説明

蛍光検出方法

【課題】表面プラズモン増強を利用した蛍光検出方法において、広い検出範囲のまま一分子レベルの高感度検出を可能とする。
【解決手段】表面プラズモン増強を利用した蛍光検出方法において、誘電体プリズム22の一面に設けられた金属膜12を含む検出部に電場増強場Ewを発生せしめ、この電場増強場Ewの励起効果によって生じる、被検出物質Aに付与された蛍光標識Fからの蛍光を、光検出器30により検出する際に、複数の金属微粒子Pを検出部の上に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出方法に関するものであり、特に詳細には表面プラズモンを利用した蛍光検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
とりわけここ数年、蛍光法は、冷却CCDの発達など光検出器の高性能化と相まって、バイオ研究には欠かせない道具となっている。また、蛍光標識に用いる材料においても、特に可視領域では蛍光量子収率の高い蛍光色素、例えばFITC(蛍光 525nm、蛍光量子収率 0.6)やCy5(蛍光 680nm、蛍光量子収率 0.3)のような実用の目安となる0.2を超える蛍光色素が開発され広く用いられている。
【0004】
さらに、特許文献1や非特許文献1に示すように、プラズモンによる電場増強効果を用いて蛍光信号を増大することにより1pMを切るような高感度検出が可能である蛍光法、いわゆる表面プラズモン電場増強蛍光分光法も報告されている。
【0005】
しかしながら、上記のような方法では分子の個数に換算すると未だ10個レベルであり、一分子の検出には程遠いのが現状である。
【0006】
そこで、非特許文献2等に示されているように、一分子レベルでの検出が可能である金属プローブを用いたラマン分光法が挙げられる。これは、金属プローブ先端に光を入射して、この先端に局在プラズモンを生じさせ、これにより基板とプローブの間に生じる局所的な電場増強場を利用するものである。これにより、プローブ直下にある分子によるラマン過程の散乱断面積を実効的に増大し、理論的には入射光強度の数10倍から10倍の増強度が得られると考えられている(非特許文献2 pp.277 2.2.1節)。
【特許文献1】特願2006−255374号公報
【非特許文献1】Margarida M. L. M. Vareiro, et al., Analytical Chemistry, Vol. 77, No. 8, p.2426-2431 (2005)
【非特許文献2】井上康志、河田聡,分光研究,第51巻,第6号,p.276−285(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ラマン信号は、溶媒などの被検出物質が置かれている状態及び環境に大きく左右され、また夾雑物の振動もスペクトルに現れるため、定性分析としては有用であるが定量性は期待できない。また、金属プローブによる局所的な強電場の幅はせいぜい数十nm程度であって測定できる領域が小さいため、金属プローブの走査が必要となり測定が面倒である。さらには、一般的にラマン分光装置は、大型かつ高価であり操作性も良くない。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ラマン分光法より容易かつ低コストの蛍光法によって、一分子レベルでの高感度検出を可能とし、かつ広い検出範囲を有する蛍光検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の蛍光検出方法は、
誘電体プリズムの一面に設けられた金属膜を含む検出部に被検出物質を含む試料を供給し、誘電体プリズムと金属膜との界面に対して、金属膜の上面に表面プラズモンによる電場増強場を発生せしめるように、誘電体プリズムを通して励起光を照射し、電場増強場の励起効果によって生じる、被検出物質に付与された蛍光標識からの蛍光を、光検出器により検出し、光検出器によって検出された蛍光量に基づいて被検出物質の存在量を検出する蛍光検出方法において、
複数の金属微粒子を検出部の上に分散させて蛍光の検出を行うことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、「検出部」とは、誘電体プリズムの一面に設けられた金属膜を含む、試料等を供給して接せしめる場所であって、励起光を、誘電体プリズム基板と金属膜との界面に対して、この界面での全反射条件を満たすように誘電体プリズム基板を通し入射して、この界面表面にエバネッセント波を発生させ、このエバネッセント波との共鳴により金属膜中に表面プラズモンを発生せしめるように配されたものである。
【0011】
「電場増強場」とは、誘電体プレートと金属膜との界面に対してこの界面で全反射条件を満たすように励起光を照射することによって生じるエバネッセント波と、このエバネッセント波に誘起されて金属膜中に生じる表面プラズモンの電場増強効果とによって、局所的に金属膜の上面に発生する電場の増強作用を有する領域を意味するものとする。
【0012】
また、「被検出物質の存在量」とは、被検出物質の存在の有無を含み、定量的な量のみならず定性的な量も意味するものとする。
【0013】
そして、「ホットスポット」とは、微小構造の物質に静電気力が集中(電界集中)する結果形成される局所的な強い電場領域を意味するものとする。
【0014】
特に金属微粒子−金属微粒子間の隙間もしくは金属微粒子−金属膜間の隙間に形成される「ホットスポット」においては、上記プラズモンによって増強された電場が集中し巨大な電場が形成されるとともに、それによって相手側のプラズモンをさらに強く誘起し合うという相乗効果が生じるため、他の場合(例えば粒子が単独で存在する場合や非金属の粒子が近接する場合)に較べ格段に強い電場増強場が生じる。例えば、2つの金属微粒子が数nmまで近接した場合には、隙間に生じる「ホットスポット」での電場増強度は、非特許文献2にも記載されているように10以上にもなることが知られている。
【0015】
さらに、本発明による蛍光検出方法において、金属微粒子の粒径は40〜200nmであることが好ましく、金属微粒子はナノロッドであることが好ましい。また、蛍光標識は消光防止性蛍光物質であることが好ましい。
