説明

血液浄化器および血液浄化器用固定具

【課題】従来よりも気泡除去に適した血液浄化器を提供する。
【解決手段】血液浄化器10は、可撓性のシート部材12と、血液導入口14と、血液導出口18とを備えた可撓性容器から構成される。血液浄化器10には、血液導入口14と血液導出口18に接続し、血液が流通する血液流路48が形成され、血液流路48には、血液中の病因物質を吸着する吸着体42が充填されている。また、血液導出口18側から血液導入口14側へ向かう血液の流れが形成されないように血液経路48が形成されている。血液浄化処置時には、血液導入口14が床側に配置され、血液導出口18が天井側に配置される。血液流路48には、血液導出口18から血液導入口14に向かう経路が形成されていないから、血液流路48内の気泡を浮力に抗して床側に移動させる煩雑な作業を行わなくても容易に気泡除去を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、血液浄化器および血液浄化器の固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炎症性腸疾患(IBD)や関節リウマチ(RA)の治療手段としてアフェレシス治療が普及している。アフェレシス治療は血液を体外に抜き出し、血中から病気の原因となる液性因子(蛋白質、免疫関連物質など)や細胞(リンパ球、顆粒球、ウイルスなど)等の病因物質を除去し、病態の改善を図る治療方法である。
【0003】
アフェレシス治療の代表的な方法として、血漿交換法と吸着法がある。血漿交換法には、血液を血液分離膜に流して、血液から病因物質を含む血漿を分離させてこれを廃棄し、新鮮な血漿や補充液と置換する方法(単純血漿交換法)などがある。吸着法は、血液や血漿を吸着体に接触させ、病因物質を除去する方法であり、特に、血液を直接吸着体に接触させる方法(直接血液潅流法)は、設備の簡便さなどから広く普及している。
【0004】
前述の血漿交換法及び吸着法には、血液浄化器と呼ばれる医療器具が使用される。これらの血液浄化器のうち、吸着法に使用される血液浄化器は、吸着体が充填された収容容器を備えている。吸着体は活性炭、イオン交換樹脂、疎水性高分子樹脂等、吸着対象物質に応じて適宜選択して使用される。また、収容容器として、従来からポリカーボネートやポリスチレン等の硬質材料の筒体からなるカラムが使用されている。また、カラムの両端には血液導入口と血液導出口が設けられている。
【0005】
血液浄化器を使用する際には、その前処理としてプライミングと呼ばれる処理が行われる。プライミングは血液浄化器を含む血液循環回路内の気体除去や、カラム内の洗浄を行うための処理である。プライミングでは血液導入口が床側(下側)、血液導出口が天井側(上側)となるようにカラムを配置し、その後血液導入口からカラム内に生理食塩水を供給してカラム内を生理食塩水で満たし、血液導出口からカラム内の空気を追い出す。このプライミング時に、カラムの内壁等に気泡が付着する場合がある。この場合、カラムを振ったり、外側から叩いて衝撃を与えることにより気泡を内壁から剥離させ、カラムの外部に追い出している。
【0006】
カラムを強く叩きすぎると破損につながることから、カラムに加えることのできる衝撃は限られている。加えることのできる衝撃が限られている分、気泡の除去は困難となる。そこで、吸着体の収容容器を、硬質のカラムに代えて可撓性のシート部材で形成した軟質のソフトバッグに変更することが考えられる。バッグを手で押すことにより、内部の液体に気泡を押し出させることができるから、気泡除去の際に破損の心配はない。このようなソフトバッグ式の血液浄化器は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−15806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1の血液浄化器では、ソフトバッグ内にS字の流路が形成されている。上述したように血液浄化器は血液導入口を床側(下側)に、血液導出口を天井側(上側)に設置して使用する。これに伴い血液導入口と血液導出口とを結ぶ流路の形状は、S字が横倒しされ、下に凸の(谷型の)折り返し部分と上に凸の(山型の)折り返し部分とを有する形状となる。この場合において、プライミング時に山型の折り返し部分に気泡が溜まる。気泡を追い出すためには、山形の折り返し部分から谷型の折り返し部分を経由して血液導出口に気泡を移動させる必要がある。このとき、気泡を一度下方へ(床側へ)移動させなければならない。気泡の浮力のためこの作業は困難であり、作業者には大きな負担が掛かる。このように、従来の血液浄化器は、気泡の除去に適した構成を備えているとは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、血液導入口と血液導出口とを備えた可撓性容器を備えた血液浄化器に関するものである。可撓性容器内には、血液中の物質を吸着する吸着体が充填され、血液導出口側から血液導入口側へ向かう血液の流れが形成されないように可撓性容器内に血液導入口から血液導出口に向かう血液経路が形成されている。
