説明

螺旋状体液溢出最少化デバイス

図示のデバイスおよび方法は、関節内視鏡手術の際、体液溢出の最小化を実現する。この体液溢出最小化デバイスによって、外科医は、関節内視鏡手術処置の間、術野を囲む軟部組織から過剰な液体を排出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節内視鏡手術の分野に関し、さらに詳細には、肩の関節内視鏡手術の際の体液管理に関する。
【背景技術】
【0002】
最小侵襲手術の際、手術用具、例えば、トロカール、カニューレ、および、医用光学装置、例えば、内視鏡、膀胱鏡、関節内視鏡、腹腔鏡などを含む光学装置は、小さな切開創または入口を通じて患者の体または体腔に挿入され、患者の体内において手術処置を実行するよう操作される。最小侵襲外科処置は、開放手術よりも安全であり、より速やかな患者の回復、より短い入院滞在期間、およびより低い健康管理コストをもたらす。したがって、侵襲度を最小に留めることは常に重要であり、この目標を実現する装置および方法は常に求められている。
【0003】
最小侵襲外科技術が利点とされる一つの領域は、肩の手術である。肩の手術は、ここ数年で、開放的外科処置から関節内視鏡による術処置へと進化している。この進化は、装置、用具、およびインプラントにおける技術的進歩の結果である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手術時、関節を広げ、出血をコントロールするために、流体が手術部位に導入される。肩の内視鏡手術に関わる大きな不安は、体液の溢出である。体液の溢出とは、細胞間液、例えば、血液、還流液、または薬剤の、注液部位周囲の組織への移動である。肩および肩周辺領域の軟部組織へ漏れ出た液は、患者に対し有害な作用をもたらす。このような作用のいくつかとして、気管圧迫、関節部における血液または凝固塊の蓄積(関節血症)、静脈における血液凝固塊の形成(血栓静脈炎)、動脈損傷、神経損傷、関節周囲の血管および神経の圧迫(仕切り症候群)、および感染が挙げられる。これらの作用は、より長い回復期間をもたらす外、患者の苦痛および不快を招く。手術の際に起こる体液溢出はさらに、手術がまだ終わらない内に術野の閉塞をもたらすことがあり、このため、外科医は無理矢理処置を急いで済ませなければならなくなる。体液溢出によって引き起こされるこのような作用があるので、肩の内視鏡手術時における体液溢出を抑えるための装置および方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0006】
請求項1記載の発明によれば、体液溢出最少化デバイスであって、その内部に排出腔を配置させる螺旋構造であって、遠位端、近位端、および、関節内視鏡装置の上に除去可能的に配置するのに十分な大きさと形状を持つ内径を有することを特徴とする前記螺旋構造であり、前記螺旋構造の外面に配置され、前記排出腔と液的に連通する、複数の排出口および、前記排出腔と液的に連通する前記螺旋構造の近位端に配置される流体ポートを含み、前記複数の排出口が、過剰な液体の、手術部位を囲む組織からの排除を可能とすることを特徴とする体液溢出最少化デバイスである。
【0007】
請求項2記載の発明によれば、前記流体ポートと液的に連通する真空供給源をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイスである。
【0008】
請求項3記載の発明によれば、前記流体ポートと液的に連通する吸い込み口をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイスである。
【0009】
請求項4記載の発明によれば、前記螺旋構造が、平坦チューブを含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイスである。
【0010】
請求項5記載の発明によれば、関節内視鏡手術を実行するためのシステムであって、関節内視鏡装置、および、前記関節内視鏡装置の外径の周囲に配置される体液溢出最少化デバイスであって、その内部に排出腔を配置させ、かつ、遠位端、近位端、および、関節内視鏡装置の上に除去可能的に配置するのに十分な大きさと形状を持つ内径を有する螺旋構造、および、前記螺旋構造の外面に配置され、前記排出腔と液的に連通する複数の排出口を含む前記体液溢出最少化デバイスを含むことを特徴とするシステムである。
