説明

血液適合性に優れた免疫グロブリン吸着材、及び吸着器

【課題】全血処理を可能とする良好な血液適合性を有する免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材を提供する。
【解決手段】分子量が1000以上1000000以下の多糖類と疎水性アミノ酸またはその誘導体を固定化した吸着材3は、全血処理を可能とする良好な血液適合性と、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する吸着性能を両立することが可能となる。血球成分の付着や非特異的な吸着が抑制・低減されるため、従来技術では困難とされた直接血液中から免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な血液適合性を有する免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症(DCM)は心室の筋肉の収縮が極めて悪くなり、心臓が拡張してしまう疾患で肥大型心筋症に比べると極めて予後が悪い。我が国では診断されてから5年後に生存している人は約50%とされている。拡張型心筋症の治療は、心臓移植が根治療法として望まれるが待機数に対して提供数が不足しており、心不全に対する対症療法が主体となっている。また、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬の投与により心機能や予後が改善する症例が報告されているが、より有効な治療薬や治療法が望まれている。近年、DCM患者の血液中に、自己に対して反応性を持つ免疫グロブリンや免疫グロブリン複合体が多種検出されており、これらがDCM発症の引き金となるデータが報告されている。
【0003】
また慢性関節リウマチ、全身性エリトマトーデス、ギランバレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患、あるいは糸球体腎炎、臓器移植の拒絶反応、腫瘍、感染症などの疾患において、血液中に存在する免疫グロブリンや免疫グロブリン複合体が、疾患および現象の原因または進行に密接な関係を有することが明らかになりつつある。
【0004】
そこで、血液、血漿などの体液中から免疫グロブリンあるいは免疫グロブリン複合体を吸着除去することにより、上記疾患の進行を防止し、症状を軽減し、さらには治癒を促進することを期待して、いくつかの吸着除去材の利用が試みられてきている。例えば、特許文献1によれば、免疫グロブリンとの結合性を有するプロテインAをマトリックス上に固定化した、IgG(免疫グロブリンG)や、その複合体に特異性が高い吸着材が知られている。また、特許文献2では、疎水性化合物を不溶性担体上に固定化した吸着材により、免疫グロブリンの一種である糖脂質抗体や、その複合体が吸着されることが知られている。
【0005】
しかしながら、これまで試みられてきた吸着材、例えば特許文献1の吸着材では、リガンドであるプロテインAが黄色ブドウ球菌由来の分子量約4.2万ダルトンの異種タンパク質であるため、体液に接触させて使用する際にプロテインAの溶出によってその抗原性から生ずる副作用の危険性があること、滅菌時の安定性に問題があり滅菌方法が限定されること、固定化後の保存安定性に欠けることなどの欠点がある。またリガンドのプロテインAが非常に高価であることから再利用することが前提になっており、使用が血漿処理に限定されること、安全性に対する懸念があることなど他にも多くの欠点がある。
【0006】
また、特許文献3には、免疫吸着材として、イムノグロブリンやイムノグロブリン複合体の吸着材が記載されているものの、疎水性化合物を固定化していることから血液適合性が悪く血球成分を含む全血を処理できないという欠点がある。
【0007】
このように従来知られている免疫グロブリンや免疫グロブリン複合体を吸着するための吸着材は、安全性、安定性、高価、血液適合性などの観点から、多くの問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−500649号公報
【特許文献2】特開平9−77790号公報
