説明

血管一時塞栓剤用PVA粒子、その製造方法、および血管一時塞栓剤

【課題】カテーテルの通過性と生体内における血流の一時塞栓性能に優れた塞栓材料を提供する。
【解決手段】鹸化度が90モル%以上で、平均粒径が70μm〜1000μmであるパール状の血管一時塞栓剤用ポリビニルアルコール粒子、および該粒子を混合または溶解した血管一時塞栓剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内において血管を一時的に塞ぎ、血流の一時的な閉塞に使用する血管塞栓材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術に伴う切開に先だって、出血を最小限に留める目的や出血防止目的以外に、切断不能な腫瘍や子宮筋腫に対して、血管閉塞により栄養を遮断する動脈塞栓術が知られている。また、抗悪性腫瘍剤と血管塞栓材料とを組み合わせて投与することにより、腫瘍内の血流を遮断し、かつ抗悪性腫瘍剤濃度を高く維持して抗腫瘍効果の向上を期待する化学塞栓療法が知られている。血管内に注入されるこれらの塞栓材料としては、EVOH(約10%濃度DMSO溶液)、シアノアクリレート、ポリビニルアルコール(PVA)のホルマール化粒子が知られている。
【0003】
これらの塞栓材料は、たとえば、EVOH(約10%濃度DMSO溶液)は、溶媒であるDMSOが毒性を有する等の点で生体への悪影響があり、シアノアクリレートでは、ヨウ化脂肪酸エステル鹸化物との混合比を調整することにより血液中での塞栓時間を制御できるが、混合比のバランスが難しく、また、カテーテルを通じて血管内に投与後、カテーテルを引き抜くタイミングを誤ると、カテーテル先端が血管内に接着してしまい、最悪、カテーテルの先端を血管内に残存させたままになる危険性がある。また、PVAのホルマール化粒子は、永久塞栓材料であり、一時的な塞栓用途には使用できないという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、種々の検討がなされている。たとえば、特許文献1では、一時塞栓用にゼラチンスポンジが使用されているが、ゼラチンスポンジには生物由来の成分が含まれるため、エイズウイルス等の感染症を媒介する危険性がある。また、一時塞栓材として使用する場合、ゼラチンスポンジをカテーテルに通過させる為には、使用前に1mm厚程度に非常に細かく裁断する必要があり、医師の非常に高い熟練度が要求され、治療効果に個人差がでるという問題がある。また、一般に、架橋デンプンも一時塞栓材として使用されているが、血液中のアミラーゼによって、分単位で分解するため、1週間〜3ケ月といった比較的長い一定期間有効である塞栓材料ではなかった。
【0005】
特許文献2には、30%以上の水膨潤率を有し、リン酸緩衝生理食塩水において分解性がある略粒状の粒子からなる血管塞栓材料が開示されている。しかしながら、該血管塞栓材料は、水溶性ポリマーを生分解性成分によるブロックコポリマー化、架橋、変性などの方法によって水不溶化したもので、その分解は生分解によるものであるため、血管内の塞栓時間の制御が未だ不充分であった。
【0006】
【特許文献1】国際公開第98/03203号公報
【特許文献2】特開2004−167229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体内において血管を一時的に塞ぎ、カテーテル通過性および塞栓時間の制御性に優れた血管塞栓材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、鹸化度が90モル%以上で、平均粒径が70μm〜1000μmであるパール状の血管一時塞栓剤用ポリビニルアルコール粒子に関する。
【0009】
ポリビニルアルコールの平均重合度が、80〜600であることが好ましく、80〜350であることがより好ましい。
【0010】
本発明におけるポリビニルアルコール粒子は、アルコールまたはアルコールと酢酸メチル(a)を溶媒とするポリビニルエステル溶液(b)を、ポリビニルエステル、該エステルの鹸化物、および成分(a)のいずれとも実質的に相溶せず、かつ成分(b)よりも粘度の高い媒体(c)中に粒状に分散せしめ、鹸化触媒存在下で鹸化して得られることが好ましい。
【0011】
前記ポリビニルエステル溶液(b)/媒体(c)の重量比が、2/8〜6/4であることが好ましく、4/6〜5/5であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記ポリビニルアルコール粒子を造影剤に分散した血管一時塞栓剤、および前記ポリビニルアルコール粒子を造影剤に溶解した血管一時塞栓剤に関する。
