説明

血清不含インスリン不含で第VII因子を産生する方法

本発明は、組換えヒト第VII因子(FVII)を産生するための方法および組成物を提供し、上記方法は、組換えヒトFVIIを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を得ること、前記CHO細胞をインスリンを欠いている血清不含培地中で培養することを含み、ここで、前記CHO細胞における前記FVIIの産生は、インスリン存在下でのFVII産生に匹敵する。上記産生方法において使用されるCHO細胞は、血清不含培養における増殖のために改変された組換えヒトFVIIを発現するCHO細胞株を、インスリン量を減少させながら連続的に培養することによって、インスリン非存在下での細胞培養で増殖するように順応させて調製される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
FVIIの主な役割は、組織因子(TF)と共に凝固プロセスを開始することである。組織因子は、血管の外側に見出され、通常は血流に曝されない。血管傷害により、組織因子は血液および循環する第VII因子に曝される。一旦TFに結合されると、FVIIは様々なプロテアーゼ(それらは、トロンビン(第IIa因子)、活性化第X因子およびFVIIa−TF複合体それ自身)によってFVIIaに活性化される。FVIIa−TFについての最も重要な基質は、第X因子および第IX因子である。第VIIa因子は、総第VII因子タンパク質量の約1%に相当する量で循環中に存在する。第VII因子は、FXaによって2本鎖の活性化形態である第VIIa因子に切断される、単鎖酵素前駆体として主に血漿中に存在する。
【0002】
組換え型活性化第VIIa因子(rFVIIa)は、前止血剤(prohaemostatic agent)として開発されてきた。rFVIIaの投与は、抗体の発生により他の凝固因子による処置が制限されている、出血を伴う血友病被験体において迅速かつ高効果の前止血反応をもたらす。また、第VII因子不全を伴う被験体における出血、または正常な凝固系を有しているが過剰の出血状態である被験体も、rFVIIaにより首尾よく処置することができる。
【0003】
組換え血液凝固因子の調製は、重要性を獲得しつつある。例えば、他の凝血タンパク質のように、第VIIa因子は、例えばアスパラギン結合(N結合)型グリコシル化;O結合型グルコシル化;およびグルタミン酸残基のγ−カルボキシル化を含む多様な翻訳時修飾および翻訳後修飾に供される。これらの組換えタンパク質を、適切に組換えタンパク質を修飾することが可能な哺乳動物細胞において産生することが好ましい。
【0004】
これは、動物血清またはアルブミン、トランスフェリン、インスリン等の動物由来成分の存在下で従来行われてきた組換え細胞(哺乳動物細胞培養)の最適な増殖を考慮することである。しかし、汚染のリスクを低減し、産生された産物における変異性を減少させる必要があることが認識されており、様々な方法および組成物が、組換え血液凝固因子の調製用の血清不含(free)培地の使用のために開発されてきた(例えば、特許文献1および特許文献2または特許文献3を参照)。また、調製法におけるそのような培地の使用は、発現したタンパク質のより単純な精製をも可能にする。ほとんどの場合、組換え細胞は血清含有培地で高い細胞密度まで最初に培養され(例えば、作業用細胞バンク用)、その後それらは産生相中に血清不含培地に再順応させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,100,061号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0203448号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0094104号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血清不含培養方法は結果が変わりやすく、細胞増殖および第VII因子タンパク質の産生のためにインスリンの添加を要した。従って、哺乳動物細胞培養方法に関する技術分野において、多量の凝固タンパク質、具体的には組換えヒト第VII因子または第VII因子関連ポリペプチドを産生するために、血清または他の動物由来成分およびインスリンの両方から解放されることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡潔な概要)
特定の態様によれば、本発明は、組換えヒトFVIIを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を得ること;および当該CHO細胞をインスリンを欠いている血清不含培地中で培養することを含む、組換えヒト第VII因子(FVII)を産生する方法に関する。具体的には、CHO細胞におけるこのFVIIの産生は、インスリン存在下でのFVIIの産生に匹敵する。
【0008】
当該産生方法において使用されるCHO細胞は、血清不含培養における増殖のために改変された組換えヒトFVIIを発現するCHO細胞株を、インスリン非存在下で増殖するFVII産生CHO細胞株を得るため、当該CHO細胞株をインスリン量を減少させながら連続的に培養することによってインスリン非存在下での細胞培養で増殖するように順応させて調製される。
【0009】
特定の実施形態において、血清不含培養における増殖のために改変された組換えヒトFVIIを発現するCHO細胞株は、欧州細胞カルチャーコレクション(European Collection of Cell Cultures)、イギリス、ポートダウン(Porton Down)に2008年10月8日にアクセッション番号08100801で寄託された細胞株1E9細胞株である。
【0010】
他の実施形態において、インスリン非存在下での増殖のために産生されたFVII産生CHO細胞株は、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802で寄託された1E9細胞株である。
【0011】
産生方法において使用される細胞培養培地は、好ましくはビタミンK1を含む。より詳しくは、当該培地は、1以上の次の添加物i)グルタミン;最終濃度0.9g/l、ii)硫酸第二鉄×7H2O 0.0006g/l、iv)プトレシン、×2HCl 0.0036g/l、vi)ビタミンK1 0.0025g/l、vii)シンペロニック(Synperonic);最終濃度1g/l、フェノールレッド 0.008g/l、エタノールアミン 0.00153g/l、および炭酸水素Na 2g/lが補充された血清不含DMEM/HAM F12に基づく処方物である。
【0012】
当該細胞は、連続的に培養する方法を用いて調製され、当該連続的に培養する方法は、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスする工程(pulse)を含む。そのようなパルス手法は生存可能な細胞を産生する一方で、パルスを伴なわずに連続的に少なくなるインスリンで前記細胞を増殖させることは生存可能な細胞を産生しないことが見出された。
【0013】
パルス方法における代表的工程は、インスリンを含有する標準血清不含培地中で14日目までCHO細胞株を増殖させ、そして14日目に当該細胞株を血清不含、インスリン不含培地へ移すことを含む。
【0014】
特定の態様において、当該細胞をその後血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間、好ましくは1日間増殖させ、その後、0.2mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ再び移し、そしてインスリン含有培地中で1〜3日間、好ましくは3日間増殖させる。その後、インスリン含有培地中での1〜3日間、好ましくは3日間の増殖の後、当該CHO細胞株を再び血清不含、インスリン不含培地中へ移す。
【0015】
代表的な実施形態において、当該細胞を、その後、さらなる期間、好ましくは1日間、血清不含、インスリン不含培地中で増殖させ、その後0.070mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そしてインスリン含有培地中で3〜8日間、好ましくは8日間増殖させる。インスリン含有培地中での3〜8日間、好ましくは8日間の増殖の後、当該CHO細胞株を、血清不含、インスリン不含培地中へ移す。その後、当該方法は、1日間血清不含、インスリン不含培地中で細胞を増殖させ、その後当該細胞を0.030mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そしてインスリン含有培地中で当該CHO細胞株を3〜9日間、好ましくは9日間増殖させることを含む。さらに、インスリン含有培地中での3〜9日間、好ましくは9日間の増殖の後、当該CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す。この細胞株を、その後、血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後当該細胞を0.016mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして当該CHO細胞株をインスリン含有培地中で3〜9日間、好ましくは9日間増殖させる。この細胞株は、その後、血清不含、インスリン不含培地へ移され、少なくとも30継代、好ましくは少なくとも40継代の間インスリン不含培地中で安定である。第0〜88日目の順応中の実際のインスリン濃度(計算に基づく)は、図1に提示される。
【0016】
従って、本発明は、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスすること(ここで、パルスは、a)当該細胞株をインスリン含有培地中で3〜9日間、より具体的には9日間増殖させることに続き、b)インスリン不含、血清不含培地中で1日間増殖させること、そして工程a)およびb)を反復することを含み、ここで、各連続工程a)における培地は、培地が検出可能なインスリンを含有しなくなるまで前工程a)のおよそ半分の濃度のインスリンを含有する)を含む、血清不含培地中で増殖するFVII産生細胞株を血清不含、インスリン不含培地中で増殖する細胞株へと順応させる方法にも関する。
【0017】
