説明

蜂蜜製品中の胞子の含量を低減する方法およびこの方法で得られる蜂蜜製品

本発明は、蜂蜜製品中の胞子の含量を低減する方法およびこの方法で得られる蜂蜜製品に関する。蜂蜜製品を、高温で非常に短時間熱処理することによって、製品の変質なしに、高い死滅度が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蜂蜜製品中の病原性嫌気性細菌の胞子の危険性を、色および味に最小限の変化をもたらす、高温、短時間の熱処理により低減することに関する。この最小限の変化は、製品のHMF(ヒドロキシメチルフルフルアルデヒド、段落0013の定義を参照)含量の増加が15 mg/kg以下であることによって示される。
【背景技術】
【0002】
蜂蜜は、工業的に使用され、かつ、多くの消費者により直接消費される。蜂蜜が、恐らくミツバチにより拾い上げられた、クロストリジウムボツリヌス(Clostridium botulinum)の胞子を含有する場合があることは公知である。多くの国において、1歳未満の幼児による蜂蜜の消費は禁止されている。幼児においては、C. botulinumが腸内でコロニー形成することができ、幼児を病気にする毒の分泌を開始するからである(乳児ボツリヌス中毒症)。同様のことは、1歳以上の子供、および抗生物質で処置されているかまたは腸の障害を患っている成人にもあてはまる。
【0003】
蜂蜜は、創傷治療に広く用いられている。まれなケースにおいては、Clostridium botulismは、創傷内で成長することができる(創傷ボツリヌス中毒症)。
【0004】
この問題の複雑性および危険性が、EU's Scientific Committeeにより取り扱われ、刊行物「Honey and microbiological Hazards」に記載されている(2002年6月19〜20日採択)。この刊行物には、蜂蜜中の胞子を除去することができるプロセスは全くなく、蜂蜜中のC. botulinum胞子の発生率は低いことが多いため、蜂蜜の選択を分析によって行うことができないことも記述されている。さらに、蜂蜜の熱処理のための現在の慣行は、低温(85℃未満)、比較的短い保持時間(約10秒)で実施されていることも述べられている。この種の熱処理には、C. botulinumの胞子および他の胞子の発生率を低減する効果が全くなく、この処理の目的は、もっぱら蜂蜜中の結晶を溶解し、カビおよび菌の増殖をできる限り防止することである。
【0005】
熱処理において、Clostridium botulinumおよび他の胞子を死滅させるためには、110℃より高い温度と比較的長い(1秒より長い)保持時間とが必要であることが知られている。「Food microbiology」(Adams & Moss)によると、スポロゲネス菌(C. sporogenes)の胞子は、121℃での死滅時間(D121)が0.1〜1.5分であり、ボツリヌス菌(C. botulinum)の胞子のタイプAおよびBは、D121が0.1〜0.2分である。C. sporogenesは病原性ではなく、C. botulinumに非常に類似した形態ならびに幾分高い耐熱性を有するため、C. botulinumを死滅の評価のための試験微生物として好適である。この微生物をこの目的のために用いることは、加工産業においては一般的に知られている。
【非特許文献1】「Honey and microbiological Hazards」EU's Scientific Committee(2002年6月19〜20日採択)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蜂蜜に関しては、110℃より高く、かつ比較的長い(1秒より長い)保持時間での熱処理により、蜂蜜の風味と色がかなり変化することも知られている。HMF(ヒドロキシメチルフルフルアルデヒド)が、蜂蜜における加熱の影響および貯蔵変化の指標として使われている。蜂蜜を110℃より高い温度で1秒より長く熱処理することにより、HMF含量が、1 kg当たりHMF15 mgより多く増加し、風味と色がかなり変化する(麦芽のような風味および暗色化)。
【0007】
[定義]:
蜂蜜は、「EU Council Directive 2001/110/EC of 20 December 2001, enclosure II」においてより詳細に定義されている。
