説明

血管内薬剤溶出カテーテル

【課題】末梢側への血流を遮断することなく血管壁に直接に薬剤を浸透させることができる手段を提供する。
【解決手段】血管内薬剤溶出カテーテル10は、複数の線材33が周方向に離間されつつ配置されており、各線材33が離間されて長尺方向101の中央部分34の外径が拡がった籠形状の拡張姿勢を維持し、各線材33が近接して中央部分34の外径が縮んだ収縮姿勢に弾性的に変形する弾性変形部11と、弾性変形部11が先端側に設けられたシャフト12と、収縮姿勢の弾性変形部11及びシャフト12が挿通可能なルーメン20を有するカテーテル本体13と、弾性変形部11の中央部分34においてのみ拡張姿勢における各線材33に対して周方向へ張り渡されており、弾性変形部11の姿勢変化に追従する可撓性を有する薬剤保持膜15と、薬剤保持膜15に保持された薬剤と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内において薬剤を溶出することができるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、血管にカテーテルを挿入して薬剤を局所的に投与する治療が行われている。例えば、冠動脈形成術(PTCA)において冠動脈の狭窄部分をバルーンカテーテルで拡張し、その後に冠動脈の再狭窄を防止するために薬剤が血管壁に浸透される。薬剤を血管壁に浸透させる器具として、バルーンに薬剤を含浸させたバルーンカテーテルが知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−509991号公報
【特許文献2】特表2005−510315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述されたようなバルーンカテーテルを用いた施術においては、薬剤を浸透させるべき血管壁までバルーンカテーテルを挿入してバルーンを拡張し、拡張されたバルーンを血管壁に数分間圧迫させることによって、バルーンに含浸されている薬剤を溶出させて血管壁へ浸透させる。しかしながら、拡張されたバルーンによって、バルーンより末梢側への血流を遮断することは、心筋壊死などの組織障害を誘発するおそれがあるので好ましくない。一方、バルーンを拡張した状態に維持する時間を短くすると、血管壁に十分な量の薬剤を浸透させることができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、末梢側への血流を遮断することなく血管壁に直接に薬剤を浸透させることができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明に係る血管内薬剤溶出カテーテルは、複数の線材が周方向に離間されつつ配置されており、各線材が離間されて長尺方向の中央部分の外径が拡がった籠形状の拡張姿勢を維持し、各線材が近接して当該中央部分の外径が縮んだ収縮姿勢に弾性的に変形する弾性変形部と、上記弾性変形部が先端側に設けられたシャフトと、上記収縮姿勢の上記弾性変形部及び上記シャフトが挿通可能な第1ルーメンを有するカテーテル本体と、上記弾性変形部の中央部分においてのみ上記拡張姿勢における各線材に対して周方向へ張り渡されており、上記弾性変形部の姿勢変化に追従する可撓性を有し、薬剤の保持及び溶出が可能な薬剤保持膜と、上記薬剤保持膜に保持された薬剤と、を具備する。
【0007】
血管内薬剤溶出カテーテルは、例えば狭窄部が治療された後の血管に挿入される。血管内薬剤溶出カテーテルが血管へ挿入されるときには、弾性変形部は収縮姿勢とされてカテーテル本体の第1ルーメンに収容されている。薬剤保持膜も弾性変形部の収縮に追従して収縮されて第1ルーメンに収容されている。第1ルーメンに弾性変形部が収容されたカテーテル本体が、弾性変形部側を先端としてガイドワイヤに沿って血管に挿入される。
【0008】
カテーテル本体の先端側が治療後の狭窄部の近傍へ到達すると、カテーテル本体に対してシャフトが挿入されて、カテーテル本体の第1ルーメンから弾性変形部が押し出される。押し出された弾性変形部は、収縮姿勢から拡張姿勢へ弾性的に復帰して拡張姿勢を維持する。弾性変形部の姿勢変化に伴って、つまり弾性変形部が籠形状となることに伴って、薬剤保持膜が各線材に対して周方向へ張り渡された状態となる。この薬剤保持膜が治療後の狭窄部において血管壁と圧接する。薬剤保持膜と血管壁との圧接が所定の時間だけ保持されることによって、薬剤保持膜に保持された薬剤が溶出して血管壁に浸透される。
