説明

血漿または血清を含む神経損傷治療用の医薬組成物

本発明は、神経損傷治療用の医薬組成物に係り、さらに詳細には、薬剤学的に有効量の血漿または血清を有効成分として含む神経損傷治療用の医薬組成物に関する。本発明に係る神経損傷治療用の医薬組成物は、脊髓神経損傷後の神経細胞を再生し、脊髓神経損傷の病巣部位の完全な構造的連続性を提供することによって神経損傷を治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経損傷治療用の医薬組成物に係り、さらに詳細には、薬剤学的に有効量の血漿または血清を有効成分として含む神経損傷治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系は、末梢神経系と中枢神経系とに分けられ、前記末梢神経系は、中枢神経系である脳及び脊髓を除いた他のすべての神経要素が含まれる。神経系の他の分類としては、体神経と自律神経とがあり、体神経には、脳神経及び脊髓神経があり、自律神経系には、交感神経及び副交感神経がある。神経細胞は、細胞体、樹状突起及び軸索から構成されており、細胞体へ神経刺激が入る方は、樹状突起、神経刺激を遠くに伝達する方は軸索である。軸索の端には、複数のシナプス末端があり、ここで、他の神経細胞や標的細胞が連結される。軸索は、シュワン細胞(Schwann cell)で取り囲まれた髄鞘(myelin sheath)及びランビエ絞輪(node of Ranvier)の節から構成されている。
【0003】
神経細胞の死滅または損傷に関連した神経疾患の典型的な治療は、軸索の成長を促進することによって神経の再生を促進するか、神経細胞の死滅を抑制することである。これまで知られた神経再生促進剤としては、神経成長因子(NGF; Levi-Montalcini R. and Hamburger V., J. Exp. Zool., 123:233, 1953)、脳−誘導神経栄養因子(BDNF; Leibrock et al., Nature, 341:149, 1989)、神経栄養因子−3(NT-3; Maisonpierre et. al., Science 247:1446, 1990)、毛様体神経栄養因子(CNTF; Lin et al., Science 246:1023, 1990)、インシュリン及びインシュリン−類似成長因子(Aizenman et al., Brain Res., 406:32, 1987; Bothwell, J. Neurosci. Res., 8:225, 1982; Recio-Pinto et al., J. Neurosci., 6:1211,1986; Near et al., PNAS, 89:11716, 1992; Shemer et al., J. Biol. Chem., 262:7693, 1987; Anderson et al., Acta Physiol. Scand., 132:167, 1988; Kanje et al., Brain Res., 475:254, 1988; Sjoberg and Kanje, Brain Res., 485:102, 1989; Nachemson et al., Growth Factors, 3:309, 1990; Re-cio-Pento et al., J. Neurosci. Res., 19:312, 1988; Matteson et al., J. Cell Biol., 102:1949, 1986; Edbladh et al., Brain Res., 641:76, 1994)、アクチビン(Schubert et al., Nature 344:868, 1990)、プルプリン (Berman et al., Cell, 51:135, 1987)、線維芽細胞成長因子(D. Gospodarowicz et al., Cell Differ., 19:1, 1986; Baird, A. and Bohlen, P., Fibroblast growth factors. In: Peptide growth factors and their receptors 1. (eds. Sporn, M.B. and Roberts, A.B.) 369-418. Spring-Verlag, Berlin, Heidelberg, 1990;及びWalter, M.A. et al., Lymphokine Cytokine Res., 12:135, 1993)、エストロゲン(Toran-Allerand et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 56:169, 1996; McEwen, B.S. et al., Brain Res. Dev. Brain. Res., 87:91, 1995)、血小板由来成長因子(PDGF;米国特許第6,506,727号)、フィブリン分解剤(例:組織−プラスミノーゲン活性化剤)またはフィブリノーゲン形成抑制剤(例:アンクロド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ及び抗痙攣剤;米国特許公開第2003/0219431A1号)などがある。神経細胞の死滅を抑制するものとしては、トロンボモジュリン類似体(thrombomodulin analogs)(米国特許公開第2004/0002446A1号)が知られている。
