説明

蛍光誘導体の製造方法

【課題】蛍光誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】特定のカルボン酸化合物と特定のアミノ化合物が共存する溶液中へ、特定の蛍光誘導体化試薬を加え、蛍光基と求核性官能基とを有する特定のリンカー化合物を調製した後、系内に脱水縮合剤を加え、縮合する式(5)


で表される蛍光誘導体であって、カルボン酸化合物が保護グルタチオン誘導体である蛍光誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質の活性に関与しないカルボキシル基等を介して蛍光誘導体化を行って得られる蛍光誘導体は、薬理活性を解明する目的で生体内分布の観察用途等に利用されている。
カルボン酸の蛍光誘導体を製造する際、蛍光誘導体化試薬として4-(2-アミノエチルアミノ)-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(以下、NBD-EDと記す)が知られているが、その調製方法は市販の4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(以下、NBD-Clと記す)と1,2-ジアミノエタンを反応させる方法が報告されている(例えば非特許文献1参照。)。
しかしながら、NBD-EDはニトロ基の強い吸引性から安定性が低く、その調製時に過剰なアミンにより分解して難溶性沈殿物が生じ、単離精製が煩雑であるという問題があった。そのため、NBD-Clと1,2-ジアミノエタンの反応により生成したNBD−EDを安定な状態で保持し、カルボン酸と反応させる技術が望まれていた。
一方で、ニトロ基をN,N-ジメチルアミノスルホニル基に代えより安定性を高めた4-(2-アミノエチルアミノ)-7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(以下、DBD-ED)が開発されているが(例えば特許文献1参照)、試薬メーカー等から入手する場合、DBD-EDやその原料である4-クロロ-7-クロロスルホニル-2,1,3-ベンゾキサジアゾールが高価であることが問題となっていた。
【特許文献1】特開平10−218871号公報
【非特許文献1】Tetrahedron、63、3754(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような状況のもと、本発明者は、比較的安価に入手可能な蛍光誘導体化試薬4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)と両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物から調製される蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物の分解を抑え、煩雑な操作なくカルボン酸と縮合させて蛍光誘導体を製造する方法を開発すべく鋭意検討したところ、カルボン酸と両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物の共存溶液に蛍光誘導体化試薬4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)を加えて系内に蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を調製し、当該蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を単離することなく、系内に脱水縮合剤を加え、求核性官能基と前記カルボン酸とを縮合することにより、目的とする蛍光誘導体が容易に得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、

1.式(1)

(式中、a,b及びcは、0〜20の整数を表し、mは1〜20の整数を表す。R1は、b個の末端アミノ基、(m+a)個の末端カルボキシル基、又はc個の末端チオール基を持つカルボン酸、アミノ酸或はペプチドにおいて、その末端アミノ基、末端カルボキシル基、及び末端チオール基以外の部位を表す。P1、P2,及びP3はそれぞれカルボキシル基、アミノ基、チオール基の保護基を表す。)
で表されるカルボン酸化合物と
式(2)

(x,y,及びzは、それぞれ独立に0〜20の整数を表し、R2は-NH-,-O-,-S-のいずれかの基を表す。R3は直接結合又は、-O-, -CH2-, -NHCOO-, -CONH-, -COO-, -SO2NH-, -HN-C(=NH)-NH-, -S-, -NR-, -NAr-, -CH=CH-, -C≡C-, -Ar-, -CO-Ar-NR-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。ここで、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を表す。)
で表されるアミノ化合物が共存する溶液中へ、式(3)

で示される蛍光誘導体化試薬である4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾールを加え、系内で式(4)

(式中,R2,R3,x,y,及びzは、前記と同じ意味を表す。)
で表される蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を調製した後、系内に脱水縮合剤を加え、式(4)で表されるリンカー化合物と式(1)で表されるカルボン酸とを縮合することを特徴とする式(5)

(式中,R1,R2,R3,a,b,m,x,y及びzは、前記と同じ意味を表す。)
で表される蛍光誘導体の製造方法;
2. 前記カルボン酸化合物が、式(6)

で示される保護グルタチオン誘導体である請求項1記載の蛍光誘導体の製造方法;
3.前記カルボン酸化合物が、式(7)

