説明

螺旋状溝タップ

【課題】前端(26)と後端(24)とを有する細長い本体(22)を含む切削工具が提供する。
【解決手段】細長い本体(22)は、前端(26)の近傍を起点としてそこから後方に延びる溝付部(30)を有する。溝付部(30)は、切刃を定義する溝(36、38、40、42)を有する。溝は凹状すくい面(60)を有し、この場合、凹状すくい面(60)は第1の半径(R1)によって定義される。さらに、溝は、凹状すくい面(60)に隣接する凹状底面(66)を有し、この場合、凹状底面(66)は第2の半径(R2)によって定義される。溝は、凹状底面(66)に隣接する凸状ヒール面(64)を有し、この場合、凸状ヒール面(64)は第4の半径(R4)によって定義される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体に雌ねじを形成するために使用される切削工具(又は切削タップ)に関する。より具体的には、本発明は、螺旋状(ねじれ)溝形状を有する切削工具(又は切削タップ)であって、螺旋状溝切削タップが焼結炭化タングステン工具材料から製造される切削工具(又は切削タップ)に関する。
【背景技術】
【0002】
技術として、ねじ山を必要とする機構及び機械構成要素については長い歴史がある。具体的には、部品をアセンブリに接合するために、ねじ山をファスナ構成要素として使用することは一般的な方法である。雌ねじ及び雄ねじの両方を含むねじ山を形成するための多くの方法が存在するが、タップ(又は切削タップ)によって雌ねじを形成することが好ましい方法であることは経験的に示されてきた。
【0003】
現在、雌ねじを形成するための2つの基本的なタッピング法が存在する。主なタッピング法は、材料を孔の壁から切削することである。次に、V字状の螺旋ねじ山を形成するために、切削された材料が除去される。他の基本的なタッピング法では、雌ねじを形成するために材料が変位される。雌ねじを形成する切削方法は、変位法よりも小さなトルクで済む。
【0004】
雌ねじの形状及びサイズの寸法精度により、ねじ山アセンブリの精度及び適合性が制御される。さらに、タッピングの速度、すなわち、雌ねじを切削するのにかかる生産時間が、雌ねじを形成するためのコスト全体に影響を及ぼす。
【0005】
形成すべき雌ねじの形状及びサイズにより、使用し得るタップの形状が決定される。一般に、雌ねじ付き孔は貫通孔になるように底部が開かれ得るか、又は雌ねじ付き孔は盲孔になるように底部が閉じられ得る。
【0006】
直線状溝を有する切削タップを使用して、より大きな直径(例えば、一般に12mm以上の直径)を有するねじ付き孔及びねじ付き盲孔をタッピング(又は切削)し得る。ヘンデラー(Henderer)らの国際公開第2004/076108A2号パンフレット、「高精度の超硬合金ねじ切りタップ」(PRECISION CEMENTED CARBIDE THREADED TAP)には、直線状溝切削タップが図示及び記載されている。破砕された短い切屑を生じさせる材料(例えば鋳鉄又はアルミニウム)のより小さな直径(例えば、一般に12mm未満の直径)を有するねじ付き孔又はねじ付き盲孔を切削するために、直線状溝切削タップを使用し得る。しかし、直線状溝切削タップは、連続切屑を生じさせる材料(例えば延性鋼、例を挙げるとAISI 4340鋼等)のより小さな直径を有するねじ付き孔又はねじ付き盲孔を切削するのに有効ではない。このような場合、切削作業から生じた連続切屑が直線状溝切削タップの溝に付着し、切削タップは破損するか、さもなければ許容可能レベルで機能しなくなる。
【0007】
切削作業から生じた連続切屑が直線状溝切削タップの溝に付着し、切削タップが破損するか、さもなければ許容可能レベルで機能しなくなったこの状態のために、一般に用いられる2つの解決策がある。ねじ付き孔を切削する場合、切屑を切削タップの前方に押し出す鋭利な螺旋状切削タップ又は左螺旋状溝切削タップを使用する方法があって(右ねじ山螺旋を切削する場合)、これによって、直線状溝切削タップの溝への切屑の付着又は詰まりが回避される。また、盲孔を切削する場合、ねじ付き孔から切屑を引き出す右螺旋状溝切削タップを使用する方法があって、これによって、直線状溝切削タップの溝への切屑の付着又は詰まりが防止される。
【0008】
現在、高速度鋼から製造された螺旋状溝タップ(ねじれ溝タップとも呼ばれる)が、ねじ付き盲孔を切削するために有効に使用される。高速度鋼(又は高速工具鋼)の仕様は、ASTM規格A 600REV A、表題「高速工具鋼に関する標準仕様」(Standard Specification for Tool Steel High Speed)に記載されている。
【0009】