【0010】
また、上記発明において、可撓性容器を屈曲変形のない状態に保つための固定手段が設けられていることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、可撓性容器の曲げ弾性率が500MPa以上3000MPa以下であることが好適である。
【0012】
また、本願発明は、可撓性容器を含む血液浄化器を固定する血液浄化器用固定具に関するものである。血液浄化器用固定具は、枠体と、可撓性容器を枠体に固定することによって、可撓性容器を屈曲変形のない状態に保つ保持部材と、を備える。
【0013】
また、上記発明において、可撓性容器に接続されるチューブの移動を防止するチューブ固定手段をさらに備えることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本願発明により、気泡除去に適した血液浄化器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る血液浄化器の構成部品を例示する図である。
【図2】本実施形態に係る血液浄化器を例示する図である。
【図3】本実施形態に係る血液浄化器の断面図である。
【図4】別の実施形態に係る血液浄化器を例示する図である。
【図5】血液浄化器が変形した時の図である。
【図6】本実施形態に係る血液浄化器と血液浄化器の固定具を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本実施形態に係る血液浄化器10の構成部品を示す。血液浄化器10は、可撓性のシート部材12と、血液導入口14を備えた導入側ヘッダー16と、血液導出口18を備えた導出側ヘッダー20とを備えている。
【0017】
シート部材12は、血液浄化器10を組み立てたときに血液導入口側に位置する導入側辺22と、血液導出側に位置する導出側辺24と、さらに導入側辺22および導出側辺24とを繋ぐ、互いに対向する側辺26とを有する。
【0018】
シート部材12の曲げ弾性率は、米国材料試験協会(ASTM)規格のD790に基づいて、500MPa〜3000MPaであることが好適である。曲げ弾性率が500MPaより小さいと、容器形状が定まらず、後述する血液流路内を流れる血液に淀みが生じるおそれがある。また、曲げ弾性率が3000MPaより大きいと、血液浄化器10を変形させたときに割れやひびが生じるおそれがある。シート部材12の具体的な材料としては、塩化ビニル、ポリエチレン、ナイロンおよびこれらの積層(ラミネート)材から適宜選択されると好適である。また、シート部材12の厚さは、0.1mm〜1.0mmであることが好適である。0.1mmより薄いと強度が保てずに破れが生じるおそれがある。また、1.0mmより厚いと必要な可撓性が得られないおそれがある。
【0019】
また、導入側ヘッダー16は、血液浄化器10を組み立てたときに露出面となる外表面28と、外表面28に対向する内表面30と、外表面28と内表面30とを繋ぐとともに、シート部材12が貼着される接合面32とを有している。さらに外表面28から内表面30まで貫通して血液導入口14が形成されている。
【0020】
また、導出側ヘッダー20も導入側ヘッダー16と同様に、外表面28および対向する内表面30と、外表面28と内表面30を繋ぐ接合面32を有している。また、外表面28から内表面30まで貫通して血液導出口18が形成されている。
【0021】
導入側ヘッダー16および導出側ヘッダー20は硬質のポリカーボネートやポリスチレン、ポリプロピレン等で形成され、後述するフィルタ34の外周リング38と同等以上の硬度を有する材料で形成されている。
【0022】
導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20の内表面30には、フィルタ34が固定されている。フィルタ34は、レーザー溶着や超音波溶着、または接着によって内表面30に固定されている。フィルタ34は後述する吸着体の流出を防止するメッシュ部材36と、メッシュ部材36を保持する外周リング38とを備えている。なお、外周リング38の径は導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20の内表面30の径よりも小さくなるように形成され、また、血液導入口14および血液導出口18の径よりも大きくなるように形成されている。
【0023】
