説明

血液凝固第VIII因子の活性化を促進する抗体

【課題】血液凝固第VIII因子の活性の低下、若しくは欠損により発症または進展する疾患、例えば、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病等の疾患を予防または治療するための新規な薬物を提供する。
【解決手段】活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体。該抗体は、血液凝固第VIII因子のA1酸性領域、及びA3酸性領域の両方を認識し因子に結合することにより、血液凝固第VIII因子の372位のArgでの開裂を促進し、336位のArgでの開裂を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体、及び、該抗体を利用した医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重度の先天的出血障害である血友病Aの個人において、欠乏しているか又は欠陥のある血漿蛋白質第VIII因子は、陰イオン性リン脂質表面依存性の、第IXa因子による第X因子から第Xa因子への変換に関与するテナーゼ因子複合体における補因子として機能する(非特許文献1)。第VIII因子は、この補因子を保護し、安定化させるVWF1との複合体として循環する(非特許文献2)。該因子は、2,332アミノ酸残基からなる分子量最大300kDaの、多ドメイン1本鎖分子(A1-A2-B-A3-C1-C2)として合成され(非特許文献3及び4)、B-A3連結における切断により一連の金属イオン依存性ヘテロダイマーへと分解され、A1、A2ドメイン及び部分的に蛋白質分解されたBドメイン異種性断片からなる重鎖、並びに重鎖と結合するA3、C1、及びC2ドメインからなる軽鎖を生じる(非特許文献3〜5)。
【0003】
第VIII因子は、トロンビン又は第Xa因子による限定された蛋白質分解により、活性型第VIIIa因子へ変換される(非特許文献6)。重鎖のArg372及びArg740における切断により、50kDaのA1サブユニット及び40kDaのA2サブユニットが生じる。一方、80kDaの軽鎖のArg1689における切断は、70kDaのA3-C1-C2サブユニットを生じさせる。突然変異解析、及び血友病Aデータベースの解析から、Arg372及びArg1689部位での蛋白質分解が、第VIIIa因子の補因子活性を生み出すのに必須である事が示唆された(非特許文献7)。前者の部位での切断は、非活性分子において潜在性であるA2ドメイン内の機能的な第IXa因子相互作用部位を露出させる(非特許文献8)のに対し、後者の部位での切断は、そのキャリアー蛋白質であるVWFから該補因子を解放し、補因子の全般的な特異的活性に寄与する(非特許文献9及び10)。
【0004】
活性化プロテインC(APC)、第Xa因子、第IXa因子、及びプラスミンを包含するセリンプロテアーゼは、A1ドメイン内のArg336での切断により第VIII(a)因子を不活化する。Arg336における切断による不活化は、A2サブユニットと切断型A1との変異した相互作用、及び基質X因子についてのKmの増加に係っている可能性がある。後者は、A1の337〜372位の残基内にあるX因子相互作用部位の損失を反映している。さらに、第Xa因子及びAPCは、それぞれLys36及びArg562の部位をも攻撃する。これらの部位における切断はA1の構造を変えるものと示唆されている。このA1の構造変化は、A2サブユニットとの生産的な相互作用を制限し、さらに、テナーゼ複合体における第VIIIa因子A2サブユニット及び第IXa因子分子との結合を損なう。
【0005】
第VIII因子インヒビターは、20〜30%の血友病Aの多輸血患者において同種抗体として生じる。また、元は正常であった個体においても、自己抗体を生じ得る。
【0006】
一般に、抗第VIII因子中和抗体として機能する大部分の第VIII因子インヒビター同種抗体及び自己抗体は、第VIII因子活性を減少させるか、又は消滅させる。この型の抗体による第VIII因子中和機序は、多くの研究者によって十分に分析されている。1つ又は複数のA2、C2、又はA3-C1エピトープを認識するこれらの抗体は、第VIII因子分子のいくつかの凝固因子、例えば、VWF(非特許文献12及び13)、リン脂質(非特許文献13及び14)、又は第IXa因子(非特許文献18及び19)への結合を妨害する。さらに、いくつかの抗体は、トロンビン(非特許文献14)又は第Xa因子(非特許文献15及び16)による第VIII因子の活性化を阻害する。一方、第VIII因子活性を中和する能力を欠く抗第VIII因子抗体(即ち、非中和抗体)の存在も報告されている(非特許文献20及び21)。この型の抗体は、正常又は血友病A患者においてELISAを使用することによってのみ確認する事ができる。しかしながら、非中和抗体の大部分が有意な機能をほとんど有さないと思われ、これらの認識エピトープは不明であった。
【0007】
さらに、活性型血液凝固第VIII因子のA2ドメインと結合することにより、第VIII因子を不活化する低密度リポタンパク質受容体タンパク質(low density lipoprotein receptor protein;LRP)と、第VIII因子との結合を阻害する抗体を、血友病A等の血液凝固疾患に用いることが提案されている(特許文献1)。また、第VIII因子とAPCとの反応を阻害する抗体の、血友病A患者からの発見が報告されている(非特許文献22)。しかしながら、これまでのところ、血液凝固第VIII因子の活性化を亢進するような機能を有する抗体は知られていない。
【特許文献1】国際特許第WO03/093313号公報
【非特許文献1】Mann K.G., Nesheim M.E., Church W.R., Haley P., and Krishnaswamy S. (1990) Blood 76, 1-16
【非特許文献2】Hoyer L.W. (1981) Blood 58, 1-13
【非特許文献3】Wood W.I., Capon D.J., Simonsen C.C., Eaton D.L., Gitschier J., Keyt B., Seeburg P.H., Smith D.H., Hollingshead P., Wion K.L., Delwart E., Tuddenham E.D.G., Vehar G.A., and Lawn R.M. (1984) Nature 312, 330-7
【非特許文献4】Vehar G.A., Keyt B., Eaton D., Rodriguez H., O'Brien D.P., Rotblat F., Oppermann H., Keck R., Wood W.I., Harkins R.N., Tuddenham E.G.D., Lawn R.M., and Capon D.J. (1984) Nature 312, 337-42
【非特許文献5】Fay P.J., Anderson M.T., Chavin S.I., and Marder V.J. (1986) Biochim.Biophys.Acta 871, 268-78
【非特許文献6】Eaton D., Rodriguez H., and Vehar G.A. (1986) Biochemistry 25, 505-12
【非特許文献7】Fay P.J. (2004) Blood Rev. 18, 1-15
【非特許文献8】Fay P.J., Mastri M., Koszelak M.E., and Wakabayashi H. (2001) J.Biol.Chem. 276, 12434-9
【非特許文献9】Lollar P., Hill-Eubanks D.C., and Parker C.G. (1988) J.Biol.Chem. 263, 10451-5
【非特許文献10】Regan L.M., and Fay P.J. (1995) J.Biol.Chem. 270, 8546-52
【非特許文献11】Shima M. (2006) Int.J.Hematol. 83, 109-18
【非特許文献12】Shima M., Nakai H., Scandella D., Tanaka I., Sawamoto Y., Kamisue S., Morichika S., Murakami T., and Yoshioka A. (1995) Br.J.Haematol. 91, 714-21
【非特許文献13】Shima M., Scandella D., Yoshioka A., Nakai H., Tanaka I., Kamisue S., Terada S., and Fukui H. (1993) Thromb.Haemostasis 67, 240-6
【非特許文献14】Scandella D., Gilbert G.E., Shima M., Nakai H., Eagleson C., Felch M., Prescott R., Rajalakshmi K.J., Hoyer L.W., and Saenko E. (1995) Blood 86, 1811-9
【非特許文献15】Nogami K., Shima M., Hosokawa K., Nagata M., Koide T., Saenko E.L., Tanaka I., Shibata M., and Yoshioka A. (2000) J.Biol.Chem. 275, 25774-80
【非特許文献16】Nogami K., Shima M., Hosokawa K., Suzuki T., Koide T., Saenko E.L., Scandella D., Shibata M., Kamisue S., Tanaka I., and Yoshioka A. (1999) J.Biol.Chem. 274, 31000-7
【非特許文献17】Nogami K., Shima M., Nishiya K., Sakurai Y., Tanaka I., Giddings J.C., Saenko E.L., and Yoshioka A. (2002) Thromb.Haemostasis 87, 459-65
【非特許文献18】Fay P.J., and Scandella D. (1999) J.Biol.Chem. 274, 29826-30
【非特許文献19】Zhong D., Saenko E.L., Shima M., Felch M., and Scandella D. (1998) Blood 92, 136-42
【非特許文献20】Batle J., Gomez E., Rendal E., Torea J., Loures E., Couselo M., Vila P., Sedano C., Tusell X., Magallon M., Quintana M., Gonzalez-Boullosa R., and Lopes-Fernandez M.F. (1996) Ann Hematol 72, 321-6
【非特許文献21】Blanco A.N., Peirano A.A., Grosso S.H., Gennari L.C., Bianco R.P., and Lazzari M.A. (2000) Haematologica 85, 1045-50
【非特許文献22】Nogami K., Shima M., Giddings J.C., Hosokawa K., Nagata M., Kamisue S., Suzuki H, Shibata M.,Saenko E.L., Tanaka I., and Yoshioka A. (2001) Blood 97, 669-77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血液凝固第VIII因子の活性の低下、若しくは欠損により発症または進展する疾患、例えば、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病等の疾患を予防または治療するのに有効な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意研究の結果、本発明者らは、第VIII因子の凝血促進性活性を約1.5倍まで増加させる抗第VIII因子モノクローナル抗体(moAb216と命名)を発見した。A1及びA3ドメインにおける酸性領域の両方の不連続エピトープを認識する本抗体は、無傷の第VIII因子の適切な構造のみに反応する。moAb216による第VIII因子補因子活性の増加は、A1/A3ドメインとmoAb216との相互作用により誘導された第VIII因子重鎖におけるArg372及び/又はArg336の切断の変化によることが、本発明者らにより示された。moAb216は、第VIII因子活性を増加させるだけでなく、第Xa因子及びトロンビンの両方の産生も同様の増加程度で増加させた。
【0010】