そのような好ましい順応方法において、当該方法は、a)インスリンを含有する標準的な血清不含培地中で14日目までCHO細胞株を増殖させ、そして14日目に当該細胞株を血清不含、インスリン不含培地へ移すこと;b)工程b)の細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間、より具体的には1日間増殖させ、その後当該細胞を0.2mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして当該CHO細胞株をインスリン含有培地中で1〜3日間、より具体的には3日間増殖させること;c)工程b)のインスリン含有培地中での1〜3日間、より具体的には3日間の増殖の後、当該CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移すこと;d)工程c)の細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後当該細胞を0.070mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして当該CHO細胞株をインスリン含有培地中で3〜8日間、より具体的には8日間増殖させること;e)工程d)のインスリン含有培地中での3〜8日間、より具体的には8日間の増殖の後、当該CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移すこと;f)工程e)の細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後当該細胞を0.030mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして当該CHO細胞株をインスリン含有培地中で3〜9日間、より具体的には9日間増殖させること;g)工程f)のインスリン含有培地中での1日間の増殖の後、当該CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移すこと;h)工程g)の細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後当該細胞を0.016mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、当該CHO細胞株をインスリン含有培地中で3〜9日間、より具体的には9日間増殖させること;ならびにi)工程hにおけるインスリン含有培地中での3〜9日間、より具体的には9日間の増殖の後、当該CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移すことを含み、ここで工程i)の細胞は血清不含、インスリン不含培地中での長期増殖に順応させられている。また、本発明はこれらの方法に従って産生された細胞に関する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、ヒトFVIIを発現し、動物由来成分を欠いているインスリン不含培地中での増殖に順応させられた組換えCHO細胞に関する。好ましくは、組換え細胞は、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスすること(ここで、パルスは、a)インスリン含有培地中で9日間細胞株を増殖させることに続き、b)インスリン不含、血清不含培地中で1日間増殖させること、そして工程a)およびb)を反復することを含み、ここで、各連続工程a)における培地は、培地が検出可能なインスリンを含有しなくなるまで前工程a)のおよそ半分の濃度のインスリンを含有する)を含む、血清不含培地中で増殖するFVII産生細胞株を血清不含、インスリン不含培地中で増殖する細胞株へと順応させることによって産生される。
【0019】
好ましいヒトFVIIを発現する組換えCHO細胞は、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801で寄託されているものである。さらに好ましいヒトFVIIを発現する組換えCHO細胞は、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802で寄託されているものである。
【0020】
また、哺乳動物細胞におけるFVIIまたはFVII関連ポリペプチドのラージスケール産生の方法が考えられ、当該方法は、(a)本発明の順応させられた組換え細胞を血清不含、インスリン不含培地を含有する培養容器中に播種し、そして少なくとも細胞が所定の密度に到達するまで当該哺乳動物細胞培養物を増殖させること;(b)増殖させられた種培養物を血清不含、インスリン不含培地を含有するラージスケール培養容器へ移すこと;(c)少なくとも当該細胞が所定の密度に到達するまで血清不含、インスリン不含培地中でラージスケール培養物を増殖させること;(d)工程(c)で得られた培養物を、FVII発現またはFVII関連ポリペプチド発現に適当な条件下で血清不含、インスリン不含培地中で維持すること;および(e)当該維持された培養物からFVIIまたはFVII関連ポリペプチドを取り出すことを含む。
【0021】
好ましくは、当該方法は、工程(b)の前に、漸進的に増加するサイズの種培養容器を使用して工程(a)を繰り返すことをさらに含む。また、当該方法は、定期的な培養培地の採取および新鮮培地による置換によって血清不含、インスリン不含培地中において工程(c)で得られた培養物を維持することをさらに含み得る。
【0022】
当該培養方法は、例えば、マイクロキャリア法;マクロ多孔質キャリア法等の任意の方法であってよい。当該方法は、標準マイクロキャリア法またはマイクロキャリア灌流法であってもよい。あるいは、当該方法は、灌流法またはバッチ/ドローフィル(draw−fill)法であってもよい懸濁法である。当該細胞培養法は、単純バッチ法、フェドバッチ(fed−batch)法またはドローフィル法であってもよい。播種工程の前に、当該細胞は、インスリンを欠いている血清不含培地中での増殖に順応させられている。さらに、当該細胞は、播種工程の前に、懸濁培養における増殖が可能であることが好ましい。
【0023】
記載される方法において、好ましくは、所望のFVIIまたはFVII関連ポリペプチドは、ヒトFVIIまたはヒトFVII関連ポリペプチドである。当該ラージスケール産生方法は、好ましくは少なくとも約1mg/l/日の培養物のレベルでFVIIまたはFVII関連ポリペプチドを産生するものである。より好ましくは、FVIIまたはFVII関連ポリペプチドは、少なくとも約2.5mg/l/日の培養物のレベルで産生される。他の実施形態において、当該方法の収率は、少なくとも約5mg/l/日の培養物のレベルでFVIIまたはFVII関連ポリペプチドを産生するものである。他の好ましい実施形態において、FVIIまたはFVII関連ポリペプチドは、少なくとも約8mg/l/日の培養物のレベルで産生される。具体的な代表的実施形態において、FVIIまたはFVII関連ポリペプチドは、約3〜4mg/l/日のレベルで産生される。
【0024】
当該方法は、少なくとも5000U/L/日のFVIIまたはFVII関連ポリペプチドを生じる。他の実施形態において、少なくとも7000U/L/日のFVIIまたはFVII関連ポリペプチドが産生される。産生されるFVIIまたはFVII関連ポリペプチドの活性単位の好ましい範囲は、約7000〜10,000U/l/日である。
【0025】
具体的な実施形態において、当該方法は、工程(c)において得られた培養物を細胞含有キャリアの沈降の後、培養上清の一部を定期的に採取すること、および新鮮培地による置換によって血清不含、インスリン不含培地中に維持することをさらに含む。好ましくは、当該方法は、キャリアの沈降前に培養の設定値未満の所定の温度まで培養物を冷却することをさらに含む。例えば、当該培養物は、キャリア沈降前に培養の温度設定値より5℃〜30℃低い温度まで冷却される。他の実施形態において、当該培養物は、培養の温度設定値より5℃〜20℃低い温度まで冷却される。さらに他の実施形態において、当該培養物は、培養の温度設定値より5℃〜15℃低い温度まで冷却される。より具体的な実施形態は、培養の温度設定値より約10℃低い温度まで当該培養物を冷却することを含む。
【0026】
規定された態様において、本明細書で使用される培地は、1以上の以下の添加物、i)グルタミン;最終濃度0.9g/l、ii)硫酸第二鉄×7H2O 0.0006g/l、iv)プトレシン、×2HCl 0.0036g/l、vi)ビタミンK1 0.0025g/l、vii)シンペロニック;最終濃度1g/l、フェノールレッド0.008g/l、エタノールアミン0.00153g/l、および炭酸水素Na 2g/lが補充された血清不含DMEM/HAM F12に基づく処方物である。
【0027】
具体的な実施形態において、好ましい方法における条件は、ラージスケール培養における細胞の細胞密度が1〜3×10/mlであり、当該培養物が希釈率0.25〜1.5で、pH7.1+−0.3、pO2 10〜50%に維持されるようなものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、血清不含、インスリン不含条件において増殖する1E9細胞株を選択するための減少ストラテジーのグラフを示す。
【図2】図2は、血清不含、インスリン不含培地中で増殖することが可能なCHO−K1細胞株を導くためのインスリンを伴う血清不含培地およびインスリンを伴わない血清不含培地によりCHO−K1細胞のパルスすることを図示するグラフを示す。
【図3】図3は、標準継代希釈と本発明のパルス技術による血清不含、インスリン不含培地への細胞の順応の比較を図示するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
本発明は、血清不含およびインスリン不含条件下で、哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において組換えヒト第VII因子(FVII)を産生する方法を提供する。当該方法は、ヒトFVIIを発現する組換えCHO細胞株を得ること、および当該CHO細胞をインスリンを欠いている血清不含培地中で培養することを含む。
【0030】
本発明は、FVIIまたはその誘導体を発現する哺乳動物細胞を、血清不含、インスリン不含培地中で培養することを包含する。本明細書において使用する場合、「血清不含」は、完全な動物において作製されたかまたは完全な動物から抽出された任意の成分(「動物由来」、例えば、血清から単離および精製されたタンパク質)も、完全な動物において産生された成分を用いて産生された成分(例えば、植物供給源材料を加水分解するために動物から単離および精製された酵素を用いて作製されたアミノ酸)も欠いている培地を意味する。
【0031】
本明細書において使用する場合、「インスリン不含」または「インスリンを欠いている培地」は、いかなる追跡可能な量のインスリンも含有しない培地に関する。インスリンは、動物由来インスリン(例えば、動物血清から精製された)および非動物由来インスリン(例えば、酵母もしくは微生物細胞中に産生された組換えインスリン、または例えばCHO、BHKもしくはHEK細胞等の樹立された哺乳動物細胞株中に産生されたインスリンなど)の両方を包含する。
【0032】
本発明の条件下での細胞増殖および維持を支持する任意の細胞培養培地が、培地が動物由来成分不含(すなわち欠いている)かつインスリン不含である限り使用され得る。一般的に、培地は水、容量オスモル濃度調整剤、緩衝剤、エネルギー源、アミノ酸、無機または組換え鉄源、1以上の合成または組換え成長因子、ビタミン、および補因子を含有する。動物由来成分および/またはタンパク質を欠いている培地は、たとえば、Sigma、JHR Biosciences、GibcoおよびGemini等の商業的な供給業者から入手可能である。
【0033】
慣用的な成分に加え、第VII因子または第VII因子関連ペプチドを産生するために好適な培地は、有利にはビタミンKを含有してもよい。ビタミンKは、第VII因子のグルタミン酸残基のカルボキシル化に必要とされる補因子である。一般的に、ビタミンKは、約0.1〜50mg/リットルの間、好ましくは約0.5〜25mg/リットルの間、より好ましくは約1〜10mg/リットルの間、そして最も好ましくは約5mg/リットルの濃度で培地中に存在してもよい。
【0034】
下表(表1)は、本発明における使用に好適な代表的な培地の組成を示す。使用される培地は、血清不含培地(BCS)である。BCS培地は以下に例示されるDMEM/HAM F12に基づく培地である。
【0035】
【表1−1】

