説明

蛍光体

【課題】可視光領域(波長約450nm〜約850nm)全体にわたって良好な発光を示す蛍光体を提供することを目的とする。
【解決手段】添加元素として、Sn(スズ)と、Ce(セリウム)および/またはGd(ガドリニウム)とを含み、SrGa(ストロンチウムチオガレート)を母体とする蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体に関し、特に、可視光領域の広い波長範囲にわたって発光を示す蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色蛍光体や連続波長可変固体レーザなどへの適用のため、可視光領域の広い波長範囲にわたって発光を示す蛍光体材料の開発が進められている。
【0003】
古くは、アルカリ土類チオガレート化合物の一つであるCaGa(カルシウムチオガレート)を母材とし、これに不純物としてCe(セリウム)を添加した材料において、色純度の良い青色発光を示すことが報告されている(特許文献1、2)。また、最近では、CaGaを母材とし、これに不純物としてSn(スズ)を添加した材料は、青緑域から近赤外までの広いスペクトル領域において、発光を示すことが報告されている(特許文献3)。また、SrGa(ストロンチウムチオガレート)に、不純物としてSn(スズ)を添加した材料は、青緑領域から近赤外までの広いスペクトル領域にわたって、発光を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−199675号公報
【特許文献2】特開平10−199676号公報
【特許文献3】特開2005−272624号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】永田、岡本、田中、堺、田巻:春季第56回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、31a−P8−3、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに報告されている蛍光体は、波長300nm〜400nmの範囲の励起エネルギーの照射によって、特定の可視光領域で連続的な発光を示すものの、その発光領域は、限定されている。例えば、特許文献3に記載の蛍光体(CaGa:Sn)では、発光領域は、約550nm〜約800nmに限られている。また、非特許文献1に記載の蛍光体(SrGa:Sn)においても、発光領域は、約550nm〜約800nmに限られている。
【0007】
すなわち、これまで、波長300nm〜400nmの範囲の励起エネルギーの照射によって、波長450nm〜850nm程度の可視光領域全体にわたって良好な発光を示し、特に、緑色領域(波長約530nm付近)に強い発光を示す蛍光体は、報告されていない。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、可視光領域全体にわたって良好な発光を示し、特に、緑色領域(波長約530nm付近)において、良好な発光を示す蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、添加元素として、Snと、Ceおよび/またはGd(ガドリニウム)とを含み、SrGaを母体とする蛍光体が提供される。
【0010】
本発明による蛍光体は、特に、波長300nm〜400nmの範囲の励起光による照射により、波長500nm〜550nmの範囲の領域に発光ピークを示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、可視光領域全体にわたって良好な発光を示し、特に、緑色領域(波長約530nm付近)において、良好な発光を示す蛍光体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】励起光の波長が254nmの場合の、実施例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図2】励起光の波長が300nmの場合の、実施例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図3】励起光の波長が340nmの場合の、実施例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図4】励起光の波長が365nmの場合の、実施例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図5】励起光の波長が400nmの場合の、実施例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図6】励起光の波長が254nmの場合の、比較例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図7】励起光の波長が300nmの場合の、比較例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図8】励起光の波長が340nmの場合の、比較例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図9】励起光の波長が365nmの場合の、比較例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【図10】励起光の波長が400nmの場合の、比較例1に係るサンプルの発光スペクトルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、より詳しく説明する。
