説明

血圧情報測定装置

【課題】末梢動脈脈波を測定して高精度で大動脈血圧波形を算出し、大動脈血圧波形から動脈の硬化度を表わす指標を算出する血圧情報測定装置を提供する。
【解決手段】測定装置1は、測定部位に装着するための空気袋13Bと、その末梢側を圧迫するための空気袋13Aと、測定部位の末梢側が駆血状態であるときの空気袋13Bの圧力変化に基づいて動脈硬化指標を算出するCPU40とを備える。CPU40は、圧力変化に基づいて血圧値を算出し、その血圧値を用いて心臓から測定部位までの脈波伝播速度を算出する。また、駆血状態にある測定部位と末梢側との血管径の差を表わす値と、被験者の血管の硬さを表わす値とを用いて、測定部位における血液の反射係数を算出する。そして、それらを用いて伝達関数を算出し、測定部位から得られた圧脈波に作用させることで大動脈内の血圧波形を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧情報測定装置に関し、特に、動脈の硬化度を表わす指標を出力する血圧情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈内における血圧は、心臓など主要な臓器に直接かかる圧力である。そのため、その血圧の変化を表わす血圧波形(以下、大動脈血圧波形)を測定することで、脳卒中、心筋梗塞、心不全などといった脳心血管系疾患の予測に役立てられる。
【0003】
大動脈血圧波形は、心臓から駆出された駆出波と、腸骨動脈分岐部を始めとする動脈中の各部位からの反射波とを含む合成波である。
【0004】
たとえば特表2009−517140号公報(以下、特許文献1)など、従来、動脈硬化度を判定する方法として、大動脈血圧波形から駆出波と反射波とを分離し、その振幅差や振幅比や出現時間差等の指標を用いる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、従来、大動脈血圧波形は、カテーテルを利用する直接法を採用して侵襲的に測定せざるを得なかったため、患者への負担が大きいという問題があった。
【0006】
そこで、この問題を解消する方法として、たとえば米国特許第5265011号明細書(以下、特許文献2)は、たとえば橈骨動脈における圧脈波をトノメトリセンサを用いて測定し、伝達関数法により大動脈血圧波形に換算する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−517140号公報
【特許文献2】米国特許第5265011号明細書
【特許文献3】特開平10−94526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、本願出願人は、特開平10−94526号公報(以下、特許文献3)において、伝達関数法で用いられる伝達関数を被測定者の血管特性に応じて決定することで、高精度で大動脈血圧波形を得る方法を開示している。これに対して、より精度を高めることが求められている。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、末梢動脈を測定して高精度で大動脈血圧波形を算出し、大動脈血圧波形から動脈の硬化度を表わす指標を算出する血圧情報測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、血圧情報測定装置は大動脈内の血圧波形を非侵襲で検出して動脈硬化指標を算出する血圧情報測定装置であって、被験者の測定部位に装着するための流体袋と、測定部位の末梢側を圧迫するための圧迫手段と、測定部位の末梢側が圧迫手段によって圧迫されて駆血状態であるときの、測定部位に装着された流体袋の圧力変化に基づいて、被験者の動脈硬化指標を算出する演算手段とを備える。演算手段は、圧力変化に基づいて被験者の血圧値を算出する処理と、血圧値を用いて、心臓から測定部位までの脈波伝播時間を算出する処理と、駆血状態にある測定部位と末梢側との血管径の差を表わす値と、圧力変化から得られた被験者の血管の硬さを表わす値とを用いて、測定部位における血液の反射係数を算出する処理と、脈波伝播時間と反射係数とを用いて伝達関数を算出する処理と、圧力変化から得られる圧脈波に伝達関数を作用させることで大動脈内の血圧波形を算出する処理と、大動脈内の血圧波形から被験者の動脈硬化指標を算出する処理とを実行する。