【0036】
【表1−2】

任意に、列挙された好適な範囲で1以上の追加の成分を培養培地に添加してもよい。例えば、培地は、任意に0.5〜50g/Lの範囲そして好ましくは2.5g/Lの大豆ペプトンを含有してもよい。別の任意の材料は、0.0005〜0.05g/Lの範囲そして好ましくは0.0035g/Lの範囲で存在するアスコルビン酸である。他の培地において任意の材料は、約0.0001〜0.001g/Lの範囲そして好ましくは0.0086g/Lの亜セレン酸Naである。
【0037】
本発明の実施において、培養される細胞は、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくは、CHO(例えばATCC CCL 61)、COS−I(例えばATCC CRL 1650)、ベビーハムスター腎臓(BHK)およびHEK293(例えばATCC CRL 1573,Grahamら,J.Gen.Virol.36:59−72,1977)細胞株を包含するが、これらに限定されない樹立された哺乳動物細胞株である。好ましいCHO細胞株は、アクセッション番号CCI61のもとにATCCから入手可能であるCHO Kl細胞株である。具体的な実施形態において、本明細書に記載される産生方法に使用される細胞株は、CHO rFVIIa BI WCB07002 アクセッション番号08100801であり、この細胞株は血清不含条件における増殖に順応させられた組換え第VII因子産生細胞株である。
【0038】
組換えヒトFVIIまたは誘導体を発現する任意の好適で安定なCHO Kl細胞株を、血清不含、インスリン不含条件下での増殖に順応させ、本発明の実施に使用してもよい。好適には、rFVIIを発現する安定なCHO Kl細胞株は、プラスミドベクターpLN194(以前に記載されている(その全体として参照により組み込まれる、PerssonおよびNielsen,1996,FEBS Lett.385,241−243)組換えヒトFVII(rFVII)のcDNAをコードするプラスミドベクター);pLN329(以前にPCT出願PCT/DK01/00634(その全体として参照により組み込まれる)において記載されているガンマカルボキシル化認識配列をコードするベクター);またはそれらの組み合わせを用いたトランスフェクションにより創出され得る。簡潔には、pLN174ベクターは、挿入されたcDNAの転写用のマウスメタロチオネインプロモーターの制御下のプロペプチドを含むヒトFVIIをコードするcDNAヌクレオチド配列、および選択マーカーとして使用されるSV40初期プロモーターの制御下のマウスジヒドロ葉酸レダクターゼcDNAを保有する。そのような好適な細胞株の1つは、本明細書にその全体として組み込まれるPCT特許出願PCT/DK01/00634に開示されるE11を包含するがこれに限定されない。
【0039】
最も好適な実施形態において、例えば、下記実施例に記載される細胞株などの(これは、HHue07DMCB♯10細胞株由来のクローン1E9を包含するがこれに限定されない)、組換えヒトFVIIを発現するCHO Kl細胞株を、血清不含、インスリン不含培地中で増殖するように順応させる。この細胞株を、CHO rFVIIa BI WCB07002と呼び、これは、ブタペスト条約に従って欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801で寄託されている。
【0040】
本発明の技術は、血清不含およびインスリン不含条件で増殖するようにFVIIを発現する組換えCHO Kl細胞株を順応させる方法を提供する。特定の実施形態において、そのように順応させられた細胞株はrFVIIの産生に使用される。上記CHO細胞株は、血清不含培養条件において増殖が可能な組換えヒトFVII発現CHO細胞株を、インスリン非存在、かつ動物由来成分非存在下で増殖するFVII産生CHO細胞株を得るために、インスリン量を減少させながら連続的に培養することにより、インスリンを欠いている血清不含細胞培養において増殖するように順応させることによって調製される。いくつかの実施形態において、血清不含培養培地中で増殖するCHO細胞株は1E9である。ヒトFVII発現CHO細胞株を連続的に培養する方法の1つの実施形態は、インスリン濃度を減少させながらヒトFVII発現CHO細胞株の連続継代をパルスすることを含む。本明細書に記載される順応方法を用いて調製された代表的なCHO細胞株を、ブタペスト条約に従って欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802で寄託されたCHO rFVIIa BIインスリン不含WCB08001と呼ぶ。
【0041】
代表的な方法において、ヒトFVII発現CHO細胞株(例えば欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801として寄託された細胞株)を、血清不含培地中で増殖可能なCHO細胞株をインスリンを含有する標準血清不含培地中で14日目まで増殖させ、そして14日目に前記細胞株を血清不含、インスリン不含培地へ移すことによってインスリン不含条件における増殖に順応させる。当該方法におけるこの工程に続いて、前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間、より具体的には1日間増殖させ、その後、前記細胞を0.2mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地に移してCHO細胞株の細胞を前記インスリン含有培地中で1〜3日間、好ましくは3日間増殖させる。当該方法は、さらに、インスリン含有培地中での1〜3日間、好ましくは3日間の増殖後、血清不含、インスリン不含培地中へ前記CHO細胞株の細胞を移すことをさらに含んでもよい。当該方法は、前記CHO細胞株の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後前記CHO細胞株の前記細胞を0.070mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして前記CHO細胞株の前記細胞を前記インスリン含有培地中で3〜8日間、より具体的には8日間増殖させることをさらに含む。当該方法は、そのうえ、インスリン含有培地中での3〜8日間、より具体的には8日間の増殖後、前記CHO細胞株の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中へ移すことを包含することができる。当該方法は、前記CHO細胞株の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1日間増殖させ、その後前記CHO細胞株の前記細胞を0.030mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移し、そして前記CHO細胞株の前記細胞を前記インスリン含有培地中で3〜9日間、より具体的には9日間増殖させることをさらに包含することができる。また、当該方法は、インスリン含有培地中での3〜9日間、より具体的には9日間の増殖後、前記CHO細胞株の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中へ移すことをさらに包含することができる。別の態様において、当該方法は、血清不含、インスリン不含培地中で1日間前記細胞を増殖させること、その後前記細胞を0.016mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移すこと、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜9日間、より具体的には9日間増殖させることをさらに含むことができる。当該細胞株は、その後、血清不含、インスリン不含培地中へ移される(ここで、当該細胞は血清不含、インスリン不含培地中での長期増殖(培養日数66)に順応させられている)。この手法の代表的な使用として、(ブタペスト条約に従って欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802として寄託された)細胞株CHO rFVIIa BIインスリン不含WCB08001が作出された。
【0042】
さらに、FVII産生細胞株を血清不含、インスリン不含条件下で増殖するように順応させるために使用される当該方法は、他の細胞株に対して適用され得る。他の好適な細胞株は、ラットHepI(ラット肝細胞癌;ATCC CRL 1600)、ラットHepII(ラット肝細胞癌;ATCC CRL 1548)、TCMK(ATCC CCL 139)、ヒト肺(ATCC HB 8065)、NCTC1469(ATCC CCL9.1);DUKX細胞(CHO細胞株)(UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220,1980)(DUKX細胞はDXBIl細胞とも呼ばれる)、およびDG44(CHO細胞株)(Cell,33:405,1983,およびSomatic Cell 10 and Molecular Genetics 12:555,1986)を包含するがこれらに限定されない。また、3T3細胞、Namalwa細胞、ミエローマおよびミエローマと他の細胞との融合物も有用である。いくつかの実施形態において、細胞は、例えばそれらが由来する細胞型とは定性的または定量的に異なるスペクトルの、タンパク質の翻訳後修飾を触媒する酵素(例えば、グリコシルトランスフェラーゼおよび/またはグリコシダーゼなどのグリコシル化酵素、またはプロペプチド等のプロセッシング酵素)を発現する細胞等の変異体または組換え細胞であってもよい。
【0043】
他の実施形態において、任意の哺乳動物供給源由来の細胞が組換え遺伝子からヒト第VII因子を発現するように操作される。本明細書において使用する場合、「第VII因子」または「第VII因子ポリペプチド」は、野生型第VII因子(すなわち、米国特許第4,784,950号に開示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド)、ならびに野生型第VII因子に対して実質的に同一かまたは改善された生物活性を呈する第VII因子の改変体を含む。用語「第VII因子」は、非切断(酵素前駆体)型の第VII因子ポリペプチド、ならびにそれぞれの生物活性型(第VIIa因子を意味し得る)を生じるようにタンパク質分解性に処理されたものも含むことが意図される。
【0044】
一般的に、第VII因子は、残基152と残基153との間で切断されて第VIIa因子を生じる。本発明の方法において、産生された第VII因子は、野生型第VII因子であってよく、または、活性を増加させるか又は減少させるかのいずれかのためにポリペプチドの生物活性を修飾する特定のアミノ酸配列の改変が導入された第VII因子または第VIIa因子であってもよい。
【0045】
血液凝固における第VIIa因子の生物活性は、その(i)組織因子(TF)への結合能力、および(ii)第IX因子または第X因子のタンパク質分解性の切断を触媒して活性化第IX因子または第X因子(それぞれ、第IXa因子または第Xa因子)を産生する能力に由来する。本発明の目的のため、第VIIa因子の生物活性を、例えば米国特許第5,997,864号に記載されるように、第VII因子を欠損した血漿およびトロンボプラスチンを用いた、血液凝固を促進するための調製物の能力を計測することによって定量化してもよい。このアッセイにおいて、生物活性はコントロール試料に対する凝固時間における減少として表わされ、そして1単位/mlの第VII因子活性を含有するプールされたヒト血清標準との比較により「第VII因子単位」に転換される。あるいは、第VIIa因子生物活性を、(i)脂質膜中に埋め込まれたTFおよび第X因子を含むシステムにおいて第Xa因子を産生する第VIIa因子の能力を計測すること(Perssonら,J.Biol.Chem.272:19919−19924,1997);(ii)水性システムにおける第X因子の加水分解を計測すること;(iii)表面プラスモン共鳴に基づく計器を用いたTFへのその物理的結合を計測すること(Persson,FEBS Letts.413:359−363,1997)、および(iv)合成基質の加水分解を計測することにより定量化してもよい。
【0046】
野生型第VIIa因子に対して実質的に同一かまたは改善された生物活性を有する第VII因子改変体は、上記の1以上の凝固アッセイ、タンパク質分解アッセイ、またはTF結合アッセイにおいて試験された場合、同一細胞型において産生された第VIIa因子の特異的活性の少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、そして最も好ましくは少なくとも約90%を呈するものを含む。野生型第VIIa因子に対して実質的に低減された生物活性を有する第VII因子改変体は、上記の1以上の凝固アッセイ、タンパク質分解アッセイ、またはTF結合アッセイにおいて試験された場合、同一細胞型において産生された野生型第VIIa因子の特異的活性の約25%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満、そして最も好ましくは約1%未満を呈するものである。野生型第VII因子に対して実質的に改変された生物活性を有する第VII因子改変体は、TF非依存性第X因子タンパク質分解活性を呈する第VII因子改変体、およびTFに結合するが第X因子を切断しないものを包含するがこれらに限定されない。
【0047】
いくつかの実施形態において、本発明の実施において使用される細胞は、懸濁培養で増殖することが可能である。本明細書において使用する場合、懸濁適格性(suspension−competent)細胞は、大きな硬い凝集塊を形成することなく懸濁物中で増殖できるもの(すなわち、単分散であるか、または凝集塊あたり数個の細胞のみが緩い凝集塊で増殖する細胞)である。懸濁適格性細胞は、順応または手技を伴わずに懸濁物中で増殖する細胞(例えば造血細胞またはリンパ細胞等)、および懸濁増殖へと付着依存性細胞(例えば上皮又は線維芽細胞等)が漸進的に順応したことにより懸濁適格性となった細胞を包含するがこれらに限定されない。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の実施において使用される細胞は、接着細胞(足場依存性または付着依存性細胞としても知られる)である。本明細書において使用する場合、接着細胞は、増殖(propagation and growth)のために好適な表面にそれら自身を付着または固定する必要があるものである。
