血管形成を促進するためのシカ枝角抽出物
実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するか、および/または血管形成を促進する成分を含有する、シカ袋角の分離抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シカ(deer)の枝角(antler)抽出物に関する。特に本発明は、シカ枝角の袋角(antler velvet)から得られる血管形成性抽出物と、ヒトおよび動物の医療において創傷、損傷、および疾患の治療に使用される該抽出物を含有する組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷、特に治癒が困難な持続性の創傷は、創傷に栄養を供給し、治癒過程を仲介し、瘢痕形成を最小にする血管が必要である。一般に、持続性創傷を治療するために最も一般的に使用されている治療法は、自身の血液供給を助けることはなく、従ってその治癒過程は遅い。
【0003】
慢性の創傷の治療のための種々の治療法があるが、いまだに圧迫包帯の使用が一般的な治療法のようである(Marshallら、2001)。他の治療法が利用でき、酸素分圧の調節を含む機構で作用し、従って高圧酸素療法を支持するいくつかの自然の治療法が提唱されている(Senら、2992)。
【0004】
血管形成(組織の血管形成の過程)を増強することによる創傷の治癒は、いくつかの提唱された治療法で明らかである。最近の研究ではアデノシンが、アデノシンA(2A)受容体アゴニストとして作用して創傷が治癒される速度が上昇しているようである(Montesinosら、2002)。これは、治療された創傷中の微小血管の数を増加させた。血管形成の上昇は、この論文で示される治癒の改善の基礎となっていると考えられる機構である。
【0005】
公知の古典的血管形成増殖因子である血管内皮増殖因子(VEGF)は、局所的な持続的送達を確実にするために遺伝子治療により送達すると、血管形成と創傷治癒の増強を引き起こすことが証明されている(Deodatoら、2002)。Malindaら(1998)は、サイモシンα1が、内皮細胞遊走、血管形成、および創傷治癒を刺激することを見いだし、これが創傷治癒物質候補であることを確認している。
【0006】
シカ枝角は、毎年脱落し再生される。枝角は、成長期には1日で最大2cm成長し、その間これは「袋角」と呼ばれる。その成長は、枝角の先端にある間充組織中の幹細胞集団により支配される(Liら、2002)。袋角は高度に血管形成しており、枝角内の血管は、枝角成長を支えるために枝角と同じ速度で成長するはずである。我々は、このシステムを、創傷治癒過程を支持する血管形成因子源の候補であることを確認した。
【0007】
治癒しているかまたは再生している肉茎(pedicle)(かれらはこれを再生芽(blastema)と呼んだ)が、血管形成能力を有することを示唆する1つの論文がある(Auerbachら、1976)。この論文では、いくつかの組織が血管形成能力を有することを証明する目的で、著者が枝角の再生芽を含む種々の組織をスクリーニングした。しかし重要なことは、この論文は、実際の血管形成活性または創傷治癒活性を示すデータを含まないことである。再生芽は、枝角が脱落すると出現する治癒組織を意味し、本発明者らが研究し本明細書で概説したより成熟した成長する枝角とは異なる。
【0008】
血管形成作用に関連して研究されている成長しているシカ袋角についての公表された報告は無い。本発明者らは、成長している袋角の総タンパク質抽出物が血管形成因子を含有することを見いだした。
【0009】
本明細書に概説した研究は、これらの血管形成因子を含有するシカ袋角の抽出物が、枝角全体から抽出され、成長する枝角先端にのみ集中しているのではないことを証明する。
本発明者らは、血管形成作用を有し創傷治癒に使用できるシカ袋角から抽出された単離されたペプチドの組成物を調製した。
【0010】
本発明者らは、袋角を分画して血管形成能力を評価した。分画法の一部として彼らは、袋角の高分子量画分と低分子量画分を研究し、驚くべきことに低分子量画分が良好な活性を有することを見いだした。小分子はより安定であり創傷中で急速に分解しにくいため、これは有望な結果である。
【0011】
その分子量を基準にすると、ほとんどの古典的な血管形成増殖因子は、高分子量画分に存在すると考えられ、この1つの例外は、サイモシンファミリーのペプチドであろう。
【0012】
本明細書で引用されるすべての文献(特許または特許出願を含む)は、参照することにより本明細書に組み込まれる。これらの文献への参照は、決して先行技術であることを認めるものではない。文献の考察はその著者らが主張するものを記載し、本出願人らは、その引用文献の正確性と適切性に意義を申し立てる権利を留保する。多くの先行技術の文献が本明細書で参照されるが、この参照は、これらの文献がニュージーランドまたはその他の国において、当該分野の一般的知見の一部であることを認めるものではないことは、容易に理解されるであろう。
【0013】
用語「含む」は、種々の状況において排除的または包含的である。本明細書の目的において、特に明記しない場合は、用語「含む」は包含的意味を有し、すなわちこれを直接言及する成分のみでなく、他の記載されていない成分または要素も意味すると考えられる。これは、「含んだ」または「含んでなる」という用語が、方法またはプロセスの1つ以上の工程に関連して使用される時も使用されるであろう。
【0014】
本発明の目的は、前記問題に取り組むか、または少なくとも有用な選択肢を公に提供することである。
本発明のさらなる態様と利点は、例示目的にのみ与えられる以下の説明から明らかであろう。
【発明の開示】
【0015】
本発明のある態様において、実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する成分を含有する、シカ袋角の分離抽出物が提供される。
【0016】
本発明の別の態様において、実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、シカ袋角から得られたペプチドの分離抽出物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様において、成分を以下の方法(実質的に100℃で実質的に最大3分加熱;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露による滅菌;または凍結融解)の少なくとも1つに付した後でさえも、成分は内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記した分離抽出物が提供される。
【0018】
本発明の別の態様において、ペプチドを以下の方法(実質的に100℃で実質的に最大3分加熱;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露による滅菌;または凍結融解)の少なくとも1つに付した後でさえも、ペプチドは内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記した分離抽出物が提供される。
【0019】
本発明の別の態様において、創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出した成分の使用が提供される。
本発明の別の態様において、創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出したペプチドの使用が提供される。
本発明の別の態様において、持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出した成分の使用が提供される。
本発明の別の態様において、持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出したペプチドの使用が提供される。
【0020】
本発明の別の態様において、成分は内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記の抽出物からの少なくとも1つの成分を含有する分離抽出物が提供される。