【0011】
好ましくは、演算手段は、駆血状態にある測定部位と末梢側との血管径の差を表わす値として、駆血状態における圧迫手段での圧迫力と算出された被験者の最高血圧値との差分を用いる。
【0012】
好ましくは、演算手段は、圧力変化から得られた被験者の血管の硬さを表わす値として、脈波振幅、駆出波の振幅と反射波の振幅との比率であるAI(Augmentation Index)値、駆出波と反射波との出現時間差であるTr(Time of Reflection)値、および駆出波のピークの出現時間と反射波のピークの出現時間との時間差を表わす値、とのうちのいずれかの値を用いる。
【0013】
好ましくは、血圧情報測定装置は、被験者の属性情報として少なくとも年齢および身長を記憶するための記憶手段をさらに備える。脈波伝播時間を算出する処理は、被験者の身長を用いて脈波伝播距離の推定値を算出する処理と、算出された被験者の血圧値と被験者の年齢とから脈波伝播速度の推定値とを算出する処理とを含む。演算手段は脈波伝播時間を算出する処理において、脈波伝播距離の推定値を脈波伝播速度の推定値で除して脈波伝播時間を算出する。
【0014】
好ましくは、演算手段は、圧力変化に基づく測定部位における血圧波形から被験者の動脈硬化指標を算出する処理をさらに実行する。血圧情報測定装置は算出された動脈硬化指標を出力するための出力手段をさらに備え、出力手段は、大動脈内の血圧波形から算出された動脈硬化指標と、測定部位における血圧波形から算出された動脈硬化指標とを出力する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、被測定者の負担を強いることなく、かつ、高精度で大動脈血圧波形が得られ、該大動脈血圧波形に基づく動脈硬化度の指標をより精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態にかかる血圧情報測定装置(以下、測定装置と略する)の概観の具体例を示す図である。
【図2】(A)は測定装置を用いて血圧情報を測定する際の測定姿勢を示す模式断面図であり、(B)は腕帯の概略構成を示す図である。
【図3】測定装置の構成の具体例を示すブロック図である。
【図4】圧迫用空気袋側の圧力センサ、ポンプ、ならびに排気弁、および脈波測定用空気袋側の圧力センサならびに2ポート弁の、両空気袋との位置関係を説明する図である。
【図5】測定装置の機能構成の具体例を示すブロック図である。
【図6】測定装置における動作を表わしたフローチャートである。
【図7】測定装置の動作に伴う空気袋の内圧変化を表わす図である。
【図8】伝達関数を算出するための動作を表わすフローチャートである。
【図9】測定装置での表示例を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0018】
<装置構成>
図1は、本実施の形態にかかる血圧情報測定装置(以下、測定装置と略する)1の概観の具体例を示す図である。
【0019】
測定装置1は、被測定者の血圧に関する生体値を測定し、血圧情報を算出する。血圧情報には、血圧値、脈波波形、心拍数などと、それらより算出される、最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、脈波振幅、AI(Augmentation Index:脈波増大係数)値、TR(Time of Reflection:出現時間差)値などとが含まれる。
【0020】
図1を参照して、測定装置1は、基体2と、基体2にエアチューブ8で接続された、測定部位である上腕に装着するための腕帯9とを含む。
【0021】