【0049】
(培養方法)
本発明は、哺乳動物細胞のラージスケール培養方法を提供し、以下の工程によって実施される:
(i)培養血清不含およびインスリン不含培養培地を含有する種容器中に細胞を播種し、そして細胞が少なくとも最小の所定の密度に到達するまで種培養物を増殖させること;
(ii)増殖させられた種培養物を、(マクロ多孔質キャリア法の場合)キャリア上に細胞が移動する条件下で、(a)血清不含、インスリン不含培養培地を含有するラージスケール培養容器へ移すこと;ならびに
(iii)ラージスケール培養物を、少なくとも前記細胞が有用な密度に到達するまで血清不含、インスリン不含培地中で増殖させること。
【0050】
いくつかの実施形態において、当該方法は以下の工程によって実施される:
(i)血清不含およびインスリン不含培養培地を含有する種培養容器中に細胞を播種し、そして細胞が少なくとも最小の所定の密度に到達するまで種培養物を増殖させること;
(ii)増殖させられた種培養物を、キャリア中に細胞が移動する条件下で、(a)血清不含、インスリン不含培養培地、および(b)マクロ多孔質キャリアを含有するラージスケール培養容器へ移すこと;ならびに
(iii)ラージスケール培養物を、少なくとも前記細胞が有用な密度に到達するまで血清不含、インスリン不含培地中で増殖させること。
【0051】
いくつかの実施形態において、当該方法は以下の工程をさらに含む:
(iv)工程(iii)で得られた培養物を、培養培地の定期的な採取および新鮮な血清不含、インスリン不含培地による置換によって血清不含およびインスリン不含培地中で維持すること。
【0052】
培地交換は、マイクロキャリアを培養容器の底に沈殿させることによって行われ、その後、所定の割合の培地を取り出し、そして相当する割合の血清不含、インスリン不含培地を培養物に添加する。その後、マイクロキャリアを培地中に再懸濁する。この培地取り出しおよび置換のプロセスを、例えば24時間毎等の所定の間隔で繰り返すことができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、追加の任意工程は、細胞含有マイクロキャリアの沈降前の10〜240分以内、例えば20〜180分以内、または30〜120分以内等の冷却工程を包含する。当該工程は、一般的に以下のように実行される。すなわち、バイオリアクターを冷却し、温度をモニターする。バイオリアクターが設定温度未満の所定の温度、例えば培養の設定値より10℃低い温度になったとき、バイオリアクターの内容物の攪拌を停止し、細胞含有キャリアを沈降させる。培地交換が行われた場合、温度は培養の設定値に再度調整される。添加された新鮮培地は一般的に培養の設定値近くの温度に予め温められる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態において、当該プロセスはマイクロキャリア法であり、細胞は足場依存性細胞である。そのような実施形態において、増殖相および産生相の両方がマイクキャリアの使用を包含する。足場依存性細胞は、増殖相中にキャリア上に(そしてマクロ多孔質キャリアが使用される場合キャリア中に)移動すること、そして産生バイオリアクターへ移された場合、新たなキャリアへ移動することが可能であるべきである。足場依存性細胞がそれら自身によって新たなキャリアへ移動することが十分に可能でない場合、タンパク質分解酵素又はEDTAを細胞含有マイクロキャリアと接触させることによって細胞をキャリアから解放することができる。使用される培地(具体的には、血清不含およびインスリン不含培地)は、足場依存性細胞の増殖の支持に好適な成分をさらに含有するべきであり、そのような足場依存性細胞用の培地は、例えばSigma等の商業的な供給業者から容易に入手可能である。
【0055】
懸濁に順応した細胞または懸濁適格性細胞がマイクロキャリア法において使用される場合、細胞の増殖は懸濁物中で行われてもよく、従ってマイクロキャリアは産生相においてのみ必要である。
【0056】
(播種および初期増殖)
工程(i)は、工程(ii)のために十分な数の細胞が得られるまで、種培養容器の大きさの漸進的な増加を伴って繰り返されてもよいと理解される。例えば、5リットル、50リットル、100リットル、または500リットルのうちの1以上の種培養容器を連続して使用してもよい。本明細書において使用する場合、培養容器は、約5リットル〜1000リットルの容積を有するものである。一般的に、細胞は、約0.2〜0.4×10細胞/mlの初期密度で種培養容器中に播種され、そして当該培養物が約1.0×10細胞/mlの細胞密度に到達するまで増殖させられる。本明細書において使用する場合、最小密度は約0.8〜約1.5×10細胞/mlである。
【0057】
(マイクロキャリア)
本明細書において使用する場合、マイクロキャリアは、粒子であり、しばしばセルロースまたはデキストランをもととし、一般的に懸濁培養(細胞に顕著な剪断損傷を与えない攪拌速度を伴う)に使用されることが可能なほど十分小さく;固体で、多孔質であるか、または表面が多孔コーティングされた固体の核を有し;そして正電荷の表面(多孔質キャリアの場合外部および内部表面)を有する。一般的に、マイクロキャリアは、約150〜350umの全粒径を有し、そして約0.8〜2.0meq/gの正電荷密度を有する。そのようなマイクロキャリアの例には、Cytodex 1TMおよびCytodex 2TM(Amersham Pharmacia Biotech,ピスカタウェイ ニュージャージー州)が包含されるが、これらに限定されない。
【0058】
一連の実施形態において、マイクロキャリアは固体キャリアである。固体キャリアは、足場依存性細胞の増殖に特に好適である。別の一連の実施形態において、マイクロキャリアはマクロ多孔質キャリアである。
【0059】
マクロ多孔質キャリア:本明細書において使用する場合、マクロ多孔質キャリアは、粒子であり、普通セルロースをもととし、以下の特性を有する:(a)それらは懸濁培養(細胞に顕著な剪断損傷を与えない攪拌速度を伴う)に使用されることが可能なほど十分小さく;(b)それらは粒子の内部空間に細胞が移動可能な十分な大きさの孔および内部空間を有し、そして(c)それらの表面(外部および内部)は、正電荷を有する。一連の実施形態において、キャリアは約150〜350μmの全粒径を有し;約15〜40μmの平均孔開口径を有する孔を有し;そして約0.8〜2.0meq/gの正電荷密度を有する。いくつかの実施形態において、正電荷はDEAE(N,N−ジエチルアミノエチル)基によって提供される。有用なマクロ多孔質キャリアは、Cytopore 1TMおよびCytopore 2TM(Amersham Pharmacia Biotech,ピスカタウェイ ニュージャージー州)を包含するが、これらに限定されない。特に好ましいものはCytopore 1TMキャリアであり、これは平均粒子径230um、平均孔サイズ30μm、および正電荷密度1.1meq/gを有する。
【0060】
(ラージスケール培養条件)
本明細書において使用する場合、ラージスケール培養容器は、少なくとも約100リットル、好ましくは少なくとも約500リットル、より好ましくは少なくとも約1000リットル、そして最も好ましくは少なくとも約5000リットルの容積を有する。一般的に、工程(ii)は約50リットルの増殖させられた種培養物(約1.0×10細胞/mlを有する)を150リットルの培養培地を含有する500リットル培養容器中へ移すことを含む。ラージスケール培養物を、適当な条件下(例えば、温度、pH、溶解酸素圧(DOT)、OおよびCO圧、ならびに攪拌速度)で維持し、そして培養容器に培地を添加することによって容積を徐々に増加する。
【0061】
マイクロキャリア法の場合、培養容器は、約750gのマイクロキャリアも含む。移した後、細胞は、一般的に最初の24時間以内にキャリアの表面上に移動する。マクロ多孔質キャリア法の場合、培養容器は約750gのマクロ多孔質キャリアも含む。移した後、細胞は、一般的に最初の24時間以内にキャリアの内部へと移動する。
【0062】
用語「ラージスケール法」は、用語「産業スケール法」と互換的に用いられ得る。さらに、用語「培養容器」は「タンク」、「リアクター」および「バイオリアクター」と互換的に用いられ得る。
【0063】
(高レベルタンパク質発現)
高レベルの第VII因子タンパク質を産生するように細胞を増殖させる場合、細胞密度が所定の細胞密度(例えば、少なくとも約1×10細胞/ml)に到達するまでの期間を「増殖相」と呼ぶ。増殖相は、通常、工程(i)、(ii)および(iii)を含む。細胞密度が所定の数値(例えば、少なくとも約1×10細胞/ml、好ましくは少なくとも2×10細胞/ml、より好ましくは5×10細胞/ml)に到達すると、当該相を「産生相」と呼ぶ。産生相は、通常、工程(iv)を含む。任意の好適な関連するパラメーターの変動は、この段階で導入される。
【0064】
(培養容器)
培養容器は、例えば、従来型のインペラー型によって攪拌を得る従来型攪拌タンクリアクター(CSTR)、または容器の底から空気を導入することによって攪拌を得るエアリフトリアクターであってよい。パラメーターの中で特定の制限内で制御されるのは、pH、溶解酸素圧(DOT)、および温度である。pHは例えばヘッドスペースガス中のCO濃度を変化させること、および必要に応じて培地液体に塩基を添加することによって制御され得る。溶解酸素圧は、例えば空気もしくは純酸素またはこれらの混合物を供給(sparge)することによって維持され得る。温度制御培地は、必要に応じて水で加熱または冷却される。水を、容器を囲むジャケットに通してもよく、または培養物中に浸漬されたパイピングコイルに通してもよい。
【0065】
培地がいったん培養容器から取り出されたら、所望のタンパク質を得るため、キャリア中に固定化されなかった細胞を除去するための遠心分離もしくは濾過;アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー;イオン交換クロマトグラフィー;サイズ排除クロマトグラフィー;電気泳動法(例えば調製用等電点電気泳動(IEF)、溶解度差(例えば硫酸アンモニウム沈殿)または抽出等を包含するがこれらに限定されない1以上の処理工程に供されてもよい(一般にScopes,Protein Purification,Springer−Verlag,New York,1982;およびProtein Purification,J.C.Janson and Lars Ryden,editors,VCH Publishers,New York,1989を参照)。
【0066】
第VII因子または第VII因子関連ポリペプチドの精製は、例えば抗第VII因子抗体カラム上のアフィニティークロマトグラフィー(例えばWakabayashiら,J.Biol.Chem.261:11097,1986;およびThimら,Biochem.27:7785,1988を参照)、および、第XIIa因子または例えば第IXa因子、カリクレイン、第Xa因子およびトロンビン等のトリプシン様特異性を有する他のプロテアーゼを用いたタンパク質分解性切断による活性化を含み得る(例えばOsterudら,Biochem.11:2853(1972);Thomas,米国特許第4,456,591号;およびHednerら,J.Clin.Invest.71:1836(1983)を参照)。あるいは、第VII因子を、MonoQ(登録商標)(Pharmacia)等のイオン交換クロマトグラフィーカラムを通過させることによって活性化できる。
【0067】
本発明は、さらに血清不含およびインスリン不含条件下でそのような細胞により発現される工業量の第VII因子ポリペプチドを産生するための哺乳動物細胞のラージスケール培養方法を提供する。当該方法は以下の工程により実行される:
(i)血清不含、インスリン不含培地を含有する培養容器中に細胞を播種し、前記哺乳動物細胞培養物を少なくとも細胞が最小の所定の密度に到達するまで増殖させること;
(ii)前記増殖させた細胞培養物を血清不含、インスリン不含培養培地を含有するラージスケール培養容器へ移すこと;および
(iii)ラージスケール培養物を血清不含、インスリン不含培地中で少なくとも前記細胞が有用な密度に到達するまで増殖させること。
【0068】
いくつかの実施形態において、当該方法はさらに以下の工程を含む:
(iv)工程(iii)で得られた培養物を、定期的な培養培地の採取および新鮮な血清不含、インスリン不含培地による置換により血清不含、インスリン不含培地中に維持すること。
【0069】
プロセスの以下の記載は、血清不含、インスリン不含培地の任意の処方物中の任意の細胞型についても適用可能である。記載される最初の2つのプロセスは、マクロ多孔質キャリアに接着および/または固定化される細胞に関する。
【0070】
(マイクロキャリア法)
2つのタイプのマイクロキャリア法(標準マイクロキャリア法およびマイクロキャリア灌流法)が使用され得る。標準マイクロキャリア法において、当該プロセスは2つの別個の相(増殖相および産生相)において操作される。
【0071】
(増殖相)
標準マイクロキャリア法において、細胞は血清不含、インスリン不含培養培地を含有する種培養容器中に播種され、そして細胞が最小密度に到達するまで増殖させられる。その後、増殖した種培養物を、キャリアに細胞が(例えばマクロ多孔質キャリアを使用するプロセスの場合、キャリア中に移動することによって)完全に移入(colonize)する条件下で、(a)血清不含、インスリン不含培養培地、および(b)マイクロキャリアを含有するラージスケール培養容器に移す。
【0072】
この増殖相において、キャリアに完全に移入するまで、細胞はマイクロキャリア上で増殖させられる。培地交換は、培養容器の底にマイクロキャリアを沈殿させることによって行われ、その後、所定の割合のタンク容積が取り出され、そしてそれに相当する割合のタンク容積の新鮮な血清不含、インスリン不含培地が容器に添加される。マイクロキャリアは、その後、培地中に再懸濁され、そしてこの培地取り出しおよび置換のプロセスは所定の間隔(例えば24時間毎)で繰り返される。置換される培地の量は、細胞密度に依存し、下表2に示されるように、一般的に10〜95%、好ましくは25〜80%タンク容積であってもよい。
【0073】
細胞密度がタンパク質発現に好適な数値に到達すると、タンク中の培地の約60〜95%、好ましくは約80%が24時間毎に交換される。80%培地交換はまた、産生相において好ましく使用される。
【0074】
当該プロセスのこの態様の概要を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】