【0014】
前述のように、これまでに報告されている蛍光体は、波長300nm〜400nmの範囲の励起エネルギーの照射によって、特定の可視光領域にわたって発光を示すものの、その発光領域は、限定されている。例えば、特許文献3に記載の蛍光体(CaGa:Sn)では、発光領域は、約550nm〜約800nmに限られている。また、非特許文献1に記載の蛍光体(SrGa:Sn)においても、発光領域は、約550nm〜約800nmに限られている。
【0015】
従って、これまでに報告されている蛍光体では、波長約500nm〜550nmの範囲(緑色領域)の発光が不十分であり、良好な緑色の発光を得ることはできないという問題がある。
【0016】
すなわち、これまで、波長300nm〜400nmの範囲の励起エネルギーの照射によって、波長450nm〜850nm程度の可視光領域全体にわたって良好な発光を示し、特に、緑色領域(波長約530nm付近)に強い発光を示す蛍光体は、報告されていない。
【0017】
本願発明者らは、このような背景の下、緑色領域においても良好な発光を示し、すなわち、波長450nm〜850nm程度の可視光領域全体にわたって良好な発光を示す蛍光体を得るべく、鋭意研究開発を進めてきた。そして、母体材料として、SrGaを選定するとともに、添加元素として、Snと、Ceおよび/またはGdとを選定することにより、緑色領域においても良好な発光を示す蛍光体が得られることを見出した。
【0018】
すなわち、本願発明は、添加元素として、Snと、Ceおよび/またはGdとを含み、SrGaを母体とする蛍光体に関する。
【0019】
なお、このような材料の組み合わせによって、緑色領域に良好な発光特性が得られる理由は、今のところ不明である。しかしながら、例えば、次のような理由が想定される。一般に、SrGa母体において、Sr(ストロンチウム)は、特性の異なるいくつかのサイト(一例として、AサイトおよびBサイトとする)を占めていると考えられる。また、SrGaが不純物としてSnを有する場合、このSnは、Srと置換され、SrのAサイトおよびBサイトに入る。しかしながら、母体中に、第2の不純物として、さらにCeまたはGdが含まれる場合、Snが入るSrのサイトに変化が生じることが予想される。すなわち、CeおよびGdがSrのいくつかのサイトのうち、特定のサイト(例えばAサイト)に優先配置されると仮定すると、Snは、CeまたはGdのため、SrのAサイトに入ることが難しくなり、Bサイトに、より多く入るようになる。従って、SnがBサイトに入った材料構造が、緑色領域の発光にとって、より有意な構造状態である場合には、CeまたはGdの添加により、緑色領域に良好な発光が生じることが考えられる。
【0020】
ただし、この考察は、一例であって、その他の機構により、緑色領域に良好な発光が生じている可能性もある。すなわち、本発明は、上記機構によって発光が得られる蛍光体に限られるものではなく、本発明は、特許請求の範囲の記載によってのみ限定されることに留意する必要がある。
【0021】
本発明において、不純物として添加される不純物成分、すなわちSn、Ce、Gdのそれぞれの添加量は、蛍光体全体に対するモル濃度の下限が0.1mol%以上であり、上限が1mol%以下であることが好ましい。
【0022】
また、これらの不純物成分の総添加量は、蛍光体全体に対するモル濃度の下限が0.1mol%以上であり、上限が1mol%以下であることが好ましい。これらの不純物成分の総モル濃度が0.1mol%未満の場合、可視光領域全体にわたっての良好な発光が得られなくなる場合があり得る。また、これらの不純物成分の総モル濃度が1mol%を超えると、可視光領域全体にわたって、発光特性のバランスを調整することが難しくなるおそれがある。ただし、このような問題が解消される場合、これらの不純物成分の添加量は、特に限られない。
【0023】
なお、蛍光体がSrGaを母体とするものであることは、X線回折結果から容易に確認することができる。また、蛍光体が不純物として、Sn、Ceおよび/またはGdを含むかどうかについての判断、および蛍光体に含まれるこれらの濃度は、例えば、粉末を溶解させた溶液を化学分析するなど、従来の方法により、容易に確認することができる。
【0024】