【0008】
蜂蜜に関連して用いられる多くの一般的な定義が、この「蜂蜜の指令(Honey Directive)」に見られる。
【0009】
蜂蜜製品は、蜂蜜、ローヤルゼリー、プロポリス、および/またはプロポリス抽出物を含む製品を意味すると解される。
【0010】
〔蜂蜜〕:
蜂蜜は、ミツバチ(Apis mellifera bees)によって、植物の花蜜から、または植物の生きている部分からの分泌物、もしくは植物の生きている部分で植物の液を吸収する昆虫の排泄物から、このミツバチがこれらを収集し、ミツバチ特有の特定の物質と混合し、貯蔵し、蜂の巣の中で熟成させることにより産生される、天然の甘い物質を意味すると解される。
【0011】
〔ローヤルゼリー〕:
若い蜂の頭の先端の腺から分泌される分泌物であり、蜂の幼虫のその幼生期の最初の2〜3日における餌として使われ、女王蜂の幼虫にはその全幼生期を通しての唯一の餌として与えられる。この分泌物は、高い含量のタンパク質、脂質、グリコシド、ビタミン、ホルモン、酵素、およびミネラルを有する。
【0012】
〔プロポリス〕:
プロポリスは、ミツバチによって加工された、樹脂をベースにした生の天然製品を意味すると解され、化学的に、例えば、テルペン類、桂皮酸、コーヒー酸、およびこれらのエステル類、アミノ酸、ならびにフラボノイド類からなる、多くの生物学的活性成分を含有する。
【0013】
〔プロポリス抽出物〕:
水またはアルコールで抽出されたプロポリスの成分。
「HMF」は、5-ヒドロキシメチルフルフラールを表す。このHMF値は、蜂蜜1 kg当たりのmg(mg/kg)で記載され、例えば熱処理による、蜂蜜の暗色化の指標になる。これは、DIN 10751/1にしたがって測定される。
【0014】
人間の消費に供することが意図された製品に使用される蜂蜜は、例えば、一般的に、20%以下の水分含量を有し、HMF含量が40 mg/kg以下でなければならない。
【0015】
「死滅率」は、死滅数の指標である。例えば、死滅率2は、数の減少が99%であり、死滅率3は、数の減少が99.9%である。
【0016】
「死滅時間」は、特定の温度で生存能力のある個体群を90%、すなわち1 log減少させるための時間である。
【0017】
「胞子」は、特定の微生物によって形成された、増殖性細胞として成長することができる耐性体である。
【0018】
「嫌気性胞子」は、分子酸素の非存在下で増殖性細胞として成長することができる胞子である。これらは、5日、37℃のDCRM法によって測定することができる。
【0019】
「胞子を含まない」とは、胞子の濃度が最大で1 cfu/gの製品である。
【0020】
「蜂蜜中の天然の嫌気性胞子」は、EUによる刊行物「Honey and microbiological Hazards」(2002年6月19〜20日採択)に記載されているデータによる、蜂蜜中に存在している可能性がある嫌気性胞子の数である。この数は、最大10 000 cfu/gであると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
[発明の概要]
驚くべきことに、蜂蜜を、110℃より高い温度にて1秒未満の保持時間で熱処理することによって、蜂蜜の色、風味、およびHMF含量の変化を最小限に抑えながら、多量の胞子を死滅させることができることが見いだされた。こうして、蜂蜜中に添加された嫌気性胞子(C. sporogenes)の数を、110〜140℃の温度での熱処理によって1 log〜8 log減少させることが達成された。この結果、蜂蜜中の天然の嫌気性胞子を減少させ、それによって、2歳未満の子供について、適度な量の蜂蜜の摂取により乳児ボツリヌス中毒症が発症する危険性を取り除くことができる方法がもたらされた。さらに、この蜂蜜は、創傷ボツリヌス中毒症の発症の危険性がない創傷治療にも有用である。本方法は、蜂からの他の分泌物(プロポリスおよびローヤルゼリー)または抽出物、およびこれらの調製されたシロップの処理にも有用である。胞子が、110℃より高い温度にて数秒もしくは数分の保持時間で低減され得ることは周知である。しかし、これにより、蜂蜜の風味および色の大幅な変化、およびHMF含量の15 mg/kgより多い増加がもたらされる。非常に短い保持時間により、出願人らの製品は、HMFにおいて最大15 mg/kgのわずかな増加によって示される、天然の色および風味を保つ。