【特許文献3】特開昭57-122875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の従来技術が有する課題に対し、本発明が解決しようとする課題は血液適合性が非常に優れた全血処理を可能とする、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の安価な吸着材、及び吸着器を提供することである。または、上記吸着材や吸着器を用いた免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、元来困難であった全血処理を可能とする免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材および吸着方法について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、分子量が1000以上1000000以下の多糖類と疎水性アミノ酸またはその誘導体を固定化した吸着材が非常に良好な血液適合性を有し、尚且つ、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を効率良く吸着しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、第一に水不溶性担体に分子量が1000以上1000000以下の多糖類と疎水性アミノ酸またはその誘導体を固定化した吸着材であって、疎水性アミノ酸の固定化量が膨潤体積の吸着材1mL当り10μmol以上500μmol以下である、非常に血液適合性に優れた全血処理可能な免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材に関する。第二として、上記吸着材を免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を含む血球成分を含む液と接触させることを特徴とする免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法に関する。第三として上記吸着材が充填された免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器に関する。
【0012】
本発明は具体的には以下の発明を包含する。
(1) 水不溶性担体に分子量1000以上1000000以下の多糖類と、疎水性アミノ酸及びその誘導体が固定化された、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材。
(2) 多糖類の分子量が5000以上1000000以下である、(1)記載の吸着材。
(3) 疎水性アミノ酸の固定化量が膨潤体積の吸着材1mL当り10μmol以上500μmol以下である、(1)または(2)に記載の吸着材。
(4) 疎水性アミノ酸及びその誘導体がトリプトファン、フェニルアラニンまたはそれらの誘導体であることを特徴とする、(1)から(3)に記載の吸着材。
(5) 疎水性アミノ酸がトリプトファンであることを特徴とする、(1)から(4)に記載の吸着材。
(6) 多糖類がアガロース、セルロース、デキストラン、デキストラン硫酸、およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)から(5)に記載の吸着材。
(7) 多糖類がデキストランまたはデキストラン硫酸であることを特徴とする、(1)から(6)に記載の吸着材。
(8) 水不溶性担体が多孔質担体であることを特徴とする、(1)から(7)に記載の吸着材。
(9) 多孔質担体がビニルアルコールを基本単位として構成させるポリマー粒子である、(8)に記載の吸着材。
(10)上記吸着材に血液を接触させることを特徴とする、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(11) 液の入口および出口を有しかつ、吸着材の容器外への流出防止手段を備えた容器内に、上記吸着材を充填してなる、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血球成分の付着や非特異的な吸着が抑制・低減されるため、従来技術では困難とされた直接血液中から免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着することが可能となり、血漿分離を必要としない。更にこの吸着材はリガンドとしてペプチドやタンパク質を必要としないため、非常に安価に製造することも可能である。従って、本発明は既存材料や既存方法とは一線を画す新規な材料・方法であり、医療分野へ深く貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における吸着材を詰めた吸着器の一実施例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の最良の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0016】
