説明

融雪剤及びその製造方法

【課題】 環境負荷が高い塩化ナトリウムを配合せず、安価な融雪剤を提供する。
【解決手段】 酢酸金属塩と木酢を含み、ナトリウムを含まない融雪剤を作成する。該木酢は枯れ松から製造し、1回又は2回蒸留することによって濃縮し、濃度を20〜25質量%とする。さらに、酢酸金属塩は、木酢と金属ナトリウムを直接反応することで生成する。また、木酢は間伐材から製造することを特徴とする。加えて、木酢にカキの貝殻から製造したカルシウムを加えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に融雪剤及びその製造方法に関する。ここで、融雪剤には凍結抑制剤も含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、スパイクタイヤの使用が禁止されたことにより、冬季交通の安全性確保の観点から、道路の融雪剤の使用が年々増加している。
実際、東北地方での凍結抑制剤の使用は19,000トン(平成13年実績)に達している。その後、年毎に2000トンから3000トンずつ増加する傾向にある。
【0003】
しかし、現在市販されている殆どの融雪剤は、塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の塩化物を主成分としているため、塩化物による構造材料(コンクリート、金属等)の腐食が問題となっている。また、田畑や河川等の周辺環境への塩害が重大な社会問題となっている。
【0004】
そこで、塩化を抑えるために、酢酸カルシウムとマグネシウムを配合した融雪剤が開発されている(以下、従来技術1とする。)。この融雪剤は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アセテート(Ac)の配合物であり、塩化物を含まないため金属への腐食作用が少なく、環境に対して低負荷である。
【特許文献1】米国特許第5219483号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術1は、塩化物を含む融雪剤よりも非常に高価であり、ほとんど使われていない。そこで、現状では、従来のように塩化ナトリウムを配合した融雪剤が使われている。
また、融雪剤は、長期にわたって大量に自然環境に放出されるため、使用したあとの融雪剤の行き着く最終地点までの追跡を行わなければならないが、大量・長期散布した際の影響が未知数である。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酢酸金属塩を含む融雪剤であって、木酢を含み、ナトリウムを含まないことを特徴とする。
本発明は、前記酢酸金属塩は、酢酸マグネシウムを含むことを特徴とする。
本発明は、前記木酢の濃度は20〜25質量%であることを特徴とする。
本発明は、前記木酢は間伐材から製造することを特徴とする。
本発明は、前記木酢は、1回又は2回蒸留することによって濃縮されることを特徴とする。
本発明は、前記木酢は、イオン交換膜によって濃縮されることを特徴とする。
本発明は、フリーズドライによって濃縮されることを特徴とする。
本発明は、前記酢酸マグネシウムは、金属マグネシウムと木酢を直接反応させて生成することを特徴とする。
本発明は、カルシウムを更に含むことを特徴とする。
本発明は、前記カルシウムは、貝類の殻から採取したカルシウムを用いて生成することを特徴とする。
本発明は、ベンゼン類を含まないことを特徴とする。
本発明は、木酢を製造し、前記木酢と金属マグネシウムとを反応して、酢酸マグネシウムを生成し、貝類の殻からカルシウムを採取し、前記貝類の殻と前記木酢とを反応させて、酢酸カルシウムを生成することを特徴とする。
【0008】
なお、本発明において、ナトリウムを含まないとは、融雪剤として大量に使用しても、塩害を発生しない程度にナトリウムの含有量が少ないことを言う。
また、本発明において、ベンゼン類を含まないとは、水質汚染を引き起こさない程度にベンゼン類、すなわちベンゼン環を持ち毒性を持つ化合物である、ベンゼン、フェノール、クレゾール等の化合物を含有しないことを言う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、木酢を用いることにより、塩化物を用いなくとも従来と同等以上の凍結抑制又は融雪効果を保ちつつ、安価で環境負荷のほとんどない融雪剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施の形態>