で示される保護グルタチオン誘導体である請求項1記載の蛍光誘導体の製造方法;
4.前記アミノ化合物が1,2-エチレンジアミンである請求項1〜3記載の蛍光誘導体の製造方法;等を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、比較的安価に入手可能な蛍光誘導体化試薬4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)とアミノ化合物から蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物をカルボン酸共存下に調製することで分解を抑え、該蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を単離することなく系内に脱水縮合剤を加えることより煩雑な操作なく蛍光誘導体を製造することができ有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
式(1)で表されるカルボン酸化合物(以下、カルボン酸化合物(1)と称する。)において、カルボキシル基の保護基P1としては、トリフルオロ酢酸等の酸で容易に脱保護することができるtert-ブトキシ基、トリフェニルメトキシ基などが挙げられる。また、ピペリジン等のアルカリで容易に脱保護することができるフルオレニルメトキシ基等が挙げられる。
【0007】
また、アミノ基の保護基P2としては、トリフルオロ酢酸等の酸で容易に脱保護することができるtert-ブトキシカルボニル基などが挙げられる。また、ピペリジン等のアルカリで容易に脱保護することができるフルオレニルメトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0008】
また、チオール基の保護基P3としては、トリフルオロ酢酸等の酸で容易に脱保護することができるトリフェニルメチル基などが挙げられる。また、ピペリジン等のアルカリで容易に脱保護することができるフルオレニルメトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0009】
以下に、保護基がチオール基に対してはトリフェニルメチル基(Trt基)、アミノ基に対してはtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、カルボキシル基に対しては、tert-ブチル基(t-Bu基)であるカルボン酸化合物の調製方法について説明する。保護する順序は、通常、まず、チオール基、次にアミノ基、最後にカルボキシル基の順で行い、Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545、Synthesis 1994,1063-1066等に記載の方法に準じて行う。
【0010】
式(6)

(式中、R1,a,b,c,mは前記と同じ意味を表す。)
で表されるカルボン酸原料への保護基の導入は、c≧1である場合、まず、チオール基をトリフルオロ酢酸存在下、トリフェニルメタノールと反応させ、式(7)


(式中、R1,a,b,c,及びmは、前記と同じ意味を表す。)
で表されるチオール保護体に変換し、チオール基を保護する(スキーム1参照)。

【0011】
次に、式(7)で表されるチオール保護体においてb≧1である場合、トリエチルアミン存在下、ジ-tert-ブチルジカルボネートと反応させ、式(8)

(式中、R1,a,b,c,及びmは前記と同じ意味を表す。)
で表されるチオール/アミン保護体に変換しアミノ基を保護する(スキーム2参照)

【0012】
さらに、式(8)で表されるチオール/アミン保護体においてa≧1である場合、チオール/アミン保護体をテトラヒドロフラン/tert-ブタノール混合溶媒中、ジメチルアミノピリジン存在下、ジ-tert-ブチルジカルボネートと反応させ、式(9)

(式中、R1,a,b,c及び,mは前記と同じ意味を表す。)
で表される式(1)で表されるカルボン酸化合物において、P1=-O-(t-Bu),P2=Boc,P3=-CH(Ph)3である化合物を得ることができる(スキーム3参照)。なお、ジ-tert-ブチルジカルボネートは、通常、保護したいカルボキシル基の2倍当量、すなわち2×a当量用いる。(aは上記式(9)中のaと同一である。)