本発明における多糖類としては、具体的にはアガロース、セルロース、デキストラン、デキストラン硫酸、及びそれらの誘導体など親水性の高い多糖が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明における上記多糖類の分子量は、1000以上であり、1000000以下である。分子量が1000未満の多糖の場合、水不溶性担体の表面ではなく内部に多く固定化されてしまい、血液成分が接する水不溶性担体表面における上記多糖の固定化量が少なくなり、血液適合性向上を示さない。本発明においては、多糖の分子量が1000以上であることにより、水不溶性担体の内部ではなく、血球成分が直接接する表面に多く固定化されるため、大幅な血液適合性改善につながる。さらに、血液適合性の観点から、分子量は5000以上が好ましい。また多糖類は分子量が増加するにつれ粘度も上昇するため、吸着材を作製する上での作業性より、本発明における多糖類の分子量は1000000以下が実質的である。なお、これらの多糖は単独で使用しても複数の併用でも構わない。
【0017】
本発明における疎水性アミノ酸やその誘導体の例としては、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンなどの環状側鎖を有するアミノ酸、またはトリプトファンエチルエステル、トリプトファンメチルエステルなどの疎水性アミノ酸エステル類やトリプトアミン、トリプトファノールなどのインドール環を有する疎水性アミノ酸誘導体等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるわけではない。またこれらの疎水性アミノ酸やその誘導体はL体、D体、DL体、これらの混合物であってもよい。さらに2種以上の混合物であっても良い。これらの疎水性アミノ酸あるいはその誘導体の中でも、1つ目に天然型アミノ酸であり安全性が高いこと、2つ目に免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対して親和性が高いこと、以上の2点よりL−トリプトファンが好ましく用いられる。
【0018】
本発明における疎水性アミノ酸またはその誘導体の固定化量は、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する親和性の観点から膨潤体積の吸着材1mL当り10μmol以上であることが好ましく、疎水性が高く血液に対する適合性が悪くなることから膨潤体積の吸着材1mL当り500μmol以下が好ましい。更に膨潤体積の吸着材1mL当り15以上100以下がより好ましい。吸着材における疎水性アミノ酸またはその誘導体の固定化量を測定する方法としては、具体的には、上記化合物が窒素を含む化合物である場合は窒素含有量による測定、化合物がアミノ基やカルボン酸などアニオン性やカチオン性である場合は滴定による測定、化合物がインドール環を含むものであれば強酸性条件下でp−メチルベンズアルデヒドなどのアルデヒドを化合物内に存在するインドール環に縮合させるときに発色する性質を利用した定量法、化合物の吸光や蛍光を利用して測定する方法などが挙げられる。
【0019】
本発明における疎水性アミノ酸またはその誘導体の固定化量(A)と、多糖類の固定化量(B)とのモル比(A/B)が30以上500以下であることが好ましい。さらに、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する吸着性能と血液適合性の観点からモル比は40以上400以下がより好ましい。さらに好ましくは100以上350以下である。
【0020】
本発明における水不溶性担体とは、常温常圧で固体であり、水不溶性であることを意味する。本発明における水不溶性担体は、球状、粒状、糸状、中空状、平膜状等、形状は特に問わず、その大きさも特に限定されない。水不溶性担体は比表面積が大きいほど免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する性能が優れることから、球状または粒状が特に好ましく用いられる。球状または粒状の担体は適当な大きさの細孔を多数孔有する、すなわち、多孔構造を有する担体であることが好ましい。多孔構造を有する担体とは、基礎高分子母体が微小球の凝集により1個の球状粒子を形成する際に微小球の集塊によって形成される空間(マクロポアー)を有する担体のばあいは当然であるが、基礎高分子母体を構成する1個の微小球内の核と核との集塊の間に形成される細孔を有する担体の場合、あるいは三次元構造(高分子網目)を有する共重合体が親和性のある有機溶媒で膨潤された状態の時に存在する細孔(ミクロポアー)を有する担体の場合も含まれる。
【0021】
また吸着材の単位体積あたりの吸着能から考えて、多孔構造を有する水不溶性担体は、表面多孔性よりも全多孔性が好ましく、また空孔容積および比表面積は、吸着性が損なわれない程度に大きいことが好ましい。
