血圧情報測定装置および血圧情報測定方法
【課題】非観血的な測定によってより正確に血圧波形を駆出波と反射波に分離する血圧情報測定装置および血圧情報測定方法を提供する。
【解決手段】被測定者のAI値、Tr値、TPP値、または、年齢に基づいて、係数αを決定する。そして、αを用いた式(A)に基づいて第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を合成することにより、被測定者の血流波形FLを推定する。
FL=FL1+(FL2−FL1)×α …(A)
【解決手段】被測定者のAI値、Tr値、TPP値、または、年齢に基づいて、係数αを決定する。そして、αを用いた式(A)に基づいて第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を合成することにより、被測定者の血流波形FLを推定する。
FL=FL1+(FL2−FL1)×α …(A)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧情報測定装置および血圧情報測定方法に関し、特に、動脈硬化度の測定に有効な情報を測定する血圧情報測定装置および血圧情報測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化度を評価する方法として、被測定者の部位を外部から圧迫して脈波を測定し、当該脈波に基づいて評価する方法がある。たとえば、特許文献1(特開2004−113593号公報)では、脈波測定用カフと末梢側を圧迫する圧迫用カフを備えた装置が開示されている。そして、特許文献1の装置は、末梢側を圧迫しながら心臓側の脈波を測定することによって、心臓から駆出された駆出波と腸骨動脈分岐部および動脈中の各部位からの反射波を分離して、駆出波と反射波の振幅差や振幅比や出現時間差等の指標により動脈硬化度を判定する。
【0003】
このような技術において動脈硬化度を精度良く判定するには、脈波に現れる反射波の開始点を正確に検出する必要がある。このための方法として、たとえば特許文献2(特表2009−517140号公報)に開示されたような、大動脈の血圧波形と血流量波形の推定値を用いて駆出波と反射波を分離する方法がある。図17の(A)に、血圧波形の一例を示す。図17の(A)の血圧波形は、図17の(B)に示されるように、上記駆出波と上記反射波が合成されたものと考えられる。この方法では、大動脈の血圧波形の近似値として、上半身の末梢動脈(撓骨動脈や上腕動脈など)において測定される圧力波形から伝達関数法によって推定された圧力波形、または、頚動脈で測定される圧力波形が、用いられる。
【0004】
なお、伝達関数法については、たとえば特許文献3(米国特許第5265011号明細書)に記載されている。また、血流量波形としては、非特許文献1(B.E..Westerhof、他4名、"Quantification of wave reflection in the human aorta from pressure alone: a proof of principle"、[online]、平成18年8月28日、[平成22年5月19日検索]、インターネット<http://hyper.ahajournals.org/cgi/reprint/48/4/595>)において示されるように、血圧波形の立上りから切痕までを底辺とし心臓収縮ピークを頂点とする三角形状波形が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−113593号公報
【特許文献2】特表2009−517140号公報
【特許文献3】米国特許第5265011号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.E..Westerhof、他4名、"Quantification of wave reflection in the human aorta from pressure alone: a proof of principle"、[online]、平成18年8月28日、[平成22年5月19日検索]、インターネット<http://hyper.ahajournals.org/cgi/reprint/48/4/595>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らが約200人の被験者に対して脈波を測定し、特許文献2に記載された方法に基づき脈波を駆出波と反射波に分離して、動脈硬化度の指標であるTr(Traveling time to reflected wave)を算出した結果を図18に示す。図18には、Trについて、特許文献2に開示された方法に基づいて算出された値(縦軸)と、これの比較として、既存の装置を用いて心臓と大腿動脈の2点間で測定されたPWV(Pulse Wave Velocity)に基づく推定値(図18の横軸)との関係が示されている。図18を参照して、特許文献2に開示された方法により算出されたTr値と、上記したPWVに基づく推定値の間の相関係数の2乗(R2)は0.5368となった。この値から、特許文献2に開示された方法によるTrの算出には、その精度に改善の余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、非観血的な測定によってより正確に血圧波形を駆出波と反射波に分離する血圧情報測定装置および血圧情報測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の血圧情報測定装置は、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する血圧情報測定装置であって、圧力センサを内包する検出用部材と、検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出する検出手段と、動脈硬化度に対する因子情報を取得する取得手段と、複数の擬似血流波形を記憶する記憶手段と、因子情報に基づいて複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成する生成手段と、脈波波形と血流波形として推定される波形とを用いて、脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離する分離手段と、脈波波形における、分離手段が分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出する算出手段とを備える。
【0010】
本発明の血圧情報測定方法は、血圧情報測定装置において、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する方法であって、圧力センサを内包する検出用部材検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出するステップと、動脈硬化度に対する因子情報を取得するステップと、複数の擬似血流波形を記憶するステップと、因子情報に基づいて複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成するステップと、脈波波形と血流波形として推定される波形とを用いて、脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離するステップと、脈波波形における、分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動脈硬化度に対する因子情報から得られる係数を用いて、複数の擬似血流波形を組合わせることにより、脈波波形を駆出波と反射波に分離するための血流波形が推定される。これにより、より正確に、血圧波形を駆出波と反射波に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる血圧情報測定装置の外観を模式的に示す図である。
【図2】図1の腕帯の構成を説明するための図である。
【図3】図1の血圧情報測定装置のブロック図である。
【図4】図3の基準波形記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図5】図3の変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図6】図1の血圧情報測定装置において実行される動脈硬化指標算出処理のフローチャートである。
【図7】図6の特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図8】図1の血圧情報測定装置の動作中の空気袋内の圧力変化を示す図である。
【図9】図1の血圧情報測定装置において検出される脈波波形からの、AIの算出を説明するための図である。
【図10】図1の血圧情報測定装置において算出されたTrを示す図である。
【図11】図1の血圧情報測定装置の変形例(1)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図12】図1の血圧情報測定装置の変形例(1)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図13】図1の血圧情報測定装置の変形例(2)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図14】図1の血圧情報測定装置の変形例(2)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図15】図1の血圧情報測定装置の変形例(3)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図16】図1の血圧情報測定装置の変形例(3)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図17】従来技術を説明するための図である。
