説明

血液採取及び分離装置

【課題】 老人や血管の細い被採血者から、溶血を引き起こすことなく無理なく血液を採取することができ、かつ血液の採取から血漿もしくは血清の分離までの工程を安全にかつ簡便に行うことを可能とする血液採取及び分離装置を提供する。
【解決手段】 第1の容器2が第2の容器3に挿入されており、かつ第1の容器2の端部に固定されている気密接触部材4により、第2の容器3内において第1の容器2が気密接触状態を維持した状態で移動し得るように構成されており、第1の容器2の外側端部に採血針装着部2aが設けられており、第1の容器2内に採血針装着部2aの開口2bから第2の容器3側に至る血液流路2cが設けられており、第2の容器3内に血液を血球と血漿もしくは血清とに分離するフィルタ部材が収納されており、かつ第2の容器3の第1の容器2側の端部とは反対側の端部の開口3aが閉成部材8により気密封止されている、血液採取及び分離装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を採取し、かつ採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに分離することを可能とする血液採取及び分離装置に関し、特に、内部を予め減圧しておく必要がなく、細い血管などからも血液を容易に採取することができ、かつ採取された血液から血漿もしくは血清を容易に分離することを可能とする血液採取及び分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床検査等においては、血漿もしくは血清を分離し、血漿もしくは血清中の様々な成分を検出することにより検査が行われている。そのため、被検査者から血液を例えば真空採血法により採取した後、血球と血漿もしくは血清とに血液を分離していた。この分離に際しては、遠心分離法などが多用されていた。
【0003】
しかしながら、遠心分離法を利用した場合、高価でかつ大型の遠心分離装置を必要とした。
【0004】
他方、下記の特許文献1には、血液を被検査者から採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに内部で分離することを可能とする血液分離装置が開示されている。この血液分離装置は内部が減圧されており、真空採血管と同様に、圧力差により被検査者の血管から血液を導くことが可能とされている。血液分離装置内には、血液分離フィルタが収納されており、採取された血液を血球と、血漿もしくは血清とに内部で分離することが可能とされている。
【特許文献1】特開2004−325412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の血液分離装置では、血液の採取から、血液を血球と血漿もしくは血清とに分離する作業までを血液分離装置内で容易に行うことができる。
【0006】
しかしながら、真空採血管を用いた場合と同様に、圧力差により血液を採取することとなるため、老人や血管の細い被検査者から血液を採取しようとした場合、血管が収縮し、採血できないことがあった。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、血液の採取から、血球と血漿もしくは血清とに血液を分離する工程までを容易にかつ速やかに行うことができるだけでなく、老人や血管の細い被検査者からも血液を容易に採取することが可能である、血液採取及び分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1の発明によれば、血液を採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに分離することを可能とする血液採取及び分離装置であって、第1の端部に採血針装着部が設けられており、該採血針装着部から第1の端部とは反対側の端部である第2の端部に向かって延びるように血液流路が形成されている第1の容器と、前記第1の容器が前記第2の端部側から挿入される第2の容器と、前記第1の容器の第2の端部に固定されており、第1,第2の容器内を気密的に連結し、かつ第2の容器の内周面に対して気密的に接触された状態で、第2の容器内で移動される気密接触部材と、前記第2の容器内に収納されており、前記第1の容器側から導かれた血液を、血球と、血漿もしくは血清とに分離するためのフィルタ部材と、前記第2の容器の前記第1の容器が挿入される側とは反対側の端部を気密封止しており、血漿もしくは血清を採取することを可能とする閉成部材とを備え、前記第1の容器内の前記血液流路が前記気密接触部材を経て第2の容器内に開口しており、かつ前記第1の容器内に血液が導かれた後に、前記採血針装着部を気密的に封止するための気密封止部材をさらに備えることを特徴とする、血液採取及び分離装置が提供される。
【0009】
第1の発明に係る血液採取及び分離装置のある特定の局面では、血液を採取した後に、前記第2の容器内において、前記フィルタ部材よりも前記第1の容器側に加圧用内部空間が設けられるように前記第2の容器が構成されている。
【0010】
本願の第2の発明によれば、血液を採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに分離することを可能とする血液採取及び分離装置であって、第1の端部に採血針装着部が設けられており、第1の端部とは反対側の第2の端部に向って延ばされており、第2の端部に開口を有する第1の容器と、前記第1の容器の前記第2の端部の開口から挿入されている第2の容器と、前記第2の容器の外周側面に固定されており、第1,第2の容器内を気密的に連結し、かつ第1の容器の内周面に対して気密接触された状態で、第1の容器内で移動される気密接触部材と、前記第2の容器内に収納されており、前記第1の容器側から導かれた血液を、血球と、血漿もしくは血清とに分離するためのフィルタ部材と、前記第2の容器の前記第1の容器に挿入される側とは反対側の端部を気密的封止しており、血漿もしくは血清を血液から採取することを可能とするための閉成部材と、前記第1の容器内に血液が導かれた後に、前記採血針装着部を気密的に封止するために取り付けられる気密封止部材とを備えることを特徴とする、血液採取及び分離装置が提供される。
【0011】
第2の発明に係る血液採取及び分離装置のある特定の局面では、血液を採取した後に、前記フィルタ部材よりも前記第1の容器側に加圧用内部空間が設けられるように、前記第1の容器が構成されている。
【0012】
本発明(第1,第2の発明)に係る血液採取及び分離装置の他の特定の局面では、前記加圧用内部空間において、血液を加圧した後に第1の容器の第2の容器から遠ざかる方向への移動を禁止するように前記気密接触部材に係止される係止突起が設けられている。
【0013】
本発明に係る血液採取及び分離装置のさらに別の特定の局面では、前記第2の容器の開口を閉成している閉成部材が、中空針により刺通され得る栓体である。