【0013】
さらに、本発明は、前記ポリビニルアルコール粒子を造影剤に溶解した血管一時塞栓剤に、さらに、前記ポリビニルアルコール粒子を分散した血管一時塞栓剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スタックを起こす事が無く、カテーテル通過性が良好であり、塞栓時間の制御が可能な血管一時塞栓剤用粒子および塞栓剤を提供することができる。該塞栓剤は、生体内で吸収後、体外に自然に排斥される。また、血液由来の一時塞栓剤ではないので、エイズや狂牛病等の血液を媒介とした感染症伝播の危険性が無い。さらに、目的外の血管内において凝集詰まりを起こす危険性が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の粒子は、血管一時塞栓剤用の粒子であって、鹸化度が90モル%以上、平均粒径が70μm〜1000μmのパール状のポリビニルアルコール(PVA)粒子である。ここで、パール状とは、顆粒状や異形の粉状物ではなく、一定の球形度を有する粒子を表すものである。
【0016】
本発明のPVA粒子の鹸化度は、90モル%以上であることが好ましい。より好ましくは、94〜99モル%、さらに好ましくは、95〜98.9モル%である。鹸化度が90モル%未満の場合は、造影剤に膨潤し易いため、カテーテル通過性が悪くスタックを引き起こしたり、カテーテルを通して本発明の塞栓剤を注入する際の圧力が非常に高くなり、作業性が著しく低下することがあり、好ましくない。
【0017】
PVA粒子の平均粒径は、70〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは100〜300mμであり、さらに好ましくは100〜220μmである。また、かかるPVA粒子は1200μm以上のものの含有量が3重量%以下であるものが好ましい。PVA粒子の平均粒径が70μm未満の場合は、目的とする血管以外の部位を塞栓する傾向があり、好ましくない。また、平均粒径が1000μmより大きい場合は、使用するカテーテルの種類によっては粒子のカテーテル通過性が著しく低下したり、通過不能となる傾向がある。なお、本明細書において特に断らない限り、平均粒径はイソプロピルアルコール中にPVAを所定量分散させた状態における値である。
【0018】
PVA粒子の平均重合度は、80〜600であることが好ましく、より好ましくは80〜350、さらに好ましくは、100〜220である。平均重合度が80未満の場合には、工業的に安定に生産出来る重合度域ではなく、また、塞栓時間が極端に短くなる傾向があり、好ましくない。平均重合度が600より大きい場合には、血管内における粒子の溶解時間が非常に長くなり、粒子が体内残存することとなるため、一時塞栓剤としての機能が低下する。本発明において一時塞栓剤とは、血管の塞栓時間がおよそ30分〜3ヶ月である塞栓剤をいう。
【0019】
本発明のPVA粒子は、たとえば、特開平56−120707に記載された粒状ポリビニルアルコールの製造法に準じて製造することができる。具体的には、アルコールまたはアルコールと酢酸メチル(a)からなる溶媒のポリビニルエステル溶液(b)を、ポリビニルエステル、該エステルの鹸化物、および成分(a)のいずれとも実質的に相溶せず、かつ成分(b)よりも粘度の高い媒体(c)中に粒状に分散せしめ、鹸化触媒存在下で鹸化して得られる。
【0020】
ポリビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ギ酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステルの単独重合体や共重合体があげられる。また、ビニルエステルと共重合可能なモノマー、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等の不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン等の各種α-オレフィン;ノルボルネン等の脂環式炭化水素;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリレート、さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー;アセトアセチル基含有モノマー;アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロペンスルホン酸、3,4−ジアセトキシ-1−ブテン、グリセリンモノアリルエーテル、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン等との共重合体も本発明におけるポリビニルエステルとしてあげられる。