フィルタ34が変形すると導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20から外周リング38の一部が剥離して隙間が生じ、後述する吸着体が流出するおそれがある。そこで、導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20を、外周リング38よりも変形し難い(硬度の高い)材料で形成し、外周リング38を、外周リング38よりも変形し難くかつ径の大きい導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20に固定することで、フィルタ34の変形が防止され、導入側ヘッダー16及び導出側ヘッダー20からの剥離を防ぐことができる。
【0024】
なお、導出側ヘッダー20の内表面30の形状を、断面が円弧状であって、血液導出口18を底とするすり鉢形状(椀形状)としても良い。こうすることによって気泡が内表面に沿って血液導出口18に移動し易くなる。内表面30をこのようなすり鉢状とする場合、すり鉢形状の部分の外周に、フィルタ34の外周リング38が当接するリング受け部を設けておく。
【0025】
また、フィルタ34をメッシュ部材36と外周リング38から構成する代わりに、メッシュ部材36を直接導入側ヘッダー16または導出側ヘッダー20にインサート成形しても良い。また、メッシュ部材36と導入側ヘッダー16または導出側ヘッダー20とを一体成形しても良い。さらに、メッシュ部材36と外周リング38とを異なる材料で形成する代わりに、両者を同一材料で一体成形しても良い。
【0026】
次に、本実施形態に係る血液浄化器10の製造過程について説明する。本実施形態では、導入側ヘッダー16、導出側ヘッダー20、2枚のシート部材12をそれぞれ貼り合せることで、図2に示すような可撓性の容器を形成する。まず、導入側ヘッダー16と導出側ヘッダー20の内表面30に、フィルタ34の外周リング38を溶着または接着により固定する。次に、図1に示すように、導入側ヘッダー16と導出側ヘッダー20を、内表面30同士が向かい合うように離間させて対向させる。次に、導入側ヘッダー16と導出側ヘッダー20との間に、導入側ヘッダー16と導出側ヘッダー20との接合面32を挟んで2枚のシート部材12を対向させる。
【0027】
次に、各々のシート部材12の導入側辺22を導入側ヘッダー16の接合面32に溶着または接着等により貼り付ける。同様に、各々のシート部材12の導出側辺24を導出側ヘッダー20の接合面32に溶着又は接着等により貼り付ける。なお、導入側ヘッダー16および導出側ヘッダー20には、幅方向の端部に向かって厚さが薄くなる先細り形状の突出部40が形成されており、シート部材12をこの突出部40に沿わせることにより2枚のシート部材12の導入側辺22の端部同士、及び導出側辺24の端部同士を容易に貼り合わせることができる。さらに、2枚のシート部材12の側辺26同士を接着又は溶着等により貼り合わせる。側辺26同士を貼り合わせることにより、貼り合わせられた貼着部43の剛性が増し、血液浄化器10がねじれにくくなる。
【0028】
側辺26同士の貼り合わせにおいて、貼り合わせが完了する直前に貼り合わせを中断し、まだ貼り合わされていない側辺26間の隙間から吸着体42を充填する。これにより、図3に示すように、血液導入口14と血液導出口18とを接続する血液流路48に吸着体42が充填される。吸着体42が所定の充填率まで充填されたら、側辺26の貼り合わせを再開し、貼り合わせを完了させる。なお、これに代えて、図4に示すように、吸着体42を充填するための専用の吸着体充填用ポート46を設けても良い。この場合、側辺26同士の貼り合わせ、及び側辺26と吸着体充填用ポート46との貼り合わせが完了した後に吸着体充填用ポート46から吸着体42を充填する。
【0029】
なお、シート部材12の貼り合わせに際し、図3に示すように、シート部材12の導入側辺22と側辺26とが交差する隅部47、および、導出側辺24と側辺26とが交差する隅部47が丸みを持つように導入側辺22と側辺26、および、導出側辺24と側辺26とを貼り合わせることが好適である。このようにすることで、気泡が隅部47に溜まりにくくなる。また、気泡を隅部47から血液導出口18に移動させ易くなる。
【0030】
吸着体42が充填され、シート部材12の側辺26同士の貼り合わせが完了したら、側辺26同士が貼り合わされた貼着部43であって、導入側辺22および導出側辺24寄りの部分、つまり貼着部43の4隅をパンチ等で打ち抜いて図2に示すような固定穴44を開口させる。その後、血液導入口14及び血液導出口18を図示しないキャップで封止する。
【0031】