水不溶性担体が球状または粒状である場合、本発明の吸着材が全血処理である点を考えれば担体の平均粒径は大きいほど良いが、吸着効率の面では平均粒径は小さいほど良い。本発明における吸着材として、全血処理と良好な吸着性能が発揮できる吸着材の平均粒径は100μm以上1000μm以下であることが好ましく、良好な血球通過性と吸着性能が発揮できる点からさらに好ましくは200μm以上800μm以下であり、さらに好ましくは400μm以上600μm以下である。
【0022】
本発明における水不溶性担体の材料は特に限定されないが、セルロース、酢酸セルロース、デキストリンなどの多糖類からなる有機担体、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコールなどの合成高分子が代表として挙げられる。また、これらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体等も好ましい。さらに、これらは架橋されているものであっても良い。本発明における水不溶性担体は非特異的吸着が少なく親水性が高いこと、活性基を導入するための官能基が必要なことから水酸基を有していることが望ましく、特にセルロースやポリビニルアルコールが好ましい。
【0023】
本発明における水不溶性担体へ多糖類や疎水性アミノ酸やその誘導体を固定化する方法としては、水不溶性担体へ活性基を導入し、導入した活性基に対して反応性を示す官能基を有する化合物を固定化する方法を用いることができる。導入する活性基としては、特に限定されないが、具体的には、エポキシド、ハロゲン化シアン、ハロゲン化トリアジン、ブロモアセチルブロミド、アルデヒド等が挙げられる。中でも、容易にその活性基を導入できること、温和な条件下でリガンドまたはリンカーを固定化できること、固定化されたリガンドまたはリンカーが安定であり溶出しにくいこと、工業的に大量に取扱うことが可能であること、目的に応じて活性基導入量を調整できること、から、活性基はエポキシドが好ましい。エポキシドは水酸基、アミノ基、チオール基と容易に反応し、副反応は少なく、定量的にエーテル結合、アルキルアミン結合、チオエーテル結合を形成する。また、エポキシ基は水溶液中で分解させるとグリコールとなり、毒性が低くなることも利点である。
【0024】
このようなエポキシ基を導入するためのエポキシ化剤としてはエピクロロヒドリン、ビスエポキシド、ポリエポキシドが、エポキシ基を担体に導入しやすいこと、そして、上記エポキシ化剤によって導入されたエポキシ基とリガンドとの反応をコントロールしやすいこと、から好ましい。ここでいうビスエポキシド、ポリエポキシドとは、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4―ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなどの1分子内に2個または3個以上のエポキシ基を持つ化合物を指す。
【0025】
活性基導入の反応温度は、例えばエピクロロヒドリンの場合は、低温では反応速度が遅く、高温では副反応の架橋が起こりやすくなるため、10℃から60℃の範囲が好ましい。反応の時間は、希望する活性基量を考慮し、数分から数時間程度の反応時間を選ぶことができる。ビスエポキシドの場合もエピクロロヒドリンの場合と同様の条件で、担体に活性基を導入可能であるが、反応系に促進剤として水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤を少量加えることもよい。
【0026】
本発明のエポキシ導入量は、次の方法によって求められる。エポキシ基を導入した担体をある一定量、例えば6mL測り取り、グラスフィルター上、減圧下で15分、水分除去する。約1.5g測り取り、そこに1.3Mチオ硫酸ナトリウム水溶液4.5mLを加え、45℃で30分反応する。エポキシ基とチオ硫酸ナトリウムの反応によって生じるOHイオンを、フェノールフタレインを指示薬とし、0.01N塩酸または0.1N塩酸でフェノールフタレインの着色がなくなるまで滴定を繰り返し、総滴定量によりエポキシ基の量を求める。
【0027】
このようにエポキシ基を結合させた担体に、アミノ基、水酸基、チオール基などの活性水素を有する官能基を持つリガンドが結合できる。固定化条件はリガンドの化学的性質や固定化させる官能基に応じて、任意に選定できる。例えば、水溶液中、pH7〜13程度の塩基性条件下で反応させる。炭酸、ホウ酸、リン酸などの緩衝液を用いてpH調整を行うとよい。反応温度はリガンドの種類により任意に選べばよいが、通常は0℃〜80℃程度であり、反応時間も1時間から48時間が好ましい。リガンド固定化量はリガンドの種類により選ばれるが、一般的には反応中に残った未反応のリガンド濃度と仕込みリガンド濃度との差を分光光度計などにより定量して求める。他にもリガンドの種類により、滴定や元素分析により求めることもできる。過剰なエポキシは、グリシン、エタノールアミン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタンなどの試薬によるブロッキング処理や、アルカリや酸で加水分解して処理することも可能である。