【0021】
アルコールまたはアルコールと酢酸メチル(a)におけるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール等の低級脂肪族アルコールを用いることができる。これらのアルコールは、単独であるいは2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。なかでも、鹸化反応時の粒径制御および実用的な鹸化度速度が得られる点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることが好ましい。アルコールと酢酸メチルを併用する場合は、ポリビニルエステルの鹸化反応効率の点から、アルコール/酢酸メチルの割合を重量比で0.5以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましい。また、酢酸メチルより更に極性が低い各種有機溶剤を併用することも可能である。
【0022】
ポリビニルエステル溶液(b)におけるポリビニルエステルの含有量は、特に限定されるものではないが、通常、溶媒全体の10〜80重量%である。ポリビニルエステル溶液(b)は、ポリビニルエステルに対して0.05〜10重量部の水を含有していてもよく、少量の水の存在により鹸化物の残存酢酸基の分布をランダムにし、また鹸化度を制御する役割を果たすことができる。
【0023】
媒体(c)は、用いるポリビニルエステル、その鹸化物およびアルコールまたはアルコールと酢酸メチル(a)のいずれとも実質的に相溶せず、かつポリビニルエステル溶液(b)よりも粘度の高いものであって、たとえば、流動パラフィン、灯油の如き脂肪族飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類があげられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、ポリビニルエステル溶液を均一に分散できることから、流動パラフィンが好ましい。
【0024】
媒体(c)の粘度は、ポリビニルエステル溶液(b)の粘度よりも高ければ特に限定されるものではない。
【0025】
ポリビニルエステル溶液(b)と媒体(c)の使用割合は、重量比で2/8〜6/4とすることが好ましく、4/6〜5/5とすることがより好ましい。ポリビニルエステル溶液(b)の使用割合が20重量%未満の場合は、生産効率が低下するため好ましくない。ポリビニルエステル溶液(b)の使用割合が60重量%をこえる場合には、分散性が悪くなり、多数粒子の集合体が形成されやすくパール状PVA粒子の平均粒径が大きくなる傾向にある。
【0026】
鹸化触媒としては、ポリビニルエステルを鹸化してPVAを製造する時に用いられる通常のアルカリ触媒を用いることができる。鹸化触媒の使用量は、ポリビニルエステルの濃度、目的とする鹸化度により適宜決定されるが、通常、ポリビニルエステル中の酢酸ビニル単位(1モル)に対して0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
【0027】
鹸化反応の反応温度は、20℃〜60℃とすることが好ましい。反応温度が20℃以下の場合には、反応速度が小さくなり反応効率が低下する。60℃をこえる場合には、溶媒の沸点以上となり安全上好ましくない。
【0028】
本発明の高鹸化度のPVA粒子は、得られるPVA粒子の特性やPVA粒子内部に取り込まれる流動パラフィンによる人体への毒性を低減させるという安全性上の目的より、2段階の鹸化反応により製造することが好ましい。1次鹸化では、鹸化度75〜90モル%となるまで鹸化反応を行った後、反応スラリーより粒子を遠心分離器装置等の固液分離装置や実験室的にはアドバンテック濾紙No.2または、No.63による濾過により分離し、必要に応じてメタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸メチル/メタノール混合物などの適当な溶剤あるいは混合溶剤で洗浄を行い、1次鹸化粒子を得る。つづいて、得られた1次鹸化粒子を、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒中に分散させて、鹸化反応の追い込みを行う。所望の鹸化度が達成できたところで、反応を終了させ、1次鹸化における粒子の回収と同様の方法により、本発明のPVA粒子(2次鹸化粒子)を得る。その後、必要に応じて生理食塩水にて洗浄を行なう。