本発明の別の態様において、ペプチドは内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記の抽出物からの少なくとも1つのペプチドを含有する分離抽出物が提供される。
【0021】
本発明の別の態様において、創傷の治療のための実質的に上記の成分の治療的有効量を含む組成物が提供される。
本発明の別の態様において、必要な動物に実質的に上記の組成物を投与することを含む、創傷の治療法が提供される。
本発明の別の態様において、創傷の治療のための実質的に上記のペプチドの治療的有効量を含む組成物が提供される。
【0022】
組成物は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の異なる製剤の形を取ることが企図される。例えば組成物は、当業者に公知のように、ゲル剤、ローション剤、バルム(a balm)、スプレー剤、経皮的包帯などとして調製される。
【0023】
本明細書において用語「ペプチド」は、アミノ酸のポリマーを含むペプチド、タンパク質、およびポリペプチドを含むシカ袋角中に存在する任意のペプチドまたはペプチドの組合せを意味し、特に限定されないが炭水化物および/または脂質成分を含むように修飾されたペプチド、タンパク質、およびポリペプチドを含む。
【0024】
本明細書において用語「成分」は、特に限定されないが、ペプチド、炭水化物、核酸、遊離のアミノ酸、脂質、および増殖因子を含む、シカ袋角中に存在する任意の成分または成分の組合せを意味する。
【0025】
本明細書において用語「増殖作用」は、細胞および/または組織が迅速に成長するか、または増殖して新しい細胞もしくは組織を産生するようにさせる、本発明の抽出物または組成物の能力に関する。
【0026】
本明細書において用語「内皮細胞」は、血管の内部表面を裏打ちする内皮を構成する細胞に関する。これは、静脈血管と動脈血管の両方、ならびに毛細血管、冠状血管、および心臓の内層を含む。
【0027】
本明細書において用語「創傷」は、皮膚、組織または臓器が、疾患、事故または手術の結果として、裂けたか、貫通したか、切断されたか、または分離もしくは破れた損傷を意味する。この用語は、ただれ病変に関し、潰瘍を含む。
【0028】
本明細書において用語「持続性創傷」は、治癒が遅く長期間続く創傷を意味する。この用語は、慢性創傷も意味する。
【0029】
本明細書において用語「凍結融解」は、本発明のペプチドを実質的に−20℃に付し、次に実質的に18〜25℃である室温まで上昇させることを意味する。
本発明のペプチドの分子量は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の異なる方法により測定される。
一般に本発明のペプチドの分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー、電気泳動、質量スペクトル法、または他の適当な方法により測定される。
【0030】
本明細書において用語「シカ袋角」、「袋角」、または[枝角」は、成長する枝角の部分を意味する。一般に枝角のすべての枝および完全な本幹が含まれる。しかし好適な実施態様において、血管形成抽出物を作製する時は袋角皮膚は取り出され、眉上弓枝に隣接およびその下ある本幹の基部も排除される。
【0031】
シカ袋角は複雑な組織であり、いったん乾燥されると、主にペプチド、タンパク質、およびミネラルからなり、また炭水化物、脂質および遊離のアミノ酸のような他の成分も含む。従ってシカ袋角の抽出物は、抽出溶媒中に溶解性のすべてかかる成分の混合物を含有する。水性抽出条件が使用される時、抽出物の主成分は当然、ペプチドまたはタンパク質であると予測される(Sunwooら、1995)。
【0032】
一般にシカ袋角はアカシカ(red deer)から取られる。しかし他の種のシカ(例えば、ワピチ(wapiti)、ダマジカ(fallow)、オジロジカ(white tail))もまた、シカ袋角の供給源として使用される。
【0033】
本明細書において用語「血管形成性」または「血管形成」は、血管の成長を誘導する物質の能力を意味する。
好ましくは袋角は、成長期に採取される。しかしこれは、本発明の範囲を限定するものではなく、成熟枝角からの袋角も採取され、本発明で使用することができる。
【0034】
袋角は、1つ以上の以下の方法により袋角を保存するように処理される:凍結乾燥、凍結、熱浸漬、またはオーブン乾燥。しかし、これは本発明の範囲を限定するものではない。
好ましくは、袋角は熱浸漬により処理される。
【0035】
当業者に公知のように、本発明の成分は、任意の薬剤学的または獣医学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、および/または他の製剤添加剤を含む。
シカ袋角は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の異なる方法により抽出される。
ある好適な実施態様において、抽出は有機溶媒を使用する。
別の好適な実施態様において、抽出は水溶液を使用する。
【0036】
本明細書において用語「総タンパク質抽出物」は、抽出物中に含有されるペプチドまたはタンパク質の分子量を制御する試み無しで調製される水性抽出物を意味する。定義により、総タンパク質抽出物はまた、ペプチドやタンパク質ではないがペプチドまたはタンパク質と同時に抽出されるシカ袋角の他の水溶性成分も含有するであろう。
【0037】
本発明のシカ袋角の抽出物は、種々の異なる方法、例えば限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、透析、または有機溶媒を使用する方法により分画されて、低分子量画分を与える。しかしこのリストは、本発明の範囲を限定するものではなく、他の方法も使用可能である。
【0038】
ある好適な実施態様において分画法は、有機溶媒として70%エタノールを利用し、ここにシカ袋角が浸漬された後、水性抽出される。本明細書において用語「エタノール前処理後の抽出」は、この方法を使用して調製される抽出物を意味する。
【0039】
別の好適な実施態様において分画法は、シカ袋角の総タンパク質抽出物の水溶液への冷エタノールの添加を利用して、高分子量タンパク質の沈殿を引き起こし、これは次に遠心分離またはろ過して除去される。本明細書において用語「エタノール沈殿した抽出物」は、この方法を使用して調製される抽出物を意味する。
【0040】
さらなる実施態様において、分画法は限外ろ過を利用する。
一般に本発明の最終的袋角抽出物は、水溶液、乾燥した不定形の固体または凍結乾燥粉末でもよい。しかしこれは、本発明の範囲を限定するものではない。
好ましくは水溶液は、水、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、または他の適当な水性溶媒中である。
【0041】
好適な抽出法について本明細書に含まれる開示内容以外に、当業者に有用な抽出に関する詳細は、NZ524868およびPCT出願NZ2004/000058に記載されている。
すなわち本発明の実施態様は、先行技術に対して以下を含む多くの利点を有する:
1. シカ袋角から血管形成組成物を得るための抽出法を提供する。
2. 血管形成作用を有するシカ袋角からの組成物を提供する。
3. 創傷または損傷で使用可能なシカ袋角からの組成物を提供する。
4. 持続性創傷の治療に使用できるシカ袋角からの組成物を提供する。
【実施例】
【0042】
発明を実施するための最良の形態
実験
方法
組織の採取:
前の枝角の脱落後の55〜60日の成長時期にある3週齢のオスのアカシカから、袋角を採取した。
【0043】
「枝角の脱落中のシカの健康のための勧告と最低基準の規約(Code of Recommendations and Minimum Standards for the Welfare of Deer during the Removal of Antlers)、1992年7月(1997改正)」(農務水産省(Ministry of Agriculture and Fisheries)、ニュージーランド)の規定に従って、袋角を取り出した。
【0044】
袋角は、工業的に熱浸漬または凍結乾燥により処理した。熱浸漬は伝統的な中国式方法を基準にして、枝角の棒を基部から吊し(すなわち、先端を下にする)、ほとんど沸騰している湯に短時間繰り返し浸漬する。浸漬後、冷却し、再度浸漬する。枝角の切断した基部からきれいな血漿の泡が出るまで、浸漬を続ける。次に枝角を、約15℃の低湿ドライヤー中に、乾燥するまで数週間入れる。
