説明

蛍光材料および蛍光材料の製造方法

【課題】不要となり回収された無アルカリガラスを資源として有効利用可能な用途を提供し、さらに、強い発光強度を示す蛍光材料を提供する。不要となり回収された無アルカリガラスを原料として用い、強い発光強度を有する蛍光材料の製造方法を提供する。
【解決手段】無アルカリガラスと、希土類原子とからなる蛍光材料であって、好ましくは、無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子0.01〜5重量%とからなる蛍光材料、ならびに、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、混合し粉砕することを特徴とする蛍光材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、蛍光材料に関し、より特定的には、無アルカリガラスを原料とした蛍光材料に関する。また、本発明は上記蛍光材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた液晶テレビなどの家電製品、パソコン、携帯端末などの製品が急速に普及している。ここで、上述した「液晶パネル」とは、貼り合せた2枚のガラス基板の内側に液晶材料を注入、封入し、各ガラス基板の外側に偏光板(樹脂)を貼り付けたものを指す。液晶パネルを用いた製品の普及に伴い、液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)の数量も急激に増加しているが、環境との共存が期待される循環型社会の形成の中、廃液晶パネルについてもリサイクルし資源を有効に利用することが要望されている。
【0003】
現在、家電製品や情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルは、廃棄物の量としては少ないこともあって、廃棄物の処理施設にて製品ごとに破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストと共に、埋め立て処理あるいは焼却処理されている。
【0004】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネル、ならびに、家電製品、情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置、液晶パネルの処理方法として、特開2000−84531号公報(特許文献1)には、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し珪石の代替材料として処理する方法が開示されており、一部で実施されている。この方法では、液晶パネル中のガラス成分は、スラグ中へ入り込む。
【0005】
また、特開2004−224686号公報(特許文献2)には、廃ガラスから高温溶融および高温の酸処理を経て作製した多孔質ガラスに希土類原子を吸着させた後、大気中または還元雰囲気中で焼成し、発光ガラスを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2004−224686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、廃液晶パネルも、数・量ともに急激に増大すると予想される。したがって、液晶パネルの重量の大半を占めるガラス(液晶パネルガラス)についても、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、再生利用することが好ましい。しかしながら特許文献1に開示された方法では、セメント材料として再利用することを意図しているため、液晶パネルガラスはスラグとなり、ガラス自体として再生利用することはできない。
【0008】
資源有効利用の観点からは、回収された液晶パネルガラスを液晶パネルガラス自体として再びマテリアルリサイクルすることが望ましい。しかしながら、液晶パネルガラス表面に付着している不純物、ガラス組成の異なる数多くの品種が存在することなどの理由で、光学的特性、熱特性の厳しい仕様が求められる液晶パネルガラスにリサイクルすることは、技術的に確立されていない。そのため、回収した液晶パネルガラスの、液晶パネルガラス以外の高付加価値製品としての用途開発が課題となっている。
【0009】
なお、液晶パネルガラスには無アルカリガラスと呼ばれるガラスが通常用いられている。無アルカリガラスは、液晶パネルの製造工程に適合するようにつくられた特殊なガラスであり、その歪点は650℃以上である。これに対し、びんガラス、建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなど幅広くガラス製品に用いられているソーダライムガラスの歪点は、550℃以下である。このように、100℃以上歪点が異なるため、一般的にガラス製品に使用されるソーダライムガラスの溶融加工設備で、再生利用のための無アルカリガラスの溶融加工を行うことは、加熱設備の性能、設備全般の耐熱性などの点で非常に困難である。また溶融温度の高い無アルカリガラスを、通常はソーダライムガラスを原料として使用する建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなどの汎用的な製品へ使用することは、エネルギー消費の観点からも不利となる。このように、通常のソーダライムガラス製品の原料としての用途に用いる方法は技術的に確立されていないのが現状である。このため、不要となった液晶パネルガラスの用途として、現状の製造工程の温度と比較し加工温度が上昇しない用途に用いる再資源化方法が望まれている。