【図18】従来技術に従って算出されたTrを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0014】
[1.血圧情報測定装置の概略構成]
図1は、本発明の血圧情報測定装置の一実施の形態である血圧情報測定装置(以下、測定装置と略する)1の外観を模式的に示す図である。
【0015】
図1を参照して、実施の形態にかかる測定装置1は、基体2と、基体2に接続され、測定部位である上腕に装着される腕帯9とを含み、これらがエアチューブ10で接続されている。基体2の正面には、測定結果を含む各種の情報を表示する表示部4および測定装置1に対して各種の指示を与えるために操作される操作部3が配される。操作部3は電源をON/OFFするために操作されるスイッチ31、および測定の開始を指示するために操作されるスイッチ32を含む。
【0016】
図2の(A),図2の(B)を参照して、腕帯9は、生体を圧迫するための流体袋としての空気袋を備える。上記空気袋は、血圧情報としての血圧を測定するために用いられる流体袋である空気袋13A、および血圧情報としての脈波を測定するために用いられる流体袋である空気袋13Bとを含む。空気袋13Bのサイズは一例として20mm×200mm程度である。また、好ましくは、空気袋13Bの空気容量は空気袋13Aの空気容量に比べ1/5以下である。
【0017】
測定装置1を用いた脈波の測定に際しては、図2の(A)に示すように、腕帯9を測定部位である上腕100に巻き回す。その状態でスイッチ32が押下されることで、血圧情報が測定され、血圧情報に基づいて動脈硬化度を判定するための指標が算出される。ここで「血圧情報」とは、生体から測定して得られる、血圧に関連する情報を指し、具体的には、血圧値、脈波波形、心拍数、などが該当する。動脈硬化度を判定するための指標としてTr(Traveling time to reflected wave)やTPPが挙げられる。Trは、駆出波の出現時間と進行波が腸骨動脈の分岐部から反射して戻ってくる反射波の出現時間との間の時間間隔である。TPPは、駆出波と反射波のピークの出現の時間差である。
【0018】
[2.ハードウェア構成]
図3は、動脈硬化度の指標を算出するための、測定装置1の機能ブロックを説明する。図3を参照して、測定装置1は、空気袋13Aにエアチューブ10を介して接続されるエア系20A、および空気袋13Bにエアチューブ10を介して接続されるエア系20Bと、CPU(Central Processing Unit)40とを含む。エア系20Aは、エアポンプ21Aと、エアバルブ22Aと、圧力センサ23Aとを含む。エア系20Bは、エアバルブ22Bと、圧力センサ23Bとを含む。
【0019】
エアポンプ21Aは駆動回路26Aに接続され、駆動回路26AはさらにCPU40に接続される。エアポンプ21Aは、CPU40からの指令を受けた駆動回路26Aによって駆動されて、空気袋13Aに圧縮気体を送り込むことで空気袋13Aを加圧する。
【0020】
エアバルブ22Aは駆動回路27Aに接続され、駆動回路27AはさらにCPU40に接続される。エアバルブ22Bは駆動回路27Bに接続され、駆動回路27BはさらにCPU40に接続される。エアバルブ22A,22Bは、それぞれ、CPU40からの指令を受けた駆動回路27A,27Bによってその開閉状態が制御される。開閉状態が制御されることでエアバルブ22A,22Bは、それぞれ、空気袋13A,13B内の圧力を維持したり減圧したりする。これにより、空気袋13A,13B内の圧力が制御される。
【0021】
圧力センサ23Aは増幅器28Aに接続され、増幅器28AはさらにA/D変換器29Aに接続され、A/D変換器29AはさらにCPU40に接続される。圧力センサ23Bは増幅器28Bに接続され、増幅器28BはさらにA/D変換器29Bに接続され、A/D変換器29BはさらにCPU40に接続される。圧力センサ23A,23Bは、それぞれ、空気袋13A,13B内の圧力を検出し、その検出値に応じた信号を増幅器28A,28Bに対して出力する。出力された信号は増幅器28A,28Bで増幅され、A/D変換器29A,29Bでデジタル化された後にCPU40に入力される。
【0022】
空気袋13Aからのエアチューブと空気袋13Bからのエアチューブとは2ポート弁51で接続されている。2ポート弁51は駆動回路53に接続され、駆動回路53はさらにCPU40に接続される。2ポート弁51は空気袋13A側の弁と空気袋13B側の弁とを有し、CPU40からの指令を受けた駆動回路53によって駆動されることでそれら弁が開閉する。
【0023】
メモリ41は、CPU40で実行されるプログラムを記憶するプログラム記憶部410と、後述する基準波形を特定する情報を記憶する基準波形記憶部411と、後述するAI(Augmentation Index)値を後述するαに変換するための情報を記憶する変換情報記憶部412とを含む。また、メモリ41は、CPU40のワークエリアとなる記憶領域を含む。
【0024】
CPU40は、測定装置の基体2に設けられた操作部3に入力された指令に基づいてメモリ41からプログラムを読み出して実行し、その実行に従って制御信号を出力する。またCPU40は測定結果を表示部4やメモリ41に出力する。メモリ41には測定結果も記憶される他、必要に応じて、少なくとも年齢を含む測定者に関する情報が記憶される。そして、CPU40は、必要に応じてプログラムの実行に伴って上記測定者に関する情報を読み出して演算に用いる。
【0025】
CPU40は、動脈硬化度の指標を算出するための機能として、動脈硬化度に対する因子情報の一例であるAI値を取得(算出)する因子取得部401と、上記因子情報を所定の情報に従って変換することにより後述する係数αに取得する係数取得部402と、係数αを用いて血流波形として推定される波形を生成する血流波形生成部403と、血流波形生成部403が生成した血流波形を用いて脈波波形を分離する波形分離部404と、波形分離部404が脈波波形を分離することによって得られる駆出波と反射波を用いて動脈硬化度の指標を算出する指標算出部405と、エアポンプ21A等の駆動制御および圧力センサ23B等の検出出力に基づく脈波波形の検出ならびに血圧の測定を行なう測定部406とを含む。これらはCPU40が操作部3からの操作信号に従ってメモリ41に記憶されるプログラムを読み出して実行することで主にCPU40に形成される機能であるが、少なくともこれら機能のうちの一部がハードウェア構成で形成されてもよい。
【0026】
[3.記憶される情報]
(3−1.基準波形)
図4に、基準波形記憶部411に記憶される情報によって特定される基準波形を示す。
【0027】
図4のグラフは、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を含む。
第1基準波形FL1および第2基準波形FL2を特定する情報は、予め定められた情報であり、測定装置1の工場出荷時等に基準波形記憶部411に記憶される。
【0028】
なお、第1基準波形FL1は、高齢者等、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形である。第2基準波形FL2は、若年者等、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形である。
【0029】
上記した特許文献2の方法によるTrの算出に含まれる誤差の原因として、三角形状波形と実際の血流波形とのずれが考えられる。非特許文献1で示されるように、高齢者等、動脈硬化度が高い被験者では先端が尖った血流波形となり、若年で動脈硬化度が低い被験者では先端が丸い血流波形となる。本願発明者は、このように、対象とする被験者ごとに血流波形形状は異なるにもかかわらず、一律に三角形状波形を用いて血流波形を近似することが、Trの算出に含まれる誤差の一因となっていると考えた。
【0030】
本実施の形態では、脈波波形を検出し、当該脈波波形からAI値を算出し、当該AIを係数αに変換する。そして、係数αを用いた次の式(A)に従って、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を合成することにより、被測定者の血流波形FLを推定する。
【0031】
FL=FL1+(FL2−FL1)×α …(A)
図4には、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2に加えて、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2が式(A)に従って合成されることにより生成された血流波形FLの一例が示されている。
【0032】
(3−2.変換用の情報)
図5に、変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、AIと係数αの関係を示す。図5から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(B1)〜式(B3)で表される、AIの関数とされている。なお、下記式(B2)のaおよびbは、予め定められた係数である。また、AI1およびAI2は、AI値についての予め定められた値である。
【0033】
(AI<AI2のとき) α=α2 …(B1)
(AI2≦AI<AI1のとき) α=AI×a+b …(B2)