【0016】
そして、検出部は、誘電体プリズムがある反対側の金属膜表面に、疎水性材料からなる膜厚10〜100nmの不撓性膜を有するものであることが好ましく、この場合、不撓性膜はポリマー材料から構成されるものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明による蛍光検出方法は、試料中の溶媒を乾燥させた後に蛍光を光検出器により検出してもよい。
【0018】
ここで、金属微粒子の「粒径」とは、微粒子の最大径を意味するものとする。
【0019】
さらに、「ナノロッド」とは、形状がロッド状(棒状)のナノ微粒子であって、縦軸と横軸との長さの比(アスペクト比)が概ね1〜20であるものを意味するものとする。
【0020】
そして、「消光防止性蛍光物質」とは、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過させると共に、金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる蛍光標識材料を意味するものとする。消光防止性蛍光物質の消光防止材料により包含される蛍光色素分子の数は1個でもよいが、複数であることがより好ましい。なお、消光防止性蛍光物質が複数の蛍光色素分子を備えるものである場合には、少なくとも1つの蛍光色素分子が消光防止材料により包まれていればよく、他の蛍光色素分子の一部が消光防止材料の外部に露出していてもよい。なお、金属消光とは、エネルギーを吸収し励起した蛍光体の近傍に金属が存在する場合、蛍光体から金属へエネルギー移動が起こり金属内でエネルギーが消失される、無放射的なエネルギー失活現象のことである。
【0021】
また、「不撓性」とは、検出装置を普通に使用しているうちに膜厚が変わってしまうほどに変形することが無い程度の剛性を意味するものとする。
【発明の効果】
【0022】
本発明による蛍光検出方法では、複数の金属微粒子を検出部の上に分散させて蛍光を光検出器により検出している。これにより、金属微粒子−金属微粒子間の隙間もしくは金属微粒子−金属膜間の隙間に生じるホットスポットによって、このホットスポット内に存在する蛍光標識から生じる蛍光を増強することができる。一方、複数の金属微粒子を検出部上に広く分散させているため、上記ホットスポットは広い範囲にわたり形成させることができる。この結果、ラマン分光法より容易かつ低コストの蛍光法を用いても、一分子レベルでの高感度検出が可能となり、さらに電場増強効果を有する領域が金属プローブの先端付近に限られるラマン分光法に比べて、広い範囲にわたる測定を短時間で行うことが可能となる。
【0023】
また、金属微粒子は同体積の他の微粒子に較べ格段に光を散乱させる力(散乱能)が大きいため、この散乱光を二次的な励起光として用いることにより蛍光色素をさらに効率的に照明することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態及び実施例について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0025】
「蛍光検出方法」
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態による蛍光検出装置の概略部分断面図である。本実施形態では、被検出物質としての抗原Aを含む試料Sから、抗原Aを検出する場合について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態による蛍光検出装置は、所定波長の励起光Liを発する光源21と、この励起光Liを一面から透過させるように配された、励起光Liを透過させる材料からなる誘電体プリズム基板22と、この誘電体プリズム基板22の励起光Li入射面とは異なる一面に成膜された金属膜12と、金属膜12上に形成された不撓性膜14と、不撓性膜14上に固定されかつ抗原Aと特異的に結合する1次抗体B1と、不撓性膜14に試料Sが接するように試料Sを保持する試料保持部13と、蛍光標識Fが発する蛍光を検出可能な位置に配された光検出器30とを備えてなるものである。なお、図中には、検出部の上に分散された金属微粒子Pと、試料S中に含まれる蛍光標識Fと、これに施され、かつ抗原Aと特異的に結合する2次抗体B2も同時に示している。
【0027】
励起光Liは、例えばレーザ光源等から得られる単波長光でも白色光源等から得られるブロード光でもよく、蛍光標識Fを励起発光させることが可能なものならば特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。
【0028】
光源21は、例えばレーザ光源等でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。また必要に応じて、光源21は、励起光Liを誘電体プリズム基板22と金属膜12の界面12aに向けて、この界面12aでの全反射条件を満たすように誘電体プリズム基板22を通して入射させるために、励起光Liを導光するためのミラーやレンズ等の導光系等を適宜組み合わせることができる。
【0029】
誘電体プリズム基板22は、例えば透明樹脂やガラス等の透明材料から形成されたものである。誘電体プリズム基板22は樹脂から形成されたものが望ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を用いることがより望ましい。
【0030】
金属膜12は、その薄膜材料として、特に制限はなく検出条件に応じて適宜選択することができるが、表面プラズモンの発生条件等の観点からAu、Ag、Pt等を用いることが望ましい。また、金属膜12の堆積方法は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、めっき法、金属コロイドを用いた塗布法やスプレー法などの各種の薄膜作製方法によって形成することができ、これらの方法は使用する材料に応じて適宜選択することができる。一方その膜厚も、特に制限はなく検出条件に応じて適宜選択することができるが、表面プラズモンの発生条件等の観点から20nm〜60nmの範囲にあることが望ましい。
【0031】