【0010】
上述した特許文献2に記載された方法は、ガラス廃棄物に所定の割合の化合物を添加し高温溶融した後、高温の酸で処理を行うことにより、多孔質ガラスを作製する。さらに、作製した多孔質ガラスに希土類原子を吸着させ、大気中または還元雰囲気中で焼成することにより発光ガラスを得る方法である。この方法は、高温溶融の工程を経るため、加工温度の高い無アルカリガラスの再資源化方法としては、溶融温度が高く、多大なエネルギーを消費するといった課題がある。また、高温での酸処理、焼成工程を経るため処理が多段となり、複雑である。そのため、エネルギーコストおよび設備コストが高くなり、得られた発光ガラスは高価となる。また、この方法で作製した多孔質ガラスは、成分としてシリカのみを含むため、希土類イオンの溶解濃度に限度があるため、限られた発光強度しか得られない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは不要となり回収された無アルカリガラスを資源として有効利用可能な用途を提供し、さらに、強い発光強度を示す蛍光材料を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の課題は、不要となり回収された無アルカリガラスを原料として用い、強い発光強度を有する蛍光材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の蛍光材料は、無アルカリガラスと、希土類原子とからなることを特徴とする。
本発明の蛍光材料は、無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子0.01〜5重量%とからなることが、好ましい。
【0014】
本発明の蛍光材料において、無アルカリガラスが液晶パネルガラスから得られたものであることが、好ましい。
【0015】
本発明の蛍光材料において、無アルカリガラスは、SiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有するものであることが、好ましい。
【0016】
本発明における希土類原子は、Eu、Tb、Ce、Sm、Tm、Pr、Erから選ばれる1以上の原子を含むことが、好ましい。
【0017】
本発明はまた、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、混合し粉砕することを特徴とする蛍光材料の製造方法についても提供する。
【0018】
本発明の蛍光材料の製造方法において、無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子を含む化合物0.01〜5重量%とを、混合し粉砕することが好ましい。
【0019】
本発明の蛍光材料の製造方法において、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、メカニカルミリング処理することが好ましい。
【0020】
本発明の蛍光材料の製造方法において、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物と、ボールとを入れた容器を回転させることが好ましい。
【0021】
本発明の蛍光材料の製造方法における無アルカリガラスは、液晶パネルガラスから得られたものであることが、好ましい。
【0022】
本発明の蛍光材料の製造方法において、前記希土類原子を含む化合物は、希土類原子として、Eu、Tb、Ce、Sm、Tm、Pr、Erから選ばれる1以上の原子を含むことが、好ましい。
【0023】
本発明の蛍光材料の製造方法において、前記希土類原子を含む化合物は、希土類原子の酸化物、塩化物、水酸化物、窒化物、硫化物から選ばれる1以上の化合物を含むことが、好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、不要となった液晶パネルなどから回収された無アルカリガラスを高付加価値な蛍光材料へと有効に利用することが可能となる。また、強い発光強度が得られる蛍光材料を提供することが可能となる。
【0025】
また本発明は、蛍光材料の製造方法をも提供することができる。このような本発明の方法によれば、不要となった液晶パネルから回収された無アルカリガラスを蛍光材料へと有効に利用することが可能となる。この方法は高温溶融などを施すことなく、無アルカリガラスを用いた蛍光材料を製造できるため、低環境負荷、かつ、低コストな製造方法を提供する。また、簡単な処理で蛍光材料を製造することが可能となり、安価な蛍光材料が得られる。さらに、この方法によれば、発光中心となる希土類原子をガラス中に高濃度で固溶できるため、高性能な蛍光材料を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の蛍光材料に好適に用いられる無アルカリガラスを備える液晶パネル1を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフである。