FVIIの産生に好適ないくつかの設定値は、必ずしも種培養における細胞またはマイクロキャリア上の細胞の初期増殖に好適ではない。例えば、温度、DOT、および/またはpHは2つの相で異なり得る。
【0076】
この段階での培地交換は、産生相中と同レベルであっても、細胞を生きた状態に維持しかつ増殖させ続けるために行われる。
【0077】
(産生相)
増殖相において、培養物は、細胞が1mlあたり1〜12×10細胞の密度に到達するまで増殖させられる。この密度に到達すると、培養物は産生相に入る。また、設定値をこの時点で変更してもよく、FVIIの産生に好適な数値に設定してもよい。培地交換は、マイクロキャリアをタンクの底に沈殿させることよって行われ、その後、選択された%タンク容積が取り出され、そしてそれに相当する%タンク容積の新鮮培地が容器に添加される。25〜90%のタンク容積が交換されてもよく、好ましくは80%のタンク容積が交換される。マイクロキャリアは、その後、培地中に再懸濁され、この培地取り出しおよび置換のプロセスは10〜48時間毎、好ましくは24時間毎に繰り返される。
【0078】
当該プロセスのこの態様の概要を表3に示す。
【0079】
【表3】

任意に、培養の温度設定値における低下を、産生相へ入るときおよび産生相中に用いてもよい。特に、CHO細胞株を使用する場合、温度における低下は好ましい。増殖相および産生相における温度範囲および好ましい数値は、それぞれ、表2および3を見ればわかるだろう。約32℃の温度が産生相中のCHO細胞株に関して好ましい。
【0080】
あるいは、各キャリア沈降の直前に冷却工程を任意に適用してもよい。培養物は、培養の温度設定値未満の所定の温度に冷却される(例えば、設定値よりも5℃〜30℃、または5℃〜20℃、または5℃〜15℃、または約10℃低い)。冷却工程は、細胞含有マイクロキャリアの沈降前、10〜240分以内、例えば20〜180分以内、または30〜120分以内等に行われる。当該工程は、一般的に以下のように実行される。すなわち、バイオリアクターを冷却し、温度をモニターする。バイオリアクターが設定温度未満の所定の温度(例えば培養の設定値より10℃低い温度)に到達したとき、バイオリアクター内容物の攪拌を停止し、細胞含有キャリアを沈降させる。培地交換が行われると、温度を培養の設定値まで再度調整する。添加された新鮮培地は、一般的に、培養の設定値近くの温度まで予め温められる。
【0081】
(マイクロキャリア灌流法)
このプロセスは、標準マイクロキャリア法に類似し、やはり2つの別個の相、増殖相および産生相において操作される。これと上述された標準法との間の主な相違は、培養培地の交換のために使用される方法である。前述の標準マイクロキャリア法において、規定された割合のタンク容積(例えば全タンク容積の80%)が、全て同時に交換される。灌流法においては、培地は継続的に添加され、同容積の採取物もまた継続的に取り出される。本質的に、培地(規定された%タンク容積)が所定の期間(例えば24時間)に亘って徐々に交換される。
【0082】
マイクロキャリアは、培地が容器を去ることを可能にするが、マイクロキャリアをタンク内に保持することを可能にする分離装置(または灌流装置)を用いることによって、容器中に維持される。
【0083】
(増殖相)
漸進的な培地交換以外、標準マイクロキャリア法について記載された通りである。培地の交換は、1日(すなわち24時間)当たりの%タンク容積として提示される。当該プロセスのこの態様の概要を表4に示す。
【0084】
【表4】