【0009】
この薬剤保持膜は、弾性変形部の中央部分においてのみ各線材に対して周方向へ張り渡されている。中央部分とは、弾性変形部において、血管内薬剤溶出カテーテルの長尺方向の中央となる部分である。換言すれば、弾性変形部の先端部分及び基端部分においては、薬剤保持膜は各線材に対して周方向へ張り渡されていない。したがって、先端部分及び基端部分においては、各線材の間を血液が流通可能である。また、籠形状の弾性変形部においては、その内部空間を血液が流通可能である。したがって、弾性変形部が拡張姿勢を維持した状態において、先端部分から基端部分に渡って血液が流通可能である。
【0010】
(2) 上記薬剤保持膜は、上記弾性変形部の少なくとも中央部分から先端部分に渡って上記線材と接着されており、当該先端部分において上記各線材の間が切り欠かれたものであってもよい。
【0011】
カテーテル本体の第1ルーメンに収容された弾性変形部が外側へ押し出されるときに、第1ルーメンにおいて、カテーテル本体の内壁に対して薬剤保持膜が摺動することが想定される。薬剤保持膜が弾性変形部の中央部分から先端部分に渡って線材と接着されていることにより、そのような摺動によって弾性変形部の線材に対して薬剤保持膜の位置ズレが生じにくい。また、弾性変形部の先端部分において、各線材の間が切り欠かれているので、先端部分において血液の流通が薬剤保持膜により妨げらることがない。
【0012】
(3) 上記弾性変形部として、上記各線材が長尺方向に対して螺旋をなして延出されており、各線材の両端が結束されて中央部分が最大径とされたものが挙げられる。
【0013】
(4) 上記シャフトは、ガイドワイヤを挿通可能な管体であり、上記弾性変形部は、各線材に対して径方向の内側をガイドワイヤが挿通可能なものが挙げられる。
【0014】
(5) 上記カテーテル本体は、ガイドワイヤを挿通可能な第2ルーメンを有するものであり、上記弾性変形部は、各線材に対して径方向の内側をシャフトが挿通可能なものが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る血管内薬剤溶出カテーテルによれば、血管内薬剤溶出カテーテルが血管へ挿入されるときには、弾性変形部は収縮姿勢とされてカテーテル本体の第1ルーメンに収容され、カテーテル本体の先端側が損傷された血管壁の近傍へ到達すると、カテーテル本体に対してシャフトが挿入されて、カテーテル本体の第1ルーメンから弾性変形部が押し出されて収縮姿勢から拡張姿勢へ弾性的に復帰して薬剤保持膜が血管壁に圧接して、薬剤保持膜から溶出された医薬を血管壁に浸透させることができる。
【0016】
薬剤保持膜は、弾性変形部の中央部分においてのみ各線材に対して周方向へ張り渡されているので、弾性変形部が拡張姿勢を維持した状態において、先端部分から基端部分に渡って血液が流通可能である。これにより、末梢側への血流を遮断することなく、薬剤保持膜を血管壁に圧接させた状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、弾性変形部11が拡張姿勢である状態の血管内薬剤溶出カテーテル10の外観構成を示す図である。
【図2】図2は、図1の領域IIにおける血管内薬剤溶出カテーテル10の拡大図である。
【図3】図3は、図2のIII-III切断線における弾性変形部11の断面図である。
【図4】図4は、弾性変形部11が収縮姿勢である状態の血管内薬剤溶出カテーテル10の断面図である。
【図5】図5は、弾性変形部11を収縮姿勢として血管90に血管内薬剤溶出カテーテル10を挿入する状態を示す模式図である。
【図6】図6は、弾性変形部11を拡張姿勢として狭窄部92へ薬剤を浸透させている状態を示す模式図である。
【図7】図7は、血管内薬剤溶出カテーテル10の変形例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態に係る血管内薬剤溶出カテーテル10は、先端側に弾性変形部11が設けられたシャフト12と、シャフト12が挿通されるカテーテル本体13と、を有する。
【0020】
カテーテル本体13は、ルーメン20(第1ルーメン)を有するチューブ21を主な構造とする。チューブ21は、ポリアミドやポリエーテルアミドなどの弾性変形可能な軟質プラスチックの成形体である。チューブ21は、長手方向101に渡ってほぼ均等な外径である。また、ルーメン20も、長手方向101に渡ってほぼ均等な内径である。ルーメン20の内径は、弾性変形部11及びシャフト12が挿入可能な径に設定されている。チューブ21の長手方向101の長さは、ヒトの四肢などのカテーテル挿入部から患部までの長さを考慮して適宜設定されている。