【0045】
処理した枝角(熱浸漬または凍結乾燥)を選択した。鋭いナイフを使用して枝角から袋角の皮膚を除去した。眉上弓枝までを含めて除去した枝角の主要な基部以外を除いて、55〜60日の成長時期のアカシカの枝角のすべての部分を含めた。帯のこを使用して袋角を1〜2cmの厚さに輪に切断し、次にたがねで数センチの大きさの小さいブロックに切り刻んだ後、0.5mmのふるいを取り付けたミル(トーマス(Thomas)、アメリカ合衆国)を使用して粉砕して粉末にした。
【0046】
抽出と分画
シカ袋角を抽出し分画して、血管形成増殖因子の豊富な低分子量画分を得る。この画分は、限外ろ過、透析、ゲルろ過クロマトグラフィー、有機溶媒(例えばエタノール)を使用して溶液から高分子量タンパク質の沈殿、またはシカ袋角を有機溶媒(例えば70%エタノール)で前処理後に水性抽出、を含む多数の方法により作製することができる。ここで使用した3つの方法は、限外ろ過、エタノールを使用する高分子量の沈殿、および70%エタノールによるシカ袋角の前処理後の水性抽出である。
【0047】
シカ袋角の抽出と限外ろ過による分画
シカ袋角の総タンパク質抽出物の調製
5gの凍結乾燥した袋角粉末から100mlのリン酸緩衝液を使用して、リン酸緩衝液抽出物を作製した。リン酸緩衝液は、オルトリン酸水素二ナトリウム(1.15g/l)、オルトリン酸二水素カリウム(0.24g/l)、塩化カリウム(0.2g/l)および塩化ナトリウム(8.0g/l)を含有した。混合物を室温で1時間攪拌し、グラスファイバーろ紙(ワットマン(Whatman)GF/A)でろ過した。ろ液を11,500rpmで4℃で30分遠心分離した。上清(93ml)を計量したショット瓶(Schott bottle)にデカントし、シェル・フローズン(shell frozen)した後、15℃で凍結乾燥した。
【0048】
限外ろ過によるシカ袋角の総タンパク質抽出物の分画
リン酸緩衝液袋角抽出物(15mg)を1mg/mlの濃度で脱イオン水に溶解し、公称分子量カットオフ10kDaを有する限外ろ過装置(Centriprep-YM10、アミコン(Amicon)、アメリカ合衆国)にデカントした。チューブを2,100gで4℃で40分遠心分離した。次に限外ろ過液を取り出し、チューブを同様に、ほんのわずかの高分子量保持物が残るまでさらに20分の遠心分離を2回行った。限外ろ過液を合わせ、新鮮なCentriprepチューブ中にデカントした。高分子量タンパク質の混入がなくなるまで、限外ろ過を繰り返した。低分子量画分を含有する最終的限外ろ過液を凍結乾燥し、計量し、将来の使用のために保存した。高分子量画分を含有する保持物を同様に操作した。
【0049】
エタノールを使用して総タンパク質抽出物の溶液から高分子量タンパク質を沈殿することによる低分子量抽出物の調製
乾燥したシカ袋角粉末(10g)を脱イオン水(100ml)中で室温で3時間静かに振盪することにより、シカ袋角の総タンパク質抽出物を調製した。混合物を2,100gで15分遠心分離し、上清をきれいな遠心分離ビン中にデカントした。上清をさらに21,000gで15分遠心分離して、総タンパク質抽出物溶液を完全に清澄化し、次にこれを4℃に冷却した。一定の攪拌をしながら冷(4℃)100%エタノール(3容量)を徐々に加えた。濁った混合物を21,000gで4℃で30分遠心分離して、沈殿した高分子量タンパク質を除去した。上清をブチ(Buchi)蒸発フラスコに移し、次にブチ(Buchi)ロータリーエバポレーター上で真空下で溶媒を留去した。低分子量袋角抽出物を含む不定形の乾燥残渣を、使用前に、蒸発フラスコ中に密封して室温で保存した。
【0050】
エタノールによる前処理後のシカ袋角の抽出による低分子量抽出物の調製
実験室スケールの調製
この抽出物を作製するための選択される方法は、70%エタノールによるシカ袋角粉末の前処理後の水性抽出である。この場合、100gの熱浸漬シカ袋角粉末を600mlの70%エタノール(食品グレード)と混合した。混合物を3時間攪拌し、焼結ガラスロートでろ過した。ブチ(Buchi)ロータリーエバポレーターを使用して袋角残渣から真空下で残りのエタノールの大部分を除去した。蒸発工程の間、30℃の水浴を使用して蒸発フラスコに軽く熱を与えた。乾燥した袋角に脱イオン水(2リットル)を加え、混合物を12時間攪拌した。この時間の後に、抽出混合物を順にワットマン(Whatman)No1ろ紙、次にNo6ろ紙、最後にグラスファイバーろ紙(ワットマン(Whatman)GF/A)でろ過した。袋角の残渣を捨て、ろ液を11,500rpmで20℃で10分遠心分離した。上清をシェル・フローズンし、15℃で凍結乾燥した。総収量4.10g(4.1%の収率)が得られ、後述のin vitroバイオアッセイ実験に使用した。
【0051】
パイロットスケールの調製
上記したように調製した熱浸漬したシカ袋角の粉末を、34個の異なるバッチで70%エタノールで前処理した。84.0〜172.6gの袋角粉末を周囲温度で6容量(w/v)の70%エタノールとともに3時間攪拌した。まず、30℃の水浴を取り付けたロータリーエバポレーター(ブッチロタベーパー−R(Buchi Rotavapor-R))を使用して真空下で溶媒の大部分を除去し、次にオイルポンプ(エドワーズスピーディバック(Edwards Speedivac)ED35)で除去した。次に、前処理したシカ袋角粉末をプラスチック容器中で凍結した後、凍結乾燥(クドン(Cuddon))して最後の残りの溶媒を除去した。
【0052】
合わせたエタノール前処理シカ袋角粉末(4.3kg)に飲用水(86リットル)を加え、混合物を周囲温度で3時間攪拌した。混合物をダイノコーン(Dynocone)モデル612連続固体ボール遠心分離機(クラークチャプマン(Clark Chapman)、ダービー(Derby)、英国)に通して、液体抽出物から固体残渣を除去した。袋角抽出物を、まず10μmのフィルターバッグで次に1μmのフィルターバッグ(両方ともガフ(GAF))でろ過し、次にステンレス鋼トレイ上で凍結し、凍結乾燥機(クドン(Cuddon))で乾燥した。凍結乾燥した低分子量袋角抽出物をドライヤーのトレイからはがして、92g(2.1%収率)を淡黄色の不定形の固体として得た。この物質の大部分(90g)をγ放射線照射(シェリング−プラウ(Schering-Plough)、アパーフット(Upper Hutt)、ニュージーランド)(この処理の間、最小量の2.5Mradを与えた)により滅菌し、後述の製剤とラット創傷治癒試験で使用した。
【0053】
ゲルろ過クロマトグラフィー
0.3M塩化ナトリウムと0.05%アジ化ナトリウムを含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH6.9)を溶出緩衝液として使用して、袋角抽出物をスーパーローズ12 HR 10/30カラム(アマシャムバイオサイエンシーズ(Amersham Bibosciences))でゲルろ過クロマトグラフィーにより分析した。試料を0.05Mリン酸緩衝液(pH6.9)に2〜5mg/mlの濃度で溶解し、各溶液の10μlをカラムに注入し、流速0.75ml/分で溶出した。280nmのUV吸収を測定して、溶出したタンパク質を検出した。
【0054】
分子量既知の既知のタンパク質の標準的混合物を、袋角抽出物で使用したものと同じ条件下で分離して、スーパーローズ12カラムの分子量較正を行った。混合物は以下を含有した:サイログロブリン(669kDa);ウシγ-グロブリン(コーン画分II、160kDa);ウシ血清アルブミン(66.7kDa);オボアルブミン(グレードVI、46kDa);カーボニックアンヒドラーゼ(ウシ)(29kDa);チトクロムC(ウマ心臓)(12.4kDa);L-チロシン(181Da)。すべての標準物質はシグマ(Sigma)から得られたが、L-チロシンのみはビーディーエィチ(BDH)から得られた。溶出したタンパク質ピークの見かけの分子量は、較正曲線(これは、タンパク質の分子量の対数を保持時間に対してプロットすることにより作製した)を使用して内挿法により測定した。
【0055】
SDS-PAGE電気泳動
