説明

血液フィルタ装置およびその製造方法

ドーム部(2)、フィルタ保持部(3)および底部(4)を有するハウジング(1)と、ドーム部の側面部に、水平方向かつドーム部内壁に沿う方向に血液を流入させる流入口(5)と、ドーム部の頂部に設けられた空気排出口(6)と、フィルタ保持部に配置され血液中の異物を濾過するフィルタ(8)と、底部に設けられた血液の流出口(7)とを備え、流入口からドーム部に流入した血液がフィルタ保持部を通過して流出口から流出する。フィルタは、シート状濾材が複数のプリーツ(8a)を形成して折り畳まれて、各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有し、ハウジング内腔をドーム部側と底部側とに仕切って配置されている。血液中の不純物や血栓等を効果的に除去しつつ、フィルタ中に残留している気泡の排除も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、人工心肺回路内において異物や血栓等を濾過するために用いられる血液フィルタ装置に関する。特にフィルタ内部に滞留する気泡を除去することが容易な構造を有する血液フィルタ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
昨今、体外循環を伴う心臓手術に用いる人工心肺回路には、安全性を考慮して動脈フィルタ等の血液フィルタ装置を組み込むケースが増加している。当該血液フィルタ装置に求められる性能としては、患者の安全性を確保するという観点から、人工心肺回路内の微小異物や術中に生じた血栓、あるいは当該回路内に混入あるいは離脱した空気を患者の体内に送らないよう排除できる構造とすることが強く求められる。
一般的には、20〜40μm程度のポリエステル製スクリーンフィルタを、円筒プリーツ状に形成した形状が用いられている。例えば、特許第3270193号公報に示されるように、シート状濾材が、複数のプリーツを形成して折り畳まれ、各プリーツの山部を外方、谷部を内方に放射状に向けて円筒形状を形成して、円筒形状のハウジング内に装着されている。このようなフィルタによれば、例えば特許第3012692号公報や特開2000−60967号公報に開示されているように、ハウジング内で、円筒形状濾材の径方向に血液が流れて濾材を通過し、血液中のゴミや不純物あるいは血栓等を、効果的に排除することができる。
上述したようなフィルタにおいては、血液は円筒形状濾材の上部に流入し、円筒形状濾材の外側部を経由して径方向に濾材を通過し、円筒形状濾材の内部を経由して下部から流出する。濾材の面は垂直方向に配置されるので、プライミング時に、充填液の流れがフィルタ表面に流れ込む際に、気泡がフィルタの内部に残留し易い。そして、このようにして残存した気泡を外部へ放出することは困難である。何故ならば、濾材面が垂直方向に配置されているため、気泡がフィルタから離れにくく、気泡を完全に除去するには相当の時間を要するからである。
すなわち、フィルタ内部の残留気泡は、例えば、ハウジングを指ではじく等の外部からの衝撃によって分離させられる。その場合、気泡付着部分の直近から衝撃を与えても、一時的に気泡がフィルタから分離されるが、隣接するフィルタのプリーツ部分に再度付着し易く、上方に位置する排気口まで気泡を誘導することが困難である。
【発明の開示】
本発明は、上記問題点を解決するために、血液中の不純物や血栓等を効果的に除去しつつ、フィルタ中に残留している気泡の排除も容易である血液フィルタ装置を提供することを目的とする。
本発明の血液フィルタ装置は、上部構造を形成するドーム部、中央部構造を形成するフィルタ保持部および下部構造を形成する底部を有するハウジングと、前記ドーム部の側面部に、水平方向かつ前記ドーム部内壁に沿う方向に血液が流入するように設けられた流入口と、前記ドーム部の頂部に設けられた空気排出口と、前記フィルタ保持部に配置され血液中の異物を濾過するフィルタと、前記底部に設けられた血液の流出口とを備え、前記流入口から前記ドーム部に流入した血液が前記フィルタ保持部を通過して前記流出口から流出する。前記フィルタは、シート状濾材が複数のプリーツを形成して折り畳まれて、前記各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有し、前記ハウジングの内腔を前記ドーム部側と前記底部側とに仕切って配置されている。