やはり、培養物を初期段階で高い培地交換(例えば80%タンク容積)で灌流するとしても、これは産生相とは見なされない。これは、FVIIの産生に好適な設定値のいくつかはマイクロキャリア上の細胞の初期増殖に好適ではない可能性があるからである。この段階での新鮮培地による灌流は、細胞を生きた状態に維持しかつ増殖させ続けるために行われる。「標準マイクロキャリア法」との比較の目的のため、流量は1日(24時間)あたりのパーセントタンク容積の培地として表わされる。
【0085】
(産生相)
上述のプロセスのように、増殖相において、培養物は細胞が1mlあたり1〜12×10細胞の密度に到達するまで増殖させられる。この密度に達すると、培養物は産生相に入る。
【0086】
培地灌流は継続的に行われる。「標準マイクロキャリア法」との比較の目的のため、培地の流量は所定の期間あたりのパーセントタンク容積の培地として表わされる。培地灌流は10〜48時間あたり25〜90%タンク容積であり得、好ましくは培地灌流は10〜48時間あたり80%、より好ましくは24時間毎に80%タンク容積である。当該プロセスのこの態様の概要を表5に示す。
【0087】
【表5】

キャリアの保持を達成するための好ましい手段は、容器内部の沈殿装置(例えばディップチューブ(dip tube))である。
【0088】
産生相に入るときおよび産生相中に温度の降下を用いてもよい。特に、CHO細胞株を使用する場合、温度の降下が好ましい。増殖相および産生相における温度範囲および好ましい数値は、それぞれ、表2および3を見ればわかるだろう。温度約32℃が産生相中のCHO細胞株に関して好ましい。
【0089】
(懸濁細胞法)
懸濁細胞法に関する2つの主な選択肢、すなわち1)灌流法;および2)バッチ/ドローフィル法がある。
【0090】
(灌流法)
このプロセスはマイクロキャリア灌流に関して要約されたプロセスに類似する。主な相違は、1)細胞がキャリア中に固定化されることなく自由に懸濁して増殖させられること、および2)培養容器中に細胞を保持するために使用される灌流装置の特徴である。さらに、当該プロセスは2つの別個の相、すなわち増殖相および産生相において操作される。
【0091】
(増殖相)
懸濁細胞灌流法においては、細胞を血清不含、インスリン不含培養培地を含有する種培養容器中に播種し、細胞が最小の所定の密度に到達するまで増殖させる。その後、増殖させた種培養物を、血清不含、インスリン不含培養培地を含有するラージスケール培養容器へ移し、そして少なくとも所定の細胞密度に達するまで増殖させる。この相において、細胞は、培養容器内の細胞数が所定の値または臨界値まで増加するように懸濁物中で増殖させられる。培地交換は、新鮮培地で培養容器を連続的に灌流することによって行われる。灌流させられる培地の量は細胞密度に依存し、下記表6に示されるように、一般的に1日(24時間)あたりタンク容積で10〜95%、好ましくは25%〜80%であり得る。細胞密度が産生相の開始に好適な数値に達すると、タンク中の60〜95%、好ましくは80%のタンク培地を24時間毎に交換する。また、80%の培地交換は、好ましくは産生相においても使用される。
【0092】
やはり、培養物が初期段階で灌流されるとしても、これは産生相とは見なされない。これは、FVIIの産生に好適な設定値のいくつかは、マクロ多孔性キャリア上の細胞の初期増殖に好適ではないからである。細胞を生きた状態に維持しかつ増殖させ続けるために、この段階で新鮮培地での灌流が行われる。
【0093】
当該プロセスのこの態様の概要を表6に示す。
【0094】
【表6】

(産生相)
増殖相において、培養物は、細胞が1mlあたり1〜12×10細胞の密度に到達するまで増殖させられる。この密度に達すると、培養物は産生相に入る。また、設定値はこの時点において変更されてもよく、FVIIの産生に好適な数値に設定され得る。培地灌流は継続して行われる。比較の目的のため、培地の流量は規定された期間あたりの培地のパーセントタンク容積として表わされる(より標準的な単位は1日あたりのリットルである)。培地灌流は、10〜48時間あたり10〜200%タンク容積であり得、好ましくは、培地灌流は10〜48時間あたり80%、より好ましくは24時間毎に80%タンク容積である。
【0095】
当該プロセスのこの態様の概要は表7に示される。
【0096】
【表7】

(灌流装置)
培養容器内での細胞保持は、数々の細胞保持装置を用いて達成され得る。以下の器具一式(外部沈殿ヘッド(settling head)、内部沈殿ヘッド、連続式遠心分離機、内部または外部スピンフィルター、外部フィルターまたは中空糸カートリッジ、超音波細胞分離装置、および培養容器内部の長パイプを包含するがこれらに限定されない)は全て、このプロセスに使用され得る。
【0097】
任意に、産生相に入るときおよび/または産生相中に温度の降下を用いてもよい。特に、CHO細胞株を使用する場合、温度の降下が好ましい。増殖相および産生相における温度範囲および好ましい数値は、それぞれ、表4および5を見ればわかるだろう。約32℃の温度が産生相中のCHO細胞株にとって好ましい。
【0098】
(バッチ/ドローフィル法)
これらは、おそらく操作が最も単純な発酵タイプであり、この方式を使用する懸濁細胞法について3つの主な選択肢が存在する。すなわち、1.単純バッチ法;2.フェドバッチ法;または3.ドローフィル法である。
【0099】
(単純バッチ法)
単純バッチ法において、細胞を血清不含、インスリン不含培養培地を含有する種培養容器中に播種し、細胞が最小密度に到達するまで増殖させる。その後、増殖させられた種培養物を血清不含、インスリン不含培養培地を含有するラージスケール培養容器へ移す。その後、当該培養容器を培地中の栄養素が使い果たされるまで操作する。当該プロセスのこの態様の概要を表8に示す。
【0100】
【表8】

当該プロセスの任意の態様は、低下された操作温度の使用である。そのようなバッチ法は、使用された細胞株の増殖に好適な特定の温度における初期増殖相、続いて、所定の細胞密度(例えば1〜12×10細胞 ml)での操作温度の降下からなる。これは、特に、CHO細胞株にとって適切である。CHO用の好ましいバッチ法は、37℃での初期増殖相、続いて、1〜12×10細胞/ml、好ましくは2〜10×10細胞/mlでの操作温度の降下からなる。好ましくは、CHO細胞の場合、温度の降下は37〜32℃である。採取時間を決定しなければならない。従来のバッチは、全ての栄養素が使い果たされるまで操作される。しかしながら、これは一般的に細胞溶解を引き起こし、このことは産物を損傷し得、または精製に対する問題を生じ得る。
【0101】
(フェドバッチ法)
前述のように、単純バッチ法は細胞を培養容器に播種し、培地中の栄養素が使い果たされるまでタンクを操作することで構成される。このようなバッチ法は、タンクに濃縮された栄養溶液を補給することによって延長され得る。これは、プロセス時間を延長し、最終的に培養容器内でのFVII産生の増加を導く。
【0102】
培養容器中のグルコース濃度をモニターすることは重要である。補給の制御および開始は、この栄養素のレベルに関連する。グルコース濃度が臨界値未満まで低下すると、補給が開始され、そして添加された補給量はこの臨界値までグルコース濃度を引き戻すために十分である。フェドバッチ態様のプロセスに関する概要を表9に示す。
【0103】
【表9】

やはり、特にCHO細胞株を増殖させる場合、低下した操作温度を使用することは有用となる可能性がある。そのようなフェドバッチ法は、使用される細胞株の増殖に好適な特定の温度での初期増殖相、続いて、所定の細胞密度(例えば1〜12×10細胞/ml)での操作温度の降下からなる。CHO用の好ましいフェドバッチ法は、37℃での初期増殖相、続いて、1〜12×10細胞/ml、好ましくは2〜10×10細胞/mlでの操作温度の降下からなる。好ましくは、CHO細胞の場合、温度降下は37〜32℃である。
【0104】
単純バッチ法のように、採取の時間は、タンクの最長の可能な操作と細胞溶解のリスクとの間のバランスとして決定されなければならない。
【0105】
(補給組成物および追加のストラテジー)
使用に好適な最も単純な補給物は、グルコースの濃縮溶液である。しかしながら、グルコースの補給物単独では短時間バッチ相を延長するのみである。これは、アミノ酸または脂質またはビタミン等の別の栄養素が、その後使い果たされるからである。この理由で、濃縮補給物が好ましいであろう。使用に好適な最も単純な濃縮補給物は、×10〜50濃度の細胞培地である。
【0106】
この態様の概要を表10に示す。
【0107】
【表10】

