説明

血液処理フィルター

【課題】出口側容器とフィルター材との間の密着等により流れが阻害されたり濾過性能を低下されたりすることを回避して、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる血液処理フィルターを提供することである。
【解決手段】可撓性容器2の内部の一方側と他方側とを区画するように配置されたシート状のフィルター材5を備えた血液処理フィルター1であって、可撓性容器4の一方側に設けられた血液の入口開口3aと、可撓性容器の他方側に設けられた血液の出口開口4a,4bと、を備え、入口開口3aは単数であり、出口開口4a,4bは複数設けられている血液処理フィルター1に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去する為の血液処理フィルターに関する。特に輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などから副作用の原因となる微小凝集物や白血球を除去する目的で用いられる、精密で、且つ使い捨て可能な血液処理フィルター、及び血液処理フィルターのプライミング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドナーから採血された全血は、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等の血液成分製剤に分離され、貯蔵された後に輸血されるのが一般的となりつつある。またこれらの血液製剤に含まれる微小凝集物や白血球が種々の輸血副作用の原因となることから、輸血の前にこれらの好ましくない成分を除去してから輸血する機会が増えている。近年は特に白血球除去の必要性が広く認識され、全ての輸血用血液製剤に白血球除去処理を施し、その後に輸血に用いることを法制化している国が増えている。
【0003】
血液製剤から白血球を除去する為の方法としては、血液製剤を白血球除去フィルターで処理するのが最も一般的である。この白血球除去フィルターによる血液製剤の処理は、輸血操作を行う際にベッドサイドで行われることが多かったが、近年では白血球除去製剤の品質管理、及び白血球除去処理の有効性向上の目的の為、血液センターに於いて保存前に行われることが、特に先進諸国では一般的である。
【0004】
ドナーから採血し、複数の血液成分に分離し、各血液成分を貯蔵するために、典型的には2つから4つの可撓性のバッグとこれらを接続する導管、抗凝固剤、赤血球保存液、採血針等から構成される採血分離セットが以前より使われている。特に、上記の「保存前白血球除去」に好適に使用されうるものとして、これらの採血分離セットに白血球除去フィルターを組み込んだシステムが広く使われており、「クローズドシステム」または「一体型システム」等の名称で呼ばれている。これらは、特開平01−320064号公報、WO92/020428号パンフレット等に開示されている。
【0005】
従来、白血球除去フィルターは、不織布や多孔質体からなるフィルター要素をポリカーボネート等の硬質容器に充填したものが広く使われてきたが、容器のガス透過性が低いため、採血分離セットの滅菌工程として広く使われている蒸気滅菌を適用し難いという問題があった。また、クローズドシステムには採血後にまず全血製剤を白血球除去し、白血球除去フィルターを切り離してから成分分離のための遠心分離操作をおこなうものと、全血を遠心分離によって複数の血液成分に分離した後に白血球除去を行う場合とがあるが、後者の場合には白血球除去フィルターも採血分離セットと共に遠心される。この際、硬質の容器がバッグや導管にダメージを与えたり、硬質容器自身が遠心時のストレスに耐えられずに破損したりする可能性があった。
【0006】
これらの問題点を解決する方法として、採血分離セットのバッグに使用されているものと同一または類似の、可撓性かつ蒸気透過性に優れる素材を容器に用いた、可撓性の白血球除去フィルターが開発されており、実際に、可撓性容器を直接フィルター要素に溶着させたもの(特開平7−267871号公報、WO95/017236号パンフレット参照)などが知られている。この種の白血球除去フィルターでは、例えば、可撓性を有するシート状の素材によってシート状のフィルター要素を挟み、周囲を環状にシールすると共に、一方の面側(入口側)に入口ポートを設け、他方の面側(出口側)に出口ポートを設けることで製造される。
【0007】