【図4】実施例3で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)蛍光材料
本発明の蛍光材料は、無アルカリガラスと、希土類原子とからなることを特徴とする。本発明において用いられる無アルカリガラスは、資源として有効利用が望まれる液晶パネルガラスを、高付加価値な蛍光材料の原料として利用できることから、液晶パネルガラスから分離して得られたものであることが、好ましい。本発明者らは、液晶パネルガラスから分離して得られた無アルカリガラスが、蛍光材料として利用でき、これを原料として製造した蛍光材料は、PDPなどの表示装置やLEDなどの照明器具に用いることができる特性を持つことを見出した。なお、本発明においては、無アルカリガラスであれば、必ずしも液晶パネルガラスから分離し、得たものでなくてもよい。
【0028】
本発明の蛍光材料は、無アルカリガラス(好ましくは液晶パネルから分離して得た無アルカリガラス)95〜99.99重量%と、希土類原子0.01〜5重量%とからなる。無アルカリガラスが95重量%未満である場合、すなわち、希土類原子が5重量%以上である場合には、無アルカリガラスに対し希土類原子の割合が相対的に増加し、濃度消光が生じ、蛍光材料としての発光効率が低くなる。また、液晶パネルガラスの資源有効利用の観点から、無アルカリガラスの割合は多いほどよいが、無アルカリガラス粉末が99.99重量%を超える(上記希土類原子が0.01重量%未満である)場合には、得られた蛍光材料に含まれる希土類原子が相対的に少なくなり、充分な発光強度が得られない。
【0029】
蛍光材料は、エネルギーの高い紫外線を励起源として用い、可視光領域の強い発光を発生するものである。そのため、高エネルギーの紫外線を効率よく発光中心に導くための、高性能な母体材料が望まれている。また、発光効率の劣化を防ぐため、熱的安定性、化学的耐久性、機械強度、光学特性の優れた母体材料が望まれている。さらに、母体材料は発光中心である希土類原子などを高濃度で固溶することが望まれている。
【0030】
本発明の蛍光材料は、後述の製造方法に示すように、メカニカルミリング処理を施すことにより、無アルカリガラス母体材料と希土類原子が反応し、無アルカリガラス中に希土類原子が固溶したものである。
【0031】
また、後述のように、本発明の蛍光材料は高温溶融することなく、メカニカルミリング処理することにより製造した蛍光材料であり、広い組成範囲でガラス状態を得ることができる。したがって、蛍光体を固溶したガラス状態の蛍光材料であり、上述のような、高効率、熱安定性、化学的耐久性、機械的強度を備える。
【0032】
図1は、本発明の蛍光材料に好適に用いられる無アルカリガラスを備える液晶パネル1を模式的に示す断面図である。図1に示す例の液晶テレビから取り出された液晶パネル1は、たとえば、対向配置された厚さ0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚さ4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、厚さ0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。本発明の蛍光材料は、このような液晶パネルから分離して得られ無アルカリガラスを用いる。
【0033】
また、本発明に用いられる無アルカリガラスは、SiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%という組成のものであることが好ましい。これは、元来、液晶パネルガラスとしての光学的性質、熱的性質、電気的性質を満足するための組成であるが、本発明の蛍光材料において、希土類原子との反応が促進され、強い発光強度が得られるという効果がある。
【0034】
本発明に好適に用いられる無アルカリガラスはSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%という組成のものであり、元来液晶パネル用のガラスであるため、広範囲の波長の光を透過する。また、液晶パネル製造プロセスに適用できるように、熱的安定性、化学的耐久性、機械強度に優れているといった性質を有する。さらに、SiO2のみからなる石英ガラスと比較し、Al23、B23、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaOなどが含まれているため、SiO2のみに比べ、希土類原子と置換しやすいAl23、CaOなどを含み、希土類原子を固溶しやすいといった性質がある。
【0035】
