての量子効率は低く、通常40〜60%程度しかない。また、励起光に対する吸収率も50〜70%と低い。そのため、プラズマ中で溶融させて得られた粒子は、非酸化性雰囲気、例えばアルゴン、ヘリウムなどの希ガス雰囲気、窒素雰囲気、それらの一部を水素などの還元性ガスで置換した雰囲気で加熱処理をすることで、結晶性の蛍光体粒子とすることができる。加熱処理の雰囲気を非酸化性雰囲気とするのは、発光中心として存在するB元素を酸化させないためである。
【0032】
加熱処理の温度は、蛍光体粒子の結晶を十分に成長させるため、800℃超、特に900℃以上、とりわけ1,000℃以上が好ましい。蛍光体粒子同士の固着は、蛍光体としての粒子径の分布に悪影響を与えるおそれがあることから、加熱温度は1,700℃以下、特に1,600℃以下、とりわけ1,500℃以下が好ましい。蛍光体粒子間の固着を防ぐなどの目的で加熱処理を2回以上の複数回に分けて実施してもよい。また、蛍光体粒子間の固着を防ぐなどの目的で、例えば、800℃以下の温度で大気雰囲気などの酸化性雰囲気で加熱し、800℃を超える温度では還元雰囲気として加熱するなどの雰囲気制御を行うことも可能である。
【0033】
このようにして得られた蛍光体粒子は、結晶相として、C元素が従来のものよりも多い組成のガーネット相が形成されており、発光に寄与するB元素が結晶中に、有効に取り込まれている。本発明の蛍光体粒子の450nm励起光での内部量子効率は、通常94%以上であり、また、励起光に対する吸収率も、通常85%以上、特に90%以上と高い発光効率を示す。
【0034】
本発明の蛍光体粒子は、発光ダイオードに用いられる発光素子からの光を波長変換するために用いる蛍光体として好適であり、本発明の蛍光体粒子は、発光ダイオード、これを用いた照明装置、バックライト光源などに好適に使用できる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]
純度99.9%、平均粒子径1.0μmの酸化イットリウム(Y23)粉末と、純度99.0%、平均粒子径0.5μmの酸化アルミニウム(Al23)粉末と、純度99.9%、平均粒子径0.2μmの酸化セリウム(CeO2)粉末とを、各々、Y:Al:Ce=2.94:5.5:0.06のモル比で混合し、1,000gの混合粉を得た。得られた混合粉を脱イオン水1,500g、ポリアクリル酸アンモニウム10g、カルボキシメチルセルロース2gと共にボールミルで6時間混合した。得られたスラリーから、2流体ノズルを用いて造粒し、平均粒子径22μmの粒子を得た。次に、得られた粒子を1,000℃、2時間、大気中で熱処理し、有機成分を除去した。
【0037】
次に、得られた造粒粒子を、アルゴンプラズマ中を通過させることにより溶融させ、溶融物を再び固化させて、球状の粒子を得た。この球状粒子をXRDで定性分析したところ、アモルファスであった。
【0038】
次に、得られた球状粒子を、水素ガスを1vol%含有するアルゴンガス中で、1,350℃で5時間加熱処理して蛍光体粒子を得た。
【0039】
得られた蛍光体粒子を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡像を図1に示す。蛍光体粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、その外観は、球形又はほぼ球形の形状であった。また、電子顕微鏡像から、蛍光体粒子の平均粒子径、及び蛍光体粒子を構成する一次粒子の粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
次に、得られた蛍光体粒子をエポキシ樹脂に包埋し研磨して断面を出した。その断面を、電子線マイクロアナライザーを用いて各元素の分布状態を分析した。結果を図2に示す。この分析の結果、Ce元素は、蛍光体粒子中にほぼ均一に分布していることが確認された。
【0041】
次に、この蛍光体粒子のXRD分析を行なった。結果を図3に示す。この蛍光体粒子の回折パターンは、主相がイットリウムアルミニウムガーネット相の回折ピークと合致しており、ガーネット相を主相として含むものであることが確認された。また、アルミナ相などのガーネット相以外の相は確認されなかった。
【0042】
次に、この蛍光体粒子の吸収率及び内部量子効率を、励起波長450nm、発光範囲480〜780nmの範囲で積分球を用いて測定した。結果を表1に併記する。
【0043】
[比較例1]
純度99.9%、平均粒子径1.0μmの酸化イットリウム(Y23)粉末と、純度99.0%、平均粒子径3.0μmの酸化アルミニウム(Al23)粉末と、純度99.9%、平均粒子径0.2μmの酸化セリウム(CeO2)粉末とを、各々、Y:Al:Ce=2.94:5.5:0.06のモル比で混合し、1,000gの混合粉を得た。得られた混合粉に、更にフラックスとしてフッ化バリウムを200g添加して十分に混合し、アルミナ坩堝に充填し、アルゴンガス中、1,400℃で10時間熱処理した。得られた焼成体を、水洗、分離、乾燥して、蛍光体粒子を得た。
【0044】
得られた蛍光体粒子を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡像を図4に示す。蛍光体粒子は、外観が、結晶面が観察される多面体形状であった。また、電子顕微鏡像から、蛍光体粒子の平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
次に、得られた蛍光体粒子をエポキシ樹脂に包埋し研磨して断面を出した。その断面を、電子線マイクロアナライザーを用いて各元素の分布状態を分析した。結果を図5に示す。この分析の結果、Ce元素は、ガーネット結晶相の他、それ以外の部分にも存在することが確認された。
【0046】
次に、この蛍光体粒子のXRD分析を行なった。結果を図6に示す。この蛍光体粒子の回折パターンは、主相がイットリウムアルミニウムガーネット相の回折ピークと合致しており、ガーネット相を主相として含むものであることが確認された。また、ガーネット相以外の相としてBaCeOF3などが確認された。
【0047】
次に、この蛍光体粒子の吸収率及び内部量子効率を、励起波長450nm、発光範囲480〜780nmの範囲で積分球を用いて測定した。結果を表1に併記する。
【0048】
[比較例2]
