説明

血液分析のための分析用検査要素および方法

【課題】 本発明は、安価で使用者による影響が出来る限り少なく、かつ試薬消費量を抑えた血液検査が実施できるようにすることを目的とする。
【解決手段】 好ましくは血液サンプルをその適用部位(18)から少なくとも1つの分析部位(20,22)へフロー輸送するためのミクロ流体用経路構造(14)を有する基体(12)を含む、特に単回用簡易検査による血液分析のための分析用検査要素であって、該経路構造(14)が該血液サンプルをロードすることが可能でかつ微粒血液成分を保持するための分離手段(36)を備えた希釈経路(24)と、希釈しようとする血液サンプルのアリコートを運搬しかつ該希釈経路(24)と混合部位(40)にて合流するサンプル経路(26)とを有することを特徴とする、前記分析用検査要素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは血液サンプルをその適用部位から少なくとも1つの分析部位へフロー輸送するためのミクロ流体用経路構造を有する基体を含む、特に単回用簡易検査による血液分析のための分析用検査要素に関する。また本発明は、血液サンプルが、該分析用検査要素中の経路構造を介してその適用部位から少なくとも1つの分析部位へと運搬される、血液分析を実施するための対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの検査要素としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この出願では、血漿または血清を全血サンプルから分離するよう特別に設計されかつ2つの毛管作用性領域を含む経路構造またはフロー構造について記載されている。尚、該領域のうち第1の領域は多孔性マトリクス材料からなり、またこの第1の領域と接している第2の領域は1つ以上の毛管経路を含んでいる。その結果、第1の領域で得られる血漿を、例えばグルコース検査の対象液として、干渉成分を含まないかたちで第2の領域で利用することができる。
【0003】
一般に、検査要素とは、当座の分析または今後の分析用のサンプルを研究室の環境に左右されることなく調製することを可能にする、液体サンプル入手用の担体結合型流体用(マイクロ)システムであると理解されている。かかる検査要素は通常、検査を実施するのに必要な全ての試薬が該担体上または構成要素上に供給されているために素人でも特別な操作を必要とせずに使用することができる、患者のすぐ側で行う診断のための単回用製品または使い捨て用品とされている。
【0004】
かかる検査要素は、特に糖尿病患者が血糖値をチェックする際のテストストリップとして使用される。また一方で、ヘモグロビンA1c値を測定することにより、過去数週間分の平均グルコース濃度、ひいては該糖尿病患者の代謝調節における特質を回顧的に評価することが可能となる。HbA1cは、ヘモグロビンAのβ鎖N末端におけるバリン残基がグルコースで糖化されたものと定義されている。通常、HbA1cは総ヘモグロビン量に占めるその割合で表されるため、該HbA1c含量だけでなく同じ血液サンプル中のヘモグロビン濃度も測定する必要がある。このHbとHbAlcの二重測定は、以前は非常に操作が煩雑であり、従ってミスを起こしやすく、しかも高価な実験器具にて実施されていた。
【特許文献1】WO 01/24931
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術が抱えるこうした不都合な点を回避すること、また、特に分析物が初期サンプル内に高濃度で存在する場合に、安価で使用者による影響ができる限り少なくかつ試薬消費量を抑えた血液検査が実施できるように、検査要素を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の特許請求の範囲にて独立クレーム中に記載した特徴の組み合わせを提供する。本発明の好都合な実施形態およびこれをさらに発展させた形態については、従属クレームとして記載してある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、前記経路構造は、血液サンプルをロードすることが可能でありかつ微粒血液成分を保持するための分離手段を含有する希釈経路と、希釈しようとする血液サンプルのアリコートを運搬しかつ該希釈経路と混合部位にて合流するサンプル経路とを有する。該経路構造により、使用者が適用した全血を、追加の液体を供給することなくその本来の液体成分自体で希釈することが可能となる。サンプル物質による希釈は、使用者による煩雑な手動操作工程または分析器による複雑な機械的相互作用を不要にするフロー輸送によって自動的に制御される。
【0008】