(本発明による蛍光体の製造方法)
次に、本発明による蛍光体の製造方法の一例について、説明する。なお、以下に示す方法以外の多くの方法で、本発明による蛍光体を製造することも可能であることは、当業者には明らかである。
【0025】
以下に示す本発明による蛍光体の製造方法は、原料成分を混合して、混合体を調製ステップ(ステップS110)と、得られた混合体を焼結させるステップ(ステップS110)とを有する。以下、不純物としてSnおよびCeを含む本発明の蛍光体を製造する場合を例に、各ステップについて、詳しく説明する。
【0026】
(ステップS110)
まず最初に、各種原料が準備される。原料の形態は、特に限られないが、粉末状であることが好ましい。粉末状原料を使用する場合、原料化合物としては、例えば、硫化ストロンチウム、硫化ガリウム、硫化スズ、および硫化セリウムが使用される。あるいは、炭酸塩(炭酸ストロンチウム、炭酸ガリウム、炭酸スズ、炭酸セリウム)、酸化物(酸化ストロンチウム、酸化ガリウム、酸化スズ、酸化セリウム)などを出発化合物としても良い。
【0027】
次に、各化合物原料粉末を所定量秤量し、これらが混合される。これにより混合体が得られる。
【0028】
(ステップS120)
次に、得られた混合体は、硫化水素を含む雰囲気で熱処理される。
【0029】
雰囲気は、硫化水素を含む環境である限り、特に限られない。雰囲気には、例えば、硫化水素濃度が0.1〜10vol%程度に希釈されたアルゴンガス雰囲気等が使用される。
【0030】
熱処理温度は、選定した原料化合物の種類、および時間等によって異なるが、例えば、900℃〜1100℃の範囲である。また、熱処理時間も、他の条件によって変化するが、例えば、1時間〜48時間の範囲等である。
【0031】
なお、上記例では、前述の原材料化合物を一度に熱処理して、本発明による蛍光体を得る方法について示した。しかしながら、この他、2段階熱処理により、本発明による蛍光体を製造する方法もある。この場合、第1段階の熱処理において、ストロンチウム化合物とガリウム化合物の混合物を硫化処理して、SrGa母体材料が生成される。その後、この母体材料と添加元素とを混合して、第2段階の熱処理を行うことにより、本発明による蛍光体が形成される。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0033】
(実施例1)
まず、硫化ストロンチウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99%)0.3368gと、硫化ガリウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.99%)0.6632gと、硫化スズ粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.9%)2.1mgと、硫化セリウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.9%)3.2mgとを、十分に混合し、混合粉末を得た。
【0034】
次に、この混合粉末をアルミナボートに入れ、このアルミナボートを熱処理炉内に設置した。炉内をAr(アルゴン)+5vol%HS(硫化水素)雰囲気とし、アルミナボートを1100℃で1時間保持した。その後、アルミナボートを室温まで炉冷してから、炉から取り出した。
【0035】
アルミナボートから焼結体を取り出し、この焼結体を乳鉢を用いて粉砕し、実施例1に係るサンプルを得た(Sn量:0.5mol%、Ce量:0.3mol%))。
【0036】
このサンプルのX線回折の結果、この粉末は、SrGaであることが確認された。
【0037】
(実施例2)
まず、硫化ストロンチウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99%)0.3368gと、硫化ガリウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.99%)0.6632gとを、十分に混合し、混合粉末を得た。
【0038】
次に、この混合粉末をアルミナボートに入れ、このアルミナボートを熱処理炉内に設置した。炉内をAr+5vol%HS雰囲気とし、アルミナボートを1100℃で1時間保持した。その後、アルミナボートを室温まで炉冷してから、炉から取り出した。
【0039】
アルミナボートから焼結体(一次焼結体)を取り出し、この一次焼結体を乳鉢を用いて粉砕し、粉末を得た。
【0040】
次に、この一次焼結体の粉末1gと、硫化スズ粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.9%)2.12mgと、硫化セリウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.9%)5.3mgとを、十分に混合し、混合粉末を得た。
【0041】