本発明の血液フィルタ装置の製造方法は、上記構成の血液フィルタ装置を製造する方法である。まず、前記フィルタを、シート状濾材が複数のプリーツを形成して折り畳まれて、前記各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形に形成する。そして、前記ハウジングの前記フィルタ保持部の内腔に、前記フィルタを、前記外形の平坦面を水平方向に向けて配置し、前記フィルタ保持部の中央部を中心とする水平方向の遠心力を作用させながら、前記フィルタ保持部の内側壁と前記フィルタの外周部との間に樹脂を充填し硬化させて、前記樹脂により前記フィルタを前記フィルタ保持部の内側壁に固定する。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、本発明の一実施形態における血液フィルタ装置の正面図、図1Bはその平面図、図1Cはその断面図、
図2は、同血液フィルタ装置の上部における血液の流れを示す斜視図、
図3Aは、同血液フィルタ装置におけるフィルタ保持部の概略構成を示す斜視図、図3Bはその平面図、
図4Aは、同血液フィルタ装置を構成するハウジングの上半体を示す断面図、図4Bはその下面図、図4Cは図4BにおけるA−A線に沿った断面図、
図5Aは、同ハウジングの下半体を示す平面図、図5Bはその断面図、
図6は、本発明の一実施形態における血液フィルタ装置の製造方法を示す一部切り欠いて示した斜視図、
図7は、本発明の実施形態におけるフィルタ保持部の他の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の血液フィルタ装置においては、シート状濾材が複数のプリーツを形成して折り畳まれて、各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有するフィルタを、平板面方向を水平にして用いる。この構成によれば、フィルタの上下方向に障害物がないので、プライミング操作時にフィルタ面に残存した気泡を、ハウジングに物理的な衝撃を与えるだけで、容易に排除することが可能である。
上記の構成において、前記フィルタ保持部の内側壁と前記フィルタの外周部との間に樹脂が充填されて封止されるとともに、前記樹脂により前記フィルタが前記フィルタ保持部の内側壁に固定されている構造とすることができる。それにより、フィルタの固定、およびフィルタ保持部の内側壁とフィルタの外周部との間の封止を、確実に行うことができる。
好ましくは、前記ドーム部の高さhと前記ドーム部の前記フィルタ保持部側における内径rとの比h/rが、0.26〜1.06である。より好ましくは、前記比h/rが0.44〜0.91である。また、好ましくは、前記底部の深さdと、前記底部の前記フィルタ保持部側における内径rの比d/rが0.11〜0.30である。
また好ましくは、前記ドーム部の前記フィルタ保持部側における内径rが27〜33mm、前記ドーム部の高さhが7〜35mmである。それにより、気泡捕捉量を十分に確保可能となる。より好ましくは、前記ドーム部の高さhが12〜30mmである。さらに好ましくは、前記底部の深さdを3〜10mmとする。それにより、気泡除去性能および血液充填量のバランスが適切に設定される。あるいは、前記フィルタのプリーツ間隔を1.6〜3.7mm、プリーツ高さを5〜30mmとする。それにより、プライミング操作後の気泡除去が容易になる。
前記フィルタを、異物を濾過する機能を有する濾材のみにより形成することができる。また、前記フィルタ保持部は、水平方向における断面が円形である円柱状の内腔を有する構成とすることができる。また前記ドーム部の内面が、上方へ向かうほど外周長さが小さくなる形状を有する構成とすることができる。前記底部の内表面は、凹凸部分を有さない形状であることが好ましい。
本発明の血液フィルタ装置の製造方法においては、フィルタ保持部の内側壁とフィルタの外周部との間を、遠心力を作用させながらポッティングにより樹脂封止する。それにより、フィルタのプリーツを相互に接合する作用、フィルタのプリーツをフィルタ保持部に支持させる作用等、複数の作用を同時に得ることができ、製造工程が極めて効率的である。
この製造方法において、好ましくは、前記フィルタ保持部の内側壁に、前記フィルタの各プリーツの端部に対応させて配置された上下方向の保持リブを設け、前記フィルタを、前記フィルタ保持部の内腔に配置する際に、前記プリーツの端部を各々前記保持リブに挿入することにより、前記フィルタを前記フィルタ保持部の内側壁に暫定的に保持させる。