不撓性膜14は、その薄膜材料として、例えばシリコン酸化膜やポリマー材料等を用いることができる。この場合、特に成膜条件や表面処理条件等の観点からポリマー材料が望ましい。例えばこの場合、スピンコート等の簡便な方法により作成することができる。また、本発明のように不撓性膜14が疎水性材料から形成されている場合には、試料液中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる因子が不撓性膜14の内部にまで入り込むことが無く、これらの消光因子によって蛍光標識Fの励起エネルギーが奪われることが防止される。
【0032】
不撓性膜14の具体的な材料は、誘電体プリズム基板22に用いられている材料と比して線(熱)膨張係数の差が35×10−6以内にあるものを選択することが望ましく、例えば下記表1に挙げたものの中から適宜選択することができる。
【表1】

【0033】
ここで、上記のように線(熱)膨張係数の差を35×10−6以内と規定したのは以下の理由による。
【0034】
環境、特に温度の変動に対する安定性を高める上では、不撓性膜14と誘電体プリズム基板22は互いに熱膨張係数が近い方が望ましい。つまり、それら両者の熱膨張係数が大きくかけ離れていると、温度変動が生じた際に両者の剥離や密着度の低下等の問題を招きやすい。具体的には、それら両者の線(熱)膨張係数の差が35×10−6以内の範囲にあることが望ましい。なお、不撓性膜14と誘電体プリズム基板22との間には金属膜12が存在しているが、この金属膜12は温度変動が有ったとき、上下の不撓性膜14と誘電体プリズム基板22に追随して伸縮するので、結局、不撓性膜14と誘電体プリズム基板22の熱膨張係数が近い方が望ましいことに変わりは無い。以上の点を考慮すると、不撓性膜14をポリマー材料から形成する場合、誘電体プリズム基板22の材料としても一般にはガラスより樹脂を選択する方がより望ましいと言える。
【0035】
一方、不撓性膜14の膜厚は10nm〜100nmとする。ここで、上記膜厚の下限値および上限値をそれぞれ10nm、100nmと規定したのは以下の理由による。
【0036】
金属の近傍に存在する蛍光材料は、金属へのエネルギー移動により消光を起こす。エネルギー移動の程度は、金属が半無限の厚さを持つ平面なら距離の3乗に反比例して、金属が無限に薄い平板なら距離の4乗に反比例して、また、金属が微粒子なら距離の6乗に反比例して小さくなる。そして、金属膜の場合は、金属と蛍光材料との間の距離は少なくとも 数nm以上、より好ましくは10nm以上確保しておくことが望ましい。これにより、本発明では不撓性膜14の膜厚の下限値を10nmとする。一方、蛍光材料は、エバネッセント波によって励起される。このエバネッセント波は、金属膜表面から高々励起光の波長程度であり、その電界強度は金属膜表面からの距離に応じて指数関数的に急激に減衰することが知られている。実際に、波長635nmの可視光について両者の関係を計算によって求めると、エバネッセント波が到達するのは波長(635nm)程度である。しかしながら、100nmを超えるとその電界強度が急激に減衰する。蛍光材料を励起する電界強度は大きいほど望ましいので、効果的な励起を行なうためには、金属膜表面と蛍光材料との距離を100nmより小さくすることが望ましい。それにより、本発明では不撓性膜14の膜厚の上限値を100nmとする。ただし、後述するように本発明においてホットスポット40を形成させるために、金属微粒子Pと金属膜12との距離を少なくとも10nm程度に保つように不撓性膜14の膜厚を考慮する必要がある。
【0037】
なお、ポリマーからなる不撓性膜14を用いた場合、被検出物質がタンパク等であれば容易に非特異的吸着しやすくなっている。これは、ポリマーとタンパク等が疎水性を有することに起因する疎水性効果による。この場合、非特異的吸着したタンパク等が蛍光検出を行う上で定量性を損なう要因となってしまうため、不撓性膜14の表面に親水性表面修飾を施すことが望ましい。さらに、この表面修飾は上記のような機能の他に、特異的結合物質を固定するリンカーとしての機能も持たせることができる。
【0038】
試料保持部13は、試料Sを検出部上(本実施形態において、より正確には不撓性膜14上)に接するように保持でき、蛍光標識Fから発せられる蛍光の検出を妨げないような形状や材料であれば特に制限されるものではない。蛍光を上方から検出する場合には、例えば図1中に示すような、光を透過させない側面と光をよく透過させる上端面からなる試料保持部13等を用いることができる。ここで、光を透過させない側面を用いているのは、意図しない外部からの光を遮断するためである。
【0039】
光検出器30は、蛍光標識Fが発する特定波長の蛍光を定量的に検出するもので、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)を好適に用いることができるが、これに限らず検出条件に応じて適宜選択することができ、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c−MOS等を用いることができる。
【0040】
1次抗体B1は、特に制限なく、検出条件(特に被検出物質)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原AがCRP抗原(分子量11万 Da)の場合、この抗原Aと特異的に結合するモノクロナール抗体(2次抗体B2と少なくともエピトープが異なる)等を用いることができ、例えば末端をカルボキシル基化したPEGを介して、アミンカップリング法により、ポリマー材料からなる場合の不撓性膜14に固定することができる。上記アミンカップリング法は一例として下記(1)〜(3)のステップからなるものである。なおこれは、30ul(マイクロ・リットル)のキュベット/セルを用いた場合の例である。
(1)リンカー部先端(末端)の−COOH基を活性化
0.1MのNHSと0.4MのEDCとを等体積混合した溶液を30ul加え、30分間室温静置する。
NHS:N-hydrooxysuccinimide
EDC:1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
(2)1次抗体の固定化