本発明者らは、環境に低負荷で、安価な配合物について鋭意検討した結果、木酢を使用する着想を得た。そして、実験を繰り返すことで、木酢をマグネシウムと直接反応させて酢酸マグネシウムを生成することで、従来の配合物に比べて遜色ない凍結抑制又は融雪効果を発揮することを見いだし、本発明を完成させた。また、木酢とカルシウムの配合物も同様に使用できることを見いだした。
【0011】
木酢は、炭を焼く際に出る水分を含んだガスを室温で液化したもの(粗木酢液)を1ヶ月程度室温に置き、タール分やベンゼン等の含まれる油性で難溶性の沈殿物を除いた上澄み液を取得したもので、主成分は、酢酸、アセトール、プロピオン酸等である。
木酢は、東北地方で24〜40万リットル/年(東北・県別)製造されている。
この木酢は濃度が高いと、除草剤や除菌剤として有用であり、防臭効果もある。実際、300倍の希釈液は、葉面散布剤として使用されている。
さらに、木酢は土壌改良材にも使用されている。土壌改良材として使用した場合、微生物の栄養源となり完全に分解されるため、水中・土中の環境被害はない。
また、木酢は、土壌のアルカリ性を中和する働きがあるので、植物の育成を助ける効果が高い。実際に木酢を植物に与えると、植物細胞内のATP(アデノシン三リン酸)の生産が高まる。ATPは、生物の細胞において、エネルギーの貯蔵、供給及び運搬を仲介するきわめて重要な物質である。
加えて、木酢の有機酸は土中のミネラル成分をキレート化・錯体化する。このため、ミネラル成分の植物への吸収を促し、有用微生物の繁殖を助ける効果がある。
さらに、木酢は悪性菌の繁殖を抑える効果があるため、河川に流出しても富栄養化による汚染を引き起こすこともなく、河川浄化の役に立つ。
【0012】
上記木酢としては、間伐材や製材する価値がない木材を原料に用いることができる。
この際、木酢の原液をそのまま使用することも可能であるが、濃縮して使用する方が望ましい。
木酢の濃縮方法としては、いくつかの濃縮方法を用いることができる。
まずは、一般的な蒸留法を用いることが可能である。この場合、2回蒸留して濃度を高めることができる。加えて、木酢を木材から抽出する際、炭焼き時の廃熱等を利用して同時に濃縮することも可能である。
しかし、一般的な蒸留法では、蒸留時に酢酸が蒸留されずに蒸留物中で減るという問題点があるため、一般的なイオン交換樹脂のイオン交換膜を使って濃縮するのがより望ましい。
イオン交換膜を通すことで濃度を高め、水以外の成分が20〜25質量%になるようにして用いると、−10℃でも氷の凍結を防止できるために好適である。さらに、イオン交換膜により濃縮すると脱色を同時に行うことができる。また、環境に有害な成分であり発ガン性のあるベンゼン類に関しても水質基準以下に除去することができる。
一方、フリーズドライ法を用いて濃縮すると、イオン交換膜よりも濃縮費用がかかるが、酢酸の他に含まれる有効成分の分解を抑えて、より土壌改良材としての効果を高めることができる。
【0013】
マグネシウムは、土壌中、海水のにがり成分等にも含まれる。また、植物の葉緑体内に含まれるクロロフィルの活性中心にある金属イオンとしても存在する。マグネシウムも、環境負荷はない。
上記マグネシウムとしては、東北地方で算出されるモンモリナイト(珪酸塩白土)から精製することができる。また、精製塩を製造するときにできる産業廃棄物としてのにがり成分、スクラップ金属からの再生品等を用いることができる。
【0014】
カルシウムは、土壌や動物の骨等に含まれる金属で、当然、環境負荷はない。
上記カルシウムとしては、貝類の殻を粉砕して使用することができる。東北地方では、牡蠣の養殖が盛んであり、産業廃棄物として大量の貝殻が発生するため、これを用いるのが好適である。
【0015】
また、本発明の実施の形態においては、上記木酢に直接投入してマグネシウムを反応させ、酢酸マグネシウムを産生させることが望ましい。この反応により、酢酸マグネシウムと、凝固点降下に関する木酢中の他の成分が均一に分散する。また、pH(水素イオン指数)を調整しながらマグネシウムの投入を行うことで、木酢自体の凝固点降下の効果を残したまま、酢酸マグネシウムの凝固点降下の効果を起こすことができる。この際の、最終的なpHは6.2程度が望ましい。
なお、金属マグネシウムと木酢を反応させると、激しい反応とともに水素ガスが発生するが、これは燃料等としてさらに使用可能である。
