説明

蝉幼虫捕獲器

【課題】 蝉幼虫が脱皮のため樹木を登上する習性を利用し、幼虫の爪に掛かる材質の誘導帯体に移し取って、捕獲容器内へ落下させ、栽培者が不眠の夜間作業から解放され、効率的に捕獲作業を行える蝉幼虫捕獲器を提供する。
【解決手段】 果樹根元附近を鉢巻きする下辺縁を斜形に形成した塩化ビニール材質の蝉幼虫登上阻止フィルムと、前記登上阻止フィルム1の下辺縁から蝉幼虫を移し取る木製板材質の誘導帯体2と、その誘導帯体2の上部に形成した引掛け溝4に係止する捕獲容器3とから成る蝉幼虫捕獲器である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ネット栽培果樹園を快適な楽園のごとくして蔓延る蝉を、脱皮直前の幼虫段階で有効に駆除し、梨等の果実の品質維持、生産力確保に資する蝉幼虫捕獲器に関する。
【0002】
【従来の技術】梨園その他の果樹園においては、現在、ネット栽培が普及している。果樹園全体をネットでスッポリ覆うことにより、降雹、害鳥獣等の被害から免れ、また果実への袋掛け作業が割愛され、この無袋栽培により高糖度、高品質の果実が生産されることともなり、栽培者には計り知れない福音をもたらしている。
【0003】ところが、近年になって良いことづくめかに見えたネット栽培が、その虫篭状態故に、土中から発生し脱皮羽化した蝉成虫の園外への飛び出しを不可能とし、しかも天敵である野鳥などによる自然淘汰からも完全に保護された楽園と化し、その成虫によって樹木に産みつけられた無数の卵が翌春孵化し、小さな幼虫となって地面に下りて地下にもぐり、先住の幼虫に合流して膨大な数となって樹根に寄生し、養液摂取しながら、7年間過すという、果実栽培上由々しい弊害をもたらすに至っている。このような養液の収脱、根の損傷による樹木の漸次衰弱、果実の玉太りの不足という生産力の低下、品質劣化は、栽培業者にとり命取りになりかねず、かと言って以前の有袋栽培に戻るわけにもいかず、その解決策は急務を告げている現状にある。
【0004】これまでの対策としては、(イ)根元附近の樹木への滑りテープの巻き付け、(ロ)根元附近の樹木への強粘着テープの巻き付け、(ハ)農薬散布などが挙げられる。
【0005】このうち(イ)と(ロ)は、幼虫が脱皮のため夜間に樹木を登上する習性に着目した退治手段であるが、(イ)の滑りテープの場合は、滑り落ちる幼虫を人手により拾って歩く手間を要し、広い果樹園では重労働を強いられることになり、また時を切らず続々集ってくる幼虫はとても捕り切れるものではない。また(ロ)の強粘着テープの場合も幼虫の剥離に手間取り、また露天下での効果の持続性に問題があり、経済性もない。なお、これら(イ)と(ロ)は懐中電燈を携帯しての夜間作業であるため疲労度が大きい。さらに(ハ)の農薬の場合は、蝉が薬剤抵抗性の強い昆虫であることから、猛毒性のものが必要となり、これを幼虫自体あるいは地下に散布すれば、栽培者、消費者の健康阻害、地下水汚染の深刻な社会問題を惹起することになる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、基本的には蝉幼虫が脱皮のため樹木を登上する習性を利用し、幼虫の爪に掛かる材質の誘導帯体を介して蝉幼虫を樹木から移し取り、その誘導帯体に捕獲容器を組合わせることで、栽培者が不眠の夜間作業から解放され、効率的に捕獲作業を行える蝉幼虫捕獲器を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、果樹根元附近を鉢巻きする登上阻止フィルム1と、該フィルム1の外側に固定される誘導帯体2と、該誘導帯体2に着脱自在に装着される前記誘導帯体2側に蝉幼虫通過空間Sを設けた捕獲容器3とで蝉幼虫捕獲器を構成する。
【0008】そして上記構成において、登上阻止フィルム1が滑りテープ材質である蝉幼虫捕獲器である。
【0009】また上記構成において、登上阻止フィルム1の下辺縁が捕獲容器3の蝉幼虫通過空間Sへ向けて斜形を成す蝉幼虫捕獲器である。
【0010】そしてまた上記各構成において、誘導帯体2が木製板材質である蝉幼虫捕獲器である。
【0011】さらに上記各構成において、誘導帯体2が木製板材質で且つ上部に捕獲容器3の引掛け溝4を有する蝉幼虫捕獲器である。
【0012】さらに又上記各構成において、捕獲容器3が天蓋部3aと受入容器部3bとから成り、誘導帯体2の延長上の天蓋部3a内側登り面に防滑テープ5を敷設して成る蝉幼虫捕獲器である
【0013】そしてさらに又、捕獲容器3が天蓋部3aと受入容器部3bとから成り、誘導帯体2の延長上の天蓋部3a内側登り面に多数の小孔7を配設して成る蝉幼虫捕獲器である。
【0014】そしてさらに上記各構成において、捕獲容器3の天蓋部3aと受入容器部3bが分離可能に構成される蝉幼虫捕獲器である。
【0015】また、果樹根元附近を鉢巻きする登上阻止フィルム1と、該フィルム1の外側に固定される誘導帯体2と、該誘導帯体2と一体で該誘導帯体(2)側に蝉幼虫通過空間S形成した捕獲容器3とから成る蝉幼虫捕獲器である。
【0016】
【発明の実施の形態その一】以下図1に示す形態について説明すると、1が塩化ビニール材質の蝉幼虫登上阻止フィルムで、果樹根元附近に鉢巻き固定される。フィルム1の下辺縁が斜形を成しているのは、後に説明する蝉幼虫を捕獲容器3の蝉幼虫通過空間Sへ効率的に誘導するためである。2が果樹根元に登って来る蝉幼虫を、前記登上阻止フィルム1の下辺縁から移し取る木製板材質の誘導帯体2で、その上部に捕獲容器3の引掛け溝4を有し、前記登上阻止フィルム1の外側に番線6を介して結束固定される。