【0014】
本発明に係る血液採取及び分離装置のさらに他の特定の局面では、前記栓体が、前記第2の容器内に圧入されている圧入部と、前記第2の容器外に露出している把持部とを有し、該把持部の少なくとも外側面を覆うように設けられたカバー部材がさらに備えられている。
【0015】
本発明に係る血液採取及び分離装置のさらに他の特定の局面では、前記閉成部材が、前記第2の容器の第1の容器とは反対側の端部開口を閉成しているシート状部材により構成されている。
【0016】
本発明に係る血液採取及び分離装置のさらに他の特定の局面では、前記シート状部材の少なくとも一部に、中空針が刺通されるゴム弾性材料からなる刺通部材が貼り付けられている。
【0017】
本発明の血液採取及び分離装置のさらに別の特定の局面では、前記第2の容器の前記フィルタ部材が配置されている部分よりも下流側に貫通孔が形成されており、該貫通孔に、第2の容器内から第2の容器外へ圧力差により気体を通過させるが、逆方向には圧力差により気体を通過させない逆止め弁が取り付けられている。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明に係る血液採取及び分離装置では、第1の容器が第2の端部側から第2の容器に挿入されており、第1の容器の第1の端部に採血針装着部が設けられおり、採血針装着部から第2の端部に向かって延びるように血液流路が形成されている。そして、第1の容器の第2の端部に気密接触部材が固定されており、第1の容器が第2の容器の内周面に対して気密的に接触された状態で、第2の容器内で移動することが可能とされている。
【0019】
従って、第1の容器の採血針装着部に採血針を装着し、採血針を血管内に、あるいは血液内に挿入し、第2の容器と第1の容器とが遠ざかるように、気密接触的に第1の容器を第2の容器内で移動させれば、第1の容器内に血液が導かれることになる。
【0020】
すなわち、筒状の注射シリンジに採血針を装着して血液を採取する場合と同様にして血液を採取することができる。この場合、血液にはさほど大きな負圧は加わらない。すなわち、真空採血管を用いた場合には大きな負圧が加わるのに対し、第1の発明では、第2の容器の移動速度を低くすることにより、大きな負圧を加えることなく、血液を採取することができる。従って、血管の細い被採血者や、老人からも無理なく血液を採取することができる。
【0021】
他方、第2の容器内にはフィルタ部材が収納されており、第1の容器側から導かれた血液が、血球と血漿もしくは血清とに分離されることとなる。従って、分離後に、第2の容器の閉成部材を取り外すことにより、あるいは閉成部材に中空針を刺通させること等により第2の容器の端部から血漿もしくは血清を採取することができる。
【0022】
また、上記採取に際し、第1の容器に血液が導かれた後には、採血針装着部が、気密封止部材により気密的に封止される。従って、血液を導いた後に、フィルタ部材により血漿もしくは血清が分離された後、上下逆転させ、第2の容器の閉成部材により閉成されている側の端部を上方となるようにした状態で、血漿もしくは血清を採取することができる。
【0023】
第1の発明に係る血液採取及び分離装置において、第2の容器内において、血液採取後に、フィルタ部材よりも第1の容器側に、加圧用内部空間が設けられるように第2の容器が構成されている場合には、血液を採取した後に、第1の容器と第2の容器とを近づけ、上記加圧用内部空間の体積が小さくなるように血液を加圧することにより、フィルタ部材における濾過を速やかに進めることが可能となる。
【0024】
第2の発明に係る血液採取及び分離装置では、第2の容器が第1の容器の第2の端部側から挿入されており、第1の容器の第1の端部に採血針装着部が設けられている。そして、第2の容器に気密接触部材が固定されており、第2の容器が第1の容器の内周面に対して気密接触された状態で、第1の容器内で移動されることが可能とされている。従って、第1の容器の採血針装着部に採血針を装着し、採血針を血管内に、あるいは血液内に挿入し、第2の容器と第1の容器とを遠ざけるように、気密接触的に第2の容器を第1の容器内に移動させれば、第1の容器内に血液が導かれる。
【0025】
すなわち、筒状の注射シリンジに採血針を装着して血液を採取する場合と同様にして採血を行うことができる。この場合、血液にはさほど負圧は加わらない。すなわち、真空採血管を用いた場合に大きな負圧が加わるのに対し、第2の発明では、第1の発明の場合と同様に、第2の容器の移動速度を低くすることにより、大きな負圧を与えることなく、血液を採取することができる。従って、血管の細い被採血者や老人からも無理なく血液を採取することができる。
【0026】
他方、第2の容器内には、フィルタ部材が収納されており、第1の容器から導かれた血液が血球と血漿もしくは血清とに分離される。従って、分離後に、第2の容器の閉成部材を取り外すことにより、あるいは閉成部材の中空針を刺通させること等により、第2の容器内の血漿もしくは血清を容易に採取することができる。
【0027】
また、上記血液の採取に際し、第1の容易に血液が導かれた後には、採血針装着部が気密封止部材により気密的に封止される。従って、血液を導き、フィルタ部材により血漿もしくは血清が分離された後、上下逆転させ、第2の容器の閉成部材により閉成されている側の端部を上方となるようにした状態で、血漿もしくは血清を容易に採取することができる。第2の発明に係る血液採取分離装置において、加圧用内部空間が設けられるように、第1の容器が構成されている場合には、血液を採取した後に、第1の容器と第2の容器とを近づけ、上記加圧用内部空間の体積が小さくなるように加圧することにより、フィルタ部材における濾過を速やかに進めることができる。
【0028】
上記加圧用内部空間において、血液を加圧した後に、第1の容器の第2の容器から遠ざかる方向への移動を禁止するように前記気密接触部材に係止される係止突起が設けられている場合には、濾過が終了するまで確実に血液を加圧することができる。
【0029】
第2の容器の開口を閉成している閉成部材が、中空針により刺通される栓体である場合には、該栓体に中空針を刺通することにより血漿もしくは血清を速やかに採取することができる。
【0030】
上記栓体が、第2の容器内に圧入されている圧入部と、第2の容器外に露出している把持部とを有し、把持部の外側面を覆うように設けられたカバー部材をさらに備える場合には、カバー部材ごと栓体を第2の容器から容易に取り外すことができ、血液感染のおそれを低減することができる。
【0031】
閉成部材が第2の容器の第1の容器とは反対側の端部の開口を閉成しているシート状部材により構成されている場合には、シート状部材を第2の容器の端部開口から取り外すだけで、容易に血漿もしくは血清を採取することができる。
【0032】