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1次抗体溶液(500ug/ml)を30ul加え、30〜60分間室温静置する。
(3)未反応の−COOH基をブロッキング
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1Mのエタノールアミン(pH8.5)を30ul加え、20分間室温静置する。さらにPBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄する。
【0041】
一方、図2に示すように、本発明の第1の実施形態による蛍光検出方法は、誘電体プリズム基板22の一面に成膜された金属膜12と、この金属膜12上の不撓性膜14とからなる検出部上に、1次抗体B1を固定し、抗原Aを含む試料Sを流して(図2A)、この抗原Aを1次抗体B1に固定し(図2B)、その後蛍光標識Fを流し(図2C)、1次抗体B1に結合した抗原Aに、2次抗体B2を介して蛍光標識Fを結合させて、いわゆるサンドイッチ方式により蛍光標識Fを検出部に固定し(図2D)、蛍光標識Fを励起発光可能な波長の励起光Liを、誘電体プリズム基板22と金属膜12との界面12aに対して、この界面12aでの全反射条件を満たすように誘電体プリズム基板22を通し入射して、この界面12a表面に生じる電場増強場Ewにより、検出部表面に固定された蛍光標識Fを励起させ、これにより発せられる蛍光を検出する(図2E)ものであって、図3に示すように、蛍光を光検出器30により検出する際、複数の金属微粒子Pを検出部の上に分散させて行うものである。
【0042】
ここで、蛍光検出によって実際に存在が確認されるのは蛍光標識Fであるが、基本的に前処理によって、この蛍光標識Fには抗原Aが結合しているものと考えて、この蛍光標識Fの存在を確認することにより、間接的に抗原Aの存在を確認している。
【0043】
蛍光標識Fは、励起光Liによって励起されて所定波長の蛍光を発するものであり、特に制限なく、検出条件に応じて適宜選択することができる。例えば、励起光Liの波長が650nmの場合、Cy5色素等を用いることができる。この場合、蛍光標識Fをモノクロナール抗体等(2次抗体B2であって、1次抗体B1とはエピトープが異なるもの。)に修飾することにより、抗原抗体反応を用いて、蛍光標識Fを抗原Aと特異的に結合可能にすることができる。なお、上記の蛍光標識Fおよび2次抗体B2の供給のタイミングは特に制限されず、被検出物質(抗原A)を1次抗体B1に結合させる前に、予め試料Sに蛍光標識Fを添加しておいてもよい。
【0044】
金属微粒子Pの材料は特に制限はないが、局在プラズモンを効果的に誘起することができ、化学的安定性(試料Sに対する安定性)にも優れることから、Au、Ag、Cu、Pt、Ni、Ti等が好ましい。また、金属微粒子Pの形状は特に制限はないが、球状およびロッド状等が好ましく、金属微粒子Pを検出部の上に密に分散させる点から、ロッド状(ナノロッド)が好ましい。金属微粒子Pの粒径は、局在プラズモンを効果的に誘起することから、励起光Liの波長より小さいことが好ましく、40〜200nmが特に好ましい。なお、ここで言う粒径とは微粒子の最大径を意味する。そして、金属微粒子Pを検出部の上に分散させるタイミングは特に制限されるものではないが、蛍光を検出する前に金属微粒子Pを供給し分散させることが好ましく、本実施形態のような場合にあっては特に抗原Aおよび蛍光標識Fを検出部に固着させる工程が終わった後に行うことがより好ましい。さらに、検出部に分散させる金属微粒子Pの量は、密に分散させることと光を効率よく取出すこととのバランスから、10個/mm程度であることが好ましい。
【0045】
さらに本実施形態では、上記金属微粒子Pは誘電体材料からなる誘電体層41によって覆われている。これにより、金属消光が起きてしまう程度にまで金属微粒子Pが蛍光標識Fに近接してしまうことを防ぐことができる。
【0046】
上記の金属微粒子Pを覆う誘電体層41の形成方法は、例えば以下に示す2つの方法が挙げられる。なお、以下の2つの場合において共に金属微粒子Pとして金微粒子を扱っている。
【0047】
まず第1の方法は、誘電体層41をSiO膜から形成するものであり、大きく分けて次の(1)〜(3)の工程からなる。
(1)金微粒子となる金コロイドの合成
(2)金コロイド表面分散剤の置換(クエン酸→シロキサン)
5×=10−4molの金コロイド水溶液500ml(ミリ・リットル)に、APS((3-Aminopropyl)trimethoxysilane)水溶液(2.5ml、1mmol)を添加し、15分間強攪拌することにより、金コロイド表面のクエン酸を置換する。
(3)金コロイド表面のSiO修飾
pH10〜11に調整したsodium silicate0.54重量%水溶液20mlを工程(2)の金コロイド水溶液に添加し、強攪拌する。24時間経過すると、厚さが約4nmのSiO膜が形成される。この溶液を遠心分離により30mlまで濃縮した溶液に、170mlのエタノールを添加する。さらに0.6mlのNHOH(28%)を滴下し、80μl(マイクロ・リットル)のTES(テトラエトキシシラン)を添加し、24時間ゆっくり攪拌すると、厚さ20nmのSiO膜からなる誘電体層41が形成される。
【0048】
次に第2の方法として、誘電体層41をポリマー膜から形成する場合について説明する。この方法は、大きく分けて次の(1)〜(2)の工程からなる。
(1)金微粒子となる金ナノ粒子のDMFへの再分散
平均粒径が役30nmのクエン酸安定化金ナノ粒子を最大約360pmol(=7×10−11重量%)含む水分散液を1ml用意し、これを遠心分離にかけた後、上澄み0.95mlを捨てる。残った暗赤色、粘稠性の沈殿物を1mlのDMF(N,N-dimethylformamide)に再分散させる。なお、過剰のクエン酸イオンは粒子のカプセル化を阻害する。また、小粒径の粒子を用いる場合は、DMFを加える前に水で洗浄した方が良い。
(2)金ナノ粒子のカプセル化
