説明

血液供給装置

【課題】 拍動血流を常に供給し続けることができる血液供給装置を提供する。
【解決手段】 拍動により血液を断続的に送出する拍動ポンプ10と、拍動ポンプ10から送出された血液を一時的に貯留する液溜まり部20と、液溜まり部20から拍動ポンプ10への逆流を阻止する逆止弁23とを備え、拍動ポンプ10から液溜まり部20を経て体内に血液を供給する血液供給装置であって、液溜まり部20は、弾性により内容積が変化する可変チャンバー22を備えており、拍動ポンプ10の収縮期に導入される血液の一部を可変チャンバー22の拡張により貯留すると共に、拍動ポンプ10の拡張期に可変チャンバー22を弾性収縮させて貯留された血液を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液供給装置に関し、より詳しくは、心拍動下バイパス手術において好適に使用することができる血液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍動下バイパス手術(off pump CABG(coronary artery bypass graft))は、患者への負担や合併症のリスクが少ないことから、近年多くの症例で行われている。心拍動下バイパス手術において血液をバイパスさせるための装置として、例えば特許文献1に開示された装置が知られている。
【0003】
この装置は、所定の動脈血管から血液を抜き出す脱血手段と、抜き出された血液を送り出すポンプと、ポンプから送り出された血液を冠動脈の所定の部位に戻す灌流手段と、ポンプの拍出動作を制御するポンプ制御装置とを備えている。灌流手段は、冠動脈に挿入する挿入カテーテルと、挿入カテーテルよりも太く柔軟な送血チューブとを備えており、ポンプから血液が心拍と同期した脈流で送り出される。
【特許文献1】特開2001−61956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された装置は、送血チューブの弾性によって、挿入カテーテル内の血流が生理的脈流に類似したものとなり、拍動に合わせた血液の供給が可能である。
【0005】
ところが、送血チューブは、血液を貯留する機能を有していないため、ポンプの吸引時(拡張期)において、挿入カテーテルから心筋に血液を供給し続けることが困難であり、心筋に大きな負荷を与えるおそれがあった。また、このような理由から、術者には早期吻合が要求されており、心理面や作業面で大きな負担を与えていた。
【0006】
そこで、本発明は、拍動血流を常に供給し続けることができる血液供給装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、拍動により血液を断続的に送出する拍動ポンプと、前記拍動ポンプから送出された血液を一時的に貯留する液溜まり部と、前記液溜まり部から前記拍動ポンプへの逆流を阻止する逆止弁とを備え、前記拍動ポンプから前記液溜まり部を経て体内に血液を供給する血液供給装置であって、前記液溜まり部は、弾性により内容積が変化する可変チャンバーを備えており、前記拍動ポンプの収縮期に導入される血液の一部を前記可変チャンバーの拡張により貯留すると共に、前記拍動ポンプの拡張期に前記可変チャンバーを弾性収縮させて貯留された血液を排出する血液供給装置により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血液供給装置によれば、拍動血流を常に供給し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る血液供給装置の概略構成図である。図1に示す血液供給装置1は、拍動ポンプ10と、液溜まり部20とを備えており、拍動ポンプ10と液溜まり部20とが連結チューブ2により接続されている。拍動ポンプ10の上流側および液溜まり部20の下流側には、脱血チューブ3および送血チューブ4をそれぞれコネクタ等を介して着脱自在に接続することができ、大腿動脈から脱血チューブ3を介して抜き出した血液を、送血チューブ4から心臓(冠動脈)に供給することができる。
【0010】
拍動ポンプ10は、密閉されたケーシング11の内部に、弾性変形可能な材料からなる伸縮チューブ12が収容されて構成されている。伸縮チューブ12は、耐圧性、耐久性と共に、抗血栓性を有する薄膜チューブであることが好ましく、ウレタン樹脂(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)や、シリコン、ポリ塩化ビニル(PVC)などの材質を例示することができる。より詳細な具体例としては、内径が5mm、外径が5.4mmでショアD硬度が50のウレタン樹脂製チューブが挙げられる。