【0017】そして3が天蓋部3aと受入容器部3bとから成るプラスチック材質の捕獲容器3で、前記蝉幼虫通過空間Sがその天蓋部3aと一体形成され、前記誘導帯体2の上部の引掛け溝4に係止されている。そしてさらに誘導帯体2の延長上の天蓋部3a内側登り面には多数の小孔7を配設して蝉幼虫の登りつめるのを助ける。
【0018】
【発明の実施の形態その二】また、図3において1が果樹根元附近を鉢巻きする登上阻止フィルム、2が該フィルム1の外側に固定される誘導帯体2で、該誘導帯体2が捕獲容器3の天蓋部3aと一体成形され、該誘導帯体2の延長上の天蓋部3a内側登り面には防滑テープ5を敷設してある。
【0019】
【使用法】これを使用するには、図2に示すように、果樹根元附近に蝉幼虫の登上を阻止するための阻止フィルム1を鉢巻きし、その外側に誘導帯体2を固定し、さらにその誘導帯体2側に蝉幼虫通過空間Sが向くようにして捕獲容器3を係止する(誘導帯体2が捕獲容器3と一体成形されている態様においては、図3に示すように該誘導帯体2が阻止フィルム1の外側に番線やフックで固定されるのみで足りる)。
【0020】すると蝉幼虫は、地面に現われるや脱皮を急いで樹木を昇ろうとうするが登上阻止フィルム1に阻まれて(爪が立たず)一部は地表に落下するが、大多数はフィルム1の下辺縁を伝わって別の高所を求めるうち、本発明の誘導帯体2を恰好の登り場として次々に登上してくる。そして誘導帯体2をさらに登り詰めると引続き天蓋部3aの防滑テープ5を登上し(多数の小孔7を配設した態様においては小孔に爪を掛けながら登上し)、捕獲容器3の天蓋部3aの最上部において、バックはできないため自ら転落するか、後から登ってきた幼虫と縺れ合って捕獲容器3の受入れ容器部3b内に落下し滞留する。そして翌朝になったら、捕獲容器3を外して捕獲幼虫群を廃棄するものとする。
【0021】
【発明の効果】本発明は以上のようで、基本的には蝉幼虫が脱皮のため樹木を登上する習性を利用し、幼虫の爪に掛かる誘導帯体に移らせ、この誘導帯体に捕獲容器を組合わせることで、蝉幼虫が自ら囮にかかって出戻り不可能な捕獲容器内に連続的に捕獲されるから、これまでの栽培者の不眠による夜間捕獲作業が不要となり、また農薬散布を回避出来るものであり、ネット栽培でありながら蝉幼虫による樹木の衰弱、果実の玉太りの不足という生産力の低下、品質劣化を未然に防ぐことができる。構造も簡潔で、製作コストが低廉で済むことも大きな利点となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の斜視図
【図2】同上使用状態を示す側面図
【図3】本発明の別の実施形態の使用状態を示す側面図
【符号の説明】
1 登上阻止フィル
2 誘導帯体
S 蝉幼虫通過空間
3 捕獲容器
3a 天蓋部
3b 受入容器部
4 引掛け溝
5 防滑テープ
6 番線
7 小孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 果樹根元附近を鉢巻きする登上阻止フィルム(1)と、該フィルム(1)の外側に固定される誘導帯体(2)と、該誘導帯体(2)に着脱自在に装着される前記誘導帯体(2)側に蝉幼虫通過空間(S)を設けた捕獲容器(3)とから成る蝉幼虫捕獲器。
【請求項2】 登上阻止フィルム(1)が滑りテープ材質である請求項1記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項3】 登上阻止フィルム(1)の下辺縁が捕獲容器(3)の蝉幼虫通過空間(S)へ向けて斜形を成す請求項1又は2記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項4】 誘導帯体(2)が木製板材質である請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項5】 誘導帯体(2)が木製板材質で且つ上部に捕獲容器(3)の引掛け溝(4)を有する請求項4記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項6】 捕獲容器(3)が天蓋部(3a)と受入容器部(3b)とから成り、誘導帯体(2)の延長上の天蓋部(3a)内側登り面に防滑テープ(5)を敷設して成る請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項7】 捕獲容器(3)が天蓋部(3a)と受入容器部(3b)とから成り、誘導帯体(2)の延長上の天蓋部(3a)内側登り面に多数の小孔(7)を敷設して成る請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項8】 捕獲容器(3)の天蓋部(3a)と受入容器部(3b)が分離可能に構成される請求項6記載の蝉幼虫捕獲器。
【請求項9】 果樹根元附近を鉢巻きする登上阻止フィルム(1)と、該フィルム(1)の外側に固定される誘導帯体(2)と、該誘導帯体(2)と一体で該誘導帯体(2)側に蝉幼虫通過空間(S)形成した捕獲容器(3)とから成る蝉幼虫捕獲器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−258456(P2001−258456A)
【公開日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−120166(P2000−120166)
【出願日】平成12年3月16日(2000.3.16)
【出願人】(599009330)
【出願人】(599009341)
【出願人】(599009352)
【Fターム(参考)】