【0021】
チューブ21の基端にはハンドル部22が設けられている。ハンドル部22は、ルーメン20と連続する内部空間を有する筒状の部材である。ハンドル部22は、ポリプロピレンやABSなどの樹脂の成形体である。ハンドル部22は、チューブ21の挿抜などの操作において持ち手となり得る。図1には現されていないが、ハンドル部22には、軸方向101周りへの回転操作を容易にするために羽根が適宜設けられていてもよい。なお、本実施形態において基端側とは、血管内薬剤溶出カテーテル10が体内に挿入される向きに対して後ろ側をいう。先端側とは、血管内薬剤溶出カテーテル10が体内に挿入される向きに対して前側をいう。
【0022】
シャフト12は、医療用ステンレス製の細長な管である。シャフト12は、フッ素樹脂などでコーティングされていてもよい。シャフト12の内部空間は、ガイドワイヤ14が挿入可能である。シャフト12は、動脈血管などの湾曲形状に沿って弾性変形可能であって、長手方向101に対して挫屈しない程度の剛性を有する。
【0023】
シャフト12の基端にはハンドル部25が連結されている。ハンドル部25は、シャフト12の内部空間と連続する内部空間を有する筒状の部材である。ハンドル部25は、ポリプロピレンやABSなどの樹脂の成形体である。ハンドル部25は、シャフト12をカテーテル本体13に対して挿抜したり回転させたりする際や、シャフト12に対してガイドワイヤ14を挿抜する際の持ち手となり得る。
【0024】
弾性変形部11は、シャフト12の先端に設けられている。弾性変形部11は、固定リング31、スライドリング32及び複数本の線材33を有する。固定リング31は、ガイドワイヤ14が挿通され得る円筒形状の部材である。固定リング31は、シャフト12の先端に固定されており、その内部空間がシャフト12の内部空間と連続している。
【0025】
スライドリング32は、固定リング31に対して長尺方向101の先端側へ離間されて配置されている。スライドリング32は、ガイドワイヤ14が挿通され得る円筒形状の部材である。スライドリング32の内部空間は、固定リング31の内部空間と同じ軸線上となるように配置されている。したがって、固定リング31の内部空間に挿通されて長尺方向101の先端側へ長尺方向101に沿って延出されたガイドワイヤ14が、スライドリング32の内部空間に挿通され得る。
【0026】
各線材33は、固定リング31とスライドリング32との間に張り渡されている。各線材33によって、固定リング31とスライドリング32とが連結されている。各線材33は、長尺方向101に沿って延出されたガイドワイヤ14を中心とする周方向102に相互に離間されて配置されている。各線材33の離間距離は、隣り合う線材33の間の空間を血液が円滑に流通可能な寸法に設定されており、具体的には、数ミリメートル程度である。
【0027】
各線材33は、固定リング31とスライドリング32との間において、長尺方向101に対して螺旋をなして延出されており、固定リング31及びスライドリング32において結束されている。これにより、各線材33により画定される弾性変形部11は、中央部分34の外径が最大となる籠形状の外径を呈している。ガイドワイヤ14は、この籠形状の内部空間、つまり各線材33の径方向103の内側を挿通されている。
【0028】
各線材33の素材としては、形状記憶合金が好ましく、具体的には、Ni−Ti系合金、Cu−Zn−Al系合金、Cu−Al−Ni系合金等が挙げられる。各線材33により記憶された形状により、弾性変形部11は、図2に示されるように、各線材33が離間されて中央部分34の外径が拡がった籠形状の拡張姿勢に維持される。そして、各線材33に対して径方向内側へ、つまりガイドワイヤ14が挿通されている中心側への外力が作用すると、図4に示されるように、各線材33が近接して中央部分34の外径が縮んだ収縮姿勢に弾性的に変形する。
【0029】
図2,3に示されるように、薬剤保持膜15は、弾性変形部11の中央部分34にのみにおいて各線材33に対して周方向102へ張り渡されている。換言すれば、薬剤保持膜15は、弾性変形部11の先端部分35及び基端部分36においては、各線材33の間には張り渡されていない。
【0030】