シカ袋角の総タンパク質抽出物と低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を、16.5%のトリス−トリシンSDS-ポリアクリルアミドゲル(バイオラッド(BioRad))に流した。試料を2-メルカプトエタノールで変性させ、99℃に4分加熱した後、ゲルにのせた。10μlのマルチマーク(MultiMark)分子量マーカー混合物(インビトロゲン(Invitrogen))と5、10、25および50μgの各抽出物をゲルにのせた。ゲルを190ボルトで50分流した。ゲルを取り出し、0.25%のクマシーブリリアンドブルーG-250(ビーディーエィチ(BDH))(等量のメタノールと25%トリクロロ酢酸中で作製した)で45分染色した。次にゲルを5%トリクロロ酢酸溶液中で一晩脱染色した。ゲルを25%メタノール/1%酢酸中で5分間洗浄し、次に1%メタノール/0.5%酢酸中で5分間洗浄した後、1%グルタルアルデヒド溶液中で5分間固定した。脱イオン水(ミリQ)で6回洗浄(各洗浄について1.5分間)を行った。
【0056】
1.44mlの28%アンモニア溶液に92.5μlの10M水酸化ナトリウムを加え、ミリQ水で45mlに希釈して溶液Aを作製して、銀染色を行った。溶液Bは、2.5mlのミリQ水中の0.5gの硝酸銀からなる。使用直前に溶液AとBを混合し、ゲルを混合物中で10分間染色した。染色後ゲルをミリQ水中で3回、全部で10分間洗浄した。最後に、0.005%クエン酸/0.02%ホルムアルデヒド溶液中で約1分間ゲルを発色させ、25%メタノール/0.26%酢酸を2分間加えて発色を停止させた。次に提示用に、コダックDC120デジタルカメラを使用して写真を撮った。
【0057】
細胞増殖アッセイ
T75組織培養フラスコ(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))中の10%胎児牛血清(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))、50U/ml ペニシリン、50μg/ml ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、および1ng/ml 塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を補足した培地199(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))でヒト臍帯静脈内皮細胞を、5% CO2中で37℃で培養した。細胞をトリプシン処理(0.025%トリプシン、0.265mM EDTA、ギブコビーアールエル(Gibco BRL))し、96ウェルプレート(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))に3000細胞/ウェル/200μlの密度で接種し、3日間培養した。1%血清中で24時間細胞を栄養不足にし、次に1ng/ml bFGFを含有する1%血清を用いて、シカ袋角の抽出物の存在下または非存在下でさらに48時間処理した。インキュベーションの終了の2時間前に、各ウェルに20μlのセルタイター(Celltiter)96(登録商標)Aqueous One Solution Reagentを加えた。37℃で加湿した5% CO2雰囲気中でインキュベーション後、プレートリーダー(バイオテク(Bio-Tech))を使用して、490nmでウェルの光学密度(「OD490」)を記録した。
【0058】
ウシ大動脈内皮細胞の遊走
ウシ大動脈内皮(BAE)細胞を、12ウェルプレート(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))中の10%胎児牛血清(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))を含有するダルベッコー改変イーグル培地(DMEM、ギブコビーアールエル(Gibco BRL)(登録商標))中で、コンフルエンスになるまで増殖させた。次にプレートをディスポーザブルピペットの先端で引っ掻き、単層を「創傷」させた。ダルベッコーPBS+カルシウム(0.1g/l)(ギブコ(Gibco)(登録商標)、インビトロゲン社(Invitrogen Corporation))で洗浄後、創傷した単層を、新鮮な1%血清中でシカ袋角の抽出物の存在下または非存在下で48時間培養した。これらは、総タンパク質袋角抽出物、ろ過して調製した低分子量抽出物、総タンパク質抽出物の溶液から高分子量タンパク質の沈殿により作製した低分子量抽出物、および袋角を70%エタノールで前処理後作製した低分子量抽出物である。後者の低分子量抽出物はまた、100℃で3分間煮沸した後に試験した。陽性対照としていくつかのウェルを含め、10%血清中で培養した。最初の創傷時と創傷後48時間目に顕微鏡写真を撮って、創傷単層中の細胞の移動の程度を測定した。顕微鏡写真は、オリンパスCK2倒立顕微鏡で20×の倍率で取り、横15cm×縦10cmの標準サイズでプリントした。写真の上にベースラインと平行に、1.5cm間隔で10cmの長さの格子を置いた。ベースラインは、元々細胞をはがした「創傷線」の上に置いた。各線で分けられた細胞の数を記録した。これにより、顕微鏡写真上でベースラインから1.5、3.0、4.5、6.0、7.5または9.0cmまで移動した細胞の数が評価できた。
【0059】
in situハイブリダイゼーション
プローブ産生
in situハイブリダイゼーションプロトコールは、Clarkら(1996)が記載した方法に基づいた。VEGFのエキソン1〜4をカバーするプローブを、転写ベクターpGEMT(登録商標)Easy(プロメガ(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)中にクローン化した。SacII、NcoI(ニューイングランドバイオラボズ(New England Biolabs)、ビバリー(Beverly)、マサチューセッツ州)またはSalI(ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)、ドイツ)を用いて、これを制限消化してセンス・プローブとアンチセンス・プローブとを得た。1本鎖のセンスおよびアンチセンス・リボプローブを、10μCi/μl[33P]UTPを用いて製造業者(プロメガ(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)の説明書に従って転写して標識した。
【0060】
切片調製
キシレン、次に低下する濃度のエタノール中で切片を脱蝋し、次に0.2M HCl中に20分間(室温)浸漬し、2×SSC(1×SSCは150mM塩化ナトリウムと15mM 塩素酸ナトリウム、pH7.0を含有する)で30分間洗浄した。200mM トリス−塩酸(pH7.2)、50mM EDTA(pH8.0)中2μg/mlのプロテイナーゼK(シグマケミカル(Sigma Chemical))で、37℃で15分間消化を行った。次にスライドを、100mM トリエタノールアミン(pH8.0)、0.25%無水酢酸の溶液中に2×5分間(室温)浸漬した。スライドを2×SSC(室温)中で5分間洗浄し、脱水し、乾燥させた。
【0061】
ハイブリダイゼーション
前記のプローブ産生で標識した1μlのリボプローブ(約2×106cpm/μl)を、20〜60μlのハイブリダイゼーション緩衝液と混合した。ハイブリダイゼーション緩衝液は以下を含有した:50%(v/v)の脱イオン化ホルムアミド、0.3M NaCl、10mM トリス−塩酸(pH6.8)、10mM リン酸ナトリウム(pH6.8)、5mM EDTA(pH8.0)、1×デンハルツ溶液(0.02%(w/v)ずつのBSA、フィコールおよびポリビニルピロリドン)、10%(w/v)の硫酸デキストラン、50mM ジチオスレイトール、および1mg/ml 酵母tRNA(ライフテクノロジーズ(Life Technologies))。プローブを含有するこの混合物を95℃で変性させ、前処理し乾燥した組織切片に適用し、次に小さいパラフィン片でカバーした;プレハイブリダイゼーションはしなかった。ハイブリダイゼーションは、50%ホルムアミドと0.3M NaClで加湿した密封容器中で54℃で18時間行った。
【0062】