【0004】
脳及び脊髓の中枢神経には再生能がないということは周知のものであり、脊髓損傷のような外傷やアルツハイマー病及びパーキンソン病のような神経退行性疾患を治療できる方法がないのも、この理由からである。
【0005】
たとえ、一部の研究において脊髓の神経細胞が再生能を有するが、通常、再生反応は短く、軸索が死滅するなど不完全であり、このような未成熟な反応が現れる理由はいまだに解明されていない。
【0006】
前記のような公知の神経再生促進物質を利用して神経損傷を治療することには限界があり、脊髓神経の損傷には、いくつかに限定された治療方法が利用されている。最近までも脊髓神経の損傷後の薬物療法としては、脊椎損傷の初期に二次的損傷を最小化するために、高容量のステロイド性メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)を静脈に投与する方法があった(Hall, E.D., Adv. Neurol., 59:241, 1993; Bracken, M.B., J. Neurosurg., 93:175, 2000; Bracken, M.B., Cochrane Database Syst. Rev. 2, 2000; Koszdin, et al., Anesthesiology, 92:156, 2000)。しかし、最近の分析資料によると、この薬物療法は禁止されねばならないと主張されており(Hurlbert, R.J., J. Neurosurg., 93:1, 2000; Pointillart et al., Spinal Cord, 38:71, 2000; Lankhorst et al., Brain Res., 859:334, 2000)、その他の薬物は未だ実験段階にある。
【0007】
最近数年間、脊髓神経の再生を制限する因子を理解し、それに基づいて脊髓神経の成功的な再生のための戦略の開発に相当の進展があった(Ramer, M.S. et al., J. Neurosci. 21:2651, 2001)。その研究結果、中枢神経再生の抑制物質のうち一つとしてノゴ(Nogo)が提示された(Chen, M.S. et al., Nature 403:434, 2000)。しかし、ノゴを抑制するものとしては、軸索の一部のみが再生されるので、他の再生抑制物質が存在する可能性があり、再生抑制候補物質としては、MAG(ミエリン関連糖タンパク質)、テネイシン(tenascin)、ガングリオシド(gangliosides)、エフィリン(ephrin)、ネトリン(netrin)、セマフォリン(semaphorins)などを例示することができる。このような物質が脊髓神経の成功的な再生に重要な役目を担っているということは明らかであるが、その他の要件、例えば、軸索の再生のための陽性支持を最大にして、部分病巣に生きている軸索の機能を最適化し、延長された再成長を案内し、適切な連続性を設定し、初期外傷、炎症及び傷の形成に有害な影響を最小化するものも脊髓神経の再生に考慮されねばならない。これに関し、Priestleyらは、ニュートロピンと共にフィブロネクチンマットを使用して、損傷された脊髓神経の再生を刺激することができる可能性を提示した(Priestley, J.V. et al., Journal of Physiology - Paris 96, 123-133, 2002)。
【0008】
しかし、前記のような成長因子による神経の再生は、神経細胞の再生過程中、一定の部分に限って効果を表し、前記成長因子の生産及び精製に相当の費用がかかって、非経済的であるという短所がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、さらに効果的な神経再生物質を開発するために鋭意努力した結果、脊髓神経の損傷されたラットモデルに哺乳動物由来の血漿または血清を処理した場合、神経細胞が再生され、再生された神経損傷の病巣部位が他の部位と完全に構造的な連続性を有するということを確認し、本発明を完成するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】神経細胞を損傷させたラットモデルのBBBテストの結果を示すグラフである。