【0022】
[発明の詳細な説明]
本発明は、以下を提供することを目的とする:
・天然の嫌気性胞子を含まず、HMF含量が40 mg/kg未満である、熱処理された蜂蜜製品。
・ハチミツまたはそのシロップの形態である、このような蜂蜜製品。
・プロポリスまたはそのシロップの形態である、このような蜂蜜製品。
・ローヤルゼリーまたはそのシロップの形態である、このような蜂蜜製品。
・液状のハチミツおよび他のハチミツ製品において、文献から公知である死滅時間より大幅に短い死滅時間が、110℃より高い温度にて1秒未満の保持時間での熱処理によって嫌気性胞子について得られる、方法。
・HMF含量の最大の増加を15 mg/kgに抑え、色、臭い、および風味に対する影響を最小限に抑えて、熱処理によって全ての天然の胞子を除去(低減)することができる、ハチミツの処理。
・処理後のHMFの最大値が40 mg/kgであり、熱処理前の蜂蜜中の濃度に対する増加が15 mg/kg以下に抑えられた、110℃より高い温度にて1秒未満の保持時間での蜂蜜の熱処理。
・蜂蜜もしくは蜂からの他の製品(ローヤルゼリー、プロポリスなど)またはこれらの抽出物が添加されたシロップの、110℃より高い温度にて1秒未満の保持時間での熱処理であって、嫌気性胞子数を低減し、かつ、風味および物理化学的性質を従来用いられている熱処理によるものより良く保つことを目的とする処理。
【0023】
本発明は、したがって、蜂蜜製品中のClostridium botulinumの胞子の天然の含量を、この製品を、110℃〜170℃で0.001秒〜1秒の間、例えば1〜1000 ミリ秒の間、HMF含量が有意に増加しないように熱処理することによって、顕著に低減または除去する方法に関する。
【0024】
「HMF含量の有意でない増加」は、消費を目的とする蜂蜜に用いる場合、15 mg/kg以下の増加を意味すると解される。指令においては、非工業用または製パン用の蜂蜜は、HMF含量が40 mg/kg以下でなければならない。
【0025】
これにより、HMF含量が40 mg/kg未満で、胞子を含まない蜂蜜製品の製造が可能になる。
【0026】
「顕著な低減または除去」は、1〜8の死滅(log 1〜log 8 cfu/グラム)、例えば、log 1、log 2、log 3、log 4、log 5、log 6、log 7、またはlog 8を意味すると解される。
【0027】
処理に用いる蜂蜜製品は、通常の前処理、例えば、濾過またはより低温での熱処理が行われたものでもよい。
【0028】
〔処理温度〕
有用な温度は、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃、160℃、165℃、または170℃である。より低い温度を用いると、短い処理時間では、全く胞子胞子が低減されないか、または胞子の低減が劣る。より高い温度を用いることはできるが、その結果、変色、風味、およびHMF含量の点で変質の危険性が高くなる。
【0029】
〔熱処理時間(保持時間とも呼ばれる)〕
熱処理時間は、約1ミリ秒〜約1000ミリ秒である。特に有利な保持時間は、1ミリ秒、2ミリ秒、3ミリ秒、4ミリ秒、5ミリ秒、6ミリ秒、7ミリ秒、8ミリ秒、9ミリ秒、または10ミリ秒である。しかし、より長い保持時間である、20ミリ秒、30ミリ秒、40ミリ秒、50ミリ秒、60ミリ秒、70ミリ秒、80ミリ秒、90ミリ秒、または100ミリ秒も有用である。最長で約1000ミリ秒までの保持時間、例えば、900ミリ秒、800ミリ秒、700ミリ秒、600ミリ秒、500ミリ秒、400ミリ秒、300ミリ秒、または200ミリ秒も用いることができる。
【0030】
言うまでもなく、高温にて短時間での処理が目標とされる。
【0031】
現在のところ、好ましい処理は、130℃の温度で0.01秒である。
【0032】