純度99.9%、平均粒子径1.0μmの酸化イットリウム(Y23)粉末と、純度99.0%、平均粒子径0.5μmの酸化アルミニウム(Al23)粉末と、純度99.9%、平均粒子径0.2μmの酸化セリウム(CeO2)粉末とを、各々、Y:Al:Ce=2.94:4.8:0.06のモル比で混合し、1,000gの混合粉を得た。得られた混合粉を脱イオン水1,500g、ポリアクリル酸アンモニウム10g、カルボキシメチルセルロース2gと共にボールミルで6時間混合した。得られたスラリーから、2流体ノズルを用いて造粒し、平均粒子径15μmの粒子を得た。次に、得られた粒子を1,000℃、2時間、大気中で熱処理し、有機成分を除去した。
【0049】
次に、得られた造粒粒子を、アルゴンプラズマ中を通過させることにより溶融させ、溶融物を再び固化させて、球状の粒子を得た。この球状粒子をXRDで定性分析したところ、アモルファスであった。
【0050】
次に、得られた球状粒子を、水素ガスを1vol%含有するアルゴンガス中で、1,350℃で5時間加熱処理して蛍光体粒子を得た。
【0051】
得られた蛍光体粒子を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡像を図7に示す。蛍光体粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、その外観は、球形又はほぼ球形の形状であった。また、電子顕微鏡像から、蛍光体粒子の平均粒子径、及び蛍光体粒子を構成する一次粒子の粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
次に、得られた蛍光体粒子をエポキシ樹脂に包埋し研磨して断面を出した。その断面を、電子線マイクロアナライザーを用いて各元素の分布状態を分析した。結果を図8に示す。この分析の結果、Ce元素は、蛍光体粒子中に偏析していることが確認された。
【0053】
次に、この蛍光体粒子のXRD分析を行なった。結果を図9に示す。この蛍光体粒子の回折パターンは、主相がイットリウムアルミニウムガーネット相の回折ピークと合致しており、ガーネット相を主相として含むものであることが確認された。また、ガーネット相以外の相としてイットリウムアルミネート相(YAP相)などが確認された。
【0054】
次に、この蛍光体粒子の吸収率及び内部量子効率を、励起波長450nm、発光範囲480〜780nmの範囲で積分球を用いて測定した。結果を表1に併記する。
【0055】
[実施例2]
純度99.9%、平均粒子径1.0μmの酸化ルテチウム(Lu23)粉末と、純度99.0%、平均粒子径0.5μmの酸化アルミニウム(Al23)粉末と、純度99.9%、平均粒子径0.2μmの酸化セリウム(CeO2)粉末とを、各々、Lu:Al:Ce=2.94:5.5:0.06のモル比で混合し、1,000gの混合粉を得た。得られた混合粉を脱イオン水1,500g、ポリアクリル酸アンモニウム10g、カルボキシメチルセルロース2gと共にボールミルで6時間混合した。得られたスラリーから、2流体ノズルを用いて造粒し、平均粒子径20μmの粒子を得た。次に、得られた粒子を1,400℃、2時間、大気中で熱処理し、有機成分を除去した。
【0056】
次に、得られた造粒粒子を、アルゴンプラズマ中を通過させることにより溶融させ、溶融物を再び固化させて、球状の粒子を得た。この球状粒子をXRDで定性分析したところ、アモルファスであった。
【0057】
次に、得られた球状粒子を、水素ガスを1vol%含有するアルゴンガス中で、1,350℃で5時間加熱処理して蛍光体粒子を得た。
【0058】
得られた蛍光体粒子を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡像を図10に示す。蛍光体粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、その外観は、球形又はほぼ球形の形状であった。また、電子顕微鏡像から、蛍光体粒子の平均粒子径、及び蛍光体粒子を構成する一次粒子の粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
次に、得られた蛍光体粒子をエポキシ樹脂に包埋し研磨して断面を出した。その断面を、電子線マイクロアナライザーを用いて各元素の分布状態を分析した。この分析の結果、Ce元素は、蛍光体粒子中にほぼ均一に分布していることが確認された。
【0060】
次に、この蛍光体粒子のXRD分析を行なった。結果を図11に示す。この蛍光体粒子の回折パターンは、主相がルテチウムアルミニウムガーネット相の回折ピークと合致しており、ガーネット相を主相として含むものであることが確認された。また、アルミナ相などのガーネット相以外の相は確認されなかった。
【0061】
次に、この蛍光体粒子の吸収率及び内部量子効率を、励起波長450nm、発光範囲480〜780nmの範囲で積分球を用いて測定した。結果を表1に併記する。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)
(Axyz3512 (1)
(式中、AはY,Gd及びLuから選ばれる1種以上の希土類元素、BはCe,Nd及びTbから選ばれる1種以上の希土類元素、CはAl及びGaから選ばれる1種以上の元素であり、x,y及びzは0.002<y≦0.2、0<z≦2/3、及びx+y+z=1を満たす正数である。)
で示される組成のガーネット相を含有し、複数の一次粒子で構成された球形の多結晶体二次粒子であり、該二次粒子の平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする蛍光体粒子。
【請求項2】
上記一次粒子の粒子径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1記載の蛍光体粒子。

【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−153904(P2012−153904A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116619(P2012−116619)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2011−285300(P2011−285300)の分割
【原出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】