moAb216は、SDSにより変性させた第VIII因子、2-メルカプトエタノールによってジスルフィド結合を切断した第VIII因子、及び単離された第VIII因子のサブユニットとは、ほとんど反応しなかった。しかしながら、無傷(天然)の第VIII因子とは反応したことから、抗体が、第VIII因子の全体構造に依存して結合するものと考えられた。興味深いことに、moAb216は、EDTA処理することにより、金属イオンをキレート形成で取り除いた第VIII因子とは反応した。重鎖(A1ドメイン)及び軽鎖(A3ドメイン)が、金属イオン依存的(Fay (1988) Arch.Biochem.Biophys. 262: 525-30)及び非依存性(Ansong及びFay (2006) Biochemistry 44: 8850-7)の2種類の結合様式により結合して第VIII因子分子が構成されている。そのため、金属イオン非依存性の相互作用によってのみ結合された、EDTA処理した第VIII因子の高次構造は、無傷の第VIII因子に類似しているものと思われる。これは、重鎖及び軽鎖の金属イオン非依存性の相互作用を報告するAnsongらの蛍光エネルギー移動を用いた実験結果からも示唆されている(Ansong及びFay (2006) Biochemistry 44: 8850-7)。
【0011】
本発明のmoAb216は、A1及びA3ドメインに存在する少なくとも不連続の2つの酸性領域のエピトープを認識した。単離されたA1又は軽鎖サブユニットとは反応しないことから、両酸性領域内の配列、及びこれら二領域により形成される高次構造が、この抗体に重要であると思われる。第VIII因子のA1及びA3ドメインの両酸性領域が、極めて近接しているかまたはほとんど連続しているものと推定する事ができる。
【0012】
さらに、A1及びA3エピトープを認識する本発明のmoAb216は、無傷の第VIII因子(非活性型)と反応するが、第VIIIa因子(活性型)とは反応しない。第VIII因子分子が活性化されて第VIIIa因子へと変化する際に、構造変化を起こすことが、いくつかの報告において述べられている。例えば、物理的解析により円偏光二色性分光測定(CD)における劇的な変化(Curtis et al. (1994) J.Biol.Chem. 269: 6246-51)、及び露出された疎水性部位における変化(Sudhakar及びFay (1996) J.Biol.Chem. 271: 23015-21)が実証されている。さらに、第VIII因子の活性化は、A2サブユニット中の潜在性第IXa因子相互作用部位の露出、及び、それに続くA1-A2結合部での切断をもたらし、そして、単離されたA2サブユニットによる補因子活性は、A1サブユニットにより刺激される(非特許文献8)。moAb216が第VIIIa因子とは、反応しないという事実は、第VIII因子のA1及びA3ドメインの両酸性領域により構成される高次構造が、第VIIIa因子の構造と明らかに異なるものである事を示す。
【0013】
第VIII因子中、A1ドメインの延びた表面部分が、A3ドメインに、金属イオン依存性及び非依存性の相互作用を介して結合する(Ansong及びFay (2006) Biochemistry 44: 8850-7;Fay (1988) Arch.Biochem.Biophys. 262: 525-30)。最近になって、部位特異的突然変異誘発により製造された第VIII因子突然変異体の解析を通じて、第VIII因子活性の温度依存的不活化が、A1-A3ドメイン相互作用の不安定性に寄与する事が示された(Ansong及びFay (2006) Biochemistry 44: 8850-7)。moAb216は、熱変性による第VIII因子活性の減少を最大2倍まで遅らせ、抗体結合によりA1-A3ドメインの構造を保護したことが示唆された。これらの事実は、moAb216が、A1及びA3ドメインの両方と結合することを強く示唆する。そして、A1及びA3ドメイン内の両酸性領域が並置することが、第VIII因子の凝血促進性活性を生じるのに必要であり、A1及びA3ドメイン内の両酸性領域を認識する抗体が重要な役割を担うことが示唆される。
【0014】
moAb216による第VIII因子活性の増加は、トロンビン、第Xa因子、及びAPCによる、重鎖の蛋白質分解性切断の速度の変化に起因していた。moAb216と複合体を形成した第VIII因子では、第VIII因子の代表的な活性化因子であるトロンビン及び第Xa因子によるA1-A2ドメイン連結のArg372切断が加速し、一方、第VIII因子の代表的な不活化因子であるAPCによるA1ドメイン内のArg336切断は減速した。興味深いことに、A2-Bドメイン連結のArg740切断は、影響を受けなかった。そこで、moAb216と複合体を形成した第VIII因子分子の構造は、トロンビンまたは第Xa因子によってより迅速に切断されるように、そしてAPCによってよりゆっくりと切断されるように変化したものと推測することができる。しかしながら、moAb216と類似した作用を示す抗体については、現在までのところ報告されていない。
【0015】
本発明のmoAb216は、血友病A患者に対する新規な代償療法となることが期待される。例えば、該抗体は、第VIII因子活性を増加させ、A1-A3相互作用の安定性を持続させることから考え、moAb216と複合体形成した組換え第VIII因子濃縮物を静脈内投与することにより、組換え第VIII因子のみを投与した場合と比較して、高レベルで、且つ半減期がより長い第VIII因子活性を提供できるものと考えられる。このような抗体の利用により、投与する組換え第VIII因子濃縮物の総用量を低減することができる。さらに、moAb216による第VIII因子活性の増加効果は、抗第VIII因子インヒビターの存在下においても観察された。特に、抗A2インヒビターの存在は、抗体による第VIII因子活性の増加効果に、いかなる影響もほとんど及ぼさなかった。大部分の第VIII因子インヒビターが、A2及び/又はC2ドメインを認識することを考慮すると、moAb216が、同種抗原インヒビターを持つ先天性血友病A患者、又は自己抗原を持つ後天性血友病A患者に対しても新規な代償療法となり得る事を意味する。
【0016】
そこで、本発明は、具体的には以下の発明に関するものである。
(1)活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体。
(2)活性型血液凝固第VIII因子の産生促進が、血液凝固第VIII因子の372位のArgでの開裂促進である、上記(1)に記載の抗体。
(3)血液凝固第VIII因子のA1酸性領域及びA3酸性領域を認識する、上記(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)血液凝固第VIII因子のC2領域は認識しない、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体。
(5)さらに、血液凝固第VIII因子の不活化を抑制する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗体。
(6)活性型血液凝固第VIII因子の不活化抑制が、336位のArgでの開裂抑制である、上記(5)に記載の抗体。
(7)H鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:2、3、及び4からなる相補性決定領域若しくはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の抗体。
(8)アミノ酸配列が、配列番号:1であるH鎖可変領域、またはこれと機能的に同等なH鎖可変領域を有する、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の抗体。
(9)L鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:7、8、及び9からなる相補性決定領域若しくはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む、上記(1)〜(8)いずれかに記載の抗体。
(10)アミノ酸配列が、配列番号:6であるL鎖可変領域、またはこれと機能的に同等なL鎖可変領域を有する、上記(1)〜(9)いずれかに記載の抗体。
(11)上記(1)〜(10)から選択される少なくとも1種の抗体を有効成分として含有する医薬組成物。
(12)さらに、血液凝固第VIII因子と組合せて使用する、上記(11)に記載の医薬組成物。
(13)さらに、活性型血液凝固第VIII因子の不活化抑制作用を有する抗体を組合せて使用する、上記(11)又は(12) に記載の医薬組成物。
(14)出血、出血を伴う疾患、若しくは出血に起因する疾患の予防及び/又は治療に用いられる、上記(11)〜(13)いずれかに記載の医薬組成物。
(15)出血、出血を伴う疾患、若しくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患である、上記(14)に記載の医薬組成物。
(16)血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、血友病Aである、上記(15)に記載の医薬組成物。
(17)血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、後天性血友病である、上記(15)に記載の医薬組成物。
(18)血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、フォンビルブランド病である、上記(15)に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における抗体は、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進するものである。本発明における抗体は、抗体断片又は抗体修飾物であってもよい。抗体断片としては、ダイアボディ(diabody;Db)、線状抗体、一本鎖抗体(以下、scFvとも記載する)分子等が含まれる。ここで、「Fv」断片は、最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。「Fv」断片は、1つの重(H)鎖可変領域(VH)及び軽(L)鎖可変領域(VL)が、非共有結合により強く連結されたダイマー(VH-VLダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRにより、抗体の抗原結合部位が形成されている。しかしながら、1つの可変領域(又は、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低くなるが、抗原を認識し、結合する能力を有する。従って、そのような1つの可変領域若しくはCDRのみを含む断片、3つのCDRのみを含むFvの半分も、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する作用を保持する限り、本発明の抗体に含まれる。
【0018】
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、L鎖の定常領域及びH鎖の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域からの1又はそれ以上のシステインを含むH鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数残基を付加的に有する点でFab断片と異なっている。Fab'-SHとは、定常領域の1又はそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示すものである。F(ab')断片は、F(ab')2ペプシン消化物のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られており、本発明の抗体に包含される。
【0019】
ダイアボディは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中でL鎖可変領域(VL)及びH鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0020】
一本鎖抗体又はscFv抗体断片には、抗体のVH及びVL領域が含まれ、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVH及びVL領域の間にポリペプチドリンカーを含んでおり、これによりscFvは、抗原結合のために必要な構造を形成することができる(scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg and Moore ed (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994)を参照)。本発明におけるリンカーは、その両端に連結された抗体可変領域の発現、及び活性を阻害するものでなければ特に限定されない。
【0021】
さらに必要に応じ、本発明の抗体は、二種特異性抗体であってもよい。IgGタイプ二種特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681)。
【0022】