薬剤保持膜15の素材としては、生体適合性を有し、所望の薬剤を保持することができ、かつ血管内において保持した薬剤を溶出することが可能な材料が好ましく、具体的には、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。薬剤保持膜15は、弾性変形部11が拡張姿勢であるときに、中央部分34において各線材33の間に適度な張力を有して張られた状態となる。また、薬剤保持膜15は可撓性を有し、弾性変形部11が収縮姿勢であるときには、各線材33の間において撓んで、弾性変形部11の姿勢変化に追従する。
【0031】
薬剤保持膜15は、弾性変形部11が薬剤保持膜15の素材となる溶液中に浸漬されて乾燥されることによって、各線材33の間に張り渡される。このとき、弾性変形部11の先端部分35及び中央部分34のみが溶液中に浸漬されることによって、基端部分36以外の部分、つまり先端部分35及び中央部分34において、各線材33に接着された状態で各線材33の間に薬剤保持膜15が張り渡される。その後、弾性変形部11の先端部分35において、各線材33の間に張り渡された薬剤保持膜15がレーザにより切り欠かれている。その結果、図3に示されるように、先端部分35及び基端部分36においては、各線材33の間には薬剤保持膜15が存在せず、中央部分34においてのみ各線材33の間に薬剤保持膜15が張り渡された状態となる。
【0032】
薬剤保持膜15には薬剤がコーティングされている。この薬剤は特に限定されるものではないが、冠動脈の狭窄部を拡張させた後に再狭窄を防止するための薬剤としては、パクリタキセル及びその類似体、ラパマイシン及びその類似体、β−ラパコン及びその類似体、生物学的ビタミンD及びその類似体などが挙げられる。
【0033】
薬剤保持膜15にコーティングされた層には、前述されたような薬剤の他、血管での薬剤の放出を増強させるなどの目的のための添加剤などが含まれていてもよい。また、薬剤の層に、さらに、血管を通過しているときに薬剤の損失を防ぐための保護層が積層されてもよい。なお、薬剤は、薬剤保持膜15へのコーティングのみでなく、薬剤保持膜15への含浸によって薬剤保持膜15に保持されていてもよい。
【0034】
[血管内薬剤溶出カテーテル10の使用方法]
以下に、血管内薬剤溶出カテーテル10の使用方法が説明される。
【0035】
血管内薬剤溶出カテーテル10は、治療すべき血管壁91を有する血管90に挿入される。血管壁91は、例えば、冠動脈形成術(PTCA)において拡張された狭窄部92であって、再狭窄を防止するために薬剤を浸透させる狭窄部92である。
【0036】
血管内薬剤溶出カテーテル10が血管90に挿入されるに先立って、血管90にガイドワイヤ14が挿通されて血管壁91へ到達されている。このようなガイドワイヤ14の挿通は、例えば、特開2006−326226号公報や特開2006−230442号公報に開示された公知の手法によりなされるので、ここでは詳細な説明が省略される。
【0037】
血管内薬剤溶出カテーテル10が血管90へ挿入されるときには、図5に示されるように、弾性変形部11は収縮姿勢とされてカテーテル本体13のルーメン20に収容されている。薬剤保持膜15も弾性変形部11の収縮に追従して収縮されてルーメン20に収容されている。この状態の血管内薬剤溶出カテーテル10の先端側、つまり、カテーテル本体13の先端側から、弾性変形部11のスライドリング32にガイドワイヤ14の基端が挿入される。ガイドワイヤ14は、更に弾性変形部11の内部空間から固定リング31に挿通され、シャフト12の内部空間へ挿通される。そして、血管内薬剤溶出カテーテル10が、ガイドワイヤ14に沿って血管90に挿入される。
【0038】
図5に示されるように、カテーテル本体13の先端側が血管壁91の狭窄部92の近傍へ到達すると、ハンドル部22,25が操作されて、カテーテル本体13に対してシャフト12が挿入される。つまり、シャフト12がカテーテル本体13に対して相対的に先端側へ押し出される。これにより、カテーテル本体13のルーメン20から弾性変形部11が押し出される。図6に示されるように、押し出された弾性変形部11は、収縮姿勢から拡張姿勢へ弾性的に復帰して拡張姿勢を維持する。弾性変形部11の姿勢変化に伴って、つまり弾性変形部11が籠形状となることに伴って、薬剤保持膜15が各線材33に対して周方向へ張り渡された状態となる。この薬剤保持膜15が血管壁91の狭窄部92に圧接する。薬剤保持膜15の狭窄部92への圧接が所定の時間だけ保持されることによって、薬剤保持膜15から狭窄部92へ薬剤が浸透される。