スライドを5×SSC中で50℃で15分間(×2)洗浄し、次に50%ホルムアミドを有する2×SSC中で65℃で30分間洗浄した。それぞれ5分間の4回の洗浄を2×SSC中で37℃で行った。1×洗浄溶液(400mM NaCl、10mM トリス−塩酸、5mM EDTA、pH7.5)中の最終濃度20μg/mlのRNAseA(シグマケミカル(Sigma Chemical))とともに、スライドを37℃で30分間インキュベートした。50%ホルムアミドを含有する2×SSC中でスライドを65℃で30分間洗浄し、次に2×SSCと0.2×SSC中で15分間(いずれも37℃)洗浄して、RNAseAを除去した。0.3M酢酸アンモニウムを含有する30、60、80および95%エタノールで切片を脱水し、次に100%エタノールのみで最後に2回洗浄した。
【0063】
切片を空気乾燥し、オートラジオグラフィーエマルジョン(LM-1エマルジョン;アマシャムインターナショナル(Amersham International plc))でコーティングした。遮光箱中で4℃で3週間、エマルジョンコーティングスライドを乾燥して保存した。次にスライドを発色させ(D19発色剤;コダック(Kodak)、ローチェスター(Rochester)、ニューヨーク、アメリカ合衆国)、写真で固定(30%チオ硫酸ナトリウム)して、ハイブリダイゼーション部位の上に見える銀粒子を産生させた。ギルス・ヘマトキシリンで切片を対染色し、ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡で明視野と暗視野照射を使用して観察した。
【0064】
低分子量袋角抽出物を含有する製剤の調製
3つの異なる種類のポリマー、すなわちカーボポル(Carbopol)-934P、プルロニック(Pluronic)F-127、およびメトセル(Methocel)E-4Mを使用して、シカ袋角から血管形成抽出物の局所的ゲル製剤を調製した。カーボポル(Carbopol)-934Pは、ケミカラーニュージーランドリミテッド(Chemcolor New Zealand Limited)からの供与試料であり、プルロニック(Pluronic)F-127は、バスフニュージーランドリミテッド(BASF New Zealand Limited)からの供与試料であり、メトセル(Methocel)E-4Mは、ダウケミカルリミテッドオーストラリア(Dow Chemical Limited Australia)からの供与試料である。
【0065】
等張リン酸緩衝液の調製
1.295gの無水オルトリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、0.9125gのオルトリン酸二水素ナトリウム1水和物(NaH2PO4.H2O)、および1.199gの塩化ナトリウムを水に溶解して、等張リン酸緩衝液の調製(0.063M)(pH7.0)を調製した。次に容量を水で250mlにした。
【0066】
カーボポル(Carbopol)-934Pを用いる製剤
カーボポル(Carbopol)は、等張マンニトール水溶液中で調製した。
2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを調製するために、0.5gのカーボポル(Carbopol)-934Pを50mlの2倍濃度等張マンニトール溶液に加え、これを磁気スターラーを使用して30分間攪拌し、次に放置して気泡を表面まで上がらせた。マンニトール溶液は、5.07gのマンニトールを水に50mlまで混合して作製した。10%(w/v)の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを7.0に調整した。
【0067】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で蒸留水に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
対照製剤を作製するために、3gの2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを3mlの水に加え、これをスパテラで静かに混合した。次にこれを使用するまで4℃で保存した。
治療製剤を調製するために、3gの2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを3mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これをスパテラで静かに混合した。次にこれを使用するまで4℃で保存した。
【0068】
プルロニック(Pluronic)F-127を用いる製剤
プルロニック(Pluronic)F-127製剤を、等張リン酸緩衝液(pH7.0)中で調製した。
20gのプルロニック(Pluronic)F-127を50mlの冷等張リン酸緩衝液(これは磁気スターラーを使用して静かに攪拌した)に加えて、2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルを作製した。添加後、溶液をさらに10分間攪拌した。これは、4℃に一晩維持し、3時間超音波処理し、次に4℃で一晩保存した。
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で等張リン酸緩衝液に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
【0069】
4gの2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルを秤量し、ここに4mlの等張リン酸緩衝液を加えて、対照製剤を作製した。これをアイスボックス中で数分間維持して、プルロニック(Pluronic)ゲルを溶液に変換した(水中のプルロニック(Pluronic)は4℃で溶液であり、37℃でゲルである)。これを次に、スパテラで静かに混合し、使用するまで4℃で保存した。
【0070】
治療製剤を調製するために、4gの2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルをバイアルに取った。ここに4mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これを次にアイスボックス中で数分間維持して、プルロニック(Pluronic)ゲルを溶液に変換した。これを次にスパテラで静かに混合し、使用するまで4℃で保存した。
【0071】
メトセル(Methocel)E-4Mを用いる製剤
メトセル(Methocel)E-4M製剤を、等張リン酸緩衝液(pH7.0)中で調製した。
2gのメトセル(Methocel)E-4M FGを25mlの攪拌等張リン酸緩衝液(これは80℃に加熱してあった)に加えて、2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルを作製した。追加の25mlの等張リン酸緩衝液(これは4℃に冷却してあった)をメトセル(Methocel)分散液に加え、さらに3分間攪拌した。次に混合物を4℃で5時間維持した。
【0072】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で等張リン酸緩衝液に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
5gの2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルを秤量して、対照(製剤単独)を作製した。ここに55mlのリン酸緩衝液を加え、次に混合物をスパテラで静かに混合した。これを使用するまで4℃に保存した。
【0073】
治療製剤を調製するために、5gの2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルをバイアルに取った。ここに55mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これをスパテラで静かに混合した。混合物を使用するまで4℃で保存した。
【0074】
ラット創傷治癒試験
これらの実験は、ウェリントン医学保健科学部(Wellington School of Medicine and Health Sciences)の動物倫理委員会(Animal Ethics Committee)が規定した条件下で行った。
【0075】