基体2の正面には、測定結果を含む各種の情報を表示するための表示部4および測定装置1に対して各種の指示を与えるために操作される操作部3が配される。操作部3は、電源をON/OFFするために操作されるスイッチ31および測定の開始を指示するために操作されるスイッチ32を含む。
【0022】
図2(A)は、測定装置1を用いて血圧情報を測定する際の測定姿勢を示す模式断面図である。図2(A)を参照して、測定装置1を用いた脈波の測定に際しては、腕帯9を測定部位である上腕100に巻き回す。その状態でスイッチ32が押下されることで測定が開始される。
【0023】
さらに図2(A)を参照して、腕帯9は空気袋13Aおよび空気袋13Bを内包する。空気袋13Aは血圧を測定するための用いられ、空気袋13Bは脈波を測定するために用いられる。腕帯9を測定部位である上腕100に巻き回したときに、空気袋13Aは測定部位全体を覆い、空気袋13Bは中枢側であって、空気袋13Aと上腕100との間に位置する。好ましくは、空気袋13Aと空気袋13Bとの間には、たとえばウレタンシートなどの、これら空気袋間の振動の伝導を抑えるための防振部材が設けられる。
【0024】
図2(B)は、腕帯9の概略構成を示す図である。
図2(B)を参照して、空気袋13Aおよび空気袋13Bは腕帯9の長手方向にほぼ同じ長さであり、少なくとも上腕100の周長以上の長さを有する。空気袋13Aと空気袋13Bとの腕帯9の幅方向の長さの比率は5:1程度である。好ましくは、空気袋13Aのサイズは通常の血圧測定用の空気袋と同サイズであり、空気袋13Bのサイズは20mm×220mm程度である。
【0025】
図3は、測定装置1の構成の具体例を示すブロック図である。
図3を参照して、測定装置1の基体2には、空気袋13Aにエアチューブ8で連結される圧力センサ23A、ポンプ21、および排気弁22と、空気袋13Bにエアチューブ8で連結される圧力センサ23Bとが含まれる。圧力センサ23A、ポンプ21、および排気弁22と圧力センサ23Bとは、2ポート弁51を間に挟んでエアチューブ8で連結される。
【0026】
2ポート弁51は駆動回路53に接続される。圧力センサ23A,23Bは増幅器28A,28Bに接続され、さらに増幅器28A,28BはA/D変換器29A,29Bに接続される。ポンプ21は駆動回路26に接続され、排気弁22は駆動回路27に接続される。
【0027】
駆動回路26、駆動回路27、A/D変換器29A,29B、および駆動回路53は、測定装置1全体を制御するためのCPU(Central Processing Unit)40に接続される。CPU40には、さらに、表示部4と、操作部3と、メモリ5とが接続される。
【0028】
メモリ5は、CPU40で実行される制御プログラムなどを記憶する。さらに、メモリ5は、CPU40がプログラムを実行する際の作業領域ともなる。
【0029】
CPU40は、操作部3から入力される操作信号に基づいてメモリ5に記憶されている所定のプログラムを実行し、駆動回路26、駆動回路27および駆動回路53に制御信号を出力する。駆動回路26、駆動回路27および駆動回路53は、それぞれ制御信号に従ってポンプ21、排気弁22および2ポート弁51を駆動させる。
【0030】
ポンプ21は、CPU40からの制御信号に従った駆動回路26によって駆動が制御されて、空気袋13Aおよび/または空気袋13B内に空気を注入する。排気弁22は、CPU40からの制御信号に従った駆動回路27によって開閉が制御されて、空気袋13Aおよび/または空気袋13B内の空気を排出する。
【0031】
2ポート弁51は、圧力センサ23A、ポンプ21、および排気弁22を間に挟んで空気袋13Aに連結される側の弁と、圧力センサ23Bを間に挟んで空気袋13Bに連結される側の弁との2つの弁を有し、CPU40からの制御信号に従った駆動回路53によってそれぞれの弁の開閉が制御される。両弁が開放されると空気袋13Aと空気袋13Bとはエアチューブ8で連結され、1つの空間を構成する。いずれかの弁が閉塞されると空気袋13Aと空気袋13Bとはそれぞれ独立した空間を構成する。
【0032】