また好ましくは、前記ハウジングを、前記フィルタ保持部において上下半体に分割して形成し、前記上下半体のいずれか一方における前記フィルタ保持部の内腔に前記フィルタを配置し、前記上下半体の他方と合体させた後、前記樹脂の充填、および硬化の工程を行う。
以下、本発明の実施形態における血液フィルタ装置について、図面を参照しながら説明する。
図1Aは、血液フィルタ装置の正面図、図1Bはその平面図、図1Cはその断面図である。1は例えば樹脂製のハウジングであり、上部構造を形成するドーム部2、中央部構造を形成するフィルタ保持部3、および下部構造を形成する底部4を有する。ハウジング1の横断面の形状は円形である。
ドーム部2の側面部には流入口5が、水平方向かつドーム部2の内壁に沿う方向に血液が流入するように設けられている。ドーム部2の頂部には、気泡等の空気を排出するための空気排出口6が設けられている。底部4には、血液の流出口7が設けられている。流入口5からドーム部2に流入した液体は、フィルタ保持部3を通過して流出口7から流出する。底部4にはまた、支持部4aが形成されている。支持部4aは、このフィルタ装置を設置する際に用いられる部分であり、濾過機能には関係がない。
ドーム部1は、上方へ向かうにつれて、内径が次第に小さくなるような形状を有する。それにより、血液に混入している気泡が分離し易くなるとともに、分離した気泡がドーム部1の内周面に沿って上昇する。また、ドーム部1の横断面が円形で、流入口5が水平方向かつドーム部2の内壁に沿う方向に血液が流入するように設けられているので、流入口5から流入した血液が、内周面に沿って図2に実線で示すような旋回流となる。旋回流をなした血液流は次第に失速し、図2に破線で示すように、失速した部分から次第に下方へと流れ、フィルタ保持部3に流入する。ドーム部1の形状は、図1A等に示すような形状以外であっても、空気排出口6に向かって外径が次第に小さくなる形状であればよい。例えば円錐形状や、漏斗形状を用いることもできる。
フィルタ保持部3は、円筒形を形成している。フィルタ保持部3には、図1Cに示すように、血液中の異物を濾過するフィルタ8が配置されている。フィルタ8は、図3A、3Bに概念的に示すように、シート状メッシュからなる濾材が複数のプリーツ8aを形成して折り畳まれて、各プリーツ8aの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有する。フィルタ8は、ハウジング1の内腔をドーム部2側と底部4側とに仕切っている。各プリーツ8aは、フィルタ保持部3の弦方向に配向されている。図3Bにおけるプリーツ8aを示す太い実線は山部分を、細い実線は谷部分を、それぞれ示す。なお、図3A、3Bには、図示の便宜上、フィルタ保持部3が円筒形の独立した形態で示されているが、実際には、ドーム部2あるいは底部4と連続した形態に形成される。
フィルタ8が図3A、3Bに示すように配置された状態で、フィルタ保持部3の内側壁とフィルタ8の外周部との間に、例えばウレタン樹脂からなる封止樹脂9が充填されて封止されるとともに、封止樹脂9によりフィルタ8がフィルタ保持部3の内側壁に固定されている。フィルタ8をこのような形態で配置することで、図2に示した失速して下方へ流れ込んできた血液流が、漏れなくフィルタ8を通過する。そして、底部4にはフィルタリングされた血液のみが流入する。
また、プライミング操作時に充填液がフィルタ8を通過する際に残存する気泡は、指で底部4をはじく等の操作でフィルタ8に対して外部から上下方向の衝撃を加えることにより、容易にドーム部2上方の空気排出口6あるいは底部4の流出口7から排出される。すなわち、フィルタ8から分離した気泡は、上下方向に何ら障害物がないので、フィルタ8の他の部分に再度付着することなく、確実にドーム部2上方の空気排出口6あるいは底部4の流出口7に達し、排出される。
また本実施の形態におけるフィルタ装置においては、フィルタ8が、各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有する構造であることにより、次のような効果も得られる。すなわち、フィルタ8自体が形状を保持する力が強いので、濾材のメッシュのみで形成可能である。これに対して、従来の構造の場合、支持ネットをメッシュに重ね合わせることによりフィルタ8の形状を保持する必要があった。支持ネットを用いずにメッシュのみでフィルタ8を形成することにより、気泡除去が容易であり、また、血液流の圧力損失を低減することができる。