【0029】
PVA生成時における未架橋のPVAの滅菌法としては、γ線、加圧水蒸気滅菌、ヒビテン液(グルコン酸クロルヘキシジン液)に浸漬する方法や、滅菌生理食塩水による洗浄方法が用いられる。
【0030】
PVAの平均粒径は、前記製造方法で得られたパール状PVA粒子を、必要に応じて標準金網により物理的に篩い分けを行うことにより任意の粒径のパール状PVA粒子の調整を行うことができる。また、平均粒径を所望のレベルまで小さくするためには、特開平56−120707号公報に記載された粒状ポリビニルアルコールの製造法に準じて製造する際の鹸化反応時の撹拌速度を速くしたり、流動パラフィン等の媒体(c)の粘度をポリビニルエステル溶液(b)の粘度より高く設定したり、媒体(c)とポリビニルエステル溶液(b)の比率を制御することにより粒径を制御することもできる。
【0031】
たとえば、粒径を105〜177μmの範囲とする場合には、145メッシュ(105μm)オン、80メッシュ(177μm)パスにより篩い分けされた粒径のものを用いる。また、177〜297μmに設定する場合、80メッシュ(177μm)オン、48メッシュ(297μm)パスにより篩い分けされた粒径のもの、297〜500μmに設定する場合48メッシュ(297μm)オン、32メッシュ(500μm)パスにより篩い分けされた粒径のものを用いれば良い。
【0032】
また、上述の鹸化反応条件によって所望の平均粒径のパール状PVA粒子を得る具体的な方法としては、たとえば、平均粒径150μm程度のパール状PVA粒子を得るには、平均重合度500のポリビニルエステルの場合、メタノール溶液(b)の濃度を40%とし、平均重合度150〜200のポリビニルエステルの場合はメタノール溶液(b)の濃度を50%として、該溶液(b)と流動パラフィン等の媒体(c)の割合を重量比で50/50として鹸化反応を行なえば良く、また、平均粒径を500μm程度とするには、ポリビニルエステル(b)溶液の粘度を媒体(c)より高く設定(例えば、重合500のポリ酢酸ビニルエステル溶液の樹脂分を50%)とすれば良い。
【0033】
なお、各パール状PVA粒子の平均粒径は、各PVA粒子をイソプロピルアルコール(IPA)中に分散させ、レーゼンテックM100(インライン式粒体モニタリングシステム、レーゼンテック製)で平均コード長(μm)を測定することで求めることが出来る。具体的には、0.8〜1000μmの範囲を38チャンネルのコード長に分割、各チャンネルの粒子数をカウントし、下式によって求めた。
平均コード長=Σ(Yi×Mi2)/ΣYi
Yi:レーゼンテックM100によりモニタリングしたときの粒子のカウント数
Mi:各チャンネルのコード長
【0034】
本発明は、前記得られたPVA粒子を、造影剤に分散した血管一時塞栓剤(i)に関する。
【0035】
造影剤としては、イオン性造影剤、非イオン性造影剤のいずれも使用することができる。具体的には、イオパミロン(シエーリングAG製)、オイパロミン(富士製薬工業(株)製)、ヘキサブリックス(テルモ(株)製)、オムニパーク(第一製薬(株)製)、ウログラフィン(シエーリングAG製)、イオメロン(エーザイ(株)製)などがあげられる。
【0036】
PVA粒子は、カテーテル通過性を確保する必要があるという観点から、造影剤に対して、20重量%以下の割合で用いることが好ましい。この場合、PVA粒子を造影剤に分散させてから、5〜15分間放置したのちに、血管一時塞栓剤として用いることが好ましい。塞栓後の再開通までの時間は、PVAの重合度、鹸化度、造影剤中での放置時間によって制御される。PVAの重合度や鹸化度を高くすることにより、塞栓時間を長くすることが可能となる。また、造影剤中における事前の放置時間が長くなると、塞栓時間は短くなる。塞栓時間の制御には事前の造影剤中における放置時間の影響がもっとも大きく、放置時間が5分未満の場合は、造影剤によるPVA粒子の膨潤が不充分となり、血管内塞栓後のPVA粒子の再溶解が開始するまでの時間が長くなる傾向があり、15分をこえると逆に造影剤によりPVA粒子が膨潤し過ぎる為か、PVA粒子が継子状態になりやすく、カテーテル通過性が低下し、塞栓治療の作業性が著しく低下する傾向がある。
【0037】
また、本発明は、前記PVA粒子を、造影剤に溶解した血管一時塞栓剤(ii)に関する。具体的には、造影剤100重量部に対して、PVA粒子を20重量%以内で添加し、50℃〜70℃程度で加温し、30分〜1時間程度で溶解することで得られたペースト状の血管一時塞栓剤である。