圧力センサ23A,23Bは静電容量形の圧力センサであり、空気袋13A,13Bの内圧変化により容量値が変化する。圧力センサ23A,23Bの容量値に応じた発振周波数信号は増幅器28A,28Bにおいて所定周波数まで増幅され、A/D変換器29A,29Bでデジタル変換された後にCPU40に入力される。
【0033】
CPU40は、圧力センサ23A,23Bから得られた空気袋13A,13Bの内圧変化に基づいて所定の処理を実行し、その結果に応じて駆動回路26、駆動回路27および駆動回路53に上記制御信号を出力する。また、CPU40は、圧力センサ23から得られた空気袋13A,13Bの内圧変化に基づいて血圧値や脈拍などの血圧情報を算出し、測定結果を表示部4に表示させるための処理を行ない、表示させるためのデータと制御信号とを表示部4に出力する。また、CPU40は、血圧情報をメモリ5に記憶させるための処理を行なう。
【0034】
図4は、圧力センサ23A、ポンプ21、ならびに排気弁22、および圧力センサ23Bならびに2ポート弁51の、空気袋13A,13Bとの位置関係を説明する図である。
【0035】
図4を参照して、空気袋13Aと空気袋13Bとは間にウレタンシートなどの振動防止部材を挟んで接し、空気袋13Bは、さらに、ウレタン系不織布などのカバーで覆われている。
【0036】
空気袋13Aの、腕帯9が測定部位に巻き回されたときに末梢側にエアチューブ8が接続され、その近傍に、圧力センサ23A、ポンプ21、および排気弁22が配される。
【0037】
空気袋13Bの、腕帯9が測定部位に巻き回されたときに中枢側(心臓側)にエアチューブ8が接続され、その近傍に、圧力センサ23Bおよび2ポート弁51が配される。
【0038】
<発明の原理>
大動脈血圧波形を得るために、たとえば上記特許文献2(米国特許第5265011号明細書)にも開示されているように、橈骨動脈における圧脈波をトノメトリセンサを用いて測定し、伝達関数法により大動脈血圧波形に換算する方法が提案されている。
【0039】
大動脈血圧波形P1(t)と撓骨動脈の血圧脈波P2(t)との間の比率に相当する伝達関数Hは、大動脈部と撓骨動脈部との間の脈波伝播時間T、大動脈部と撓骨動脈部との間の時間遅れ因子△、および動脈内の反射係数Γを用いて以下の式(1)で表わされることを、本願出願人は特開平10−94526号公報(上の特許文献3)においてすでに開示している:
H=P1(t)/P2(t)=(1+Γ△2)/(△+Γ△) …式(1)。
【0040】
なお、遅れ因子△は、角速度ωを用いて以下の式(2)で表わされる、
△=e-jωT …式(2)。
【0041】
伝達関数Hを表わす上記式(1)に含まれる大動脈部と撓骨動脈部との間の時間遅れ因子△(=e-jωT)および動脈内の反射係数Γは、いずれも未知数である。
【0042】
ここで、脈波伝播時間Tは心臓を出た脈波が測定部位に到達するまでの時間であるので、脈波伝播距離の推定値(L_e)と脈波伝播速度の推定値(V_e)とから以下の式(3)のように決定される、
T=L_e/V_e …式(3)。
【0043】
式(3)において、脈波伝播距離の推定値(L_e)は心臓から測定部位までの距離の推定値であり、予め実験的に求められる係数a,bを用いて被測定者の身長Hiから以下の式(4)で決定される、
L_e=Hi×a+b …式(4)。
【0044】
また、脈波伝播速度の推定値(V_e)は心臓から上腕動脈までの脈波伝播速度であり、予め実験的に求められる係数c,d,eを用いて被測定者の血圧値Bおよび年齢Ageから以下の式(5)で決定される、
V_e=B×c+Age×d+e …式(5)。
【0045】
よって、式(3)に式(4)および式(5)を代入することで、被測定者についての脈波伝播時間Tを算出することができる。
【0046】
次に、動脈内の反射係数Γは、測定部位における進行波と反射波との割合を意味する。反射係数は、反射点における伝播特性の不整合度に依存する。具体的には、反射点の前後における血管径の差が大きいほど反射係数は大きく、血管が硬いほど反射係数は大きい。
【0047】