上述の白血球除去フィルターでは、血液の流れが入口と出口とを結ぶ最短ルートに収束して局所的に偏った流れとなる。その結果、フィルター材の有効活用面積を十分に利用できず、フィルター材から受ける抵抗が上昇して血液の流れが阻害され、その結果、濾過速度が低下する可能性がある。さらに、可撓性容器の白血球除去フィルターの場合、濾過の最中には濾材抵抗によって圧力損失が生じ、フィルター材の入口側の空間は陽圧となっている。そして、可撓性容器からなる白血球除去フィルターの場合、この陽圧によって容器は風船状に膨らみ、フィルター材は出口側の容器に押しつけられてフィルター材が容器と密着し、その結果、血液の流れが阻害されて濾過速度が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平01−320064号公報
【特許文献2】国際公開92/020428号パンフレット
【特許文献3】特開平07−267871号公報
【特許文献4】国際公開95/017236号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フィルター材への血液拡散性を向上し、濾過の際にフィルター材から受ける抵抗を軽減して濾過速度を向上できる血液処理フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、可撓性容器の内部の一方側と他方側とを区画するように配置されたシート状のフィルター材を備えた血液処理フィルターであって、可撓性容器の一方側に設けられた血液の入口と、可撓性容器の他方側に設けられた血液の出口と、を備え、入口及び出口の一方は単数であり、他方は複数設けられている血液処理フィルターに関する。なお、本発明における血液とは、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤を含む。
【0011】
この血液処理フィルターは、血液の入口、及び出口のうち、一方は単数で、他方は複数設けられているので、フィルター材への血液拡散性が向上し、偏流れの防止に有効である。従って、濾過の際にフィルター材から受ける抵抗が軽減し、可撓性容器内の入口側と出口側とでの差圧が小さくなり、入口側の陽圧によるフィルター材の出口側への張り付きが軽減され、フィルター材と可撓性容器の他方側との間での密着性が軽減する。その結果、血液の流路が確保され、濾過速度が向上する。
【0012】
また、上記の血液処理フィルターにおいて、入口は単数であり、出口は複数設けられている態様とすることもでき、さらに、複数の出口のうち、少なくとも二個の出口それぞれと入口までの距離は等距離である態様とすることもできる。
【0013】
例えば、目詰まりが生じやすい血液(凝集物が発生しやすい血液)を濾過した場合、出口が一箇所のみであると出口の流路が詰まることで血液流れが阻害され、濾過時間が遅延することがある。一方で、上記の態様では、目詰まりが生じやすい血液を濾過する際に、仮に、一部の出口で血液流れが阻害されたとしても、他の出口で流路を確保でき、血液処理速度の低下を抑えて安定した処理が可能となる。特に、少なくとも二個の出口それぞれと入口との間の距離が等距離であれば、二個の出口同士の間で、入口との関係において優劣は生じ難くなり、安定した処理を継続する上で有利となる。
【0014】
また、上記の血液処理フィルターにおいて、可撓性容器の他方側には、入口までの距離が互いに等距離である第1の出口及び第2の出口と、第1の出口及び第2の出口よりも入口までの距離が長い第3の出口とが、設けられている態様とすることもできる。
【0015】
また、上記の血液処理フィルターにおいて、出口は単数であり、入口は複数設けられている態様とすることもでき、さらに、複数の入口のうち、少なくとも二個の入口それぞれと出口までの距離は等距離である態様とすることもできる。
【0016】
また、上記の血液処理フィルターにおいて、可撓性容器の一方側には、出口までの距離が互いに等距離である第1の入口及び第2の入口と、第1の入口及び前記第2の入口よりも出口までの距離が長い第3の入口とが、設けられている態様とすることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィルター材への血液拡散性を向上し、濾過の際にフィルター材から受ける抵抗を軽減して濾過速度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る血液処理フィルターを備えた血液処理システムの概略を示す正面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施例に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施例に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【図7】図7は、本発明の第4実施例に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【図8】図8は、比較例に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態中で説明する血液とは、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤を含む。