【0011】
請求項6記載の発明によれば、前記排出腔と液的に連通する真空供給源をさらに含むことを特徴とする請求項5記載のシステムである。
【0012】
請求項7記載の発明によれば、真空供給源に結合するアダプターをさらに含み、前記アダプターが、前記螺旋構造の近位端に配置されることを特徴とする請求項5記載のシステムである。
【0013】
請求項8記載の発明によれば、前記関節内視鏡装置が、滑らかな表面の作業カニューレを含むことを特徴とする請求項5記載のシステムである。
【0014】
請求項9記載の発明によれば、前記関節内視鏡装置が、ネジ溝付き表面を有する作業カニューレを含むことを特徴とする請求項5記載のシステムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、関節内視鏡手術の際、体液溢出の最少化を実現する。この体液溢出最少化デバイスによって、外科医は、一方で近代的関節内視鏡手術用具を使用しながら、同時に術野周囲の軟部組織から液体を排出することが可能となる。この体液溢出最少化デバイスは、カニューレの外面周囲に配置されるのに十分な大きさ、および形状を持つ、中空の螺旋構造を含む。排出腔と液的に連通する排出口が、この螺旋構造の外面に配置される。体液溢出最少化デバイスの近位部分には、液体ポート、マニフォールド、および、その体液溢出最少化デバイス内部の液体流を調節する、他の手段が設けられる。各排出口は、構造内の、一つ以上の排出腔と連通し、これによって、液体が、術野と、患者の外部に設置される流出部または流入部の間を流れることが可能となる。この体液溢出最少化デバイスによって、外科医は、周辺組織に生じる体液溢出の量を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、体液溢出最少化デバイス2を用いて患者の肩1に対して関節内視鏡手術を実行する方法の一例を示し、体液溢出最少化デバイスが、患者の肩の関節包3の中に挿入されるところが示される。様々な解剖学的目印、例えば、患者の鎖骨4、肩甲骨5、および上腕骨6を含む目印が描かれる。体液溢出最少化デバイス2は、剛性カニューレを有する関節内視鏡などの関節内視装置7の周囲に配置される。
【0018】
肩の関節内視鏡手術の際、外科医は、術野を可視化するために第1ポートを通じて肩に関節内視鏡を挿入する。外科医が、取り除くべきである、または整形すべきであると判断した組織を取り除くか、または整形するために、第2ポートを通じてトリミング装置が挿入される。澄明な視野が維持されるよう、関節を広げるか、および/または術野を還流するために、要すれば任意に第3ポートを通じて還流装置を導入してもよい。関節内視鏡手術において使用される、他の関節内視用具としては、内視鏡、ゾンデ、鉗子、またはキューレット(shaver)が挙げられる。
【0019】
図2は、体液溢出最少化デバイス2の等尺図を示し、一方、図3は、滑らかな表面を有するカニューレの外径の上に配置される体液溢出最少化デバイス2の断面図である。
【0020】
この体液溢出最少化デバイス2は、螺旋状に巻かれた平坦チューブ、または、その他の螺旋構造8であって、その中に1本以上の排出腔9を貫通させるチューブまたは構造を含む。この排出腔の中に吸湿性材料を配してもよい。
【0021】
螺旋構造の内径10は、剛性カニューレ、または関節内視鏡装置の外径11に対して摺動可能に密着させるのに十分な大きさと形状を有する。
【0022】
排出腔9は、手術部位からの液体流出を受け入れるのに十分な大きさと形状を有する。螺旋構造の外面には、複数の排出口12が配置される。
【0023】
この排出口12は、螺旋構造の中に配置される一つ以上の排出腔と液的に連通する。排出口12の大きさは、装置のろ過速度を調節するのに使用することが可能である。
【0024】
装置のろ過速度とは、装置が、周辺組織から細胞間液を排除することが可能な速度である。
【0025】
体液溢出最少化デバイスの近位部分には、流体ポート13、またはその他のアダプターが設けられる。
【0026】