高速度鋼の螺旋状溝切削タップは満足な結果を得るように動作するが、螺旋状溝切削タップ等の切削工具を製造するには、高速度鋼よりも、焼結炭化タングステン(例えばコバルト焼結炭化タングステン)の方が好ましい材料である。この好ましさは、焼結炭化タングステン材料が、高温で硬度を保持する能力を含むより高い硬度及び高温安定性等で、高速度鋼よりも最適な特性を有することによるものである。典型的に、「高速度」鋼から製造された切削工具よりも少なくとも3倍速い切削速度で、超硬合金(例えばコバルト焼結炭化タングステン)から製造された切削工具を使用できる。さらに、超硬合金(例えばコバルト焼結炭化タングステン)から製造された切削工具は、典型的に、「高速度」鋼から製造された切削工具の有効工具寿命よりも長い有効工具寿命を有する。
【0010】
ねじ付き孔を切削するために、直線状溝とスパイラルポイントと左螺旋状溝とを有する超硬合金切削タップが開発され、高速で使用されてきた。しかし、溝構造を有する超硬合金の右螺旋状溝切削タップは、一般に使用されている高速度鋼切削タップと同様に、小径のねじ付き孔をタッピングした場合に切屑を生じさせる。これらの右螺旋状溝切削タップは、これらの位置の溝とねじ山側面との交差部の刃先角が小さいために削れやすい溝のヒールに切刃及び刃を有する。切屑により、切削タップが破損するか、又は(少なくとも)切削タップが最適なレベルで機能できなくなる。
【0011】
特許文献において、螺旋状(ねじれ)溝切削タップのために用いられる種々の概念が存在する。この点に関して、マラジーノ(Malagino)の米国特許出願公開第2004/0247406A1号明細書には、蒸気温度の溝表面とPVDコーティングされたねじ山表面とを有するねじれ溝タップが記載されている。ニューマーク(Newmark)の米国特許出願公開第2003/0138302A1号明細書には、孔を面取りする装置に組み込まれるねじれ溝タップが記載されている。フリン(Flynn)の米国特許出願公開第2003/0118411A1号明細書には、タップの長さに沿って変化するねじれ角を有する螺旋状溝タップが記載されている。ヘイコック(Haycock)の英国特許第700,843号明細書には、各ランドの主端面がある角度で軸方向に浮き上がるか又は後退されるように研削された螺旋状溝タップが記載されている。オクネスタム(Oknestam)の国際公開第02/087813A1号パンフレットには、溝の表面に組み込まれる切屑ブレーカを有するねじれ溝タップが記載されている。
【0012】
ジョージ(George)の国際公開第02/28578A3号明細書(2002年4月11日)には、凸状半径を有するヒールを備える溝形状を有する螺旋溝ドリルが記載されている。ここで、タップ及びドリルの切削動作には大きな違いがある。孔を形成する際に、ドリルは、材料を中心線から孔の壁に変位させて除去することを必要とし、これに対して、タップは孔の壁から材料を除去するだけである。2つの工具において切屑の流れの方向は異なるので、必要な溝形状が異なる。
【0013】
ハルオ(Haruo)の特開平06−179121号公報(1992年12月14日)の要約書には、負の軸方向レーキ角を有する螺旋状溝タップが記載されている。ハルオ(Haruo)の特開平04−075816号公報(1992年3月10日)の要約書には、ねじ山側面及び入口案内面の角部を面取りする螺旋状溝タップが記載されている。ハルオ(Haruo)の特開平01−171725号公報(1989年7月6日)の要約書には、切屑カール溝を有する螺旋状溝タップが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2004/076108A2号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0247406A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0138302A1号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0118411A1号明細書
【特許文献5】英国特許第700,843号明細書
【特許文献6】国際公開第02/087813A1号パンフレット
【特許文献7】国際公開第02/28578A3号明細書
【特許文献8】特開平06−179121号公報
【特許文献9】特開平04−075816号公報