【図2】神経細胞を損傷させたラットモデルのグリッド・ウォーク・テスト(Grid Walk Test)の結果を示すグラフである。
【図3】ラットモデルの足跡を分析した写真である(A:正常群;B:対照群;C:処理群)。
【図4】神経細胞を損傷させたラットモデルの電気生理学的な感覚神経潜時の結果を示すグラフである。
【図5】ラットモデルの対照群及び正常群の病巣部位の組織学的写真である。
【発明の詳細な説明】
【0011】
《技術的課題》
本発明の目的は、薬剤学的に有効量の血漿または血清を含む神経損傷治療用の医薬組成物を提供するところにある。
【技術的解決方法】
【0012】
前記目的を解決するために、本発明は、薬剤学的に有効量の血漿または血清を有効成分として含む神経損傷治療用の医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明において、前記組成物は、ペースト、溶液、懸濁液及び局所用ゲル状から構成された群から選択されたいずれか一つであることを特徴とし、前記血漿または血清は、組成物のうち0.1ないし99.9重量%含まれることを特徴とすることができる。
【0014】
本発明において、前記神経損傷は、末梢神経損傷または脊髓損傷であることを特徴とし、前記神経損傷は、神経が切断される損傷であることを特徴とし、前記神経が切断される損傷は、神経突起が10mm以上切断されたことを特徴とすることができる。
【0015】
本発明において、前記末梢神経損傷は、糖尿性神経障害、末端肥大症、甲状腺機能低下症、エイズ(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)、ハンセン病、ライム病、全身性紅斑性狼瘡、リュウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、結節性動脈周囲炎、ウェゲナー肉芽腫症、頭蓋動脈炎及びサルコイドーシスから構成された群から選択される疾病に関連した神経障害であることを特徴とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明で脊髓神経損傷は、脊髓に外力が加えられて発生する様々な損傷を意味する。脊髓神経損傷は、病態生理学的に一次損傷と二次損傷とからなり、脊髓神経の一次損傷は、衝撃発生時に物理的な破裂によって発生する組織損傷をいう。人間において一次損傷は、衝撃、圧迫、牽引、裂傷、切り傷などの機械的な力によって発生し、最もありふれた機転であり、衝撃と持続的な圧迫とが共に作用して起こり、圧迫骨折、骨折−脱臼、銃傷及びディスクの破裂などがその主な原因である。
【0018】
脊髓神経の二次的な損傷は、一次的な損傷時に組織から排出された生化学的な媒介物質によって起こる。二次損傷によって発生した生化学的物質は、病態生理学的な信号過程を誘発して漸進的に組織を損傷させ、結局、細胞死を起こし、これがさらに他の生化学的物質を遊離させて、組織破壊の悪循環が続くことになる。このような二次的な病態生理学的な過程は、細胞膜の損傷、血管の影響、炎症、電解質の不均衡、変更されたエネルギー代謝、酸化ストレスを起こす多様な生化学的な変化などを含む。
【0019】
神経損傷の程度は、多様な方法によって評価されることができる。例えば、フランケル(Frankel)分類法、ASIA(American Spinal Injury Association)分類法、エール(Yale)分類法、モーター・インデックス・スケール、バルテル(Barthel)インデックス変形法(Wells, J.D. and Nicosia, S., J. Spinal Cord Med. 18:33, 1994)などがある。患者は、完全脊髓損傷または不完全脊髓損傷に鑑別されることができる。完全脊髓損傷は、外傷後24時間以内に筋力及び感覚が完全に消失するか、肛門括約筋が収縮するか、肛門の周りの感覚が消失し、球海綿体筋反射が消失した場合を言う。不完全脊髓損傷は、損傷部位以下で運動または感覚機能が少しでも残っている状態を言い、前脊髓症候群(anterior cord syndrome)、後脊髓症候群(posterior cord syndrome)、中心脊髓症候群(central cord syndrome)、側方脊髓症候群(lateral cord syndrome)、神経根症侯群などに区分される。
【0020】