また、血液処理フィルターの外形は、矩形状、円盤状、長円盤状、楕円状などの様々態様を採用できるが、製造時の材料ロスを少なくするためには矩形状が好ましく、従って、以下の実施形態では矩形状を例に説明する。
【0020】
まず、図1〜図3を参照して、本実施形態に係る血液処理フィルター1について説明する。血液処理フィルター1は、血液の入口ポート3Aと出口ポート4A,4Bとを有する可撓性容器2と、可撓性容器2に収容され、可撓性容器2の内部を入口側(一方側)と出口側(他方側)とに区画するように配置されたシート状のフィルター材5と、を備えている。
【0021】
可撓性容器2は、矩形扁平状の容器である。扁平状とは、厚みが薄くて面が広い形状を意図する。可撓性容器2は、矩形シート状の入口側容器部9と、矩形シート状の出口側容器部11とを備えている。入口側容器部9と出口側容器部11とは、矩形状のフィルター材5を挟んで重なり合い、周縁同士が互いに密着して帯状にシールされている。入口側容器部9と出口側容器部11との周縁同士が矩形環状にシールされた接着領域は外側シール部6である。なお、シールするとは、液体の漏洩を防止できる程度に接着(溶着も含む)にて固定することを意味する。
【0022】
入口側容器部9には、単体の入口ポート3Aがシールされている。入口ポート3Aには、可撓性容器2の内部に連通して入口となる入口開口3aが形成されている。入口ポート3Aは、入口側縦中心線と出口側縦中心線とを通る仮想の縦平面Fa上に入口開口3aが配置されるように設けられている。なお、入口側縦中心線は、矩形の入口側容器9の中心を通り、且つ、入口側容器9の長手方向に沿って延在する仮想の中心線であり、出口側縦中心線は、矩形の出口側容器11の中心を通り、且つ、出口側容器11の長手方向に沿って延在する仮想の中心線である。
【0023】
出口側容器部11には、複数の出口ポート4A,4Bがシールされている。第1の出口ポート4Aには、可撓性容器2の内部に連通して第1の出口となる第1の出口開口4aが形成され、第2の出口ポート4Bには、可撓性容器2の内部に連通して出口となる第2の出口開口4bが形成されている。
【0024】
また、血液処理フィルター1は、可撓性容器2とフィルター材5とをシールすることによって形成される内側シール部7を備えている。具体的には、入口側容器部9と出口側容器部11とは、フィルター材5の周縁に沿って、フィルター材5を挟み付けた状態で帯状にシールされている。フィルター材5の周縁に沿って矩形環状にシールされた接着部位は内側シール部7である。内側シール部7では入口側容器部9、出口側容器部11、及びフィルター材5が一体化している。なお、内側シール部7は、例えば、入口側容器部9とフィルター材5とをシールして一体化し、フィルター材5と出口側容器部11とを静置状態において離間する形態であってもよいし、出口側容器部11とフィルター材5とをシールして一体化し、入口側容器部9とフィルター材5とを静置状態において離間する形態であってもよい。
【0025】
内側シール部7は、入口側容器部9に設けられた入口ポート3Aを囲むように形成されており、さらに、出口側容器部11に設けられた出口ポート4A,4Bを囲むように形成されている。可撓性容器2の内部空間のうち、内側シール部7で囲まれた内部空間は血液流路となる有効濾過空間であり、有効濾過空間は、フィルター材5によって入口空間Saと出口空間Sbとに区画されている。入口空間Saには入口開口3aが連通し、出口空間Sbには第1の出口開口4a,及び第2の出口開口4bが連通している。
【0026】
第1の出口ポート4Aと第2の出口ポート4Bとは、仮想の縦平面Faを基準にして対称となる位置に設けられている。その結果として、出口ポート4Aの第1の出口開口4aと出口ポート4Bの第2の出口開口4bとは、縦平面Faを基準にして対称になっている。さらに、入口開口3aと第1の出口開口4aとを結ぶ直線距離と、入口開口3aと第2の出口開口4bとを結ぶ直線距離は等距離になっている。この場合の等距離とは、入口開口3a、第1の出口開口4a、及び第2の出口開口4bのレイアウト上、実質的に等しい距離となることを意味しており、実際に測定した場合にも90%の範囲、つまり、10%程度の誤差は許容される。なお、以下の説明において使用する“等距離”の意味も同様である。