【実施例】
【0016】
木酢と金属塩の組成物による凝固点降下、凍結防止効果、融雪効果について、以下の実施例について示すが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0017】
<凝固点降下試験>
以下の実施例と比較例について、標準的な手法を用いて、予備的な凝固点降下の測定を行った(物理化学実験法増補版、鮫島実三郎著、裳華房、1982年)。
【0018】
(実施例)
予備的な試験により、木酢に酢酸マグネシウムを加えるより、木酢を直接金属マグネシウムと反応させた方が、融雪効果が高いことが分かっていた。このため、小野建設(秋田県雄勝郡羽後町)製「ウッドビネガー」(製品名。ペットボトルタイプ)の原液と、金属マグネシウムを直接反応させた。
この際、反応させる金属マグネシウムの量又は木酢の量を調整し、pHが異なる2つの実施例を作成した。
【0019】
(比較例)
木酢は、そのままで凍結抑制又は融雪効果を示すことが分かっている。また、木酢は自然の木材から抽出されるので、組成にばらつきがあることが考えられる。そこで、上述の小野建設製の「ウッドビネガー」原液を用いた。また、タール分の濾過後、一般的な蒸留法を用いて既に蒸留されている木酢として、北部産業(岩手県九戸郡洋野町)製の木酢液を用いた。
また、10%酢酸水溶液、酢酸マグネシウムの粉末を溶かした0.5M(mol/L)酢酸マグネシウム水溶液、1M酢酸マグネシウム水溶液、2M酢酸マグネシウム水溶液について、それぞれ凝固点降下を調べた。また、1M酢酸カルシウム水溶液についても、凝固点効果を調べた。
さらに、酢酸と金属マグネシウムを反応させることで、木酢と金属マグネシウムを反応させた場合のような、凝固点降下を促進する効果があるか調べるため、10%酢酸水溶液と金属マグネシウムを反応させたもの(最終生成物は、1M酢酸マグネシウム水溶液に相当)についても調べた。
さらに、従来の技術である1M塩化ナトリウム水溶液、1M塩化カルシウム水溶液についても、凝固点降下を調べた。これらの試薬に関しては、一般的な実験試薬を用いた。
この結果を以下の表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
上述の測定の結果、まず、比較例1〜2のように、木酢単体では−1.5℃前後の凝固点降下効果があった。他の木酢でも同様の効果が得られた(表には示さず)。しかし、この効果は木酢中の酢酸の濃度とは必ずしも比例しなかった。実際、木酢単体でも、同濃度の酢酸よりも凝固点降下の効果が高かった(比較例8を元に計算)。
次に、酢酸マグネシウムの濃度と凝固点降下について検討した。0.5M水溶液(比較例4)で−2.0℃、1M水溶液(比較例5)で−4.5℃、2M水溶液(比較例6)は過冷却状態で−12.4℃でも凍らなかった。つまり、同じ1Mで、塩化ナトリウム(比較例10)や塩化カルシウム(比較例11)と同程度の効果があることが分かる。また、凝固点降下の温度は、濃度に比例することが確かめられた。
加えて、1Mの酢酸カルシウム水溶液においても(比較例7)、酢酸マグネシウムと同等の効果があることが分かる。
さらに、酢酸に金属マグネシウムを直接反応させて、約1Mの酢酸マグネシウム水溶液を生成した場合(比較例9)と、粉末の酢酸マグネシウムを溶かしたもの(比較例5)で差が生じるかを調べた。しかし、差は生じなかった。
【0022】
次に、単体使用で凝固点降下の効果が最も高かった小野建設製の木酢を用いて、実験を行った。小野建設製の木酢は蒸留されていないため、酢酸を含む成分の含有量が高かったため、凝固点降下の効果が高かったと考えられる。
実施例1,2は、小野産業製の「ウッドビネガー」原液から更にタール成分について徹底した濾過を行った後に、金属マグネシウムとの反応を行ったものを用いた。
実施例1は、反応後の溶液のpHを7.9としたもので、実施例2はマグネシウムの量を少なくして反応後の溶液のpHを6.2としたものである。
上述のように、酢酸と金属マグネシウムを直接反応させたものと違い、木酢と金属マグネシウムを反応させた生成物は、木酢に酢酸マグネシウムを加えたものよりも、顕著に凝固点降下の温度が下がることが分かった(表には示さず)。
しかし、木酢に金属マグネシウムを投入した量に比例して、反応液の凝固点降下温度が下がる訳ではなく、適切なpHを保つ必要があることも分かった。