【特許文献10】特開平01−171725号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】オーベルグ(Oberg)、機械ハンドブック(Machinery’s Handbook)、インダストリアルプレス社(Industrial Press,Inc.)、1992年、第24版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献に開示されている切削タップについて、これらの文献のいずれも、ねじ付き孔を切削する際に螺旋状溝切削タップのために、極めて耐摩耗性であるが、より低い強度の基体(例えば、コバルト焼結炭化タングステン等の炭化タングステン又は超硬合金)が使用された場合に生じる切屑の問題に対処していない。これは、より小さな直径のねじ付き孔(貫通孔及び盲孔)を切削するために使用される切削タップに特に当てはまる。したがって、ねじ付き孔、特に、より小さな(例えば、一般に12mm未満の)直径のねじ付き孔を切削するために使用できる極めて耐摩耗性であるが、より低い強度の基体(例えば、コバルト焼結炭化タングステン等の炭化タングステン又は超硬合金)から製造された螺旋状溝切削タップを提供することが非常に望ましい。
【0017】
さらに、ねじ付き孔を切削する際の、特にねじ付き盲孔を切削する際の精度を向上させる螺旋状溝切削タップを提供することが非常に望ましい。これは、超硬合金又は高速度鋼から製造される螺旋状溝切削タップに当てはまる。
【0018】
その上、ねじ付き孔を切削する際の、特にねじ付き盲孔を切削する際の有効工具寿命を向上させる螺旋状溝切削タップを提供することが非常に望ましい。これは、超硬合金又は高速度鋼から製造される螺旋状溝切削タップに当てはまる。
【0019】
さらに、ねじ付き孔を切削する際の、特にねじ付き盲孔を切削する際の速度を向上させる螺旋状溝切削タップを提供することが非常に望ましい。これは、超硬合金又は高速度鋼から製造される螺旋状溝切削タップに当てはまる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一形態では、本発明は、前端と後端とを有する細長い本体を含む切削工具である。細長い本体は、前端の近傍を起点としてそこから後方に延びる溝付部を有する。螺旋状溝付部は、切刃を定義する溝を有する。溝は凹状すくい面を有し、この場合、凹状すくい面は第1の半径によって定義される。溝は、凹状すくい面に隣接する凹状底面を有し、この場合、凹状底面は第2の半径によって定義される。溝は、凹状底面に隣接する凸状ヒール面を有し、この場合、凸状ヒール面は第4の半径によって定義される。
【0021】
本発明の他の形態では、本発明は、前端と後端とを有する細長い本体を備える切削工具である。細長い本体は、前端の近傍を起点としてそこから後方に延びる溝付部を有する。溝付部は、切刃を定義する溝を有する。溝は凹状すくい面を有し、この場合、凹状すくい面は第1の半径によって定義される。溝は、凹状すくい面に隣接する凹状底面を有し、この場合、凹状底面は第2の半径によって定義される。溝は、凹状底面に隣接する凸状混在面(blending surface)を有し、この場合、凸状混在面は第3の半径によって定義される。溝は、凹状底面に隣接する凸状ヒール面を有し、この場合、凸状ヒール面は第4の半径によって定義される。
【0022】
以下は、本特許出願の一部をなす図面の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の螺旋状(ねじれ)溝タップの特定の実施形態の等角図である。
【図2】図1の断面線2−2に沿った図1の螺旋状(ねじれ)溝タップの断面図である。
【図2A】コーダルフック角(chordal hook angle)の定義を示した螺旋状溝タップの部分の機械的な概略端面図である。
【図3】螺旋状溝切削タップの第2の特定の実施形態の断面図である。
【図3A】螺旋状溝切削タップの第2の特定の実施形態のランド114と120とを分離する溝104を示した図3の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照すると、図1は、本発明の螺旋状溝切削タップ(全体的に20で示されている)の特定の実施形態を示した等角図である。螺旋状溝切削タップ20は、対向する後端24及び前端26を有する細長い本体22を有する。螺旋状溝切削タップ20は、後端24に隣接するブラケット28で示したほぼ滑らかな円筒状シャンク部を有する。ブラケット30で示した螺旋状溝付部は螺旋状溝切削タップ20の前端24を起点としてそこから後方に延びる。螺旋状溝切削タップ20の軸方向前端26は切削面取り部32を有する。以下に説明するように、螺旋状溝付部は切刃を定義する。使用中、円筒状シャンク部28を工具ホルダに挿入することによって、螺旋状溝切削タップ20が工作機械により保持される。シャンク部の形状が正方形断面を有し得ることを理解されたい。
【0025】