(AI1<AIのとき) α=α1 …(B3)
上記のように係数αが決定されることにより、AIの値が高いほど、αの値が低くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、AIの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが高くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが低くなる。
【0034】
[4.動脈硬化指標算出処理]
測定装置1において動脈硬化度に関する指標の算出ための実行される処理(動脈硬化指標算出処理)について、当該処理のフローチャートである図6を参照して説明する。
【0035】
(4−1.カフ圧の調整)
図6に示される動作は測定者がスイッチ32を押下することにより開始される。この動作はCPU40がメモリ41に記憶されるプログラムを読み出して図3に示される各部を制御することによって実現されるものである。また、図8は、測定動作に伴う空気袋13Aの内圧P1および空気袋13Bの内圧P2の変化を表している。
【0036】
図6を参照して、動作が開始すると、ステップS1でCPU40において各部が初期化される。ステップS3で、測定部406は、エア系20Aに対して制御信号を出力して空気袋13Aの加圧を開始し、加圧過程において血圧を測定する。ステップS3での血圧の測定は、通常の血圧計で行なわれているオシロメトリック法による測定が行なわれる。
【0037】
ステップS1の初期化において2ポート弁51の両弁を開放させた後、ステップS3でポンプ21によって圧縮空気が導入されるにつれて、図8において「S3」の期間として示されるように、空気袋13Aの内圧P1および空気袋13Bの内圧P2が増加する。
【0038】
ステップS3での血圧の測定が完了すると、ステップS7で、CPU40は、この時点で駆動回路53に制御信号を出力して、2ポート弁51の両弁を閉塞させる。これにより、空気袋13Aと空気袋13Bとは分離した空間となる。なお、ステップS3において空気袋13A内の圧力P1が最高血圧値よりも高い圧力まで上昇していることから、この時点では、空気袋13Aは、脈波測定用として用いられる空気袋13Bが巻きつけられる部位よりも末梢側の部位を駆血した状態にある。つまり、空気袋13Aは、圧迫用空気袋として機能している。
【0039】
(4−2.特徴点の抽出)
末梢側が駆血された状態において、ステップS11で、測定部406は、圧力センサ23Bからの圧力信号に基づく一拍分の脈波波形が入力されるごとに、その脈波波形から特徴点を抽出するための動作を行なう。当該動作のための処理を、ステップS11のサブルーチンである図7を参照して説明する。
【0040】
(4−3.血流波形の推定)
図7を参照して、ステップS111で、末梢側で駆血された状態において、因子取得部401は、圧力センサ23Bからの圧力信号に基づく一拍分の脈波波形を入力を受け付けて、ステップS113に処理を進める。
【0041】
ステップS113では、因子取得部401は、ステップS111で取得した一拍分の脈波波形を利用して、AI値を算出する。AI値の算出は、たとえば、一拍分の脈波波形における駆出波と反射波の振幅比を算出することにより実現される。図9の(A)〜(C)に、ステップS111で算出されるAIの例を示す。図9から理解されるように、AIは、たとえば駆出波の振幅値(A11)に対する反射波の振幅値(A12)の比として求められる。
【0042】
次に、ステップS115において、係数取得部402は、ステップS113で求められたAI値と変換情報記憶部412に記憶された情報とを用いて、上記したように、係数αを算出する。
【0043】
次に、ステップS117において、血流波形生成部403は、係数αと第1基準波形FL1と第2基準波形FL2とを用いて、上記した式(A)に従って、推定される血流波形FLを生成する。
【0044】
(4−4.駆出波形の駆出波と反射波への分離)
次に、ステップS119において、波形分離部404は、ステップS117で生成した血流波形FLを用いて、ステップS111で入力された脈波波形を駆動波と反射波に分離する。このような分離は、公知のいかなる手法をも利用することができ、たとえば、特許文献2に開示された方法を利用することができる。
【0045】
まず、脈波波形の分離に関し、その前提を説明する。
血圧波形(Pm)は、駆出波(Pf)と反射波(Pb)の和として表される(式(1))。また、血流波形(Fm)は、駆出波(Ff)と反射波(Fb)の和として表される(式(2))。血圧と血流の関係は、血管の抵抗に相当する特性インピーダンス(Zc)を定義し、当該特性インピーダンス(Zc)を介して、以下の式(3)および式(4)のような関係にある。
【0046】
Pm=Pf+Pb …(1)
Fm=Ff+Fb …(2)
Pf=Zc×Ff …(3)
Pb=−Zc×Fb …(4)
式(1)〜式(4)の関係に基づき、駆出波(Pf)と反射波(Pb)について、以下の式(5)と式(6)が導出される。
【0047】
Pf=Zc×Ff=(Pm+Zc×Fm)/2 …(5)
Pb=−Zc×Fb=(Pm−Zc×Fm)/2 …(6)
なお、Zcは、次の式(7)によって、血圧波形(Pm)と血流波形(Fm)の双方の高速フーリエ変換を用いて、式(7)に従って算出される。
【0048】
Zc=|Z|=|FFT(Pm)|/|FFT(Fm)| …(7)
そして、上記式(5)〜式(7)のFmとして、ステップS117で生成した血流波形を用いることにより、血圧波形(Pm)における駆出波(Pf)と反射波(Pb)の波形を生成する。これにより、脈波波形が駆出波と反射波に分離される。
【0049】
(4−5.動脈硬化指標算出)
ステップS121では、ステップS119における脈波波形の分離に基づき、指標算出部405は、脈波波形における反射波の開始点(特徴点)を算出し、また、駆出波と反射波の振幅差と、これらの振幅比とを算出して、処理を図6に戻す。
【0050】
ステップS121において算出された特徴点、振幅差および振幅比の組の数が予め規定されている数(たとえば10拍分)に達すると(ステップS13でYES)、CPU40は、ステップS15へ処理を進める。
【0051】
ステップS15では、指標算出部405は、上記特徴点、振幅差および振幅値の平均値を用いて動脈硬化度の指標としてのTr、TPP等を算出する。
【0052】
(4−6.情報の表示)
そして、ステップS17で、CPU40は、駆動回路27A,27Bに制御信号を出力してエアバルブ22A,20Bを開放させ、空気袋13A,13Bの圧力を大気圧に解放する。図8の(A),(B)の例では、圧力P1,P2は、ステップS17の後で、大気圧まで急速に減少している。
【0053】
算出された最高血圧値(SYS)、最低血圧値(DIA)、動脈硬化度の指標や、測定された脈波などの測定結果は基体2に設けられた表示部4で表示するための処理が施され、表示される。
【0054】
以上説明した本実施の形態では、特許文献2に開示されているように血流波形を三角形状波形で近似するのではなく、予め定められた波形を用いて、推定される血流波形を生成している。本実施の形態では、動脈硬化度に対して影響を及ぼすと考えられる因子に応じた係数を用いて複数の波形を組合わせることによって、血流波形を生成している。これにより、生成される血流波形の形状を先端の尖った形状から先端が丸い形状まで段階的に変化させることができるようになり、実際の被測定者の血流波形に近い形状を近似することが可能となる。このため、三角形状波形よりも正確に血流波形を近似でき、より正確に脈波波形を分離できる。
【0055】
[5.本実施の形態におけるTr]
図10に、本実施の形態において算出されるTrを示す。なお、図10では、縦軸が、本実施の形態に従って算出されたTrを示し、横軸が、心臓と大腿動脈の2点間のPWVに基づくTrの推定値が示されている。
【0056】
図10から理解されるように、本実施の形態に従って算出されたTrと、PWVに基づく推定値との間の相関関数の2乗(R2)は、0.6678となった。これにより、従来の技術に対して、精度良くTrを算出できるようになったと言える。
【0057】
[6.変形例(1)]
以上説明した本実施の形態では、動脈硬化に影響する因子情報として、脈波波形から算出されたAI値が利用されていたが、本発明の因子情報は、これに限定されない。
【0058】
因子情報としては、たとえば、脈波波形から算出されるTPP値が用いられても良い。
図11に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、TPPと係数αの関係を示す。図11から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(C1)〜式(C3)で表される、TPPの関数とされている。なお、下記式(C2)のa1およびb1は、予め定められた係数である。また、TPP1およびTPP2は、TPP値についての予め定められた値である。
【0059】
(TPP<TPP2のとき) α=α1 …(C1)
(TPP2≦TPP<TPP1のとき) α=Tr×a1+b1 …(C2)
(TPP1<TPPのとき) α=α2 …(C3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図12のステップS113Aが実行される。図12のステップS113Aでは、因子取得部401は、ステップS111で入力された脈波波形からTPPを算出する。因子取得部401は、たとえば、図9の(A)等を参照して説明した駆出波と反射波のピークの時間差を算出することによって、TPPを算出する。