Fab’を化学的に架橋することによっても二種特異性抗体を作製し得る。例えば、一方の抗体から調製したFab’をo-PDM(ortho-phenylenedi-maleimide)にてマレイミド化し、これともう一方の抗体から調製したFab’を反応させることにより、異なる抗体由来Fab’同士を架橋させ二種特異性 F(ab’)2を作製することが出来る(Keler T et al. Cancer Research 1997, 57: 4008-4014)。また、Fab’-チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体とFab’-チオール(SH)等の抗体断片を化学的に結合する方法も知られている(Brennan M et al. Science 1985, 229: 81-83)。
【0023】
化学架橋の代りに、Fos、Jun等に由来するロイシンジッパーを用いることも出来る。Fos、 Junはホモダイマーも形成するが、ヘテロダイマーを優先的に形成することを利用する。Fosロイシンジッパーを付加したFab’とJunのそれを付加したもう一方のFab’を発現調製する。温和な条件で還元した単量体Fab’-Fos、 Fab’-Junを混合し反応させることによって二種特異性 F(ab’)2が形成できる(Kostelny SA et al. J of Immunology, 1992, 148: 1547-53)。この方法は、Fab’に限定されるものでなく、scFv、 Fv等を連結する際にも応用可能である。
【0024】
ダイアボディも、二種特異性を有するように作製し得る。二種特異性ダイアボディは、二つのcross-over scFv断片のヘテロダイマーである。つまり二種の抗体A,B由来のVHとVLを5残基前後の比較的短いリンカーで結ぶことによって作製されたVH(A)-VL(B), VH(B)-VL(A)を、ヘテロダイマーとして構成することに作製することが出来る(Holliger P et al. Proc of the National Academy of Sciences of the USA 1993, 90: 6444-6448)。
【0025】
この際、二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶ(一本鎖ダイアボディ:Kipriyanov SM et al. J of Molecular Biology. 1999, 293: 41-56)、適当なアミノ酸置換(knobs-into-holes: Zhu Z et al. Protein Science. 1997, 6: 781-788)を行うことによって目的の構成を促進させることも出来る。
【0026】
二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶことによって作製できるsc(Fv)2も二種特異性抗体となり得る(Mallender WD et al. J of Biological Chemistry, 1994, 269: 199-206)。
【0027】
さらに、本発明の抗体には、抗体修飾物が含まれる。抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されず、抗体を安定化するため、その結合能を高めるため等、様々な目的で修飾を行うことができる。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0028】
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体等、その由来は限定されない。またキメラ抗体、及びヒト化抗体等の遺伝子改変抗体であってもよい。
【0029】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0030】
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、例えば、キメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、及びL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖及びL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0031】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0032】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856)。また、様々なヒト抗体由来のフレームワーク領域に置換してもよい(国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
【0033】
本発明は、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体に関する。活性型血液凝固第VIII因子は、トロンビン又は第Xa因子により372位のアルギニン(Arg)で切断を受け、活性化される。そこで、本発明は、372位のArgの開裂を促進する抗体に関する。
【0034】
また、血液凝固第VIII因子は、APCによりA1ドメイン内の336位のArgが切断されることにより不活化される。そこで、本発明の抗体による活性型血液凝固第VIII因子産生の促進は、このような血液凝固第VIII因子の不活化の抑制により達成されても良い。従って、本発明の好ましい抗体の一つとして、血液凝固第VIII因子の336位のArg での開裂を抑制する抗体を挙げることができる。
【0035】
さらに、本発明により、A1及びA3の両ドメインの酸性領域を認識して結合する抗体が、上述の第VIII因子重鎖におけるArg372及び/又はArg336の切断を変化させることが示された。本発明の抗体によりもたらされた、このような活性化または不活化における切断の変化は、第VIII因子のC2領域とは無関係であった。そこで、本発明の好ましい抗体として、血液凝固第VIII因子のA1酸性領域及びA3酸性領域を認識する抗体、並びに、C2領域を認識しない抗体を挙げることができる。本発明の抗体を二重特異性抗体とする場合には、A1酸性領域とA3酸性領域を認識する抗体由来の二種特異性抗体が好ましい。
【0036】
本発明の抗体を得る方法は特に制限されず、どのような方法で取得されてもよい。例えば、免疫動物に対して抗原を免疫することにより調製することができる。免疫化する動物として、例えば、マウス、ハムスター、又はアカゲザル等を用いることができる。これら動物に対して、抗原を免疫化することは、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。
【0037】
動物を免疫する抗原としては、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を有さない不完全抗原(ハプテンを含む)が挙げられる。本発明においては、例えば、ヒト第VIII因子を上記抗原(免疫原)として使用する。ヒト第VIII因子は公知であり、公知の方法に基づいて精製された蛋白質を抗原として使用することができる。また、ヒト第VIII因子のアミノ酸配列も公知であることから(配列番号:11;GenBank Accession No. NP_000123)、その公知配列に基づいて該蛋白質またはその部分を遺伝子組換技術により製造して抗原として用いてもよい。免疫原とする因子は、該因子を構成する蛋白質全体、もしくは該蛋白質の部分ペプチドであってもよい。また、動物を免疫するのに用いる免疫原としては、場合により抗原となるものを他の分子に結合させ可溶性抗原とすることも可能であり、また、場合によりそれらの断片を用いてもよい。また、必要に応じ、該抗原を細胞表面上に発現する細胞を免疫原とすることもできる。このような細胞は、天然(腫瘍セルライン等)由来の細胞、又は、組換え技術により抗原分子を発現するように構成された細胞であってもよい。
【0038】
感作抗原による動物の免疫は、公知の方法に従って行われる。例えば、実施例に記載の方法を採用することができる。一般的な方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射することが挙げられる。具体的には、感作抗原をPBS、生理食塩水等の適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合、乳化した後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に、適当な担体を使用してもよい。このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の上昇した抗体レベルが確認された後、該哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付す。
【0039】
ここで、好ましい免疫細胞としては、特に脾臓細胞が挙げられる。一方、免疫細胞と融合する親細胞としては、通常、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。種々のミエローマ細胞株が公知であり、いずれのものを用いることもできる。例えば、P3(P3×63Ag8.653)(J.Immunol.(1979)123: 1548-50)、P3×63Ag8U.1(Curr.Topics Microbiol.Immunol.(1978)81: 1-7)、NS-1(Kohler及びMilstein,Eur.J.Immunol.(1976)6: 511-9)、MPC-11(Margulies et al.,Cell(1976)8: 405-15)、SP2/0(Shulman et al., Nature(1978)276: 269-70)、F0(deSt.Groth et al.,J.Immunol.Methods(1980)35: 1-21)、S194(Trowbridge,J.Exp.Med.(1978)148: 313-23)、R210(Galfre et al., Nature(1979)277: 131-3)等が好適に使用され得る。前記免疫細胞とミエローマ細胞との融合は、基本的には公知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインらの方法(Kohler及びMilstein,Methods Enzymol(1981)73: 3-46)等に準じて行うことができる。
【0040】
より具体的には、例えば、細胞融合は、細胞融合促進剤の存在下、通常の栄養培養液中で実施され得る。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され得、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加することもできる。免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、任意に設定することができる。例えば、一般には、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。細胞融合に用いる培養液としては、ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液等が例示されるが、その他、この腫の細胞培養に通常用いられる培養液を適宜使用することができる。さらに、ウシ胎児血清(FCS)等の血液補液を培養液に加えてもよい。免疫細胞を所定量のミエローマ細胞と培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば、平均分子量1000-6000程度)を通常30-60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって細胞融合を行い、目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成させる。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことにより、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。形成されたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液)で培養することにより選択することができる。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日から数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施することにより、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローニングを行う。
【0041】
また、上述のようにヒト以外の動物に抗原を免疫してハイブリドーマを得る代わりに、ヒトリンパ球をin vitroで抗原に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させ、所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原を投与して抗体産生細胞を取得して、これを不死化させ、所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを取得してもよい(国際特許第WO94/25585号公報、WO93/12227号公報、WO92/03918号公報、WO94/02602号公報等参照)。