【0027】
次に、血液処理フィルター1を構成する各要素の材料や形状などの各態様について説明する。上述のように可撓性容器2は、入口側容器部9及び出口側容器部11によって形成される。可撓性容器2に用いる可撓性樹脂は、シートまたはフィルムとして市販されている材料であれば使用することはできる。例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレンーブタジエンースチレン共重合体の水添物、スチレンーイソプレンースチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、及び、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が好適な材料として挙げられる。血液との接触が考えられるため、好ましくは血液バック等の医療品の材料として用いられている、軟質塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーがよく、更に好ましくは軟質塩化ビニルである。
【0028】
また、可撓性容器2は、例えば、特開平7−267871号公報に記載されている容器や、WO95/017236号パンフレットに記載されている容器などを用いることもできる。
【0029】
フィルター材5は、不織布や織布などの繊維状集積体やスポンジなどの多孔質体からなるフィルター材料を用いて製造される。なお、本実施形態に係るフィルター材5において、血液がフィルター材料に濡れ易くするために、親水性ポリマーをコーティングしてもよい。また、血液から白血球を除去するために血液処理フィルター1を用いるときには、白血球がフィルター材5に付着し易くするために、ポリマーをコーティングしたフィルター材料を用いてもよい。
【0030】
次に、本実施形態に係る血液処理フィルター1の製造方法について説明する。この製造方法では、例えば、入口ポート3Aが所定位置にシールされた入口側容器部9、出口ポート4A,4Bが所定位置にシールされた出口側容器部11、及びフィルター材5を準備し、入口側容器部9と出口側容器部11とでフィルター材5を挟むように所定位置に配置する設置工程を行う。
【0031】
設置工程の後、入口ポート3A、及び出口ポート4A,4Bの形成部位を囲むように入口側容器部9、フィルター材5、及び出口側容器部11を帯状にシールして内側シール部7を形成する第一シール工程を実行する。
【0032】
第一シール工程の後、入口側容器部9と出口側容器部11との周縁同士を密着して帯状にシールして外側シール部6を形成する第二シール工程を実行する。
【0033】
第一シール工程での内側シール部7の形成、すなわち、入口側容器部9、フィルター材5、及び出口側容器部11のシールは、高周波溶着を利用して行うことができるが、これに限定するものではなく、超音波溶着、熱溶着などの各種の接着技術を用いることができる。同様に、第二シール工程での外側シール部6の形成のためのシールは、高周波溶着を利用して行うことができるが、これに限定するものではなく、超音波溶着、熱溶着などの各種の接着技術を用いることができる。なお、第一シール工程、及び第二シール工程は、順番が逆であっても、また、同時であってもよい。
【0034】
なお、上記の製造方法では、入口ポート3Aと出口ポート4A,4Bとを予め可撓性容器2にシールした態様にて説明したが、内側シール部7や外側シール部6を形成した後にシールしてもよく、あるいは、それらの途中に行っても良い。また、入口ポート3A、及び出口ポート4A,4Bを可撓性容器2にシールするには、高周波溶着に限らず、熱溶着などのあらゆる接着技術を用いることができる。入口ポート3Aと出口ポート4A,4Bの材料としては、可撓性容器2同様に様々な従来公知の材料を用いることができる。
【0035】
次に、第1実施形態に係る血液処理フィルター1を備えて構成される血液処理システム100について、図4を参照して説明する。
【0036】