【0060】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図11を参照して説明した情報を用いて、TPPをαに変換する。
【0061】
上記のように係数αが決定されることにより、TPPの値が高いほど、αの値が高くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、TPPの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが低くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが高くなる。
【0062】
[7.変形例(2)]
因子情報としては、脈波波形から算出されるTr値が用いられても良い。
【0063】
図13に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、Trと係数αの関係を示す。図13から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(D1)〜式(D3)で表される、Trの関数とされている。なお、下記式(D2)のa2およびb2は、予め定められた係数である。また、Tr1およびTr2は、Tr値についての予め定められた値である。
【0064】
(Tr<Tr2のとき) α=α1 …(D1)
(Tr2≦Tr<Tr1のとき) α=Tr×a2+b2 …(D2)
(Tr1<Trのとき) α=α2 …(D3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図14のステップS113Bが実行される。図14のステップS113Bでは、因子取得部401は、ステップS111で入力された脈波波形からTrを算出する。因子取得部401は、たとえば、脈波波形の四次微分を利用する等の公知の技術によって、Trを算出する。
【0065】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図13を参照して説明した情報を用いて、Trをαに変換する。
【0066】
上記のように係数αが決定されることにより、Trの値が高いほど、αの値が高くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、Trの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが低くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが高くなる。
【0067】
[8.変形例(3)]
因子情報としては、被測定者の年齢が用いられても良い。
【0068】
図15に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、被測定者の年齢AGと係数αの関係を示す。図15から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(E1)〜式(E3)で表される、Trの関数とされている。なお、下記式(E2)のa3およびb3は、予め定められた係数である。また、AG1およびAG2は、年齢についての予め定められた値である。
【0069】
(AG<AG2のとき) α=α2 …(E1)
(AG2≦AG<AG1のとき) α=AG×a3+b3 …(E2)
(AG1<Trのとき) α=α1 …(E3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図16のステップS113Cが実行される。図16のステップS113Cでは、因子取得部401は、被測定者の年齢を取得する。被測定者の年齢は、たとえば操作部3を介して入力される。
【0070】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図15を参照して説明した情報を用いて、AGをαに変換する。
【0071】
上記のように係数αが決定されることにより、AGの値が高いほど、αの値が低くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、被測定者の年齢が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが高くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが低くなる。
【0072】
[9.変形例(4)]
測定装置1において、圧力センサ23Bを内包する腕帯9が装着される被測定者の測定部位は、腕であった。なお、本発明に係る血圧情報測定装置における測定部位は、腕に限定されず、頚部であっても良い。このような血圧情報測定装置では、検出用部材および検出手段としては、たとえば、特開平10−309266号公報に開示されたような頚動脈波検出装置を採用することができる。当該装置では、生体の頸動脈に押圧されて該頸動脈から脈波を検出する頸動脈波センサと、該頸動脈波センサを支持する支持部材と、該支持部材に連結されて当該生体の頸の外周面のうち該頸動脈波センサによる押圧部位と反対側の部位に接触させられる接触部材とを有し、前記生体の頸を把持するために全体として一平面内で湾曲させられるとともに、装着状態では弾性復帰力により該支持部材と該接触部材とが相互に接近する方向に付勢された把持装置とが備えられる。
【0073】
[10.その他の変形例等]
以上説明した実施の形態では、αは、被測定者のAI値、Tr値、TPP値、または、年齢によって決定されていた。なお、αは、上記した各方法により、AI値、Tr値、TPP値、または、年齢に基づいて算出されたそれぞれのαを、重み付けして組合わせることによって、算出されても良い。つまり、AI値に基づいて算出されたαをα1、Tr値に基づいて算出されたαをα2、TPP値に基づいて算出されたαをα3、年齢に基づいて算出されたαをα4とした場合に、αは、次の式(8)によって算出されても良い。
【0074】
α=pα1+qα2+rα3+kα4 …(8)
式(8)における係数p、q、r、kは、AI値、Tr値、TPP値、年齢のそれぞれを重み付けする値であり、適宜設定することができる。
【0075】
なお、α1、α2、α3、α4のすべてではなく、これらの中の2つまたは3つを、重み付けによって組合わせてαを算出しても良い。
【0076】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 測定装置、2 基体、3 操作部、4 表示部、9 腕帯、13A,13B 空気袋、40 CPU、41 メモリ、401 因子取得部、402 係数取得部、403 血流波形生成部、404 波形分離部、405 指標算出部、406 測定部、410 プログラム記憶部、411 基準波形記憶部、412 変換情報記憶部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧情報測定装置および血圧情報測定方法に関し、特に、動脈硬化度の測定に有効な情報を測定する血圧情報測定装置および血圧情報測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化度を評価する方法として、被測定者の部位を外部から圧迫して脈波を測定し、当該脈波に基づいて評価する方法がある。たとえば、特許文献1(特開2004−113593号公報)では、脈波測定用カフと末梢側を圧迫する圧迫用カフを備えた装置が開示されている。そして、特許文献1の装置は、末梢側を圧迫しながら心臓側の脈波を測定することによって、心臓から駆出された駆出波と腸骨動脈分岐部および動脈中の各部位からの反射波を分離して、駆出波と反射波の振幅差や振幅比や出現時間差等の指標により動脈硬化度を判定する。
【0003】
このような技術において動脈硬化度を精度良く判定するには、脈波に現れる反射波の開始点を正確に検出する必要がある。このための方法として、たとえば特許文献2(特表2009−517140号公報)に開示されたような、大動脈の血圧波形と血流量波形の推定値を用いて駆出波と反射波を分離する方法がある。図17の(A)に、血圧波形の一例を示す。図17の(A)の血圧波形は、図17の(B)に示されるように、上記駆出波と上記反射波が合成されたものと考えられる。この方法では、大動脈の血圧波形の近似値として、上半身の末梢動脈(撓骨動脈や上腕動脈など)において測定される圧力波形から伝達関数法によって推定された圧力波形、または、頚動脈で測定される圧力波形が、用いられる。
【0004】
なお、伝達関数法については、たとえば特許文献3(米国特許第5265011号明細書)に記載されている。また、血流量波形としては、非特許文献1(B.E..Westerhof、他4名、"Quantification of wave reflection in the human aorta from pressure alone: a proof of principle"、[online]、平成18年8月28日、[平成22年5月19日検索]、インターネット<http://hyper.ahajournals.org/cgi/reprint/48/4/595>)において示されるように、血圧波形の立上りから切痕までを底辺とし心臓収縮ピークを頂点とする三角形状波形が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−113593号公報
【特許文献2】特表2009−517140号公報