図2を参照すると、螺旋状溝切削タップ20は4つのねじれ溝(又は溝付部)36、38、40及び42を有する。本出願人らが、本発明の全範囲を特定数の溝に限定することを意図しないことが理解されるであろう。各溝は実質的にランド面46、48、50、及び52を分離する。より具体的には、ねじれ溝36はランド46と52を分離する。ねじれ溝38はランド46と48を分離する。ねじれ溝40はランド48と50を分離する。ねじれ溝42はランド50と52を分離する。ランド(46、48、50及び52)の各々は、ねじ付き孔を定義するねじ山を切削するように機能するV字状のねじ山側面を有する。
【0026】
ねじれ溝36、38、40及び42の各々は実質的に同じ形状を有する。したがって、ねじれ溝36の説明は他のねじれ溝(38、40、42)の説明にもなる。また、明瞭にするために、溝の全てに共通する特徴が、溝36以外の溝に関する説明でもあり得ることを理解されたい。
【0027】
ねじれ溝36を定義する表面は3つの基本部分を有するものとして特徴付けることができる。これらの部分は凹状すくい面60、凹状底面66及び凸状ヒール面64である。
【0028】
凹状すくい面60について、それは、大きな凹状半径(第1の半径R1)によって定義される。第1の半径R1の大きさが特定の用途に応じて変化できるのと同時に、すくい面60がほぼ直線状の(又は平らな)表面である程度に、第1の半径R1が十分に大きいと性能的に有利であると思われる。この点に関して、すくい面60を形成する第1の半径R1が切削タップの直径(又は切削工具の直径)D1よりも大きい場合、ほぼ直線状の(又は平らな)表面を有するすくい面60が形成される。本出願人らは、ほぼ平らなすくい面60により、切削面取り部に沿って一定のままであるコーダルフック角が得られ、この態様により、螺旋状溝切削タップの性能が改善されることを見出した。
【0029】
凹状底面66について、それは第2の半径(R2)によって定義される。凹状底面66は凹状すくい面60に隣接する。この特定の実施形態では、凹状底面66は凹状すくい面60から凸状ヒール面64への移行部を提供する。
【0030】
3番目の部分である凸状ヒール面64は、それは第4の半径(R4)によって定義される。凹状底面66は凸状ヒール面64に隣接する。本出願人らは、凸状半径R4でヒール部64を形成することによって、凸状ヒール面64の削れを回避できる(又は少なくとも最小限に抑えることができる)ことを見出した。図2に示した特定の実施形態では、溝36の表面が、凹状すくい面60と凹状底面66と凸状ヒール面64との組み合わせによって定義されることが理解できる。
【0031】
図2Aを参照すると、関連技術(インダストリアルプレス社(Industrial Press,Inc.)のオーベルグ(Oberg)らによる機械ハンドブック(Machinery’s Handbook)(1992年)の第24版の1696ページ参照)で知られているように、コーダルフック角は、末端切刃を通過する半径方向線と、末端切刃(チェスト(chest))から小径(又はルート(root))に延びるコーダル線との間の角度である。コーダル線が半径方向線に対して反時計回り方向(図2Aで見たとき)に位置決めされた場合、コーダルフック角は正角である。コーダル線が半径方向線に対して時計回り方向(図2Aで見たとき)に位置決めされた場合、コーダルフック角は負角である。コーダル線が半径方向線にある場合、コーダルフック角はゼロに等しい。
【0032】
本出願人らは、ほぼ直線状のすくい面60と組み合わせて、中間(neutral)のコーダルフック角(図2AのA1参照)を用いることによって超硬合金タップの削れがなおさらに低減されることを見出した。言い換えれば、すくい面60が切削タップの切刃67と軸方向中心70との間の線にある場合、切削タップは効果的に切削を行い、切刃(切刃67を含む)は削れに対して十分な強度を有する。
【0033】
本出願人らは、超硬合金タップを使用した場合、以下の異なるコーダルフック角が、異なるタッピングの用途に適切であり得ることを見出した。この点に関して、中間のコーダルフック角A1は約ゼロ度に等しく、このようなコーダルフック角は、多くの材料をタッピングするのに(すなわち、ねじ付き孔を切削するのに)、特に、焼入れされていない鋼をタッピングするのに最適である。これらの材料について、中間のコーダルフック角の範囲は4度の負角〜4度の正角であり得る。しかし、他の材料について、タッピングされている材料の硬度及び延性に応じて、最適なコーダルフック角(A1)を変化させることができることを理解されたい。例えば、5度〜10度の負のコーダルフック角が、硬質材料(例えば、焼入れ鋼、又は鋳鉄等の脆性材料)をタッピングするのに適切である。5度〜15度の正のコーダルフック角が、軟質材料(例えばアルミニウム)をタッピングするのに適切である。本出願人らは、高速度鋼の強度が超硬合金と比較してより高いため、上記よりも大きなコーダルフック角を用いて、高速度鋼基体から製造されたタップに、本発明による同じ溝形状を使用できることを意図している。