このように、本実施形態においては、導入側ヘッダー16、導出側ヘッダー20、可撓性のシート部材12を貼り合わせることにより、ソフトバッグ式の可撓性容器からなる血液浄化器10が組み立てられる。プライミング時に血液浄化器10の内部に気泡が付着した場合は、シート部材を手で押すことにより血液浄化器10内の液体に気泡を押し出させることができるので、硬質材料のカラムで形成されていた従来の血液浄化器に比べて破損のおそれがなく、気泡除去の作業も容易に行うことができる。
【0032】
さらに、本実施形態においては、図3に示すように、血液導入口14から血液導出口18に向かう経路上に、血液導入口14側から血液導出口18側へと戻る経路が形成されないように血液流路48が構成される。これにより、血液導入口14から血液浄化器10へ導入された血液は血液浄化器10内において血液導入口14側から血液導出口18側へと折り返すことなく、血液導入口14から血液導出口18へ向けて流れる。
【0033】
また、血液浄化器10を使用する際には、上述したように、血液導入口14を床側に、血液導出口18を天井側に向けた状態で使用する。血液導入口14側から血液導出口18側へと戻る経路がないことによって、プライミング時に床側から天井側に向けて気泡をスムーズに移動させることができる。すなわち、浮力に抗して気泡を移動させる等の煩雑な作業を行わなくてよく、気泡除去作業を容易に行うことができる。
【0034】
次に、血液浄化器10に充填される吸着体について説明する。吸着体の材質としては、例えば、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタラート、酢酸セルロース、セルロース、テフロン(登録商標)、もしくはこれらの混合物(ポリマーアロイ)、または表面処理により特定の病因物質に対する吸着特異性を持つリガンドを形成させたものから選択される。このうち疎水性の材質を用い、所定の表面粗さを持った吸着体は、病因物質のうち、活性化した白血球、血小板に対する吸着性能を持つため、炎症性疾患の治療に用いるものとして好適である。但し、これらの材質は適用となる疾患により選択されるため、上記の材質に限定されるものではない。
【0035】
本実施形態においては、吸着体42として例えばビーズ形状の高分子樹脂が使用される。この吸着体42は、例えば吸着対象となる病因物質が白血球や血小板である場合、表面の中心線平均粗さ(Ra)が5〜100nmである疎水性の高分子樹脂が使用されると好適である。この樹脂は疎水性のポリアリレート樹脂で形成され、下記化学式1で表わされる繰り返し単位を有する。
【0036】
【化1】

【0037】
化学式1において、R1およびR2は炭素数が1〜5の低級アルキル基であり、R1およびR2はそれぞれ同一であっても相違していても良い。
【0038】
また、疎水性の高分子樹脂として、化学式1に示す樹脂に代えて、下記化学式2または3で表わされる繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン樹脂であっても良い。さらに、化学式1に示す樹脂に加えて、化学式2又は3で表わされる繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン樹脂を含んでいても良い。
【0039】
【化2】

【0040】
化学式2において、R3およびR4は炭素数が1〜5の低級アルキル基であり、R3およびR4はそれぞれ同一であっても相違していても良い。
【0041】
【化3】

【0042】
また、ビーズ形状の吸着体42に代えて、中空糸膜を短く切った短繊維の吸着体42を使用しても良い。上記化学式1〜3のいずれかで表わされる疎水性高分子樹脂であると好適である。
【0043】
次に、本実施形態に係る血液浄化器10を固定する固定具について説明する。本実施形態に係る血液浄化器10は可撓性を有するソフトバッグ式の容器であることから、外力により変形するおそれがある。例えば図5に示すように、血液循環回路のチューブ50に引っ張られて屈曲変形する可能性がある。血液浄化器10が屈曲することで内部の血液流路48も屈曲する。これにより、血液流路48内の血液の流れに淀みが発生する。血液の流れが淀むと血液中の凝固系が活性化し、血液が凝固するおそれがある。
【0044】
チューブ50による血液浄化器10の変形を防ぐために、本実施形態においては図6に示すように、血液浄化器10を固定してその姿勢を正立状態(屈曲変形のない状態)に保つ固定具52を使用する。固定具52は、硬質のポリカーボネートやポリスチレン、ポリプロピレン等の有機材料や、金属材料からなる枠体54と、枠体54の4隅に設けられ、血液浄化器10の4隅に設けられた固定穴44に適合する固定ピン56が設けられている。また、枠体54には、チューブ50の移動を防ぐためのチューブ固定ピン58が対向して設けられている。対向するチューブ固定ピン58同士の隙間にチューブ50を挟むことでチューブ50が固定される。なお、固定穴44および固定ピン56は4個以上設けても良い。血液浄化器10の固定穴44に固定ピン56が挿通されることにより、血液浄化器10が固定される。さらにチューブ50をチューブ固定ピン58、58の間に挟むことにより、チューブ50による引っ張りに抗して血液浄化器10が正立状態に保持される。