底部4は、フィルタ8の下部に所定の空間を形成している。それにより、フィルタ装置を通過する血液流の圧力損失を、実用上無視できる範囲まで低減することができる。底部4の内表面は、滑らかであると同時に、突起部分や窪み部分を有さない形状となっている。それにより、フィルタ保持部3を通過してきた血液流が、滞留することなく流出口7まで誘導され、フィルタ保持部3を通過後の血液に血栓等が生じることが抑制される。
流出口7は、図1Aに示すように底部4の最下部に配置すれば、血液の滞留部分が生じ難い。さらに、図1Bに示すように、底部4の中心に向かう方向を有するように形成してもよいし、底部4の側面に沿った方向を有するように形成してもよい。
なお、濾材としては、メッシュ状のもの、織布や不織布等、あるいはこれらの組合せ等を用いることができる。材質としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、フッ素繊維、あるいはステンレス等を用いることができる。
ハウジング1、特にドーム部2の横断面の形状は、血液の旋回流を生じさせる必要があることから、円形であることが好ましいが、楕円形等の他の形状を用いても、上述と同様の効果を得ることは可能である。本実施の形態においては、ドーム部2のフィルタ保持部3側における内径r(図1C参照)は、封止樹脂9の内径および底部4のフィルタ保持部3側における内径と同じであり、それらの境界においてハウジング1の内面に段差が生じないように構成されている。
また、本実施の形態の血液フィルタ装置によれば、上述の効果に加えて、濾過機能を実用上十分な範囲に維持しながら、従来の構成と比べてより小型化が可能となる。但し、そのためには、ハウジング1の内腔の形状に関するパラメータ、およびフィルタ8の形状に関するパラメータを、以下のとおりに規定することが望ましい。パラメータとしては、図1Cに示すドーム部2の内径r、ドーム部2の高さh、底部4の深さd、ドーム部2の高さhと内径rの比h/r、及び底部4の深さdと内径rの比d/rが規定される。
まず、比h/rは、0.26〜1.06であることが好ましい。0.26より小さいと、ドーム部2の内壁面の角度が水平に近すぎるため、気泡除去性能が不十分になる。0.61を超えると、ドーム部2の充填量が大きくなり過ぎる。より好ましくは、比h/rを0.44〜0.91とする。
比d/rは、0.11〜0.30であることが好ましい。0.11より小さいと、底部4の内壁面の角度が水平に近すぎるため、気泡除去性能が不十分になる。0.30を超えると、底部4の充填量が大きくなり過ぎる。
また、気泡捕捉量の観点から、ドーム部2の内径rは27〜33mm、ドーム部2の高さhは7〜35mmに規定される。この範囲に規定することにより、血液流量1.5L/minにおいて、実用的に要求される5mL以上の気泡捕捉量を得ることができる。より好ましくは、高さhは12〜30mmとする。気泡捕捉量は、測定用の液体をフィルタ装置を通過させた際に、フィルタ8により遮断されてドーム部2内に捕捉されて貯まる気泡の量として定義される。その測定方法については後述する。上述のようにパラメータを規定したときの気泡捕捉量に関する効果について、以下に詳述する。
まず、上記パラメータを規定する前提として、望ましいフィルタ膜面積について説明する。乳幼児用として使用される通常の血液フィルタは、実用上、最大の血液流量として1.5L/minが要求される。この血液流量において圧力損失を実用上無視できる範囲内に抑制するためには、濾材であるメッシュの実質開口部面積が8cm以上必要である。
一方メッシュは、20〜40μmの実質的に均等な大きさの孔が開いているものが用いられ、その開口率は、16%〜28%であることが望ましい。16%未満であると、血液流の圧力損失が大きくなり過ぎる。また28%を超えると、実用上要求される濾過能力である、40μm以上の異物・血栓等を除去する機能が得られない。このメッシュ開口率の範囲において、上述のとおり8cm以上の実質開口部面積を得るためには、メッシュ面積、すなわちフィルタ膜面積は、29cm〜50cmである必要がある。これに、使用条件の変動に対する1.5倍の安全率を考慮した場合、メッシュ面積(フィルタ膜面積)としては、44cm〜75cmが必要である。