【0038】
さらに、本発明は、前記ペースト状血管一時塞栓剤に前記PVA粒子を分散した血管一時塞栓剤(iii)に関する。該塞栓剤(iii)は、ペースト状血管一時塞栓剤中に溶解したPVA(A)と分散状態であるPVA粒子(B)の混合重量比を変えることにより、塞栓時間を制御できる。混合において、溶解したPVA(A)の割合が小さすぎる場合は、血管内塞栓の際、血管径によっては、血管内塞栓時間が長くなりすぎる場合があり、大きすぎる場合は、塞栓時間が極めて短く(たとえば、15分程度)なりやすく、目的とする塞栓治療を施すことができない場合がある。
【0039】
血管一時塞栓剤(i)〜(iii)は、目的とする塞栓時間に合わせて選択し用いることができる。鹸化度により多少変動するものの、各塞栓剤は、それぞれ以下のように制御された塞栓時間を有する。
血管一時塞栓剤(i) :約3ヶ月
血管一時塞栓剤(ii) :約2時間
血管一時塞栓剤(iii)(A)/(B)=9/1(重量比):約5時間
(A)/(B)=5/5(重量比):約24時間
(A)/(B)=3/7(重量比):約1ヶ月
【0040】
本発明の血管一時塞栓剤には、薬効成分を混合してもよい。薬効成分は、造影剤とPVA粒子の混合時や薬効成分を溶解させた溶媒中でパール状PVA粒子に吸蔵して担持させる方法等により血管一時塞栓剤に配合することができる。薬効成分としては、スマンクス、シクロホスファミドなどの抗悪性腫瘍剤、ステロイド系ホルモン剤、肝臓疾患薬、糖尿病薬、抗酸化剤、ペプチド系薬物、悪性腫瘍に対する分子標的治療薬、抗生物質等の化学療法剤などがあげられる。また、細胞増殖因子である塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF−β1)、血管内皮細胞増殖因子(VFGF)などがあげられる。
【0041】
本発明の一時塞栓剤を血液中に塞栓する場合に用いるカテーテルは、特に限定されるものではなく、CORDIS(コーディス)社製のカテーテル、MASS TRANSITやテルモ社製のカテーテル、プログレートなど適宜選択することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の本発明のPVA粒子および該粒子の製造方法、血液一時塞栓剤を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、特に断らない限り、以下「部」は「重量部」をいう。
【0043】
実施例1(PVA粒子1:平均粒径150μm、鹸化度98.2モル%、パール鹸化品 平均重合度150の製造)
平均重合度155のポリ酢酸ビニルエステルの55%メタノール溶液(含水量0.05%)にメタノールを加えて樹脂分50%に希釈した。この溶液100部を攪拌機つき反応缶に仕込み、温度を25℃に保って攪拌しながら、鹸化反応触媒としてNaOHのNa含量換算で2%メタノール溶液をポリ酢酸ビニルの酢酸ビニル単位に対して3mmolの割合で添加した。続いて流動パラフィン100部を加えて、攪拌速度を250回転に調節したところ、ポリ酢酸ビニルエステルは球形状で流動パラフィン中に分散した。温度を25℃に保って反応させ、60分経過後に反応を停止し、遠心分離装置により固液分離を行うことによりPVA粒子を分離した。この粒子を温度50℃の酢酸エチル溶液を用いて抽出法により洗浄し、次いで温度80℃で2時間熱風乾燥した。得られたPVA粒子(1次鹸化粒子)100部を、再度メタノール溶液600部に分散して、鹸化触媒(Na重量換算で2%NaOHメタノール溶液)を20部添加して、温度50℃で、1時間かけて2次鹸化を行ない、再度遠心分離装置によりPVA粒子を分離し、温度50℃の酢酸エチル溶液を用いて抽出法により洗浄し、次いで温度80℃で2時間熱風乾燥して平均重合度が150であるPVA粒子1を得た。
【0044】
(鹸化度)
PVA粒子の鹸化度は、JIS K-6726に準じて測定し98.2モル%と求められた。
【0045】
(平均粒径)
PVA粒子の平均粒径は、レーゼンテックM100を用いて、高鹸化PVAにとって貧溶媒であるイソプロピルアルコール100部中にPVA粒子10部を添加して、撹拌下にて粒径をコード長として測定を行った。PVA粒子の平均粒径は、150μmであった。
【0046】
実施例2(PVA粒子2:平均粒径152μm、鹸化度97.5モル%、パール鹸化 平均重合度200の製造)