【0042】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継体培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0043】
ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清としてモノクローナル抗体を得る方法が挙げられる。または、ハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、動物の腹水よりモノクローナル抗体を得る方法を採用してもよい。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、後者は、抗体の大量生産に適している。
【0044】
抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込み作製されたベクターを宿主に導入する遺伝子組み換え技術により、本発明の抗体を組換え型の抗体として作製することも可能である(例えば、Vandamme et al.,Eur.J.Biochem.(1990)192: 767-75参照)。具体的には、まず最初に、所望の抗体を産生するハイブリドーマから、可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin et al.,Biochemistry(1979)18: 5294-9)、AGPC法(Chomczynski et al.,Anal.Biochem.(1987)162: 156-9)等により、抗体を産生する脾臓細胞から全RNAを調製した後、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を使用して目的のmRNAを調製することができる。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)を用いることにより、mRNAのみを直接調製することもできる。次に、得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成及び増幅は、5’-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech)を用い、PCRを利用した5’-RACE法(Frohman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85: 8998-9002;Belyavsky et al.,Nucleic Acids Res(1989)17: 2919-32)等により行うことができる。例えば、可変領域付近に対応するプライマーを用いてRT-PCRにてL鎖、H鎖可変領域のcDNAを回収する。CDRに対応するプライマー、CDRよりも多様性の低いフレームワークに対応するプライマー、あるいはシグナル配列とCH1若しくはL鎖定常領域(CL)に対応するプライマーを用いることができる。続いて、得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAに連結することにより組換えベクターを作製し、該組換えベクターを大腸菌等の宿主に導入し、形質転換された細胞のコロニーを選択する。得られた細胞を培養することにより、所望の組換え抗体を製造することができる。必要に応じ、目的とする抗体をコードする遺伝子の塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチド法等により確認する。続いて、得られた目的とする抗体のV領域をコードするDNAを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。発現ベクターは、発現制御領域、例えば、エンハンサー及びプロモーターを含む、該領域の制御により本発明の抗体が発現されるように抗体DNAを発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、適当な宿主細胞を形質転換することにより、抗体を発現させ、所望の抗体を得る。
【0045】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、或いは、H鎖及びL鎖をコードするDNAが組み込まれた単一の発現ベクターにより宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523等参照)。
【0046】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラム等が挙げられる。
【0047】
本発明の活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する作用を有する抗体の選択は、例えば、実施例の「材料及び方法」の(3)凝固アッセイに記載されるように、抗体と第VIII因子をインキュベートして、第VIII因子の活性レベルを測定することにより行うことができる。
【0048】
本発明により、第VIII因子の凝結促進活性を約1.5倍まで増加させる抗第VIII因子モノクローナル抗体が得られた。当該抗体は、moAb216と名付けられ、その抗体は、H鎖及びL鎖の可変領域がそれぞれ、配列番号:1及び6からなる。当該抗体は、例えば、CL、、CHを含む単一のまたは別々の発現ベクターに可変領域を組み込み、当該発現ベクターを宿主細胞に導入して抗体を発現させることにより得ることができる。本発明は、これに限定される訳ではないが、好ましい抗体の一例としてmoAb216を挙げることができる。さらに、本発明の抗体は、当該抗体が認識する血液凝固第VIII因子の部位を認識する抗体を包含する。さらに、当該抗体と同一若しくは機能的に同等なアミノ酸配列からなる抗体も包含される。
【0049】
ここで、「機能的に同等」とは、対象となる抗体が本発明の抗体と同様の生物学的又は生化学的活性を有することを意味する。抗体の生物学的及び生化学的活性としては、例えば、結合活性、アゴニスト活性等を挙げることができる。即ち、対象となる抗体の、活性化血液凝固第VIII因子産生促進活性を測定することにより、本発明の抗体と機能的に同等であるかどうかを調べることができる。
【0050】
このような機能的に同等な抗体としては、例えば、moAb216と高い相同性を有する抗体が含まれる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。ポリペプチドの相同性を決定するためには、例えば、文献(Wilbur及びLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80: 726-30)等に記載のアルゴリズムを用いることができる。このような本発明の抗体と機能的に同等であり、且つ高い相同性を有する抗体は、例えば、本発明の抗体をコードするDNAの配列情報に基づいて作成されたプローブ又はプライマーを用いたハイブリダイゼーション又は遺伝子増幅等により得ることができる。ハイブリダイゼーション又は遺伝子増幅を行う対象試料としては、そのような抗体を発現していることが予想される細胞より構築されたcDNAライブラリーが挙げられる。
【0051】
本発明の抗体には、上述のようにして得られた抗体のアミノ酸配列を置換、欠失、付加及び/または挿入等により改変されたものも含まれる。アミノ酸配列の改変は、公知の方法により行うことができる。
【0052】
本発明の抗体として、特にこれに制限されるものではないが、moAb216のいずれかの可変領域を含む抗体を挙げることができる。抗原への特異性にはL鎖よりもH鎖のほうが重要であり、このことは、例えば、Nature Biotechnology, vol.16, 677,1998に、様々な抗原に対する抗体のL鎖が同一であることが示されていることからも明らかであることから、好ましくは、H鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:2、3、及び4からなる相補性決定領域、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む抗体が、本発明の抗体として挙げられる。より好ましくは、可変領域のアミノ酸配列が配列番号:1であるH鎖、又はこれと機能的に同等なH鎖を有する抗体を挙げることができる。moAb216のL鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号7、8及び9であった。そこで、本発明の抗体として、L鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:7、8、及び9からなる相補性決定領域、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む抗体が挙げられる。より好ましくは、可変領域のアミノ酸配列が配列番号:6であるL鎖、又はこれと機能的に同等なL鎖を有する抗体を挙げることができる。
【0053】
本発明の抗体は、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進するものであることから、出血、出血を伴う疾患、または、出血に起因する疾患に対し有効な薬剤となることが期待される。
【0054】
第VIII因子/第VIIIa因子(以下、「F.VIII/F.VIIIa」)、第IX因子/第IXa因子、第XI因子/第XIa因子の機能低下や欠損は、血友病と呼ばれる出血異常症を引き起こすことで知られる。血友病のうち、先天性なF.VIII/F.VIIIa機能低下または欠損による出血異常症は、血友病Aと呼ばれる。血友病A患者が出血した場合、F.VIII製剤の補充療法が行われる。また、激しい運動や遠足の当日、頻回に関節内出血を来たす場合、あるいは重症血友病に分類される場合には、F.VIII製剤の予防投与が行われることがある(非特許文献2および3参照)。このF.VIII製剤の予防投与は、血友病A患者の出血エピソードを激減させるため、近年、大きく普及しつつある。出血エピソードを減らすことは、致死性及び非致死性の出血の危険及びそれに伴う苦痛を低下させるだけでなく、頻回の関節内出血に起因する血友病性関節障害を未然に防ぐ。その結果、血友病A患者のQOL向上に大きく寄与する。
【0055】
F.VIII製剤の血中半減期は短く、約12 〜 16時間程度である。それ故、継続的な予防のためには、F.VIII製剤を週に3回程度投与する必要がある。これは、F.VIII活性として、概ね1%以上を維持することに相当する(非特許文献4および5参照)。また、出血時の補充療法においても、出血が軽度な場合を除き、再出血を防ぎ、完全な止血を行うため、一定期間、F.VIII製剤を定期的に追加投与する必要がある。
【0056】
また、F.VIII製剤は、静脈内に投与される。静脈内投与実施には、技術的な困難さが存在する。特に年少の患者に対する投与においては、投与に用いられる静脈が細い故、困難さが一層増す。
【0057】
前述の、F.VIII製剤の予防投与や、出血の際の緊急投与においては、多くの場合、家庭療法・自己注射が用いられる。頻回投与の必要性と、投与の際の技術的困難さは、投与に際し患者に苦痛を与えるだけでなく、家庭療法・自己注射の普及を妨げる要因となっている。従って、現存の血液凝固第VIII因子製剤に比し、投与間隔が広い薬剤、あるいは投与が簡単な薬剤が、強く求められていた。
【0058】
さらに、血友病A患者、特に重症血友病A患者には、インヒビターと呼ばれるF.VIIIに対する抗体が発生する場合がある。インヒビターが発生すると、F.VIII製剤の効果がインヒビターにより妨げられる。その結果、患者に対する止血管理が非常に困難になる。
【0059】
このような血友病Aインヒビター患者が出血を来たした場合は、通常、大量のF.VIII製剤を用いる中和療法か、複合体製剤(complex concentrate)あるいはF.VIIa製剤を用いるバイパス療法が、実施される。しかしながら、中和療法では、大量のF.VIII製剤の投与が、逆に、インヒビター(抗F.VIII抗体)力価を上げてしまう場合がある。また、バイパス療法では、複合体製剤やF.VIIa製剤の短血中半減期(約2 〜 8時間)が問題となっている。その上、それらの作用機序が、F.VIII/F.VIIIaの機能、すなわちF.IXaによるF.X活性化を触媒する機能に非依存であるため、場合によっては、止血機構をうまく機能させられず、不応答になってしまうケースがある。そのため、血友病Aインヒビター患者では、非インヒビター血友病A患者に比し、十分な止血効果を得られない場合が多いのである。従って、インヒビターの存在に左右されず、且つF.VIII/F.VIIIaの機能を代替する薬剤が、強く求められていた。
【0060】
ところで、F.VIII/F.VIIIaに関係する出血異常症として、血友病、抗F.VIII自己抗体を有する後天性血友病のほかに、vWFの機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病が知られている。vWFは、血小板が、血管壁の損傷部位の内皮下組織に正常に粘着するのに必要であるだけでなく、F.VIIIと複合体を形成し、血漿中F.VIIIレベルを正常に保つのにも必要である。フォンビルブランド病患者では、これらの機能が低下し、止血機能異常を来たしている。