【0034】
サイズ(すなわち切削タップの直径)に応じて、本発明の螺旋状溝タップは任意の数の溝を有することができる。小径の(すなわち直径約8mm未満の)螺旋状溝切削タップでは、3つの溝が実用的である。中間サイズ範囲の(すなわち、直径約10mm〜約16mmの)螺旋状溝切削タップでは、4つの溝が実用的である。より大きなサイズの(すなわち、直径約18mm以上の)螺旋状溝切削タップでは、5つの溝が適切である。切削タップのこの態様が特定のタッピングの用途に応じて変化できるので、切削タップサイズの範囲が溝の数に対応し得ることを理解されたい。
【0035】
溝の数と組み合わせて、特定のタッピングの用途に応じて非常に広い範囲にわたり溝ねじれ角を変化させ得る。例えば、本発明の螺旋状溝切削タップが、深い孔(例えば、切削タップの直径よりも大きな深さを有する孔)をタッピングするために使用される場合、切屑が溝に付着しないか又は詰まらないように、55度の溝ねじれ角が有効であり得る。他の例として、本発明の螺旋状溝切削タップが、より硬質の材料(例えば焼入れ鋼又は鋳鉄)のより浅い孔(例えば、切削タップの直径以下の深さを有する孔)をタッピングするために使用される場合、15度の溝ねじれ角を有効に用いることができ、これにより、切屑が溝に付着しないか又は詰まらない。さらに他の例として、本発明の螺旋状溝切削タップが、鋼材料又は鋼基体のねじ付き孔をタッピングするために使用される場合、最適なねじれ角は約40度〜約50度である。
【0036】
理解できるように、切屑の排出を最適化することが非常に望ましい。このことにより、切刃から出た後の、及び溝を定義する表面を介して又はそれに沿って通過した後の切屑の通路が考慮される。この点に関して、本出願人は、切屑が溝内でカールしたときに切屑に加えられる曲げを最小限に抑えることによって、切削タップに加えられる力が低減されることを見出した。切削タップに加えられる力の低減が有利な態様であることが理解できる。より具体的には、コア径D2と、ランドD3を定義する内接円とに関する制約を考慮した場合(図2参照)、本出願人らは、タップ径D1以上のR1と、D1の約5%〜25%に等しいR2と、D1の20%〜30%に等しいR4とによって、最適な切屑の流れが実現されることを見出した(図2)。
【0037】
さらに、本出願人は、切屑が溝内でカールとしたときに、切屑に加えられる曲げを最小限に抑えることができる他の方法を見出した。図3に示した特定の実施形態は本発明のこの態様を示している。
【0038】
図3は、全体的に100で示されている螺旋状溝切削タップの第2の特定の実施形態の溝付部の断面図である。螺旋状溝切削タップ100全体については図示していないが、螺旋状溝切削タップ100が、反対側の後端及び前端を有する細長い本体を有することを理解されたい。1つの実施形態として、螺旋状溝切削タップ100は、後端に隣接するほぼ滑らかな円筒部を有することができる。しかし、その代わりに、切削タップ100は、後端に隣接する正方形シャンクを有してもよいことを理解されたい。螺旋状溝切削タップ100は、その前端を起点としてそこから後方に延びる溝付部を有する。螺旋状溝切削タップ100はその後端の円筒状の(又は正方形の)部分を介して工具ホルダ等に接続される。理解できるように、螺旋状溝切削タップ100の基本形状は、一般に、螺旋状溝切削タップ20と同じである。
【0039】
図3及び図3Aに示したように、螺旋状溝切削タップ100は4つのねじれ溝104、106、108、110を有する。本出願人らが、本発明の全範囲を特定数の溝に限定することを意図しないことが理解されるであろう。各溝は実質的にランド114、116、118及び120を分離する。より具体的には、ねじれ溝104はランド114と120を分離する。ねじれ溝106はランド114と116を分離する。ねじれ溝108はランド116と118を分離する。ねじれ溝110はランド118と120を分離する。ねじれ側面(114、116、118、120)の各々は、ねじ付き孔のねじ山を切削するように機能するV字状のねじ山側面を有する。
【0040】
ねじれ溝104、106、108、110の各々は実質的に同じ形状を有する。したがって、ねじれ溝110の説明は他のねじれ溝の説明にもなる。
【0041】
図3Aを参照すると、ねじれ溝104を定義する表面は4つの基本部分を有するものとして特徴付けることができる。これらの部分は凹状すくい面130、凹状底面132、凸状混在面134及び凸状ヒール136である。
【0042】