【0028】
こうして得られるリガンドが固定化された担体は、非常に安定な共有結合により結合されており、熱的に安定である。リガンド自体が安定であれば、高圧蒸気滅菌が可能であり、滅菌後のリガンド溶出やそれに伴う求める性能低下も生じない。リガンドが熱滅菌に不適な場合でも、エチレンオキサイドガスによる滅菌が可能である。以上より、医療用途としても大変優れた性能を有している。
【0029】
本発明における免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体とは例えば、自己免疫疾患における自己抗体および/または免疫複合体などが考えられる。さらに具体的にはリウマチ因子、抗核抗体、抗DNA抗体、抗リンパ球抗体、抗赤血球抗体、抗血小板抗体、抗アセチルコリンレセプター抗体、血清脱随抗体、抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体、抗大腸抗体、抗平滑筋抗体、抗表皮細胞間抗体、抗基底膜抗体、抗プロテオグリカン抗体、抗コラーゲン抗体、抗胃内因子抗体、抗甲状腺ミクロソーム抗体、抗動脈抗体、抗アドレノセプター抗体等の自己抗体および/またはその免疫複合体などである。
【0030】
本発明の吸着材を用いて、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着する方法としては最も簡便な方法としては血液を取り出してバッグなどに貯留し、これに吸着材を混合して悪性物質を吸着した後、吸着材を濾別して悪性物質が除去された血液を得る方法がある。この方法は、血液を原材料として医薬品(例:血液製剤、ワクチン、遺伝子組換製剤)又は医療材料を製造する際にも、適用することができる。次の方法は血液の入口と出口を有し、出口には血液は通過するが吸着材は通過しないフィルターを装着した容器に吸着材を充填し、これに血液を流す方法がある。いずれの方法も用いることができるが、後者の方法は操作も簡便であり、また体外循環回路に組み込むことにより患者の血液から効率よくオンラインで悪性物質を除去することが可能である。特に本発明の吸着材は血液適合性が非常に高いことから、血漿分離を必要とせず血球成分を含む血液を直接処理することができるため、オンラインで処理する後者に利用するのが最適である。また体外循環回路では吸着材を単独で用いることもできるが、他の体外循環治療システムとの併用も可能である。併用の例としては、人工透析回路などがあげられ、透析療法との組み合わせに用いることもできる。
【0031】
次に、オンラインで体外循環する際の一実施例を、概略断面図である図1に基づき説明する。図1中、1は液体の流入口、2は液体の流出口、3は本発明にける吸着材、4および5は液体および液体に含まれる成分は通過できるが4の吸着材は通過できないフィルター、6はカラム、7は吸着器である。しかしながら、体外循環としての吸着器はこのような具体例に限定されるものではなく、液の入口、出口を有し、かつ吸着材の容器外への流出防止具を備えた容器内に前記吸着材を充填したものであれば、どのようなものでもよい。
【0032】
前記流出防止具には、メッシュ、不織布、綿栓などのフィルターがあげられる。また、容器の形状、材質、大きさにはとくに限定はないが、形状としては筒状容器が好ましい。容器の材質として好ましいのは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。容器の容量は50ml以上、1500ml以下で、直径は2cm以上、20cm以下が好ましい。容器の容量が50mlより小さいと吸着量が充分でなく、1500mlより大きいと体外循環量が多くなるので好ましくない。容器の直径が2cmより小さいと線速が大きくなるため圧力損失が大きくなり好ましくない。20cmより大きいと取り扱いにくくなるうえ線速が小さくなるため凝固の危険性があり好ましくない。効果的な吸着量があり、安全性に優れているという点から容量は100ml以上、800ml以下で、直径は3cm以上、15cm以下がさらに好ましく、容量は150ml以上、400ml以下で、直径は4cm以上、10cm以下が特に好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
(参考例1)
国際公開公報WO2006−46589と同様の方法にて、以下の手順によりポリビニルアルコール担体を得た。
【0035】
攪拌翼を有する2Lセパラブルフラスコ(重合反応器)と、液適生成装置、単量体混合タンク、分散媒タンクから構成される重合装置を用いて、重合を行った。
【0036】