【0061】
さて、(i)投与間隔が広く、(ii)投与が簡単であり、(iii)インヒビターの存在に左右されず、(iv) F.VIII/F.VIIIa非依存的にその機能を代替する医薬品の創製には、抗体を利用する方法が考えられる。抗体の血中半減期は、一般に、比較的長く、数日から数週間である。また、抗体は、一般に、皮下投与後に血中に移行することが知られている。すなわち、抗体医薬品は、上記の(i)、(ii)を満たしている。さらに、本発明の抗体は、抗A2インヒビターの存在により、殆ど影響を受けなかった点から上記(iii)の点でも満足のいくものと考えられる。
【0062】
本発明は、本発明の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明の抗体を含む医薬組成物は、出血、出血を伴う疾患、または、出血に起因する疾患、特に、血友病A、後天性血友病、及びフォンビルブランド病に対して有効であると期待される。
【0063】
治療または予防目的で使用される本発明の抗体を有効成分として含む医薬組成物は、必要に応じて、それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物は、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体を、互いの機能が阻害されない限り、二種類以上含んでいても良い。さらに、必要に応じ、本発明の抗体は、血液凝固第VIII因子と組み合わせて使用してもよい。例えば、従来、出血の治療等に使用されている第VIII因子等を使用することができる。その他、必要に応じ、他の活性型血液凝固第VIII因子の不活化を抑制する抗体を組み合わせ使用してもよい。このような第VIII因子不活化抑制抗体としては、当該因子とLRPの結合を阻害して、その分解を抑制する抗体(特許文献1)、及びAPCによる当該因子の不活化を抑制する抗体(非特許文献1)を例示することができる。
【0065】
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0066】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、疾患の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、一般に大人では、1日当たり、0.1〜2000mgを1〜数回に分けて経口投与することができる。より好ましくは1〜1000mg/日、更により好ましくは50〜500mg/日、最も好ましくは100〜300mg/日である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0067】
また、本発明の抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクター、ポックスウィルスベクター、アデノウィルス関連ベクター、HVJベクター等の各種ウイするベクターとして形成するか(Adolph『ウィルスゲノム法』, CRC Press, Florid (1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入または筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、点鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウィルス感染を利用して血液細胞及び骨髄由来細胞等に投与して、該細胞を動物に再導入することにより本発明の抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。
【0068】
また本発明は、本発明の抗体もしくは組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療するための方法を提供する。抗体もしくは組成物の投与は、例えば、前記の方法により実施することができる。
【0069】
また本発明は、本発明の抗体の、本発明の(医薬)組成物の製造のための使用に関する。
【0070】
さらに本発明は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【実施例】
【0071】
1.材料及び方法
(1)試薬
精製された組換え第VIII因子調製物(Kogenate FS(登録商標))及び第VIII/VWF因子濃縮物(Confact F(登録商標))はそれぞれ、Bayer Corp.(Berkeley, CA)及びChemo-Sero-Therapeutic Research Inc.(Kumamoto, Japan)の好意により贈与された。第VIII因子の軽鎖及び重鎖は、EDTA処理した第VIII因子から単離した後、SP-及びQ-セファロースカラムを用いたクロマトグラフィー(Amersham Bio-Science, Uppsala, Sweden)に付した(非特許文献8)。A2及びA1サブユニットは、それぞれHi-Trapヘパリンカラム及びMono-Qカラムクロマトグラフィを用い、トロンビンにより切断された重鎖から単離した(Nogami et al., (2003) J.Biol.Chem. 278: 1634-41)。第VIIIa因子は、トロンビンにより切断された第VIII因子から単離され、その後CM-セファロースクロマトグラフィ(Amersham Bio-Science)を行った(O'Brien et al., (2000) Blood 95: 1714-20)。単離したサブユニットをSDS-PAGEにかけた後、GelCode Blue染色試薬(Pierce, Rockford, IL)により染色したところ、>95%の純度を示した。蛋白質濃度は、Bradford法により決定した。VWFは、セファロースCL-4Bカラム(Amersham Bio-Science)におけるゲル濾過を用いて、既報に基づき、第VIII/VWF因子濃縮物から精製した(Shima et al., (1992) Br.J.Haematol. 81: 533-8)。残った第VIII因子は、第VIII因子のA3ドメインを認識するイムノビーズに固定化されたモノクローナル抗体を使用して除去した。第VIII因子検出のための酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は、VWFが>95%の純度で精製されていることを示した。ヒトα-トロンビン(Sigma, St Louis, MO)、第Xa因子、及び組換え組織因子(American Diagnostica Inc., Greenwich, CT)、並びに、第IXa因子、第X因子、APC、及びプロテインS(Hematologic Technologies, Burlington, VT)は、各供給業者より購入した。トロンビンに特異的な蛍光発生基質であるZ-Gly-Gly-Arg-AMC(Bachem, Bubendorf, Switzerland)及び色素産生性の第Xa因子基質S-2222(Chromogenix, Milano, Italy)を、各供給業者より購入した。10%のフォスファチジルセリン、60%のフォスファチジルコリン、及び30%のフォスファチジルエタノールアミン(Sigma)を含有するリン脂質小胞は、N-オクチルグルコシドを使用して調製した(Mimms et al., (1981) Biochemistry 20: 833-40)。
【0072】
(2)抗体
モノクローナル抗第VIII因子抗体(moAb216)を、標準的なハイブリドーマ法により作製した。具体的には、ヒト第VIII因子(Kogenate FS(登録商標))を免疫したマウスから脾臓細胞を単離し、ネズミ骨髄腫P3U1細胞と融合させた。融合細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン選択培地中で培養した。細胞の各アリコートの培地上清を、ELISAに付し、第VIII因子結合活性を検出した。結合物質(binder)を分泌するハイブリドーマ細胞を限定的希釈によって選択し、クローニングした。限定的希釈を2回繰り返し、モノクローンである事を確認した。確立されたハイブリドーマクローンの各培地上清から、G蛋白質セファロースカラム(Amersham Bio-Science)を用いて、一連の抗第VIII因子モノクローナル抗体を精製した。その後、抗体の凝固効果を、標準的なヒトの血漿の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)により試験した。一連の抗体のうち、moAb216が、APTTを短縮することが見出された。Isostrip(登録商標)(Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)により、moAb216のサブクラスが、マウスIgG2bκであることが判明した。
【0073】
A1ドメインのC末端を認識するC5(Foster et al., (1988) J.Clin.Investig. 82: 123-8)及びA2ドメインを認識する413(Fay et al., (2001) J.Biol.Chem. 276: 12434-9)の2つのモノクローナル抗体は、それぞれCarol Fulcher博士(Scripps Clinic Research Institute, La Jolla, CA)及びEvgueni Saenko博士(University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD)の好意により贈与された。C2ドメインを認識するモノクローナル抗体NMC-VIII/5は、既報に従って精製した(非特許文献13)。A3ドメイン及びA2ドメインのN末端をそれぞれ認識する2つのモノクローナル抗体JR5及びJR8は、JR Scientific Inc.(Woodland, CA)より入手した。IgGのビオチン化は、N-ヒドロキシスクシンイミド-ビオチン(Pierce)を使用して行った。
【0074】
(3)凝固アッセイ
第VIII因子活性のレベルを、第VIII因子欠乏血漿(Sysmex, Kobe, Japan)を使用した凝固一段法により測定した(Casillas et al., (1971) Coagulation 4: 107-11)。トロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子の活性化または不活化は既報に従って実施した(非特許文献15及び16)。第VIII因子(100nM)を、様々な濃度のmoAb216と一緒に37℃で1時間プレインキュベートし、緩衝液(20mM HEPES、pH7.2、100mM NaCl、5mM CaCl2、0.01% Tween 20)中、トロンビン(1nM)、第Xa因子(10nM)、又はAPC(40nM)とプロテインS(50nM)と共に、37℃で反応させた。第Xa因子又はAPCとの反応は、10μMリン脂質の存在下で行った。各指定の時間点において、試料を混合物から採取し、氷上で5,000倍希釈することにより、各試料の酵素反応を直ちに終了させた。希釈試料中のトロンビン、第Xa因子、又はAPCの存在は、第VIII因子活性に対して影響を及ぼさない事が凝固アッセイにより示された。機能安定性アッセイのため、第VIII因子(0.4nM)又は正常血漿を、55℃でインキュベートした。各指定の時間点において、試料を採取し、各試料の第VIII因子活性を測定した。
【0075】
(4)トロンビン産生アッセイ
軽微な変更を加えた以外は、既報に従ってトロンビン産生アッセイを行った(Hemker et al. (2003) Pathophysiol.Haemost.Thromb. 33: 4-15)。様々な濃度のmoAb216とプレインキュベートした第VIII因子(0.05nM)を、リン脂質小胞(8μM)及び組織因子(3.3pM)の存在下、第VIII因子欠乏血漿(George King Biomedicdal Inc. Overland Park, KS)と混合した。CaCl2の試料への添加により反応を開始し、続いてトロンビン産生の割合を蛍光発生トロンビン特異的基質を用いて決定した。反応物を390nmで励起し、発光スペクトルを、Fluoroskan Ascentマイクロプレートリーダー(Thermo Electron Corp., Waltham, MA)を使用して460nmでモニターした。各読み取り値から、蛍光強度の発現の割合を計算し、血漿試料に換えて精製トロンビンを添加して測定した基質の変換の割合を基に作成した基準曲線を用いて、トロンビンの等価濃度(nM)に変換した。
【0076】
(5)第Xa因子産生アッセイ
第X因子の第Xa因子への変換の割合を精製系においてモニターした(Lollar et al. (1993) Methods Enzymol. 222: 128-43)。反応は、22℃で行った。様々な濃度のmoAb216と反応させた第VIII因子(30nM)を、リン脂質小胞(10μM)の存在下において、トロンビン(10nM)の添加により活性化した。トロンビン活性をヒルジンの添加により1分後に阻害し、第Xa因子産生反応を第IXa因子(0.5nM)及び第X因子(200nM)の添加により開始させた。アリコートを適切な時間に採取し、EDTA(最終濃度50mM)の入ったチューブに加えて反応を停止させ、産物形成の初速度を測定した。第Xa因子産生の割合は、色素産生基質S-2222(最終濃度0.46mM)の添加により決定した。反応は、Labsystems Multiskan Multisoft マイクロプレートリーダー(Labsystems, Helsinki, Finland)を使用して405nmで読み取った。
