説明

蛍光体薄膜

【課題】スパッタリング法により成膜された場合においても、実用に適した強い蛍光を発するZnS:Mn系の無機蛍光体薄膜を提供すること。
【解決手段】Mnを付活剤として母体材料に添加してなる蛍光体薄膜において、前記母体材料がZnSとZnOの二元系で構成されていることを特徴とする無機蛍光体薄膜であり、好ましくはその成分がZn:40 at%〜60 at%、O:2 at%〜20at%、Mn:0.1at%〜5.0at%、残りの成分がSと不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光体薄膜に関し、フラットディスプレイや照明、蛍光体センサーなどの蛍光体素子として利用される蛍光体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り無機蛍光体は、その発光層が無機材料で構成され、紫外線、電子線、電圧印加によって発光する性質を有するもので、金属を付活剤(発光粒子)としてこれを硫化亜鉛(ZnS)などの母体材料に添加したものは無機蛍光体の代表的な材料である。この無機蛍光体を大別すると、発光粒子をバインダーに分散させた数十μ以上の発光層を用いる分散型と数μ以下の薄膜で形成された発光層を用いる薄膜型がある。
【0003】
また、ZnSにMnを添加した薄膜型の無機蛍光体は、分散型に比べて、高電界で安定し発光効率が高いため無機EL(エレクトロルミネッセンス)などの素子として使われている。
【0004】
しかも、ディスプレイや薄型照明、バックライト分野では、大面積で均一な特性を有する発光素子求められているため、これらの点についても分散型よりも有利な薄膜型の無機蛍光体が注目されている。
【0005】
この薄膜型無機蛍光体すなわち無機蛍光体薄膜(以下、蛍光体薄膜又は薄膜と略称することもある。)としては、母体材料であるZnSに付活剤(発光粒子)としてMnの金属を添加するものが古くから知られており、スパッタリング法などその薄膜の作製を含めて各種の技術が提案されている(特許文献1〜5参照)。
【0006】
この、ZnS-Mn系の蛍光体薄膜では明るい橙色の蛍光を示すが、その薄膜の作製方法により蛍光レベルが異なってくる。
【0007】
すなわち、熱蒸着法や電子ビーム蒸着法で作成した場合に明るい蛍光を示すが、スパッタリング法で作成した場合には蛍光が弱いという問題がある。そして、上記各種提案技術によってもこの問題を十分に解決できない状態にある。
【0008】
このように熱蒸着法や電子ビーム蒸着法などの成膜方法によれば発光強度の高い蛍光体薄膜が得られるものの、工業的に大面積且つ均一に成膜する場合には、スパッタリング法がすこぶる適しており、従って、スパッタリング法によって成膜した蛍光体の発光強度を向上させることが可能となれば、品質の高い大面積の蛍光体としての用途を広げることができ、工業的に極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭49-48835号公報
【特許文献2】特開昭63-202889号公報
【特許文献3】特開平2-114490号公報
【特許文献4】特開平10-162957号公報
【特許文献5】特開2003-20476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来の技術背景とその問題に鑑みてなされたものであって、スパッタリング法により成膜された場合においても、実用に適した強い蛍光を発するZnS:Mn系の無機蛍光体薄膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために完成された本発明は以下の通りである。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明は、Mnを付活剤として母体材料に添加してなる蛍光体薄膜において、前記母体材料がZnSとZnOとで構成されていることを特徴とする無機蛍光体薄膜である。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、前記蛍光体薄膜がZn:40 at%〜60 at%、O:2 at%〜20at%、Mn:0.1at%〜5.0at%、残りの成分がSと不可避的不純物からなることを特徴とするものである。
【0014】
そして、請求項3に係る本発明は、スパッタリング法で成膜されてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の無機蛍光体薄膜である。