オスのルイスラット(19〜23週齢)を環境に馴化させ、実験期間中個々に収容した。実験の期間中ラットに通常の食物と水を与え、0日目からスタートして毎日ゼリー(4ml)を経口投与した。0日目に、ケタミン(100mg/kg体重)とキシラジン(5mg/kg体重)の注射(腹腔内)により、動物を麻酔した。各動物に、脊椎に沿って背中の表面に2つの8mlの全皮膚生検を行った。頭蓋の基部から6cmと8cm離れた部位に創傷を作製した。各生検は皮膚に対して直角になるように、注意した。創傷をガーゼでふき取って過剰の血液を除去し、次にスケールマーカーと識別番号とともに写真を撮った。次に治療溶液と対照溶液を創傷に添加した。回復後、テンギシック(Temgisic)を0.05mg/kg体重で皮下注射した。治療溶液と対照溶液の再投与は、図の凡例(図10〜13)に示すように2〜3日の間隔で行い、この操作の間、動物は3.5%ハロタンで軽く麻酔した。再投与の時、創傷の写真を撮り、次に完全な創傷閉鎖が起きるまで2〜3日毎に写真を撮った。
【0076】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)の投与速度と頻度を、ラット創傷治癒モデルで評価した。担体、投与法、および袋角の濃度は、図の凡例に記載されている(図10〜13)。各動物は25μlの治療物質を投与した1つの創傷と、25μlの対照物質を投与した他の創傷を有した。すべての実験は6匹の動物を使用して行ったが、1mg/ml(図10)の用量は4匹のみであった。各創傷の写真は、キャノン(Canon)EOS3000Nカメラ(F2.8 マクロレンズ)を用いて撮った。各露出のプリントをデジタル的に記録し、これらの画像からNIHイメージ1.63ソフトウェアを使用して創傷の面積を算出した。各時点の創傷のサイズは、元々のパーセントとして計算し、各時点について分散分析(ANOVA)により統計解析を行った。
【0077】
創傷組織構造
上記のようにラットの背中に創傷を作製した。0日の各ラットの対照創傷にPBSの単回適用を行い、治療創傷には、PBS中の低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)の10mg/ml溶液を同じ日に適用した。創傷の4日後に動物(N=6)を安楽死させた。創傷を切り出し、4匹の動物について組織を10%中性緩衝化ホルマリンに24時間入れた後、70%エタノールに移した。他の2匹の動物からの組織は、コラーゲンの分析のために取って置いた。創傷を半分に切った後、パラフィンロウに包埋し、切断した表面を切片にした。切片を5μmで、APES(3-アミノプロピルトリエトキシ−シラン)でコーティングしたスライド上に切断した。
【0078】
マッソントリクローム染色法による創傷の染色
BancroftとStevens(1990)が記載したように、染色を行った。切片をキシレン(5分×2)で脱蝋し、低下する濃度の一連のエタノール溶液で再水和した。次に切片を、ヴァイゲルトヘマトキシリンで10分間染色した後、水道水で10分間洗浄した。これらを0.5%酸性フクシン溶液中に5分間入れ、次に蒸留水ですすいだ。1%のホスホモリブデン酸を5分間使用した後、2%メチルブルーで5分間染色し、蒸留水で洗浄した。1%の酢酸で2分間処理後、上昇する濃度の一連のエタノール溶液で切片を脱水し、キシレンで処理し、DePeX(ビーディーエィチ(BDH))でカバーグラスをかけた。
【0079】
ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡を使用して、キャノン(Canon)パワーショットG5(500万画素)デジタルカメラで写真を撮った。キャノン・リモートコントロール・ソフトウェア・プログラムにより72画素/インチの解像度で、画像を取り込み、アドビフォトショップ(Adobe Photoshop)(バージョン5.5)に移して、提示用にコメントを入れた。
【0080】
創傷上のラミニン免疫組織化学
切片をキシレン(5分×2)で脱蝋し、低下する濃度の一連のエタノール溶液で再水和した。特に明記しない場合は、すべての試薬、抗体および酵素は、ザイメドラボラトリーズインク(Zymed Laboratories Inc.)(カリフォルニア州)から購入した。切片をペプシン(カタログ番号20671651)で37℃で15分間処理した。以後の操作は室温で行った。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(5分×2)ですすいだ後、非特異結合部位を、1%BSA/PBS中の20%正常ヤギ血清で30分間処理してブロックした。次に切片を、ポリクローナルウサギ抗ラミニン抗体(1:1000希釈)(ノブスバイオロジカルズインク(Novus Biologicals Inc.)、カタログ番号300-144)で1時間インキュベートした。陰性対照のために、1次抗体の代わりに非免疫ウサギ免疫グロブリンIgG(10μg/ml)を使用した。切片をPBS(5分)、0.5%脱脂粉乳/0.1%Tween-20/2×PBS(10分×2)およびPBS(5分)で洗浄し、次にビオチン化2次ヤギ抗ウサギ抗体(5μg/ml)で30分間インキュベートした。
【0081】
切片を再度PBS(5分)、0.5%脱脂粉乳/0.1%Tween-20/2×PBS(10分×2)およびPBS(5分)で洗浄した。ザイメッドペロキソ(Zymed Peroxo)ブロックを9分間適用して内因性ペルオキシダーゼを不活性化させた。PBS(5分×2)で洗浄後、切片をHRP-ストレプトアビジン結合体(2.5μg/ml)とインキュベートした。切片をPBS(5分×2)で洗浄し、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)キットを用いて発色させた。水ですすいだ後、切片を増加する濃度の一連のエタノール溶液で脱水し、次にキシレンで処理し、DePeX(ビーディーエィチ(BDH))を使用してカバーグラスをかけた。ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡を使用して、400ASAのコダック白黒フィルムに写真を撮った。画像をアドビフォトショップ(Adobe Photoshop)(バージョン5.5)に移して、提示用にコメントを入れた。
【0082】
結果
分画とゲルろ過クロマトグラフィー
Centriprep-YM10装置を用いる限外ろ過によってシカ袋角を分画すると、高分子量画分(図1)と低分子量画分(図2)が得られた。
総タンパク質抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー特性を図3に示す。これは、総タンパク質袋角抽出物中のタンパク質が種々の分子量を有することを示し、予測されるように高分子量タンパク質がほとんどであった。これと比較して、袋角を70%エタノールで前処理して得られた低分子量抽出物の同様の特性(図4)は、エタノール前処理が、主に10kDaより小さいタンパク質を含有する袋角抽出物を与えることを示す。この抽出物では6つの大きなピークが明らかである。
【0083】
SDS-PAGE電気泳動
総タンパク質抽出物と比較して低分子量袋角抽出物内に存在するタンパク質を視覚化しさらに解析するために、まずクマシー(図5A)で染色し次に銀(図5B)で染色したSDS-ポリアクリルアミドゲルを使用した。クマシー染色でも銀染色でも総タンパク質抽出物は、特に60kDaより上と20kDa付近に種々のタンパク質を示したが、低分子量抽出物レーンでは2つのバンドのみが明らかであった。これらは、約6kDaの見かけの分子量と60kDaを超える見かけの分子量であった。
【0084】
細胞増殖アッセイ
枝角抽出物は、1%血清と比較してヒト臍帯静脈内皮細胞の培養物の増殖を増強することができた(図6)。この増殖の増強は、低分子量抽出物(70%エタノールによる袋角の前処理後に作製)で最も顕著であった。総タンパク質袋角抽出物を3分間煮沸しても、内皮細胞に対する増殖活性は保持されたことに注意されたい。
【0085】
ウシ大動脈内皮細胞の遊走
抽出物の血管形成活性をさらに確認するために、ウシ大動脈内皮(BAE)細胞の遊走を調べた。限外ろ過とエタノール沈殿法の両方により作製した低分子量抽出物は、対照と比較して、細胞を引っ掻いた線から遊走する細胞の距離と数を有意に増加させた(図7)。
図8に示すように、低分子量抽出物(エタノール前処理法により得られた)の3分間の煮沸処理は、BAE細胞の遊走に対する増強作用を低下させることはなかった。