前記血液サンプルは、該サンプルの流れをさらに分割する接合部を介して前記サンプル経路および前記希釈経路に都合良く供給することができる。この点に関してさらに述べると、血液サンプルを中心点に加え、該接合部、すなわち該サンプル経路との分岐点において所定の比率で分割することにより、該サンプル経路および該希釈経路に該血液サンプルをロードすることができる。通過する該血液サンプルを部分的な流れに分割するための特定の比率を設定するには、該サンプル経路と該希釈経路の相対的な経路断面積が適切に調整されていると都合が良い。ヘモグロビン濃度を低下させるには、該希釈経路における流速を該サンプル経路における流速の10倍以上、好ましくは100倍以上とすると特に都合が良い。
【0009】
細胞成分を保持するためには、特にグラスファイバーフリースまたは微小孔性のフィルターマトリクスもしくはフィルターメンブレンを含むフィルター要素が分離手段として前記希釈経路内、好ましくはフィルターチャンバー内に配置されていると都合が良い。あるいは、またはこれに加えて、該希釈経路が前記血液サンプルの細胞成分を保持するよう設計された微細構造形態を分離手段として有していてもよい。
【0010】
別の好都合な実施形態では、前記混合部位は希釈済みの血液サンプルを溶血させるための溶解剤が供与された溶解チャンバーを含んでいる。
【0011】
本発明の一態様およびその変法では、前記経路構造は前記血液サンプルの総ヘモグロビン値(Hb)を測定するための第1分析経路と、該血液サンプルのグリコヘモグロビン値(HbA1c)を測定するための第2分析経路とを有する。該経路構造により、血液を単に検査要素に加えるだけで、HbA1c検査を割り当てられた流路内でワンステップにて実施することが可能となる。
【0012】
ある好都合な実施形態では、前記の分析経路は並列に配置されており、前記混合部位下流のフロー分割器として機能する分岐点を介してこれらの分析経路に希釈済みの血液サンプルをロードすることができる。
【0013】
前記第1分析経路が、放出されたヘモグロビンを酸化するために組み込まれた酸化剤、特にフェリシアン化物を含有する酸化チャンバーを有していると、総ヘモグロビン値を測定する際に都合が良い。
【0014】
前記第2分析経路はグリコヘモグロビン濃度の免疫濁度測定を行うために有利となるよう設計されている。このためには、該第2分析経路はHbA1c抗体が供給されている第1反応チャンバーと、該第1反応チャンバーの下流に配置された凝集剤を含有する第2反応チャンバーとを有するのが有利である。
【0015】
血中のHbA1cを測定するための他の基本的な方法、例えばEP-A-0989407に記載された方法も当業者には公知である。これらの方法もまた本発明で使用することが可能であり、またそれ故、これらの方法は明らかに本発明に含まれる。
【0016】
前記分析経路の末端部分は光度分析用キュベットとして設計されており、簡便な非接触検出用の分析部位を成す。
【0017】
サンプル液を安全かつ衛生的に回収するためには、該サンプル液が前記分析経路から回収用貯蔵器に排出されると都合が良い。
【0018】
自動フロー輸送は、全体的または部分的に毛管形態を有する前記経路構造によって達成される。該経路構造が表面加工、例えばプラズマ処理や被膜によって改変された障壁部分を有していると、フロー輸送を制御する際に都合が良い。別の好都合な実施形態では、該経路構造は該フロー輸送を制御するためのバルブ要素を、特に親水性または疎水性の経路部分の形で有する。しかし基本的には、該経路構造内のフロー輸送を、前記基体に作用する外部制御手段によって、特に圧力または遠心力を局所的に加えることによって外部から制御することも可能である。
【0019】
前記の手法においては、本発明の目的は、分析しようとする血液サンプルの一部に希釈目的で導入する液体成分を同血液サンプルから得ることによって達成される。好都合な実施形態では、出発物質である全血サンプルは前記経路構造中の希釈経路とサンプル経路とに送り込まれて並行する複数のサブフローとなり、さらに該希釈経路における細胞成分が枯渇したサブフローは混合部位にて該サンプル経路におけるサブフローと合流する。
【実施例】
【0020】
図中に概略を示した適用例に基づいて、本発明を以下により詳しく説明する。図1は簡易検査において血液サンプル中のHb値およびHbA1c値を測定するための分析検査要素を表す。
【0021】
図中の検査要素10は、分析しようとするごく微量の(μL)血液サンプル16を、適用領域18からHbおよびHbA1cのための測定もしくは分析部位20,22へフロー輸送する目的で作成された経路構造14を含有する、細長い支持体または基体12を含む。
【0022】
前記基体12は、プラスチックから射出成形部位として、または何層かのアルミ箔から作成される複合部位として成形することができる。該基体12は単回用検査用の消耗品またはいわゆる使い捨て用品として設計される。