外傷性脊髓神経損傷を起こす動物モデルは、病態生理の機転を明らかにし、治療効果の評価に有用に使用されてきた(Anderson, T.E. and Strokes, B.T., J. Neurotrauma, 9:S135, 1992; Blight, A.R., Central Nervous System Trauma, 2:299, 1985; Blight, A.R. et al., McGraw Hill: New York, 1367-1379, 1966)。このような動物モデルとしては、分銅落下モデル(weight drop model)(Kuhn, P.L. and Wrathall, J.R., J. Neurotrauma, 15:125, 1998)、粉砕損傷モデル (Bunge, R.P. et al., Advances in Neurology. FJ Seil (ed), Raven Press : New York, 75-89, 1993; Bunge, R.P. et al., Neuronal Regeneration, Reorganization, and Repair. FJ Seil (ed), Leppincott-Raven Publishers : Philadelphia, 305-315, 1997)、挫傷損傷モデル(Stokes, B.T. et al., J Neurotrauma 9:187, 1992)などがある。挫傷損傷モデルは、速くかつ非貫通的な外傷の模倣に最も適したモデルである。形成された損傷は、組織検査(例:光または電子顕微鏡及び染色及び追跡方法;Gruner, J.A., J. Neurotrauma, 9:123, 1992)、電気生理学的結果の測定(例:誘発電位;Metz et al., J. Neurotrauma, 17:1, 2000)または行動評価(例:野外歩行能または傾斜面での姿勢安定性;Basso et al., J. Neurotrauma, 13:343, 1996)などによって評価することができる。
【0021】
本発明の他の様態として、本発明は、神経突起が切断された末梢神経損傷、特に、切断された神経突起が数mm以上(例:10mm以上)の長さに切断された神経損傷を治療するための医薬組成物に関する。末梢神経系で神経細胞の再生特性は、損傷された神経経路の機能を回復する能力に制約を加える。すなわち、新たな軸索は、無作為に伸び、方向が間違って不適切な標的と接触し、これによって非正常的に作用することがあり得る。例えば、運動神経が損傷した場合、再成長する軸索が間違った筋肉と接触することがあり、これは結局、麻痺を起こす。また、切断された神経突起が数mm以上(例:10mm以上)の長さに切断された場合は、突起が必要な距離ほど成長できないか、または軸索が間違った方向に成長するため、適切な神経再生が起こらない。
【0022】
末梢神経の損傷を手術によって治療する場合は、多様な結果が得られる。一部の場合として、切断された神経末端の適切な配列を得るために縫合する場合は、軸索の再生を抑制すると思われる瘢痕組織の形成を刺激する。瘢痕組織の形成が減少した場合にも、成功的な神経の再生は、依然として10mm以内の神経損傷に限られている。また、末梢神経細胞の回復能力は、損傷または神経障害が神経細胞そのものの細胞体に影響を及ぼすか、末梢軸索の広範な変性をもたらした場合に非常に抑制される。本発明の組成物は、神経細胞を再生し、神経病巣部位の完全な構造的連続性を提供するため、哺乳動物で10mm以上の長さに断絶された末梢神経損傷を治療することが可能である。
【0023】
他の様態として、本発明は、疾病によって誘導された末梢神経障害及び疾病に関連した状態を治療するための医薬組成物に関する。また、前記疾病によって誘導された末梢神経障害は、糖尿性神経障害でありうる。糖尿性神経障害は、末梢神経障害の他の原因なしに糖尿病の症状によって発生する臨床的に明らかな疾患として規定されることができる。このような神経障害は、末梢神経系の体神経系と自律神経系とにおいて現われる症状を含む。糖尿性神経障害は、皮膚の直下の神経を損傷させて、次の症状のうち一つ以上を誘発する:指、手、足指及び足の無感覚及びしびれ;手及び足の無力症;手及び足の痛症及び/または灼熱感。また、疾病−誘導された末梢神経障害は、末端肥大症、甲状腺機能低下症、AIDS、ハンセン病、ライム病、全身性紅斑性狼瘡、リュウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、結節性動脈周囲炎、ウェゲナー肉芽腫症、頭蓋動脈炎またはサルコイドーシスに関連した神経障害であることができる。
【0024】
本発明の組成物は、神経細胞を再生し、神経病巣部位の完全な構造的連続性を提供するので、哺乳動物において前記のような疾病−誘導された末梢神経障害及び関連した状態を治療することも可能である。
【0025】
神経損傷を効果的に治療するためには、本発明の医薬組成物に使用された血漿または血清は、標的の部位で容易に作用せねばならない。その目的のために、本発明によって好ましく使用するための組成物は、本発明の活性成分として血漿または血清を薬剤学的に許容される通常の賦形剤(excipients)または担体(carriers)のうち一つ以上と配合した製剤で製造する。ここで使用された用語“薬剤学的に許容される”とは、活性成分と混和することができ、受取人に害を及ぼさないということを言う。本発明で血漿または血清は、医薬組成物の総量を基準に0.1%ないし99.9%含まれることができる。他の方法として、賦形剤、担体または希釈剤と配合せず、血漿または血清を単独で製剤として使用することができる。