【0015】
また、請求項4に係る本発明は、平均膜厚が10nm〜5μmである請求項1〜3のいずれかに記載の無機蛍光体薄膜である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、その成膜方法としてスパッタリング法を採用した場合においても強い蛍光を示す無機蛍光体薄膜を提供することで、各種ディスプレーや照明用などで要求が高まっている均質なの大面積の蛍光体薄膜を効率よく提供することができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のZnS-ZnO:Mn系における欠陥の発生状態を示す薄膜の模式平面拡大図。
【図2】従来のZnS:Mn系おける欠陥の発生状態を示す薄膜の模式平面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(課題解決の原理)
以下、本発明の内容について詳述するが、先ず本発明の前記課題の解決原理に関して本発明を完成させるに至った経緯を含めて説明する。
【0019】
スパッタリング法による成膜においては、通常Arの低ガス圧雰囲気中でプラズマ放電を発生させ、イオン化したArが成膜材料であるスパッタリングターゲットから各種原子をたたきだし、対極に設置した基板上にスパッタリングターゲットと同じ成分の原子が堆積して、薄膜が形成される。ZnS-Mn系の場合は、母体材料となるZnS粉末にMnを少量添加配合して焼結したスパッタリングターゲットが用いられる。このターゲットによるスパッタリングを行うと高エネルギーの中性Arが反跳し、基板に到達する。この反跳したArの衝突ダメージによりZnSに多数の欠陥が生じ、蛍光体の特性が悪化し、結果として前述のように所望の発光強度が得られないという重大な問題が発生する。
【0020】
本発明はこうしたスパッタリング成膜時のZnSの欠陥発生を抑制、防止すべく種々検討、実験を重ねた結果ZnSにZnOを適量添加して母体材料の組成を二元系とすることにより、ZnSの欠陥が消失し、蛍光体薄膜の発光強度を著しく高めることができる事実を究明した。
【0021】
この欠陥発生のメカニズムについて、図1及び図2に示した薄膜の模式平面拡大図により解説する。
【0022】
図2はZnSのみを母体材料とした場合で、スパッタリングによりこのZnSの全域に分散した多数の欠陥が発生し、付活剤としてのMnの近傍に存在することになり、これらの欠陥によりMnの殻内励起が消失または阻害され、この結果、薄膜は発光しないかまたはその発光強度が低下することになる。
【0023】
一方、本発明によるZnSにZnOを添加した二元系の母体材料とした場合は、同スパッタリング時に図1の通り、ZnOに欠陥が集中する現象が起き、このため、母体材料の主体であるZnSにおいては欠陥が現われなくなり、この結果、Mnの殻内励起が十分に行なわれて薄膜が発光すると共にその発光強度を図2の従来のものに比べて顕著に高めることができる。
【0024】
こうした現象は、ZnOがZnSより蒸発し易く、スパッタリング時の母体材料が受けるダメージが相対的にZnOに強く現れ、これにより、ZnOに欠陥が集中するものと推定される。
【0025】
(実施形態)
以下、本発明について、その実施形態に基づき、より具体的に説明する。
【0026】
本発明に係る蛍光体は、Mnを付活剤として母体材料に添加してなる蛍光体薄膜において、前記母体材料がZnSとZnOとで構成されていることをその基本的特徴とする。
【0027】
そして、本発明に係る蛍光体薄膜は、Zn:40at%〜60at%、O:2at%〜20at%、Mn: 0.1at%〜5.0at%、残りの成分ががSと不可避的不純物からなる組成(成分範囲)とすることが好ましいものである。なお、ここでat%は原子%である。
【0028】
この成分範囲を満足する蛍光体薄膜は、スパッタリング法による成膜の際に、薄膜中に生じる多数の欠陥をZnOに特に集中させることができ、これにより発光強度の高い均質な薄膜の作成が可能となる。
【0029】
以下、各成分の範囲につきその規定理由を述べる。
【0030】
ZnはZnS-ZnOの二元系母体材料を構成する主成分であり、膜中のほぼ半数の成分がZnとなる。Znが40at%未満では残部のSが多くなるため成膜が困難となり、反対にZnが60at%を超えると残部のSが不足するためZnの金属成分が析出し、ZnSの構造が崩れ、発光強度が低下する。従って、Znの含有量は40at%〜60at%とする。
【0031】