【特許文献3】米国特許第5265011号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.E..Westerhof、他4名、"Quantification of wave reflection in the human aorta from pressure alone: a proof of principle"、[online]、平成18年8月28日、[平成22年5月19日検索]、インターネット<http://hyper.ahajournals.org/cgi/reprint/48/4/595>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らが約200人の被験者に対して脈波を測定し、特許文献2に記載された方法に基づき脈波を駆出波と反射波に分離して、動脈硬化度の指標であるTr(Traveling time to reflected wave)を算出した結果を図18に示す。図18には、Trについて、特許文献2に開示された方法に基づいて算出された値(縦軸)と、これの比較として、既存の装置を用いて心臓と大腿動脈の2点間で測定されたPWV(Pulse Wave Velocity)に基づく推定値(図18の横軸)との関係が示されている。図18を参照して、特許文献2に開示された方法により算出されたTr値と、上記したPWVに基づく推定値の間の相関係数の2乗(R2)は0.5368となった。この値から、特許文献2に開示された方法によるTrの算出には、その精度に改善の余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、非観血的な測定によってより正確に血圧波形を駆出波と反射波に分離する血圧情報測定装置および血圧情報測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の血圧情報測定装置は、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する血圧情報測定装置であって、圧力センサを内包する検出用部材と、検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出する検出手段と、動脈硬化度に対する因子情報を取得する取得手段と、複数の擬似血流波形を記憶する記憶手段と、因子情報に基づいて複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成する生成手段と、脈波波形と血流波形として推定される波形とを用いて、脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離する分離手段と、脈波波形における、分離手段が分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出する算出手段とを備える。
【0010】
本発明の血圧情報測定方法は、血圧情報測定装置において、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する方法であって、圧力センサを内包する検出用部材検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出するステップと、動脈硬化度に対する因子情報を取得するステップと、複数の擬似血流波形を記憶するステップと、因子情報に基づいて複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成するステップと、脈波波形と血流波形として推定される波形とを用いて、脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離するステップと、脈波波形における、分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動脈硬化度に対する因子情報から得られる係数を用いて、複数の擬似血流波形を組合わせることにより、脈波波形を駆出波と反射波に分離するための血流波形が推定される。これにより、より正確に、血圧波形を駆出波と反射波に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる血圧情報測定装置の外観を模式的に示す図である。
【図2】図1の腕帯の構成を説明するための図である。
【図3】図1の血圧情報測定装置のブロック図である。
【図4】図3の基準波形記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図5】図3の変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図6】図1の血圧情報測定装置において実行される動脈硬化指標算出処理のフローチャートである。
【図7】図6の特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図8】図1の血圧情報測定装置の動作中の空気袋内の圧力変化を示す図である。
【図9】図1の血圧情報測定装置において検出される脈波波形からの、AIの算出を説明するための図である。
【図10】図1の血圧情報測定装置において算出されたTrを示す図である。
【図11】図1の血圧情報測定装置の変形例(1)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図12】図1の血圧情報測定装置の変形例(1)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図13】図1の血圧情報測定装置の変形例(2)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図14】図1の血圧情報測定装置の変形例(2)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図15】図1の血圧情報測定装置の変形例(3)の、変換情報記憶部に記憶される情報を説明するための図である。
【図16】図1の血圧情報測定装置の変形例(3)の、特徴点抽出処理のサブルーチンのフローチャートである。
【図17】従来技術を説明するための図である。
【図18】従来技術に従って算出されたTrを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0014】
[1.血圧情報測定装置の概略構成]
図1は、本発明の血圧情報測定装置の一実施の形態である血圧情報測定装置(以下、測定装置と略する)1の外観を模式的に示す図である。
【0015】
図1を参照して、実施の形態にかかる測定装置1は、基体2と、基体2に接続され、測定部位である上腕に装着される腕帯9とを含み、これらがエアチューブ10で接続されている。基体2の正面には、測定結果を含む各種の情報を表示する表示部4および測定装置1に対して各種の指示を与えるために操作される操作部3が配される。操作部3は電源をON/OFFするために操作されるスイッチ31、および測定の開始を指示するために操作されるスイッチ32を含む。
【0016】
図2の(A),図2の(B)を参照して、腕帯9は、生体を圧迫するための流体袋としての空気袋を備える。上記空気袋は、血圧情報としての血圧を測定するために用いられる流体袋である空気袋13A、および血圧情報としての脈波を測定するために用いられる流体袋である空気袋13Bとを含む。空気袋13Bのサイズは一例として20mm×200mm程度である。また、好ましくは、空気袋13Bの空気容量は空気袋13Aの空気容量に比べ1/5以下である。
【0017】
測定装置1を用いた脈波の測定に際しては、図2の(A)に示すように、腕帯9を測定部位である上腕100に巻き回す。その状態でスイッチ32が押下されることで、血圧情報が測定され、血圧情報に基づいて動脈硬化度を判定するための指標が算出される。ここで「血圧情報」とは、生体から測定して得られる、血圧に関連する情報を指し、具体的には、血圧値、脈波波形、心拍数、などが該当する。動脈硬化度を判定するための指標としてTr(Traveling time to reflected wave)やTPPが挙げられる。Trは、駆出波の出現時間と進行波が腸骨動脈の分岐部から反射して戻ってくる反射波の出現時間との間の時間間隔である。TPPは、駆出波と反射波のピークの出現の時間差である。
【0018】
[2.ハードウェア構成]
図3は、動脈硬化度の指標を算出するための、測定装置1の機能ブロックを説明する。図3を参照して、測定装置1は、空気袋13Aにエアチューブ10を介して接続されるエア系20A、および空気袋13Bにエアチューブ10を介して接続されるエア系20Bと、CPU(Central Processing Unit)40とを含む。エア系20Aは、エアポンプ21Aと、エアバルブ22Aと、圧力センサ23Aとを含む。エア系20Bは、エアバルブ22Bと、圧力センサ23Bとを含む。
【0019】
エアポンプ21Aは駆動回路26Aに接続され、駆動回路26AはさらにCPU40に接続される。エアポンプ21Aは、CPU40からの指令を受けた駆動回路26Aによって駆動されて、空気袋13Aに圧縮気体を送り込むことで空気袋13Aを加圧する。
【0020】
エアバルブ22Aは駆動回路27Aに接続され、駆動回路27AはさらにCPU40に接続される。エアバルブ22Bは駆動回路27Bに接続され、駆動回路27BはさらにCPU40に接続される。エアバルブ22A,22Bは、それぞれ、CPU40からの指令を受けた駆動回路27A,27Bによってその開閉状態が制御される。開閉状態が制御されることでエアバルブ22A,22Bは、それぞれ、空気袋13A,13B内の圧力を維持したり減圧したりする。これにより、空気袋13A,13B内の圧力が制御される。
【0021】