【0077】
(6)ELISAによるmoAb216の結合阻害効果測定
マイクロタイターウェルを、20mM Tris、150mM NaCl、pH7.4(TBS)中に溶解した第VIII因子(8nM)を用いて、4℃で一晩コーティングした。5%のHSAにより37℃で2時間ブロッキングした後、様々な濃度の抗第VIII因子モノクローナル抗体(C5、JR8、413、JR5及びNMC-VIII/5)並びにビオチン化moAb216(20μg/ml)の混合物をコーティングしたウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。ビオチン化moAb216の第VIII因子への結合は、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼを使用して検出した。ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼの定量は、基質o-フェニレンジアミンジヒドロクロリド(Sigma)の添加後に決定した。反応は、2M H2SO4を添加することにより終結させ、吸光度をマイクロタイターリーダーを使用して492nmで測定した。第VIII因子サブユニットの非存在下で観察したビオチン化IgGの非特異的な結合の量は、総シグナルの5%未満であり、特異的結合量を、ビオチン化IgGの非特異的結合量を差し引くことにより決定した。
【0078】
(7)ELISAによる第VIII因子のVWF又はリン脂質への結合測定
軽微な改変を加えた以外は、既報に従って第VIII因子のVWF又はリン脂質への結合測定を行った(非特許文献13)。マイクロタイタープレートの各ウェルに、TBS緩衝液に溶解したVWF(5nM)又はメタノールに溶解したリン脂質小胞(40nM)をそれぞれ4℃で一晩固定した。5%HSAによるブロッキング後、様々な濃度のmoAb216と共にプレインキュベートした5nM又は40nMの第VIII因子を、VWF又はリン脂質をコーティングしたウェルに添加し、それぞれ37℃で2時間インキュベートした。結合した第VIII因子を、ビオチン化JR8を用いて吸光度492nmで検出した。
【0079】
(8)電気泳動及びウェスタンブロッティング
Laemmliの方法(Laemmli U.K. (1970) Nature 227: 680-5)により、Bio-Rad mini transblot装置を使用して、8%ゲル上でのSDS-PAGEを150V、1時間の条件で行った。ウェスタンブロッティングのために、Bio-Rad miniゲル装置を使用して、50V、2時間の条件で、10mM CAPS及び10%(v/v)メタノールを含む緩衝液(pH11)中で電気泳動された蛋白質をポリビニリデンジフルオリド膜に移した。蛋白質は、指定のモノクローナル抗体に続いて抗マウスペルオキシダーゼ結合二次抗体を使用して検出した。シグナルは、高感度化学発光システム(PerkinElmer Life Science, Boston, MA)を用いて検出した。濃度測定スキャンは、Image J 1.34(National Institute of Health, USA)により定量化した。
【0080】
(9)ドットブロッティング
緩衝液(20mM HEPES, pH7.2, 100mM NaCl, 5mM CaCl2, 0.01% Tween 20)に溶解した蛋白質(約200nM)をポリビニリデンジフルオリド膜に滴下し、モノクローナル抗体(moAb216)に続いて抗マウスペルオキシダーゼ結合二次抗体を用いて検出した。シグナルは高感度化学発光システムを使用して検出し、ブロットをフィルムに曝した。
【0081】
(10)データ解析
全ての実験を独立して少なくとも3回実施して得られた平均値を示す。様々なパラメータのデータを対応あるt検定により比較、分析した。p<0.05を有意差の臨界とした。非線形最小二乗回帰分析をKaleidagrapgh(Synergy Reading, PA)により実施し、パラメータ及びその標準誤差を得た。APCにより不活化される第VIII因子の速度定数(k)、又はmoAb216存在下での分子内安定性の分析は、下記式1を用いて決定した:
[第VIII因子]t = [第VIII因子]0・e(-10-C×t) (式1)
式中、[第VIII因子]t又は[第VIII因子]0は、それぞれ時点(t)又は最初の時点での第VIII因子の濃度を表し、tは時間、Cは-logk、kは速度定数を示す。
【0082】
第VIII因子に対するトロンビン又は第Xa因子の触媒効果を評価するために、本発明者らは、生じた第VIII因子活性の値に基づいて活性化速度定数を計算した。切断事象及び産物の放出が、十分に迅速であると仮定した場合、遊離トロンビン又は第Xa因子の濃度は一定であるはずである。従って、下記図式1に示すよう、速度定数は基質濃度と相関する:
【数1】

図式中、第VIIIa因子及び第VIIIi因子は、それぞれ活性化した第VIII因子及び不活化した第VIIIa因子を表す。図式1における見かけの速度定数(k1及びk2)は、トロンビン又は第Xa因子による第VIII因子の活性化の一連の反応に基づき、既報に従って、下記式2を用いた非線形回帰により評価した(Nogami et al. (2004) J.Biol.Chem. 279: 15763-71):
[第VIIIa因子]t = [第VIII因子]0・k1・(e-k1t-e-k2t)/(k2-k1) (式2)
式中[第VIIIa因子]tは、第VIIIa因子の時点(t)での濃度、[第VIII因子]0は、第VIII因子の初濃度を表す。
【0083】
t1/2 = 10c×ln(2) (式3)
式中、t1/2は指数関数的崩壊の半減期を示し、Cは式1で定義した通りである。半減期(t1/2)値は、式3を使用して得た。
【0084】
(11) モノクローナル抗第VIII因子抗体(moAb216)可変領域の配列解析
1.H鎖、L鎖可変領域の決定
モノクローナル抗第VIII因子抗体(moAb216)のH鎖、L鎖可変領域遺伝子は、moAb216を産生するハイブリドーマより抽出したTotal RNAを用いて、RT-PCR法によって増幅した。Total RNAは、RNeasy Mini Kits(QIAGEN社製)を用いて1×10細胞のハイブリドーマより抽出した。1.75μgのTotal RNAを使用して、SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社製)、マウスIgG2b定常領域配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドMHC-IgG2b(配列番号:12)またはマウスκ鎖定常領域塩基配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドMHC-kappa(配列番号:13)を用い、5’末端側遺伝子断片を増幅した。逆転写反応は42℃で1時間30分間反応した。PCR溶液50μLは、10μLの5×PCR Buffer、4μLのdNTP Mixture(2.5mM each dATP,dGTP,dCTP,dTTP)、1μLのPrime Star(以上、TaKaRa社製)、5μLの10×Universal Primer A Mix(CLONTECH社製)2.5μLの逆転写反応産物、10pmoleの合成オリゴヌクレオチドMHC-IgG2bまたはkappaを含有し、98℃の初期温度にて2minそして98℃にて10秒間、60℃にて5sec,72℃にて1minのサイクルを30回反復し、最後に反応産物を72℃で10分間加熱した。各PCR産物はQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、アガロースゲルから精製した後、増幅断片の末端にAを付加するためr-Taq処理をおこなった。2μL の10×rTaq Buffer、1μLのdNTP Mixture(2.5mM each dATP,dGTP,dCTP,dTTP)、1μLのr-Taq、5μLの増幅断片を含有するr-Taq反応溶液10μLを72℃で30minの保温処理を行った。r-Taq処理した断片をpCR2.1-TOPO vector(Invitrogen社製)へクローニングし、塩基配列を決定した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator 3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3730xL Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。

配列番号:12 (MHC-IgG2b)
CAGGG GCCAG TGGAT AGACT GATG
配列番号:13 (MHC-kappa)
GCTCA CTGGA TGGTG GGAAG ATG
【0085】
2.結果
(1)moAb216の第VIII因子活性効果
血漿中の抗第VIII因子モノクローナル抗体(moAb216と命名)についてのAPTTを用いたスクリーニング試験において、この抗体は、APTT値を有意に短縮した。抗体moAb216を存在させた場合の、第VIII因子活性への効果を試験した。種々の濃度のmoAb216 IgGと共に、第VIII因子(0.4nM)をインキュベートし、続いて凝固一段法により第VIII因子活性を測定した。対照実験により、第VIII因子不在下でのIgGの存在が、本アッセイに影響しない事が示された。moAb216の添加は、最大濃度(50μ/ml;最大330nM)において、正常IgGの添加と比較して第VIII因子活性を約1.5倍まで増加させた。moAb216によりもたらされた増大効果は、用量依存的であった(図1A)。
【0086】
第VIII因子の活性レベルは、トロンビン産生及び第Xa因子産生のレベルと良好に相関する。そこで、本発明者らは、さらに、moAb216添加による、トロンビン又は第Xa因子産生に対する効果を試験した。トロンビン産生アッセイでは、種々の濃度のmoAb216と反応させた第VIII因子(0.05nM)を、第VIII因子欠乏血漿と混合し、続いてトロンビン産生を上記「材料及び方法」の項目下に記載される方法に従って測定した(図1B, a)。2つの動態パラメータ、即ち、産生トロンビンの最大量(最高値)及び最大量に達する時間(最大値までの時間)を、トロンビン産生アッセイにより得られたデータから算出した。用量依存的に、moAb216の存在は、トロンビン産生の最高値を増加させ、最大値までの時間を短縮した(図1B, b)。同様に、第Xa因子産生アッセイでは、種々の濃度のmoAb216と反応させた第VIII因子は、用量依存的に第Xa因子の産生を増加させた。この増加効果は、初期値から最大1.4倍の増加を示した(図1C)。そして、moAb216の存在下での第Xase因子複合体により得られる第X因子のKm値は、moAb216不在下での値と同等であった(最大40nM。データ非提示)。総合的に考えて、本発明者らにより得られた結果は、moAb216が、第VIII因子補因子活性を増加させる事を裏付けるものであった。
【0087】
(2)第VIII因子のmoAb216によるイムノブロッティング
moAb216が認識する第VIII因子のエピトープを同定するため、ドットブロット解析を行った(図2)。その結果、moAb216は、損なわれていない第VIII因子、及びEDTA処理した第VIII因子の両方と反応した(それぞれレーン1及び2)が、SDS処理して蛋白質を変性させたもの、2-メルカプトエタノールによってジスルフィド結合を切断したものとは反応しなかった(それぞれレーン3及び4)。興味深いことに、第VIII(a)因子サブユニット(単離されたA1、A2、及び軽鎖サブユニット)並びにトロンビン切断第VIIIa因子もまたmoAb216を用いて検出できなかった(それぞれレーン5〜8)。これらの結果から、moAb216が、第VIII因子の独立したエピトープを認識するのではなく、第VIII因子分子の或る構造を認識する事が示唆された。
【0088】
(3)第VIII因子におけるmoAb216認識ドメインの決定
イムノブロット解析により、moAb216が無傷の第VIII因子とは反応するが、各サブユニットとは反応しないことが明らかになった。従って、第VIII因子断片及びペプチドを用いて、この抗体の認識エピトープを決定することは困難であると思われた。そこで、第VIII(a)サブユニットの代わりに無傷の第VIII因子を使用した実験として、いくつかの抗第VIII因子モノクローナル抗体を用い、moAb216による第VIII因子活性を増加させる効果に対しての、各抗第VIII因子モノクローナル抗体の競合阻害効果を調べる実験を凝固アッセイにより行った。各抗第VIII因子モノクローナル抗体と共にプレインキュベートした第VIII因子(4nM)を様々な濃度のmoAb216と反応させ、凝固一段法により第VIII因子活性を測定した(図3)。抗第VIII因子モノクローナル抗体である抗A1(C5)、抗A2(JR8及び413)、抗A3(JR5)、又は抗C2(NMC-VIII/5)の濃度を、抗第VIII因子モノクローナル抗体無添加時の第VIII因子活性の、おおよそ20%までに減少するよう調整した。正常IgGを添加する対照実験では、moAb216の添加により、第VIII因子活性は最大2倍にまで増加した。C5、JR8、又はNMC-VIII/5抗体は、moAb216による第VIII因子活性を増加させる効果を競合的に阻害した。しかしながら、抗A2抗体、JR8、及び413は、moAb216による第VIII因子活性を増加させる効果を、ほとんど阻害しなかった。