測定部位の末梢側を空気袋13Aで圧迫することで駆血状態とし、中枢側の空気袋13Bの内圧変化に基づいて脈波を検出する、という脈波の検出方法では、反射点の前後における血管径の差は空気袋13Aの圧迫力に応じて変化することになる。具体的には、空気袋13Aの内圧と最高血圧との差が大きいほど、末梢側の血管は潰されて血管径が小さくなる。その結果、血管径の差は大きくなり、反射係数は大きくなる。
【0048】
血管の硬さは、空気袋13Aの加圧中に検出される脈波形状を解析して得られるパラメータより推定されることが知られている。そのパラメータの一例として、心臓から駆出された駆出波と、大動脈における主要な反射部位からの反射波とを分離して、駆出波と反射波との出現時間差であるTr値が用いられる。また、他の例として、血圧波形における駆出波の振幅と反射波の振幅との比率であるAI値や、駆出波のピークの出現時間と反射波のピークの出現時間との時間差(Tpp)などを用いることもできる。以下の説明では、血管の硬さを表わすパラメータとしてTr値を用いるものとする。Tr値が小さいほど血管が硬いことを表わし、その結果、反射率は大きくなる。
【0049】
従って、動脈内の反射係数Γは、予め実験的に求められる係数f,g,hを用いて空気袋13Aの内圧Pa、被測定者の最高血圧値SBP、およびTr値から、以下の式(6)で決定されると考察される、
Γ=(Pa−SBP)×f+Tr×g+h …式(6)。
【0050】
以上より、被測定者の身長、血圧値および年齢、ならびに空気袋13Aの内圧Paを用いて、被測定者の血管特性に応じた伝達関数Hを算出することができる。本実施の形態にかかる測定装置1は、この伝達関数Hを用いて測定部位における血圧脈波を大動脈血圧波形に換算する。
【0051】
すなわち、測定装置1は、予め被測定者の属性情報として身長Hi、年齢Ageなどの情報を記憶しておく。そして、測定された血圧値Bを用いて、被測定者についての脈波伝播時間Tを算出する。
【0052】
また、測定装置1では、腕帯9を測定部位に巻き回した状態で空気袋13Aで末梢側を駆血しながら空気袋13Bの内圧変化に重畳した動脈の容積変化に伴う振動成分を抽出することで脈波を検出する。これにより、心臓からの駆出波と腸骨動脈分岐部および動脈中の硬化部位からの反射波とが分離され、上記パラメータとして用いるTr値を算出する。そして、空気袋13Aの内圧Pa、被測定者の最高血圧値SBP、およびTr値から動脈内の反射係数Γを算出する。
【0053】
測定装置1は、算出された脈波伝播時間T、および反射係数Γを上記式(1)に代入することで当該被測定者についての伝達関数Hを算出する。そして、測定された末梢動脈の血圧脈波P2(t)に対して当該伝達関数Hを用いることで、血圧脈波P2(t)を大動脈血圧波形P1(t)に換算する。そして、動脈硬化の指標として、測定部位で得られた血圧波形から指標(たとえばAI値、Tr値)を算出すると共に、大動脈血圧波形からも指標を算出し、これらを出力する。
【0054】
<機能構成>
図5は、上の動作を行なうための測定装置1の機能構成の具体例を示すブロック図である。図5の各機能は、CPU40が操作部3からの操作信号に従ってメモリ5に記憶されるプログラムを読み出して実行することで、主に、CPU40に形成されるものであるが、少なくとも一部が図3に示されたハードウェア構成で形成されるものであってもよい。
【0055】
図5を参照して、CPU40は、圧力センサ23A,23Bからのセンサ信号の入力を受付けるための入力部401と、センサ信号の示す圧力値に基づいて被測定者の血圧値を算出するための血圧値算出部402と、センサ信号の示す圧波形に基づいて反射係数Γの算出に用いるためのパラメータとしてのTr値を算出するためのTr算出部403と、センサ信号の示す圧力値に基づいて測定部位における圧波形を算出するための脈波算出部404と、メモリ5から被測定者の属性情報として身長、年齢を読み出すための読出部405と、算出された血圧値と読み出された属性情報と上記式(3)〜(5)に適用して脈波伝播時間Tを算出するための伝播時間算出部406と、センサ信号から得られる圧力値と算出された血圧値と算出されたTr値とを上記式(6)に代入して反射係数Γを算出するための反射係数算出部407と、算出された脈波伝播時間Tと反射係数Γとを上記式(1)に代入して伝達関数Hを算出するための伝達関数算出部408と、算出された測定部位における圧波形に伝達関数を適用することで大動脈血圧波形を得る解析を行なうための解析部409と、測定部位における血圧波形と大動脈における血圧波形とのそれぞれから動脈硬化度の指標を算出するための指標算出部410と、算出された血圧値や動脈硬化度の指標を表示部4で出力する処理を実行するための出力部411とを含む。