この流体ポート13またはアダプターは、真空源、または吸収性材料から成る吸い込み口を動作可能的に使用することによって、排出腔からの流体の排除を実現する。流体ポート13は、排出腔9と液的に連通するように、かつ、真空源と液的に連通するように設置される。流体ポート13には、体液溢出最少化デバイス内部における、液体の流量および/または吸収量を調節する他の手段が設けられてもよいし、あるいは、そのような手段に流体ポート13が結合されてもよい。この吸収量および流量を調節するための手段は、バルブ、スイッチ、および、コンピュータによる調節システムを含んでもよい。
【0027】
螺旋構造8の遠位端14は、閉鎖末端であり、術野の組織に対する傷害を回避するために、その形が弓状となっていてもよい。
【0028】
各排出口12は、一つ以上の排出腔9と液的に連通し、そのため、流体は、術野と、患者の体外に配置される真空源または吸い込み口の間を流れることが可能となる。排出腔9と液的に連通する排出口12はさらに、体液溢出最少化デバイスの螺旋直径の内径にそって配置されてもよい。
【0029】
体液溢出最少化デバイス2は、滅菌可能な、生物分解性ポリマー、例えば、ナイロン、ポリカーボネートウレタン、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、およびポリエチレングリコールから製造されてもよい。体液溢出最少化デバイス2は、流体供給源、真空源、関節内視鏡手術用ポンプ、および調節システムを含む完全流体管理システムの一部となることも可能である。過剰圧バルブを、体液溢出最少化デバイス2に動作可能的に結合し、そうすることによって、関節が関節内視鏡ポンプによって過剰に加圧された場合、デバイスの排出腔を開放させ、関節を排液させるにようにすることが可能である。
【0030】
図3の断面図に描かれるように、螺旋構造は、ほぼ方形の断面を有する平坦なチューブであり、そこに一つ以上の排出腔が設けられる。複数の排出口が、螺旋構造の外面に配置される。排出口はさらに、各螺旋巻きの間の、螺旋構造の側壁15(図5参照)にも、螺旋構造の内径10にも配置されてよい。内径10は、関節内視鏡手術装置の外径を受容するのに十分な大きさ、および形状を有する。
【0031】
図4に見られるように、体液溢出最少化デバイス2は、螺旋構造が関節内視鏡装置の周囲に配置された場合、該関節内視鏡装置またはカニューレの外径11の上に摺動可能に密着し、そのため、該体液溢出最少化デバイスは、関節内視鏡装置に対し取り外し可能に結合することが可能となる。
【0032】
図5は、肩の組織18における作業カニューレ16の上に配置された、体液溢出最少化デバイス2の長軸断面図を示す。装置は、外科医によって患者の体内に創製された手術ポート17の中に配置される。螺旋構造の内径のために、体液溢出最少化デバイス2は、カニューレ16などの関節内視鏡装置の周囲に配置することが可能とされる。関節内視鏡手術処置の間、加圧流体を用いて、関節が拡張され、手術部位が還流され、組織の出血が阻止される。加圧流体、血液、および組織破片は、手術部位を囲む肩組織18から排出口を通じて排出される。装置2は、手術部位から出て、肩の、周辺の軟部組織に流入する過剰な流体19を排出する。
【0033】
流体、血液、および組織破片の除去によって、肩組織に残留する液体の量は抑えられ、それによって、体液の溢出は最少化される。体液の溢出をさらに最少化する試みとして、体液溢出最少化デバイスのろ過速度は、周辺組織18のろ過速度よりも高くされる。周辺組織のろ過速度は、周辺組織が、術野から液体を吸収する速度である。ろ過速度の差は、手術中関節内の圧を維持するために、約10%から約15%であることが好ましい。
【0034】
体液溢出最少化デバイス2はさらに、図6に示すように、ネジ溝付き作業カニューレ21と組み合わせて使用してもよい。この図では、体液溢出最少化デバイスの螺旋構造は、カニューレ外面の、ネジ溝20の山の間に配置される。カニューレ外面に配置されるネジ溝、またはその他の形状の突稜は、手術時、カニューレが簡単に排除されないように防止する。ネジ溝付きカニューレ21および体液溢出最少化デバイスをこのように組み合わせることによって、装置を確保しながら、他方では、過剰な流体を排出するという利点が実現される。
【0035】
