説明

血液型判定方法

【課題】本願発明は、正確な血液型判定を容易に行うことができる血液型判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】以下の工程によって血球細胞を検査することを特徴とする血液型判定方法が提供される:(i)血球細胞を基板に固相化する工程と、(ii)前記工程(i)の前又は後に、前記血球細胞の血液型を表す抗原性部位に特異的に結合し得る標識抗体を、該血球細胞と反応させる工程と、(iii)前記固相化された血球細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程と、(iv)前記固相化された血球細胞に結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、該標識抗体の分布パターンを作成する工程と、(v)前記工程(iii)で作成された細胞分布パターンと、前記工程(iv)で作成された標識抗体分布パターンに基づき、前記血球細胞の前記標識抗体に対する反応性を判定する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液型判定方法に関し、より詳細には、顕微鏡を用いて個々の細胞における抗原抗体反応を検出することによって血液型を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液型の判定には、血球の凝集を観察して判定する凝集法が用いられてきた(例えば特許文献1)。しかしながら、凝集法による測定では、試験結果を数値化することが困難であり、客観性に欠けるという問題があった。
【0003】
血液型判定の他の方法として、EIA法、MPHA法等の固相法がある。固相法では、基板やウェルに細胞を固相化し、蛍光標識抗体又は粒子を付けた抗体を反応させて、蛍光や光の透過度を測定し、蛍光又は粒子の分布パターンによって判定をする。しかしながら、基板やウェルに固相化される細胞数は一定でなく、サンプルごとにばらつきが生じるため、測定誤差が大きくなるという問題があった。
【0004】
また、血液型判定の他の方法として、フローサイトメータ(FCM)を用いた方法がある。FCMを用いた方法では、個々の細胞の抗原抗体反応を測定できるという利点がある。しかしながら、検体をFCMに供するためにはB/F分離する必要があるため、操作が煩雑であり、多くの検体を処理する必要がある場合などには適さないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−4625号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題に鑑み、本願発明は、正確な血液型判定を容易に行うことができる血液型判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の工程によって血球細胞を検査することを特徴とする血液型判定方法を提供する:(i)血球細胞を基板に固相化する工程と、(ii)前記工程(i)の前又は後に、前記血球細胞の血液型を表す抗原性部位に特異的に結合し得る標識抗体を、該血球細胞と反応させる工程と、(iii)前記固相化された血球細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程と、(iv)前記固相化された血球細胞に結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、該標識抗体の分布パターンを作成する工程と、(v)前記工程(iii)で作成された細胞分布パターンと、前記工程(iv)で作成された標識抗体分布パターンに基づき、前記血球細胞の前記標識抗体に対する反応性を判定する工程。
【0007】
また、本発明の他の態様において、以下の工程によって抗体を検査することを特徴とする血液型判定方法を提供する:(a)血液型を表す抗体と特異的に結合し得る抗原細胞を基板に固相化する工程と、(b)検査対象の抗体を含む試料溶液を、前記固相化された抗原細胞と反応させる工程と、(c)前記固相化された抗原細胞に結合した抗体に、該抗体に対して特異的に結合する標識抗体をさらに結合させる工程と、(d)前記固相化された抗原細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程と、(e)前記抗原細胞と結合した抗体にさらに結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、該標識抗体の分布パターンを作成する工程と、(f)前記工程(d)で作成された細胞分布パターンと、前記工程(e)で作成された標識抗体分布パターンに基づき、前記検査対象の抗体の前記抗原細胞に対する反応性を判定する工程。
【0008】
上記方法において、前記固相化された細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程は、大きさによって細胞を識別し、1個ごとの細胞の位置を特定する工程であることが好ましく、特に、明視野における顕微鏡撮影画像を用いて行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本願発明の血液型判定方法に拠れば、顕微鏡を用いることによって、個々の細胞の抗原抗体反応の検出が極めて簡便に行え、従って、正確な血液型判定を容易に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明の第一の態様に従って、血球細胞を検査するおもて試験のための方法が提供される。
【0011】
ここで血球細胞とは、血液中の細胞成分を指し、赤血球、白血球、及び血小板を含む。血液型は、ABO式血液型、S式血液型、Rh式血液型、MN式血液型、HLA抗原(ヒト白血球抗原)に関する血液型、HPA抗原(ヒト血小板抗原)に関する血液型など、種々の方式によるものがあるが、本願発明の血液型判定方法は何れの血液型判定にも適用することができる。
