説明

血管内皮障害改善剤

【課題】新たな血管内皮障害改善剤を提供する。
【解決手段】パラチノースを有効成分とする血管内皮障害改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮障害改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮は、血管の内壁を覆う一層の細胞からなる薄い組織である。しかし、血管内皮は、単なるバリアーではなく、種々の生理活性物質を産生、分泌しており、血管の恒常性維持に重要な役割を果たしている。血管内皮細胞の機能には、血管の拡張と収縮、血管平滑筋の増殖と抗増殖、凝固と抗凝固、炎症と抗炎症、酸化と抗酸化等の作用等がある。
【0003】
これらの血管内皮機能は、種々の原因、例えば酸化ストレス等により障害されることが知られており、血管内皮が障害されると動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、脳卒中等の循環器系疾患を引き起こすことが知られている。
従って、血管内皮障害を改善できれば、動脈硬化症をはじめとする種々の循環器系疾患を予防、治療できる可能性がある。
【0004】
一方、パラチノースは、二糖の一種であり、抗う蝕性の甘味料として知られている。パラチノースは、抗う蝕性の他、血糖値上昇抑制作用(非特許文献1、2)を有することが知られ、オレイン酸、トレハロース等との組み合せで血糖値コントロール用栄養組成物として有用であることも知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3545760号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Endocrinol.Japan,32(6),933−936,1985
【非特許文献2】Horm.Metabol.Res.,21,338−340,1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新たな血管内皮障害改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々の化合物を対象として血管内皮機能に対する作用を検討してきたところ、パラチノースが優れた血管内皮障害改善作用、特に血管内皮依存性弛緩反応の低減を顕著に改善する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、パラチノースを有効成分とする血管内皮障害改善剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血管内皮障害改善剤は、血管内皮依存性の弛緩反応の低減を顕著に改善する作用を有し、血管内皮機能が低下したことにより発症する種々の疾患、例えば動脈硬化症等の予防治療薬として有用である。また、パラチノースは、安全性が高いことが知られており、長期間投与可能であり、特に動脈硬化予防治療用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ストレプトゾトシン誘発血管内皮障害モデルラットにおける血管弛緩反応の低減に対するパラチノースの効果を示す図である。横軸はカルバコール(CCh)濃度(対数値)を示し、縦軸はCChによる弛緩反応の割合(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の血管内皮障害改善剤は、パラチノースを有効成分として含有する。パラチノースは、イソマルツロース(6−O−α−D−グルコピラノシル−D−フルクトール)ともいい、ハチミツに微量含まれる天然の二糖であり、天然甘味料として知られている。パラチノースは、スクロースに、プロタミノバクター ルブラム CBS 574.77が生成するα−グルコシルトランスフェラーゼを作用させることにより得られる。
【0013】
パラチノースは、抗う蝕性の甘味料であること、血糖値上昇抑制作用を有していることが知られているが、血管内皮に対してどのような作用をするのかについては全く知られていない。
【0014】
後記実施例に示すように、パラチノースは、ストレプトゾトシン投与ラットにおいて、スクロース投与群に比べて、血管内皮機能の障害症状である血管弛緩反応の低減を顕著に抑制する作用を有する。従って、パラチノースは、ヒトを含む動物における血管内皮障害改善剤として有用である。パラチノースの投与により、血管内皮機能障害が改善されれば、動脈硬化症、高コレステロール血症、高脂血症の予防改善剤として期待できる。
【0015】
本発明の血管内皮障害改善剤は、経口摂取、あるいは、経管で鼻−胃、空腸を経て投与することができ、医薬品、医薬部外品、疾病者用食品、機能性食品、特定保健用食品として用いることができる。
【0016】
本発明の血管内皮障害改善剤は、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、液剤等による形態を挙げることができる。これらは、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、増粘剤、ゲル化剤、乳化剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0017】
本発明の血管内皮障害改善剤中のパラチノース含有量は、味、風味、物性の点から、5〜80質量%、さらに10〜70質量%が好ましい。また、本発明は血管内皮障害残改善剤における全糖質中のパラチノース含有量は、20〜100質量%、特に30〜90質量%とするのが好ましい。
【0018】
本発明の血管内皮障害改善剤をヒトに適用する場合、その投与量は、予防及び/又は治療される患者の年齢及び条件、あるいは投与経路によって異なるが、一般に、パラチノースとして成人1日当たり1〜200g、好ましくは2〜180g、より好ましくは5〜160gとすることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
ストレプトゾトシン(STZ)投与モデルラットにおけるパラチノースの血管内皮障害に対する影響
雄性Wistar系ラットを入荷後1週間馴化した。採血を行って血漿を得、測定した血糖値で4つの群に群分けを行った。対照となる正常ラット群(以下C群とする)の動物にはクエン酸バッファーを腹腔内投与し、残りの3群の動物にはSTZ溶液(35mg/kg体重)を腹腔内投与した。STZ投与3日後に採血を行い、血糖値で再度STZ投与群の群分けを行った。STZ投与3日後から、各群のラットには、糖質中のパラチノース量を60質量%の比率で配合した試験食(以下STZ P60群とする)、糖質中のパラチノース量を40質量%の比率で配合した試験食(以下STZ P40群とする)又は、パラチノースの代わりにスクロース配合試験食(以下STZ S群とする)を自由摂取させた。なお、C群は、STZ S群と同様の試験食を自由摂取させた。各群に摂取させた試験食は、AIN−93M精製飼料を基本として改変したものであり、本試験で使用した試験食の栄養組成を表1に示す。試験食を12週間自由摂取させた後に血管内皮弛緩反応の測定を行った。
【0021】
【表1】