この処理は、100℃より高い温度および2〜1000ミリ秒の保持時間で製品を熱処理することが可能なプラントで達成することができる。このプラントは、輸液の原理にしたがって、または蒸気注入、水蒸気注入によって操作することができる。この種の業務用のプラントは、Niro、GEA、APV、およびTetra Lavalなどの会社から入手することができる。保持時間を決定することは完全に容易という訳ではないが、保持容器の大きさ、蒸気圧、バルブ位置、および物理的な蒸気データを含むプラントにおける多くの物理的条件に基づいて、Niroの欧州特許出願EP 1047303A2号の「ULTRA-SHORT HEAT TREATMENT METHOD FOR A LIQUID」に従って決定することができる。
【0033】
本発明は、上述した方法によって得られる蜂蜜製品にも関する。
【0034】
ハチミツは、出発物質のHMF含量次第で、HMF含量(mg/kg)が、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20未満のもの、またはさらに低い値のものであって、死滅率が1 log〜8 logのもの(2 log、3 log、4 log、5 log、6 logおよび7 logのものも含まれる)が得られる。得られた結果を以下に示した。同時に、3%未満に水分含量の増加を抑えることができる。例えば、新たに抜出された蜂蜜を処理することによって、さらに低いHMF含量(mg/kg)、例えば、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5を得ることができることは考えられないことではない。
【0035】
蜂蜜が既に有しているHMF含量の増加が起こるため、HMF含量をどれ位低くすることができるかを言うことは困難である。したがって、最高で15 mg/kgまでの増加、および最高で40 mg/kgまでの含量が許容可能である。目的は、処理を終えた蜂蜜における、最小限の増加および最低限のHMF含量である。予熱時間の最適化は、例えば、LSI-プラント(下記参照)において、本発明の熱処理の前に行っておくべきである。HMF含量の最大増加量は、14 mg/kg、13 mg/kg、12 mg/kg、11 mg/kg、10 mg/kg、9 mg/kg、8 mg/kg、7 mg/kg、6 mg/kg、5 mg/kg、4 mg/kg、3 mg/kg、2 mg/kgにまで低くすることが可能であると考えられる。出発時点において、実験で使用した蜂蜜は、28 mg/kgのHMF含量を有していて、存在しうる結晶を融解させるための通常の軽い熱処理(70℃の熱風を使った融解、および濾過前の54℃までの加熱)が、あらかじめ供給業者により行われたものであった。新たに抜出された蜂蜜が使われる場合、HMF含量は低く、1〜5 mg/kgであると推定される。天然の含量は、蜂蜜の種類によって異なり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
[実験]
以下の測定方法を用いた:
〔嫌気性胞子の低減(殺菌)〕
嫌気性胞子の低減は、適切な嫌気性胞子を添加し、熱処理の前後の胞子の濃度を測定することによって評価した。形態学、物質変換、および耐熱性に関しては、C. SporogenesはC. Botulinumに非常に類似している。この生物は、非病原性であり、したがってC. Botulinumに代わる試験生物として使用されることが多いため、出願人らはこの生物を使用した。接種は、約1リットルの増殖培地でC. Sporogenesを用いて行った。この培地を37℃に置き、この細菌を嫌気性条件下で増殖させた。存在する栄養が無くなり増殖が停止すると、培地を冷却した。これに関して、この増殖性細胞は胞子の形態をとると考えられる。胞子の含量を、顕微鏡的計数およびプレート散乱法による培養によって測定した。最少で1X105 cfg/gを蜂蜜へ添加することを目的とする。この胞子懸濁液において高い胞子濃度を得ることが、蜂蜜が希釈されすぎることを避けるために重要である。
【0037】
この胞子懸濁液を、ブルーキャップと呼ばれる、ねじぶたがついた1リットルの実験ボトル3個に満たす。これらのブルーキャップを、収納後直ちに冷所に貯蔵する。送液直前に、予熱した蜂蜜にこの胞子の液を攪拌しながら添加し、注意深く攪拌する。この胞子は、粘度が高く、滞留時間が短いため、LSIプラント(下記参照)のバランスタンク内の蜂蜜の中で沈殿すると予期することができない。蜂蜜中の浸透圧は、そうでなければ胞子の耐熱性を低くするであろう初期の発芽が起こらないことを確実にする。
【0038】