このフィルタ膜面積の範囲内において、本実施の形態のフィルタ装置の構造を用いた場合に、実用的に十分な気泡捕捉量を得るためのパラメータについて実験的に検討した。血液流量1.5L/minにおいて5mL以上の気泡捕捉量を得るためのドーム部2の内径r、およびドーム部2の高さhの範囲を実験的に求めたところ、上述のとおり、内径rは27〜33mm、高さhは7〜20mmであった。
なお、気泡捕捉量は、次のようにして測定した。図1に示したフィルタ装置に、測定用液体として、クエン酸加牛血(37℃、Ht.35%T.P.6g/dL)を通過させた。Ht.はヘマトクリット値、T.P.は血漿総たんぱく濃度を示す。フィルタ装置に流入する前の測定用液体に注入速度2mL/minで気泡を注入した。流出口7から流出する測定用液体に含まれる気泡を観測しながら、40μm以上の気泡が検出されるまで測定用液体を流し続けた。40μm以上の気泡が検出された時点で、その時までにドーム部2内に貯まった気泡の量(大気圧での体積)を測定して、気泡捕捉量の値とした。
上述のフィルタ膜面積、およびドーム部2の内径r、および高さhの範囲内であれば、本実施の形態のフィルタ装置は、従来例の装置と比べて、半分程度の体積に小型化が可能である。
また、他のパラメータとしては、フィルタ装置内の血液充填量に関連して、底部4の深さdを3〜10mmの範囲にすることが望ましい。その理由は次のとおりである。まず、フィルタ装置を通過する血液の底部4の流出口7からの気泡の排出を容易にするためには、深さdは、3mm以上であることが必要である。また、充填量を乳幼児症例において求められる15mL以下にするためには、深さdは、10mm以下であることが必要である。
また、フィルタ8のプリーツに関するパラメータである、プリーツ間隔およびプリーツ高さは、気泡除去を容易にするために規定される。望ましくは、プリーツ間隔は1.6〜3.7mm、プリーツ高さは5〜30mmである。プリーツ間隔が1.6mm未満では、気泡の除去が困難になり、3.7mmを超えると、フィルタ膜面積の確保が困難になる。またプリーツ高さが、5mm未満ではフィルタ膜面積の確保が困難であり、30mmを超えると、フィルタ保持部3の体積もそれに応じて大きくなるため、血液充填量が増大する原因となる。
次に、本実施の形態におけるフィルタ装置の製造方法について、図4A〜4C、図5A、5B、および図6を参照して説明する。図4Aは、血液フィルタ装置を構成するハウジングの上半体1aを示す断面図、図4Bはその下面図、図4Cは図4BにおけるA−A線に沿った断面図である。図5Aは、ハウジングの下半体1bを示す断面図、図5Bはその平面図である。なお、図4Cにのみ、フィルタ8および封止樹脂9が図示されている。
基本的な構造は上述と同様であるが、これらの図には、フィルタ8を暫定的に支持するための構造である、保持リブ10(図4A〜4C参照)が示されている。ハウジングの上半体1aおよび下半体1bに各々、フィルタ保持部3を構成するための、保持部内筒3a、保持部外筒3bが形成されている。保持部内筒3aおよび保持部外筒3bにおいて上下半体1a、1bを嵌合させることにより、ハウジングが一体化される構造になっている。
保持リブ10は、図4A〜4Cに示すように、上半体1aに設けられている。保持リブ10は、保持部内筒3aの内周壁に、フィルタ8の各プリーツ8a(図3A参照)の端部に対応する溝を形成して配置されている。保持リブ10により形成された溝の深さは、保持リブ10の高さに対応する。
さらに、上半体1aにおける保持部内筒3aには、一対の切り欠き11aが形成されている。下半体1bの保持部外筒3bには、保持部内筒3aの一対の切り欠き11aに対応する位置に、貫通孔11bが形成されている。上下半体1a、1bを嵌合させたときには、切り欠き11aと貫通孔11bが連通して、保持部内外筒3a、3bの周壁を貫通する穴が形成される。この穴を設ける理由については後述する。
血液フィルタ装置の製造に際しては、まず、ハウジングの上下半体1a、1b、およびフィルタ8を上述のように形成する。次に図4Cに示すように、フィルタ8を、外形の平坦面を水平方向に向けて、ハウジングの上半体1aの保持部内筒3aの内腔に配置する。その際、フィルタ8の各プリーツの端部を、保持リブ10の間に挿入することにより、フィルタ8を保持部内筒3aの内側壁に暫定的に保持させる。