【0023】
前記経路構造14は、前記基体内にて直接成形するか、またはエンボス加工やスタンピングなどの特殊な加工方法によって成形することができる。また少なくともその一部分は、血液の毛管作用性自動フロー輸送に適した毛管形態を有する。
【0024】
前記適用領域18を開始点とする前記経路構造14は、希釈経路24、アリコートまたはサンプル経路26およびそれぞれ分析部位20,22へと通じる2つの分析経路28,30を有する。
【0025】
前記血液サンプル16を、接合部32を介して前記希釈経路24と前記サンプル経路26に供給することにより、該血液サンプルを2つの並行する流れに分けることができる。これらの経路の断面積が適切に設計されているため、該希釈経路24における流速は該サンプル経路26における流速よりも何倍も速い。
【0026】
前記希釈経路24は、分離チャンバー34内に、これを通過する一部の血液サンプル16の細胞成分を保持するための分離手段36を収容している。かかる分離手段36は、例えば該分離チャンバー34内に配置されたグラスファイバーフリースであってもよい。
【0027】
前記希釈経路24および前記サンプル経路26は、溶解剤38を含有する混合または溶解チャンバー40内にその内容物を排出する。その出口側はフロー分割器として機能する分岐点41を介して分析経路28,30へと通じている。
【0028】
放出されたヘモグロビンを酸化するため、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムなどの酸化剤42を含有する酸化チャンバー44が前記第1分析経路28中に配置されている。その下流に配置された前記分析部位20は、Hbの光度測定用キュベットとして設計されている。
【0029】
前記第2分析経路30は、グリコヘモグロビンの免疫濁度測定に使用される。このため、該経路はHbA1c抗体48が供給されている第1反応チャンバー46と、それに続いて、過剰なHbA1c抗体に対する凝集剤52を含有する第2反応チャンバー50とを有する。前記第2分析部位22はこれらの反応チャンバーの下流に配置されており、これもやはり濁度の光度測定用キュベットとして設計されている。
【0030】
前記分析経路20,22はいずれも、検査済みの液体サンプルを廃棄物として共通の回収用貯蔵器54内に排出する。親水性または疎水性の表面改質を施した障壁またはバルブ要素56をこれらのキュベット20,22、および場合により前記チャンバー40,44,46,50の出口側に配置することにより、前記フロー輸送を制御することができる。これらの要素により、反応工程の制御、特にサンプル容量と測定工程の制御、前記反応チャンバーにおける導入された乾燥試薬の溶解とその混合が、例えばその液流を一時的に遮断することによって可能となる。
【0031】
グリコヘモグロビンを測定するためのin vitro簡易検査を実施するため、使用者により少量の全血が前記適用領域18に加えられる。そのアリコートは前記サンプル経路26を介して前記溶解チャンバー40へと運ばれ、前記希釈経路24にて赤血球を取り除いて得られた血漿と該チャンバー内で混じり合う。その結果、分析物の濃度は所定の値まで希釈されるかまたは低下するため、さらに希釈用の液体で処理する必要は無い。またその際、該サンプルは該溶解チャンバー40において、赤血球を溶解して赤色色素を有するヘモグロビンを放出させる乾燥物質として供与された溶解剤38(例えばサポニン)と混じり合う。
【0032】
前記の希釈済み溶血血液の一部は前記分岐点41を介して前記第1分析経路28へと運ばれ、前記酸化チャンバー44内で特徴的なスペクトルを有する誘導体へと変換される。該誘導体が前記キュベット20を通過した後、図中には示されていない光度計を用いて総ヘモグロビン濃度Hbを測定することができる。
【0033】
グリコヘモグロビン濃度を測定する場合、前記の希釈済み溶血血液の別の一部は前記分岐点41を介して前記第2分析経路30へと運ばれる。この経路内にある前記第1反応チャンバーにおいて前記サンプルに由来するグリコヘモグロビンHbA1cが過剰なHbA1c抗体48と混ざり合い、可溶性抗原-抗体複合体へと変換される。残った遊離抗体48を前記第2反応チャンバー50にて凝集させた後、前記キュベット22にて濁度を測定する。濁度における変化は結合したグリコヘモグロビンの量に反比例している。その後、Hbに対するHbA1cの割合として最終結果を算出する。
【0034】