【0011】
ケーシング11の側壁には、ケーシング11の内外を連通する駆動チューブ13が接続されており、この駆動チューブ13を介して、ケーシング11の内壁面と伸縮チューブ12の外表面との間にヘリウムガスなどの駆動ガスを供給することができる。駆動ガスの供給は、例えば、大動脈内バルーンパンピング装置(IABP:intraaortic balloon pumping)を用いて行うことができ、心電図をモニターすることにより、心臓の動きに同期してケーシング11に供給する駆動ガスの圧力をコントロールする。すなわち、心臓の拡張期には、ケーシング11の内部を減圧して伸縮チューブ12を膨張させ、大腿動脈から伸縮チューブ12内に血液を導入する。そして、心臓の収縮期には、ケーシング11の内部を加圧して伸縮チューブ12を収縮させ、伸縮チューブ12内の血液を冠動脈に向けて排出する。こうして、心臓の収縮および拡張に合わせた拍動により、血液を断続的に供給することができる。伸縮チューブ12の両側には逆止弁15,16が設けられており、大腿動脈側から冠動脈側に向けた一方向の血流が確保される。
【0012】
拍動ポンプ10は、心臓の収縮および拡張に相当する血液の脈流を生じさせるものであればよく、ガス圧の調整により伸縮チューブの内容積を変化させる本実施形態の構成の他に、例えば、ローラーポンプやダイアフラムポンプなどを挙げることができる。更に、定常流ポンプと開閉弁との組み合わせにより拍動ポンプを構成することも可能であり、開閉弁の開閉制御により脈流を発生させて、拡張期および収縮期を生成することができる。
【0013】
液溜まり部20は、拍動ポンプ10の下流側に接続された連結チューブ2の先端に設けられており、可変チャンバー21と、この可変チャンバー21を覆う保護カバー22とを備えている。
【0014】
可変チャンバー21は、内外の圧力差により内容積が変化する弾性伸縮性を有する筒状の部材である。連結チューブ2や送血チューブ4は、軟質PVC等からなる市販の医療用チューブから構成されるのに対し、可変チャンバー21は、これよりも薄肉化したり柔軟性の高い材料を使用する等して、弾性変形による内容積の変化が生じ易い部材とすることが好ましい。例えば、可変チャンバー21は、液状シリコーンゴムをディッピングした、長さが5〜10cm程度の直管状のチューブから構成することができる。
【0015】
また、例えばショアD硬度が小さい(30〜70)素材でできたシリコーン樹脂製チューブで、長さが5cm〜30cm、肉厚0.25mm〜0.75mmから可変チャンバー21を構成することも可能である。可変チャンバー21の内容積変化を生じやすくするためには、可変チャンバー21の上流側流路に対して、下流側流路の流路径を絞ることも有効であり、例えば、上流側流路の流路径を3mm、下流側流路の流路径を1mmに設定することができる。
【0016】
可変チャンバー21の上流側には逆止弁23が設けられており、可変チャンバー21の内容積が収縮する際の拍動ポンプ10側への逆流を防止することができる。
【0017】
上記の構成を有する血液供給装置1によれば、拍動ポンプ10の作動により、拍動ポンプ10の収縮期に、液溜まり部20の可変チャンバー21に対して血液が供給されると、可変チャンバー21は、一部を下流側の送血チューブ4に向けて血液を流しながら余剰の血液により膨張して、内部に血液を貯留する。そして、拍動ポンプ10の拡張期に、拍動ポンプ10からの血液供給が途絶えると、可変チャンバー21は、貯留していた血液を弾性収縮により送血チューブ4に向けて供給する。
【0018】
このように、可変チャンバー21は、拍動ポンプ10の収縮期には、供給圧力の急激な上昇を抑制するためのバッファーとして機能する一方、拍動ポンプ10の拡張期には、血液を少量供給するための補助ポンプとして機能する。こうして、送血チューブ4から体内に供給される血液は、図2に示すように、拍出圧が常時プラスの状態で、拍動ポンプ10の収縮期a1と拡張期a2との間で周期的に変化する。この結果、心臓の拍動に合わせた脈流を生じさせつつ、血液を常時供給することができる。なお、拍動ポンプ10は拡張期に内部が陰圧となるが、可変チャンバー21の上流側に設けられた逆止弁23により、可変チャンバー21内の血液の逆流は防止される。本実施形態では、可変チャンバー21の逆止弁23の他に、拍動ポンプ10にも逆止弁15を備えており、可変チャンバー21の押し出し圧を搬送方向下流側に確実に向けることができる。但し、拍動ポンプ10と液溜まり部20との間に設ける逆止弁は、少なくとも1つあればよく、その位置は特に限定されるものではない。
【0019】