これは、木酢単体に含まれる凝固点降下に関する成分を保ちつつ、酢酸マグネシウムが生成される量を調整する必要があるためだと推測される。
以上の結果と、モル数と酢酸マグネシウムの凝固点降下の考察とにより、木酢を20〜22%に濃縮して、金属マグネシウムと反応させることで、従来の塩化物と同等以上の凍結抑制又は融雪効果が得られることが分かった。
さらに、蒸留して濃縮した木酢は酸度が下がっており、凝固点降下の効果が低いことが分かった。
よって、原液を濃縮する際には、酢酸を含む凝固点降下に効果ある成分の含有量を減らさないよう、イオン交換膜等、主に水分だけを除去できる手段を用いて濃縮することが望ましいことが分かった。
【0023】
<室内散布試験>
次に、融雪剤の効果と各比較例について、屋内試験により効果を確認した。
以下で、図1を参照して、具体的な試験方法を説明する。
まず、恒温高湿室において、室温を−9℃に設定し、十分な大きさのバット(900cm2 )に1000mLの水を張り、各融雪剤を投入した。この上で、室温を−15℃に設定し、1分毎に1時間30分間、水温(氷温)の変化を計測し、凍結防止効果を検証した。
次に、各融雪剤を投入され十分な時間の経過後、完全に凍っているバットの表面に、投入されたものと同一の各融雪剤を引き続き散布した。この上で10分毎に20時間、氷の温度変化を計測し、融雪効果を検証した。
各融雪剤の投入量と散布量については、以下の表2で示した。
【0024】
【表2】

【0025】
(実施例)
実施例3と4は、イオン交換膜により濃度を20〜22%に高めた木酢に、金属マグネシウムを投入して反応させ、生成物を風乾し、細かい粉末状の融雪剤を作成したものである。イオン交換膜用のイオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂であるダイヤイオンWK100(三菱科学社製、登録商標)と一般的なカラムを用いた。
実際に散布する際の散布量としては、実施例3は15g/m2、実施例4は30g/m2に相当する。
(比較例)
比較例12は水のみのコントロール、比較例13は粒状で純粋度が高い高級なフレーク塩であるキングソルト(キングソルト:日本海水社、小名浜工場製)、比較例14は通常の95%以上の塩化ナトリウム(並塩:日本海水社、小名浜工場製)、比較例15は塩化カルシウム(粒状 塩化カルシウム:トクヤマ社製)を用いた。
また、比較例16は、融雪剤として使われることもある粉末状の尿素(尿素:輸入元・三井物産株式会社、原産国・中華人民共和国)を用いた。なお、尿素は金属への腐食効果は低いが、悪臭源や硝酸性窒素源となる。このため、地下水の汚染等の原因となり、環境負荷は決して低くはない。
さらに、比較例17は、従来技術1の化合物であるCMA100(CMA A 100[3:7]:米国CRYOTECH社、日本代理店パティネ商会製)である。
【0026】
図2は、室内散布試験の凍結防止効果を計測した図であり、縦軸は温度、横軸は計測時間を示す。この結果から、木酢とマグネシウムの生成物は、従来技術1の融雪剤の半分の散布量(実施例3)で同等の凍結防止効果を示すことが分かった。さらに、従来と同等の散布量では、塩化ナトリウム(キングソルト)に比べても遜色ない凍結防止効果を示すことが分かった。
図3は、室内散布試験の融雪効果を計測した図であり、縦軸は温度、横軸は計測時間を示す。この結果を参照すると、図2の結果と同様に、木酢とマグネシウムの生成物は、氷温が安定してくると(25分以降)、従来技術1の融雪剤の半分の散布量(実施例3)で同等の融雪効果を示すことが分かった。さらに、従来と同等の散布量において(実施例4)、95%以上の塩化ナトリウム(比較例14)と同等以上の融雪効果を示した。これは、塩化カルシウム(比較例15)と比べても遜色なく、木酢とマグネシウムの生成物の有用性が示された。
さらに、木酢とマグネシウムの生成物は、細かい粉末状であるため、目視によると、従来技術1の化合物(比較例17)に比べて、氷の表面に張り付く効果が大きい。このため、融雪剤としての残存度が高く、散布回数を抑えることができることが期待される。
また、実際の散布時には、この粉末状の化合物を顆粒状に加工することもできる。これにより道路等への残存度をさらに上げることが可能になる。
【0027】
<水質検査試験>
融雪剤は、長期にわたって大量に自然環境に放出される。しかし、本発明の実施の形態に係る融雪剤は、ナトリウムを含まないので環境への負荷が非常に低いと考えられる。