また、本発明の蛍光材料に係る希土類原子は、Eu(ユーロピウム)、Tb(テルビウム)、Ce(セリウム)、Sm(サマリウム)、Tm(ツリウム)、Pr(プラセオジウム)、Er(エルビウム)から選ばれる1以上の原子を含むことができる。Eu、Tb、Ceは、紫外線を励起光とした場合、強い発光を示す。Euは、ガラス中でEu3+(3価ユーロピウム)イオンとなり、赤色の蛍光を発生する。Tbは、ガラス中でTb3+(3価テルビウム)イオンとなり、緑色の蛍光を発生する。Ceは、ガラス中でCe3+(3価セリウム)イオンとなり、青色の蛍光を発生する。これらから、1以上の原子を原料として選び、蛍光材料とすることで、高性能で、あらゆる可視領域の波長の蛍光を得ることができる。
【0036】
(2)蛍光材料の製造方法
本発明は、無アルカリガラスを用いた蛍光材料の製造方法についても提供する。本発明の無アルカリガラスを用いた蛍光材料の製造方法により、上述した無アルカリガラスと希土類原子のみからなる蛍光材料を好適に製造することができる。本発明の無アルカリガラスを用いた蛍光材料の製造方法は、基本的には、無アルカリガラス(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス)と、希土類原子を含む化合物とを混合し粉砕することを特徴とする。
【0037】
この方法によれば、高温での溶融処理を施すことなく、無アルカリガラスを原料として用いた蛍光材料を製造することができる。これにより、不要となった液晶パネルなどに用いられている無アルカリガラスを、低環境負荷のプロセスで、資源として有効に利用することが可能となる。また、原料ガラスを高温溶融しないため、エネルギー消費量が少なく、設備コストおよびエネルギーコストが低いため、安価で高性能な蛍光材料を製造することが可能となる。
【0038】
無アルカリガラスは、従来、加工温度が高く、再溶融する場合に多大なエネルギーを消費するため、環境負荷およびエネルギーコストの面から、ほとんどリサイクルがなされていなかった。本発明によれば、従来リサイクルされておらず、今後急激に増加すると予測される不要となった無アルカリガラスを資源として有効に利用することが可能となるといった効果が奏される。
【0039】
また、本発明の蛍光材料の製造方法は、無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子を含む化合物0.01〜5重量%とを混合し、粉砕することが、好ましい。これにより、母体材料である無アルカリガラス中に、希土類原子が高濃度で固溶し、高性能な蛍光材料を得ることが可能となる。また、原料として無アルカリガラスを95〜99.99重量%使用するため、資源有効利用が可能となる。
【0040】
また、本発明の蛍光材料の製造方法は、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、メカニカルミリング処理する工程を含むことが好ましい。このような工程を含むことで、発光中心となる希土類原子を、高温で溶融することなくガラス中に固溶することが可能となる。これにより、加工温度が非常に高く、特殊な設備で溶融する必要があった無アルカリガラスを簡易な設備で蛍光材料の母体材料として利用することが可能となる。さらに、メカニカルミリング処理によれば、母体材料は広範囲の組成でガラス状態が得られるため、熱安定性、化学的安定性、機械強度、光学的安定性の点で優れた蛍光材料を製造することができる。
【0041】
本発明の蛍光材料の製造方法は、蛍光材料の原料として無アルカリガラスを用いる。無アルカリガラスは、たとえば、液晶パネルから回収した無アルカリガラスを用いてもよい。以下に液晶ガラスから無アルカリガラスを回収し、原料を得る方法を詳細に説明するが、無アルカリガラスを得る方法は、以下の例に限定されるものではない。
【0042】
無アルカリガラスの分離は、たとえば以下のような手順で行う。まず、液晶テレビなどの液晶パネルを備えた表示装置などから取り出された、たとえば図1に示すような構造の液晶パネル1から偏光板5を除去する。偏光板5の除去は、公知の機械的な方法を利用する。次に、貼り合わされたガラス基板2a,2bを、2枚に分離する。具体的には、ガラス基板におけるシール樹脂体3よりも内側の四辺を、該シール樹脂体3に沿って、ダイヤモンドソーやガラスカッターなどの切断工具を用いて矩形状に切断する。その後、必要に応じて外力を加えることにより、元の大きさよりも一回り小さい大きさのガラス基板を、液晶パネルから切断して取り外す。ガラス基板が取り外されると、封入されていた液晶層4が開封され、液晶は、ガラス基板に付着した状態で露出する。次に、液晶が露出したガラス基板から樹脂性のスキージを用いてかき取ることによって液晶を除去する。
【0043】
液晶パネルなどから回収された無アルカリガラスには、通常、カラーフィルタに使用される有機物薄膜、TFT(Thin Film Transistor)に使用される金属薄膜および無機物薄膜などの不純物が付着している。このような不純物は、たとえばサンドブラスト、回転研磨などの従来公知の機械的手法、ならびに、たとえば酸性溶液、有機溶媒によるエッチングなどの従来公知の化学的手法を適宜組み合わせることで、除去することができる。このように使用済み液晶テレビから取り出した液晶パネルから無アルカリガラスが回収される。
【0044】