次に、上下半体1a、1bを保持部内外筒3a、3bにおいて嵌合させることにより、ハウジング1を一体化させる。
次に、図6に示すように、フィルタ8が収納されたハウジング1を、回転治具12内に設置する。回転治具12は、ハウジング1を支持する所定の形状を有する内腔12aを有する。回転治具12を回転させることにより、ハウジング1が共に回転する。回転治具12はまた、上部にウレタン樹脂等の封止樹脂が貯留された樹脂溜13を有し、樹脂溜13から保持部外筒3bの側面に至る樹脂供給路14が設けられている。保持部外筒3bの側面に供給された封止樹脂は、切り欠き11aと貫通孔11b(図4A〜C、図5A、B参照)を通って、保持部内筒3bの内腔に進入する。
回転治具12を回転させたとき、保持部内筒3aの軸心を中心とする水平方向の遠心力が作用する。それにより樹脂溜13から封止樹脂が溢れ、樹脂供給路14を通って保持部内筒3a内に供給され、保持部内筒3aの内側壁とフィルタ8の外周部との間に樹脂が充填される。充填された樹脂を硬化させることにより、図1Cに示したように、封止樹脂9によりフィルタ8を保持部内筒3aの内側壁に固定することができる。
以上のように、保持部内筒3aの内側壁とフィルタ8の外周部との間を、遠心力を作用させながらポッティングにより樹脂封止することにより、同時に次の6つの効果が得られる。
1)フィルタ8のプリーツの形状を保持する。
2)フィルタ8のプリーツをフィルタ保持部3に支持する。
3)保持リブ10を樹脂中に埋込む。
4)ハウジングの上下半体1a、1bを相互に接合する。
5)フィルタ保持部3内側壁とフィルタ8の外周部との間を封止する。
6)フィルタ保持部3とドーム部2あるいは底部4の境界における内壁面に段差のない流路断面を形成する。
したがって、この製造方法によれば、製造工程が極めて簡潔であり、製造コストの低減に効果的である。また、3)の作用によれば、気泡除去性能の向上に有利である。さらに、6)の作用によれば、ハウジングの内壁面が滑らかになり、血栓の発生防止および気泡除去性の向上に効果的である。
上述の製造工程において、フィルタ8を保持部内筒の内側壁に暫定的に保持させるためには、保持リブ10を設けることは必須ではない。また、他の構造を用いて、フィルタ8を保持部内筒3aの内側壁に暫定的に保持することも可能である。
なお、フィルタ8の折りたたみ方は、図3A、3Bのように、プリーツ8aの方向がフィルタ保持部3の弦方向に配向される形態とする以外にも、例えば図7に示すように折りたたんでもよい。すなわち、フィルタ15は、プリーツ15aの方向が、フィルタ保持部3の中心点から放射状に配向された形態である。プリーツ12aがこのような形状であっても、上述と同様の効果を得ることが可能である。
また、フィルタ8をプリーツ状に折りたたむことに限定されるものでもなく、例えば、波状に頂き部分と谷部分を有する形状で、図3A、3Bあるいは図7に示すようなフィルタを構成してもよい。
【産業上の利用の可能性】
本発明の血液フィルタ装置によれば、血液中の異物や血栓等を確実に排除することができるとともに、フィルタ上面に付着した気泡を、ハウジングを上下方向からたたく等の物理的な衝撃を与えるだけで、容易に排除することが可能である。


【図2】





【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造を形成するドーム部、中央部構造を形成するフィルタ保持部および下部構造を形成する底部を有するハウジングと、
前記ドーム部の側面部に、水平方向かつ前記ドーム部内壁に沿う方向に血液が流入するように設けられた流入口と、
前記ドーム部の頂部に設けられた空気排出口と、
前記フィルタ保持部に配置され血液中の異物を濾過するフィルタと、
前記底部に設けられた血液の流出口とを備え、
前記流入口から前記ドーム部に流入した血液が前記フィルタ保持部を通過して前記流出口から流出する血液フィルタ装置において、
前記フィルタは、シート状濾材が複数のプリーツを形成して折り畳まれて、前記各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形を有し、前記ハウジングの内腔を前記ドーム部側と前記底部側とに仕切って配置されていることを特徴とする血液フィルタ装置。