上記(1)の工程で得られた、平均粒径(粒径は、透過型電子顕微鏡による直接観察や、光吸収スペクトルから換算する方法にて決定することができる。)が約30nmのクエン酸安定化金ナノ粒子を約648pmol(=7×10−11重量%)含むDMF分散液1mlに、ポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体(ポリスチレンが約100量体、ポリアクリル酸が約13量体)のDMF溶液(約10−2g/ml)10μlを加え、シリンジポンプにより8.3μl/minの流量で水200μlを加えて激しく撹拌する。10分撹拌すると溶液の色が徐々に紫色に変化するので、そこで1重量%のドデカンチオールDMF溶液5μlを加え、24時間撹拌する。その後、さらにシリンジポンプにより、2ml/hの流量で水3mlを加える。
次に透析により24時間かけてDMFを除去する。次いで撹拌しながら72μlのEDC溶液(水に対して0.1重量%:24nmol)を一気に添加し、30分撹拌したところで144μlのEDODEA溶液(水に対して0.1重量%:96nmol)を一気に添加し、撹拌する。
その後、透析により24時間かけて試薬を除去し、次いで4000Gで30分間遠心分離を行い、体積で80%に相当する上澄みを捨てる。次に捨てた上澄みと同体積の水を加えて同様に遠心分離を行う。この遠心分離から遠心分離までの操作を3回以上繰り返すことにより、ポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体の架橋物からなる被膜が金ナノ粒子(金微粒子)の周りに誘電体層41として形成される。
【0049】
以下、上記に示した本実施形態による蛍光検出方法および蛍光検出装置の作用を説明する。
不撓性膜14上には、抗原Aと特異的に結合する1次抗体B1が固定化されている。そして試料保持部13の中において試料Sが流され、試料S中の抗原Aは1次抗体B1に結合し固定される。次いで同様に抗原Aと特異的に結合するよう施された蛍光標識Fが流され、先ほどの1次抗体B1に結合した抗原Aと2次抗体B2を介して上記蛍光標識Fが検出部に固定される(サンドイッチ方式)。
【0050】
その後、光源21から発せられる励起光Liを、誘電体プリズム基板22と金属膜12の界面12aに対して、この界面12aでの全反射条件を満たすように基板を通し入射する。このとき、この界面12a表面にエバネッセント波が発生し、このエバネッセント波との共鳴により金属膜12中に表面プラズモンが発生する。そして、この表面プラズモンによる電場増強効果を受けて電場増強されたエバネッセント波(電場増強場Ew)により、検出部に固定された蛍光標識Fが励起されることとなる。この蛍光標識Fは所定波長の蛍光を発し、この蛍光検出によって抗原Aの検出を行うことができる。
【0051】
本実施形態による蛍光検出方法ではこの蛍光を検出する際、複数の金属微粒子Pを検出部の上に分散させて蛍光を光検出器30により検出している。これにより、金属微粒子−金属微粒子間の隙間もしくは金属微粒子−金属膜間の隙間に生じるホットスポット40によって、このホットスポット40内に存在する蛍光標識Fからの蛍光を増強することができる。ホットスポットとは、金属微粒子Pと金属膜12が10nm程度に近づいたときに微小構造の物質に静電気力が集中(電界集中)する結果形成される局所的な強い電場領域である。
【0052】
特に金属微粒子−金属微粒子間の隙間もしくは金属微粒子−金属膜間の隙間に形成される「ホットスポット」においては、上記プラズモンによって増強された電場が集中し巨大な電場が形成されるとともに、それによって相手側のプラズモンをさらに強く誘起し合うという相乗効果が生じるため、他の場合(例えば粒子が単独で存在する場合や非金属の粒子が近接する場合)に較べ格段に強い電場増強場が生じる。例えば、2つの金属微粒子が数nmまで近接した場合には、隙間に生じる「ホットスポット」での電場増強度は、非特許文献2にも記載されているように10以上にもなることが知られている。
【0053】
以上の結果、ラマン分光法より容易かつ低コストの蛍光法を用いても、一分子レベルでの高感度検出が可能となる。
【0054】
一方、複数の金属微粒子Pを検出部上に広く分散させているため、上記ホットスポット40を広い範囲にわたり形成させることができる。この結果、電場増強効果を有する領域が金属プローブの先端付近に限られるラマン分光法に比べて、広い範囲にわたる測定を短時間で行うことが可能となる。
【0055】
また、金属微粒子は同体積の他の微粒子に較べ格段に光を散乱させる力(散乱能)が大きいため、この散乱光を二次的な励起光として用いることにより蛍光色素をさらに効率的に照明することができる。
【0056】
さらに本実施形態による蛍光検出方法では、不撓性膜14が形成されているので、蛍光標識Fから金属膜12へエネルギー移動が起こり金属内でエネルギーが消失される、いわゆる金属消光を防止することができる。これにより、励起した蛍光標識Fから効率よく蛍光を得ることができる。
【0057】
そして、誘電体層41が金属微粒子Pを覆うように形成されているため、上記と同様な効果により蛍光の金属微粒子Pによる金属消光を防止することができる。
【0058】
また、電場増強場Ewは、界面12aから数百nm程度の領域にしか到達しないため、上記1次抗体B1を用いて蛍光標識Fと抗原Aの対を検出部に集約させることにより、電場増強場Ewにより励起される蛍光標識Fの量を増やすことが可能である。これにより、多くの蛍光量を得ることができ、結果としてより定量性の高い蛍光検出が可能となる。なお、上記のよう電場増強場Ewの到達領域に関する特性により、意図せず試料S中に残ってしまった不純物90からの散乱や浮遊蛍光標識F’からの発光等の影響を大幅に低減することができるため、さらにS/N比のよい蛍光検出が可能となる。
【0059】
<第2の実施形態>
図4は、本実施形態による蛍光検出方法および蛍光検出装置における、金属微粒子Pを分散させた検出部付近を示す概略部分断面図である。本実施形態において使用する蛍光検出装置は、図1に示す第1の実施形態で説明した蛍光検出装置と同様である。一方、本実施形態による蛍光検出方法は、入射する励起光Liの波長として、金属微粒子Pに局在プラズモンを誘起することが可能である特定の波長を用いている点で第1の実施形態と異なる。そのため、その他の構成は、第1の実施形態の場合と同様であり、図1および図2に示す第1の実施形態と同等の要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0060】