【0026】
本発明に係る血漿または血清は、典型的に局所形態として投与される。局所投与に適した剤型としては、ペースト、ゲル、溶液、乳化剤または懸濁液のような半固体状、半液体状または液状製剤を含む。本発明の組成物の好ましい投与経路は、筋肉内、皮下、硬皮注射または注入(infusion)でありうる。他の方法として、製剤は、凍結乾燥粉末であってもよく、生理的体液と等張性であり、適切なpHに緩衝された媒質と再構成して使用してもよい。これらの製剤を製造するためには、製薬技術分野で通常使用されているか、または周知の装置及び方法のうちいずれかを使用して、多様な成分を混合・溶解するか、または混合物を練った後に剤型することができる[Remington's Pharmaceutical Science, 18th Edition, 1990, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania 18042 (Chapter 87: Blaug, Seymour)]。さらに好ましくは、ペースト状に剤型することができる。
【0027】
本発明の製剤は、密蝋、グリセリルトリベヘネート、トリミリスチン酸グリセリルのような粘度調節剤;メタリン酸カリウム、リン酸カリウム、一価の酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム無水物のような緩衝剤;脂肪酸アルカリ金属、デメチルデアルキルハロゲン化アンモニウム、アルキルハロゲン化ピリジニウム、スルホン酸アルキル、脂肪アミンオキシド、2−アルキルイミダゾリン四級アンモニウム塩のような界面活性剤;パラフィン、シリコンジオキシド、セトステアリルアルコール、ワックスのような増粘剤;マンニトール、ソルビトール、澱粉、カオリン、スクロースのような希釈剤;パラベンのような保存剤;炭酸アンモニウム、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムのようなアルカリ化剤;塩酸、窒酸、酢酸、アミノ酸、クエン酸、フマル酸のような酸性化剤;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムのような酸化防止剤;PVP、ゼラチン、天然糖、アカシア、グアーガム、寒天、ベントナイト、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ポリエチレングリコールのような乳化剤または懸濁化剤;安定剤;鉄酸化物、二酸化チタンまたはアルミニウムレーキのような着色剤のうちいずれか一つ以上の追加成分を含むことができる。
【0028】
本発明に係る血漿または血清の容量は、患者の健康状態及び神経損傷程度などを考慮して適切に決定されねばならない。通常、大人を対象とした場合、一回に約0.0001ないし約5mg/cmの容量で病巣部位に適用することが好ましい。
【0029】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されるものではない。
【0030】
実施例1:血漿含有ペーストの製造
HIV、HCV及びHBVの検査を終えた人間由来の血液製剤(中央血液院、新鮮な凍結血漿)を30℃で解凍させた後、それを生理食塩水と10g/5ccの割合で混合して血漿含有ペーストを製造した。
【0031】
実施例2:脊椎損傷ラットモデルの準備
延世大学校の医学動物実験部から得た生後約2ヶ月の体重200〜220gの雌ラット(Sprague−Dawley)を実験に使用した。ラットに12時間ずつの昼夜間交代の環境を提供し、水及び飼料は任意に供給し、国際実験動物管理公認協会の実験動物管理委員会指針(Institutional Animal Care and Use Committee Guidelines of Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International)に従って飼育した。手術14日前からBBBテスト及びグリッド・ウォーク・テストのために、基本的な歩く訓練をさせた。手術3日前に行動及び運動機能についての基本的な評価を実施して、実験に使用するのに適した正常の25匹のラットを選別した。
【0032】