【0012】
第一の態様における血液型判定方法では、まず、血球細胞を基板に固相化し、次いでその血球細胞の血液型を表す抗原性部位に特異的に結合し得る標識抗体を反応させる。
【0013】
ここで用いられる基板は、細胞を固相化するのに適した材質からなるものであって、顕微鏡撮影に供することができるものであれば何れのものでもよく、好ましくはガラス基板が用いられる。細胞の固相化は、当該分野で周知の方法により行うことができる。
【0014】
標識抗体としては、測定すべき血液型における抗原に対応する抗体を用いる。例えば、ABO式血液型を試験する際には、抗原は赤血球のA型抗原及びB型抗原であり、A抗原特異性抗体及びB抗原特異性抗体を用いる。
【0015】
標識抗体は、蛍光標識物質、放射性同位体、色素などの標識物質によって予め標識されたものを用いるが、蛍光標識物質で標識されることが好ましい。蛍光標識物質は、当該分野で通常用いられるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、及びテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等であってよいが、これらに限定されない。
【0016】
複数の抗体がある場合は、それぞれの抗体を異なる標識物質で標識することによって同時に試験することができる。例えば、ABO式血液型試験の場合、A抗原特異性抗体をFITCで標識し、B抗原特異性抗体をTRITCで標識する。これにより、図1に示すように、どちらの標識も結合しない赤血球はO型であり、FITC標識抗体のみが結合するのはA型であり、TRITC標識抗体のみが結合するのはB型であり、両方の抗体が結合するのはAB型であることが分かる。このように、各抗体に異なる標識をすることによって、抗体ごとに試験する必要がなく、複数の抗体を同時に用いることができる。
【0017】
標識抗体と血球細胞の反応は、抗原抗体反応が生じる条件下で行えばよく、基板に固相化された血球細胞に、標識抗体を含む試料溶液を滴下して行ってもよい。
【0018】
なお、標識抗体と血球細胞の反応は、血球細胞を基板に固相化する前に行い、反応後に血球細胞を固相化してもよい。
【0019】
血球細胞と標識抗体の反応後は、基板を洗浄して未反応の標識抗体を除去する。本発明の方法では、細胞が固相化されているため、未反応の標識抗体を洗浄するだけで容易に除去することができる。
【0020】
次に、固相化された血球細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する。即ち、基板上に存在する細胞と細胞以外の混入物質とを識別し、細胞を確認するとともにその位置を記録する。細胞分布パターンとは、基板上の何れの位置に細胞が固相化されているかを記録するためのものであって、顕微鏡で撮影した画像を解析して作成すればよい。例えば、細胞の識別はその大きさによって行ってもよく、基板上での座標軸を用いて1個ごとの細胞の位置を特定して、細胞分布パターンとしてもよい。
【0021】
顕微鏡撮影の際には、細胞を従来公知の色素によって染色してもよく、或いは抗体とは別の標識を結合させて検出してもよい。しかしながら、これらの操作は煩雑であるため、明視野において細胞を顕微鏡撮影し、その画像から細胞の識別並びに分布パターンの作成を行うことが好ましい。
【0022】
細胞分布パターンの作成とは別に、基板に固相化された血球細胞に結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、その標識抗体の分布パターンを作成する。これは、抗体に結合した標識物質を、該標識物質に適切な方法で顕微鏡撮影して解析することにより、基板上に存在する標識抗体の位置を分布パターンとして作成する。例えば、蛍光標識物質で抗体を標識した場合は、適切な励起光とフィルターを用いて撮影すればよい。
【0023】
図2に、各パターンの概念図を示した。図2(a)は、明視野で細胞を撮影した場合の模式図であり、細胞を認識し、その位置を確認する。図2(b)は、FITC標識の検出条件下での暗視野における蛍光撮影の図であり、細胞が蛍光を発していることを表している。反対に、図2(c)はTRITC標識の検出条件下で撮影した場合の模式図であり、細胞が蛍光を有さず、TRITC標識抗体が結合していないことを示す。従って、図2の細胞は、FITC標識抗体のみが結合する細胞であることが判明する。
【0024】
なお、標識抗体分布パターンの作成は、細胞分布パターン作成の前後に行ってもよいが、並行して行ってもよい。例えばある視野において、細胞分布パターンを作成し、続いてそれぞれの標識抗体に適した条件で撮影して標識抗体分布パターンを撮影する。次いで、視野を移動させて再び同様の工程を繰り返し、基板全体のパターンを作成してもよい。
【0025】
最後に、作成された細胞分布パターンと標識抗体分布パターンを比較することにより、細胞と標識抗体の結合の有無や、1個の細胞が有する標識信号強度等を解析する。基板上に固相化された細胞のうち、所定の強度以上の標識を有する細胞が、所定の割合以上存在することによって、その細胞は標識抗体と結合する細胞であるとすることができる。即ち、標識抗体に対する抗原性を有すると判定することができ、この結果から血液型が決定される。
【0026】
次に、本発明の第2の態様に従った、抗体を検査するうら試験のための血液型判定方法を説明する。
【0027】
血液型を表す抗体は、血清や血液、他の体液中に存在し、例えば、ABO式血液型、S式血液型、Rh式血液型、MN式血液型等の種々の血液型を表す抗原に特異的に結合する抗体を含む。
【0028】