本実施形態による蛍光検出方法では、前述したとおり、入射する励起光Liの波長として、金属微粒子Pに局在プラズモンを誘起することが可能である特定の波長を用いていることにより、金属微粒子Pに局在プラズモンが生じる。
【0061】
励起光Liの波長は特に制限されるものではないが、金属微粒子Pに局在プラズモンを誘起できるように、かつ測定条件特に測定対象とする被検出物質や蛍光標識等に応じて適宜選択できる。
金属微粒子Pは第1の実施形態と同様のものであるが、励起光Liの波長に応じて局在プラズモンを誘起できるようにその粒径は適宜選択する。
【0062】
以下、上記に示した本実施形態による蛍光検出方法および蛍光検出装置の作用を説明する。
本実施形態においても、複数の金属微粒子Pを検出部の上に分散させて蛍光を光検出器30により検出しているため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さらに、本実施形態では局在プラズモンが生じた結果、図4に示すように、この局在プラズモンによって増強された近接場光NLが金属微粒子Pの周囲に染み出すこととなる。この近接場光NLは、前述したホットスポット40とは独立して発生するものであるため、ホットスポット40の形成には影響を及ぼさない。すなわち、本実施形態では金属微粒子Pによるホットスポット40の形成と近接場光NLの発生の両方が起こる。したがって、ホットスポット40のみならず、この近接場光NLによっても蛍光標識Fを励起させることができるので、より高感度の蛍光検出が可能となる。
【0064】
<第3の実施形態>
図5は、本実施形態による蛍光検出方法および蛍光検出装置における、金属微粒子Pを分散させた検出部付近を示す概略部分断面図である。本実施形態において使用する蛍光検出装置は、図1に示す第1の実施形態で説明した蛍光検出装置と同様である。一方、本実施形態による蛍光検出方法は、被検出物質を標識する蛍光標識として、蛍光色素分子を、蛍光色素分子から生じる蛍光を透過させると共に、金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質を用いている点と、金属微粒子Pを覆う誘電体層41を必要としない点で第1の実施形態と異なる。そのため、その他の構成は、第1の実施形態の場合と同様であり、図1および図2に示す第1の実施形態と同等の要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0065】
本実施形態による蛍光検出方法では、前述したとおり、被検出物質を標識する蛍光標識Fとして、蛍光色素分子15を、蛍光色素分子15から生じる蛍光を透過させると共に、金属消光を防止する消光防止材料16により包含してなる消光防止性蛍光物質FBを用いている。
【0066】
消光防止性蛍光物質FBは、粒径が5300nm以下のものが好ましく、500nm以下のものがさらに好ましく、130〜500nmのものが特に好ましい。上記の好ましい粒経は以下のようにして算出された。
【0067】
表面プラズモン励起による蛍光検出にあたり、消光防止性蛍光物質による表面プラズモンの擾乱を考慮する必要がある。
消光防止性蛍光物質の材質には水溶媒より屈折率の高い材料を用いている。例えばポリスチレンの屈折率nは、1.59〜1.6である。このような高屈折率の消光防止性蛍光物質が金属膜近傍に位置することによって表面プラズモンの発生が阻害されうる。この現象をプリズム層101、金属膜102、溶媒層103の三層に分けた多層膜近似で考察した。図6Aは金属層102上に水溶媒層のみである場合、図6Bは金属膜102にポリスチレンの消光防止性蛍光物質104が存在する場合に、プリズム層101側から光ビームを入射させた場合に金属膜表面に生じる電場Eを模式的に示している。
【0068】
プリズム層101、溶媒層103(103’)は十分な膜厚があり、プリズム層101の屈折率、金属膜102の屈折率、膜厚がすでに決まっていると仮定すると、金属膜表面上に誘起されるプラズモンの状態は金属膜上の溶媒屈折率によって決まる。図7は、金属膜102上に水溶媒層のみである場合(実線で示す)と、金属層上にポリスチレン層が存在する場合(破線で示す)について、励起光の界面への入射角度と反射率との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。このグラフから溶媒側に水溶媒層(屈折率n=1.33)がある場合には、表面プラズモンが発生する共鳴角が存在するが、ポリスチレン層(屈折率n=1.59)がある場合には表面プラズモンが発生しない(共鳴角が現れない)ことがわかる。すなわち、図6Bに示すように消光防止性蛍光物質104により点線で示す領域105の電場が乱されている。このことから、屈折率の高い消光防止性蛍光物質(ポリスチレンやガラス製)を用いてアッセイを行い、金属膜近傍に消光防止性蛍光物質が固定されると、表面プラズモンが阻害されて低減してしまい、SPF測定ができなくなると推察される。
【0069】
このような、消光防止性蛍光物質による表面プラズモンの擾乱を考慮に入れ、消光防止性蛍光物質の粒径と蛍光量との関係をシミュレーションした結果を図8に示す。粒径が大きくなれば内包される蛍光分子数が増えるので、粒径が400nmまでは蛍光量は粒径の増加に伴い増大するが、粒径500nmを超えると急激に蛍光量が減少していくことが分かった。これは、粒径500nmを超えると上述の消光防止性蛍光物質による表面プラズモンの擾乱が大きくなってくるためである。図8から、消光防止性蛍光物質の径の増加による蛍光量の増加と消光防止性蛍光物質による表面プラズモンの擾乱とを考慮し、蛍光量が最大ピークを示した粒径300nmの蛍光量から1桁程度以上蛍光量が落ちないようにするためには、消光防止性蛍光物質の粒径を70nm〜900nmの範囲とすることが望ましい。なお、上記においては、消光防止性蛍光物質が球状であるとみなして好ましい粒径範囲を求めたが、消光防止性蛍光物質は球状でなくてもよく、球状でない場合には、粒子の最大幅と最小幅との平均の長さを粒径とする球状で近似することができる。
【0070】