可変チャンバー21の内容積可変量は、拍動ポンプ10は拡張期にも血液供給を維持できるような血液貯留量を考慮して設定すればよい。具体的には、拍動ポンプ10の収縮時における可変チャンバー21の最大容積Aと、内外圧力差が生じない通常時の可変チャンバー21の容積Bとの比(A/B)が、1.2以上であることが好ましい。すなわち、少なくとも20%程度のバッファ能があれば、可変チャンバー21としての機能を確実に得ることができる。容積比(A/B)の上限は特にないが、通常は2〜3程度であり、実用的には4以下である。
【0020】
また、可変チャンバー21を保護カバー22で覆うことにより、可変チャンバー21の変形や損傷を防止して、可変チャンバー21の上記機能を確実に発揮させることができる。保護カバー22は、密閉構造であることが好ましく、可変チャンバー21が万一破損した場合でも、血液の流出を確実に防止することができる。但し、保護カバー22は、液溜まり部20に必須のものではない。
【0021】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されない。例えば、液溜まり部20を構成する可変チャンバー21は、本実施形態においては血流方向に沿って流路の断面積が一定となるように直管状に形成しているが、図3(a)に示すように、中央部cが両端部e,eよりも流路断面積が大きくなるように、側面視で外側に膨出した形状であってもよく、これによって、拍動ポンプ10の収縮期において、バッファーとしての機能を担保しつつ、十分な量の血液を可変チャンバー21内に確保することができる。一方、図3(b)に示すように、中央部cが両端部e,eよりも流路断面積が小さくなるように、側面視で内側に凹ませた形状とすることも可能であり、凹んだ中央部cが拍動ポンプ10の収縮期に凸状に反転してバッファーとして機能すると共に、拍動ポンプ10の拡張期には、凸状に膨張した中央部cが凹状に戻ろうとする力で血液を確実に供給することができる。このように、可変チャンバー21の流路断面積が血流方向に沿って変化するように構成することで、バッファー機能または血液供給機能をより高めることができる。
【0022】
また、液溜まり部20を構成する可変チャンバー21は、弾性により内容積が変化するものであればよく、例えば、蛇腹状の容器や、シリンダ内を摺動するピストンにより画定されたヘッド室が、空気圧やばね圧により拡張・収縮を行うように構成することもできる。
【0023】
また、連結チューブ2は、本発明に必須のものではなく、拍動ポンプ10の下流側に液溜まり部20を直接連結することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る血液供給装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す血液供給装置の作動を説明するための図である。
【図3】図1に示す血液供給装置の要部変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 血液供給装置
10 拍動ポンプ
20 液溜まり部
21 可変チャンバー
22 保護カバー
23 逆止弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
拍動により血液を断続的に送出する拍動ポンプと、前記拍動ポンプから送出された血液を一時的に貯留する液溜まり部と、前記液溜まり部から前記拍動ポンプへの逆流を阻止する逆止弁とを備え、前記拍動ポンプから前記液溜まり部を経て体内に血液を供給する血液供給装置であって、
前記液溜まり部は、弾性により内容積が変化する可変チャンバーを備えており、前記拍動ポンプの収縮期に導入される血液の一部を前記可変チャンバーの拡張により貯留すると共に、前記拍動ポンプの拡張期に前記可変チャンバーを弾性収縮させて貯留された血液を排出する血液供給装置。
【請求項2】
前記液溜まり部は、前記可変チャンバーを収容する保護カバーを更に備える請求項1に記載の血液供給装置。
【請求項3】
前記可変チャンバーは、血流方向に沿って流路の断面積が変化する請求項1または2に記載の血液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−148800(P2010−148800A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332369(P2008−332369)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【出願人】(509003818)株式会社マジェスティー・エンタープライズ (2)
【Fターム(参考)】