圧力センサ23Aは増幅器28Aに接続され、増幅器28AはさらにA/D変換器29Aに接続され、A/D変換器29AはさらにCPU40に接続される。圧力センサ23Bは増幅器28Bに接続され、増幅器28BはさらにA/D変換器29Bに接続され、A/D変換器29BはさらにCPU40に接続される。圧力センサ23A,23Bは、それぞれ、空気袋13A,13B内の圧力を検出し、その検出値に応じた信号を増幅器28A,28Bに対して出力する。出力された信号は増幅器28A,28Bで増幅され、A/D変換器29A,29Bでデジタル化された後にCPU40に入力される。
【0022】
空気袋13Aからのエアチューブと空気袋13Bからのエアチューブとは2ポート弁51で接続されている。2ポート弁51は駆動回路53に接続され、駆動回路53はさらにCPU40に接続される。2ポート弁51は空気袋13A側の弁と空気袋13B側の弁とを有し、CPU40からの指令を受けた駆動回路53によって駆動されることでそれら弁が開閉する。
【0023】
メモリ41は、CPU40で実行されるプログラムを記憶するプログラム記憶部410と、後述する基準波形を特定する情報を記憶する基準波形記憶部411と、後述するAI(Augmentation Index)値を後述するαに変換するための情報を記憶する変換情報記憶部412とを含む。また、メモリ41は、CPU40のワークエリアとなる記憶領域を含む。
【0024】
CPU40は、測定装置の基体2に設けられた操作部3に入力された指令に基づいてメモリ41からプログラムを読み出して実行し、その実行に従って制御信号を出力する。またCPU40は測定結果を表示部4やメモリ41に出力する。メモリ41には測定結果も記憶される他、必要に応じて、少なくとも年齢を含む測定者に関する情報が記憶される。そして、CPU40は、必要に応じてプログラムの実行に伴って上記測定者に関する情報を読み出して演算に用いる。
【0025】
CPU40は、動脈硬化度の指標を算出するための機能として、動脈硬化度に対する因子情報の一例であるAI値を取得(算出)する因子取得部401と、上記因子情報を所定の情報に従って変換することにより後述する係数αに取得する係数取得部402と、係数αを用いて血流波形として推定される波形を生成する血流波形生成部403と、血流波形生成部403が生成した血流波形を用いて脈波波形を分離する波形分離部404と、波形分離部404が脈波波形を分離することによって得られる駆出波と反射波を用いて動脈硬化度の指標を算出する指標算出部405と、エアポンプ21A等の駆動制御および圧力センサ23B等の検出出力に基づく脈波波形の検出ならびに血圧の測定を行なう測定部406とを含む。これらはCPU40が操作部3からの操作信号に従ってメモリ41に記憶されるプログラムを読み出して実行することで主にCPU40に形成される機能であるが、少なくともこれら機能のうちの一部がハードウェア構成で形成されてもよい。
【0026】
[3.記憶される情報]
(3−1.基準波形)
図4に、基準波形記憶部411に記憶される情報によって特定される基準波形を示す。
【0027】
図4のグラフは、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を含む。
第1基準波形FL1および第2基準波形FL2を特定する情報は、予め定められた情報であり、測定装置1の工場出荷時等に基準波形記憶部411に記憶される。
【0028】
なお、第1基準波形FL1は、高齢者等、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形である。第2基準波形FL2は、若年者等、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形である。
【0029】
上記した特許文献2の方法によるTrの算出に含まれる誤差の原因として、三角形状波形と実際の血流波形とのずれが考えられる。非特許文献1で示されるように、高齢者等、動脈硬化度が高い被験者では先端が尖った血流波形となり、若年で動脈硬化度が低い被験者では先端が丸い血流波形となる。本願発明者は、このように、対象とする被験者ごとに血流波形形状は異なるにもかかわらず、一律に三角形状波形を用いて血流波形を近似することが、Trの算出に含まれる誤差の一因となっていると考えた。
【0030】
本実施の形態では、脈波波形を検出し、当該脈波波形からAI値を算出し、当該AIを係数αに変換する。そして、係数αを用いた次の式(A)に従って、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2を合成することにより、被測定者の血流波形FLを推定する。
【0031】
FL=FL1+(FL2−FL1)×α …(A)
図4には、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2に加えて、第1基準波形FL1と第2基準波形FL2が式(A)に従って合成されることにより生成された血流波形FLの一例が示されている。
【0032】
(3−2.変換用の情報)
図5に、変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、AIと係数αの関係を示す。図5から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(B1)〜式(B3)で表される、AIの関数とされている。なお、下記式(B2)のaおよびbは、予め定められた係数である。また、AI1およびAI2は、AI値についての予め定められた値である。
【0033】
(AI<AI2のとき) α=α2 …(B1)
(AI2≦AI<AI1のとき) α=AI×a+b …(B2)
(AI1<AIのとき) α=α1 …(B3)
上記のように係数αが決定されることにより、AIの値が高いほど、αの値が低くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、AIの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが高くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが低くなる。
【0034】
[4.動脈硬化指標算出処理]
測定装置1において動脈硬化度に関する指標の算出ための実行される処理(動脈硬化指標算出処理)について、当該処理のフローチャートである図6を参照して説明する。
【0035】
(4−1.カフ圧の調整)
図6に示される動作は測定者がスイッチ32を押下することにより開始される。この動作はCPU40がメモリ41に記憶されるプログラムを読み出して図3に示される各部を制御することによって実現されるものである。また、図8は、測定動作に伴う空気袋13Aの内圧P1および空気袋13Bの内圧P2の変化を表している。
【0036】
図6を参照して、動作が開始すると、ステップS1でCPU40において各部が初期化される。ステップS3で、測定部406は、エア系20Aに対して制御信号を出力して空気袋13Aの加圧を開始し、加圧過程において血圧を測定する。ステップS3での血圧の測定は、通常の血圧計で行なわれているオシロメトリック法による測定が行なわれる。
【0037】
ステップS1の初期化において2ポート弁51の両弁を開放させた後、ステップS3でポンプ21によって圧縮空気が導入されるにつれて、図8において「S3」の期間として示されるように、空気袋13Aの内圧P1および空気袋13Bの内圧P2が増加する。
【0038】
ステップS3での血圧の測定が完了すると、ステップS7で、CPU40は、この時点で駆動回路53に制御信号を出力して、2ポート弁51の両弁を閉塞させる。これにより、空気袋13Aと空気袋13Bとは分離した空間となる。なお、ステップS3において空気袋13A内の圧力P1が最高血圧値よりも高い圧力まで上昇していることから、この時点では、空気袋13Aは、脈波測定用として用いられる空気袋13Bが巻きつけられる部位よりも末梢側の部位を駆血した状態にある。つまり、空気袋13Aは、圧迫用空気袋として機能している。
【0039】
(4−2.特徴点の抽出)
末梢側が駆血された状態において、ステップS11で、測定部406は、圧力センサ23Bからの圧力信号に基づく一拍分の脈波波形が入力されるごとに、その脈波波形から特徴点を抽出するための動作を行なう。当該動作のための処理を、ステップS11のサブルーチンである図7を参照して説明する。
【0040】
(4−3.血流波形の推定)
図7を参照して、ステップS111で、末梢側で駆血された状態において、因子取得部401は、圧力センサ23Bからの圧力信号に基づく一拍分の脈波波形を入力を受け付けて、ステップS113に処理を進める。
【0041】
ステップS113では、因子取得部401は、ステップS111で取得した一拍分の脈波波形を利用して、AI値を算出する。AI値の算出は、たとえば、一拍分の脈波波形における駆出波と反射波の振幅比を算出することにより実現される。図9の(A)〜(C)に、ステップS111で算出されるAIの例を示す。図9から理解されるように、AIは、たとえば駆出波の振幅値(A11)に対する反射波の振幅値(A12)の比として求められる。
【0042】
次に、ステップS115において、係数取得部402は、ステップS113で求められたAI値と変換情報記憶部412に記憶された情報とを用いて、上記したように、係数αを算出する。
【0043】
次に、ステップS117において、血流波形生成部403は、係数αと第1基準波形FL1と第2基準波形FL2とを用いて、上記した式(A)に従って、推定される血流波形FLを生成する。
【0044】