【0013】
かくして得られるカルボン酸としては、具体的にいえば、例えば、Glu(Cys(S-Trt)-Gly-Ot-Bu)-OH、H-Cys(S-Trt)-OtBu, Glu(Cys(S-Trt)-Gly-OH)-Ot-Bu, Boc-Phe-Thr-Leu-Cys(S-Trt)-Phe-Arg(NH-Boc)-OH、アセチル-Arg(Boc)-Phe-Ala-Ala-Cys(S-Trt)-Ala-Ala-OtBuを挙げることができる。その他、市販のカルボン酸を用いることができるが、カルボキシル基以外に反応性官能基を持たない構造をもつことが望ましい。
【0014】
次に、式(2)で表されるアミノ化合物(以下、アミノ化合物(2)と称す。)は、両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物であり、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、2-アミノエタノール、2,2’-オキシビス(エチルアミン)、4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン等が挙げられ、通常市販されているものが用いられる。
【0015】
アミノ化合物(2)の使用量は、カルボン酸化合物(1)の無保護カルボキシル基に対して、通常0.5〜5モル倍以上であり、好ましくは0.8〜1.5モル倍である。
【0016】
蛍光誘導体化試薬である4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)は、市販されているものが用いられ、使用量はアミノ化合物(2)と同じモル量を用い、カルボン酸化合物(1)の無保護カルボキシル基に対して、通常0.5〜5モル倍以上であり、好ましくは0.8〜1.5モル倍である。
【0017】
脱水縮合剤としては、例えばN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、テトラフルオロほう酸2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(TBTU)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウム ヘキサフルオロホスフェイト(PyBOP)が挙げられ、その使用量は、カルボン酸化合物(1)の無保護カルボキシル基に対して、通常1〜5モル倍以上であり、好ましくは2〜3モル倍である。
【0018】
式(4)で表されるリンカー化合物(以下、リンカー化合物(4)と称す。)は、蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物である。
かかるリンカー化合物(4)は、アミノ化合物(2)と4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)とを反応させることによって調製される。
通常、カルボン酸化合物(1)とアミノ化合物(2)を溶媒中で混合し、NBD-Clを加えることにより実施される。次に、この系内に脱水縮合剤を加えることにより、系内で調製されたリンカー化合物(4)と未反応で残っているカルボン酸化合物(1)とで縮合反応が起こり、式(5)で表される蛍光誘導体が生成する。(スキーム4参照)
【0019】
反応溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、例えばトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばクロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、例えばアセトニトリル等のニトリル系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒等の単独もしくは混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量は特に制限されない。
【0020】
反応温度は、通常−50〜100℃である。
【0021】
反応終了後、反応液をそのままもしくは濃縮処理した後、水及び必要に応じて水に不溶の有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理することにより、蛍光誘導体を取り出すことができる。取り出した蛍光誘導体は、例えば再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【0022】
保護基を除去した蛍光誘導体の調製は、酸で除去可能な保護基を有する場合Tetrahedron Letter 1989, 30, 2739に準じ、トリアルキルシランが含有した含水トリフルオロ酢酸に溶解することにより実施できる。
トリアルキルシランとして、トリエチルシラン、トリイソプロピルシラン等を挙げることができ、通常、トリフルオロ酢酸に対して体積比で0.01〜0.5倍使用する。
保護基を除去した蛍光誘導体は、反応液にジエチルエーテル等の有機溶媒を加えることにより、沈殿物として容易に取り出すことが可能である。沈殿物をさらに再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。

【0023】
かくして得られる蛍光誘導体(5)を具体的に示すと、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、システイニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、{4-アミノ-4-[2-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、
【0024】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、システイニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、
【0025】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、システイニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、{4-アミノ-4-[5-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、
【0026】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、システイニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、{4-アミノ-4-[2-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エトキシカルボニル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、等を挙げることができる。
【実施例】
【0027】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
S-トリチルグルタチオンの合成


Crichらの方法(Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545.)に従い調製した。還元型グルタチオン(25g, 81.3mmol)とトリフェニルメタノール(21.2 g, 81.3 mmol)を1Lフラスコに仕込み、トリフルオロ酢酸(150mL)を室温で滴下した。1時間室温で攪拌後、ジエチルエーテル(300mL)を仕込み、析出した白色固体をろ過した。ジエチルエーテル(300mL)で固体を洗浄しS-トリチルグルタチオン(S-trityl glutathione)の粗生成物40gを得た。
【0028】
[実施例2]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオンの合成


Crichらの方法(Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545.)に若干の変更を加え調製した。前記実施例1で得られたS-トリチルグルタチオンの粗生成物全量をトリエチルアミン(50mL)−水(150mL)に溶かし、ジ-tert-ブチルジカルボナート(20 g, 90.4 mmol)のエーテル溶液(200mL)を滴下した。18時間室温で攪拌した後、飽和重曹水(200mL)でクエンチした。水層を3回酢酸エチル(100mL×3)で洗浄した後、固体の硫酸水素カリウムを加えて水層のpHを酸性に合わせた。3回酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、有機層を合わせて硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮乾固した。ヘキサンで結晶化し、N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン(32g, 2ステップ61%)の白色固体を得た。
【0029】
[実施例3]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノ-tert-ブチルエステルの合成


Takedaらの報告(Synthesis 1994, 1063-1066)と同様の反応条件で合成した。前記実施例2で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン(1g, 1.54mmol)とジ-tert-ブチルジカルボナート(0.67g, 3.08 mmol)のtert-ブタノール-THF溶液(1:1、40mL)にN,N-ジメチルアミノピリジン(0.062g, 0.51mmol)を加え、室温で撹拌した。18時間後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、1mmol/mL硫酸水素カリウム水溶液(50mL)と酢酸エチル(50mL)を加えて分液操作を行った。有機層を2回1mmol/mL硫酸水素カリウム水溶液(2×50mL)で洗浄した後、エバポレーターで濃縮乾固し、N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン tert-ブチルエステルの異性体混合物を得た。
【0030】
[実施例4]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノ−tert-ブチルエステル モノ−N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの合成