装置および方法の好ましい実施態様が、それらが開発された環境を参照しながら説明されたわけであるが、これらの装置および方法は、本発明の原理を単に具体的に例示するものであるにすぎない。その他の実施態様および構成も、本発明の精神、および付属の特許請求の範囲から逸脱することなく工夫することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】体液溢出最少化デバイスを用いて、患者に対し内視鏡手術を実行する方法を示す図
【図2】体液溢出最少化デバイスの等尺図
【図3】滑らかな表面を有する作業カニューレの外径の周囲に配置される体液溢出最少化デバイスの長軸断面図
【図4】滑らかな表面を有する作業カニューレの外径の周囲に配置される体液溢出最少化デバイスの等尺図
【図5】肩の組織における体液溢出最少化デバイスの長軸断面図
【図6】ネジ溝付きカニューレの上に配置された、体液溢出最少化デバイスを示す図
【符号の説明】
【0037】
2 :体液溢出最少化デバイス
7 :関節内視鏡装置
8 :螺旋構造
9 :排出腔
10:螺旋構造の内径
12:排出口
13:流体ポート
14:遠位端
16:作業カニューレ
18:肩の組織
19:流体
20:ネジ溝
21:ネジ溝付きカニューレ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液溢出最少化デバイスであって:
その内部に排出腔を配置させる螺旋構造であって、遠位端、近位端、および、関節内視鏡装置の上に除去可能的に配置するのに十分な大きさと形状を持つ内径を有することを特徴とする前記螺旋構造;
前記螺旋構造の外面に配置され、前記排出腔と液的に連通する複数の排出口;および、
前記排出腔と液的に連通する、前記螺旋構造の近位端に配置される流体ポートを含み、
前記複数の排出口が、過剰な液体の、手術部位を囲む組織からの排除を可能とすることを特徴とする体液溢出最少化デバイス。
【請求項2】
前記流体ポートと液的に連通する真空供給源をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイス。
【請求項3】
前記流体ポートと液的に連通する吸い込み口をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイス。
【請求項4】
前記螺旋構造が、平坦チューブを含むことを特徴とする請求項1記載の体液溢出最少化デバイス。
【請求項5】
関節内視鏡手術を実行するためのシステムであって:
関節内視鏡装置;および、
前記関節内視鏡装置の外径の周囲に配置される体液溢出最少化デバイスであって、その内部に排出腔を配置させ、かつ、遠位端、近位端、および、関節内視鏡装置の上に除去可能的に配置するのに十分な大きさと形状を持つ内径を有する螺旋構造、および、前記螺旋構造の外面に配置され、前記排出腔と液的に連通する複数の排出口を含む前記体液溢出最少化デバイスを含むことを特徴とするシステム。
【請求項6】
前記排出腔と液的に連通する真空供給源をさらに含むことを特徴とする請求項5記載のシステム。
【請求項7】
真空供給源に結合するアダプターをさらに含み、前記アダプターが、前記螺旋構造の近位端に配置されることを特徴とする請求項5記載のシステム。
【請求項8】
前記関節内視鏡装置が、滑らかな表面の作業カニューレを含むことを特徴とする請求項5記載のシステム。
【請求項9】
前記関節内視鏡装置が、ネジ溝付き表面を有する作業カニューレを含むことを特徴とする請求項5記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−523577(P2009−523577A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551517(P2008−551517)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/060650
【国際公開番号】WO2007/084929
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508002737)カンヌフロウ インコーポレイテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】Cannuflow, Inc.
【住所又は居所原語表記】1190 Coleman Road #250, San Jose, CA 95110
【Fターム(参考)】