選別された25匹のラットは、シュヒト(Schucht)などの方法(Schucht, P. et al., Experimental Neurology, 176:143, 2002)によって25mg/mlのケタミン(Ketamine)及び1.3mg/mlのロムプン(Rompun)の混合物2mg/kgで完全に痲酔させ、L2腹部の椎弓切除術(L2 Ventral Laminectomy)を実施した。手術時及び手術後の感染予防のために、抗生物質セファレキシン(Cefalexin)5mg/100gを毎日筋肉内に注射した。ラットの第2腰椎を開いてマイクロ鉗子(Microrongeur)を利用して整形椎弓板(Arcus Vertebra)の左外側の部位に小さな穴(1mm)を開けた。その穴にブレード・ホルダー(Blade Holder)の刃を挿入し、硬膜(Dura Mater)を経て整形椎弓板の右外側の部位まで切れ目を出して、脊髓の腹部部位に外傷を加えた。脊髓神経損傷部位の背部筋肉組織(Dorsal Musculature)を縫合し、肌を手術用クリップで結紮した。手術後にラットを暖かい大鋸屑上に置いて体温を維持させ、自律膀胱調節(Autonomic Bladder Control)が完全に回復するまで約7日間毎日3回ないし4回腹部の下側をマッサージして膀胱の内容物を排出させた。
【0033】
神経損傷の手術後3日目にBBBテスト(Basso, D.M., Beattie, M.S. and Bresnahan, J.C., J. Neurotrauma, 12:1, 1995)を実施して野外歩行能を評価した。ラットを表面の荒い透明のプレキシガラスのボックスに入れて4ないし5分間観察した。関節運動、体重支え、前足−後足の共助、しっぽの位置などの基準によって点数を付けて、0点は、後足の運動能を持たないことと規定し、最大21点は、正常の歩行能を持つことと規定した。
【0034】
また、脊髓神経損傷の手術後3日目にグリッド・ウォーク・テスト(Z’Graggen et al., J. Neurosci. 18;4744, 1998)を実施してラットの運動機能を評価した。グリッド・ウォーク・テストでは、ラットを1m長さの金属平行棒を歩かせて、規則的な歩行能力を評価し、また棒を斜めに置いてラットを下方に歩かせて、この時の後足による調節能を評価した。評価は、歩きの間違い回数を計数することによって行われた。10回の間違いは、ラットが規則的に歩けないだけでなく、足を自発的に調節できないということを示す。0ないし1回の間違いは、損傷がなく正常のラットの運動能を示す。
【0035】
25匹のうち20匹は、BBBテスト及びグリッド・ウォーク・テストで類似した点数を示し、これらの平均点数は、それぞれ約11点及び約6点であった。点数は、二重盲検法によって二人の観察者が付けた。残りの5匹は、相当異なる行動を見せて、平均点数から非常に外れているので、実験対象から除外させた。
【0036】
実施例3:脊椎損傷ラットモデルに血漿含有組成物の処理
実施例2で実験対象として選定された20匹のうち10匹(処理群)は、第2腰椎の脊髓神経損傷の部位に、実施例1で製造された血漿を含むペーストを塗った後、前記のように背部の筋肉組織を縫合し、皮膚を手術用クリップで結紮した。残りの10匹(対照群)の場合は、ペーストの代わりに生理食塩水を処理して同じ方法で縫合した。
【0037】
実施例4:BBBテスト及びグリッド・ウォーク・テスト
実施例3で脊髓神経損傷の部位に血漿含有ペースト100μl(2mg/μl)を処理した処理群10匹と、脊髓神経損傷の部位に生理食塩水を処理した対照群10匹とを対象として、脊髓神経外傷手術後3日目から1週間の間隔で、実施例2に記載した方法でBBBテスト及びグリッド・ウォーク・テストを行った。図1は、BBBテストの結果を示すグラフであり、図2は、グリッド・ウォーク・テストの結果を示すグラフである。これらの結果から、手術後35日目に処理群及び対照群の回復頂点に到逹した。さらに、 Two−sample Mamm−Whitney Uの統計分析によってBBBテスト(p<0.05)及びグリッド・ウォーク・テスト(p<0.05)で、血漿含有ペースト処理群は、対照群に比べて有意的な違いを示しつつ回復された。
【0038】
実施例5:足跡分析(Footprint Analysis)
脊髓神経損傷の手術後35日目に処理群、対照群及び正常ラットの足裏にインクを塗って白紙の上を歩かせて歩幅(stride length、二回連続歩きによる足裏間の距離)、支持基盤(base of support、左右側の足裏間の距離)、回転角(angle of rotation、足裏と足指の角で設定された線間の交差角)のような基準に基づいて足跡の分析を作成した(Kunkel-Bagden E. et al., Exp Neurol. 119, 153, 1993)。図3は、それぞれ正常群、対照群、処理群の足跡を分析した写真であり、処理群の場合、正常群と類似した足跡を示すということが確認された。
【0039】
実施例6:電気生理学的(Electrophysiology)分析