【請求項2】
前記フィルタ保持部の内側壁と前記フィルタの外周部との間に樹脂が充填されて封止されるとともに、前記樹脂により前記フィルタが前記フィルタ保持部の内側壁に固定されている請求項1に記載の血液フィルタ装置。
【請求項3】
前記ドーム部の高さhと前記ドーム部の前記フィルタ保持部側における内径rとの比h/rが、0.26〜1.06である請求項1または2に記載の血液フィルタ装置。
【請求項4】
前記比h/rが0.44〜0.91である請求項3に記載の血液フィルタ装置。
【請求項5】
前記底部の深さdと、前記底部の前記フィルタ保持部側における内径rの比d/rが0.11〜0.30である1または2に記載の血液フィルタ装置。
【請求項6】
前記ドーム部の前記フィルタ保持部側における内径rが27〜33mm、前記ドーム部の高さhが7〜35mmである請求項1または2に記載の血液フィルタ装置。
【請求項7】
前記ドーム部の高さhが12〜30mmである請求項6に記載の血液フィルタ装置。
【請求項8】
前記底部の深さdが3〜10mmである請求項6に記載の血液フィルタ装置。
【請求項9】
前記フィルタのプリーツ間隔が1.6〜3.7mm、プリーツ高さが5〜30mmである請求項6に記載の血液フィルタ装置。
【請求項10】
前記フィルタは、異物を濾過する機能を有する濾材のみにより形成されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液フィルタ装置。
【請求項11】
前記フィルタ保持部は、水平方向における断面が円形である円柱状の内腔を有する請求項1に記載の血液フィルタ装置。
【請求項12】
前記ドーム部の内面が、上方へ向かうほど外周長さが小さくなる形状を有する請求項1に記載の血液フィルタ装置。
【請求項13】
前記底部の内表面が凹凸部分を有さない形状である請求項1に記載の血液フィルタ装置。
【請求項14】
上部構造を形成するドーム部、中央部構造を形成するフィルタ保持部および下部構造を形成する底部を有するハウジングと、前記ドーム部の側面部に、水平方向かつ前記ドーム部内壁に沿う方向に血液が流入するように設けられた流入口と、前記ドーム部の頂部に設けられた空気排出口と、前記フィルタ保持部に配置され血液中の異物を濾過するフィルタと、前記底部に設けられた血液の流出口とを備え、前記流入口から前記ドーム部に流入した血液が前記フィルタ保持部を通過して前記流出口から流出する血液フィルタ装置を製造する方法において、
前記フィルタを、シート状濾材が複数のプリーツを形成して折り畳まれて、前記各プリーツの頂部の包絡面が平坦である全体として平板状の外形に形成し、
前記ハウジングの前記フィルタ保持部の内腔に、前記フィルタを、前記外形の平坦面を水平方向に向けて配置し、
前記フィルタ保持部の中央部を中心とする水平方向の遠心力を作用させながら、前記フィルタ保持部の内側壁と前記フィルタの外周部との間に樹脂を充填し硬化させて、前記樹脂により前記フィルタを前記フィルタ保持部の内側壁に固定することを特徴とする血液フィルタ装置の製造方法。
【請求項15】
前記フィルタ保持部の内側壁に、前記フィルタの各プリーツの端部に対応させて配置された上下方向の保持リブを設け、
前記フィルタを、前記フィルタ保持部の内腔に配置する際に、前記プリーツの端部を各々前記保持リブに挿入することにより、前記フィルタを前記フィルタ保持部の内側壁に暫定的に保持させる請求項11に記載の血液フィルタ装置の製造方法。
【請求項16】
前記ハウジングを、前記フィルタ保持部において上下半体に分割して形成し、
前記上下半体のいずれか一方における前記フィルタ保持部の内腔に前記フィルタを配置し、前記上下半体の他方と合体させた後、
前記樹脂の充填、および硬化の工程を行う請求項14または15に記載の血液フィルタ装置の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/084974
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504038(P2005−504038)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003835
【国際出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】