説明

蝶ダンパ

【課題】 本発明は、応力が分散又は低減できる形状を有し、高入力の信号に耐えうる蝶ダンパを提供する。
【解決手段】 内周枠3と、外周枠2と、内周枠3および外周枠2を連結するアーム部4と、が備えられるダンパであって、外周枠2に対するアーム部4の連結部分において、ダンパの駆動方向に対してアーム部4の両側に外周枠2の一部が存在するように、アーム部4の一端が連結されている。また、アーム部4の一端と内周枠3又は外周枠2とが連結される部分が、曲面形状に形成される。さらに、アーム部4は複数設けられ、内周枠3と、外周枠2と、アーム部4とは樹脂から成り、射出成形により一体成形される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スピーカ用の蝶ダンパに係り、より詳細には高入力用の蝶ダンパに関する。
【0002】
【従来の技術】図4(a)に示すように、従来の蝶ダンパ7は、内周枠9と、外周枠8と、この内周枠9と外周枠8とを連結するアーム部10とを備える。内周枠9内にはボイスコイルが挿入され、外周枠8が他の部材(例えば、スピーカのフレーム等)に固定される。ボイスコイルを駆動すると、柔軟性を有するアーム部10を介して支持された内周枠9がボイスコイルとともに振幅する。
【0003】従来の蝶ダンパ7では、部品の簡素化、射出の容易化等から、アーム部10と外周枠8とは面一となる面を形成するように、射出成形が行われていた。すなわち、図4(b)において、外周枠8の上面8aとアーム部10の上面10aとが面一となるように、アーム部10と外周枠8とが連結されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来、ボイスコイルに高入力の信号を入力すると、振幅も大きくなるため、アーム部に集中して応力がかかり、その応力に耐えきれずに破断または破壊してしまい、高入力に対応できないという問題点がある。
【0005】また、アーム部にかかる応力が集中する場所は、アーム部と外周枠との連結部であり、詳しくは連結部の小さい曲面が存在する部分である。
【0006】そこで本発明は、応力が分散又は低減できる形状を有し、高入力の信号に耐えうる蝶ダンパを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0008】請求項1の発明は、内周枠(3)と、外周枠(2)と、前記内周枠(3)と外周枠(2)とを連結するアーム部(4)と、が備えられるダンパであって、前記外周枠(2)に対する前記アーム部(4)の連結部分において、前記ダンパの駆動方向に対してアーム部(4)の両側に前記外周枠(2)の一部が存在するように、前記アーム部(4)の一端が連結されていることを特徴とするこの発明によれば、アーム部と外周枠とが連結される部分において、アーム部の一端が、アーム部の一端の周囲に外周枠の一部が存在するように備えられるため、ダンパが駆動することにより、内周枠が振幅しても、外周枠の一部が壁の役目を果たし、アーム部が大きく振幅するのを抑止でき、かかる応力が低減される。
【0009】請求項2の発明は、内周枠(3)と外周枠(2)とに連結されるアーム部(4)の端部が、曲面形状に形成されることを特徴とする。
【0010】この発明によれば、内周枠にかかる荷重により、内周枠と外周枠とが連結されるアーム部の端部近傍に応力が集中するので、その連結部分を曲面形状とすることにより、連結されるアーム部の端部近傍にかかる応力を分散させ、かかる応力の負担を軽減できる。
【0011】請求項3の発明は、アーム部(4)は複数設けられていることを特徴とする。
【0012】この発明によれば、入力値、蝶ダンパの大きさ等により、アームの長さ、幅等を最適な値に変えることが可能である。なお、上記値の選択によりアーム部の本数も変化するため、その本数に限定されない。
【0013】請求項4の発明は、内周枠(3)と、外周枠(2)と、アーム部(4)とは樹脂から成り、射出成形により一体成形されていることを特徴とする。
【0014】この発明によれば、射出成形により蝶ダンパを一体成形することにより、容易に加工することができる。また、本発明においては、形状のみで対応できるので、コストアップを招くことなく、性能のみを向上させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明である蝶ダンパに係る実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明である蝶ダンパの構造を示し、図1(a)は平面図、図1(b)はA−A断面図である。図2は本発明の蝶ダンパのアーム部と外周部の連結部Bの拡大図、図3は部分斜視図である。
【0016】この蝶ダンパ1は、リング状の外周枠2と、その外周枠2の内側に設けられたリング状の内周枠3と、上記外周枠2と内周枠3との間に設けられたアーム部4、4、4、4とを備える。
【0017】外周枠2は、外周面2aに他の部材(スピーカのフレーム等)と嵌合するための段差を有する嵌合部2bを備える。また、外周枠2の内周面2cには、アーム部4、4、4、4の一端が、一定間隔に連結される。なお、嵌合部2bは必ずしも段差を設けていなくてもよい。
【0018】アーム部4、4、4、4は、外周枠2と内周枠3との間に略S字状に引き伸ばされ、外周枠2と内周枠3とを弾性的に連結するアーム部本体4aを備える。本体4aの中央部分は、内周枠3と外周枠3との間に平行に配置され、本体4aの両端は、外周枠2又は内周枠3に略直交するように屈折した形状に形成される。またこの屈折した部分には、強度を上げるための凸部4b、…が備えられる。アーム部4の一端は、外周枠2の内周面2cに連結され、他端は、内周枠3の外周面3cに連結される。また、アーム部4、4、4、4の両端部である、内周枠3又は外周枠2との連結部分近傍は、曲面形状に形成される。また、アーム部4、4、4、4は、内周枠3と外周枠2との間に一定間隔をもって回転対称的に4対備えられる。
【0019】内周枠3の外周面3cには、上記アーム部4、4、4、4の他端が、一定間隔に連結される。内周枠3の内周面3bには、内側に向かって一定間隔に凸部3a、…が備えられる。この凸部3a、…に囲まれた孔5は、この内周枠3に挿入されるボイスコイル等の外径に合わせて形成され、ボイスコイル等の外周面は、この凸部3a、…により支持される。
【0020】図1〜図3に示すように、外周枠2に対するアーム4の連結部分において、ダンパ1の駆動方向(図において上下方向)に対してアーム4の両側(図2において上下)に外周枠2の一部が存在するように、アーム4の一端が連結されている。言い換えれば、アーム部4と外周枠2の連結部分において、外周枠2は、アーム部4に対し、図2において上下方向に、それぞれ突出するように形成されている。
【0021】この内周枠3と、外周枠2と、アーム部4、4、4、4と、は樹脂からなり、射出成形により一体成形されて形成される。この材質は、ポリプロピレン等のPBT樹脂が好適に使用される。また、射出成形により形成する理由としては、通常の打ち抜きによって形成されるダンパなどのように、素材の厚さの限定によりダンパの厚みが一義的とされ、要望する形状等を得ることが困難となるものに比べ、金型により厚さを適宜設定することができるので部分的な偏肉厚化も可能となり、変更等にも容易に対応できるからである。
【0022】また、内周枠3と外周枠2とに要求される強度について比較すると、外周枠2は、内周枠3に挿入されるボイスコイルの駆動による振動等を支持する必要があるので、内周枠3よりも強度が必要である。また、内周枠3は、ボイスコイルによる振動の影響があるため、柔軟性が必要である。そのため、外周枠2は断面形状が大で、厚肉となる形状とした方がよい。また、内周枠3は外周枠2に比べ、断面形状が小で、薄肉になるようにした方がよい。
【0023】ここで蝶ダンパの動作形態について詳細に説明する。
【0024】外周枠2と、内周枠3と、この外周枠2と内周枠3とに連結されるアーム部4、4、4、4と、が備えられる蝶ダンパ1は、外周部2が外周面2aに設けられた嵌合部2bにより、他の部材(スピーカのフレーム等)と嵌合され、固定される。内周枠3の孔5にはボイスコイルが挿入される。上記のように、ボイスコイルは、内周枠3の内周面3bに設けられた複数の凸部3a、…により弾性支持される。
【0025】ボイスコイルを駆動すると、ボイスコイルはその駆動方向(図1(b)においては上下方向)にピストン振動し、その振動と同期して内周枠3も前後に往復運動を行う。内周枠3が往復運動すると、内周枠3の外周面3cに連結したアーム部4、4、4、4は、その運動に合わせて弾性変形する。ボイスコイルが駆動される間、外周枠2は固定され、内周枠3により支持したボイスコイルから発生する振動は、内周枠3に連結したアーム部4、4、4、4の弾性変形により吸収される。
【0026】ボイスコイルに入力する値が高いと、ボイスコイルが発生する振動も大きくなり、それにともない内周枠3の振幅も大きくなる。内周枠3の振幅が大きい場合、内周枠3及び外周枠2とアーム部4、4、4、4と、が連結した部分に応力が集中してかかるため、その連結部分が破断(「破壊」とも言う。)する場合がある。
【0027】そのため、本実施形態では、ボイスコイル駆動時にアーム部4の振幅が大きくなるのを抑制するため、アーム部4の一端が連結される外周枠2の内周面2cにおいて、このアーム部4の端部の周囲に外周枠2が存在するように配置して連結される。このようにアーム部4の一端を外周枠2に連結することにより、ボイスコイル駆動時において、内周枠3の振幅によるアーム部4の動きがこの外周枠2によって抑制される。このため、アーム部4の振幅が押さえられるので、結果として内周枠3の振幅も押さえられ、かかる応力を低減できる。
【0028】また、本実施形態では、アーム部4、4、4、4と外周枠2の内周面2cとの連結部、及びアーム部4、4、4、4と内周枠3の外周面3cとの連結部、の両連結部近傍を曲面形状に形成する。曲面形状に形成することにより、応力を分散することができるので、ヒビ・割れ等を防止できる。
【0029】次に、従来の蝶ダンパと本発明の蝶ダンパにおいて、外周枠を固定し、内周枠に一定の荷重をかけた場合の応力測定の結果を表1に示す。図2及び図4(b)に示すように、従来と本発明の蝶ダンパの違いは、従来の蝶ダンパは外周枠とアーム部の連結部がL字状に形成されるのに対し、本発明の蝶ダンパの連結部は、T字状に形成される点にある。
【0030】
【表1】


【0031】上記表1における測定は、内周枠に9(N)の荷重をかけて測定を行った。また、蝶ダンパの材質はPBT樹脂を使用した。表1より、従来の蝶ダンパにおける最大応力は、4.41*107(N/cm2)であった。また、本発明の蝶ダンパにおける最大応力は、4.24*107(N/cm2)であった。本結果より、約4%の応力が低減されていることがわかる。
【0032】図3における範囲6、6は応力が集中する部分を示している、図3に示すように、アーム部4と内周枠3及び外周枠2の連結近傍の曲面が小さい部分に応力が集中する。なお、従来の蝶ダンパにおいても、アーム部と内周枠および外周枠の連結近傍には応力が集中する。
【0033】このように、荷重が加わり、曲げ等におけるアーム部にかかる応力は、アーム引き出し部(ここでは、アーム部と外周枠とが連結された部分をいう。)に集中する。また、本発明の蝶ダンパの場合、アーム部において、連結部近傍に小さい曲面が存在するため、その曲面に最大応力がかかる。従来の蝶ダンパは、外周枠の端部に連なるように、すなわち、外周枠2とアーム部4とが面一になるようにアーム部4が設けられていたため、振幅時に力が外周部までにおよび、外周部が若干持ち上がる等の理由から、振幅(変位)が大きくなり、応力が大きくなる傾向があったと推測される。本発明の蝶ダンパは、アーム部4の連結部の周囲に外周枠2の一部が存在するように設けているので、振幅を抑制でき、応力を低減できたものと思われる。
【0034】本発明は以上の実施形態に限定されることなく、種々の形態にて実施してよい。例えば、アーム部を設ける本数等は適宜変更できる。
【0035】
【発明の効果】以上に説明したように本発明に係る蝶ダンパによれば、応力が集中する部分において、応力が分散又は低減できる形状にした。また、形状変更によるコストアップがほとんどかからずに高入力の信号に耐えられるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明である蝶ダンパの(a)全体構造図、(b)A−A断面図である。
【図2】本発明である蝶ダンパのアーム部と外周枠との連結部Bの拡大図である。
【図3】蝶ダンパを示す斜視図である。
【図4】従来の蝶ダンパの(a)平面図、(b)C−C線断面図である。
【符号の説明】
2 外周枠
3 内周枠
4 アーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周枠と、外周枠と、前記内周枠と外周枠とを連結するアーム部と、が備えられるダンパであって、前記外周枠に対する前記アーム部の連結部分において、前記ダンパの駆動方向に対してアーム部の両側に前記外周枠の一部が存在するように、前記アーム部の一端が連結されていることを特徴とする蝶ダンパ。
【請求項2】 前記内周枠と外周枠とに連結されるアーム部の端部が、それぞれ曲面形状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の蝶ダンパ。
【請求項3】 前記アーム部は複数設けられていることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の蝶ダンパ。
【請求項4】 前記内周枠と、外周枠と、アーム部とは樹脂から成り、射出成形により一体成形されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蝶ダンパ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2002−262391(P2002−262391A)
【公開日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−55073(P2001−55073)
【出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】