血液処理フィルター1は、重力を用いての濾過に使用することができる。例えば、血液処理フィルター1を適用した血液処理システム100は、採血後の血液を入れた貯留バッグ101と、血液処理フィルター1と、濾過後の血液をためる回収バッグ103と、を備える。貯留バッグ101と血液処理フィルター1の入口ポート3Aとは、血液チューブなどの導管102aによって互いに接続され、回収バッグ103と血液処理フィルター1の出口ポート4A,4Bとは、血液チューブなどの導管104aによって互いに接続されている。更に、上流側の導管102aには、流路を開閉するローラークランプなどの開閉手段102bやチャンバーなどが取り付けられており、導管102a、開閉手段102b、及びチャンバーなどによって入口側回路102が形成される。また、下流側の導管104aなどによって出口側回路104が形成される。
【0037】
そして、採血後の血液を入れた貯留バッグ101は血液処理フィルター1よりも高い位置に設置され、濾過後の血液をためる回収バッグ103は血液処理フィルター1よりも低い位置に設置されている。血液処理システム100の流路を開放することで血液の濾過処理が行われる。
【0038】
次に、本実施形態に係る血液処理フィルター1の作用、及び効果について図1〜図4を参照して説明する。血液処理フィルター1は、血液の入口となる入口開口3aが単数であるのに対して、出口となる出口開口4a,4bは複数設けられているので、フィルター材5への血液拡散性が向上し、偏流れの防止に有効である。従って、濾過の際にフィルター材5から受ける抵抗が軽減し、可撓性容器2内の入口空間Saと出口空間Sbとでの差圧が小さくなる。その結果、入口空間Sa内の陽圧によるフィルター材5の出口側容器部11への張り付きが軽減され、フィルター材5と出口側容器部11との間での密着性が軽減し、血液の流路が確保され、濾過速度が向上する。
【0039】
また、例えば、目詰まりが生じやすい血液(凝集物が発生しやすい血液)を濾過した場合、出口が一箇所のみであると出口の流路が詰まることで血液流れが阻害され、濾過時間が遅延することがある。しかしながら、血液処理フィルター1では、目詰まりが生じやすい血液を濾過する際に、仮に、一部の出口開口4aで血液流れが阻害されたとしても、他の出口開口4bで流路を確保でき、血液処理速度の低下を抑えて安定した処理が可能となる。特に、二個の出口開口4a,4bそれぞれと入口開口3aとの間の距離が等距離であるため、二個の出口開口4a,4b同士の間で、入口開口3aとの関係において優劣は生じ難く、安定した処理を継続する上で有利である。
【0040】
なお、本実施形態では、入口が単数で、出口が二個の態様を例示した。しかしながら、本発明は、第1の出口開口4a、及び第2の出口開口4b以外の第3の出口開口が出口側容器11に設けられた態様であってもよく、この態様では、第3の出口開口と入口開口3aまでの距離が、第1の出口開口4a及び第2の出口開口4bよりも入口までの距離よりも長い方が好ましい。
【0041】
また、本発明は、出口は単数であり、入口は複数設けられている態様とすることもできる。この態様に係る血液処理フィルターによっても、フィルター材への血液拡散性が向上し、偏流れの防止に有効である。従って、濾過の際にフィルター材から受ける抵抗が軽減し、可撓性容器内の入口空間と出口空間とでの差圧が小さくなる。その結果、入口空間内の陽圧によるフィルター材の出口側容器部への張り付きが軽減され、フィルター材と出口側容器部との間での密着性が軽減し、血液の流路が確保され、濾過速度が向上する。
【0042】
さらに、複数の入口を設けた血液処理フィルターにおいて、少なくとも二個の入口それぞれと出口までの距離は等距離である態様とすることもできる。さらに、3個以上の複数の入口を設け、第1の入口から出口までの距離と第2の入口から出口までの距離とは等距離であるのに対して、第3の入口から出口までの距離は、第1、または第2の入口から出口までの距離よりも長い態様とすることもできる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これらによって範囲を限定されるものではない。
【0044】
まず、図4に示されるように、血液処理フィルター1を備えた血液処理システム100を形成した。なお、実施例1は、上述の実施形態に対応した血液処理フィルター1を用いて血液処理システム100を形成しており、実施例2は、血液処理フィルター1の代わりに血液処理フィルター51(図5参照)を用いて血液処理システム100を形成している。また、実施例3は、血液処理フィルター1の代わりに血液処理フィルター52(図6参照)を用いて血液処理システム100を形成しており、実施例4は、血液処理フィルター1の代わりに血液処理フィルター53(図7参照)を用いて血液処理システム100を形成している。比較例は、血液処理フィルター1の代わりに血液処理フィルター61(図8参照)を用いて血液処理システムを形成している。