上記の検査手順により、追加の液体を供給したり加えたりする必要の無いワンステップの手法を実施することができる。供給された乾燥試薬を自動統制ミクロ流体用反応経路内で制御して溶解させることにより、得られた血漿量をその後の工程で、例えば過剰な試薬を洗い流すために使用し得るような他の測定方法の使用も含めたHbA1c検査の他の実施形態も可能になることは明らかである。基本的には、直列に並べた経路部分内で、また場合により事前にサンプルを希釈することなしに、HbおよびHbA1c測定を実施することが可能である。また前記経路構造の少なくとも一部を多孔性マトリクス材料から形成することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、簡易検査において血液サンプル中のHb値およびHbA1c値を測定するための分析検査要素を例示したものである。
【符号の説明】
【0036】
10:検査要素
12:支持体または基体
14:経路構造
16:血液サンプル
18:適用部位または領域
20:Hbのための測定または分析部位
22:HbA1cのための測定または分析部位
24:希釈経路
26:アリコートまたはサンプル経路
28:第1分析経路
30:第2分析経路
32:接合部
34:フィルターチャンバーまたは分離チャンバー
36:分離手段
38:溶解剤
40:混合部位または混合もしくは溶解チャンバー
41:分岐点
42:酸化剤
44:酸化チャンバー
46:第1反応チャンバー
48:HbA1c抗体
50:第2反応チャンバー
52:凝集剤
54:回収用貯蔵器
56:障壁またはバルブ要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは血液サンプルをその適用部位(18)から少なくとも1つの分析部位(20,22)へフロー輸送するためのミクロ流体用経路構造(14)を有する基体(12)を含む、特に単回用簡易検査による血液分析のための分析用検査要素であって、該経路構造(14)が、該血液サンプルをロードすることが可能でかつ微粒血液成分を保持するための分離手段(36)を備えた希釈経路(24)と、希釈しようとする血液サンプルのアリコートを運搬しかつ該希釈経路(24)と混合部位(40)にて合流するサンプル経路(26)とを有することを特徴とする、前記分析用検査要素。
【請求項2】
前記血液サンプルの流れを並行する流れに分割する接合部(32)を介して、該血液サンプルが前記サンプル経路(26)と前記希釈経路(24)に供給されることを特徴とする、請求項1記載の分析用検査要素。
【請求項3】
前記サンプル経路および前記希釈経路(26,24)の経路断面積が、通過する前記血液サンプルのサブフローに対する所定の分割比を設定するために相対的に調整されることを特徴とする、請求項1または2記載の分析用検査要素。
【請求項4】
前記混合部位(40)が、希釈済みの血液サンプルを溶血させるための溶解剤(38)が供与された溶解チャンバー(40)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析用検査要素。
【請求項5】
前記経路構造(14)が、前記血液サンプルの総ヘモグロビン値(Hb)を測定するための第1分析経路(28)と該血液サンプルのグリコヘモグロビン値(HbA1c)を測定するための第2分析経路(30)とを有していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析用検査要素。
【請求項6】
血液サンプルが分析用検査要素(10)内を好ましくはミクロ流体用経路構造(14)を介してその適用部位(18)から少なくとも1つの分析部位(20,22)へと運搬される、特に単回用簡易検査として血液分析を実施するための方法であって、液体成分を該血液サンプルから取得し、さらに該成分を分析しようとする該血液サンプルの一部に加えてこれを希釈することを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
出発物質である全血サンプルが前記経路構造(14)中の希釈経路(24)とサンプル経路(26)に並行するサブフローとして供給され、また該希釈経路(24)内の細胞成分が枯渇したサブフローが混合部位(40)にて該サンプル経路(26)内のサブフローと合流することを特徴とする、請求項6記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−216269(P2008−216269A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154841(P2008−154841)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【分割の表示】特願2004−21784(P2004−21784)の分割
【原出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】