残念ながら、いくつかの培地成分は細胞に有害である可能性があり、または単に高濃度で溶解しない。この理由のため、補給物はこれらの問題の成分を低レベルに保つために改良が必要であるかもしれない。また、補給物の添加方法は変化可能である。補給物は、単一パルス(1日に1回、2回、3回等)として添加されてもよく、24時間の期間を通して徐々に補給されてもよい。高度な補給の選択肢は、容器中において一定のグルコース濃度を維持するために補給速度を制御する培養容器内のグルコースセンサーグルコースセンサーのある形態を有する。採取の時間を決定しなければならない。従来の、または単純なバッチは、全ての栄養素が使い果たされるまで操作される。これは概してフェドバッチシステムにおいて問題ではない。しかしながら、有毒な代謝産物の蓄積により、当該プロセスを無期限に持続することができない。これは、細胞の生存率を低下させ、最終的に細胞溶解を導く。これは、産物の損傷またはその後の精製に対する問題を引き起こし得る。
【0108】
(ドローフィル法)
二つの型のドローフィルがここに記載される。これらは単純ドローフィルおよびフェドバッチドローフィルである。
【0109】
(単純ドローフィル)
このプロセスは、反復バッチ発酵に密接に類似する。バッチ発酵においては、細胞を培養容器中で増殖させ、その操作(run)の終わりに培地が採取される。ドローフィル法においては、培養容器は任意の栄養素が使い果たされる前に採取される。容器から全ての内容物を取り出す代わりに、タンク容積の一部のみが取り出される(一般的にタンク容積の80%)。採取後、同容積の新鮮培地が容器に戻される。その後、細胞をもう一度容器中で増殖させ、そして別の80%の採取が設定された日数後に行われる。反復(epeated)バッチ法において、採取後に容器中に残された細胞を、次のバッチの種菌に使用してもよい。
【0110】
ドローフィル法の概要を表11に示す。このプロセスは二つの相において操作される。プロセスの第一相は、単純バッチ法と同一に操作される。最初の採取の後、培養容器は単純バッチ法として再度操作されるが、高い初期細胞密度のためバッチの長さは最初のバッチよりも短い。これらの短い「反復バッチ相」が無期限に継続される。
【0111】
用いられるドローフィルの単純な概要は以下の通りである。
【0112】
(初期バッチ相)
i.容器に播種し増殖に好適な温度で細胞を増殖させる。
ii.所定の細胞密度で発現に好適な温度まで温度を降下させる。
iii.播種から7日後に所定の、例えば80%のタンク容積を取り出し、同容積の新鮮培地で置換する。
【0113】
(反復バッチ相)
iv.増殖に好適な温度まで温度を上昇させ、細胞を増殖させる。
v.所定の細胞密度で発現に好適な温度まで温度を降下させる。
vi.この相を始めて5日後に所定の、例えば80%のタンク容積を取り出し、同容積の新鮮培地で置換する。
vii.工程iv.に行く。
【0114】
好ましい実施形態において、細胞株はCHO細胞株である。発明者らがCHO細胞株について用い得るドローフィルの単純な概要は以下の通りである。
【0115】
(初期バッチ相)
viii.容器に播種し、37℃で細胞を増殖させる。
vix.2〜10×10細胞/mlで温度を32℃に降下させる。
vx.播種から7日後にタンク容積の80%を取り出し、同容積の新鮮血清不含、インスリン不含培地で置換する。
【0116】
(反復バッチ相)
xi.温度を37℃まで上昇させ、細胞を増殖させる。
xii.2〜10×10細胞/mlで温度を32℃に降下させる。
xii.この相を始めてから5日後にタンク容積の80%を取り出し、同容積の新鮮血清不含、インスリン不含培地で置換する。
xiii.工程xi.に行く。
【0117】
培養容器は、広範囲のサイクル時間、および広範囲のドローフィル容積において操作され得る。範囲および好ましい数値は、表11を見ればわかるだろう。
【0118】
【表11】

(フェドバッチドローフィル)
このプロセスは、フェドバッチ法において提案されるタイプに類似する濃縮補給物を伴うドローフィル発酵である。単純ドローフィル法での懸念は、添加される新鮮培地が、反復するバッチ発酵にわたって細胞を保持するのに十分でない可能性があることである。補給物を包含することは、この懸念を解消する。補給物はまた、ドローフィル法において長期のバッチ時間の間、培養容器を操作することを可能にする。
【0119】
補給物の組成および添加のストラテジーは、フェドバッチ法と同一である。これについてのプロセス概要を表12に示す。
【0120】
【表12−1】

【0121】
【表12−2】

【実施例】
【0122】
(実施例)
(実施例1:血清不含、インスリン不含条件における第VII因子を発現するCHO Kl細胞株の単離)
細胞増殖のためにヒト組換えインスリン(rInsulin)依存性であったチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株1E9を以下のように連続的に培養し、インスリン不含、血清不含条件においてFVIIの産生が可能な細胞株を作出した。ヒト組換えインスリン増殖依存性細胞株は、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801で寄託されたCHO rFVIIa BI WCB07002であった。使用した培地は、ビタミンK1(2.5mg/ml)[Merck]および連続希釈された量のrInsulin[インスリン組換え型、NOVOLIN、Novo Nordisk]が補充されたBCS培地であった。
【0123】
「インスリン不含」培地は、2.5mg/mlビタミンK1を含有する血清不含BCS培地であった。連続希釈については、連続的に希釈されたrInsulinを含有するBCS培地(1.25mg/l、0.625mg/l、0.208mg/l、0.069mg/l、0.250mg/l、0.063mg/l、0.031mg/lおよび0.015mg/lを含む)を表13に記載されるように作製した。
【0124】
【表13−1】

【0125】
【表13−2】

1E9−CHOrFVIIa細胞(rInsulinヒト5mg/l−DMCB♯10(HHue07082))の血清不含、インスリン不含条件への効果的な順応のためのプロトコルは、表14に記載される細胞の連続継代によって行われた。連続継代は、培地中のインスリン濃度の制御された「勾配減少(gradient reduction)」を、血清不含条件が達成されるまで行うことによって、行われた。インスリン不含培地中での細胞の1日間の培養の間に徐々に減少するインスリンを含有する培地を用いて細胞を「パルス」した。細胞増殖および生存能のモニターを並行して行った。図1は、細胞のインスリン依存性の減少を図示する。
【0126】
【表14−1】

【0127】
【表14−2】

図2は、血清不含条件に順応させるための細胞のパルス中のインスリンレベルを示すグラフを図示する。
【0128】
驚くべきことに、含有するインスリン量が徐々に減少するインスリン含有血清不含培地を用いたこのパルス方法は、血清不含、インスリン不含条件下で増殖する細胞株の産生を生じる一方、インスリンの連続希釈を伴う培地中での標準継代は生存能力のある細胞株を産生しない。図3に示されるように、rInsulinの標準連続希釈の技術で継代された細胞は、3継代を超えて生存しなかった(17日目、0.156mg/lインスリン)。
【0129】
(実施例2:代表的な産生条件)
rFVIIは、懸濁培養において発酵プロセスで組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞クローンにより作りだされる。増殖培地は、ヒトまたは動物由来の物質を含有せず、インスリンを含有しない、化学的に定義された培地である。上記のように産生された細胞株は、商業的に入手可能な組織培養フラスコおよびガラスボトル(攪拌培養)中で、37℃の温度で培養される。培養物のpHは、CO(7.5%)の導入および液体培地に由来するNaHCOにより維持される。
【0130】
血清不含培地(BCS)を、細胞の培養に使用する。BCS培地は、次の添加物i)グルタミン;最終濃度0.9g/l、ii)硫酸第二鉄×7H2O 0.0006g/l、iv)プトレシン、×2HCl 0.0036g/l、vi)ビタミンK1 0.0025g/lおよびvii)シンペロニック;最終濃度1g/l、フェノールレッド 0.008g/l、エタノールアミン 0.00153g/l、炭酸水素Na 2g/lが補充されたDMEM/HAM F12に基づく処方物である。比較目的のため、血清不含、インスリン含有培地中で増殖させられた細胞株を、インスリン0.005mg/lが補充された同一の培地中で増殖させる。ここで留意すべきは、この培地はビタミンK1またはK3を使用できることである。
【0131】
発酵に使用されるプロセスパラメーターの設定値は、下表15に要約される。
【0132】
【表15】