前記実施例3で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル(1.0g, 1.54mmol)及び1,2-エチレンジアミン(0.19g, 3.08mmol)のテトラヒドロフラン溶液(30mL)に7-クロロ-4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(0.61g, 3.08mmol)のTHF溶液(20mL)溶液を滴下した。1時間室温で撹拌後、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(0.39g, 3.08mmol)を加え、さらに18時間室温で撹拌した。エバポレータ−で溶媒を除去後、クロロホルムを加え不溶物をろ過により除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60、クロロホルム→クロロホルム−メタノール50:1→25:1)で精製しN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル モノN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの異性体混合物(0.40g, 29%)を得た。
ESI(+)-MS: m/z 911 [MH+ calcd. for C46H54N8O10S 911.37]
【0031】
[実施例5]
グルタチオン N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの合成

前記実施例4で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル モノN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミド3mgとトリフルオロ酢酸:トリイソプロピルシラン:水(100:5:5)の混液 0.1mLを混合し、20分間室温で撹拌した。ジエチルエーテル1mLを加え、遠心分離により沈殿した結晶を残して上澄みを除去した。同様にジエチルエーテル洗浄を3回繰り返した後、薄層クロマトグラフィー(TLCプレートRP-18F254S、THF−H2O 1:2)により精製し、グルタチオン N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミド(1.2 mg, 71%)を得た。 ESI(+)-MS:m/z 513 [MH+ calcd. for C18H24N8O8S 513.14]
【0032】
[比較例1]
N1-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イル)-エタン-1,2-ジアミン(NBD-ED)の合成及び単離
文献(Chem. Eur. J. 1999, 5, 922.)記載の方法にて調製した。1,2-エチレンジアミン(2.4g, 40mmol)のメタノール溶液(40mL)に7-クロロ-4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(400mg, 1mmol)を加え、室温で5分撹拌後沈殿物を濾過してエーテルで洗浄した。収量:392mg(88%)
【0033】
[比較例2]
比較例1で調製したNBD-ED (343mg,1.54mmol)、実施例3に従い調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル(1.0g, 1.54mmol)、テトラヒドロフラン(30mL)を混合した。混合液を観察したところ、NBD-EDはテトラヒドロフランに溶解しておらず、実施例4においてN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル存在下に調製した NBD-ED がテトラヒドロフランに溶解していた結果と異なる物性を有していた。さらに、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(0.39g, 3.08mmol)を加え、18時間室温で撹拌したものの、蛍光誘導体化は進行せず、目的物であるN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル モノN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、a,b及びcは、0〜20の整数を表し、mは1〜20の整数を表す。R1は、b個の末端アミノ基、(m+a)個の末端カルボキシル基、又はc個の末端チオール基を持つカルボン酸、アミノ酸或はペプチドにおいて、その末端アミノ基、末端カルボキシル基、及び末端チオール基以外の部位を表す。P1、P2,及びP3はそれぞれカルボキシル基、アミノ基、チオール基の保護基を表す。)
で表されるカルボン酸化合物と
式(2)

(x,y,及びzは、それぞれ独立に0〜20の整数を表し、R2は-NH-,-O-,-S-のいずれかの基を表す。R3は直接結合又は、-O-, -CH2-, -NHCOO-, -CONH-, -COO-, -SO2NH-, -HN-C(=NH)-NH-, -S-, -NR-, -NAr-, -CH=CH-, -C≡C-, -Ar-, -CO-Ar-NR-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。ここで、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を表す。)
で表されるアミノ化合物が共存する溶液中へ、式(3)

で示される蛍光誘導体化試薬である4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾールを加え、系内で式(4)

(式中,R2,R3,x,y,及びzは、前記と同じ意味を表す。)
で表される蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を調製した後、系内に脱水縮合剤を加え、式(4)で表されるリンカー化合物と式(1)で表されるカルボン酸とを縮合することを特徴とする式(5)

(式中,R1,R2,R3,a,b,m,x,y及びzは、前記と同じ意味を表す。)
で表される蛍光誘導体の製造方法。
【請求項2】
カルボン酸化合物が、式(6)

で示される保護グルタチオン誘導体である請求項1記載の蛍光誘導体の製造方法。
【請求項3】
カルボン酸化合物が、式(7)

で示される保護グルタチオン誘導体である請求項1記載の蛍光誘導体の製造方法。
【請求項4】
アミノ化合物が、1,2-エチレンジアミンである請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光誘導体の製造方法。