あるいは、上記シート状部材に中空針を刺通させることが容易であるので、中空針を用いた血漿もしくは血清の採取も容易に行われ得る。
【0033】
特に、シート状部材の少なくとも一部に、中空針が刺通されるゴム弾性材料からなる刺通部材が貼り付けられている場合には、該刺通部材において中空針を刺通させることができる。その場合には、刺通部材がゴム弾性材料からなるので、血漿もしくは血清の漏洩を確実に防止することができる。
【0034】
第2の容器に貫通孔が形成されており、該貫通孔に上記逆止め弁が取り付けられている場合には、第2の容器内の血漿もしくは血清が採取される部分の内部空間の圧力が大気圧よりも高い場合、確実に該血漿もしくは血清を採取するための内部空間の圧力を大気に解放することができる。従って、濾過が進行しているうちに、フィルタ部材の上流側の内部空間と、フィルタ部材の下流側の内部空間である血漿もしくは血清採取部分との間の圧力差がなくなった場合であっても、上記血漿もしくは血清を採取するための内部空間が大気に解放されることになるため、フィルタ部材の上流側の内部空間に比べ、下流側の血漿もしくは血清を採取するための内部空間の圧力を容易に低めることができる。よって、濾過を確実に進行させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0036】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る血液採取及び分離装置の要部を示す縦断面図である。
【0037】
血液採取及び分離装置1は、第1の容器2と第2の容器3とを有する。第1の容器2は、円筒状の形状を有し、第1の端部に採血針が装着される採血針装着部2aが設けられている。採血針装着部2aは、円錐台状の形状を有し、容器2の第1の端部側において、突出するように設けられている。採血針装着部2aの開口2bは、採血針内の流路に連通されるように設けられている。また、開口2bは、容器2内に設けられた血液流路2cに連なっている。
【0038】
血液流路2cは、第1の容器2内を、第1の端部とは反対側の第2の端部側に延ばされている。
【0039】
上記第1の容器2の第2の端部側には、気密接触部材としてのガスケット4が取り付けられている。ガスケット4は、第1の容器2の第2の端部開口を閉成するように固定されている。
【0040】
ガスケット4は、中心に貫通孔4aを有する。貫通孔4aは、血液流路2cに連ねられている。血液流路2cは、第1の容器2内を延ばされており、かつガスケット4の貫通孔4aに連ねられており、従って、第2の容器3内に連通されている。
【0041】
上記血液流路2cは、第1の容器2内に、血液流路2cを形成するための細い管状部材を配置することにより、形成されている。もっとも、容器2を肉厚な部材で構成し、貫通孔により血液流路2cを形成してもよい。
【0042】
上記ガスケット4は、円盤状の形状を有し、その外周面が、第2の容器3の内周面に気密接触された状態で、ガスケット4が、第2の容器3の長さ方向に移動し得るように構成されている。
【0043】
従って、図1に示す初期状態から、第1の容器2と第2の容器3とを、互いに遠ざかる方向に移動させた場合、ガスケット4は、第2の容器3の内周面に気密接触した状態で第1の容器2と共に移動されることになる。
【0044】
上記ガスケット4は、適宜のゴム弾性を有する材料、例えばブチルゴムなどの合成ゴム、天然ゴムまたは熱可塑性エラストマーなどにより構成され得る。なお、本発明における気密接触部材は、上記ガスケットに限らず、第1の容器に固定され、第2の容器の内周面に気密接触されて、第1の容器と共に移動され得る適宜の弾性材料により構成され得る。
【0045】
第2の容器3内には、フィルタ部材として、血液分離フィルタ5と血球停止フィルタ6とが配置されている。血液分離フィルタとしては、例えば、極細繊維の集積体、連続した気泡を有する発泡体または焼結体、中空糸膜、多孔質膜、多孔性粒子、複数溝および/または孔を有するフィルムなどがあげられるが、実質的に血液を血球と血漿または血清に分離できるものであれば、上記の例示に限定されるものではではない。また、血球成分をフィルタの内部で捕捉することで分離しても良いし、血球成分と血漿または血清成分の移動速度差によって分離してもよい。
【0046】
また血液分離フィルタは非対称フィルタと対称フィルタに分けることができる。非対称フィルタとはここでは血液の流入側から流出側にかけて孔径が小さくなるような構造を有するフィルタを総称する。それ以外の血液分離フィルタを対称フィルタと総称する。
【0047】
これらの血液分離フィルタのうち対称フィルタとしては、平均孔径は1μm以上、10μm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは2μm以上、8μm以下の範囲である。平均孔径が1μmより小さいと赤血球が溶血することがあり、10μmより大きくなると血球と血漿もしくは血清との分離が著しく悪くなってしまうからである。
【0048】
また、血液分離フィルタのうち非対称フィルタとしては平均孔径が0.01μm以上、10μm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは0.1μm以上、6μm以下である。平均孔径が0.01μmより小さいと血球成分が目詰まりを起こし分離できなくなる、または溶血することがあり、平均孔径が10μmより大きくなると血球と血漿もしくは血清との分離が著しく悪くなってしまうからである。
【0049】
血液分離フィルタが極細繊維の集積体からなる場合には平均繊維径が0.5〜3.0μmの範囲にある繊維体が集積されて形成されていることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと、血液を分離する際に溶血を起こし易くなる。平均繊維径が3.0μmより大きいと、血球と血漿または血清とを分離するために、血液分離フィルタを高密度に形成する必要があり、また使用する繊維の量も多くなりコストが高くなる。血液の分離効果をより一層高めるためには、平均繊維径は、0.5〜2.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0050】
容器本体内に設置されたときの極細繊維の集積体からなる血液分離フィルタの平均密度は、0.1〜0.5g/cm3の範囲であることが好ましい。平均密度が0.1g/cm3より低い場合には、血液の分離が効果的に行えないことがあり、得られる血漿若しくは血清の量が少なくなることがある。平均密度が、0.5g/cm3より高い場合には、赤血球への負荷が大きくなり、溶血を起こし易くなる。血液をより一層効率的に分離するためには、平均密度は0.15〜0.40g/cm3の範囲にあることが好ましい。
【0051】
なお血液分離フィルタとして前記対称フィルタ、非対称フィルタを組み合わせて使用することも可能である。