そこで念のため、実際に環境負荷物質を含んでいるか、標準的な水質検査試験方法である「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法」にて確認した。この結果を、以下の表3と表4で示す。
【0028】
【表3】

【表4】

【0029】
表3と表4を参照すると、本発明の実施の形態に係る融雪剤(実施例4)は、環境基準、排水基準を上回る成分をほとんど含んでいなかった。特に、ナトリウムに関しては、従来技術1の混合物(比較例17)に比べても、1/100以下の含有量となっているため、長期間散布しても問題はまったくないと考えられる。さらに、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素に関しても、従来技術1の混合物の1/10以下の含有量であるため、地下水や河川の富栄養化を引き起こす可能性も低い。
加えて、マンガン・銅・亜鉛等の、植物の育成に必要な微量ミネラル分が、従来技術1の混合物に比べて多く含まれるため、「地力」の増強に効果があると考えられる。
また、実施例4は鉛とマンガンの基準量については環境基準を若干上回っていたが、これは木酢を回収する際の木炭釜の煙突に鉛が含まれていたためであることが分かり、この煙突を鉛を含まない物に換えたところ、環境基準を完全に満たすことができた。
さらに、実施例4は、原液の濾過を行った後にイオン交換膜により濃縮しているため、ベンゼン類の含有量を環境水準以下に下げることも可能になっている。
【0030】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る融雪剤は、従来の融雪剤と同等以上の凍結抑制又は融雪効果がある。
【0031】
また、従来の融雪剤は植生を破壊し、土地を塩害により砂漠化させる等、環境に対して悪影響があった。
しかし、上述したように、本発明の実施の形態に係る融雪剤は、ナトリウムを含まないため従来の融雪剤と比べて環境負荷が非常に低く、長期間使用しても田畑や周辺環境にまったく悪影響を与えないという効果がある。散布した雪解け水が、地下に染みこんだ際の汚染もまったくない。
さらに、濾過とイオン交換膜による濃縮により、木酢のタール成分による汚染についても完全に防ぐことができる。これにより、ベンゼン環を持つ化合物であるベンゼンやフェノール等による地下水の汚染を完全に防ぐことが可能となる。
加えて、木酢は、植物の成長を助ける栄養分とミネラル分を含む。本発明の実施の形態に係る融雪剤における木酢は濃縮されているため、木酢のみ使用するよりも、有用な植物の繁茂を助け、森林サイクルを保つ役に立つ。さらに、道路に散布された場合、道路脇の街路樹の健康維持に役立つ。また、ゴルフ場等に散布された場合にも、肥料効果があるので、芝生の手入れに役立つ。
【0032】
また、上述のように、従来技術1の融雪剤は合成または精製された原料を使用しているため、非常に高価であり、ほとんど使われていないという問題があった。
しかし、本発明の実施の形態に係る融雪剤は、本来、産業廃棄物として捨てられているものを原材料に使用することで、従来技術1の融雪剤に比べて非常に安価に製造することができる。
例えば、木酢は、間伐材を使用して製造することができる。
また、マグネシウムについても、自然の土砂であるモンモリナイトや、食塩製造の際のにがり成分、スクラップ等から得ることにより、安価に調達可能である。
さらに、東北地方は牡蠣の養殖が盛んであり、本来産業廃棄物として捨てられている牡蠣の殻をカルシウム源に使用することができる。
これにより、高価な原材料を用いることなく製造でき、さらに従来は廃棄コストのかかっていた廃棄物の削減、ひいてはゼロ・エミッション化に資することができる。さらに、環境に低負荷な融雪剤の使用を促進することができる。
【0033】
また、木酢は元々抗菌効果が高いので、道路や周辺の側溝に流れた際に、悪性の細菌や藻等の増殖を抑え、腐敗防止・悪臭防止の効果がある。さらに、木酢には元々、防臭効果がある。
これにより、例えば、凝固点降下の効果向上や散布する表面改質等のために、本発明の実施の形態に係る融雪剤に廃蜜等の有機物をさらに加えることも可能になる。この場合でも、腐敗・悪臭や河川のBOD(生物化学的酸素要求量)等を気にする必要がなくなるためである。
【0034】
また、従来の酢酸ナトリウムを含む化合物は、散布時に酸の匂いが顕著であり、周辺住民やゴルフ場の顧客等に不快感を与えることがあった。