重合反応器中に、水438.2g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの3重量%水溶液1.87g、微粒子状の第三リン酸カルシウムの10重量%スラリー127.2gを仕込み、穏やかに撹拌させておいた。
【0037】
液滴生成装置として、分散媒を満たしたカラムに単量体混合物を噴出するノズルを挿入し、ノズルの上端は孔径0.17mmの小孔を6個有するオリフィス板よりなり、下端には振動を伝達する振動板を設置し、振動板を加振器と接続したものを用いた。カラムには分散媒タンクより分散媒を供給する導入管を接続し、ノズルには単量体混合物タンクより単量体混合物を供給する導入管を接続した。単量体混合物の供給には定量性が高く脈動の少ない2連プランジャーポンプを使用した。
【0038】
単量体混合物タンクより、酢酸ビニル100重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)20.7重量部、酢酸エチル192重量部、ヘプタン64重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)4.9重量部よりなる単量体混合物566gを、27.6mL/minの速度で液滴生成装置の導入管に供給し、液滴生成装置のノズルを経由して重合反応器に仕込んだ。それと同時に分散媒タンクより、分散媒として1.2重量%のポリビニルアルコールおよび56ppmの亜硝酸ナトリウムを含む水溶液663gをカラムに供給し、液滴生成装置を経由して重合反応器に仕込んだ。
【0039】
この際、単量体混合物には加振器により周波数400Hz、強度0.4Gの機械的振動を与えた。ノズル孔より噴出する単量体混合物は、該機械的振動により分割されて実質的に均一な径の液滴群をカラム中に形成し、同時に供給される分散媒とともに重合反応器内へ送られた。
【0040】
上記液滴生成装置で生成した液滴群を重合反応器内へ導入した後、重合反応器内の窒素置換を行い、内温を65℃に5時間保持して重合させた。酢酸ビニルの重合転化率は51%であった。次いでセパラブルフラスコの内容物に塩酸を加えてpHを2以下に調整し第三リン酸カルシウムを溶解させ、その後水で良く洗浄した。洗浄液のpHが中性付近になったことを確認した後、水をアセトンで置換し、重合によって得られた粒子をアセトンで十分に洗浄した。次いでアセトンを水で置換した後、酢酸ビニル単位に対して過剰量となるよう下式の量の水酸化ナトリウム(NaOH)を水溶液として加えた。
【0041】
NaOH(固形分重量)=粒子乾燥重量/86.09×40×1.5
なお水に対するNaOH濃度が4重量%になるように水量を調整した。これを撹拌下、反応温度40℃で6時間保持して鹸化を行った。その後、洗浄液のpHが中性付近になるまで水洗し、さらに80℃の温水で十分に洗浄を行った。次いで121℃、20分間のオートクレーブ処理を行い、ポリビニルアルコール担体を得た。この担体の体積平均粒径は約450μmであった。
【0042】
(実施例1)
参考例1にて得られたポリビニールアルコール担体をグラスフィルター上に流し入れた後、減圧下で溶媒を除去し乾燥した。乾燥状態の担体100g、ジメチルスルホキシド480mL、エピクロロヒドリン420g、50%水酸化ナトリウム溶液40gを混合し、40℃で8時間反応させ、エポキシ化担体を得た。このエポキシ化担体のエポキシ導入量は1mL当たり100μmolであった。
【0043】
エポキシ化担体60mLにデキストラン硫酸(分子量500,000)20gを加え、全量を120mLに調整した後、水酸化ナトリウム溶液でpHを9.5とした。この混合液を40℃で30時間反応させ、デキストラン硫酸固定化担体(以下、DS担体と略す)を得た。トルイジンブル―による測定や重量変化より、DS担体は1mL当たり1.6mgのデキストラン硫酸が固定化されていた。
【0044】
次に、DS担体30mLにL−トリプトファン2.5gを加え、pH10の0.5M炭酸緩衝液中で50℃、8時間反応させ、デキストラン硫酸とL−トリプトファン固定化担体(以下、DS−Trp担体と略す)を得た。非水滴定によると、このDS−Trp担体は1mL当たり約17mgのL−トリプトファンが固定化されていた。
【0045】
(実施例2)
デキストラン硫酸(分子量500,000)の代わりにデキストラン(分子量200,000)を使用すること以外は実施例1と同様にして、デキストランとL−トリプトファン固定化担体(以下、DX−Trp担体と略す)を得た。このDX−Trp担体は1mL当たり14mgのL−トリプトファンが固定化されていた。
【0046】
(比較例1)
デキストラン硫酸(分子量500,000)の固定化操作を実施しないこと以外は実施例1と同様にしてL−トリプトファン固定化担体(以下、Trp担体と略す)を得た。このTrp担体は担体1mL当たり17mgのL−トリプトファンが固定化されていた。