【0089】
使用した抗第VIII因子モノクローナル抗体は、いくつかの阻害機序を通じて第VIII因子活性を減少させることが知られている(非特許文献11)。そのため、これら抗第VIII因子モノクローナル抗体は、moAb216による第VIII因子活性の増加効果に何らかの影響を与えたかも知れない。そのような可能性を除外するため、競合的結合実験をマイクロタイターウェルに固定した第VIII因子を使用してさらに行った。様々な濃度のこれらの抗体IgGとビオチン化moAb216との混合物を、「材料及び方法」に記載の方法に従って、固定化した第VIII因子(8nM)と反応させた。正常IgGを用いた対照実験では、いかなる阻害もほとんど示されなかった。C5又はJR5抗体との混合物は、moAb216の結合を、用いた最大濃度で、最大15%、又は最大40%阻害し、且つ、この阻害効果は用量依存的であった(図4A及びB)。しかしながら、NMC-VIII/5と同様に、抗A2抗体(JR8及び413)も、moAb216の結合を有意に阻害しなかった(図4C)。総合すると、2つのアプローチにより得られたこれらの結果は、moAb216の認識エピトープが、A1及びA3ドメインの酸性領域の両方を含むことが示された。
【0090】
抗C2抗体であるNMC-VIII/5は、moAb216による第VIII因子活性の増加効果を阻害するが、moAb216の第VIII因子結合には競合しなかった。この相違は、第VIII因子のリン脂質及び/又はVWFへの結合を阻害するというNMC-VIII/5の特性に起因し得る(非特許文献13)。大部分のC2インヒビターが、第VIII因子の、リン脂質(非特許文献14)及びVWF(非特許文献12)への結合を阻止した。そこで、moAb216がC2エピトープを有さない事を確認するため、第VIII因子の、リン脂質及びVWFへの結合におけるmoAb216阻害効果についても、確立されたELISAにより試験した。予想された通り、moAb216は、リン脂質と第VIII因子の結合を阻害せず(データ非提示)、moAb216にC2エピトープが存在しないことが裏付けられた。一方、第VIII因子のVWFへの結合は、最大40%まで部分的に阻害された(図5)。第VIII因子上のVWFとの主要な相互作用部位は、A3ドメイン(Foster et al. (1988) J.Biol.Chem. 263: 5230-4)及びC2ドメイン(Saenko et al. (1994) J.Biol.Chem. 269: 11601-5)の酸性領域に位置することから、観察された阻害の程度は、moAb216が、A3ドメインを認識するがC2ドメインは認識しないというデータと一致した。これらの知見は、第VIII因子の天然(又は適切な)高次構造のみと反応するmoAb216が、A1及びA3ドメインの両者の酸性領域のエピトープを認識した事を示唆する。
【0091】
(4)セリンプロテアーゼ、トロンビン、第Xa因子、若しくはAPCによる第VIII因子の活性化又は不活化におけるmoAb216の効果
moAb216による第VIII因子活性の増加を引き起こす機序を理解するために、本発明者らはまず、トロンビン又は第Xa因子により触媒される第VIII因子活性化に対する抗体の効果に着目した。第VIII因子(100nM)と共にプレインキュベートした種々の濃度のmoAb216を、トロンビン(1nM)又は第Xa因子/リン脂質(10nM/10μM)と反応させ、次に、第VIIIa因子の活性を、経時的に凝固一段法を行って測定した(図6A及びB)。第VIIIa因子の形成及び崩壊の割合は、「材料及び方法」の項目下に記載されるように評価した。結果を表1にまとめる。
【表1】

moAb216存在下での、トロンビン又は第Xa因子による第VIII因子の活性化、及びAPCによる第VIII因子の不活化についての動力学的パラメータa
a反応は「材料及び方法」の項目下に記載されるように実施した。
bパラメータ値(速度定数)及び標準偏差は、「材料及び方法」の項目下に示される式を用い、図6A〜Cに示されるデータから、非線形最小二乗回帰によって算出した。
【0092】
moAb216存在下における、トロンビン又は第Xa因子による第VIII因子活性化の最大活性が、用量依存的な様式で有意に増加した事が観察された。「材料及び方法」の項目下に記載されるように、一連の反応にデータを適合させる事によって得たmoAb216と反応した第VIII因子に対するトロンビン又は第Xa因子による活性化速度定数(k1)(それぞれ10又は20μ/ml)は、抗体不在下で観察された定数(対照)と比較して、それぞれ最大2倍又は3倍大きく、その増加効果は用量依存的であった。トロンビンによって活性化された第VIIIa因子の崩壊値(k2)もまた、用量依存的な様式でコントロールの最大4倍までの減少を示した。一方、第Xa因子により活性化された第VIIIa因子の崩壊値(及び/又は不活化)は、明確には影響されなかった。
【0093】
第VIII因子活性の増加もまた、第VIII因子の不活化により影響されるため、APCによって触媒される第VIII因子不活化におけるその抗体の効果をさらに試験した。第VIII因子(100nM)と共にプレインキュベートした様々な濃度のmoAb216をAPC(40nM)、プロテインS(150nM)、及びリン脂質(10μM)と反応させ、続いて第VIII因子活性を測定した(図6C)。APCによって触媒される第VIII因子の不活化は、moAb216の存在により、用量依存的な様式で阻害された。moAb216(10μg/ml)による第VIII因子基質の不活化の不活化速度定数(k)は、対照と比較して、最大10倍まで低く観察された(表1)。これらの結果は、moAb216により、トロンビン及び第Xa因子よる第VIII因子の活性化が増強され、APCによる第VIII因子の不活化が遮断される事を示した。
【0094】
(5) moAb216は、トロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子の蛋白質分解性切断に影響する
第VIII因子活性の上方制御及び下方制御は、それぞれ主にA1-A2ドメイン連結のArg372、及びA1ドメインにおけるArg336での蛋白質分解性切断に関連する。トロンビン及び第Xa因子が、第VIII因子の活性化のためにArg372部位で切断するのに対し、APCは、第VIII因子の不活化のためにArg336部位で切断する。そこで、本発明者らは、moAb216抗体のトロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子の切断における効果を、SDS-PAGE解析により視覚化した。第VIII因子(100nM)をmoAb216(図7、パネルa)又は正常IgG(パネルb)と共に2時間プレインキュベートし、その後トロンビン(1nM)、第Xa因子(10nM)、又はAPC(40nM)とプロテインS(150nM)と共に、「材料及び方法」の項目下に記載されるように反応させた。図7に、ビオチン化抗A2(JR8)モノクローナル抗体を使用したウェスタンブロッティングによって経時的に解析した、第VIII因子重鎖切断の結果を示す。濃度測定走査により、基質のバンド濃度を定量した(パネルc)。トロンビンによる切断(図7A)に関しては、この抗体は、A2-B(Arg740)ドメイン連結の切断に有意な影響を及ぼさないが、A1-A2(Arg372)ドメイン連結での切断を、対照の切断と比較してゆるやかに加速した(パネルa及びb)。A2産物/A1-A2基質の比率を、バンドを濃度測定走査することにより調べたところ、抗体存在下でのArg372における切断の割合が対照と比較して約2倍まで増加したことが示唆された(パネルc)。この割合は、重鎖から活性化産物への急速な変換を反映しているものと思われ、上記のプロ補因子(procofactor)の、トロンビンにより触媒された活性化において観察された結果と類似していることが裏付けられた。
【0095】
同様に、第Xa因子による切断は、A2-B(Arg740)ドメイン連結に影響を及ぼさなかったが、A1-A2(Arg372)ドメイン連結での切断がゆるやかに加速されて観察された(図7B、パネルa)。濃度測定により得られた、抗体存在下におけるArg372での切断の割合(A2/A1-A2比)は、対照と比較して15分以内で最大2倍まで増加し、第Xa因子が触媒する活性化について観察された結果と類似していることが裏付けられた(パネルc)。しかしながら、誘導されたA2産物は、抗体の存在下で20分またはそれ以降に徐々に減少し、その結果A2/A1-A2バンドの割合は減少し、第Xa因子がA2ドメイン内でさらに蛋白質分解を受けることが推測された。一方、APCによる切断は、A1-A2サブユニットからA1337-372-A2への変換が、moAb216の存在下で、対照と比較して比較的減少している事が観察された(図7C、パネルa及びb)。抗体と複合体形成した第VIII因子のA1ドメイン内にあるArg336での切断の割合は、対照と比較して最大2倍まで減少し、APCにより触媒された不活化において観察された結果と類似していることが示された(パネルc)。総合すると、トロンビン又は第Xa因子によるArg372での切断を加速する機序、さらにAPCによるArg336での切断を減速する機序を介して、moAb216が第VIII因子活性を増加させる事が示唆された。
【0096】
(6)第VIII因子活性の温度依存的減少におけるmoAb216の効果
最近、Ansong及びFay(Ansong及びFay (2006) Biochemistry 44: 8850-7)により、第VIII因子における温度依存的減少が、A1及びA3ドメイン間のサブユニット内相互作用に対する不安定性から生じることが、報告されている。A1及びA3ドメインの両酸性領域を認識するmoAb216が、熱変性による第VIII因子活性の減少に影響を及ぼすか調査するため、moAb216存在下で、第VIII因子(0.4nM)又は正常血漿を55℃において、指定の時間インキュベートした。各反応液のアリコートを、「材料及び方法」の項目下に記載されるよう、第VIII因子活性についてアッセイした。結果を図8及び表2に示す。
【表2】

血漿中の第VIII因子及び組換え第VIII因子aに関する分子間安定性パラメータ
a反応は「材料及び方法」に記載されるように実施した。
bパラメータ値(t1/2)及び標準偏差は、「材料及び方法」に示される式を使用し、図8に示されるデータに由来する非線形最小二乗回帰によって推定した。
**:アスタリスクは、moAb216不在下で得られたデータと比較した、t検定を用いて計算されたp値が、0.001未満及び0.01未満であることを示す。

第VIII因子と同様に、moAb216と共にプレインキュベートした正常血漿も、抗体不在下での損失と比較して、有意に最大2倍まで減少した活性損失割合を示し、抗体存在下において、第VIII因子形成の安定性が保存されることが示唆された。該抗体を利用することにより、第VIII因子の活性を維持し、且つその半減期をより長くすることが可能となるものと考えられる。
【0097】
(7)配列決定
moAb216の可変領域は、以下の配列を有していた。
H鎖:
mnfgfsliflvlvlkgvqcEVRLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASEFTFSSYSMSWVRQTPEKRLEWVASINSGGRTFYPDSVKGRFTISRDNARNILVLQMSSLRSEDTAMYYCARVIYYDYGAYALDYWGQGTSLTVSS(配列番号:5)
L鎖:
mdfhvqifsfmlisvtvilssgEIVLTQSPALMAAYPGEKVTITCSVSSSISSSNLHWYQQKSETSPKLWIYGTSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWNIYPLTFGAGTKLELK(配列番号:10)
(小文字はシグナル配列、下線部はCDRを示す。)
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体が初めて提供された。該抗体は、血液凝固第VIII因子のA1酸性領域、及びA3酸性領域の両方を認識し因子に結合することにより、血液凝固第VIII因子の372位のArgでの開裂を促進し、336位のArgでの開裂を抑制する。このような抗体は、血液凝固第VIII因子の活性の低下、若しくは欠損により発症または進展する疾患、例えば、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病等の疾患を予防または治療において有用であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1A】凝固一段法における、第VIII因子活性に対するmoAb216の影響を示す図である。様々な濃度のmoAb216 IgG(白丸)又は正常IgG(黒丸)を、第VIII因子(0.4nM)と共にインキュベートし、次いで凝固一段法により第VIII因子活性を測定した。moAb216不在下での第VIII因子活性を初期レベル(100%)として示す。ステューデントt検定によって計算したmoAb216の値と正常IgGの値との間の統計的有意性(;p<0.05、**;p<0.01)を示す。