平均重合度205のポリ酢酸ビニルエステルの55%メタノール溶液を用いたことと、2次鹸化における反応時間を40分間とした以外は、実施例1と同様にしてPVA粒子を得た。得られたPVA粒子2は、平均粒径152μm、鹸化度97.5モル%、平均重合度200であった。
【0047】
実施例3(PVA粒子3:粒径154μm、鹸化度95モル%、パール鹸化品 平均重合度150の製造)
2次鹸化における反応時間を35分間とした以外は、実施例1と同様にしてPVA粒子を得た。得られたPVA粒子3は、粒径154μm、鹸化度95モル%、平均重合度150であった。
【0048】
実施例4(PVA粒子4:平均粒径156μm、鹸化度99.2モル%、パール鹸化品 平均重合度300の製造)
平均重合度300のポリ酢酸ビニルエステルを用いた以外は、実施例1と同様にしてPVA粒子を得た。得られたPVA粒子4は、粒径156μm、鹸化度99.2モル%、平均重合度300であった。
【0049】
実施例5(PVA粒子5:平均粒径152μm、鹸化度97.0モル%、パール鹸化品 平均重合度300の製造)
平均重合度300のポリ酢酸ビニルエステルを用い、2次鹸化の時間を30分間とした以外は実施例1と同様にしてPVA粒子を得た。得られたPVA粒子5は、粒径152μm、鹸化度97.0モル%、平均重合度300であった。
【0050】
実施例6(血管一時塞栓剤1)
造影剤(オイパロミン300、富士製薬工業(株)製)100部に対して、実施例1で得られたPVA粒子20部を分散させて、5〜15分間放置後して、血管塞栓剤1とした。
【0051】
実施例7(血管一時塞栓剤2)
造影剤(オイパロミン300)100部に対して、実施例2で得られたPVA粒子20部を温度60℃で45分間かけて溶解させて、ペースト状の血管塞栓剤2とした。
【0052】
実施例8(血管一時塞栓剤3)
実施例1で得られたPVA粒子20部を、造影剤(オイパロミン300)100部に60℃で60分間かけて溶解させて、ペースト状塞栓剤とした。その後、該ペースト状塞栓剤90部に、実施例3で得られたPVA粒子20部を造影剤(オイパロミン300)100部に分散させた造影剤分散液を10部混合し、溶解状態であるPVA(A)と分散状態であるPVA粒子(B)の重量比(A)/(B)が9/1になるようにして、血管一時塞栓剤3を得た。
【0053】
実施例9(血管一時塞栓剤4)
実施例8において、ペースト状塞栓剤を50部、PVA粒子3の造影剤分散液を50部に変えて、(A)/(B)の重量比を5/5とした以外は、実施例8と同様の方法で、血管一時塞栓剤4を得た。
【0054】
実施例10(血管一時塞栓剤5)
実施例8において、ペースト状塞栓剤を30部、PVA粒子3の造影剤分散液を70部に変えて、(A)/(B)の重量比を3/7とした以外は、実施例8と同様の方法で、血管一時塞栓剤5を得た。
【0055】
実施例11(血管一時塞栓剤6)
造影剤(オイパロミン300)100部に対して、実施例4で得られたPVA粒子20部を分散させて、15分間放置後、血管一時塞栓剤6として使用した。
【0056】
実施例12(血管一時塞栓剤7)
造影剤(オイパロミン300)100部に対して、実施例5で得られたPVA粒子20部を分散させて、15分間放置後、血管一時塞栓剤7として使用した。
【0057】
得られた血管一時塞栓剤1〜7を以下の評価方法により評価した。
【0058】
(カテーテル通過試験)
1gの血管一時塞栓剤1〜5を、造影剤(オイパロミン300)5mlに分散して球形粒子分散液とした。この球形粒子分散液および血管一時塞栓剤6、7のそれぞれを2.5cc注射シリンジから肝動脈塞栓用2.7Frマイクロカテーテル(プログレートMC−PC2710、テルモ社製)に注入し、吸入抵抗、スタッキング現象の有無の確認を行った。さらに、少量の生理食塩水を注入した後、カテーテルを長手方向に切開し、カテーテル内を目視観察して、残存する球形粒子の有無を観察した。
【0059】
血管一時塞栓剤1〜7(球形粒子分散液)の流量に変化はなく、カテーテルの通過性は良好であった。また、カテーテル内を目視観察したところ、残存する球形粒子は全く観察されなかった。
【0060】
(動物実験での腎動脈塞栓開通時間評価)
実施例6〜11で得られた血管一時塞栓剤1〜6を、マイクロカテーテル(テルモ社製カテーテル、プログレートMC−PC2710)を用いて、麻酔した豚の腎動脈に注入した。塞栓時間がおよそ25時間以内と予想されるケースにおいては逐次、腎臓のX線撮影による血管閉塞状況の観察を行い、X線写真上で閉塞した動脈の再開通が認められ始めた時点で豚の腎臓を摘出し、血管閉塞部位の組織切片を作製して血管塞栓の状況や周囲組織への影響を観察した。1ケ月〜数ケ月単位のものついては、一定期間毎のX線撮影による外観観察を経て、再開通時間の確認を行った。