【0052】
血液分離フィルタは、血液中の成分を吸着する性質を有していてもよい。この場合には、血液中の成分の吸着を抑制または制御するために血液分離フィルタに表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、特に限定されないが、ポリエーテル系、シリコーン系等の潤滑剤、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン等の親水性高分子類、さらには天然の親水性高分子類、高分子界面活性剤等が挙げられる。また、血液分離フィルタの表面は、酸化剤による化学処理、プラズマ処理などにより親水化処理がされていてもよい。また逆に、疎水シリコーン、フッ素系表面処理剤に様に撥水処理がされていても良い。
【0053】
血球停止フィルタは赤血球の通過を防止できる性質を有していればよく、その材質は特に限定されない。このような性質を有する材質としては、例えば、ポリビニリデンジフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスファイバー、ボロシリケート、塩化ビニルまたは銀等を挙げることができる。
【0054】
血球停止フィルタが多孔質物質を用いて構成されている場合には、血漿または血清の通過が可能である。血球停止フィルタを構成する多孔質物質としては、赤血球の通過を防止できる範囲の孔径を有するものであれば、特に限定されるものではない。赤血球の通過を防止するためには、孔径は1μm以下であることが好ましい。孔径が小さいと、血液中のタンパク成分などにより目詰まりを起こす可能性があるため、孔径は0.01μm以上であることが好ましい。赤血球の通過をより効果的に防止するためには、孔径は0.05μm以上、1μm以下の範囲にあることがより好ましい。
【0055】
濾過の流速を高めるために、血球停止フィルタの表面は親水処理されていてもよい。親水処理の方法としては、プラズマ処理、親水性高分子によるコーティング等が挙げられるが、これらの方法に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0056】
血球停止フィルタ6の下流側には、液状成分に接触することにより膨潤し、流路を閉塞する流路閉塞部材7が収納されている。流路閉塞部材7は、第2の容器3内に設けられた支持棚3x上に載置されている。支持棚3xは、中央に貫通孔を有する。この貫通孔は、流路閉塞部材7に設けられている後述の貫通孔7aと重なり合う位置に設けられている。流路閉塞部材7は、例えば水膨潤性ポリマーからなり、第2の容器3の横断面の流域に至るように配置されている。ただし、中央に貫通孔7aを有する。血漿もしくは血清と接触すると次第に水膨潤性ポリマーからなる流路閉塞部材7が膨潤し、貫通孔7aが閉塞され、それによって血漿もしくは血清の流路が閉塞され得る。
【0057】
上記水膨潤性ポリマーとしては、ポリアクリル酸アルカリ金属塩系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリアクリルアミド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリN−ビニルアセトアミド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、シリコン系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリビニルエーテル系樹脂およびその共重合体およびそれら架橋体、ポリアルキレンオキサイド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはその共重合体およびそれらの架橋体等が挙げられる。
【0058】
上記流路閉塞部材7の下方には、血漿もしくは血清が採取される内部空間3aが設けられている。また、第2の容器3の第1の容器2側の端部と反対側の端部の開口3bには、閉成部材としての栓体8が挿入されている。栓体8は、相対的に径の小さな圧入部8aと、圧入部8aに連ねられており、相対的に径の大きな把持部8bとを有する。圧入部8aが、第2の容器3の開口3bに気密的に圧入されている。
【0059】
なお、血液採取及び分離装置1内は減圧されていない。
【0060】
上記第1,第2の容器2,3を構成する材料は特に限定されず、プラスチック、ガラスなどの適宜の保形性を有する材料を用いることができる。もっとも、内部状態を外部から観察し得るため、透明性を有する材料で容器2,3を形成することが望ましい。
【0061】
また、割れ等による破損が生じ難いため、プラスチックが好ましい。プラスチックとしては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂、あるいは不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−アクリレート樹脂等の熱硬化性樹脂、または、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、キチンなどの変性天然樹脂などが挙げられる。さらに、上記ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、リンケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラス、石英ガラスなどを挙げることができる。
【0062】
また、容器2,3は上述した各種材料を主成分とするものであってもよく、あるいは複数の上記材料を組み合わせて構成されていてもよい。
【0063】
図2〜図6を参照して本実施形態の血液採取及び分離装置1の使用方法を説明する。
【0064】
図2に示すように、採血を行うために、採血針11を採血針装着部2aに装着する。本実施形態で用いられる採血針11は、中空針部11aと、中空針部11aに取り付けられている支持部11bとを有する。支持部11bは、円錐台形状を有し、円錐台形状の採血針装着部2aに気密的に嵌まり合うように構成されている。
【0065】
この状態において、採血針11の針先を血管に挿入し、第1の容器2に対し、第2の容器3を遠ざかる方向に移動させる。その結果、図2に示すように、ガスケット4と血液分離フィルタ5との間の空内の容積が大きくなり、それによって血液12が採血針11から吸引され、血液流路2cを経て右記内部空間に採取される。
【0066】
すなわち、筒状の注射シリンジに採血針を装着して血液を採取する場合と同様にして血液12を採取することができる。この場合には、血液12にはさほど大きな負圧は加わらない。すなわち、真空採血管を用いた場合には大きな負圧が加わるのに対し、本実施形態では、第2の容器3の移動速度を緩めることにより、大きな負圧を加えることなく、血液12を採取することができる。従って、血管の細い被採血者や、老人からも無理なく血液を採取することができる。