次に、上述のような方法で作製した無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを用いた蛍光材料の製造方法について以下に詳細に説明する。
【0045】
まず、原料として使用する無アルカリガラスを粗破砕する。破砕のサイズとしては、50mm以下が好ましい。破砕の方法としては、従来公知のせん断方式の破砕機、ハンマーミル、カッターミルなどを用いて破砕することができる。たとえば、上述の液晶パネルから回収された液晶パネル画面サイズの無アルカリガラスを、ハンマーミルなどで処理し、50mm以下のサイズに粗破砕したものを無アルカリガラス原料として用いる。
【0046】
希土類原子を含む化合物は、Eu、Tb、Ce、Sm、Tm、Pr、Erなどを含む化合物を用いることが好ましい。また、希土類原子を含む化合物として、該希土類原子の酸化物、塩化物、水酸化物、窒化物、硫化物などを用いることが好ましい。たとえば、Eu23(酸化ユーロピウム(III))、EuCl3(塩化ユーロピウム)、Tb47(酸化テルビウム(III))、Ce23(酸化セリウム(III))、CeCl3(塩化セリウム)、SmCl3(塩化サマリウム)、Tm23(酸化ツリウム)、Pr611(酸化プラセオジウム)、Er23(酸化エルビウム)などを用いることができる。Eu、Tb、Ceは、紫外線による励起により、Tb3+は、緑色の発光を呈し、Eu3+は赤色の発光を呈し、Ce3+は青色の発光を呈する。これらから、1以上の原子を原料として選び、蛍光材料とすることで、高性能で、あらゆる可視領域の波長の蛍光を得ることができる。安定で高効率な発光材料を得るためには、発光中心である希土類原子を、ガラス中に固溶する必要がある。
【0047】
次に、上述の無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを混合し、粉砕する。混合し、粉砕する具体的な方法としては、メカニカルミリング処理することが好ましい。これにより、無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物との混合物は、メカニカルミリングにより機械的圧力、すなわち機械的エネルギーを受ける。このような、機械的なエネルギーは、無アルカリガラス中への希土類原子の固溶体の形成エネルギーに変換される。
【0048】
この方法によれば、上述の原料から直接的に粉末状の蛍光材料を得ることができる。すなわち、メカニカルミリング時の投入パワーやミル装置、並びに実際にミリングするボールなどの大きさを適宜に選択することにより、高価な合成装置などを必要とせず、短時間で所望の組成を有する、上述の原料の化合物からなる粉末状の蛍光材料を直接的に得ることができる。
【0049】
なお、蛍光材料は、メカニカルミリングによる機械的エネルギーを用いて合成し、作製するものであるため、広範囲な組成でガラス状態となる。したがって、紫外線の透過率が高く、熱安定性、化学的安定性、機械強度、光学的安定性に優れた蛍光材料を製造することができる。
【0050】
実際の製造には、遊星型ボールミル、振動ミル、落下型ボールミルなど、よく用いられるいずれのメカニカルミリング装置を用いることが可能である。たとえば、遊星型ボールミルの場合には、200〜600rpmの回転速度でミルを行う。ポットとボールについては、ジルコニア製、メノウ製、ステンレス製などのポットを用いることができる。ボールの粒径についても直径2〜10mmのものを使用することができる。処理時間は、それぞれの粉末の反応性に応じて1時間〜50時間程度行う。
【0051】
得られた粉末は、条件に応じて、数十nm〜数μmの粒径のものが得られる。この様な粉末は、様々な樹脂と複合化し成形することにより、照明用LEDの蛍光体、様々な表示素子の蛍光体などとして用いることができる。また、得られた粉末はガラスであることから、加熱することによって軟化するので、直接成形することも可能である。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
無アルカリガラス0.9723gと酸化ユーロピウム0.0287gを、遊星型ボールミルを用いて、15時間、25時間、35時間の時間条件でそれぞれメカニカルミリング処理を行い、無アルカリガラスと希土類原子とからなる蛍光材料を製造した。このときのミリング条件は、以下の通りである。
【0054】
・回転速度:370rpm
・ポットおよびボール:ZrO2
・ボール:直径5mm×160個
図2は、実施例1で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフであり、縦軸はPL(Photo Luminescence)強度(a.u.)、横軸は波長(nm)である。図2中、aは15時間メカニカルミリング処理した場合、bは25時間メカニカルミリング処理した場合、cは35時間メカニカルミリング処理した場合をそれぞれ示している。図2に示す結果から、実施例1において、15時間、25時間、35時間のメカニカルミリング処理のいずれの場合にも、610nm付近に非常に強い蛍光を示す粉末が得られたことが分かる。
【0055】
なお、図2に示した蛍光スペクトルは、分光蛍光光度計(FP−6500、日本分光株式会社製)を用い、以下の条件で測定した。