さらに、検出部上に1次抗体を固定するため2次元平面上で蛍光検出を行うとき、消光防止性蛍光物質の粒径の好ましい範囲を2次元充填密度の観点から以下のように導出した。
【0071】
一般的な診断用途において、検出限界の抗原濃度として1pM(ピコモーラ:×10-12mol/l)程度は必要であるといわれている。そこで、この1pM以下の抗原濃度を検出し、ダイナミックレンジ2桁、すなわち、100pMまで検出できる感度特性を目標値として消光防止性蛍光物質の好ましい粒径を導出した。
1pMの抗原濃度の検体について、アッセイ時の条件を検出領域の直径を1mm(面積3.1mm2)、流路を流下する検体量を30μl(この検体量は一般的な簡易血液診断装置において、流路に流す前の前処理後、あるいはメンブレンフィルターによって血球分離された後の標準的な値である。)、抗原捕捉率を0.2%(一般的に抗原捕捉率は、0.2%〜2%程度であることから、ここでは、捕捉率が最低であった場合でも検出可能とするため、0.2%に設定した。)とすると、1.2×104個/mm2の抗原を検出領域に固定し検出できればよい。ここで、1.2×104個/mm2を目標固定量とする。一方、落射蛍光検出装置(LAS−4000、落射蛍光式、富士フイルム社製)を用いて測定した、前述の手順で作製した消光防止性蛍光物質(直径300nm、励起波長542nm、蛍光波長612nm)の検量線データを図9に示す。ここでは中心波長520nmの緑色LEDの励起光を用い、緑色蛍光用フィルタを通して蛍光を検出した結果を示している。このときの検出限界密度はエラーバーが蛍光検出装置のバックグラウンド値の3σ(σは標準偏差)と交わった1.0×103個/mm2であった。
【0072】
この結果、φ300nmの消光防止性蛍光物質を用いると目標固定量(1.2×104個/mm2)の12分の1の固定量で検出可能であるといえ、1pM以下の抗原濃度で抗原検出が可能となる高感度化が達成できていることが明らかとなった。また、この結果から、消光防止性蛍光物質の粒径を300nmより小さくしても1pMの検体について測定可能であることが明らかである。同一密度で蛍光色素分子が内包されている場合、消光防止性蛍光物質1個あたりの蛍光発光量は消光防止性蛍光物質半径の三乗(r3)に比例する。従って、φ130nmの消光防止性蛍光物質を用いた場合、1個あたりの蛍光量はφ300nmの消光防止性蛍光物質の1/12倍になるが1pMの抗原濃度での検出が十分可能であるといえる。ここから、1pMの抗原濃度での検出を行うための消光防止性蛍光物質粒径の下限値はφ130nm程度と定められる。なお、ここでは、消光防止性蛍光物質中の蛍光色素分子密度が略一定であると想定している。
一方、消光防止性蛍光物質の粒径を大きくすると内包される蛍光色素分子量が増加するため蛍光信号強度も増大し検出光量の点で有利になるが、2次元平面上の一定面積に固定できる消光防止性蛍光物質の個数は立体障害の観点から固定量に限界がある。ダイナミックレンジ2桁として100pMを検出上限濃度とすると、固定量は1.2×106個/mm2となる。このとき、1つの抗原に対し1つの消光防止性蛍光物質が結合するとして最密充填となる大きさは、φ500nmである。このことから目標固定量を実現できる消光防止性蛍光物質の上限サイズはφ500nmである。
以上の観点から、消光防止性蛍光物質のさらに好ましい粒径は130nm〜500nmである。
【0073】
透光材料16としては、具体的には、ポリスチレンやSiOなどが挙げられるが、蛍光色素分子15を内包でき、かつ、この蛍光色素15からの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。消光防止性蛍光物質FBは蛍光色素分子15が透光材料16で覆われているものであるため、金属膜12上に金属消光防止のための膜を設けなくても、金属膜12と蛍光色素分子15との距離をある程度を離間させることができ、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して蛍光信号を検出することができる。消光防止性蛍光物質FBの透光材料16に含まれる蛍光色素分子15の数は1個でもよいが、複数であることがより好ましい。
【0074】
なお、光源21と消光防止性蛍光物質FBの好適な組合せの具体例としては以下の組合せが挙げられる。
例えば、波長655nmのLD光源(品番DL−3147−160F、DL−3357−165、StockerYale社製)に対して消光防止性蛍光物質(品番FC03F/8196、直径510nm、励起波長660nm、蛍光波長690nm、Bangs Laboratories社製)あるいは消光防止性蛍光物質(品番F8807、直径200nm、励起波長660nm、蛍光波長680nm、Molecular Probes社製)、もしくは波長635nmのLD光源(品番DL−3148−023、DL−3038−011、StockerYale社製)に対して、消光防止性蛍光物質(品番F8816、直径1000nm、励起波長625nm、蛍光波長645nm、Molecular Probes社製)の組合せがある。
【0075】
消光防止性蛍光物質FBへの2次抗体B2修飾方法および標識用溶液の作製方法の一例を説明する。
消光防止性蛍光物質溶液(品番FC03F/8196、直径510nm、励起波長660nm、蛍光波長690nm、Bangs Laboratories社)に50mM MESバッファーおよび、5.0mg/mLの抗hCGモノクロナール抗体(Anti−hCG 5008 SP−5、Medix Biochemica社)溶液を加えて撹拌する。これにより消光防止性蛍光物質FBへの抗体の修飾がなされる。
【0076】
次に、400mg/mLのWSC(品番01−62−0011、和光純薬)水溶液を加え室温で攪拌する。
さらに、2mol/L Glycine水溶液を添加し撹拌した後、遠心分離にて、粒子を沈降させる。
最後に、上清を取り除き、PBS(pH7.4)を加え、超音波洗浄機により消光防止性蛍光物質を再分散させる。さらに遠心分離を行い、上清を除いた後、1%BSAのPBS(pH7.4)溶液500μL加え、消光防止性蛍光物質を再分散させて標識用溶液とする。
【0077】