より具体的には、ラージスケール培養における細胞の細胞濃度は、1〜3×10/mlであり、培養物は、希釈率0.25〜1.5で、pH7.1+−0.3、pO2 10〜50%に維持される。
【0133】
組換え第VIIa因子のラージスケール産生のため、100リットルのバイオリアクターシステムを、前臨床材料の開発用に使用する。堅調かつ安定なプロセスが、インスリン存在下で増殖する細胞株(1E9;欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801で寄託された)を用いたラージスケール産生レベルで確認されている。前臨床産生キャンペーンのデータの要約が以下に提示される:細胞の具体的な増殖率は、1日当たりおよそ0.50である。細胞密度の設定値は、1mlあたり2×10細胞程度である。第VII因子抗体力価は、10μg/程度である。FVII活性(色素形成アッセイ)は20U/ml程度である。抗原に基づくFVII生産性は、3〜4mg/L/日であり、活性に基づく生産性は7000〜10000U/L/日である。産生ロットを通して、安定性は40日の期間に亘って一貫していた。本発明者らは、インスリン不含条件において産生された細胞株(欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802で寄託された細胞株)が、本来の1E9(インスリンと共に培養された)産生細胞バンクと同一の特徴を示すことを示している。具体的な増殖率、rFVII発現および細胞の安定性の観点で、何らの相違も観察されなかった。
【0134】
血清不含、インスリン不含培地中での好ましい細胞培養方法は、ケモスタット法である。この方法は、当業者に周知であり、例えばWernerら、J.Biotechnol.1992,22 pp51−68に記載されている。例えば、攪拌バイオリアクターまたはエアリフトリアクターを使用してもよい。
【0135】
O2濃度、灌流速度、または培地交換、pH、温度および培養技術等の細胞培養のパラメーターは、使用される個々の細胞タイプに依存し、それらは当業者によって決定され得る。例えば、具体的な例において、好ましい方法における条件は、ラージスケール培養における細胞の細胞密度が1〜3×10/mlであり、培養物は、希釈率0.25〜1.5で、pH7.1+−0.3、pO2 10〜50%に維持されるようなものである。
【0136】
本明細書中の全ての参考文献は、その全体において参照によって本明細書に組み込まれる。
【0137】
本技術は、それが属する技術分野の当業者がこれを実施できるように、完全、明確かつ簡潔な用語で現に記載される。上記は本技術の好ましい実施形態を記載し、添付の特許請求の範囲に記載の本技術の精神または範囲から逸脱することなく改良が行われ得ることが理解される。さらに、実施例は、網羅的ではないが、特許請求の範囲内にあるいくつかの実施形態の例証として提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)組換えヒトFVIIを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を得る工程;および
b)前記CHO細胞をインスリンを欠いている血清不含培地中で培養する工程
を含む、組換えヒト第VII因子(FVII)の産生方法。
【請求項2】
前記CHO細胞における前記FVIIの産生が、インスリン存在下におけるFVIIの産生に匹敵する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CHO細胞が、血清不含培養で増殖するように改変された組換えヒトFVIIを発現するCHO細胞株を、インスリン非存在下で増殖するFVII産生CHO細胞株を得るため、前記CHO細胞株をインスリン量を減少させながら連続的に培養する工程により、インスリン非存在下における細胞培養で増殖するように順応させる工程によって調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
血清不含培養における増殖用に改変された組換えヒトFVIIを発現する前記CHO細胞株が、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801において寄託された細胞株1E9細胞株である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インスリン非存在下で増殖する前記FVII産生CHO細胞株が、欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802において寄託された1E9細胞株である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞培養培地がビタミンK1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記連続的な培養が、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスする工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
CHO細胞株を14日目までインスリンを含有する標準的な血清不含培地中で増殖させる工程、そして14日目に血清不含、インスリン不含培地へ前記細胞株を移す工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間増殖させる工程、その後、0.2mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地へ前記細胞を移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で1〜3日間増殖させる工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
インスリン含有培地中での1〜3日間の増殖の後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.070mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜8日間増殖させる工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
インスリン含有培地中で3〜8日間増殖させた後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜2日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.030mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜9日間増殖させる工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
インスリン含有培地中で3〜9日間増殖させた後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜2日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.016mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜9日間増殖させる工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
血清不含培地中で増殖するFVII産生細胞株を血清不含、インスリン不含培地中で増殖する細胞株へと順応させる方法であって、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスする工程を含み、ここで、前記パルスする工程は、a)前記細胞株をインスリン含有培地中で1〜9日間増殖させ、続いて、b)インスリン不含、血清不含培地中で1〜3日間増殖させる工程、ならびに工程a)および工程b)を繰り返す工程であって、ここで、各連続工程a)における培地は、検出可能なインスリンを含有しなくなるまで、前の工程a)のおよそ半分の濃度のインスリンを含有する、工程を含む、方法。
【請求項17】
a)CHO細胞株を、インスリンを含有する標準血清不含培地中で14日目まで増殖させる工程、そして14日目に前記細胞株を血清不含、インスリン不含培地へ移す工程、
b)工程b)の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜2日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.2mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で1〜3日間増殖させる工程、
c)工程b)のインスリン含有培地中での1〜3日間の増殖の後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程、
d)工程c)の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜3日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.070mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜8日間増殖させる工程、
e)工程d)のインスリン含有培地中での3〜8日間の増殖の後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程、
f)工程e)の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜2日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.030mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜9日間増殖させる工程、
g)工程f)のインスリン含有培地中での3〜9日間の増殖の後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程、
h)工程g)の前記細胞を血清不含、インスリン不含培地中で1〜2日間増殖させる工程、その後、前記細胞を0.016mg/mlのインスリンを含むインスリン含有培地中へ移す工程、そして前記CHO細胞株を前記インスリン含有培地中で3〜9日間増殖させる工程、および
i)工程hのインスリン含有培地中での3〜9日間の増殖の後、前記CHO細胞株を血清不含、インスリン不含培地中へ移す工程であって、ここで、工程i)の細胞は、血清不含、インスリン不含培地中での長期増殖に順応させられている、工程
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の方法に従って産生される細胞。
【請求項19】
ヒトFVIIを発現し、かつ、動物由来成分を欠いているインスリン不含培地中での増殖に順応させられている組換えCHO細胞。
【請求項20】
前記細胞は、血清不含培地中で増殖するFVII産生細胞株を血清不含、インスリン不含培地中で増殖する細胞株へと順応させる工程によって産生され、前記工程は、インスリン濃度を減少させながらCHO細胞の連続継代をパルスする工程を含み、ここで、前記パルスする工程は、a)前記細胞株をインスリン含有培地中で1〜9日間増殖させる工程に続き、b)インスリン不含、血清不含培地中で1〜3日間増殖させる工程、ならびに工程a)および工程b)を繰り返す工程であって、ここで、各連続工程a)における培地は、検出可能なインスリンを含有しなくなるまで、前の工程a)のおよそ半分の濃度のインスリンを含有する、工程を含む、請求項19に記載の組換え細胞。
【請求項21】
欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100801において寄託された、ヒトFVIIを発現する組換えCHO細胞。
【請求項22】
欧州細胞カルチャーコレクション、イギリス、ポートダウンに2008年10月8日にアクセッション番号08100802において寄託された、ヒトFVIIを発現する組換えCHO細胞。
【請求項23】
哺乳動物細胞におけるFVIIまたはFVII関連ポリペプチドのラージスケール産生方法であって、
a)請求項18に記載の細胞を血清不含、インスリン不含培地を含有する培養容器中に播種する工程、さらに前記哺乳動物細胞培養物を少なくとも前記細胞が所定の密度に到達するまで増殖させる工程、
b)前記増殖させた種培養物を血清不含、インスリン不含培地を含有するラージスケール培養容器へ移す工程、
c)血清不含、インスリン不含培地中の前記ラージスケール培養物を、少なくとも前記細胞が所定の密度に到達するまで増殖させる工程、
d)血清不含、インスリン不含培地中の工程(c)で得られた培養物を、FVII発現またはFVII関連ポリペプチド発現に適当な条件下で維持する工程、および
e)前記FVIIまたはFVII関連ポリペプチドを前記維持された培養物から取り出す工程
を含む、方法。
【請求項24】
工程(b)の前に、漸進的にサイズが大きくなる種培養容器を用いて工程a)を繰り返す工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
血清不含、インスリン不含培地中の工程(c)で得られた培養物を、定期的な、前記培養培地の採取および新鮮培地による置換によって、保持する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記方法がマイクロキャリア法である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記方法がマクロ多孔質キャリア法である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が標準マイクロキャリア法である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記方法がマイクロキャリア灌流法である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が懸濁法である、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が灌流法である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記方法がバッチ/ドローフィル法である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が単純バッチ法である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法がフェドバッチ法である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記方法がドローフィル法である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記方法がケモスタット培養法である、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、前記播種工程の前に、インスリンを欠いている血清不含培地中での増殖に順応させられている、請求項23に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞は、前記播種工程の前に、懸濁培養における増殖が可能である、請求項23に記載の方法。
【請求項39】
前記所望のFVIIまたはFVII関連ポリペプチドがヒトFVIIまたはヒトFVII関連ポリペプチドである、請求項23に記載の方法。
【請求項40】
FVIIまたはFVII関連ポリペプチドが、少なくとも約1mg/l/日の培養物のレベルで産生される、請求項23に記載の方法。
【請求項41】
FVIIまたはFVII関連ポリペプチドが、少なくとも約2.5mg/l/日の培養物のレベルで産生される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
FVIIまたはFVII関連ポリペプチドが、少なくとも約5mg/l/日の培養物のレベルで産生される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
FVIIまたはFVII関連ポリペプチドが、少なくとも約8mg/l/日の培養物のレベルで産生される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
FVIIまたはFVII関連ポリペプチドが、約3〜4mg/l/日のレベルで産生される、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
産生されるFVIIまたはFVII関連ポリペプチド単位が、少なくとも5000U/l/日である、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
産生されるFVIIまたはFVII関連ポリペプチド単位が、少なくとも7000U/l/日である、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
産生されるFVIIまたはFVII関連ポリペプチドの活性単位が、約7000〜10,000U/l/日である、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
工程(c)で得られた培養物を、細胞含有キャリアの沈降の後、培養物上清の一部を定期的に採取し、新鮮な培地で置換する工程によって動物産出物不含、インスリン不含培地中で維持する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項49】
キャリアの前記沈降前に、前記培養の設定値より低い所定の温度まで前記培養物を冷却する工程をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記培養物を、キャリアの前記沈降前に、前記培養の設定値より5℃〜30℃低い温度まで冷却する、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記培養物を、前記培養の温度設定値より5℃〜20℃低い温度まで冷却する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記培養物を、前記培養の温度設定値より5℃〜15℃低い温度まで冷却する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記培養物を、前記培養の温度設定値より約10℃低い温度まで冷却する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記培地が、1以上の次の添加物、i)グルタミン;最終濃度0.9g/l、ii)硫酸第二鉄×7H2O 0.0006g/l、iv)プトレシン、×2HCl 0.0036g/l、vi)ビタミンK1 0.0025g/l、vii)シンペロニック;最終濃度1g/l、フェノールレッド 0.008g/l、エタノールアミン 0.00153g/l、および炭酸水素Na 2g/lが補充された血清不含DMEM/HAM F12に基づく処方物である、請求項1、請求項16または請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−508562(P2012−508562A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535656(P2011−535656)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/063338
【国際公開番号】WO2010/056584
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】