すくい面130は第1の凹状半径R1’によって定義される。図2の特定の実施形態について上述したように、第1の半径R1’の大きさが特定の用途に応じて変化できる一方、すくい面130がほぼ直線状のすくい面であると有利であると思われる。この点に関して、すくい面を形成する第1の半径R1’がタップ径D1’よりも大きい場合、ほぼ直線状のすくい面130が形成される。
【0043】
凹状底面132は凹状すくい面130に隣接する。凹状底面132は第2の半径(凹状半径)R2’によって定義される。
【0044】
凸状混在面134は凹状底面132に隣接する。凸状混在面134は第3の半径(R3)によって定義される。
【0045】
凸状ヒール136は凸状混在面134に隣接する。凸状ヒール136は第4の半径(R4’)によって定義される。
【0046】
本出願人らは、凸状混在面134が存在することにより、切削タップの性能が改善されることを見出した。この点に関して、本出願人らは、凸状混在面134の第3の半径(R3)がタップ径(D1’)の約50%〜200%である場合、第3の半径R3によって形成された凸面により、切屑の曲げが低減され、溝からの切屑の排出が改善されることを見出した。理解できるように、切屑の曲げの低減と切屑の排出の改善とにより、螺旋状溝切削タップの性能が改善される(向上する)。
【0047】
螺旋状溝切削タップの製造について、切削タップは、時に基体と呼ばれる円筒状焼結炭化タングステンブランクから製造される。ブランク又は基体に関するより好ましい材料はコバルト焼結炭化タングステンである。コバルト焼結炭化タングステンの組成は、約6重量%〜約16重量%の範囲であり得るコバルトであり、この場合、残りは炭化タングステン及び少量の不可避不純物である。コバルトの代わりの1つの範囲は約6重量%〜約10重量%であり得る。コバルトの他の範囲は約10重量%〜約16重量%であり得る。
【0048】
本出願人らが、炭化タンタル、炭化チタン及び炭化ニオブ等の他の炭化物を使用し得ることを意図していることを理解されたい。さらに、本出願人らは、粒成長を抑制するために、少量の遷移金属炭化物がブランクに含まれ得ることを意図している。その代わりに、高速度鋼をブランク用の材料として使用してもよい。典型的な高速度鋼は上記のASTM規格A 600REV Aに記載されている。
【0049】
研削前に、ブランクは、切削タップの仕上げ寸法よりも大きく寸法決めされる直径を有する。さらに、ブランクはある長さに切断されている。
【0050】
ブランクを加工する際の第1のステップは、中心に対する円筒トラバース研削(cylinderical traverse grinding)等の方法によって、又は中心なし送り込み研削(centerless infeed grinding)方法によって、高精度の円筒形公差にブランクを研削することである。この研削ステップ中、円筒状シャンクが、切削タップの軸方向後端に寸法決めするように研削され、ねじ付き本体部の大径がタップの軸方向前端に形成される。さらに、この研削ステップ中に又は追加の工程ステップの結果として、円筒面、及び円筒状シャンクとネック部との間の斜面によって、任意のネック部を形成することが可能である。その上、円筒研削によりタップの端部で、任意の斜面を研削することが可能である。
【0051】
一般に、シャンク径はねじの径にほぼ等しいが、シャンク径は大きな直径のタップのねじの径よりも小さくてもよい。シャンク径は小さな直径のタップのねじの径よりも大きくてもよい。他の選択肢は、切削タップの軸方向最後端(図示せず)のシャンクの一部を正方形に研削することであり得る。
【0052】
次のステップでは、面取り部と、タップが使用される場合に生じる切屑を排出するための手段とを組み合わせて、切刃を設けるように、1つ以上の溝が螺旋状に研削される。上記のように、ねじれ角は用途に依存する。溝が螺旋状に研削された場合、切削タップの選択された半径(例えば、第1の半径R1、R2、R4及び任意の半径R3)を設けるように、研削砥石の形状が形成される。
【0053】
次のステップでは、小径及び大径と共に、V字状のねじ山側面を形成するように、ねじ付き本体部が螺旋状に研削される。その後、研削により、ねじ付き切削面取り部の形状が形成される。V字状のねじ山側面及び大径により、タッピング中に形成される雌ねじが複製される。孔の入口のタップを可能にするように、ねじ付き切削面取り部が先細になる。
【0054】
研削後、切刃及び他の鋭い角部に小さな半径を形成するように、研磨媒体又は研磨ブラシでタップを研磨することが可能である。結果として得られる半径は1〜100μmの間であり得る。この研磨により、上記刃の強度がさらに向上する。
【0055】