(4−4.駆出波形の駆出波と反射波への分離)
次に、ステップS119において、波形分離部404は、ステップS117で生成した血流波形FLを用いて、ステップS111で入力された脈波波形を駆動波と反射波に分離する。このような分離は、公知のいかなる手法をも利用することができ、たとえば、特許文献2に開示された方法を利用することができる。
【0045】
まず、脈波波形の分離に関し、その前提を説明する。
血圧波形(Pm)は、駆出波(Pf)と反射波(Pb)の和として表される(式(1))。また、血流波形(Fm)は、駆出波(Ff)と反射波(Fb)の和として表される(式(2))。血圧と血流の関係は、血管の抵抗に相当する特性インピーダンス(Zc)を定義し、当該特性インピーダンス(Zc)を介して、以下の式(3)および式(4)のような関係にある。
【0046】
Pm=Pf+Pb …(1)
Fm=Ff+Fb …(2)
Pf=Zc×Ff …(3)
Pb=−Zc×Fb …(4)
式(1)〜式(4)の関係に基づき、駆出波(Pf)と反射波(Pb)について、以下の式(5)と式(6)が導出される。
【0047】
Pf=Zc×Ff=(Pm+Zc×Fm)/2 …(5)
Pb=−Zc×Fb=(Pm−Zc×Fm)/2 …(6)
なお、Zcは、次の式(7)によって、血圧波形(Pm)と血流波形(Fm)の双方の高速フーリエ変換を用いて、式(7)に従って算出される。
【0048】
Zc=|Z|=|FFT(Pm)|/|FFT(Fm)| …(7)
そして、上記式(5)〜式(7)のFmとして、ステップS117で生成した血流波形を用いることにより、血圧波形(Pm)における駆出波(Pf)と反射波(Pb)の波形を生成する。これにより、脈波波形が駆出波と反射波に分離される。
【0049】
(4−5.動脈硬化指標算出)
ステップS121では、ステップS119における脈波波形の分離に基づき、指標算出部405は、脈波波形における反射波の開始点(特徴点)を算出し、また、駆出波と反射波の振幅差と、これらの振幅比とを算出して、処理を図6に戻す。
【0050】
ステップS121において算出された特徴点、振幅差および振幅比の組の数が予め規定されている数(たとえば10拍分)に達すると(ステップS13でYES)、CPU40は、ステップS15へ処理を進める。
【0051】
ステップS15では、指標算出部405は、上記特徴点、振幅差および振幅値の平均値を用いて動脈硬化度の指標としてのTr、TPP等を算出する。
【0052】
(4−6.情報の表示)
そして、ステップS17で、CPU40は、駆動回路27A,27Bに制御信号を出力してエアバルブ22A,20Bを開放させ、空気袋13A,13Bの圧力を大気圧に解放する。図8の(A),(B)の例では、圧力P1,P2は、ステップS17の後で、大気圧まで急速に減少している。
【0053】
算出された最高血圧値(SYS)、最低血圧値(DIA)、動脈硬化度の指標や、測定された脈波などの測定結果は基体2に設けられた表示部4で表示するための処理が施され、表示される。
【0054】
以上説明した本実施の形態では、特許文献2に開示されているように血流波形を三角形状波形で近似するのではなく、予め定められた波形を用いて、推定される血流波形を生成している。本実施の形態では、動脈硬化度に対して影響を及ぼすと考えられる因子に応じた係数を用いて複数の波形を組合わせることによって、血流波形を生成している。これにより、生成される血流波形の形状を先端の尖った形状から先端が丸い形状まで段階的に変化させることができるようになり、実際の被測定者の血流波形に近い形状を近似することが可能となる。このため、三角形状波形よりも正確に血流波形を近似でき、より正確に脈波波形を分離できる。
【0055】
[5.本実施の形態におけるTr]
図10に、本実施の形態において算出されるTrを示す。なお、図10では、縦軸が、本実施の形態に従って算出されたTrを示し、横軸が、心臓と大腿動脈の2点間のPWVに基づくTrの推定値が示されている。
【0056】
図10から理解されるように、本実施の形態に従って算出されたTrと、PWVに基づく推定値との間の相関関数の2乗(R2)は、0.6678となった。これにより、従来の技術に対して、精度良くTrを算出できるようになったと言える。
【0057】
[6.変形例(1)]
以上説明した本実施の形態では、動脈硬化に影響する因子情報として、脈波波形から算出されたAI値が利用されていたが、本発明の因子情報は、これに限定されない。
【0058】
因子情報としては、たとえば、脈波波形から算出されるTPP値が用いられても良い。
図11に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、TPPと係数αの関係を示す。図11から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(C1)〜式(C3)で表される、TPPの関数とされている。なお、下記式(C2)のa1およびb1は、予め定められた係数である。また、TPP1およびTPP2は、TPP値についての予め定められた値である。
【0059】
(TPP<TPP2のとき) α=α1 …(C1)
(TPP2≦TPP<TPP1のとき) α=Tr×a1+b1 …(C2)
(TPP1<TPPのとき) α=α2 …(C3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図12のステップS113Aが実行される。図12のステップS113Aでは、因子取得部401は、ステップS111で入力された脈波波形からTPPを算出する。因子取得部401は、たとえば、図9の(A)等を参照して説明した駆出波と反射波のピークの時間差を算出することによって、TPPを算出する。
【0060】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図11を参照して説明した情報を用いて、TPPをαに変換する。
【0061】
上記のように係数αが決定されることにより、TPPの値が高いほど、αの値が高くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、TPPの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが低くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが高くなる。
【0062】
[7.変形例(2)]
因子情報としては、脈波波形から算出されるTr値が用いられても良い。
【0063】
図13に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、Trと係数αの関係を示す。図13から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(D1)〜式(D3)で表される、Trの関数とされている。なお、下記式(D2)のa2およびb2は、予め定められた係数である。また、Tr1およびTr2は、Tr値についての予め定められた値である。
【0064】
(Tr<Tr2のとき) α=α1 …(D1)
(Tr2≦Tr<Tr1のとき) α=Tr×a2+b2 …(D2)
(Tr1<Trのとき) α=α2 …(D3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図14のステップS113Bが実行される。図14のステップS113Bでは、因子取得部401は、ステップS111で入力された脈波波形からTrを算出する。因子取得部401は、たとえば、脈波波形の四次微分を利用する等の公知の技術によって、Trを算出する。
【0065】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図13を参照して説明した情報を用いて、Trをαに変換する。
【0066】
上記のように係数αが決定されることにより、Trの値が高いほど、αの値が高くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、Trの値が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが低くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが高くなる。
【0067】
[8.変形例(3)]
因子情報としては、被測定者の年齢が用いられても良い。
【0068】
図15に、本変形例の変換情報記憶部412に記憶される情報によって特定される、被測定者の年齢AGと係数αの関係を示す。図15から理解されるように、係数αは、α1からα2までの値をとり(0≦α1<α2≦1)、次の式(E1)〜式(E3)で表される、Trの関数とされている。なお、下記式(E2)のa3およびb3は、予め定められた係数である。また、AG1およびAG2は、年齢についての予め定められた値である。
【0069】
(AG<AG2のとき) α=α2 …(E1)
(AG2≦AG<AG1のとき) α=AG×a3+b3 …(E2)
(AG1<Trのとき) α=α1 …(E3)
本変形例では、図7のステップS113の代わりに、図16のステップS113Cが実行される。図16のステップS113Cでは、因子取得部401は、被測定者の年齢を取得する。被測定者の年齢は、たとえば操作部3を介して入力される。
【0070】
そして、ステップS115では、係数取得部402は、図15を参照して説明した情報を用いて、AGをαに変換する。
【0071】