以下、上記に示した本実施形態による蛍光検出方法および蛍光検出装置の作用を説明する。
本実施形態においても、複数の金属微粒子Pを検出部の上に分散させて蛍光を光検出器30により検出しているため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
さらに、本実施形態のように蛍光標識として消光防止性蛍光物質FBを用いた場合には、金属微粒子Pに金属消光防止のための膜を設けなくても、金属微粒子Pと蛍光色素分子との距離をある程度を離間させることができる。第1および第2の実施形態において金属微粒子Pによる金属消光を防止するために必要であった誘電体層41を形成する手間をなくすことができ、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して蛍光信号を検出することができる。
【0079】
また、本実施形態の場合には、一つの抗原Aに対して多くの蛍光色素分子15が標識されていることになる。一方、金属膜12から距離があり電場増強場Ewでは充分に励起されない蛍光色素分子15は、金属微粒子Pによる電場増強場Ewの散乱光Lsによって励起することができる。以上により本実施形態では、第1の実施形態と同様のホットスポット40の効果に加え、より多くの蛍光色素分子15を励起することができるので、より高感度の蛍光検出が可能となる。
【0080】
<設計変更>
以上すべての実施形態において、金属微粒子Pを試料S中の溶媒に分散させて蛍光を検出する場合について説明してきたが、本発明は上記の場合に限られず、溶媒を乾燥させた後に蛍光を検出する方法としても本発明における課題を解決できる。
溶媒を乾燥させる方法は特に制限されるものではなく、静置乾燥および減圧乾燥等を用いことができる。
この場合、金属微粒子Pを検出部の表面に凝集させることができるため、より金属微粒子−金属微粒子間の隙間もしくは金属微粒子−金属膜間の隙間を密にすることができ、蛍光の増強度を向上させることが可能となる。また周囲の媒質が水(1.33)から空気(1.0)となる、すなわち周囲の媒質の屈折率が下がることにより、プラズモンおよびホットスポットにおける電場増強が強くなるというメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明による蛍光検出方法を実施するための装置の一例を概略的に示す部分断面図
【図2】第1の実施形態における蛍光検出工程を示す概略部分断面図
【図3】第1の実施形態における金属微粒子を分散させた検出部を示す概略部分断面図
【図4】第2の実施形態における金属微粒子を分散させた検出部を示す概略部分断面図
【図5】第3の実施形態における金属微粒子を分散させた検出部を示す概略部分断面図
【図6A】金属膜上に水溶媒層がある場合の電場Eを示す模式図
【図6B】金属膜上に消光防止性蛍光物質がある場合の電場Eを示す模式図
【図7】図6Aおよび図6Bの場合における入射光の入射角度と反射率との関係を示すグラフ
【図8】消光防止性蛍光物質の粒径と蛍光量との関係を示す図
【図9】消光防止性蛍光物質の検量線データを示す図
【符号の説明】
【0082】
12 金属膜
12a 誘電体プリズムおよび金属膜の界面
13 試料保持部
14 不撓性膜
15 蛍光色素分子
16 透光材料
21 光源
22 誘電体プリズム
30 光検出器
40 ホットスポット
41 誘電体層
S 試料
A 抗原
B1 1次抗体
B2 2次抗体
F・F’ 蛍光標識
FB 消光防止性蛍光物質
Li 励起光
Ls 散乱光
P 金属微粒子
Ew エバネッセント波
NL 近接場光
SP 表面プラズモン
90 試料中の不純物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プリズムの一面に設けられた金属膜を含む検出部に被検出物質を含む試料を供給し、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対して、該金属膜の上面に表面プラズモンによる電場増強場を発生せしめるように、該誘電体プリズムを通して励起光を照射し、該電場増強場の励起効果によって生じる、前記被検出物質に付与された蛍光標識からの蛍光を、光検出器により検出し、該光検出器によって検出された蛍光量に基づいて前記被検出物質の存在量を検出する蛍光検出方法において、
複数の金属微粒子を前記検出部の上に分散させて前記蛍光の検出を行うことを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項2】
前記金属微粒子の粒径が40〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出方法。
【請求項3】
前記金属微粒子がナノロッドであることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出方法。
【請求項4】
前記蛍光標識が、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過させると共に、金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の蛍光検出方法。
【請求項5】
前記検出部が、前記誘電体プリズムがある反対側の前記金属膜表面に、疎水性材料からなる膜厚10〜100nmの不撓性膜を有するものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の蛍光検出方法。
【請求項6】
前記不撓性膜が、ポリマー材料から構成されるものであることを特徴とする請求項5に記載の蛍光検出方法。
【請求項7】
前記試料中の溶媒を乾燥させた後に前記蛍光を前記光検出器により検出することを特徴とする請求項4から6いずれかに記載の蛍光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−276162(P2009−276162A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126685(P2008−126685)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】