【0045】
血液処理システム100または比較例に係る血液処理システムは、赤血球製剤320g(保存状態:4℃、2日保存)を室温にして、濾過落差(該製剤が入った血液バッグ101から下方の回収バッグ103が設置された高さまで)Haが110cmとなる重力落差によりフィルター濾過した。この場合、入口側回路102のチューブ長Hbを42cmとし、出口回路104のチューブ長、例えば、出口ポート4A,4Bから回収バッグ103の設置高さまでのチューブ長Hcを50cmとした。尚、平均流速とは、血液を流し始めて血液バッグ101、入口側回路102、及びフィルター入口濾過面に血液がなくなるまでの濾過時間から算出した。これを三つの試料を用いて(試料数3)行い、平均値を求めた。
【0046】
[実施例1]
実施例1に係る血液処理フィルター1(図1参照)では、血液の入口となる入口開口3aが単数設けられ、血液の出口となる出口開口4a,4bが二個設けられている。また、二個の出口開口4a,4bそれぞれは入口開口3aからの距離が等距離に配置されている。
【0047】
実施例1では、入口側を上、出口側が下となるように血液処理フィルター1を縦に配置して濾過処理を実行しており、実施例1において、所定量の試料液体を濾過処理した際、濾過時間から算出した平均流速は18.6g/minであった。
【0048】
なお、実施例1では、血液処理フィルター1を縦に配置した状態において、矩形の内側シール部7の一対の短辺部7a,7bは上下に配置され、一対の長辺部7c,7dは左右に配置される。そして、入口開口3aの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLaとし、入口開口3aの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLbとすると、La:Lbは1:1.8程度になる。また、出口開口4a,4bの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLcとし、出口開口4a,4bの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLdとすると、Lc:Ldは1.8:1程度になる。
【0049】
また、仮想の縦平面Faから第1の出口開口4aの中心までの距離Waと、仮想の縦平面Faから第2の出口開口4bの中心までの距離Waとは等しい。そして、第1の出口開口4aの中心から長辺部7cまでの距離Wbと、第2の出口開口4bの中心から長辺部7dまでの距離Wbとは等しい。そして、距離Wbと距離Waとの比であるWb:Waは、1:0.75程度である。
【0050】
[実施例2]
実施例2に係る血液処理フィルター51(図5参照)では、単数の入口ポート3Aと、三個の出口ポート4C,4D,4Eとが設けられている。そして、入口ポート3Aには血液の入口となる入口開口3aが設けられている。また、出口ポート4Cには血液の出口となる第1の出口開口4cが設けられ、出口ポート4Dには血液の出口となる第2の出口開口4dが設けられ、出口ポート4Eには血液の出口となる第3の出口開口4eが設けられている。
【0051】
入口開口3aと第1の出口開口4cとの間の距離と、入口開口3bと第2の出口開口4dとの間の距離とは等距離である。また、入口開口3aから第3の出口開口4cまでの距離は、入口開口3aから第1の出口開口4c、または第2の出口開口4dまでの距離よりも長くなっている。なお、実施例2に係るその他の要素については、実質的に実施例1と同様である。
【0052】
実施例2では、入口側を上、出口側が下となるように血液処理フィルター51を縦に配置して濾過処理を実行した。その結果、実施例2において、所定量の試料液体を濾過処理した際、濾過時間から算出した平均流速は21.4g/minであった。
【0053】
なお、実施例2では、入口開口3aは、仮想の縦平面Fa上に配置されている。また、入口開口3aの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLeとし、入口開口3aの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLfとすると、Le:Lfは1:1.8程度になる。
【0054】