〔胞子の含量の測定〕
この分析法は、バチルス属の細菌およびClostridiumからの好気性胞子および嫌気性胞子に対するMPN(最確数)法および検討に基づいて確立した。方法論は、オキソイド−クロスレイミルクMPN法である。オキソイド社のクロスレイミルク培地Oxoid 0213を使用した。試料を、増殖性細胞を死滅させるため、および胞子の形成を活性化するために80℃で20分間熱処理する。段階的な希釈液をMPN原理にしたがって調製し、接種を、試料(希釈液)1 mlについて各3本で3列実施した。この試料を、温蔵庫内で、37℃で4日間インキュベートした。試料を読み取り、培地の色が紫色に変化した場合に陽性と判断した。
【0039】
〔熱処理温度〕
熱処理温度は、Ametek Denmark A/S社により提供された、接地された溶接部を有するFrode Pedersen Termoelement type K, No. 061901-1によって決定した。
【0040】
〔保持時間〕
処理時間(保持時間または滞留時間とも呼ばれる)は、保持容器の容積、製品の流量、および使用する蒸気濃度の計算から算出した。蒸気濃度は、減圧弁にかかる圧力の測定およびこの弁の特性により算出した。圧力損失は、2つの目盛りがついたデジタル圧力計を用いて測定した。製品の流量は、磁気流量計を用いて測定した。これらのデータを、データログによって連続的に収集した。この方法は、特に小さなプラントにおいて多少不確実性を伴うが、保持時間はいずれも1秒以下と測定された。大規模なプラントに対しては、正確な蒸気計測器が使われ得るため、計算された保持時間の精度が向上する。しかし、算出した値を、胞子の死滅速度論の決定のために用いた。
【0041】
〔HMFの測定〕
この分析法は、ブレーメンのHonninginstituttet Dr. C. Lullmannで対外的に作成された。この方法は、DIN 10751 , part 1に準拠していて、Winkierにより設計され、p-トルイジンと光度定量とを採用している。
【0042】
〔熱処理装置〕
UHT処理は、LSIにより設計された直接蒸気注入口を備えたパイロットUHTプラントで行った。LSIプラントは、Niro A/S(現在はGEA)(デンマーク、Gladsaxevej 305, Soborg)社の登録商標であるが、短い処理時間(2秒未満)の熱処理が可能な、商業的に入手可能な他のプラント、例えば、Ivensys APV社からのInstant Infusionがある。採用したこのプラントは、100 kg/時間の運転能力がある。このプラントは、100℃より高い温度、極めて短い保持時間(1秒未満)で運転するために設計されている。このことは、製品を保持容器から急速に排出する過剰の蒸気を供給することによって行われている。このプラントは、データログを備え、主要な操作データを熱力学的計算により算出することができる。
【0043】
UHTプラントの略図を図1に示す。図中の記号は以下の意味を有する:
T1=供給タンク、F1=フラッシュタンク、K1=凝縮器、PI=圧力計、TI=温度計、
P−1=供給ポンプ、
P−2=抜取りポンプ、P−3=真空ポンプ、LSI=LSIユニット、R=オリフィス、V1=蒸気減速弁、
V2=排気弁、V3=サンプリングゴム膜、V4=サンプリングコック、HI=保持容器。
LSIの操作は、Niro A/Sからの添付文書に記載されている。本方法は、他の製造業者からの相当するUHTプラントで実施することができる。
【実施例】
【0044】
〔蜂蜜中の胞子の低減〕
接種は、C. Sporogenesを用いて、約1リットルの増殖培地中で行った。この培地を37℃に置き、細菌を嫌気性条件下で増殖させた。存在する栄養が無くなり増殖が停止すると、培地を冷却した。この点に関連して、この増殖性細胞は胞子の形態をとると考えられる。胞子の含量を、顕微鏡的計数およびプレート散乱法による培養によって測定した。最少で1X105 cfg/gを蜂蜜に添加することを目的とする。この懸濁液において高い胞子濃度を得ることが、蜂蜜が希釈されすぎることを避けるために重要である。
【0045】
この胞子懸濁液を1リットルのブルーキャップ3個に満たす。これらのブルーキャップを、収納後直ちに冷所に貯蔵する。
【0046】