この工程の最後のステップでは、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物及び/又は金属酸化物からなる耐摩耗性コーティングスキーム(coating scheme)(図示せず)によってタップを選択的にコーティングすることが可能であり、この場合、金属は、以下のもの、すなわち、アルミニウム、シリコン、並びに周期表のIVa族、Va族及びVIa族の遷移金属の1つ以上から選択される。コーティング層の特定の例は、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミニウム及び窒化チタンシリコンを含む(これらに限定されない)。化学蒸着(CVD)技術及び/又は物理蒸着(PVD)技術により、コーティングスキームを単層として又は複数の層(交互層を含む)に蒸着し得る。
【0056】
試験では、CNCマシニングセンタにおいて200フィート/分でAISI4340鋼の盲孔をタッピングすることによって、M12×1.75mmピッチの本発明によるコバルト焼結炭化タングステンの螺旋状溝切削タップを試験した。切削タップは、ほとんど摩耗なしで、満足できるゲージ品質を有する2000個の孔をタッピングした。現在の設計のPVDコーティングされた従来のHSS(高速度鋼)の螺旋状溝タップは、50〜100フィート/分でタッピングできるに過ぎない。したがって、本発明の螺旋状溝切削タップは、従来技術の切削タップと比較して効果を向上させると思われる。
【0057】
本発明の螺旋状溝切削タップは、極めて耐摩耗性であるが、より低い強度の基体(例えば、コバルト焼結炭化タングステン等の炭化タングステン又は超硬合金)から製造できる螺旋状溝切削タップを提供することが明らかである。さらに、本発明の螺旋状溝切削タップは、ねじ付き孔を切削する際の、特に、ねじ付き盲孔を切削する際の精度を向上させる螺旋状溝切削タップを提供することが明らかである。その上、本発明の螺旋状溝切削タップは、ねじ付き孔を切削する際の有効工具寿命を延ばすことを可能にすることが明らかである。最後に、本発明の螺旋状溝切削タップは、ねじ付き孔を切削する際の速度を向上させることが明らかである。
【0058】
本明細書に記載した特許文献及び他の文献は、参照により本明細書に援用される。本発明の他の実施形態は、本明細書に開示される本発明の仕様又は実施を考慮すれば当業者には明らかであろう。仕様及び例は、例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の真の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端と後端とを有する細長い本体を備える切削工具であって、
前記細長い本体が、前記前端の近傍を起点として前記前端から後方に延びる溝付部を有し、前記溝付部が、切刃を定義する溝を有し、
前記溝が、凹状すくい面を有し、前記凹状すくい面が第1の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状すくい面に隣接する凹状底面を有し、前記凹状底面が第2の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状底面に隣接する凸状ヒール面を有し、前記凸状ヒール面が第4の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状底面と前記凸状ヒール面との間の凸状混在面を有し、前記凸状混在面が第3の半径によって定義される切削工具。
【請求項2】
前記切削工具が切削工具直径を有し、前記第1の半径が前記切削工具直径以上である請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記凹状すくい面がコーダルフック角を定義する請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記コーダルフック角が10度の負角〜15度の正角の範囲である請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記コーダルフック角が約ゼロ度に等しい請求項3に記載の切削工具。
【請求項6】
前記溝が、約10度〜約55度のねじれ角を有する螺旋状溝である請求項1〜5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記ねじれ角が約40度〜約50度の範囲である請求項6に記載の切削工具。
【請求項8】
前記細長い本体が4つの螺旋状溝を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
前記切削工具が切削工具直径とコア径を有し、前記コア径が前記切削工具直径の約30%〜約50%の範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項10】