次に、この混合粉末をアルミナボートに入れ、このアルミナボートを熱処理炉内に設置した。炉内をAr+5vol%HS雰囲気とし、アルミナボートを1000℃で1時間保持した。その後、アルミナボートを室温まで炉冷してから、炉から取り出した。
【0042】
アルミナボートから焼結体(二次焼結体)を取り出し、この二次焼結体を乳鉢を用いて粉砕し、実施例2に係るサンプルを得た(Sn量:0.5mol%、Ce量:0.3mol%))。
【0043】
このサンプルのX線回折の結果、この粉末は、SrGaであることが確認された。
【0044】
(比較例1)
まず、硫化ストロンチウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99%)0.3368gと、硫化ガリウム粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.99%)0.6632gと、硫化スズ粉末(株式会社高純度化学研究所製、平均粒径1ミクロン程度、純度99.9%)2.1mgとを、十分に混合し、混合粉末を得た。
【0045】
次に、この混合粉末をアルミナボートに入れ、このアルミナボートを熱処理炉内に設置した。炉内をAr+5vol%HS雰囲気とし、アルミナボートを1100℃で1時間保持した。その後、アルミナボートを室温まで炉冷してから、炉から取り出した。
【0046】
アルミナボートから焼結体を取り出し、この焼結体を乳鉢を用いて粉砕し、比較例1に係るサンプルを得た(Sn量:0.5mol%)。
【0047】
このサンプルのX線回折の結果、この粉末は、SrGaであることが確認された。
【0048】
(評価試験)
前述の方法で得られたそれぞれのサンプルを用いて、発光特性の評価試験を行った。評価試験は、以下のようにして実施した。
【0049】
各サンプルに、所定の波長を有する励起光を照射し、得られる発光特性を評価した。励起光の波長としては、254nm、300nm、340nm、365nm、および400nmの、5種類の値を採用した。各波長を有する励起光は、分光蛍光光度計(日立ハイテクF−7000)を用いて、キセノンランプ源からの放射光を分光することにより調製した。
【0050】
また、サンプルから得られた発光特性は、光電子増倍管で検出して、発光スペクトルトルとして出力させた。
【0051】
図1〜図5には、実施例1に係るサンプルに、各波長の励起光を照射した際に得られた結果を示す。図1は、励起光の波長が254nmの場合の結果であり、図2は、励起光の波長が300nmの場合、図3は、励起光の波長が340nmの場合、図4は、励起光の波長が365nmの場合、図5は、励起光の波長が400nmの場合の結果である。
【0052】
また、図6〜図10には、比較例1に係るサンプルにおける測定結果を示す。図6は、励起光の波長が254nmの場合の結果であり、図7は、励起光の波長が300nmの場合、図8は、励起光の波長が340nmの場合、図9は、励起光の波長が365nmの場合、図10は、励起光の波長が400nmの場合の結果である。
【0053】
なお、図には示さないが、実施例2の場合も、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。
【0054】
図1と図6、図2と図7、図3と図8、図4と図9、および図5と図10の比較から、実施例1に係るサンプルでは、励起光の波長が300nm〜365nmの範囲において、比較例1に係るサンプルとは、スペクトル特性が大きく異なることがわかる。すなわち、比較例1に係るサンプルでは、励起光のこれらの波長範囲では、波長約500nm〜550nmの範囲(緑色領域)において、あまり良好な発光は、認められない。これに対して、実施例1に係るサンプルの場合、波長が300nm〜365nmの範囲の励起光では、発光波長が約530nmの緑色領域に、大きなピークが得られており、可視光領域全体にわたって、良好な発光が生じていることがわかる。
【0055】
このように、本発明による蛍光体では、特に、波長約500nm〜550nmの緑色領域に良好な発光特性を有し、可視光領域全体にわたって、連続的な発光が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、白色蛍光体、および/または波長可変レーザ等に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加元素として、Sn(錫)と、Ce(セリウム)および/またはGd(ガドリニウム)とを含み、SrGa(ストロンチウムチオガレート)を母体とする蛍光体。
【請求項2】
波長300nm以上365nm以下の範囲の励起光による照射により、波長500nm〜550nmの範囲の領域に、発光ピークを示すことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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