本態様の方法では、まず、血液型を表す検査対象の抗体と特異的に結合する可能性のある抗原細胞を、基板に固相化する。例えばABO式血液型を試験する場合、検査対象の抗体はA抗原特異性抗体及びB抗原特異性抗体であり、これらと特異的に結合する可能性のあるA抗原及びB抗原を有する赤血球を抗原細胞として用いる。複数の抗原細胞が存在する場合は、別々に固相化する。
【0029】
次に、検出対象の抗体を含む試料溶液を、固相化された抗原細胞に供し、適切な条件下で抗原抗体反応させる。反応が終了した後、未反応の抗体を洗浄して除去する。
【0030】
次いで、標識抗体を含む試料溶液を該基板に供し、固相化された抗原細胞に結合した抗体に、適切な条件下においてさらに標識抗体を結合させる。抗体と標識抗体との反応が終了した後、洗浄して未反応の標識抗体を除去する。
【0031】
ここで用いる標識抗体は、いわゆる二次抗体であり、検査対象の抗体に対して特異的に結合する抗体を標識物質で標識して用いる。この標識抗体は、例えばイムノグロブリン(Ig)であってよく、標識物質は、上記第一の態様において記載したものと同様であってよいが、特に蛍光標識物質を用いることが好ましい。
【0032】
図3は、本態様の概念図である。基板に固相化された抗原細胞の抗原性部位に、検出されるべき抗体が結合し、この抗体に標識されたIg抗体が結合する。
【0033】
図3においては、標識抗体として抗ヒトIgG抗体及び抗ヒトIgM抗体を用いた。例えば、ABO式血液型を試験する場合、赤血球に反応するヒトIg抗体はIgG抗体とIgM抗体の二種類が存在し、これらの割合は個体によって異なる。よって、標識抗体として抗ヒトIgG抗体及び抗ヒトIgM抗体を用い、これらを同じ標識物質で標識することで、検査対象の試料に含まれる抗体が何れのヒトIg抗体であっても正確な測定が可能である。
【0034】
次に、固相化された抗原細胞を顕微鏡撮影し、上記第一の態様において記載したように、個々の細胞の分布パターンを作成する。
【0035】
また、細胞分布パターンの作成とは別に、抗原細胞と結合した抗体にさらに結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、上記第一の態様において記載したように、該標識抗体の分布パターンを作成する。
【0036】
最後に、作成された細胞分布パターンと標識抗体分布パターンを比較することにより、検出対象の抗体と抗原細胞との結合の有無や、1個の細胞が有する標識信号強度等を解析する。基板上に固相化された細胞のうち、所定の強度以上の標識を有する細胞が、所定の割合以上存在することによって、検査対象の抗体が、使用した抗原細胞との反応性を有することが判明し、この結果から血液型が決定される。
【0037】
以上記載したように、本発明の血液型判定方法によれば、個々の細胞の抗原抗体反応を検出することができることから、固相化された細胞数に影響されることなく正確な判定を行うことが可能である。また、顕微鏡を用いて基板に固相化された細胞を撮影するため、未反応の標識抗体は洗浄するだけで除去することができ、B/F分離する必要がないために極めて簡便に測定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】標識物質による血液型判定の概念図。
【図2】細胞及び標識抗体の分布パターンを示す概念図。
【図3】第2の態様における抗原抗体反応の概念図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程によって血球細胞を検査することを特徴とする血液型判定方法:
(i)血球細胞を基板に固相化する工程と、
(ii)前記工程(i)の前又は後に、前記血球細胞の血液型を表す抗原性部位に特異的に結合し得る標識抗体を、該血球細胞と反応させる工程と、
(iii)前記固相化された血球細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程と、
(iv)前記固相化された血球細胞に結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、該標識抗体の分布パターンを作成する工程と、
(v)前記工程(iii)で作成された細胞分布パターンと、前記工程(iv)で作成された標識抗体分布パターンに基づき、前記血球細胞の前記標識抗体に対する反応性を判定する工程。
【請求項2】
以下の工程によって抗体を検査することを特徴とする血液型判定方法:
(a)血液型を表す抗体と特異的に結合し得る抗原細胞を基板に固相化する工程と、
(b)検査対象の抗体を含む試料溶液を、前記固相化された抗原細胞と反応させる工程と、
(c)前記固相化された抗原細胞に結合した抗体に、該抗体に対して特異的に結合する標識抗体をさらに結合させる工程と、
(d)前記固相化された抗原細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程と、
(e)前記抗原細胞と結合した抗体にさらに結合した標識抗体を顕微鏡撮影し、該標識抗体の分布パターンを作成する工程と、
(f)前記工程(d)で作成された細胞分布パターンと、前記工程(e)で作成された標識抗体分布パターンに基づき、前記検査対象の抗体の前記抗原細胞に対する反応性を判定する工程。
【請求項3】
前記固相化された細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程は、大きさによって細胞を識別し、1個ごとの細胞の位置を特定する工程である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固相化された細胞を顕微鏡撮影し、個々の細胞を認識して細胞分布パターンを作成する工程は、明視野における顕微鏡撮影画像を用いて行われる、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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