【0067】
次に、血液12を採取した後に、採血針11を取り外し、図3に示すように、採血針装着部3にキャップ13を取り付ける。キャップ13は、本発明の気密封止部材であり、採血針装着部2aの開口2bを気密的に封止するように採血針装着部2aに取り付けられる。
【0068】
血液12は血液分離フィルタ5により濾過される。この濾過により、血液12中の血球と、血漿もしくは血清との移動速度差により、血漿もしくは血清が先に血球停止フィルタ6側に移動する。そして、血漿もしくは血清が血球停止フィルタ6を通過し、さらに流路閉塞部材7の貫通孔7aを通り下方の内部空間3aに採取される。他方、赤血球や白血球は、血液分離フィルタ5において血漿もしくは血清よりも遅れて移動し、血球停止フィルタ6の上面に到達する。しかしながら、血球は、血球停止フィルタ6を通過しない。従って、図3に示すように、血漿もしくは血清12aが内部空間3aに採取される。
【0069】
しかる後、図4に示すように、血液採取及び分離装置1全体を上下逆転させる。この場合、キャップ13は、採血針装着部2aの開口2bを気密的に封止しているため、採血針装着部2aから血液が漏洩するおそれはない。
【0070】
そして、栓体8を第2の容器3から取り外す。図5に示すように、内部空間3aに採取された血漿もしくは血清12aをシリンジやピペットを用いて容易に採取することができる。
【0071】
なお、栓体8を取り外す必要は必ずしもなく、栓体8に検体を採取するための中空針を刺通し、内部の血漿もしくは血清12aを採取してもよい。
【0072】
上記のように、本実施形態の血液採取及び分離装置1を用いれば、血液の採取から、血液を血球と血漿もしくは血清とに分離する工程、並びに分離された血漿もしくは血清を採取する工程までを容易にかつ安全に行うことができる。しかも、真空採血管を用いた採血方法とは異なり、血液に大きな負圧が加わらないように操作することができるので、老人や血管が細い被採血者からも血液を溶血を引き起こすことなく、速やかに採取することができる。
【0073】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る血液分離及び採取装置の変形例を示す縦断面図である。この血液分離及び採取装置10は、第2の容器3内に加圧用内部空間3cが設けられていること、並びにガスケット4を係止する係止突起としての環状リブ3dが設けられていることを除いては第1の実施形態の血液分離及び採取装置1と同様に構成されている。従って、同一部分については、同一の参照番号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0074】
図6に示すように、第2の容器3内においては、係止突起としての環状リブ3dが血液分離フィルタ5の上方に、加圧用内部空間3cを隔てて配置されている。この環状リブ3dは、この内径が、ガスケット4の外径よりも小さくされている。ガスケット4は、前述したように、第2の容器3の内周面に気密的に接触する弾性部材よりなり、第1の容器2を図6に示す状態から第2の容器3側に移動させた際に、ガスケット4は環状リブ3dを乗り越えて移動し得るように構成されている。
【0075】
上記ガスケット4を構成する材料については、前述したように、第1の実施形態の場合と同様に、適宜の天然ゴム、合成ゴム、または熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0076】
次に、図6〜図8を参照して本実施形態の血液分離及び採取装置の使用方法を説明する。
【0077】
使用に際しては、図6に示す初期状態から、第1の実施形態の場合と同様に、採血針1を装着し、血液を採取する。図7に示すように、採血針11を装着した後に、第1の容器2を第2の容器3から遠ざかる方向に移動させることにより、採血針11により血液が採取されることになる。
【0078】
この場合、採取された血液12とガスケット4との間に内部空間3cが存在することになる。
【0079】
次に、血液が採取された後、採血針11を取り外し、第1の実施形態の場合と同様に、図8に示すキャップ13を固定する。そして、濾過が開始される。もっとも、この場合、濾過の開始に際し、第1の容器2を第2の容器3側に移動させ、ガスケット4を、上記環状リブ3dを乗り越え下方に移動させる。従って、上記容器2を下方に移動させた際に、加圧用内部空間3cが小さくなり、その部分に位置していた空気が圧縮されることになる。この圧縮により濾過が速やかに進行する。
【0080】
図8に示すように、ガスケット8が環状リブ3dを乗り越え下方に移動すると、ガスケット4は、もはや環状リブ3dの上方には移動されないように、環状リブ3dにより係止される。すなわち、環状リブ3dは、ガスケット4の上方への移動を禁止するようにガスケット4を係止する。
【0081】
よって、ガスケット4が上記環状リブ3dにより、上記圧縮状態を維持するように係止される。従って、濾過が終了するまで、上記内部空間3cを圧縮することによる加圧力により、濾過が速やかに進行することとなる。
【0082】
しかる後、濾過が終了した後には、第1の実施形態の場合と同様にして、栓体8を取り外したり、栓体8に検体採取用中空針を刺通させることにより血漿もしくは血清を採取することができる。なお、本実施形態では、係止突起として環状リブ3dを示したが、上記のように加圧用内部空間を小さくして、存在している空気を圧縮した状態に維持し得る限り、係止突起は、環状の形状を有する必要はなく、第2の容器3の内側に突出した1以上の適宜の突起により形成されてもよい。
【0083】
図9は、第2の実施形態の血液採取及び分離装置の変形例を示す縦断面図である。本変形例では、栓体8の少なくとも外周側面を覆うように、カバー部材15を有する。カバー部材15は、合成樹脂などの適宜の材料で構成され得る。本変形例では、カバー部材15は、栓体8の把持部8bの外周側面だけでなく、天板面をも覆うように設けられている。従って、栓体8を手指で第2の容器3から取り外すに際し、カバー部材15を用いて栓体8を容易に取り外すことができる。しかも、カバー部材15は、栓体8の圧入部8aよりも第1の容器2側に延びている筒状の形状を有する。従って、栓体8を取り外した際に、栓体8に血液が付着していたとしても、カバー部材15の筒状部内に血液が留まり、検査従事者の汚染が生じ難い。
【0084】
図10は、本発明の第2の実施形態の他の変形例に係る血液採取及び分離装置を示す縦断面図である。
【0085】