【0047】
(比較例2)
デキストラン硫酸(分子量500,000)の代わりにデキストラン硫酸(分子量4,000)9gを使用すること以外は実施例1と同様にして、デキストラン硫酸とL−トリプトファン固定化担体(以下、DS−Trp担体2と略す)を得た。このDS−Trp担体2は1mL当たり0.5mgのデキストラン硫酸、10mgのL−トリプトファンが固定化されていた。
【0048】
(比較例3)
デキストラン硫酸(分子量500,000)の代わりにデキストラン硫酸(分子量4,000)14gを使用すること以外は実施例1と同様にして、デキストラン硫酸とL−トリプトファン固定化担体(以下、DS−Trp担体3と略す)を得た。このDS−Trp担体3は1mL当たり0.8mgのデキストラン硫酸、8mgのL−トリプトファンが固定化されていた。
【0049】
(評価)
上記の5種類の担体を、両端に目開き150μmのポリエチレンテレフタレート製メッシュを装着した内径10mm、長さ90mmのアクリル製カラムに充填し、血液1mlに対し5単位のヘパリンを添加し抗凝固した健常人血液45mlを、流速2.0ml/min、60分間循環で通血し、血液中の赤血球数、白血球数、および血小板数を各々測定した。各値は原血液中の血球濃度を100とした場合の数値で示した。結果は表1、表2、表3に示した。
【0050】
また、上記の5種類の担体0.5mLを、クエン酸で抗凝固された血漿2.5mLと、37℃で2時間接触させた。回収した上清濃度のIgG濃度から、担体の代わりに同体積の生理食塩水を用いた場合をコントロールとして、以下の式の通りIgGの吸着率を算出した。結果を表4に示した。

吸着率=(コントロール中のIgG濃度―担体に接触させた溶液のIgG濃度)÷コントロール中のIgG濃度
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【符号の説明】
【0055】
1 液体の流入口
2 液体の流出口
3 吸着材
4、5 液体および液体に含まれる成分は通過できるが、吸着材は通過できないフィルター
6 カラム
7 吸着器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体に分子量1000以上1000000以下の多糖類と、疎水性アミノ酸またはその誘導体が固定化された、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材。
【請求項2】
多糖類の分子量が5000以上1000000以下である請求項1記載の吸着材。
【請求項3】
疎水性アミノ酸またはその誘導体の固定化量が膨潤体積の吸着材1mL当り10μmol以上500μmol以下である請求項1または請求項2記載の吸着材。
【請求項4】
疎水性アミノ酸またはその誘導体がトリプトファン、フェニルアラニンまたはそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の吸着材。
【請求項5】
疎水性アミノ酸がトリプトファンであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
多糖類がアガロース、セルロース、デキストラン、デキストラン硫酸、およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の吸着材。
【請求項7】
多糖類がデキストランまたはデキストラン硫酸であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の吸着材。
【請求項8】
水不溶性担体が多孔質担体であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の吸着材。
【請求項9】
多孔質担体がビニルアルコールを基本単位として構成させるポリマー粒子である請求項8記載の吸着材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の吸着材に血液を接触させることを特徴とする、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項11】
液の入口および出口を有しかつ、吸着材の容器外への流出防止手段を備えた容器内に、請求項1から9のいずれかに記載の吸着材を充填してなる、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−158394(P2010−158394A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2636(P2009−2636)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】