次に、O(酸素)はZnOを形成して欠陥を制御する重要な働きをする成分であり、このOが2at%未満ではMnSに欠陥が生じ、十分な吐発光強度が得られなくなり、逆にOが20at%を超えるとZnSが減少するためやはり発光強度が低下することになる。従って、Oの含有量は2at%〜20at%とする。
【0032】
Mnは橙色の蛍光を与える付活剤であり、このMnが0.1at%未満では発光強度が低すぎて蛍光は観察されず、また. 0.1at%を超える場合も発光強度は低下する。従ってMnの含有量は0.1at%〜5.0at%とする。
【0033】
そして、これらZn、O、Mn以外の残りの成分は、Sと不可避な不純物である。Sは薄膜の主体成分であるZnSを形成するのに必須である。Znの成分規定のところで述べたように、このSが少なすぎるとZnの金属成分が析出し、ZnS構造がくずれ、蛍光が低下するし、Sが多すぎる場合は成膜が困難となる。
【0034】
このような成分範囲の蛍光体薄膜をスパッタリング法により作成する際には、発明者らの実験によれば、ZnS:65質量〜95質量%、ZnO:5質量%〜35質量%、Mn:0.05質量%〜2.00質量%、残りの成分が不可避的不純物からなるスパッタリングターゲットを用いると良いことが分かった。特にスパッタリングターゲットにおいてはスパッタリングの際にZnS及びZnOがかなり蒸発して、薄膜から抜ける現象が生じるためこれらを多めに配合した上記と成分とする必要がある。
【0035】
また、本発明に係るZnS-ZnO:Mn系の無機蛍光体薄膜の平均膜厚は、10nm〜5μm以下とすることが望ましい。膜厚が10nm以下の場合、膜が不連続となり導電性が出現しない。5μm以上の場は、膜表面に割れが発生して均一膜の成膜ができなくなる。
【0036】
(実施例)
本発明についてその優れた効果を実証するため、以下、実施例を挙げて説明する。
【0037】
ZnS粉末とZnO粉末およびMnを所定量混合したスパッタリングターゲットを焼結法によって作成した。次に、RFマグネトロンスパッタ法によってZnS−ZnO:Mn膜およびZnS:Mn膜をコーニング社製ガラス基板#1737に成膜した。
【0038】
スパッタリングガスとしてArを使用し、ガス圧は3mTorrとして、2W/cmの印加電力によるRF放電によって、膜厚500nmの蛍光体薄膜を成膜した。成膜した基板を真空下で、400℃30分熱処理を行った。
【0039】
蛍光体薄膜の組成はEPMA法により測定した。また、ブラックライト(最大強度波長352nm)を蛍光体薄膜に照射し、蛍光の有無を確認した。蛍光の相対的強度はPL評価装置(フォトルミネッセンス)で測定した。このとき、励起光源としてHeCdレーザーによる325nm波長の紫外線を用い、検出器はフォトマルR1387を用い、グレーティング数1200本の分光器SPEX1702を用いて室温での蛍光波長強度を測定した。
【0040】
表1にスパッタリング成膜に用いたターゲットの成分(質量%)、これによって得られた蛍光体薄膜の成分(原子%)、この蛍光体薄膜のブラックライ照射試験に基づく蛍光の状態及び上記測定によるPL最大強度に示す。
【0041】
同表1の結果から、薄膜が本発明の成分規定の範囲内にあるZnS−ZnO:Mn系蛍光体薄膜を成膜した場合は、強い橙色の蛍光を確認したが、同規定範囲外の場合は何れも蛍光が確認できないか若しくは、弱い蛍光しか確認できないことが分かり、従って、本発明によると発光強度の高い優れた蛍光体薄膜がスパッタリング法によっても容易に作成できることが明らかである。
【0042】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを付活剤として母体材料に添加してなる蛍光体薄膜において、前記母体材料がZnSとZnOの二元系で構成されていることを特徴とする無機蛍光体薄膜。
【請求項2】
Zn:40〜60 at%、O:2 at%〜20at%、Mn:0.1at%〜5.0at%、残りの成分がSと微量の不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載の無機蛍光体薄膜。
【請求項3】
スパッタリング法で成膜されてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の無機蛍光体薄膜。
【請求項4】
平均膜厚が10nm〜5μmである請求項1〜3のいずれかに記載の無機蛍光体薄膜。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate