説明

融合タンパク質、核酸、ベクター、細胞、LABの測定方法、並びに、LAB測定用キット

【課題】精度管理が容易で、確実かつ簡便にLAB(LOX-1 ligand containing ApoB)を測定する技術を提供する。
【解決手段】レクチン様酸化LDL受容体(LOX−1)に対して特異的に結合するタンパク質に、アポリポタンパク質B(ApoB)の全長又は部分断片が連結されてなる融合タンパク質が提供される。LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質として、抗LOX−1抗体が例示される。当該融合タンパク質は、LOX−1とApoBに対する特異的結合性に関して人工的に作製した酸化LDL(人工酸化LDL)と同等の機能を備えると共に安定性に優れ、従来のLAB標準品に代わる新たな標準品として使用できる。当該融合タンパク質をLAB標準品として使用するLABの測定方法、当該融合タンパク質を含むLAB測定用キットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質、核酸、ベクター、細胞、LAB(LOX-1 ligand containing ApoB)の測定方法、並びに、LAB測定用キットに関し、さらに詳細には、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質にApoBの全長又は部分断片が連結されてなる融合タンパク質、当該融合タンパク質をコードする核酸、当該核酸が導入されたベクター、当該ベクターを含む細胞、当該融合タンパク質を用いたLABの測定方法、並びに、当該融合タンパク質を含むLAB測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
低密度リポタンパク質(LDL)は所謂悪玉コレステロールと呼ばれるものであり、動脈硬化の発症と密接に関連しているといわれている。LDLは、アポリポタンパク質B(以下「ApoB」と称する。)と種々の脂質から構成されている。
【0003】
また、動脈硬化の重要な危険因子(リスクファクター)である高LDLコレステロール血症においては、LDLそのものではなく、酸化LDL(oxidized LDL)がその生物活性を担っているといわれている(非特許文献1)。
【0004】
酸化LDL受容体の一種として、レクチン様酸化LDL受容体(Lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1,以下「LOX−1」と称する。)が見出されており、その機能解析が急速に進められている(非特許文献1)。LOX−1は細胞膜一回貫通型の膜タンパク質であり、その詳細な構造はすでに明らかにされ、遺伝子もクローニングされている(特許文献1、非特許文献1)。また、血液中に可溶性LOX−1(soluble LOX-1、以下「sLOX−1」と称することがある。)が存在することが知られている。
【0005】
最近、酸化LDLに代表されるLAB(LOX-1 ligand containing ApoB)の濃度とsLOX−1濃度との積で表される新しい指標「LOXインデックス」(LOX-1 Index)が、心血管障害(cardiovascular disease; CVD)の将来の発症リスクを反映していることが明らかとなり、注目されている(非特許文献2、参考文献[4])。LABとは、LOX−1に結合する活性をもつ生体内物質であってApoBをその分子内に含むものである。LABの代表例は酸化LDLである。
【0006】
LOX−1インデックスの値を得るためには、血清中のLAB濃度とsLOX−1濃度を測定する必要があるが、いずれもサンドイッチELISAによる測定系が確立されている。例えば、LABは、固相化LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチELISAにより測定することができる(非特許文献1,2)。このサンドイッチELISAの系は、人工的に酸化処理したLDLを強く認識するが、酸化処理をしていないLDLにはほとんど反応しない。
このように、生体にはLOX−1に結合しかつ抗ApoB抗体で認識される脂質、すなわちLABが存在し、人工的に酸化したLDLはLABにかなり近い性質を持っているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−98787号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日薬理誌,第119巻,p145−154,2002年
【非特許文献2】クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry),第56巻,第4号,p550−558,2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本発明者らは前記サンドイッチELISAによる血中LABの測定を重ねる過程で、新たな課題を見出した。すなわち、サンドイッチELISAによって血中LABを測定する場合には、検量線を引くための標準品(標準物質、標準タンパク質)が必要である。上記LAB測定において従来から用いられている標準品は、血清から超遠心分離によって得られたLDLを、銅イオンの触媒下で人工的に酸化することにより作製されていた(以下、「人工酸化LDL」と称することがある。)。ところが、このようにして作製された標準品(人工酸化LDL)は、血漿から調製した脂質であるがゆえに、安定性が悪く、長期保存が難しい。また、その性質上、凍結保存に適していない。さらに、原料となる新鮮血漿を同一人物から大量に得ることは難しく、同一ロットの人工酸化LDLを大量に確保することは難しい。加えて、銅イオン触媒下での酸化反応の条件管理が難しく、ロット間のバラツキがさらに生じやすい。そのため、LABの測定に携わる研究者は、標準品(人工酸化LDL)の安定性を考慮して、標準品の調製後のできるだけ短期間にLABの測定を行わなければならかった。さらに、標準品のロット間差を常に考慮して精度管理を行う必要があった。
【0010】
上記現状に鑑み、本発明は、精度管理が容易で、確実かつ簡便にLABを測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するための方策について、鋭意検討を重ねた。その結果、LOX−1に対する抗体(抗LOX−1抗体)等のLOX−1に対して特異的に結合するタンパク質とApoBとを融合させた融合タンパク質が、LOX−1と抗ApoB抗体に対して人工酸化LDLと同様の特異的結合性を示すことを見出した。さらに、当該融合タンパク質が安定性に優れており、かつ従来の人工酸化LDLに代わる新たな標準品として使用できることを見出した。これらの新しい知見に基づいて完成された本発明は、以下のとおりである。
【0012】
請求項1に記載の発明は、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質に、ApoBの全長又は部分断片が連結されてなる融合タンパク質である。
【0013】
本発明は融合タンパク質(キメラタンパク質ともいう)に係るものであり、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質に、ApoBの全長又は部分断片が連結されてなるものである。本発明の融合タンパク質は、LOX−1に対する特異的結合性と、抗ApoB抗体に対する特異的結合性の両方を有しており、LOX−1と抗ApoB抗体に対する特異的結合性に関して人工酸化LDLと同等の機能を備えている。本発明の融合タンパク質は、例えば、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイによるLAB測定において、従来の標準品(人工酸化LDL)に代わる安定性に優れた新たな標準品として使用することができる。また、組換えDNA技術による大量生産が可能であり、同一ロットのLAB標準品を大量に提供することができる。
【0014】
LAB(LOX-1 ligand containing ApoB)とは、LOX−1に結合する活性をもつ生体内物質であってApoBをその分子内に含むものを指す。LABの代表例は酸化LDLであるが、結合活性があればそれに限定されない。LABの詳細については、例えば、Kakutani M., et al., Biochem Biophys Res Commun. 2001 Mar 23;282(1):180-5.に記載されている。
【0015】
「LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質」の例としては、LOX−1に対する抗体(抗LOX−1抗体)、C反応性タンパク(C reactive protein;CRP)、heat shock protein 70(HSP70)等が挙げられる。
【0016】
請求項1に記載の融合タンパク質において、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質は、LOX−1に対する抗体である構成が好ましい(請求項2)。
【0017】
請求項3に記載の発明は、LOX−1に対する抗体は、抗体の機能的断片である請求項2に記載の融合タンパク質である。
【0018】
本発明の融合タンパク質においては、LOX−1に対する抗体が「抗体の機能的断片」であり、分子量が小さい。そのため、取扱いが容易であるとともに、組換えDNA技術による生産が容易である。
【0019】
請求項3に記載の融合タンパク質において、抗体の機能的断片はFv型抗体であることが好ましい(請求項4)。
【0020】
請求項2〜4のいずれかに記載の融合タンパク質において、LOX−1に対する抗体は、その可変領域について、下記(a)と(b)のいずれか一方又は両方を満たす構成が好ましい(請求項5)。
(a)重鎖可変領域が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有するものである、
(b)軽鎖可変領域が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有するものである。
【0021】
請求項6に記載の発明は、ApoBの部分断片は、ヒトApoB48におけるアミノ酸番号28−97の領域、アミノ酸番号432−566の領域、及びアミノ酸番号1049−1058の領域からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の融合タンパク質である。
【0022】
ヒトApoBには2つのアイソフォームApoB48とApoB100がある。ヒトApoB48は2179個のアミノ酸からなる。そして本発明の融合タンパク質は、ヒトApoB48におけるアミノ酸番号28−97の領域、アミノ酸番号432−566の領域、及びアミノ酸番号1049−1058の領域からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域を含むApoB部分断片を有している。本発明の融合タンパク質は、ApoBの部分断片を有するものであるので、全体の分子量が小さい。そのため、取扱いが容易であるとともに、組換えDNA技術による生産が容易である。また、前記した3つの領域は、いずれも抗ApoB抗体のエピトープとして既に報告されており、かつ本発明者らがエピトープとしての機能を今回あらためて検証したものである。そのため、本発明の融合タンパク質は、抗ApoB抗体との結合性(反応性)を確実に発揮できる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸である。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の核酸が導入されたベクターである。
【0025】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のベクターを含む細胞である。
【0026】
本発明の核酸、ベクター、又は細胞を用いることにより、本発明の融合タンパク質を生産することができる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、LOX−1と抗ApoB抗体に対してLABが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質をLABの標準品として用い、当該標準品との比較により試料中のLABを測定するLABの測定方法である。
【0028】
本発明はLABの測定方法に係るものである。本発明のLABの測定方法は、LOX−1と抗ApoB抗体に対してLABが有する特異的結合性を利用したものであり、本発明の融合タンパク質をLABの標準品として用い、当該標準品との比較により試料中のLABを測定する。すなわち、本発明の融合タンパク質は、LOX−1に対する結合性と抗ApoB抗体に対する結合性を併せ持つので、人工酸化LDLの代替物質として使用可能である。さらに、本発明の融合タンパク質は、人工酸化LDLと比較して安定性に優れている。本発明のLABの測定方法は、人工酸化LDLを標準品として用いる従来の方法よりも精度管理が容易であり、LABの測定を確実かつ容易に行うことができる。
【0029】
「LOX−1と抗ApoB抗体に対して酸化LDLが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法」の例としては、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたイムノアッセイ(サンドイッチ法、競合法など)が挙げられる。
【0030】
請求項11に記載の発明は、LOX−1と抗ApoB抗体のいずれか一方は、支持体に固定化されている請求項10に記載の酸化LDLの測定方法である。
【0031】
かかる構成により、例えば、固相法によるイムノアッセイが可能となる。支持体の例としては、マイクロタイタープレート、ビーズ等が挙げられる。
【0032】
請求項12に記載の発明は、請求項10又は11に記載のLABの測定方法に用いるためのキットであって、請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質を含む酸化LDL測定用キットである。
【0033】
本発明はLAB測定用キットに係るものであり、本発明の融合タンパク質を含むものである。本発明のLAB測定用キットによれば、本発明の融合タンパク質をLAB標準品として使用することができるので、LAB標準品を別途調製する必要がなく、簡便である。さらに、当該標準品たる融合タンパク質は安定性に優れているので、LAB測定における精度管理が容易であり、LABの測定を確実かつ容易に行うことができる。
【0034】
請求項12に記載のLAB測定用キットにおいて、LOX−1及び/又は抗ApoB抗体をさらに含む構成が好ましい(請求項13)。
【発明の効果】
【0035】
本発明の融合タンパク質は、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイ等によるLAB測定において、従来の人工酸化LDLに代わる安定性に優れた新たな標準品として使用することができる。また、組換えDNA技術による大量生産が可能であり、同一ロットのLAB標準品を大量に提供することができる。
【0036】
本発明の核酸、ベクター、又は細胞を用いることにより、本発明の融合タンパク質を組換えDNA技術により生産することができる。
【0037】
本発明のLABの測定方法は、精度管理が容易であり、LABの測定を確実かつ容易に行うことができる。
【0038】
本発明のLAB測定用キットによれば、LAB測定の精度管理が容易であり、LABの測定を確実かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】抗LOX−1抗体の可変領域のアミノ酸配列とCDR1〜3の位置を表す説明図であり、(a)は重鎖可変領域、(b)は軽鎖可変領域を示す。
【図2】(a)と(b)はいずれも本発明の融合タンパク質におけるLOX−1結合タンパク質部分とApoB部分との連結の一態様を示す説明図である。
【図3】ヒトApoB48における4つのエピトープとそれらを含むApoB断片B1〜B4の関係を示す説明図である。
【図4】実施例で構築した発現ベクターと融合タンパク質の構造を示す説明図である。
【図5】融合タンパク質の構築過程の概要を示す説明図である。
【図6】マウス抗LOX−1抗体のヒトLOX−1への反応性を調べたELISAの結果を示すグラフである。
【図7】Fv型抗LOX−1抗体のヒトLOX−1への反応性を調べたELISAの結果を示すグラフである。
【図8】組換え細胞の培養上清に対するウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図9】組換え細胞の細胞ライセートに対するウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図10】ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体のApoB断片に対する反応性を調べたELISAの結果を示すグラフである。
【図11】融合タンパク質に対するウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図12】融合タンパク質のヒトLOX−1に対する反応性を調べたELISAの結果を示すグラフである。
【図13】融合タンパク質のヒトLOX−1に対する反応性を調べたウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図14】ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体の融合タンパク質に対する反応性を調べたELISAの結果を示すグラフである。
【図15】ヒトLOX−1とヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAによって融合タンパク質を測定した結果を示すグラフである。
【図16】人工酸化LDLのヒトLOX−1への反応性をロット間で比較したELISAの結果を示すグラフである。
【図17】融合タンパク質のヒトLOX−1への反応性をロット間で比較したELISAの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の融合タンパク質は、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質に、ApoBの全長又は部分断片が連結されてなるものである。本発明の融合タンパク質は、「LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質」の部分(以下、「LOX−1結合タンパク質部分」と称することがある。)と、「ApoBの全長又は部分断片」の部分(以下、「ApoB部分」と称することがある。)を有する。
【0041】
LOX−1結合タンパク質部分とApoBの全長又は部分断片との連結様式としては、ペプチド結合を介した連結が代表的である。以下の説明では、ペプチド結合を介して連結された態様について説明する。なお、ペプチド結合以外の連結様式としては、LOX−1結合タンパク質部分とApoBの全長又は部分断片とを合成化学的手法により連結させたものが挙げられる。
【0042】
LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質としては、LOX−1に対する抗体(抗LOX−1抗体)が代表的である。すなわち、好ましい実施形態では、LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質がLOX−1に対する抗体である。以下、本実施形態の融合タンパク質における「LOX−1に対する抗体」の部分を「抗LOX−1抗体部分」と称することがある。
【0043】
本実施形態におけるLOX−1に対する抗体(抗LOX−1抗体)と抗LOX−1抗体部分について説明する。なお、本発明において「抗体」という用語は、通常、「免疫グロブリン」に置き換えることができる。
【0044】
本実施形態の融合タンパク質における抗LOX−1抗体部分を構成する抗体としては、LOX−1に結合する抗体であれば特に限定はない。ここで、LOX−1の由来としては特に限定はなく、ヒト、マウス、ウシなど全てのLOX−1が対象となり得る。また、抗LOX−1抗体の由来としては特に限定はなく、所望のLOX−1に対して結合するものであれば全て対象となり得る。一例として、ヒトLOX−1に対して特異的に結合するマウス抗LOX−1モノクローナル抗体#10−1(後述の実施例および参考文献[1]に記載)を挙げることができる。
【0045】
抗LOX−1抗体部分を構成する抗体のクラス(アイソタイプ)も特に限定されない。例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等、いずれのクラスであってもよい。さらに、抗体のサブクラスについても特に限定はなく、例えば、IgGであれば、IgG1、IgG2、IgG3等のいずれのサブクラスであってもよい。
【0046】
本実施形態において、「LOX−1に対する抗体」には、全長の免疫グロブリンからなる抗体と、免疫グロブリン可変領域を含む「抗体の機能的断片」の両方が含まれる。ここで抗体の機能的断片とは、抗体の一部分であって抗体の抗原への作用を少なくとも1つ保持するものを指す。抗体の機能的断片の例としては、VH、VL、Fv(scFv、VH−VLと同義)、Fab、及びF(ab’)2、等が挙げられる。さらに、これらの機能的断片と定常領域との連結体も、本発明における抗体の機能的断片として用いることができる。
【0047】
好ましい実施形態では、抗LOX−1抗体部分がFv型抗体である。Fv型抗体(scFv、VH−VL)は重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とが連結されてなる抗体の機能的断片であり、分子量が比較的小さいため、取扱いが容易である。
【0048】
抗LOX−1抗体の可変領域の遺伝子をクローニングすることにより、当該抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列、並びに、各鎖の相補性決定領域(CDR)を決定することができる。本実施形態の融合タンパク質における「抗LOX−1抗体部分」を構成する抗体の、各可変領域のアミノ酸配列とCDRの例を、図1に示す。すなわち、本発明の融合タンパク質における1つの実施形態において、LOX−1に対する抗体(抗LOX−1抗体部分)は、その可変領域について、下記(a)と(b)のいずれか一方又は両方を満たす。
(a)重鎖可変領域が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有するものである、
(b)軽鎖可変領域が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有するものである。
【0049】
上記した実施形態では「LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質」として抗LOX−1抗体を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。「LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質」の他の例としては、C反応性タンパク(CRP)、HSP70等が挙げられる。これらのタンパク質の場合も、LOX−1に対して特異的に結合するものである限り、その全長のみならず部分断片であってもよく、アミノ酸置換等の変異が導入されたものであってもよい。
【0050】
次に、本発明の融合タンパク質における「ApoBの全長又は部分断片」(ApoB部分)について説明する。
【0051】
ApoBの由来としては特に限定はなく、ヒト、マウス、ウシなど全てのApoBが対象となり得る。
【0052】
本発明の融合タンパク質におけるApoB部分は、「ApoBの全長」と「ApoBの部分断片」のいずれかで構成される。抗ApoB抗体に特異的に認識されるものである限り、いずれを用いてもよいが、取扱いの容易さの点では、分子量が小さいApoBの部分断片が好ましく用いられる。
【0053】
ApoBの部分断片としては、抗ApoB抗体に特異的に認識されるものであれば特に限定はない。1つの例として、ApoBの既知のエピトープを含む部分断片を用いることができる。
【0054】
好ましい実施形態では、ApoB部分が、ヒトApoB48におけるアミノ酸番号28−97の領域、アミノ酸番号432−566の領域、及びアミノ酸番号1049−1058の領域からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域を含む。これらの領域は、ヒトApoB48のエピトープとしてすでに報告されているものであり(参考文献[5][6])、かつ本発明者らが今回エピトープとしての機能を検証したものである。ApoB部分は、これらの領域の1つのみを含むものでもよいし、2つ以上を含むものでもよい。
ここで、ヒトApoB48の遺伝子(cDNA)の塩基配列と対応のアミノ酸配列を、配列番号7と8に示す。さらに、アミノ酸番号28−97に相当する領域のアミノ酸配列を配列番号9に、アミノ酸番号432−566に相当する領域のアミノ酸配列を配列番号10に、アミノ酸番号1049−1058に相当する領域のアミノ酸配列を配列番号11に、それぞれ示す。
【0055】
本発明におけるApoBには、ApoBのアイソフォームが含まれる。例えば前述のとおり、ヒトApoBにはApoB48とApoB100の2つのアイソフォームが知られている。本発明の融合タンパク質においては、ApoB部分として、ヒトApoB48とヒトApoB100の両方が採用可能である。
【0056】
本発明におけるApoBには、天然に存在するApoB(ネイティブApoB)の他、アミノ酸の置換、欠失、挿入等による変異が導入されているがネイティブApoBと機能的に同等とみなせる変異型ApoBも含まれる。すなわち、当該変異型ApoBの全長と部分断片の両方が、本発明の融合タンパク質における「ApoB部分」を構成することができる。
【0057】
なお、本発明の融合タンパク質におけるLOX−1結合タンパク質部分(例えば、抗LOX−1抗体部分)とApoB部分との連結の態様としては、LOX−1結合タンパク質部分のC末端とApoB部分のN末端とが連結された態様(図2(a))と、LOX−1結合タンパク質部分のN末端とApoB部分のC末端とが連結された態様(図2(b))の両方が含まれる。また、スペーサー等の配列を介してLOX−1結合タンパク質部分とApoB部分とが間接的に連結されていてもよい。
さらに、本発明の融合タンパク質には、LOX−1結合タンパク質部分とApoB部分以外のタンパク質やペプチドが含まれていてもよい。例えば、前記したスペーサーの様な介在配列の他、特定の機能等を持たせた配列をN末端やC末端に付加したり、LOX−1結合タンパク質部分とApoB部分の間に介在させてもよい。
【0058】
本発明の融合タンパク質は、例えば、当該融合タンパク質をコードする核酸を発現させることにより製造することができる。例えば、LOX−1結合タンパク質部分(例えば、抗LOX−1抗体部分)をコードするDNAと、ApoBの全長又は部分断片をコードするDNAを取得する。これらのDNAは、既知の塩基配列情報を基にして、PCR等の手法により容易に取得できる。化学合成により取得してもよい。
次に、LOX−1結合タンパク質部分をコードするDNAとApoBの全長又は部分断片をコードするDNAとをフレームが一致するように連結し、キメラ遺伝子(キメラ核酸)を作製する。当該キメラ遺伝子は、本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子となる。
次に、得られたキメラ遺伝子を適宜のベクターに組み込み、組換えベクター(融合タンパク質発現ベクター)を作製する。さらに、当該組換えベクターを適宜の宿主細胞に導入し、組換え細胞(融合タンパク質発現細胞)を作製する。
そして、当該組換え細胞を培養し、培養物から所望の融合タンパク質を取得することができる。
【0059】
前記キメラ遺伝子を組み込むベクターとしては特に限定はなく、その後に導入される宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。また前記組換えベクターを導入する宿主細胞としては、導入されたベクターが機能するものであれば特に限定はない。例としては、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、酵母、細菌(大腸菌等)、植物細胞、昆虫細胞、などが挙げられる。
【0060】
融合タンパク質を精製する方法としては、遠心分離、塩析、膜分離、各種クロマトグラフィー等の、タンパク質精製に通常用いられている手法をそのまま適用することができる。特に、本発明の融合タンパク質は、LOX−1に対する結合性と抗ApoB抗体に対する結合性を併せ持つので、LOX−1や抗ApoB抗体を固定化した担体によるアフィニティクロマトグラフィーを用いることができる。
【0061】
続いて、本発明のLABの測定方法について説明する。本発明のLABの測定方法は、LOX−1と抗ApoB抗体に対してLABが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法であって、上記した本発明の融合タンパク質をLABの標準品として用い、当該標準品との比較により試料中のLABを測定するものである。
【0062】
本発明のLABの測定方法では、LABの標準品として本発明の融合タンパク質を用いる。すなわち、本発明の融合タンパク質は、LOX−1に対する結合性と抗ApoB抗体に対する結合性を併せ持つので、人工酸化LDLの代替品として使用できる。さらに、本発明の融合タンパク質は安定性に優れているので、人工酸化LDLを標準品として用いる従来の方法よりも、精度管理が容易であり、LABの測定を確実かつ容易に行うことができる。
【0063】
「LOX−1と抗ApoB抗体に対して酸化LDLが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法」の代表例として、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイを挙げることができる。例えば、LOX−1をマイクロタイタープレート等の支持体に固相化する。そして、固相化したLOX−1に測定試料を接触させて、試料中のLABをLOX−1上に捕捉する。次に、捕捉されたLABに標識された抗ApoB抗体を結合させる。そして、結合した抗ApoB抗体を指標として、試料中のLABを測定することができる。
前記標識の種類としては、酵素(エンザイムイムノアッセイ、EIA、ELISA)、蛍光物質(蛍光イムノアッセイ、FIA)、放射性物質(ラジオイムノアッセイ、RIA)などが挙げられる。抗ApoB抗体は、標識と未標識のいずれでもよい。未標識の場合には、抗ApoB抗体に結合する標識2次抗体をさらに用いればよい。抗ApoB抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0064】
前記サンドイッチイムノアッセイにおいて、LOX−1と抗ApoB抗体を逆に用いてもよい。すなわち、抗ApoB抗体を固相化し、LOX−1を標識等して用いてもよい。
【0065】
LOX−1あるいは抗ApoB抗体を固相化する支持体の例としては、マイクロタイタープレート、ビーズ等が挙げられる。
【0066】
「LOX−1と抗ApoB抗体に対して酸化LDLが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法」の他の例としては、競合法によるイムノアッセイが挙げられる。
【0067】
精製されたLOX−1は、例えば、組換えDNA技術により取得することができる(特許文献1、非特許文献1)。抗ApoB抗体は、例えば、市販のものをそのまま使用することができる。
【0068】
本発明のLABの測定方法では、本発明の融合タンパク質をLABの標準品として用い、当該標準品との比較により試料中のLABを測定する。例えば、段階希釈した当該融合タンパク質の溶液を調製し、これらを前記サンドイッチイムノアッセイ等に供する。これにより得られた値(例えば、吸光度)を元に、融合タンパク質相当値によるLAB標準曲線を作成することができる。血清等の試料中のLABは、同様のサンドイッチイムノアッセイ等を行った際に得られた値を前記標準曲線に当てはめ、融合タンパク質相当量(相対値)として得ることができる。調製後すぐの人工酸化LDL(未劣化)と融合タンパク質との相関性を別途調べて換算式を作成することにより、試料中のLABを絶対値で得ることもできる。
【0069】
本発明で使用する測定試料としては特に限定はないが、例えば、ヒトから採取した血清や血漿を挙げることができる。
【0070】
本発明のLAB測定用キットは、本発明のLABの測定方法に用いるためのものであり、上記融合タンパク質を含むものである。すなわち、本発明のキットによれば、融合タンパク質を標準品として用いるLABの測定を簡便に行うことができる。
好ましい実施形態では、LOX−1及び/又は抗ApoB抗体をさらに含む。かかる構成により、前記したサンドイッチイムノアッセイ等を簡便に行うことができる。
【0071】
本発明のキットの構成例を以下に挙げる。本キットには、さらに、プレートやビーズ等の支持体(固相)、標識2次抗体、発色基質、等をさらに含めてもよい。
【0072】
〔キットの構成例〕
(a)LOX−1(固相用)
(b)抗ApoB抗体(標識又は未標識)
(c)融合タンパク質(LAB標準品)
(d)希釈用緩衝液
【0073】
上述のように、LABの代表例は酸化LDLである。したがって、本発明のLABの測定方法は、酸化LDLの測定方法を包含する。同様に、本発明のLAB測定用キットは、酸化LDL測定用キットを包含する。
【0074】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
まず、実験方法を以下の(1)〜(9)に述べる。
【0076】
(1)マウス抗LOX−1モノクローナル抗体
参考文献[1]に記載のマウス抗LOX−1モノクローナル抗体#10−1を使用した。簡単に説明すると、ヒトLOX−1のアミノ酸61−273番(61−273aa)の部分に対応する組換えタンパク質(組換えヒトLOX−1タンパク質;61−273aa)(参考文献[2]に記載)を免疫したBalb/cマウス由来の脾臓細胞をミエローマ細胞株P3U1と細胞融合させた。陽性クローンをELISA法により選抜し、#10−1のクローンを得た。
抗体のアイソタイプをmouse monoclonal antibody isotyping test kit(エービーディー(AbD)社)を用いて、添付の使用説明書に従って決定した。
【0077】
(2)抗体可変領域遺伝子のクローニング
上記(1)でクローニングした#10−1抗体産生ハイブリドーマから、TRIzol Reagent(インビトロジェン社)1mLを用いて、全RNAを回収した。逆転写反応によるcDNAの合成は、回収した1μgの全RNAからRandom hexamer(インビトロジェン社)およびSuper Script III Reverse Transcriptase(インビトロジェン社)を用いて、添付の使用説明書に従って行った。抗体可変領域重鎖(VH)および軽鎖(VL)領域は、合成したcDNA0.5μgを鋳型にIgG Primer set(ノバジェン社)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーをそれぞれ25pmol、10xEx-taq buffer50μL、2.5mM dNTPs4.0μL、Ex-taq polymerase (タカラバイオ社)1.5U、蒸留水34.8μLを加え、全量を50μLに調整した反応液により増幅した。PCRのサイクルは、始め94℃で3分、続く35サイクルを(94℃で1分,55℃で1分,72℃で2分)で行い、最後の伸長を72℃で6分により行った。増幅したDNA断片について、TOPO TA Cloning Kit(インビトロジェン社)を用いてサブクローニングし、ABI PRISM Cycle sequencing kit(アプライド・バイオシステムズ社)を用いてVH遺伝子およびVL遺伝子の塩基配列を決定した。
【0078】
(3)Fv型抗LOX−1抗体の作製
#10−1抗体産生ハイブリドーマから調製したcDNAを鋳型とし、Fv-H-Fプライマー(配列番号17)とFv-H-Linker-Rプライマー(配列番号18)のプライマーセットを用いてPCRを行い、#10−1抗体重鎖分泌シグナル配列を含むVH遺伝子を増幅した。なお、Fv-H-Linker-Rプライマーはフレキシブルなリンカー配列(Gly4-Ser)3の一部を5’末端に含んでいる。同様に、#10−1抗体産生ハイブリドーマから調製したcDNAを鋳型とし、Linker-Fv-L-Fプライマー(配列番号19)とFv-L-Rプライマー(配列番号20)のプライマーセットを用いてPCRを行い、VL遺伝子を増幅した。
PCRの条件は以下のとおりとした。反応液は、各プライマーセットをそれぞれ15pmol用いて、cDNA 0.5ng、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymerase(東洋紡社)を1.0U、蒸留水を32.0μL加えて、全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く30サイクルを(94℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
【0079】
続いて、増幅した各断片を、プライマーに挿入したリンカー配列を介してOverlap-extension PCRにより連結させて、Fv型抗体遺伝子を作製した。すなわち、Fv-H-Fプライマー(配列番号17)とFv-L-Rプライマー(配列番号20)のプライマーセットを用い、増幅したVH遺伝子とVL遺伝子をOverlap-extension PCRにより連結させた。PCRの条件は以下のとおりとした。反応液は、各プライマーセットをそれぞれ15pmol用いて、増幅したVH遺伝子およびVL遺伝子をそれぞれ0.2pmol、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を32.0μL加えて全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く30サイクル(94℃で15秒、60℃で30秒、68℃で45秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
増幅したFv型抗体遺伝子を、pcDNA Gateway Directional TOPO Expression kit(インビトロジェン社)を用いてpcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vector(インビトロジェン社)にサブクローニングした。クローニング後、ABI PRISM Cycle sequencing kitを用いて塩基配列を確認した。
【0080】
その後、Fv型抗体遺伝子がサブクローニングされたpcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vectorのMulti cloning site内に存在するNotIとXbaIの制限酵素サイトを用いて、Fv型抗体遺伝子を切り出した。切り出したFv型抗体遺伝子を、pEF6/V5/His vector(インビトロジェン社)のMulti cloning site内の同一制限酵素サイトへC末端にV5および6xHistidin tag (His tag) が発現されるようにフレームをあわせてクローニングした。
Fv型抗体の発現は、FreeStyle 293 Expression system(インビトロジェン社)を用いて行った。Fv型抗体の精製は、TALON Metal Affinity Resins(タカラバイオ社)により行った。
【0081】
(4)ApoB48遺伝子のクローニング
以下の手順により、ヒトApoB48全長遺伝子(GenBank accession no. NM000384; 6,537 bp;配列番号7)を、ヒト肝臓cDNAライブラリーよりPCR法により取得した。まず、ApoB48全長遺伝子を4つの遺伝子断片F1〜F4(F1:1−1864bp、F2:1802−4005bp、F3:3973−5207bp、F4:5137−6537bp)に分割するための、下記4組のプライマーセットを設計した。
F1用プライマーセット:ApoB-1-Fプライマー(配列番号21)とApoB-1864-R(配列番号22)、F2用プライマーセット:ApoB-1802-Fプライマー(配列番号23)とApoB-4005-Rプライマー(配列番号24)、F3用プライマーセット:ApoB-3973-Fプライマー(配列番号25)とApoB-5207-Rプライマー(配列番号26)、F4用プライマーセット:ApoB-5137-Fプライマー(配列番号27)とおよびApoB-6537-Rプライマー(配列番号28)。
Human MTC Panel II(クロンテック社)の肝臓cDNAライブラリーを鋳型とし、各プライマーセットを用いてPCRを行い、F1〜F4の各遺伝子断片を得た。PCRの条件は以下のとおりとした。反応液はヒト肝臓cDNA 0.5μg、各プライマーセットをそれぞれ25pmol、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を32.0μL加えて全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く35サイクル(94℃で15秒、62℃で30秒、68℃で90秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
次に、各遺伝子断片をpcDNA Gateway Directional TOPO Expression kitを用いてpcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vectorにサブクローニングし、ABI PRISM Cycle sequencing kitにより塩基配列を確認した。
【0082】
続いて、pcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vector内のNotIサイトおよびApoB遺伝子(配列番号7)塩基番号1821(1821bp)にあるEcoRVサイトを用いて、F1断片(1-1864bp)より1-1821bp領域を切り出し、同一酵素で処理したF2断片(1802-4005bp)へ挿入し、ApoB遺伝子の1-4005bp領域を作製した(1-4005bp断片)。同様に、pcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vector内のNotIサイトおよびApoB遺伝子5161bpにあるSalIサイトを用いて、F3断片(3973-5207bp)より3973-5161bp領域を切り出し、同一酵素で処理したF4断片(5137-6537bp)へ挿入し、ApoB遺伝子の3973-6537bp領域を作製した(3973-6537bp断片)。最後に、pcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vector内のNotIサイトおよびApoB遺伝子3995bpにあるXhoIサイトを用いて、1-4005bp断片と3973-6537bp断片を連結し、ヒトApoB48全長遺伝子(1-6537bp)発現ベクターを作製した。最終産物について再度塩基配列を確認した。
【0083】
(5)ApoBタンパク質断片の作製
ApoBタンパク質断片B1〜B4をコードする遺伝子を増幅するために、下記4組のプライマーセットを設計した。なおB1〜B4の各領域は、ApoB48タンパク質(全長)において抗ApoB抗体のエピトープとしてすでに報告がある4つの配列を含むよう選択したものである(図3、参考文献[5][6])。
B1遺伝子用プライマーセット:B1-Fプライマー(配列番号38)およびB1-Rプライマー(配列番号31)、B2遺伝子用プライマーセット:B2-Fプライマー(配列番号39)およびB2-Rプライマー(配列番号33)、B3遺伝子用プライマーセット:B3-Fプライマー(配列番号40)およびB3-Rプライマー(配列番号35)、B4遺伝子用プライマーセット:B4-Fプライマー(配列番号41)およびB4-Rプライマー(配列番号37)。
ApoB48全長遺伝子発現ベクターを鋳型とし、各プライマーセットを用いてPCRを行い、B1〜B4をコードする各遺伝子を増幅した(図3)。PCRの条件は以下のとおりとした。反応液はApoB48全長遺伝子発現ベクター50ng、各プライマーセットをそれぞれ25pmol、10×Ex-taq bufferを5.0μL、2.5mM dNTPs mixを4.0μL、Ex-taq DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を36.0μL加えて全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く35サイクル(94℃で15秒、62℃で30秒、72℃で30秒)で行い、最後の伸長を72℃で7分により行った。
続いて、増幅した各遺伝子断片を、マウス抗体軽鎖分泌シグナル配列がN末端側に、C末端側にV5およびHis tagが発現するようにフレームを合わせてpSecTag/FRT/V5-His-TOPO vector(インビトロジェン社)にTA cloningした。クローニング後、ABI PRISM Cycle sequencing kitを用いて塩基配列を確認した。
ApoBタンパク質断片B1〜B4の発現はFreeStyle 293 Expression systemを用いて行った。培養96時間後に上清および細胞ライセートを回収し、培養上清をTALON Metal Affinity Resinsにより精製し、ApoBタンパク質断片B1〜B4を得た。B1〜B4は、ヒトApoB全長(配列番号8)における以下のアミノ酸番号に相当する領域である。B1:28−217、B2:427−596、B3:977−1063、B4:1462−1552。
【0084】
(6)Fv型抗LOX−1抗体とApoB断片(B1〜B4)との融合タンパク質の作製
Fv型抗LOX−1抗体のC末端側とApoB断片のN末端側とがリンカー配列を介して連結された融合タンパク質(4種)を、以下の手順により作製した(図4)。
【0085】
上記(2)で作製したFv型抗LOX−1抗体発現ベクターを鋳型とし、Fv-H-Fプライマー(配列番号17)および5’末端にリンカー配列の一部を含むFv-L-Linker-Rプライマー(配列番号29)をプライマーセットとして用いてPCRを行い、Fv型抗LOX−1抗体遺伝子を再増幅した。PCRの条件は以下のとおりとした。鋳型50ng、プライマーセットをそれぞれ15pmol、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を32.0μL加えて全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く30サイクル(94℃で15秒、60℃で30秒、68℃で45秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
【0086】
また、上記(5)で調製したApoB48全長遺伝子を鋳型とし、リンカー配列の一部を5'末端に含むフォワードプライマーおよびリバースプライマーの各プライマーセット(下記4組)を用いてPCRを行い、ApoB48断片B1〜B4をコードする各遺伝子を増幅した。
リンカー付きB1遺伝子用プライマーセット:Linker-B1-Fプライマー(配列番号30)およびB1-Rプライマー(配列番号31)、リンカー付きB2遺伝子用プライマーセット:Linker-B2-Fプライマー(配列番号32)およびB2-Rプライマー(配列番号33)、リンカー付きB3遺伝子用プライマーセット:Linker-B3-Fプライマー(配列番号34)およびB3-Rプライマー(配列番号35)、リンカー付きB4遺伝子用プライマーセット:Linker-B4-Fプライマー(配列番号36)およびB4-Rプライマー(配列番号37)。
PCRの条件は以下のとおりとした。反応液は、鋳型50ng、プライマーセットをそれぞれ15pmol、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を32.0μL加えて全量を50.0μLに調整した。PCRのサイクルは、始め94℃で2分、続く30サイクル(94℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
【0087】
増幅したFv型抗体遺伝子と各ApoB断片遺伝子を、Overlap-extension PCRにより連結させた。すなわち、フォワードプライマーとしてFv-H-Fプライマー(配列番号17)、リバースプライマーとして、B1-Rプライマー(配列番号31)、B2-Rプライマー(配列番号33)、B3-Rプライマー(配列番号35)またはB4-Rプライマー(配列番号37)を用い、Fv型抗体遺伝子と各ApoB断片遺伝子を鋳型としてOverlap-extension PCRを行った。PCRの条件は以下のとおりとした。反応液は、Fv型抗体遺伝子と各ApoB断片遺伝子をそれぞれ0.2pmol、プライマーセットをそれぞれ15pmol、10×KOD plus buffer ver.2を5.0μL、25mM MgSO4を3.0μL、2mM dNTPsを5.0μL、KOD plus DNA polymeraseを1.0U、蒸留水を32.0μL加えて全量を50.0μLに調整し、PCRのサイクルは始め94℃で2分、続く30サイクル(94℃で15秒、60℃で30秒、68℃で90秒)で行い、最後の伸長を68℃で2分により行った。
【0088】
増幅した4種類の「Fv型抗LOX−1抗体−ApoB断片融合タンパク質」遺伝子を、pcDNA Gateway Directional TOPO Expression kitを用いてpcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vectorにサブクローニングした。クローニング後、ABI PRISM Cycle sequencing kitを用いて塩基配列を確認した。その後、融合タンパク質遺伝子を、pcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vectorのMulti cloning site内に存在するNotIとXbaIの制限酵素サイトを用いて切り出し、pEF6/V5/His vectorのMulti cloning site内の同一制限酵素サイトへ、C末端にV5および6×His tagが発現されるようにフレームをあわせてクローニングした(融合タンパク質発現ベクター、図4)。
4種の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)の発現は、FreeStyle 293 Expression systemを用いて行った。各融合タンパク質の精製は、TALON Metal Affinity Resinsを用いて行った。
【0089】
上記融合タンパク質の構築過程の概要を図5にまとめた。
【0090】
(7)ELISAによる検討
マウス抗LOX−1抗体#10−1のIgG型、Fv型抗LOX−1抗体、および4種の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)について、LOX−1への反応性をELISAにより調べた。また、抗ApoB抗体の、各ApoB断片(B1〜B4)および4種の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)への反応性を、ELISAにより調べた。
抗LOX−1抗体および融合タンパク質用抗原として、組換えヒトLOX−1(61−273aa)およびBSA(陰性対照、シグマ社)を用いた。また、抗ApoB抗体用抗原として、ApoB断片(B1、B2)、融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)、ApoBタンパク質(陽性対照,シグマ社)およびBSA(陰性対照)を用いた。
【0091】
組換えヒトLOX−1(61−273aa)またはBSAを含有するPBS30μLを、384−ウェルプレート(グライナー社)に4℃で終夜固相化した(0.25μg抗原/ウェル)。各ウェルをPBSにて2回洗浄後、20% Immunoblock(DSファーマ社)含有PBSを50μL添加し、室温で1時間ブロッキングした。
【0092】
各ウェルをPBSにて3回洗浄後、5% Immunoblock含有PBSにより0.001〜100μg/mLに希釈したマウス抗LOX−1抗体#10−1のIgG型、Fv型抗LOX−1抗体、又は4種の融合タンパク質を30μL添加し、室温で1時間インキュベートした。
【0093】
各ウェルをPBSにて3回洗浄後、5% Immunoblock含有PBSにより希釈した二次抗体を30μL添加し、室温で1時間インキュベートした。二次抗体としては、マウス抗LOX−1抗体#10−1のIgG型検出用としてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(Horseradish peroxidase (HRP)-labeled sheep anti-Mouse IgG (1:2000);GEヘルスケア社)を、Fv型抗LOX−1抗体および融合タンパク質検出用としてHRP標識マウス抗V5タグ抗体(HRP-labeled mouse anti-V5 tag (1:2000);ナカライテスク社)を、それぞれ使用した。
【0094】
ApoB断片(B1、B2)、融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)、またはApoBタンパク質を固相化した別のプレートについては、ブロッキング及びPBS洗浄後、HRP標識ヒツジ抗ヒトApoBポリクローナル抗体(HRP-labeled sheep anti-human ApoB polyclonal antibody (Sheep polyclonal anti-ApoB antibody;バインディングサイト社)を5%Immunoblock含有PBSにより100−6.0×108倍に段階希釈したものを50μL添加し、室温で1時間インキュベートした。
【0095】
各ウェルをPBSにて5回洗浄し、3,3'5,5'-tetramethylbenzidine含基質溶液(TMB solution;バイオラッド社)を各ウェルに添加し、室温で反応させた。2.0M硫酸で反応を停止させ、450nmの吸光度(A:450nm)を測定した。
【0096】
(8)ウェスタンブロッティングによる検討
Fv型抗LOX−1抗体および4種の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)について、LOX−1への反応性をウェスタンブロッティングにより調べた。また、抗ApoB抗体の、各ApoB断片(B1〜B4)および4種の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)への反応性を、ウェスタンブロッティングにより調べた。抗LOX−1抗体および融合タンパク質用抗原として、組換えヒトLOX−1タンパク質(61−273aa)およびBSA(陰性対照)を用いた。また、抗ApoB抗体用抗原として、ApoB断片発現HEK293細胞の培養上清および細胞ライセート、融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)、Fv型抗体、およびBSA(陰性対照)を用いた。
【0097】
各抗原について10−20%グラジエントポリアクリルアミドゲル(10-20% gradient polyacrylamide gel;和光純薬工業社)にて非還元条件で分離し、iBolt Dry Blotting system(インビトロジェン社)を用いてPVDF膜へ転写を行った。
続いて、融合タンパク質の反応性検討に使用するPVDF膜は100%ブロックエース(DSファーマ社)にて、抗ApoB抗体反応性検討用のPVDF膜は5%スキムミルク(森永乳業社)、0.1%Tween 20(ナカライテスク社)含有PBS(PBS−T)にて、それぞれ室温1時間でブロッキングした。
【0098】
1次抗体としてFv型抗LOX−1抗体または融合タンパク質を用いる場合は、Can Get Signal Immunoreaction Enhancer Solution 1(東洋紡社)にて5μg/mLに希釈した1次抗体液にPVDF膜を浸漬させ、室温で1時間反応させた。続いて、Can Get Signal Immunoreaction Enhancer Solution 2(東洋紡社)にて2000倍希釈したHRP-labeled mouse anti-V5 tagからなる2次抗体液に浸漬し、室温で1時間反応させた。
1次抗体としてHRP標識ヒツジ抗ヒトApoBポリクローナル抗体を用いる場合は、5%スキムミルク含有PBS−Tにて5000倍希釈し、室温で1時間反応させた。
融合タンパク質発現確認用抗体HRP-labeled mouse anti-V5 tagを用いる場合(陽性対照)は、5%スキムミルク含有PBS−Tにより2000倍希釈して、室温で1時間反応させた。
【0099】
バンドの検出は、化学発光基質Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(ミリポア社)を用いて添付の説明書に従って行い、LAS-4000 mini(GEヘルスケア社)を用いてシグナルを現像した。
【0100】
(9)LDL及び人工酸化LDLの作製
LDLおよび人工酸化LDLの作製は、参考文献[3]の方法に従って行った。すなわち、新鮮血漿(d=1.006)を、健常者よりEDTA採血した血液を3,000rpmで10分間遠心することで得た。次に、新鮮血漿にKBr(和光純薬工業社)を密度1.019となるように添加し、58,000rpmで20時間超遠心した後に下層を回収した。さらに、回収した分画にKBrを密度1.063となるように添加し、58,000rpmで20時間超遠心した後に上層を回収し、10000倍量のPBSに対して透析を行い、LDLを得た。LDLの酸化修飾は、3mg/mLに調整したLDLに最終濃度7.5μM CuSO4を加え37℃ で16時間反応させた後、10000倍量のLDL buffer(150mM NaCl,0.24mM EDTA,pH7.4)に対して透析することで作製した(人工酸化LDL)。酸化の程度は、チオバルビツール酸反応産生物の量およびアガロースゲルの移動度を測定することによって測定した。使用するまで4℃で保存した。
【0101】
(10)サンドイッチELISA
LOX−1および抗ApoB抗体を用いたサンドイッチELISAは、参考文献[2]と[4]に記載の方法にて行った。まず、組換えヒトLOX−1(61−273aa)含有PBS50μLを、384−ウェルプレート(グライナー社)に4℃で終夜固相化した(0.25μg/ウェル)。PBSで2回洗浄した後、3%BSA含有HEPESバッファー(10mM HEPES,150mM NaCl,pH7.4)80μLを添加し、室温で2時間ブロッキングした。
PBSで3回洗浄後、測定試料(または標準品)40μLを添加し、室温で2時間インキュベートした。測定試料(または標準品)としては、2mM EDTA,5%BSA含有HEPESバッファーにて希釈した4種類の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)、人工酸化LDL(上記(8)で調製)、又はLDL(上記(8)で調製)を用いた。
【0102】
PBSで3回洗浄した後、2mM EDTA,1%BSA含有HEPESバッファーにて5000倍希釈したHRP標識ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体を50μL添加し、室温で1時間インキュベートした。
抗体反応後PBSで5回洗浄し、TMB solutionをプレートに添加し室温で反応させた。2M硫酸で反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0103】
実験結果を以下の(10)〜(19)に述べる。
【0104】
(11)マウス抗LOX−1抗体#10−1のLOX−1への反応性
上記(7)において、組換えヒトLOX−1(61−273aa)あるいはBSAを固相化したELISAの結果を図6に示す。図中、●はLOX−1を、○はBSAを固相化した場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。すなわち、抗LOX−1抗体#10−1は、組換えヒトLOX−1に対して抗体濃度15ng/mL〜33μg/mLの範囲で用量依存的(dose-dependent)に反応性を示した。一方、抗体濃度2ng/mL〜100μg/mLの範囲では、陰性対照のBSAへの反応性を示さなかった。
また、マウス抗LOX−1抗体#10−1のアイソタイプは、IgG1,κであった。
【0105】
(12)可変領域のアミノ酸配列とCDRの特定
#10−1抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列とCDR1〜3を図1(a)に、軽鎖可変領域のアミノ酸配列とCDR1〜3を図1(b)に、それぞれ示す。さらに、#10−1抗体の重鎖可変領域のcDNA塩基配列とアミノ酸配列を配列番号13と配列番号14に、重鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号1に、重鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号2に、重鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号3に、それぞれ示す。さらに、#10−1抗体の軽鎖可変領域のcDNA塩基配列とアミノ酸配列を配列番号15と配列番号16に、軽鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号4に、軽鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号5に、軽鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号6に、それぞれ示す。
【0106】
(13)Fv型抗LOX−1抗体のLOX−1への反応性
上記(3)で構築したFv型抗LOX−1抗体を用いた場合の、組換えヒトLOX−1(61−273aa)あるいはBSAを固相化したELISAの結果を図7に示す。図中、●はLOX−1を、○はBSAを固相化した場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。すなわち、Fv型抗LOX−1抗体は、組換えヒトLOX−1に対して抗体濃度46ng/mL〜33μg/mLの範囲で用量依存的に反応性を示した。一方、抗体濃度2ng/mL〜100μg/mLの範囲では、陰性対照のBSAへの反応性を示さなかった。
以上より、当該Fv型抗体がLOX−1結合タンパクとして利用可能であると考えられた。
【0107】
(14)ApoB断片の作製
上記(4)、(5)のように、抗ApoB抗体結合タンパクを作製することを目的として、4つのApoBタンパク断片(B1−B4)に相当するcDNAをクローニングし(図3)、B1−B4の各断片を組換えタンパクとして作製した。各断片はHEK293細胞で発現させ、回収した培養上清及び細胞ライセート中の組換えタンパクの発現を、抗V5抗体を用いたウェスタンブロッティング(上記(8))により検討した。
その結果、B1断片の約35kDaのバンドとB2断片の約23kDaのバンドが、培養上清(図8下段)および細胞ライセート(図9下段)ともに確認された。一方、B3断片の約18kDaのバンドとB4断片の約18kDaのバンドは、いずれも細胞ライセートに確認されたが(図9下段)、培養上清中には見られなかった(図8下段)。
【0108】
(15)抗ApoB抗体のApoB断片(B1〜B4)への反応性
ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体のApoB断片(B1〜B4)への反応性を、ウェスタンブロッティングとELISAにより検討した。
ウェスタンブロッティングの結果、培養上清中のB2断片および細胞ライセート中のB2断片およびB3断片に反応性を示した(図8上段、図9上段)。
【0109】
ELISAの結果を図10に示す。図中、●はB1断片を、▲はB2断片、○は全長ApoB(陽性対照)、△はBSA(陰性対照)の場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。
His−tagにより培養上清から精製したB1断片およびB2断片を用いてELISAを行うと、ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体は、B2断片に対して抗体希釈倍率1.0×102〜8.1×103倍の範囲において、B1断片に対して抗体希釈倍率1.0×102〜9.0×102倍の範囲において、陽性対照の全長ApoBには抗体希釈倍率1.0×102〜7.3×104倍の範囲においてそれぞれ用量依存的に反応性を示した。一方、陰性対照のBSAには抗体希釈倍率1.0×102〜5.9×106倍の範囲では反応性を示さなかった。
【0110】
以上より、抗ApoB抗体結合タンパク質として使用可能なApoBタンパク断片を作製できた。
【0111】
(16)Fv型抗LOX−1抗体とApoB断片(B1〜B4)との融合タンパク質の作製
上記(6)のように、LOX−1リガンド測定系における人工酸化LDL標準品(ヒト血漿から調製)の代替品の取得を目的として、Fv型抗LOX−1抗体とApoB断片(B1〜B4)との融合タンパク質を作製した(図5)。作製した4種類の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)の発現を、抗V5抗体を用いたウェスタンブロッティングにより検討した。その結果、作製した融合タンパク質のうちFv−B1は約63kDa付近、Fv−B2は約60kDa付近、Fv−B3は約66kDa付近、Fv−B5は約60kDa付近に、バンドが確認された(図11)。
【0112】
(17)各融合タンパク質のLOX−1への反応性
4種類の融合タンパク質(Fv−B1、Fv−B2、Fv−B3、Fv−B4)のFv型抗LOX−1抗体部分がLOX−1への結合活性を保持しているかを調べるために、LOX−1および抗V5抗体を用いたELISAとウェスタンブロッティングを行った。
【0113】
ELISAの結果を図12に示す。図中、●はFv−B1,▲はFv−B2、○はFv−B3、△はFv−B4、□はFv型抗LOX−1抗体(Fv型抗体と略す)の場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。
すなわち、Fv−B1およびFv−B3では、融合タンパク質添加量45ng/mL〜100μg/mLの範囲においてFv型抗LOX−1抗体とほぼ同等の用量反応曲線が得られた。一方、Fv−B2およびFv−B4では、融合タンパク質添加濃度1.2μg/mL〜100μg/mLの範囲においてLOX−1に対して用量依存的に反応性を示したが、4パラメーターロジスティック解析により得られた変曲点に対応するタンパク濃度は、Fv−B2は80.9μg/mL、Fv−B4は20.6μg/mLであり、Fv型抗体(2.91μg/mL)と比較してそれぞれ約27倍、約7倍高かった。このFv−B2およびFv−B4のLOX−1結合能の低下は、融合させたApoB断片の立体障害により、Fv型抗体部分のLOX−1への結合を一部抑制している可能性が考えられる。
また、Fv型抗体および4種類の融合タンパク質は、陰性対照のBSAには抗体添加濃度1.6ng/mL〜100μg/mLの範囲において反応性を示さなかった。
【0114】
ウェスタンブロッティングの結果では、ELISAの結果と対応してFv−B1およびFv−B3がFv型抗体と同等の反応性を示し、Fv−B2およびFv−B4ではFv型抗体と比較して弱い反応性であった(図13)。
【0115】
(18)抗ApoB抗体の各融合タンパク質への反応性
本実施例で使用した抗ApoB抗体が、ApoB断片単体と同様に融合タンパク質を認識するか否かについて、ウェスタンブロッティングとELISAにより検討した。
【0116】
ウェスタンブロッティングの結果、ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体は、Fv−B2およびFv−B3に強く反応性を示し、Fv−B1には弱く反応性を示し、Fv−B4、Fv型抗体およびBSAには反応性を示さなかった (図11上段)。図11下段は陽性対照である。
【0117】
ELISAの結果を図14に示す。図中、●はFv−B1、▲はFv−B2、○はFv−B3、△はFv−B4、□はBSA(陰性対照)を固相化した場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。
すなわち、ヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体は、Fv−B3に対して抗体希釈倍率1.0×102〜7.3×104倍の範囲において、Fv−B1およびFv−B2に対して1.0×102〜8.1×103倍において、1.0×102〜2.7×103倍の範囲においてそれぞれ用量依存的に反応性を示し、陰性対照のBSAには反応性を示さなかった。
以上の結果より、本実施例で作製した融合タンパク質は、抗ApoB抗体により検出可能であると考えられた。
【0118】
(19)各融合タンパク質に対するLOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチELISA
LOX−1リガンド測定系の標準タンパク質としての、本実施例で作製した融合タンパク質の適用可能性について、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチELISA(上記(10))により検討した。
結果を図15に示す。図中、●はFv−B1、▲はFv−B2,○はFv−B3、△はFv−B4の場合をそれぞれ示す。値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。
すなわち、Fv−B2の添加濃度1.23μg/mL〜100μg/mL、Fv−B3の添加濃度0.14μg/mL〜33.3μg/mLにおいてそれぞれ用量依存的に検出可能であった。一方、Fv−B1に対しても添加濃度1.23μg/mL〜100μg/mLにおいて用量依存的に検出したが、Fv−B2と比較して最大反応はOD450で約3倍低かった。またFv−B4の添加濃度15ng/mL〜100μg/mLの範囲においては反応性を示さなかった。
抗ApoB抗体の反応性は、ELISAおよびウェスタンブロッティングによる融合タンパク質への反応性検討の結果と一致していることから(図12,図14)、LOX−1に結合している融合タンパク質は、抗ApoB抗体によって特異的に検出可能であり、人工酸化LDLの代わりとしてLOX−1リガンド測定系(LAB測定)の標準タンパク(標準品)として利用できると考えられた。
【0119】
(20)ロット間のバラツキ評価(融合タンパク質、酸化LDL)
ヒト血漿より人工的に調製した酸化LDL(人工酸化LDL)について、ロットの違いにより標準曲線がどの程度変化し、それにより測定値にどの程度影響するかを、LOX−1と抗ApoB抗体を用いたサンドイッチELISA(上記(10))により検討した。また、本実施例で作製した融合タンパク質Fv−B3におけるロット間のバラツキを比較することで、融合タンパク質の有用性を検証した。
【0120】
結果を図16と図17に示す。図中の値は三つの独立した実験の平均とSEMを示す。
すなわち、組換えLOX−1およびヒツジ抗ApoBポリクローナル抗体の組合せによる検出系において、人工酸化LDL(OxLDL)は図16に示すように4つの異なるロットにおいてLOX−1への反応性に差が見られた。この結果をもとに4パラメーターロジスティック解析を行い得られた変曲点に対応するタンパク濃度は、人工酸化LDLのロット1では38.6μg/mL、ロット2では17.7μg/mL、ロット3では8.81μg/mL、8.34μg/mLであり、最大4.6倍の差があった。
一方、融合タンパク質Fv−B3では図17に示すように異なるロット間において、4パラメーターロジスティック解析により得られた変曲点に対応するタンパク濃度は、ロット1では2.17μg/mLであり、ロット2では1.98μg/mLであり、約1.1倍の差に収まった。
【0121】
〔参考文献〕
[1]Sugimoto, K., et al., LOX-1-MT1-MMP axis is crucial for RhoA and Rac1 activation induced by oxidized low-density lipoprotein in endothelial cells. Cardiovasc Res, 2009.
[2]Sato, Y., et al., Determination of LOX-1-ligand activity in mouse plasma with a chicken monoclonal antibody for ApoB. Atherosclerosis, 2008. 200(2): p. 303-9.
[3]Sawamura, T., et al., An endothelial receptor for oxidized low-density lipoprotein. Nature, 1997. 386(6620): p. 73-7.
[4]Inoue, N., et al., LOX Index, a Novel Predictive Biochemical Marker for Coronary Heart Disease and Stroke. Clin Chem, 2010.(非特許文献2)
[5]Segrest, J.P., et al., Structure of apolipoprotein B-100 in low density lipoproteins. J Lipid Res, 2001. 42(9): p. 1346-67.
[6]Pease, R.J., et al., Use of bacterial expression cloning to localize the epitopes for a series of monoclonal antibodies against apolipoprotein B100. J Biol Chem, 1990. 265(1): p. 553-68.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質に、ApoBの全長又は部分断片が連結されてなる融合タンパク質。
【請求項2】
LOX−1に対して特異的に結合するタンパク質は、LOX−1に対する抗体である請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
LOX−1に対する抗体は、抗体の機能的断片である請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
抗体の機能的断片は、Fv型抗体である請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
LOX−1に対する抗体は、その可変領域について、下記(a)と(b)のいずれか一方又は両方を満たすものである請求項2〜4のいずれかに記載の融合タンパク質。
(a)重鎖可変領域が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有するものである、
(b)軽鎖可変領域が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有するものである。
【請求項6】
ApoBの部分断片は、ヒトApoB48におけるアミノ酸番号28−97の領域、アミノ酸番号432−566の領域、及びアミノ酸番号1049−1058の領域からなる群より選ばれた少なくとも1つの領域を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸が導入されたベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを含む細胞。
【請求項10】
LOX−1と抗ApoB抗体に対してLABが有する特異的結合性を利用したLABの測定方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質をLABの標準品として用い、当該標準品との比較により試料中のLABを測定するLABの測定方法。
【請求項11】
LOX−1と抗ApoB抗体のいずれか一方は、支持体に固定化されている請求項10に記載のLABの測定方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のLABの測定方法に用いるためのキットであって、請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質を含むLAB測定用キット。
【請求項13】
LOX−1及び/又は抗ApoB抗体をさらに含む請求項12に記載のLAB測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−100585(P2012−100585A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251701(P2010−251701)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【Fターム(参考)】