【0056】
・励起側バンド幅:3nm
・蛍光側バンド幅:3nm
・レスポンス:1sec
・感度:Medium
・データ取込間隔:1nm
・走査速度:100nm/min
<実施例2>
無アルカリガラス0.9705gと酸化テルビウム(Tb47)0.0298g、あるいはシリカ(SiO2)0.9705gと酸化テルビウム(Tb47)0.0298gを、実施例1と同様の条件で15時間メカニカルミリング処理して蛍光粉末を得、実施例1と同様の条件で蛍光スペクトルを測定した。図3は、実施例2で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフであり、縦軸はPL(Photo Luminescence)強度(a.u.)、横軸は波長(nm)である。図3に示す結果から、540nm付近に非常に強い蛍光を示す粉末が得られたことが分かる。
【0057】
<実施例3>
無アルカリガラス0.961gとCeCl30.039gを実施例1と同様の条件で 時間メカニカルミリング処理して蛍光粉末を得、実施例1と同様の条件で蛍光スペクトルを測定した。図4は、実施例3で得られた蛍光材料の波長250nmの紫外光を照射して励起したときの蛍光スペクトルの一例を示すグラフであり、縦軸はPL(Photo Luminescence)強度(a.u.)、横軸は波長(nm)である。図4に示す結果から、370nm付近に非常に強い蛍光を示す粉末が得られたことが分かる。
【0058】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、不要となった液晶パネルから回収した無アルカリガラスの埋立地への投棄量を極力抑え、資源を有効に利用することができる。さらに、PDPおよびLEDなどへ使用可能な発光特性を有する安価な蛍光材料を製造することができる蛍光材料および蛍光材料の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 液晶パネル、2a ガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板)、2b ガラス基板(TFT側ガラス基板)、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無アルカリガラスと、希土類原子とからなる、蛍光材料。
【請求項2】
無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子0.01〜5重量%とからなる、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項3】
無アルカリガラスが液晶パネルガラスから得られたものである、請求項1または2に記載の蛍光材料。
【請求項4】
無アルカリガラスが、SiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光材料。
【請求項5】
希土類原子が、Eu、Tb、Ce、Sm、Tm、Pr、Erから選ばれる1以上の原子を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光材料。
【請求項6】
無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、混合し粉砕することを特徴とする蛍光材料の製造方法。
【請求項7】
無アルカリガラス95〜99.99重量%と、希土類原子を含む化合物0.01〜5重量%とを、混合し粉砕することを特徴とする請求項6に記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項8】
無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物とを、メカニカルミリング処理することを特徴とする請求項6または7に記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項9】
無アルカリガラスと、希土類原子を含む化合物と、ボールとを入れた容器を回転させることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項10】
無アルカリガラスが液晶パネルガラスから得られたものである、請求項6〜9のいずれかに記載の蛍光材料。
【請求項11】
前記希土類原子を含む化合物は、希土類原子として、Eu、Tb、Ce、Sm、Tm、Pr、Erから選ばれる1以上の原子を含むことを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項12】
前記希土類原子を含む化合物は、希土類原子の酸化物、塩化物、水酸化物、窒化物、硫化物から選ばれる1以上の化合物を含むことを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の蛍光材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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