しかし、本発明の実施の形態に係る融雪剤は、木酢を使用したことにより、逆に木酢の燻製香のような芳香を周囲に広げることができる。また、木酢に含まれる芳香環を含む各種化合物により、リラクゼーション効果が期待できる。
【0035】
また、元々の木酢は薄い茶色である。しかし、濃縮した木酢とマグネシウムの反応液は、濃い褐色を呈する。これにより、道路等に散布されたことがはっきりと分かり、残存料と再散布の際の目安となる。さらに、太陽光を吸収することによる融解効果が期待できる。
さらに、イオン交換膜を用いることで、木酢を濃縮する際に同時に脱色を行うことも考えられる。これにより、食紅等の環境に低負荷な色素で色づけをし、散布されたことがはっきりと分かるようにすることも可能である。
加えて、イオン交換膜を用いて濃縮することで、ベンゼン類による環境汚染についても防ぐことが可能になる。
【0036】
なお、上記実施の形態の構成又は実施例は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る融雪剤の室内凝固点降下試験の手順を説明するフローを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る融雪剤の室内凝固点降下試験の凍結防止効果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係る融雪剤の室内凝固点降下試験の融雪効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸金属塩を含む融雪剤であって、
木酢を含み、ナトリウムを含まないことを特徴とする融雪剤。
【請求項2】
前記酢酸金属塩は、酢酸マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の融雪剤。
【請求項3】
前記木酢の濃度は20〜25質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の融雪剤。
【請求項4】
前記木酢は間伐材から製造することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項5】
前記木酢は、1回又は2回蒸留することによって濃縮されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項6】
前記木酢は、イオン交換膜によって濃縮されることを特徴とする1乃至4のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項7】
前記木酢は、フリーズドライによって濃縮されることを特徴とする1乃至4のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項8】
前記酢酸マグネシウムは、金属マグネシウムと木酢を直接反応させて生成することを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項9】
カルシウムを更に含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項10】
前記カルシウムは、貝類の殻から採取したカルシウムを用いて生成することを特徴とする請求項9に記載の融雪剤。
【請求項11】
ベンゼン類を含まないことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1つに記載の融雪剤。
【請求項12】
木酢を製造し、
前記木酢と金属マグネシウムとを反応して、酢酸マグネシウムを生成し、
貝類の殻からカルシウムを採取し、
前記貝類の殻と前記木酢とを反応させて、酢酸カルシウムを生成することを特徴とする融雪剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−163099(P2008−163099A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351881(P2006−351881)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(507000361)株式会社環境フロンティア (1)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】