前記切削工具が切削工具直径を有し、前記第2の半径が前記切削工具直径の約5%〜約25%の範囲である請求項1〜9のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項11】
前記切削工具が切削工具直径を有し、前記第4の半径が前記切削工具直径の約20%〜約30%の範囲である請求項1〜10のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項12】
前記切削工具が切削工具直径を有し、前記細長い本体が複数の溝を有し、隣接する各溝の間にランドがあり、前記ランドが、第3の直径を有する内接円によって定義され、前記第3の直径が前記切削工具直径の約15%〜約25%の範囲である請求項1〜11のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項13】
前記ランドの各々が幅を有し、前記各ランドの幅が、約20度〜約30度の範囲である第2の角度によって定義される請求項12に記載の切削工具。
【請求項14】
前記細長い本体が切削工具直径を有し、前記第3の半径が前記切削工具直径の約50%〜約200%の範囲である請求項1〜13のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項15】
前記細長い本体が前記溝の3つを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項16】
前記細長い本体が前記溝の5つを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項17】
前記細長い本体がコバルト焼結炭化タングステンを含み、コバルト含有量が約10重量%〜約16重量%の範囲である請求項1〜16のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項18】
前記細長い本体が高速度鋼を含む請求項1〜17のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項19】
前記細長い本体がさらにコーティングスキームを含み、前記コーティングスキームが、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物及び/又は金属酸化物の1つ以上を有する1つ以上の層を備え、前記金属が、アルミニウム、シリコン、並びに周期表のIVa族、Va族、VIa族の遷移金属の1つ以上から選択される請求項1〜18のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項20】
前記切刃が1〜100μmの半径に研磨される請求項1〜19のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項21】
前記凸状ヒール面に隣接する前記切刃が1〜300μmの半径に研磨される請求項1〜20のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項22】
前端と後端とを有する細長い本体を備える切削工具であって、
前記細長い本体が、前記前端の近傍を起点として前記前端から後方に延びる螺旋状溝付部を有し、前記螺旋状溝付部が、切刃を定義する溝を有し、
前記溝が、凹状すくい面を有し、前記凹状すくい面が第1の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状すくい面に隣接する凹状底面を有し、前記凹状底面が第2の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状底面に隣接する凸状混在面を有し、前記凸状混在面が第3の半径によって定義され、
前記溝が、前記凹状底面に隣接する凸状ヒール面を有し、前記凸状ヒール面が第4の半径によって定義される切削工具。
【請求項23】
前記切削工具が切削工具直径を有し、前記第1の半径が前記切削工具直径以上である請求項22に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図3A】
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【公開番号】特開2013−91160(P2013−91160A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−31346(P2013−31346)
【出願日】平成25年2月20日(2013.2.20)
【分割の表示】特願2009−533452(P2009−533452)の分割
【原出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【出願人】(591131822)株式会社彌満和製作所 (13)