【0056】
<動作フロー>
図6は、測定装置1における動作を表わしたフローチャートである。図6のフローチャートに示される動作は、操作部3に含まれるスイッチ32が押下されることによって開始される。この動作は、CPU40がメモリ5に記憶される制御プログラムを読み出して図5に示される各部を制御することによって実現される。
【0057】
また、図7は、この動作に伴う空気袋13Aの内圧Paの変化および空気袋13Bの内圧Pbの変化を表わす図である。
【0058】
図6を参照して、測定動作が開始するとCPU40はステップS1で各部を初期化した後、ステップS3で駆動回路26に対して制御信号を出力してポンプ21を作動させ、圧迫用の空気袋としての空気袋13Aを加圧させる。ステップS1の初期化では、CPU40は駆動回路53に制御信号を出力し、2ポート弁51の両弁を開放させる。これにより、図7に示されるように、ステップS3でポンプ21によって圧縮空気が導入されるに連れて、空気袋13Aの内圧Paおよび空気袋13Bの内圧Pb共に増加する。
【0059】
加圧の過程においてステップS5でCPU40は空気袋13Aの内圧に重畳した動脈の容積変化に伴う振動成分を抽出し、所定の演算により血圧値を算出する。ここでの血圧値の算出方法は、通常の電子血圧計で採用されているオシロメトリック法での算出方法であってよい。同時に、CPU40は、末梢側の駆血状態を判定する。
【0060】
末梢側の駆血状態を判定する方法の一例として、CPU40は、空気袋13Aの内圧に重畳した動脈の容積変化に伴う振動成分から脈波を検出し、指標値としてのTr値を算出する。そして、そのTr値が収束しているか否かを判断することで、末梢側の駆血状態を判定する。すなわち、算出された指標値と先に算出され一時的に記憶された指標値とを比較し、その差が予め記憶しているしきい値(たとえば二拍分の平均値の10%等)未満である場合に収束していると判断する、などを行なう。なお、AI値などの他の指標が用いられてもよい。
【0061】
末梢側の駆血が未完了である内は(ステップS9でNO)、CPU40はステップS3の空気袋13Aの加圧、およびステップS5の血圧測定を繰り返す。これにより、図7に示されるように、末梢側の駆血が完了するまで空気袋13Aの内圧Paおよび空気袋13Bの内圧Pbも共に増加する。
【0062】
指標値が収束していると判断されることで末梢側の駆血が完了したと判断されると(ステップS9でYES)、ステップS11でCPU40は駆動回路26に制御信号を出力して加圧を停止させ、空気袋13Aの内圧を固定する。その後、ステップS13でCPU40は駆動回路53に制御信号を出力して2ポート弁51の両弁を閉塞させる。これにより、空気袋13Aと空気袋13Bとは分離した空間となり、空気袋13Aが末梢側の駆血が完了したと判断された内圧を維持して測定部位を圧迫するため、脈波検出用として用いられる空気袋13Bよりも末梢側の駆血状態が維持される。つまり、空気袋13Aは、圧迫用空気袋として機能する。
【0063】
なお、脈波を検出する上では、この圧迫用の部材として空気袋を用いるものに限定されない。すなわち、測定装置1においては、測定部位の末梢側を圧迫可能な部材であれば、たとえばワイヤなどのその他の部材が空気袋に替えて用いられてもよい。
【0064】
ステップS12でCPU40は、伝達関数Hを算出する。この詳しい動作については後述する。
【0065】