本変形例の血液採取及び分離装置21では、第2の容器3の第1の容器2側とは反対側の端部の開口3bを閉成する閉成部材が栓体ではなく、シート状の閉成部材22であることを除いては、第2の実施形態の血液採取及び分離装置と同様に構成されている。閉成部材22は、第2の容器3内を気密封止するように第2の容器3の開口3bを閉成するように取り付けられている。上記シート状部材22は、アルミニウム箔などの金属箔、あるいは合成樹脂フィルムまたはこれらを複数層積層したり、これらを適宜組み合わせた複合材料からなる。
【0086】
上記シート状の閉成部材22は、開口3bを気密封止しているが、ただし、中空針により刺通し得るように構成されている。
【0087】
あるいは、シート状部材22は、端部22aが容器3の閉口端部よりも外側にはみ出すように設けられている。この場合には、端部22aを手指ではずし、シート状部材22を開口22aの気密封止を解くように取り去ることができる。
【0088】
従って、血液採取及び分離装置21では、血漿もしくは血清を分離した後、上記シート状部材22を開口3bから除去することにより、あるいはシート状部材22に、検体採取用の中空針を刺通することにより、血漿もしくは血清を容易に取り出すことができる。
【0089】
また、好ましくは、図11示す変形例のように、シート状部材22の少なくとも一部に弾性材料からなる刺通部材23を貼り合わせておいてもよい。弾性材料からなる刺通部材23では、中空針により血漿もしくは血清を採取する場合、中空針により刺通部材23を刺通した際の血漿もしくは血清などの漏洩を確実に防止することができ、安全性を高めることができる。このような弾性材料としては、特に限定されず、ブチルゴムなどの合成ゴム、天然ゴム、または熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0090】
また、図11に示す変形例では、第2の容器3の側面に貫通孔が形成されており、該貫通孔に逆止め弁24が取り付けられている。この逆止め弁24は、第2の容器3内から、第2の容器3外へ圧力差により気体を通過させるが、逆方向には圧力差により気体を通過させないように構成されている。より具体的には、天然ゴムもしくは合成ゴム、または熱可塑性エラストマーなどの弾性材料により逆止め弁24が形成されている。この逆止め弁24は、第2の容器に設けられた貫通孔に気密的に取り付けられているが、内側が開口しており、外側が半球状の形状で閉じられており、該半球状の形状部分に切り込み24aが設けられている構造を有する。第2の容器3内の圧力が相対的に高い場合には、切り込み24aが開かれ、内部の気体が第2の容器3外へ導かれる。逆に、第2の容器3外の圧力が第2の容器3内よりも高い場合には、切り込み24aは閉じられ、気体は第2の容器3内へは移動しない。
【0091】
通常、上記血液分離フィルタ5などからなるフィルタ部材の上流側の内部空間と下流側の内部空間との圧力差により濾過が進行するが、濾過による分離が進行している内に、上流側と下流側の圧力差がなくなり、血液12が残存しているにも関わらず、濾過が停止することがある。このような場合、本変形例では、内部空間3aの圧力が大気圧よりも高い場合には、逆止め弁24により、内部空間3aが大気に解放され、濾過を再度速やかに進行させることができる。なお、逆止め弁24は、逆方向には気体を流入させない。従って、内部空間3aの圧力が大気圧よりも低い場合には、内部空間3aは大気に解放されないため、濾過は確実に進行する。
【0092】
次に、本願の第2の発明の実施形態としての血液採取及び分離装置を図13〜図24を参照して説明する。
【0093】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る血液採取及び分離装置を示す縦断面図である。血液採取及び分離装置101は、第1の容器102と、第2の容器103とを有する。第1,第2の容器102,103は、本実施形態では筒状体により構成されているが、筒状体以外の形状を有していてもよい。
【0094】
第1の容器102の一方端部である第1の端部には、第1の容器102の上記本体部分よりも径の小さな筒状の採血針装着部102aが設けられている。採血針装着部102aは、開口102bを有し、開口102bが、第2の容器102内に連なっている。
【0095】
他方、第1の容器102の第1の端部とは反対側の端部は開口102cを有する。開口102cから、第2の容器103が挿入されている。
【0096】
第2の容器103の外周側面に、気密接触部材としてのガスケット104が固定されている。ガスケット104は、前述したガスケット4と同様の材料で構成されており、第1の容器104の内周側面に気密接触された状態のまま、第1の容器102の長さ方向に移動し得るように構成されている。従って、ガスケット104により、第1,第2の容器102,103内が気密的に連結されており、かつその状態で第1の容器102内において、第2の容器103が長さ方向に移動され得るように構成されている。
【0097】
第1,第2の容器102,103は、第1,第2の容器2,3と同様の材料で構成される。
【0098】
他方、第2の容器103内には、フィルタ部材としての血液分離フィルタ105、血球停止フィルタ106及び流路閉塞部材107がこの順序で配置されている。血液分離フィルタ105、血球停止フィルタ106及び流路閉塞部材107は、第1の実施形態の血液分離フィルタ5、血球停止フィルタ6及び流路閉塞部材7と同様に、かつ同様の材料で構成されている。従って、これらの説明については、第1の実施形態における相当の説明を援用することにより、省略する。
【0099】
また、流路閉塞部材107は、貫通孔107aを有し、かつ流路閉塞部材107は、支持棚部103x上に載置されている。支持棚部103xは第2の容器103と一体に構成されている。
【0100】
また、第2の容器103の血液分離フィルタ105が配置されている部分の下流側には、内部空間103aが設けられており、該内部空間103aが、下方端部開口103bを気密的に封止している閉塞部材としての栓体108により閉成されている。
【0101】
栓体108は、第1の実施形態で用いた栓体8と同様に構成されており、圧入部108a及び把持部108bを有する。
【0102】
本実施形態の血液採取及び分離装置101の使用方法を、図14〜図17を参照して説明する。
【0103】
本実施形態においても、採血針装着部102aに、採血針11を装着し、採血針11を血管内もしくは血液内に挿入し、その状態で第2の容器103を第1の容器102から遠ざけるように移動させる。その結果、血液12が第1の容器102内に採取される。この場合、第2の容器103の移動速度をゆるめることにより、大きな負圧を与えることなく、血液を採取することができる。従って、溶血等が生じ難く、血管の細い被採血者や老人からも無理なく血液を採取することができる。
【0104】
次に、採血針11を取り外し、図15に示すように、キャップ13を取り付ける。キャップ13は、開口102aを気密封止する気密封止部材により構成されている。
【0105】