【0039】
薬剤保持膜15は、弾性変形部11の中央部分34においてのみ各線材33に対して周方向へ張り渡されており、先端部分35及び基端部分36においては、各線材33の間に薬剤保持膜15が存在しない。したがって、拡張姿勢の弾性変形部11が血管90に放置されている間において、血管90を流れる血液は、弾性変形部11を先端部分35から基端部分36へ、或いは基端部分36から先端部分35へ流通可能である。勿論、籠形状の弾性変形部11の内部空間に対しても血液は流通可能である。したがって、拡張姿勢の弾性変形部11によって薬剤保持膜15が狭窄部92に圧接されている間において、血管90が閉塞されて血流が遮断されることがない。
【0040】
狭窄部92へ薬剤を浸透させるための所定の時間が経過すると、ハンドル部22,25が操作されて、カテーテル本体13に対してシャフト12が引き出される。つまり、シャフト12がカテーテル本体13に対して相対的に基端側へ引き戻される。これにより、拡張姿勢の弾性変形部11がカテーテル本体13のルーメン20に引き込まれる。弾性変形部11において固定リング31から基端部分36、中央部分34へは、各線材33が径方向103外側へ連続的に拡がるように延出されているので、カテーテル本体13の先端をガイドとして、各線材33が径方向103の内側へ弾性変形される。これにより、弾性変形部11は、次第に拡張姿勢から収縮姿勢へ姿勢変化されながら、カテーテル本体13のルーメン20に収容される。薬剤保持膜15は、弾性変形部11の姿勢変化に追従して、中央部分34において各線材33の間に張り渡された状態から、各線材33の間において撓んだ状態となる。そして、弾性変形部11が完全にカテーテル本体13のルーメン20に収容されると、血管内薬剤溶出カテーテル10が血管90から引き抜かれる。
【0041】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態に係る血管内薬剤溶出カテーテル10によれば、血管内薬剤溶出カテーテル10が血管90へ挿入されるときには、弾性変形部11は収縮姿勢とされてカテーテル本体13のルーメン20に収容され、カテーテル本体13の先端側が血管壁91の狭窄部92の近傍へ到達すると、カテーテル本体13に対してシャフト12が挿入されて、カテーテル本体13のルーメン20から弾性変形部11が押し出されて収縮姿勢から拡張姿勢へ弾性的に復帰して薬剤保持膜15が狭窄部92と圧接するので、薬剤保持膜15に保持された薬剤を狭窄部92へ浸透させることができる。
【0042】
また、薬剤保持膜15は、弾性変形部11の中央部分34においてのみ各線材33に対して周方向102へ張り渡されているので、弾性変形部11が拡張姿勢を維持した状態において、先端部分35から基端部分36に渡って血液が流通可能である。これにより、末梢側への血流を遮断することなく血管90において弾性変形部11を拡張させた姿勢を所望の時間だけ保持することができる。
【0043】
また、薬剤保持膜15が弾性変形部11の中央部分34から先端部分35に渡って各線材33の間に張り渡されてから、先端部分35において各線材33間の薬剤保持膜15が切り欠かれているので、カテーテル本体13のルーメン20に収容された弾性変形部11が外側へ押し出されるときに、ルーメン20において、カテーテル本体13の内壁に対して薬剤保持膜15が摺動しても、弾性変形部11の各線材33に対して薬剤保持膜15の位置ズレが生じにくい。また、弾性変形部11の先端部分35において、各線材33の間が切り欠かれているので、先端部分35において血液の流通が薬剤保持膜15により妨げらることがない。
【0044】
[変形例]
以下に、前述された実施形態の変形例が説明される。前述された実施形態では、カテーテル本体13がオーバー・ザ・ワイヤー・タイプであるのに対して、この変形例では、モノレール・タイプであり、ガイドワイヤ14が、シャフト41内を挿通されておらず、いわゆるダブルルーメン・タイプのカテーテル本体42にガイドワイヤ14が挿通されている点において、前述された実施形態と異なる。なお、弾性変形部11は前述された実施形態と同じ構造であり、前述された実施形態において同じ参照符号で示されている。
【0045】
図7に示されるように、カテーテル本体42は、2つのルーメン43,44を有する。ルーメン43(第1ルーメン)は、チューブ45の内部空間により形成されている。ルーメン44(第2ルーメン)は、チューブ46の内部空間により形成されている。2つのチューブ45,46は、それぞれルーメン43,44が並列するように並んだ状態で連結されている。ルーメン43には、シャフト41が挿通される。ルーメン44には、ガイドワイヤ14が挿通される。