ステップS15でCPU40は、脈波の重畳した空気袋13Bの内圧の振動成分より出力波形を測定し、脈波を検出する。その後、ステップS17でCPU40は駆動回路53に制御信号を出力して2ポート弁51を開放させ、さらに駆動回路27に制御信号を出力して排気弁22を開放させ、空気袋13A,13Bを急速排気させる。これにより、図7に示されるように、ステップS17の後に空気袋13A,13Bの内圧Pa,Pbが急速に大気圧に戻る。
【0066】
ステップS19でCPU40は、ステップS15で検出された測定部位(上腕)における脈波にステップS12で算出された伝達関数を適用することで大動脈血圧波形を算出する。そして、ステップS21でCPU40は、ステップS15で検出された血圧波形から動脈硬化の指標となるAI値やTr値などを算出すると共に、ステップS19で得られた大動脈血圧波形から動脈硬化の指標となるAI値やTr値などを算出する。
【0067】
そして、ステップS23でCPU40は、測定結果としてステップS5で測定された血圧値やステップS21で算出された指標などを表示部4に表示させるための処理を実行し、一連の測定動作を終了する。
【0068】
図8は、上記ステップS12での伝達関数を算出するための動作を表わすフローチャートである。図8を参照して、まず、ステップS31でCPU40は、測定部位から得られた脈波からからTr値を算出する。ここでは、ステップS9で末梢側の駆血が完了したと判定されたときに得られた脈波から改めてTr値を算出してもよいし、その判定において用いられ、収束したと判定されたTr値が用いられてもよい。
【0069】
ステップS33でCPU40は脈波伝播時間Tを算出する。ここでは、CPU40は、メモリ5に被測定者の属性情報として記憶されている身長Hiを上記式(4)に代入し、上記ステップS5で測定された血圧値Bおよびメモリ5に被測定者の属性情報として記憶されている年齢Ageを上記式(5)に代入し、その両結果を上記式(3)に代入することで脈波伝播時間Tを算出する。
【0070】
ステップS35でCPU40は、上記ステップS11で固定された空気袋13Aの内圧Paを取得し、ステップS37で反射係数Γを算出する。ここでは、CPU40は、上記ステップS35で取得した空気袋13Aの内圧Pa、上記ステップS5の測定で得られた最高血圧値SBP、および上記ステップS31で算出されたTr値を上記式(6)に代入することで反射係数Γを算出する。
【0071】
ステップS39でCPU40は、上記ステップS33で算出された脈波伝播時間Tおよび上記ステップS37で算出された反射係数Γを上記式(1)に代入することで、当該被測定者についての伝達関数Hを算出する。
【0072】
<実施の形態の効果>
以上の動作が行なわれることで、測定装置1を用いてたとえば上腕などの測定部位に腕帯9を巻き付けて測定動作を行なわせることで、血圧値、脈拍に加えて当該測定部位での血圧波形から得られた動脈硬化度の指標が得られるのみならず、大動脈血圧波形から得られた動脈硬化度の指標が得られる。
【0073】
図9は、測定装置1での表示例を表わす図である。図9を参照して、測定装置1では、測定動作の後、測定部位である上腕での測定結果としての最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、および算出された動脈硬化度の指標としてのAI値、Tr値に加えて、測定部位での血圧波形を大動脈血圧波形に換算して、その血圧波形から得られた最高血圧値、AI値、Tr値が表示される。
【0074】
すなわち、測定装置1を用いることで、カテーテルを利用して大動脈血圧波形を測定するという被測定者の負担を強いることなく大動脈血圧波形が得られるという利点に加えて、被測定者の血圧値、属性情報(年齢、身長)などの血管特性に応じて決定された伝達関数を用いて測定部位における血圧波形を大動脈血圧波形に換算するために高精度で大動脈血圧波形が得られるという利点がある。そのため、大動脈血圧波形に基づく動脈硬化度の指標をより精度よく算出することができる。