また、出口開口4c,4dの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLgとし、出口開口4c,4dの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLhとすると、Lg:Lhは1:0.6程度になる。また、出口開口4eの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLiとし、出口開口4eの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLjとすると、Li:Ljは5:1.5程度になる。
【0055】
また、仮想の縦平面Faから第1の出口開口4cの中心までの距離Wcと、仮想の縦平面Faから第2の出口開口4dの中心までの距離Wcとは等しい。そして、第1の出口開口4cの中心から長辺部7cまでの距離Wdと、第2の出口開口4dの中心から長辺部7dまでの距離Wdとは等しい。そして、距離Wdと距離Wcとの比であるWd:Wcは、1:0.75程度である。また、第3の出口開口4eは、仮想の縦平面Fa上になるように配置されている。
【0056】
[実施例3]
実施例3に係る血液処理フィルター52(図6参照)では、二個の入口ポート3B,3Cと、単数の出口ポート4Fと、が設けられている。そして、入口ポート3Bには血液の入口となる第1の入口開口3bが設けられ、入口ポート3Cには血液の入口となる第2の入口開口3cが設けられている。また、出口ポート4Fには、血液の出口となる単数の出口開口4fが設けられている。また、出口開口4fと第1の入口開口3bとの間の距離と、出口開口4fと第2の入口開口3cとの間の距離とは等距離である。なお、実施例3に係るその他の要素については、実質的に実施例1と同様である。
【0057】
実施例3では、入口側を上、出口側が下となるように血液処理フィルター52を縦に配置して濾過処理を実行した。その結果、実施例3において、所定量の試料液体を濾過処理した際、濾過時間から算出した平均流速は17.8g/minであった。
【0058】
なお、実施例3では、入口開口3b,3cの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLkとし、入口開口3b,3cの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLmとすると、Lk:Lmは1:1.8程度になる。
【0059】
また、仮想の縦平面Faから第1の入口開口3bの中心までの距離Weと、仮想の縦平面Faから第2の入口開口3cの中心までの距離Weとは等しい。そして、第1の入口開口3bの中心から長辺部7cまでの距離Wfと、第2の入口開口3cの中心から長辺部7dまでの距離Wfとは等しい。そして、距離Wfと距離Weとの比であるWf:Weは、1:0.75程度である。
【0060】
また、出口開口4fの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLnとし、出口開口4fの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLpとすると、Ln:Lpは1.8:1程度になる。
【0061】
[実施例4]
実施例4に係る血液処理フィルター53(図7参照)では、三個の入口ポート3D,3E,3Fと、単数の出口ポート4Fと、が設けられている。そして、入口ポート3Dには血液の入口となる第1の入口開口3dが設けられ、入口ポート3Eには血液の入口となる第2の入口開口3eが設けられ、入口ポート3Fには血液の入口となる第3の入口開口3fが設けられている。また、出口ポート4Fには、血液の出口となる単数の出口開口4fが設けられている。また、出口開口4fと第1の入口開口3dとの間の距離と、出口開口4fと第2の入口開口3eとの間の距離とは等距離である。なお、本実施形態では、出口開口4fから第3の入口開口3fまでの距離は、出口開口4fから第1の入口開口3d、または第2の入口開口3eまでの距離よりも短くなっている。なお、実施例4に係るその他の要素については、実質的に実施例1と同様である。
【0062】
実施例4では、入口側を上、出口側が下となるように血液処理フィルター53を縦に配置して濾過処理を実行した。その結果、実施例4において、所定量の試料液体を濾過処理した際、濾過時間から算出した平均流速は20.5g/minであった。
【0063】