【0086】
in situハイブリダイゼーション
これ以外に我々は、枝角の血管形成活性が血管内皮増殖因子(VEGF)(最も良く知られている強力な血管形成因子)による可能性が小さいことを示した。VEGFのエキソン1〜4をカバーするプローブを使用して、in situハイブリダイゼーションを行い、すべてのスプライス変種を検出することができた。図9に示す結果は、VEGF mRNAが枝角の前軟骨細胞にのみ検出され、血管に隣接する細胞内には検出されないことを示す。VEGFのmRNAの量は、比較的少ないようである。
【0087】
我々はまた、in situハイブリダイゼーションを使用して他の古典的血管形成因子のいくつかの枝角mRNAを調べた(データは示していない)。驚くべきことに我々は、多量の酸性または塩基性線維芽細胞増殖因子mRNAを見つけることができず、これは他の因子が、枝角内の血管形成の支配に重要な役割を果たしているに違いないことを示唆する。
【0088】
ラット創傷試験
図10は、食塩水、または70%エタノールによる袋角の前処理後に作製した低分子量抽出物の1mg/ml溶液で治療した創傷の閉鎖パーセントを示す。治療された創傷は、食塩水のみで処理した対照創傷より有意に速い創傷治癒を示した。
【0089】
ラット創傷モデルを使用して、治療の用量範囲を試験した。低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)を、担体単独(これはPBSである)(対照治療)と比較した。いずれかの溶液25μl容量を創傷の上に置いた。0.1mg/mlの用量の袋角抽出物では、対照群と治療群にわずかな差があったが、どの時点でも差は統計的に有意ではなかった(図11a)。2mg/mlの用量で低分子量袋角抽出物は、2、4、6、8、10、および14日目に創傷閉鎖速度を有意に改善した(図11b)。低分子量袋角抽出物の10mg/ml用量は、8日と10日目に統計的に速い創傷閉鎖を示した(図11c)。非常に高用量の抽出物(100mg/ml)は同様に、6、8、10、12、14および16日目に創傷閉鎖速度を上昇させ、有意な改善を示した(図11d)。
【0090】
創傷の日に与えた10mg/mlの低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の単回投与の効果を、担体単独(対照)と比較した(図12)。抽出物の単回投与は創傷閉鎖速度を改善し、治療創傷と対照創傷の差は8日目に統計的に有意であった。
【0091】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の種々の製剤を、2mg/mlの用量で調べた(図13)。各場合に対照は、抽出物の無い担体単独である。メトセル(Methocel)を用いる抽出物の製剤は、担体単独と比較して2〜14日目に創傷閉鎖速度を有意に改善した。プルロニック(Pluronic)を用いて製剤化した抽出物は、測定したすべての日に創傷閉鎖速度を有意に改善したが、担体単独(対照)は、治癒の初期段階で負の影響があった(図13c)。カーボポル(Carbopol)を用いて抽出物を製剤化すると、創傷閉鎖の速度は、2、4、6、8、10および14日目に有意に改善された(図13d)。
【0092】
創傷組織構造
PBSの単回投与と比較して、低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の10mg/mlの単回適用後の治癒の4日目に、創傷の組織構造を調べた。この試験では6匹の動物を使用したが、組織構造のためには4匹のみを使用した。生検の左に位置する非創傷組織では、治癒しているパンチ生検部位が明らかであった(図14A, B)。対照創傷では、パンチ生検の領域は、表面の痂皮と下の創傷組織により区別された。この創傷組織は破壊され、細胞成分が点在する余分の細胞マトリックスから構成された(図14A, C)。治療した創傷は、顕著に異なる組織構造を示した(図14B, D)。痂皮(図14B)がところどころに現れ、上皮に似ていた。表面下には、我々が皮膚組織と呼ぶ構成された組織の層があった(図14D)。これは、瘢痕を形成するほどコラーゲンが豊富というわけではないようであった。これは良好な細胞構成を有し、天然の創傷治癒過程を仲介する血管の豊富なネットワークを有するようであった。4匹のうちの3匹の動物からの治療した創傷は、4番目のものと非常によく似ており、治療創傷と対照創傷の差は、図14で提示されたものより小さいことを示している。
【0093】
組織構造の試験の後に、基底膜タンパク質であるラミニンについての免疫組織化学試験を行った。対照創傷のラミニン免疫組織化学試験は、特に上皮表面下では、治療創傷と比較して、血管も血管の数の減少も示さなかった(図15A, C)。対照創傷では、ラミニンは創傷の端に検出され、抗体染色がこれらの切片で作用したことを示している(図15E)。治療創傷内では、基底血管ならびに上皮表面下の血管が明らかであった(図15B, D)。表面の血管は、基底血管と異なる形態を有し、上皮表面にかけてより弱く染色された。
【0094】
考察
この研究では、シカ袋角から得られる抽出物および画分中に含有されるペプチドとタンパク質のサイズに注目した。これは、乾燥したシカ袋角組織の主要な成分はタンパク質であり、古典的血管形成因子もまたタンパク質であるという知識によるものである。しかし、袋角抽出物および著者らが記載した画分では他の非タンパク質成分も明らかに含有されており、これらが、観察された活性に寄与しているかもしくは原因であることが認識される。
【0095】
血管形成活性を有する10kDaより実質的に小さいかまたはこれに等しい低分子量画分の発見は、多くの古典的血管形成増殖因子のサイズが10kDaより大きいことを考慮すると、驚くべきことである(表1)。
【0096】
ゲルろ過クロマトグラフィー分析とSDS-PAGE分析は、低分子量袋角抽出物の組成について一見矛盾する情報を与えた。クマシーブリリアンドブルーG250でそして次に銀で染色したSDS-PAGEゲル(図5)では、低分子量抽出物はゲルろ過クロマトグラフィー分析の結果から予測されるものより少ないバンドを示した(図4)。さらに10kDaより大きい分子量のタンパク質は、予測されたものより比較的強く染色された。しかし、SDS-PAGEゲル上のタンパク質の不完全な染色または染色されないことは、クマシーと銀染色のよく知られた特徴である(例えば、Smith, 2002;Kondratiukら、1982)。低分子量抽出物中の10kDa以下のタンパク質の予測より弱い染色強度は、この現象のせいかも知れない。
【0097】
シカ枝角組織上のin situハイブリダイゼーションにより検出される強力血管形成増殖因子であるVEGFのメッセンジャーRNA(図9)は、前軟骨領域に限定され、低レベルでのみ存在することが確認された。aFGFまたはbFGF mRNAのin situハイブリダイゼーションでは、血管形成が起きる領域に関連する転写体は見つからなかった(データは示していない)。これは、2cm/日までの枝角で血管の増殖を支配する因子についての疑問を引き起こした。
【0098】
抽出物に対するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖応答を測定した。総タンパク質袋角抽出物は、3分間煮沸した後でさえ、HUVECの増殖を引き起こすことがわかった(図6)。低分子量袋角抽出物(70%エタノールによる前処理後の抽出により調製した)は、HUVECの顕著な増殖を引き起こした。ウシ大動脈内皮(BAE)細胞を用いて内皮細胞遊走アッセイにより評価すると、総タンパク質袋角抽出物、エタノールによる沈殿により作製した低分子量抽出物、および限外ろ過により作製した低分子量抽出物はすべて、より多くの細胞を引っ掻いた領域に遊走させた(図7)。エタノールによる沈殿により作製した低分子量抽出物は、100μg/mlで最も大きな応答を示し、500μg/mlでは応答は少し弱く、用量応答を示している。
【0099】
70%エタノールによる前処理後の袋角抽出により調製した低分子量抽出物を、3分間煮沸の前および後に活性を試験した(図8)。結果は、試験したいずれの用量でも煮沸は何の影響を与えないことを示す。これは、血管形成活性に関与する分子が、最大3分間加熱しても安定であることを確認した。
【0100】