【0075】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 測定装置、2 基体、3 操作部、4 表示部、5 メモリ、8 エアチューブ、9 腕帯、13A,13B 空気袋、21 ポンプ、22 排気弁、23A,23B 圧力センサ、26,27,53 駆動回路、28A,28B 増幅器、29A,29B A/D変換器、31,32 スイッチ、40 CPU、51 2ポート弁、100 上腕、401 入力部、402 血圧値算出部、403 Tr算出部、404 脈波算出部、405 読出部、406 伝播時間算出部、407 反射係数算出部、408 伝達関数算出部、409 解析部、410 指標算出部、411 出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈内の血圧波形を非侵襲で検出して動脈硬化指標を算出する血圧情報測定装置であって、
被験者の測定部位に装着するための流体袋と、
前記測定部位の末梢側を圧迫するための圧迫手段と、
前記測定部位の末梢側が前記圧迫手段によって圧迫されて駆血状態であるときの、前記測定部位に装着された前記流体袋の圧力変化に基づいて、前記被験者の動脈硬化指標を算出する演算手段とを備え、
前記演算手段は、
前記圧力変化に基づいて前記被験者の血圧値を算出する処理と、
前記血圧値を用いて、心臓から前記測定部位までの脈波伝播時間を算出する処理と、
前記駆血状態にある前記測定部位と前記末梢側との血管径の差を表わす値と、前記圧力変化から得られた前記被験者の血管の硬さを表わす値とを用いて、前記測定部位における血液の反射係数を算出する処理と、
前記脈波伝播時間と前記反射係数とを用いて伝達関数を算出する処理と、
前記圧力変化から得られる圧脈波に前記伝達関数を作用させることで前記大動脈内の血圧波形を算出する処理と、
前記大動脈内の血圧波形から前記被験者の動脈硬化指標を算出する処理とを実行する、血圧情報測定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記駆血状態にある前記測定部位と前記末梢側との血管径の差を表わす値として、前記駆血状態における前記圧迫手段での圧迫力と前記算出された前記被験者の最高血圧値との差分を用いる、請求項1に記載の血圧情報測定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記圧力変化から得られた前記被験者の血管の硬さを表わす値として、脈波振幅、駆出波の振幅と反射波の振幅との比率であるAI(Augmentation Index)値、駆出波と反射波との出現時間差であるTr(Time of Reflection)値、および駆出波のピークの出現時間と反射波のピークの出現時間との時間差を表わす値、とのうちのいずれかの値を用いる、請求項1または2に記載の血圧情報測定装置。
【請求項4】
前記被験者の属性情報として、少なくとも年齢および身長を記憶するための記憶手段をさらに備え、
前記脈波伝播時間を算出する処理は、
前記被験者の身長を用いて脈波伝播距離の推定値を算出する処理と、
前記算出された前記被験者の血圧値と前記被験者の年齢とから脈波伝播速度の推定値とを算出する処理とを含み、
前記演算手段は前記脈波伝播時間を算出する処理において、前記脈波伝播距離の推定値を前記脈波伝播速度の推定値で除して前記脈波伝播時間を算出する、請求項1〜3のいずれかに記載の血圧情報測定装置。
【請求項5】
前記演算手段は、前記圧力変化に基づく前記測定部位における血圧波形から前記被験者の動脈硬化指標を算出する処理をさらに実行し、
前記算出された動脈硬化指標を出力するための出力手段をさらに備え、
前記出力手段は、前記大動脈内の血圧波形から算出された前記動脈硬化指標と、前記測定部位における血圧波形から算出された前記動脈硬化指標とを出力する、請求項1〜4のいずれかに記載の血圧情報測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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