45 kgの蜂蜜を、ジャケットを50℃に加熱した状態でタンクに入れる。ジャケット中の水温は、55℃を超えないようにすることが重要である。この温度が高くなりすぎるかまたは加熱時間が長すぎると、HMP含量が増加し得るからである。この後、3リットルのC. Sporogenes懸濁液を添加する。注意深く攪拌する。胞子を含むこの蜂蜜の試料を分析のために採取する。LSIプラントの水の流動を開始し、LSI温度を140℃に、フラッシュ蒸気温度を55℃に設定する。プラントの稼働が安定すると、供給タンク内の水位を完全に落とし、胞子懸濁液を含有する蜂蜜を加える。この蜂蜜をプラント内で140℃に加熱し、この温度で1秒未満の間保持し、55℃に急速冷却する。プラントが安定に稼働している時に、蜂蜜の試料を急速冷却後に採取する。
【0047】
熱処理の前後の試料の、C. SporogenesおよびHMFを分析する。
【0048】
この実験を他の温度、例えば150、130、120、および110℃で繰り返すことができる。
【0049】
〔ローヤルゼリーシロップ中の胞子の低減〕
30 kgのシロップを、9 kgの水を秤量し、これを湯浴中で55℃に加熱することによって調製する。この後、水に溶解した18 kgのフルクトースを添加する。この溶液を、3 kgの凍結乾燥されたローヤルゼリーに加える。このローヤルゼリーシロップを胞子懸濁液に加え、LSIで蜂蜜と同様に処理する。LSI処理の前後の試料を同様に採取する。
【0050】
〔プロポリスシロップ中の胞子の低減〕
30 kgのシロップを、9 kgの水を秤量し、これを湯浴中で55℃に加熱することによって調製する。この後、水に溶解した18 kgのフルクトースを添加する。この溶液を、3 kgの凍結乾燥されたプロポリス抽出物(PWE-13、Prophararma社から)に加える。このプロポリスシロップを胞子懸濁液に加え、LSIで蜂蜜と同様に処理する。LSI処理の前後の試料を同様に採取する。
【0051】
約60%のフルクトースシロップを使用することによって、自己保存効果が得られる。酵母および細菌は、高い浸透圧では成長できないからである。フルクトースを使用することによって、さらなる結晶化が回避される。製品の表面の雰囲気が不活性ガス(例えば、窒素または二酸化炭素)であれば、細菌、酵母、およびカビの増殖が予防されるため、製品を安全に貯蔵することができる。
【0052】
[結果]
上述した一般的な方法を用いることにより、以下の結果が得られた。
【0053】
【表1】

【0054】
温度および保持時間で比較したHMFの生成(mg/kg)を、図2に示す。保持時間が1秒より長い試料は、湯浴中で加熱し、温度を、記載した多数の時間の間保持することにより調製した。
【0055】
LSI処理は、HMF含量を、120℃〜140℃で最高で10 HMF mg/kgまで増加させた。110℃では、HMF含量は影響を受けないようである。
【0056】
80℃〜90℃での加熱は、長い保持時間のため、HMF含量を有意に増加させるようである。80℃および90℃で、300および1800秒の保持時間の場合、胞子の低減が全く測定されなかった(結果は図示されていない)。
【0057】
LSI処理した蜂蜜については、指令による蜂蜜の基準である40 mg/kg以下というHMF含量を遵守するのに全く問題がないようである。
【0058】
【表2】

【0059】
図3に、得られた結果をグラフで示す。
【0060】
[結論]
図3から明らかなように、本発明の方法によって、計算された1秒未満の保持時間でC. sporogenesの胞子を非常に効果的に低減することが可能である。既に110℃で約1 logの低減が得られ、140℃では8 logの低減が得られる。この効果的な死滅により、良好なDt値(死滅時間)が得られる。文献によると、C. sporogenesは、0.1〜1.5分のD121、典型的には1分のD121を有する。本方法によって、驚くべきことに、120℃で8.59X10-5分のD121値、すなわち、その表の値の11000〜12000分の1の死滅時間が得られる。現在のところ、この非常に大きい効果の原因を説明することができないが、瞬間的な加熱および冷却により、従来の熱処理(時間がより長い)より顕著に高い死滅を生じさせるある種の歯止め効果があった可能性がある。
【0061】