脊髓神経損傷の手術後35日目の対照群及び処理群のラットを1.5g/kgのウレタンで痲酔させた後、感覚運動皮質及び後足挫骨神経を露出させた。0.5mmの同心針電極をブレグマ(bregma)から左側に約1ないし2mm、前側(rostrocaudal)に約1mmの支点で、右側感覚運動皮質の1mmの深さで突いて3mAの電気刺激を加えて、後足の挫骨神経に最適の信号を伝達する位置を探し、この最適の刺激位置で反応強度及び感覚神経潜時をオフラインで分析した。図4は、二つの独立標本t−検定による感覚神経潜時の結果を示すグラフである。この結果から処理群の挫骨神経に対する平均潜時は、対照群の平均潜時より有意的に少ないということが分かり(p<0.05)、これは、本発明の血漿含有ペーストが神経細胞を再生させ、再生された神経細胞によって軸索が連結されて、正常の機能を行わせるということを示している。
【0040】
実施例7:組織学的(Histology)分析
脊髓神経損傷の手術後35日目の対照群及び処理群のラットに過量の痲酔剤を注射して人道的に致死させ、脊髓神経損傷部位の第2腰椎、これに連結された胸椎及び第3腰椎、第4腰椎を除去した後、10%の緩衝ホルマリンに48時間浸漬させた後にパラフィンに固定させた。矢状面から縦断面に2ないし5μmの厚さで切断して組織の切片を準備し、これを顕微鏡スライドに連続的に載せた。前記スライドは、ヘマトキシリン及びエオシンでH&E染色した。図5のAないしCは、対照群の組織の連続拡大写真(5倍、10倍及び20倍)であり、図5のDないしFは、処理群の組織の連続拡大写真(5倍、10倍及び20倍)を示す。図5のDないしFに示すように、処理群の病巣部位は、全体的に完全な構造的な連続性を示し、本発明の医薬が神経細胞を再生し、脊髓神経損傷に実質的な治療効果を有するということが分かった。一方、図5のAないしCに示すように、対照群の場合は、病巣部位が腐食されているということが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、治療学的有効量の血漿または血清を含む神経損傷治療用の医薬組成物を提供する効果がある。本発明に係る血漿または血清含有医薬組成物は、損傷された神経細胞を再生させて、正常の機能を行うように治癒させる効果を有する。
【0042】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業者にとっては、このような具体的な記述は単に好ましい実施様態であり、これによって本発明の範囲が制限されないということは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤学的に有効量の血漿または血清を有効成分として含む神経損傷治療用の医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物は、ペースト、溶液、懸濁液及び局所用ゲル状から構成された群より選択されたいずれか一つの形態であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記血漿または血清は、組成物のうち0.1乃至99.9重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記神経損傷は、末梢神経損傷または脊髓損傷であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記神経損傷は、神経が切断される損傷であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記神経が切断される損傷は、神経突起が10mm以上切断されたことを特徴とする 請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記末梢神経損傷は、糖尿性神経障害、末端肥大症、甲状腺機能低下症、エイズ(後天性免疫不全症候群)、ハンセン病、ライム病、全身性紅斑性狼瘡、リュウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、結節性動脈周囲炎、ウェゲナー肉芽腫症、頭蓋動脈炎及びサルコイドーシスから構成された群から選択される疾病に関連した神経障害であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−504636(P2009−504636A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525934(P2008−525934)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003116
【国際公開番号】WO2007/018400
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(507287261)メディジーンズ カンパニー リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】MEDIGENES CO., LTD.
【Fターム(参考)】