【図1B】トロンビン産生アッセイにおける、第VIII因子活性に対するmoAb216の影響を示す図である。(a)様々な濃度のmoAb216と共にプレインキュベートした第VIII因子(0.05nM)を第VIII因子欠乏血漿と混合し、次いでトロンビン産生を「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして測定した。使用される記号の意味は次の通り:白丸、0ng/ml; 黒丸、50ng/ml; 白四角、250ng/ml; 黒四角、500ng/ml。パネル(b)は、トロンビン産生の曲線から決定したパラメータ(最高値:白丸、最大値までの時間:黒丸)を示す。
【図1C】第Xa因子産生に対するmoAb216の影響を示す図である。様々な濃度のmoAb216と反応させた第VIII因子(30nM)をリン脂質小胞の存在下でトロンビン(10nM)により活性化させ、第Xa因子産生アッセイ反応を、「材料及び方法」の項目下に記載されるよう、第IXa因子(0.5nM)及び第X因子(200nM)を添加することにより開始した。moAb216不在下で産生された第Xa因子を初期レベル(100%)として示す。
【図2】第VIII因子及びmoAb216との反応についてのドットブロット解析を示す図である。第VIII因子蛋白質をポリビニルジエンジフルオライド膜に滴下し、moAb216、次いで抗マウスペルオキシダーゼ結合二次抗体を用いて「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして探索した。レーン1〜8はそれぞれ、第VIII因子、EDTA処理した第VIII因子、SDS処理した第VIII因子、2-メルカプトエタノール処理した第VIII因子、第VIIIa因子、無傷のA1、無傷のA2、及び無傷の軽鎖を示す。
【図3】凝固アッセイにおける、抗第VIII因子モノクローナル抗体による第VIII因子の不活化に対するmoAb216の効果を示す図である。様々な濃度のmoAb216 IgGを一定濃度の抗第VIII因子モノクローナル抗体IgG[抗A1(C5、白丸)、抗A2(JR8及び413、それぞれ黒丸及び白四角)、抗A3(JR5、黒四角)、抗C2(NMC-VIII/5、白三角)]、又は正常IgG(黒三角)と混合した。この混合物を第VIII因子(4nM)と37℃で2時間反応させ、次いで試料中の第VIII因子活性を、「材料及び方法」の項目下に記載されるように、凝固一段法により測定した。各競合物の存在下、且つmoAb216不在下での第VIII因子活性を初期レベルとして示す。
【図4】ELISAにおける、第VIII因子とmoAb216との結合に対する抗第VIII因子モノクローナル抗体の阻害効果を示す図である。様々な濃度の抗第VIII因子抗体IgG(白丸)[抗A1(C5、パネルA)、抗A3(JR5、パネルB)、及び抗C2(NMC-VIII/5、パネルC)]、又は正常IgG(黒丸)をビオチン化moAb216(20μ/ml)と混合した。混合物を、マイクロタイターウェル上に固定した第VIII因子(8nM)と反応させた。結合したビオチン化moAb216を、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼを使用して、「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして検出した。各競合物の不在下での、moAb216の第VIII因子への結合を表す吸光度値を100%として示す。
【図5】ELISAにおける、第VIII因子のVWFへの結合に対するmoAb216の阻害効果を示す図である。様々な濃度のmoAb216を含む混合物を、マイクロタイターウェル上に固定化した第VIII因子(5nM)に添加した。結合したビオチン化抗A2抗体(JR8)を、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼを使用して、「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして検出した。moAb216不在下での、第VIII因子のVWFへの結合を表す吸光度値を100%として示す。
【図6】トロンビン若しくは第Xa因子により触媒される第VIII因子の活性化、又はAPCにより触媒される第VIII因子の不活化に対する、moAb216の効果を示す図である。「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして、第VIII因子(100nM)を、様々な濃度のmoAb216と共にインキュベートし、続いて、トロンビン(パネルA、1nM)、リン脂質(10μM)及び第Xa因子(パネルB、10nM)、又はリン脂質(10μM)及びAPC/プロテインS(パネルC、40nM/150nM)を加えてインキュベートした。試料の第VIII因子活性を、凝固一段法により、各示された時間において測定した。使用した記号の意味は次の通り:パネルA及びC:白丸、0μg/ml; 黒丸、2.5μg/ml; 白四角、5μg/ml; 黒四角、10μg/ml。パネルB:白丸、0μg/ml; 黒丸、10μg/ml; 白四角、20μg/ml。APC添加前の第VIII因子活性のレベルを100%のレベルとして示す。「材料及び方法」の項目下に記載されるように、パネルA〜Cのデータを適当なモデルの等式に当てはめた。
【図7A】トロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子重鎖の切断に対するmoAb216の効果を示す図である。第VIII因子(100nM)を、トロンビン(1nM)と、各示された時間において、「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして反応させた。試料を8%ゲル上で泳動し、続いてビオチン化抗A2(JR8)モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。図cは、ブロッティングデータから得られた、A2サブユニット/A1-A2サブユニットの比率の定量的濃度測定の結果を示す。使用した記号の意味は次の通り:白丸、+moAb216; 黒丸、−moAb216。
【図7B】トロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子重鎖の切断に対するmoAb216の効果を示す図である。moAb216(10μg/ml)の存在下(図a)又は不在下(図b)において、第VIII因子(100nM)を、リン脂質(10μM)及び第Xa因子(4nM)と、各示された時間において、「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして反応させた。試料を8%ゲル上で泳動し、続いてビオチン化抗A2(JR8)モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。図cは、ブロッティングデータから得られた、A2サブユニット/A1-A2サブユニットの比率の定量的濃度測定の結果を示す。使用した記号の意味は次の通り:白丸、+moAb216; 黒丸、−moAb216。
【図7C】トロンビン、第Xa因子、又はAPCによる第VIII因子重鎖の切断に対するmoAb216の効果を示す図である。moAb216(10μg/ml)の存在下(図a)又は不在下(図b)において、第VIII因子(100nM)を、リン脂質(10μM)及びAPC/プロテインS(40nM/150nM)と、各示された時間において、「材料及び方法」の項目下に記載されるようにして反応させた。試料を8%ゲル上で泳動し、続いてビオチン化抗A2(JR8)モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。図cは、ブロッティングデータから得られた、ブal-A2サブユニット/A1-A2サブユニットの比率の定量的濃度測定の結果を示す。使用した記号の意味は次の通り:白丸、+moAb216; 黒丸、−moAb216。alは、A1ドメイン内の酸性領域(残基337〜372位)を示す。
【図8】第VIII因子蛋白質の安定性に対するmoAb216の効果を示す図である。moAb216の不在下(白抜き)又は存在下(50μg/ml)(黒塗り)において、第VIII因子(丸、0.4nM)又は正常血漿(四角)を55℃でインキュベートし、アリコートを表示の時間においてサンプリングし、その活性を「材料及び方法」の項目下に記載されるようにしてアッセイした。データは、指数関数的崩壊に関する等式1に当てはめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性型血液凝固第VIII因子の産生を促進する抗体。
【請求項2】
活性型血液凝固第VIII因子の産生促進が、血液凝固第VIII因子の372位のArgでの開裂促進である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
血液凝固第VIII因子のA1酸性領域及びA3酸性領域を認識する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
血液凝固第VIII因子のC2領域は認識しない、請求項1〜3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
さらに、血液凝固第VIII因子の不活化を抑制する、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体。
【請求項6】
活性型血液凝固第VIII因子の不活化抑制が、336位のArgでの開裂抑制である、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
H鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:2、3及び4からなる相補性決定領域若しくはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の抗体。
【請求項8】
アミノ酸配列が、配列番号:1であるH鎖可変領域、またはこれと機能的に同等なH鎖可変領域を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の抗体。
【請求項9】
L鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号:7、8、及び9からなる相補性決定領域若しくはこれと機能的に同等の相補性決定領域を含む、請求項1〜8いずれかに記載の抗体。
【請求項10】
アミノ酸配列が、配列番号:6であるL鎖可変領域、またはこれと機能的に同等なL鎖可変領域を有する、請求項1〜9いずれかに記載の抗体。
【請求項11】
請求項1〜10から選択される少なくとも1種の抗体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項12】
さらに、血液凝固第VIII因子と組合せて使用する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
さらに、活性型血液凝固第VIII因子の不活化抑制作用を有する抗体を組合せて使用する、請求項11又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
出血、出血を伴う疾患、若しくは出血に起因する疾患の予防及び/又は治療に用いられる、請求項11〜13いずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
出血、出血を伴う疾患、若しくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、血友病Aである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、後天性血友病である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症及び/又は進展する疾患が、フォンビルブランド病である、請求項15に記載の医薬組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図2】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公開番号】特開2009−274958(P2009−274958A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235776(P2006−235776)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】