なお、実施例4では、入口開口3d,3eの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLqとし、入口開口3d,3eの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLrとすると、Lq:Lrは1:1.8程度になる。また、入口開口3fの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLsとし、入口開口3fの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLtとすると、Ls:Ltは4:3程度になる。
【0064】
また、仮想の縦平面Faから第1の入口開口3dの中心までの距離Wgと、仮想の縦平面Faから第2の入口開口3eの中心までの距離Wgとは等しい。そして、第1の入口開口3dの中心から長辺部7cまでの距離Wiと、第2の入口開口3eの中心から長辺部7dまでの距離Wiとは等しい。そして、距離Wiと距離Wgとの比であるWi:Wgは、1:0.75程度である。なお、第3の入口開口3fは、仮想の縦平面Fa上に配置されている。
【0065】
また、出口開口4fの中心から上側の短辺部7aまでの距離をLuとし、出口開口4fの中心から下側の短辺部7bまでの距離をLwとすると、Lu:Lwは1.8:1程度になる。なお、出口開口4fは、仮想の縦平面Fa上に配置されている。
【0066】
[比較例]
比較例に係る血液処理フィルター61(図8参照)では、可撓性容器64の入口側容器62に単数の入口ポート68が設けられ、出口側容器63に単数の出口ポート69が設けられている。また、可撓性容器64には、内側シール部67と外側シール部66が設けられている。なお、比較例は、血液の出口、及び入口が一つである従来の血液処理フィルターの具体的な態様である。比較例では、入口側を上、出口側が下となるように血液処理フィルター61を縦に配置して濾過処理を実行した。その結果、比較例において、所定量の試料液体を濾過処理した際、濾過時間から算出した平均流速は16.9g/minであった。
【0067】
[総合評価]
表1に示されるように、実施例1〜4に係る血液処理フィルター1,51,52,53では、比較例に係る血液処理フィルター61に比べて平均流速が極めて速くなっている。より詳細には、出口開口(出口)あるいは入口開口(入口)の数が三個のときは二個の場合よりも平均流速が早い結果であった。また出口側の数を増やした場合に、入口側に増やした場合よりも平均流速が早い結果であった。
【0068】
【表1】

【符号の説明】
【0069】
1,52,53…血液処理フィルター、2…可撓性容器、3a…入口開口(入口)、3b,3d…第1の入口開口(第1の入口)、3c,3e…第2の入口開口(第2の入口)、3f…入口開口(入口)、4a,4c…第1の出口開口(第1の出口)、4b,4d…第2の出口開口(第2の出口)、4e…第3の出口開口(第3の出口)、4f…出口開口(出口)、5…フィルター材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性容器の内部の一方側と他方側とを区画するように配置されたシート状のフィルター材を備えた血液処理フィルターであって、
前記可撓性容器の一方側に設けられた血液の入口と、
前記可撓性容器の他方側に設けられた血液の出口と、を備え、
前記入口及び前記出口の一方は単数であり、他方は複数設けられている血液処理フィルター。
【請求項2】
前記入口は単数であり、前記出口は複数設けられている請求項1記載の血液処理フィルター。
【請求項3】
前記複数の出口のうち、少なくとも二個の前記出口それぞれと前記入口までの距離は等距離である請求項記載の血液処理フィルター。
【請求項4】
前記可撓性容器の他方側には、前記入口までの距離が互いに等距離である第1の出口及び第2の出口と、前記第1の出口及び前記第2の出口よりも前記入口までの距離が長い第3の出口とが、設けられている請求項3記載の血液処理フィルター。
【請求項5】
前記出口は単数であり、前記入口は複数設けられている請求項1記載の血液処理フィルター。
【請求項6】
前記複数の入口のうち、少なくとも二個の前記入口それぞれと前記出口までの距離は等距離である請求項記載の血液処理フィルター。
【請求項7】
前記可撓性容器の一方側には、前記出口までの距離が互いに等距離である第1の入口及び第2の入口と、前記第1の入口及び前記第2の入口よりも前記出口までの距離が長い第3の入口とが、設けられている請求項記載の血液処理フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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