死滅曲線、D121、Dt値は、文献に頻繁に記載されている。例えば、Pelczar,、Reid、およびChan、 Microbiology, 1977、または、Poul Erner AndersenおよびJorgen Risum「Indtroduktion til levnedsmiddel teknologien」、1989。
【0062】
HMF含量は、加熱中増加するが、UHT処理では低温での延長された加熱より増加が少ない。したがって、指令による基準である、1 kg当たりHMFの最大値40 mgを、蜂蜜のUHT処理で遵守することに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、UHTプラントの略図である。
【図2】図2に、HMFの生成を示す(mg/kg)。
【図3】図3に、蜂蜜中の胞子の死滅を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然の嫌気性胞子を含まず、HMF含量が40 mg/kg未満である、熱処理された蜂蜜製品。
【請求項2】
前記蜂蜜製品がハチミツまたはそのシロップである、請求項1に記載の蜂蜜製品。
【請求項3】
前記蜂蜜製品がプロポリスまたはそのシロップである、請求項1に記載の蜂蜜製品。
【請求項4】
前記蜂蜜製品がローヤルゼリーまたはそのシロップである、請求項1に記載の蜂蜜製品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製品の調製方法であって、天然の蜂蜜製品を110℃〜170℃にて0.001秒〜1秒の間の保持時間で熱処理することによって、HMFの濃度を1 kg当たりHMF15 mgより多く増加させることなく、前記天然の蜂蜜製品中の天然のクロストリジウムボツリヌス(Clostridium botulinum)の胞子の含量が顕著に低減または除去され、かつ、熱処理された製品中の前記HMF含量が1 kg当たりHMF40 mg未満である、調製方法。
【請求項6】
前記蜂蜜製品が、110℃〜140℃で0.001秒〜1秒の間熱処理される、請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記蜂蜜製品が、120℃〜130℃で0.001秒〜1秒の間熱処理される、請求項5に記載の調製方法。
【請求項8】
前記蜂蜜製品が、125℃で0.1秒の間熱処理される、請求項5に記載の調製方法。
【請求項9】
前記蜂蜜製品が、130℃で0.01秒の間熱処理される、請求項5に記載の調製方法。
【請求項10】
前記蜂蜜製品がハチミツまたはそのシロップである、請求項5〜9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項11】
前記蜂蜜製品がプロポリスまたはそのシロップである、請求項5〜9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項12】
前記蜂蜜製品がローヤルゼリーまたはそのシロップである、請求項5〜9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項13】
前記方法がUHTプラントで行われる、請求項5〜12のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項14】
請求項5〜13のいずれか一項に記載の調製方法によって得られる蜂蜜製品。
【請求項15】
HMF含量が40 mg/kg未満であり、死滅率が1〜8(1 log〜8 log cfu/g)である、請求項14に記載のハチミツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−519586(P2008−519586A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540496(P2007−540496)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000727
【国際公開番号】WO2006/050738
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(501295969)アルラ・フーズ・エイ・エム・ビィ・エイ (11)
【Fターム(参考)】