採取された血液12は、血液分離フィルタ105の上流側内部空間に比べて、下流側の内部空間103aの圧力が小さくなるため、濾過による分離が進行する。すなわち、血漿もしくは血清12aが、血液分離フィルタ105及び血球停止フィルタ106を通過し、内部空間103aに採取される。
【0106】
分離後、図16に示すように、上下逆転する。この場合、キャップ13により、開口102bが気密封止されているため、血液が外部に漏洩することがない。
【0107】
しかる後、本実施形態においては、図17に示すように、栓体108を取り外すことにより、第2の容器103内に採取された血漿もしくは血清12aを容易に採取することができる。
【0108】
図18は、第3の実施形態の血液採取及び分離装置101の変形例を説明するための縦断面図である。本変形例では、第1の容器102内に、血液を加圧するための加圧用内部空間102dが設けられている。そして、この加圧用内部空間102dにより血液を加圧した状態を維持するための、係止突起としての環状リブ102eが第1の容器102の内周面に形成されている。その他の点については、本変形例の血液採取及び分離装置は、血液採取及び分離装置101と同様に構成されている。従って、同一部分については、同一の参照番号を付することにより、その説明を省略する。
【0109】
図19に示すように、血液の採取に際しては、真空採血針11を採血針装着部102aに装着し、第2の容器103を第1の容器102から遠ざかる方向に移動させる。このようにして、血液12が採取される。そして、図12に示すように、採取針を除去した後に、キャップ13を装着し、濾過が進行する。この場合、第2の容器103を第1の容器102に近づけるように移動させることにより、血液12が採取されている部分の空間の容積を小さくすることができる。すなわち、加圧用内部空間102dの容積を小さくして、血液12を加圧することができる。これによって、血液分離フィルタ105の上流側と下流側との圧力差を高め、濾過を速やかに進行させることができる。しかも、上記加圧した状態において、ガスケット104が、環状リブ102eの上方に移動し、加圧した状態を維持し得るように、環状リブ102eが設けられている。すなわち、環状リブ102eは、前述した環状リブ3dと同様に、その内径が、ガスケット104の外径よりも小さくされている。他方、ガスケット104は、ゴム弾性を有する材料で構成されているため、図20のように操作した際に、変形し、環状リブ102eを乗り越え、環状リブ102eの上方に位置される。この場合、第1の容器102と第2の容器103とを遠ざけるように力が作用したとしても、ガスケット104が、環状リブ102eにより係止されることになるため、図20に示す加圧状態を維持することができる。従って、濾過が速やかに進行する。
【0110】
なお、本変形例においても、環状リブ102eに代えて、他の形状の係止突起を設けてもよい。
【0111】
図21は、第3の実施形態の血液採取及び分離装置のさらに他の変形例を示す縦断面図である。本変形例では、栓体108の外周側面を少なくとも覆うカバー部材115が取り付けられている。カバー部材115は、前述したカバー部材15と同様に構成されている。従って、作業者が血液に接触するおそれを軽減することができ、安全性を高めることができる。
【0112】
図22に示す変形例では、栓体108に代えて、シート状部材122により、第2の容器103の開口103bが閉成されている。このように、閉成部材は、栓体に代えて、シート状部材により構成されていてもよく、シート状部材122は、前述したシート状部材22と同様の材料で構成される。
【0113】
また、図23に示す変形例のように、シート状部材122の少なくとも一部に、刺通部材123を貼り合わせてもよい。刺通部材123は、前述した刺通部材23と同様に構成される。従って、中空針等により内部の血漿もしくは血清を採取した後に、中空針を抜き去るとしたとしても、血漿もしくは血清の漏洩を抑制することができる。
【0114】
また、図24に示す変形例では、第2の容器103の側面に貫通孔が形成されており、該貫通孔に逆止め弁124が取り付けられている。上記逆止め弁124は、図12に示した逆止め弁24と同様に構成されている。従って、本変形例においても、血漿もしくは血清が載置される内部空間103aの圧力を、フィルタ部材104の上流側の内部空間の圧力よりも大気に連通させることにより低め、濾過を確実に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る血液採取及び分離装置の縦断面図。
【図2】図1に示した実施形態の血液分離及び採取装置に採血針を装着し血液を採取した状態を示す縦断面図。
【図3】図1に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、フィルタにより濾過を行っている状態を示す縦断面図。
【図4】図1に示した実施形態の血液分離及び採取装置において、分離された血漿もしくは血清を採取するために、上下逆転した状態を示す縦断面図。
【図5】図1に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、栓体を取り外し、血漿もしくは血清を取り出す工程を説明するための縦断面図。
【図6】第2の実施形態に係る血液採取及び分離装置の縦断面図。
【図7】図6に示した実施形態において、血液を採取した状態を示す縦断面図。
【図8】図6に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、濾過を行っている状態を示す縦断面図。
【図9】図6に示した実施形態の血液分離装置の変形例を説明するための縦断面図。
【図10】図6に示した実施形態の血液採取及び分離装置の他の変形例を示す縦断面図。
【図11】図6示した実施形態の血液採取及び分離装置のさらに他の変形例を説明するための縦断面図。
【図12】図11に示した血液採取及び分離装置で用いられている逆止め弁を示す斜視図。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る血液採取及び分離装置を説明するための縦断面図。
【図14】図13に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、血液を採取した状態を示す縦断面図。
【図15】図13に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、フィルタにより濾過を行っている状態を示す縦断面図。
【図16】図13に示した実施形態の血液分離及び採取装置において、分離された血漿もしくは血清を採取するために、上下逆転した状態を示す縦断面図。
【図17】図13に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、栓体を取り外し、血漿もしくは血清を取り出す工程を説明するための縦断面図。