【0045】
次に、血液浄化器10を用いた血液浄化処置について説明する。まず、血液浄化器10を固定具52に固定する。このとき、血液導入口14が床側(下側)、血液導出口18が天井側(上側)に位置するように血液浄化器10を固定する。次に、血液導入口14および血液導出口18に血液循環回路のチューブ50を接続する。血液循環回路には生理食塩水の入ったタンク(図示せず)に接続されており、このタンクから血液循環回路に生理食塩水が供給される。さらに血液循環回路のチューブ50を経由して血液導入口14から血液流路48内に生理食塩水が供給され、血液流路48は生理食塩水で満たされる。これに伴い血液流路48内の空気は血液導出口18から外部に追い出される。
【0046】
血液流路48内に気泡が発生し、シート部材12やフィルタ34等に付着した場合は、シート部材12を外側から手で押すことにより内部の生理食塩水に気泡を追い出させる。シート部材12を押すだけで気泡が除去されるから、従来の硬質カラムからなる血液浄化器と比べて気泡除去作業が容易となる。また、カラムを叩くことによる破損のおそれがない。さらに、血液流路48には血液導入口14から血液導出口18に向かう経路上に、天井側から床側に向かう経路が形成されていないため、気泡除去に当たり、浮力に抗して気泡を天井側から床側に移動させる必要がない。したがって、S字の流路が形成された従来のソフトバッグ式の血液浄化器と比べて、気泡除去作業が容易になる。
【0047】
血液浄化器10を含めた血液循環回路内の空気が除去されるとプライミングが完了する。次に、患者の静脈に脱血用および返血用の留置針(図示せず)を穿刺し、脱血用の留置針と血液循環回路とを接続する。脱血用の留置針から血液循環回路に供給された血液が血液循環回路および血液浄化器10内の生理食塩水を押し出す。さらに血液循環回路と返血用の留置針とを接続する。
【0048】
血液循環回路を流れる血液は血液導入口14を経由して血液浄化器10の血液流路48に流入する。血液流路48を流れる血液が吸着体42に接触することにより、血中の病因物質が吸着体42に吸着される。血液流路48を通過し、浄化された血液は血液導出口18を経由して患者に返血される。この血液体外循環を吸着体の吸着能が飽和するまで、例えば2〜3時間継続して行う。
【符号の説明】
【0049】
10 血液浄化器、12 シート部材、14 血液導入口、16 導入側ヘッダー、18 血液導出口、20 導出側ヘッダー、22 導入側辺、24 導出側辺、26 側辺、28 外表面、30 内表面、32 接合面、34 フィルタ、36 メッシュ部材、38 外周リング、40 突出部、42 吸着体、43 貼着部、44 固定穴、46 吸着体充填用ポート、47 隅部、48 血液流路、50 チューブ、52 固定具、54 枠体、56 固定ピン、58 チューブ固定ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液導入口と血液導出口とを備えた可撓性容器を備え、
前記可撓性容器内には、血液中の物質を吸着する吸着体が充填され、
前記血液導出口側から前記血液導入口側へ向かう血液の流れが形成されないように前記可撓性容器内に前記血液導入口から前記血液導出口に向かう血液経路が形成されていることを特徴とする、血液浄化器。
【請求項2】
請求項1に記載の血液浄化器であって、
前記可撓性容器を屈曲変形のない状態に保つための固定手段が設けられていることを特徴とする、血液浄化器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の血液浄化器であって、
前記可撓性容器の曲げ弾性率が500MPa以上3000MPa以下であることを特徴とする、血液浄化器。
【請求項4】
可撓性容器を含む血液浄化器を固定する血液浄化器用固定具であって、
枠体と、
前記可撓性容器を前記枠体に固定することによって、前記可撓性容器を屈曲変形のない状態に保つ保持部材と、を備えることを特徴とする、血液浄化器用固定具。
【請求項5】
請求項4に記載の血液浄化器であって、
前記可撓性容器に接続されるチューブの移動を防止するチューブ固定手段をさらに備えたことを特徴とする、血液浄化用固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241(P2012−241A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137377(P2010−137377)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】