【0022】
試験食開始12週間後に、動物を全採血後、速やかに胸部大動脈を摘出した。クレブスヘンセレイト溶液中で結合組織を取り除き、内皮細胞にダメージを与えないように留意しながら幅約3〜5mmのリング標本を作製した。標本の内腔にクリップを差し込み、トランスデューサーにつないで10mLオーガンバスに入れ、2.0gの荷重をかけてアイソメトリック張力を測定した。具体的には、10-7Mフェニレフリンで収縮させた後に、カルバコール(以下CChとする)を濃度累積的(10-9〜10-5M)に添加し、段階的弛緩反応を測定した。測定結果はフェニレフリンでの収縮を100%とし、これに対するCChによる弛緩反応の割合を弛緩率(%)として表した。各群間の統計学的検定は、tukey−kramer法で行った。
【0023】
内皮依存性血管弛緩反応を誘導するCChの濃度が3×10-8〜3×10-6Mの時に、STZ S群の弛緩率(%)は、C群に比較して有意に低かった。CCh濃度3×10-8MでSTZ P群の弛緩率(%)は、C群に比べて有意に低かった。CCh濃度1×10-7〜3×10-6Mでは、STZ P60群およびSTZ P40群の弛緩率(%)はC群に対して有意な差は認められなかったが、STZ S群に対してCCh濃度3×10-7Mで有意な高値を示し、CCh濃度1×10-6Mで高値傾向を示した(図1)。
【0024】
弛緩反応の程度を数値化するために、フェニレフリン(10-7M)を作用させた血管の収縮を100%とした場合、CChの弛緩反応が50%を示す濃度であるIC50値(50%阻害濃度)を算出した。その結果、STZ S群(5.3×10-7±5.1×10-8M)はC群(4.9×10-8±5.1×10-8M)に比べて有意な高値を示し、血管弛緩反応の減弱が認められた。一方、STZ P60群(1.4×10-7±9.6×10-8M)とC群、あるいは、STZ P40群(1.6×10-7±1.8×10-8M)とC群の間では有意差が認められなかったことから、パラチノース摂取により、血管弛緩反応の減弱が抑制されていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラチノースを有効成分とする血管内皮障害改善剤。
【請求項2】
血管内皮依存性弛緩反応の低減を改善するものである請求項1記載の血管内皮障害改善剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36173(P2012−36173A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153496(P2011−153496)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】