【図18】第3の実施形態に係る血液採取及び分離装置の変形例を示す縦断面図。
【図19】図18に示した実施形態の血液採取及び分離装置において、血液を採取した状態を示す縦断面図。
【図20】図18に示した血液採取及び分離装置において、濾過を行っている状態を示す縦断面図。
【図21】図18に示した血液採取及び分離装置の変形例を説明するための縦断面図。
【図22】図18に示した血液採取及び分離装置の他の変形例を説明するための縦断面図。
【図23】図18に示した血液採取及び分離装置のさらに他の変形例を説明するための縦断面図。
【図24】図18に示した血液採取及び分離装置のさらに別の変形例を説明するための縦断面図。
【符号の説明】
【0116】
1…血液採取及び分離装置
2…第1の容器
2a…採血針装着部
2b…開口
2c…血液流路
3…第2の容器
3a…内部空間
3b…開口
3c…加圧用内部空間
3d…環状リブ
3x…支持棚部
4…ガスケット
4a…貫通孔
5…血液分離フィルタ
6…血球停止フィルタ
7…流路閉塞部材
7a…貫通孔
8…栓体
8a…圧入部
8b…把持部
11…採血針
11a…針部
11b…支持部
12…血液
12a…血漿もしくは血清
12a…血漿もしくは血清
13…キャップ
15…カバー部材
21…血液採取及び分離装置
22…シート状部材
22a…端縁
23…刺通部材
101…血液採取及び分離装置
102…第1の容器
102a…採血針装着部
102b…開口
102e…環状リブ
103…第2の容器
103a…内部空間
103b…開口
103c…加圧用内部空間
103x…支持棚部
104…ガスケット
105…血液分離フィルタ
106…血球停止フィルタ
107…流路閉塞部材
107a…貫通孔
108…栓体
108a…圧入部
108b…把持部
115…カバー部材
122…シート状部材
123…刺通部材
124…逆止め弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに分離することを可能とする血液採取及び分離装置であって、
第1の端部に採血針装着部が設けられており、該採血針装着部から第1の端部とは反対側の端部である第2の端部に向かって延びるように血液流路が形成されている第1の容器と、
前記第1の容器が前記第2の端部側から挿入される第2の容器と、
前記第1の容器の第2の端部に固定されており、第1,第2の容器内を気密的に連結し、かつ第2の容器の内周面に対して気密的に接触された状態で、第2の容器内で移動される気密接触部材と、
前記第2の容器内に収納されており、前記第1の容器側から導かれた血液を、血球と、血漿もしくは血清とに分離するためのフィルタ部材と、
前記第2の容器の前記第1の容器が挿入される側とは反対側の端部を気密封止しており、血漿もしくは血清を採取することを可能とする閉成部材とを備え、
前記第1の容器内の前記血液流路が前記気密接触部材を経て第2の容器内に開口しており、かつ前記第1の容器内に血液が導かれた後に、前記採血針装着部を気密的に封止するための気密封止部材をさらに備えることを特徴とする、血液採取及び分離装置。
【請求項2】
血液を採取した後に、前記第2の容器内において、前記フィルタ部材よりも前記第1の容器側に加圧用内部空間が設けられるように前記第2の容器が構成されている、請求項1に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項3】
血液を採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とに分離することを可能とする血液採取及び分離装置であって、
第1の端部に採血針装着部が設けられており、第1の端部とは反対側の第2の端部に向って延ばされており、第2の端部に開口を有する第1の容器と、
前記第1の容器の前記第2の端部の開口から挿入されている第2の容器と、
前記第2の容器の外周側面に固定されており、第1,第2の容器内を気密的に連結し、かつ第1の容器の内周面に対して気密接触された状態で、第1の容器内で移動される気密接触部材と、
前記第2の容器内に収納されており、前記第1の容器側から導かれた血液を、血球と、血漿もしくは血清とに分離するためのフィルタ部材と、
前記第2の容器の前記第1の容器に挿入される側とは反対側の端部を気密的封止しており、血漿もしくは血清を血液から採取することを可能とするための閉成部材と、
前記第1の容器内に血液が導かれた後に、前記採血針装着部を気密的に封止するために取り付けられる気密封止部材とを備えることを特徴とする、血液採取及び分離装置。
【請求項4】
血液を採取した後に、前記フィルタ部材よりも前記第1の容器側に加圧用内部空間が設けられるように、前記第1の容器が構成されている、請求項3に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項5】
前記加圧用内部空間において、血液を加圧した後に第1の容器の第2の容器から遠ざかる方向への移動を禁止するように前記気密接触部材に係止される係止突起が設けられている、請求項2または4に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項6】
前記第2の容器の開口を閉成している閉成部材が、中空針により刺通され得る栓体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項7】
前記栓体が、前記第2の容器内に圧入されている圧入部と、前記第2の容器外に露出している把持部とを有し、該把持部の少なくとも外側面を覆うように設けられたカバー部材をさらに備える、請求項6に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項8】
前記閉成部材が、前記第2の容器の第1の容器とは反対側の端部開口を閉成しているシート状部材により構成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項9】
前記シート状部材の少なくとも一部に、中空針が刺通されるゴム弾性材料からなる刺通部材が貼り付けられている、請求項8に記載の血液採取及び分離装置。
【請求項10】
前記第2の容器の前記フィルタ部材が配置されている部分よりも下流側に貫通孔が形成されており、該貫通孔に、第2の容器内から第2の容器外へ圧力差により気体を通過させるが、逆方向には圧力差により気体を通過させない逆止め弁が取り付けられている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液採取及び分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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