上記のように係数αが決定されることにより、AGの値が高いほど、αの値が低くなる。したがって、式(A)に従って生成される血流波形FLでは、被測定者の年齢が高いほど、比較的動脈硬化度が高いと考えられる場合に対応した波形(第1基準波形FL1)の寄与する度合いが高くなり、比較的動脈硬化度が低いと考えられる場合に対応した波形(第2基準波形FL2)の寄与する度合いが低くなる。
【0072】
[9.変形例(4)]
測定装置1において、圧力センサ23Bを内包する腕帯9が装着される被測定者の測定部位は、腕であった。なお、本発明に係る血圧情報測定装置における測定部位は、腕に限定されず、頚部であっても良い。このような血圧情報測定装置では、検出用部材および検出手段としては、たとえば、特開平10−309266号公報に開示されたような頚動脈波検出装置を採用することができる。当該装置では、生体の頸動脈に押圧されて該頸動脈から脈波を検出する頸動脈波センサと、該頸動脈波センサを支持する支持部材と、該支持部材に連結されて当該生体の頸の外周面のうち該頸動脈波センサによる押圧部位と反対側の部位に接触させられる接触部材とを有し、前記生体の頸を把持するために全体として一平面内で湾曲させられるとともに、装着状態では弾性復帰力により該支持部材と該接触部材とが相互に接近する方向に付勢された把持装置とが備えられる。
【0073】
[10.その他の変形例等]
以上説明した実施の形態では、αは、被測定者のAI値、Tr値、TPP値、または、年齢によって決定されていた。なお、αは、上記した各方法により、AI値、Tr値、TPP値、または、年齢に基づいて算出されたそれぞれのαを、重み付けして組合わせることによって、算出されても良い。つまり、AI値に基づいて算出されたαをα1、Tr値に基づいて算出されたαをα2、TPP値に基づいて算出されたαをα3、年齢に基づいて算出されたαをα4とした場合に、αは、次の式(8)によって算出されても良い。
【0074】
α=pα1+qα2+rα3+kα4 …(8)
式(8)における係数p、q、r、kは、AI値、Tr値、TPP値、年齢のそれぞれを重み付けする値であり、適宜設定することができる。
【0075】
なお、α1、α2、α3、α4のすべてではなく、これらの中の2つまたは3つを、重み付けによって組合わせてαを算出しても良い。
【0076】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 測定装置、2 基体、3 操作部、4 表示部、9 腕帯、13A,13B 空気袋、40 CPU、41 メモリ、401 因子取得部、402 係数取得部、403 血流波形生成部、404 波形分離部、405 指標算出部、406 測定部、410 プログラム記憶部、411 基準波形記憶部、412 変換情報記憶部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する血圧情報測定装置であって、
圧力センサを内包する検出用部材と、
前記検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出する検出手段と、
動脈硬化度に対する因子情報を取得する取得手段と、
複数の擬似血流波形を記憶する記憶手段と、
前記因子情報に基づいて前記複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成する生成手段と、
前記脈波波形と前記血流波形として推定される波形とを用いて、前記脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離する分離手段と、
前記脈波波形における、前記分離手段が分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出する算出手段とを備える、血圧情報測定装置。
【請求項2】
前記因子情報は、前記取得手段が前記脈波波形から算出する、AI(Augmentation Index)値、駆出波と反射波の出現時間差、または、駆出波と反射波のピークの時間差である、請求項1に記載の血圧情報測定装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
測定部位を圧迫する第1空気袋と、前記第1空気袋より末梢側で測定部位を圧迫する第2空気袋とを含み、
前記第2空気袋によって駆血した状態で、前記第1空気袋の内圧の変化に基づき、前記脈波波形を検出する、請求項1または請求項2に記載の血圧情報測定装置。
【請求項4】
前記因子情報は、被測定者の年齢である、請求項1に記載の血圧情報測定装置。
【請求項5】
前記検出手段は、上腕動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項6】
前記検出手段は、橈骨動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項7】
前記検出手段は、頚動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項8】
血圧情報測定装置において、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する方法であって、
圧力センサを内包する検出用部材検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出するステップと、
動脈硬化度に対する因子情報を取得するステップと、
複数の擬似血流波形を記憶するステップと、
前記因子情報に基づいて前記複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成するステップと、
前記脈波波形と前記血流波形として推定される波形とを用いて、前記脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離するステップと、
前記脈波波形における、前記分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出するステップとを備える、血圧情報測定方法。
【請求項1】
血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する血圧情報測定装置であって、
圧力センサを内包する検出用部材と、
前記検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出する検出手段と、
動脈硬化度に対する因子情報を取得する取得手段と、
複数の擬似血流波形を記憶する記憶手段と、
前記因子情報に基づいて前記複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成する生成手段と、
前記脈波波形と前記血流波形として推定される波形とを用いて、前記脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離する分離手段と、
前記脈波波形における、前記分離手段が分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出する算出手段とを備える、血圧情報測定装置。
【請求項2】
前記因子情報は、前記取得手段が前記脈波波形から算出する、AI(Augmentation Index)値、駆出波と反射波の出現時間差、または、駆出波と反射波のピークの時間差である、請求項1に記載の血圧情報測定装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
測定部位を圧迫する第1空気袋と、前記第1空気袋より末梢側で測定部位を圧迫する第2空気袋とを含み、
前記第2空気袋によって駆血した状態で、前記第1空気袋の内圧の変化に基づき、前記脈波波形を検出する、請求項1または請求項2に記載の血圧情報測定装置。
【請求項4】
前記因子情報は、被測定者の年齢である、請求項1に記載の血圧情報測定装置。
【請求項5】
前記検出手段は、上腕動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項6】
前記検出手段は、橈骨動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項7】
前記検出手段は、頚動脈において測定される圧力波形を検出することにより脈波波形を検出する、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項8】
血圧情報測定装置において、血圧情報として被測定者の動脈硬化度の指標を算出する方法であって、
圧力センサを内包する検出用部材検出用部材を被測定者の測定部位の外部から接触させて脈波波形を検出するステップと、
動脈硬化度に対する因子情報を取得するステップと、
複数の擬似血流波形を記憶するステップと、
前記因子情報に基づいて前記複数の擬似血流波形を組合わせることにより、血流波形として推定される波形を生成するステップと、
前記脈波波形と前記血流波形として推定される波形とを用いて、前記脈波波形を駆出波と反射波の波形に分離するステップと、
前記脈波波形における、前記分離した駆出波と反射波の関係から、動脈硬化度の指標を算出するステップとを備える、血圧情報測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−70877(P2012−70877A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217313(P2010−217313)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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