【0046】
チューブ45,46の長尺方向101の長さは、血管90において挿入位置から患部までの距離に対して十分に短い。したがって、チューブ46において、ガイドワイヤ14の一部のみがルーメン44に挿通される。
【0047】
チューブ45の基端には、カテーテルシャフト47が連結されて長尺方向101へ延出されている。カテーテルシャフト47は、医療用ステンレス製の線材であり、血管90の湾曲形状に沿って弾性的に曲がる弾性を有し、かつ長手方向101に対して座屈しない程度の剛性を有する。図7には現れていないが、カテーテルシャフト47の基端側には、ハンドル部22と同様のハンドル部が設けられている。
【0048】
シャフト41は、医療用ステンレス製の線材である。シャフト41は、血管90の湾曲形状に沿って弾性変形可能であって、長手方向101に対して挫屈しない程度の剛性を有する。シャフト41の先端側に弾性変形部11が設けられている。シャフト41の先端側は、弾性変形部11の固定リング31及びスライドリング32に挿通されている。固定リング31は、シャフト41に固定されている。スライドリング32は、シャフト41に対してスライド可能である。
【0049】
チューブ45のルーメン43には、収縮姿勢の弾性変形部11が収容され得る。そして、シャフト41がカテーテル本体42に対して相対的に先端側へ押し出されと、カテーテル本体42のルーメン43から弾性変形部11が押し出されて、図7に示されるように、押し出された弾性変形部11が、収縮姿勢から拡張姿勢へ弾性的に復帰して拡張姿勢を維持する。また、シャフト41がカテーテル本体42に対して相対的に基端側へ引き戻されると、拡張姿勢の弾性変形部11が収縮姿勢に姿勢変化しながらカテーテル本体42のルーメン43に引き込まれる。このような変形例によっても、前述された実施形態と同様の作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0050】
10・・・血管内薬剤溶出カテーテル
11・・・弾性変形部
12,41・・・シャフト
13,42・・・カテーテル本体
14・・・ガイドワイヤ
15・・・薬剤保持膜
20,43・・・ルーメン(第1ルーメン)
33・・・線材
34・・・中央部分
35・・・先端部分
44・・・ルーメン(第2ルーメン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の線材が周方向に離間されつつ配置されており、各線材が離間されて長尺方向の中央部分の外径が拡がった籠形状の拡張姿勢を維持し、各線材が近接して当該中央部分の外径が縮んだ収縮姿勢に弾性的に変形する弾性変形部と、
上記弾性変形部が先端側に設けられたシャフトと、
上記収縮姿勢の上記弾性変形部及び上記シャフトが挿通可能な第1ルーメンを有するカテーテル本体と、
上記弾性変形部の中央部分においてのみ上記拡張姿勢における各線材に対して周方向へ張り渡されており、上記弾性変形部の姿勢変化に追従する可撓性を有し、薬剤の保持及び溶出が可能な薬剤保持膜と、
上記薬剤保持膜に保持された薬剤と、を具備する血管内薬剤溶出カテーテル。
【請求項2】
上記薬剤保持膜は、上記弾性変形部の少なくとも中央部分から先端部分に渡って上記線材と接着されており、当該先端部分において上記各線材の間が切り欠かれたものである請求項1に記載の血管内薬剤溶出カテーテル。
【請求項3】
上記弾性変形部は、上記各線材が長尺方向に対して螺旋をなして延出されており、各線材の両端が結束されて中央部分が最大径とされたものである請求項1又は2に記載の血管内薬剤溶出カテーテル。
【請求項4】
上記シャフトは、ガイドワイヤを挿通可能な管体であり、
上記弾性変形部は、各線材に対して径方向の内側をガイドワイヤが挿通可能なものである請求項1から3のいずれかに記載の血管内薬剤溶出カテーテル。
【請求項5】
上記カテーテル本体は、ガイドワイヤを挿通可能な第2ルーメンを有するものであり、
上記弾性変形部は、各線材に対して径方向の内側をシャフトが挿通可能なものである請求項1から3のいずれかに記載の血管内薬剤溶出カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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