【0061】
再開通を開始した時間は次のようになった。
血管一時塞栓剤1 約3ヶ月
血管一時塞栓剤2 約2時間
血管一時塞栓剤3 約5時間
血管一時塞栓剤4 約24時間
血管一時塞栓剤5 約1ヶ月
血管一時塞栓剤6 約3週間
【0062】
なお、再開通後の所見では、末梢血管への再分布による塞栓を起こすことなく、塞栓部位の再開通を確認した。
【0063】
塞栓部位の血管では、血管径の縮小化や血管網の退縮が確認され、これを腫瘍栄養血管の塞栓の目的に用いた場合には癌治療での有効性が期待される結果となった。
【0064】
(動物実験での肺動脈塞栓開通時間評価)
全身麻酔下のブタ肺動脈区域枝にバルーン付カテーテルを挿入し、実施例12で得られた血管一時塞栓剤7を透視画像で確認しながら手圧で注入したところ、5mlを注入した時点で該当区域枝の血流が停止した。その後、塞栓から15分で血流の再開が確認され、30分後には血管造影写真上の血流はほぼ回復した。
【0065】
(人新鮮凍結血漿中での溶解特性)
溶解試験測定装置レーゼンテックM100にてPVA粒子または血管一時塞栓剤の造影剤、およびB型人新鮮凍結血漿(FFP)中での平均粒径変化を測定した。測定手順は以下のとおりである。
1.400mlのジャケット付きセパラブルフラスコ(以下フラスコ)のジャケット部へ予め37℃の恒温水を通水しておく。
2.150mlのFFPを予め37℃の恒温水にて解凍しておく。
3.フラスコ内へPVA粒子または血管一時塞栓剤1g/5ml造影剤(イオメロン300、エーザイ(株)製)を10部投入し、引き続きフラスコ内へ300部のFFPを投入し、攪拌翼(パドル)にて150rpmで攪拌しながらレーゼンテックでの測定を開始する。
【0066】
撹拌および測定は、37℃でおこない、粒子がレーゼンテックにてカウントされなくなった時間をもって溶解とした。結果を以下に示す。
PVA粒子1 3時間で溶解
PVA粒子2 5分で溶解
血管一時塞栓剤1 25分で溶解
血管一時塞栓剤2 45分で溶解
血管一時塞栓剤3 1時間で溶解
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、生体内において血管を塞ぎ、血流の一時塞栓に使用する一時血管塞栓材料に関する。詳しくは、特定のPVA粒子により血管内部を塞ぎ、血流の閉塞に使用する塞栓形成材料であって、最終的に生体内に吸収され、体外に排出可能な、生体内に残存しない血管塞栓材料に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鹸化度が90モル%以上で、平均粒径が70μm〜1000μmであるパール状の血管一時塞栓剤用ポリビニルアルコール粒子。
【請求項2】
ポリビニルアルコールの平均重合度が、80〜600である請求項1記載の粒子。
【請求項3】
ポリビニルアルコールの平均重合度が、80〜350である請求項1記載の粒子。
【請求項4】
アルコールまたはアルコールと酢酸メチル(a)を溶媒とするポリビニルエステル溶液(b)を、ポリビニルエステル、該エステルの鹸化物、および成分(a)のいずれとも実質的に相溶せず、かつ成分(b)よりも粘度の高い媒体(c)中に粒状に分散せしめ、鹸化触媒存在下で鹸化する請求項1〜3のいずれかに記載の粒子の製造方法。
【請求項5】
ポリビニルエステル溶液(b)/媒体(c)の重量比が、2/8〜6/4である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
ポリビニルエステル溶液(b)/媒体(c)の重量比が、4/6〜5/5である請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の粒子を、造影剤に分散した血管一時塞栓剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の粒子を、造影剤に溶解した血管一時塞栓剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の粒子を、請求項8記載の血管一時塞栓剤に分散した血管一時塞栓剤。

【公開番号】特開2007−37989(P2007−37989A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177815(P2006−177815)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【Fターム(参考)】