70%エタノールによる前処理後の袋角抽出により調製した低分子量抽出物を、ラットでin vivoで試験して、最大3日間創傷治癒を加速することがわかった(図10)。治療した創傷は、治癒過程の開始時および終了時に有意に速く治癒することがわかり、抽出物が治癒の全期間に対して影響することを示唆している。この推定を、さらなるin vivo実験で確認した(図11と13)。
【0101】
動物の創傷試験の結果は、低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後の抽出により作製した)の多くの肯定的な性質を示す。例えばこれは、γ放射線照射の滅菌用量(2.5Mrad)への暴露後も強力な活性を保持した。抽出物は、1mg/ml〜100mg/mlの改善された創傷閉鎖の有効な用量率を有するようである(図10と11)。どの用量率でも、負の影響は観察されなかった。創傷の日に低分子量袋角抽出物を用いて単回治療を行うことにより、応答を発生するのに必要な投与の回数を調べた(図12)。対照創傷と比較して、創傷閉鎖速度の上昇が観察され、ある時点(8日目)では、差は統計的な有意に達した。これは興味深い知見であり、最適な結果を与えるものを確認するには種々の投与法を試験することが必要であろう。
【0102】
2mg/mlの用量の低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後の抽出により作製した)の種々の製剤を、ラット創傷治癒モデルで試験した(図13)。メトセル(Methocel)とカーボポル(Carbopol)を用いて作製した製剤は、PBSを担体として使用する製剤と非常によく似ており、ほとんどの時点で創傷閉鎖速度を改善した。担体単独は創傷閉鎖の初期速度に負の影響を有するため、プルロニック(Pluronic)製剤は禁忌かも知れない(図13c)。これらの結果は、抽出物が種々の製剤で送達でき、かつまだ活性を保持していることを示す。
【0103】
マッソントリクローム染色法(一般的な染色法であり、細胞外マトリックスタンパク質を有効に示すものである)を使用して創傷の組織構造を調べた。図14の画像は、創傷の4日後に、低分子量で治療した創傷内の皮膚組織は、正常皮膚で予測されるもののような構造を有することを示す。表皮が再形成され始め、血管および構成された細胞成分を含有する皮膚組織が創傷中に遊走したという証拠がある。対照の創傷は、創傷修復の初期段階に有り、主に特定の構成を持たない細胞成分が点在するコラーゲンである痂皮と皮膚創傷組織を有する。従ってこの組織構造は、低分子量抽出物で治療した創傷がより進行した治癒段階であることを示唆する。この組織構造はまた、抽出物が組織修復を仲介し、これは、正常な創傷閉鎖を引き起こし、コラーゲン性瘢痕を引き起こさないことを示唆する。
【0104】
基底膜タンパク質であるラミニンについて、創傷を免疫染色した。ラミニンは、内皮細胞の基底表面の基底膜に結合している。結果は、創傷の4日後に低分子量袋角抽出物で治療した創傷の創傷領域内では、対照(PBS治療)創傷内より多くの血管があることを証明した。最も顕著なのは、対照創傷と比較して、治療創傷の頂端/上皮下ゾーン内の血管の数の増加であった。対照創傷は、創傷領域内で血管がほとんどまたは全くなかった(図15A、D、E)。対照創傷の端では、非創傷領域で、血管が明らかであり、免疫染色がこれらの切片上でうまく働いていることを示している(図15E)。低分子量袋角抽出物で処理した創傷中では、マッソントリクローム染色により示唆されるように、創傷の上皮の下にある血管が明らかであるが、ラミニンの免疫染色は、図14に示すものとは異なる動物からであった。治療創傷の表面の血管は、上皮表面より弱く染色された(図15D)。血管はまた表面近辺で整列し、これはこれらが頂端表面に成長し、これらの血管の周りの基底膜が構成される過程であることを示唆している。ラミニンの免疫組織化学試験は、血管形成の増強が、創傷への低分子量袋角抽出物の投与に由来するかも知れないことを示唆する。
【0105】
結論としてこれらの結果は、シカ袋角から得られる組成物が血管形成活性を有することを証明する。特にエタノールによる前処理後の抽出により調製した低分子量袋角抽出物は、強力な創傷治癒活性を有する。これはin vitroで、内皮細胞の増殖と遊走を増強した。in vivoの創傷治癒モデルでは、低分子量袋角抽出物は、1mg/ml〜100mg/mlの用量範囲にわたって創傷閉鎖の速度を上昇させた。どの段階でも、動物に対する負の副作用は見られなかった。治療創傷の形態は、抽出物が、血管形成を含む健康な創傷治癒応答を誘導することを示唆する。これらの結果は、低分子量袋角抽出物による創傷の治療が創傷閉鎖速度を改善し、従って創傷治癒を助けるのに有効な方法であることを示している。
【0106】
【表1】
【0107】
本発明の態様を例としてのみ記載したが、添付の請求項に規定された本発明の範囲を逸脱することなく、変更と追加が可能であることを理解されたい。
【0108】
【化1】
【0109】
【化2】
【0110】
本発明のさらなる態様は、例示のためのみに記載される以下の説明と添付の図面を参照することにより明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】総タンパク質抽出物の限外ろ過により得られた、シカ袋角の高分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下に適当な分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図2】総タンパク質抽出物の限外ろ過により得られた、シカ袋角の低分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下に適当な分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図3】シカ袋角の総タンパク質抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下におよその分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図4】70%エタノールで袋角を前処理した後の水性抽出により得られた、低分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下におよその分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図5】70%エタノールで袋角を前処理した後の水性抽出により得られた低分子量画分(「LMW抽出物」)と、シカ袋角の総タンパク質抽出物(「TP抽出物」)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動。(A)クマシーブリリアンドブルーG250で染色した。(B)次に銀で染色した。レーンは、5、10、25または50μgの抽出物を含有した。分子量マーカーの混合物(「MWマーカー」)を、ゲルの第1のレーンと最後のレーンにのせ、マーカータンパク質の分子量を画像の隣に示す。
【図6】1%血清(「対照」)、3分煮沸前の総タンパク質袋角抽出物(「総タンパク質抽出物」)と3分煮沸後の総タンパク質袋角抽出物(「煮沸総タンパク質抽出物」)、または低分子量抽出物(70%エタノールによる前処理後に抽出して調製した)(「低分子量抽出物」)に応答した、ヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖に及ぼす異なる枝角抽出物の作用を概説する棒グラフ。袋角抽出物は、500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図7】細胞遊走アッセイの結果を示すグラフ。1%血清(「対照」)、総タンパク質袋角抽出物(「総タンパク質」)、エタノール沈殿により作製した低分子量抽出物(「EtOH沈殿」)、限外ろ過により作製した低分子量抽出物(「限外ろ過物」)に応答した、BAE細胞の遊走。袋角抽出物は、100μg/mlと500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図8】細胞遊走アッセイの結果を示す別のグラフ。1%血清(「対照」)、または3分煮沸前の低分子量袋角抽出物(70%エタノールによる前処理後に袋角を抽出して調製した)(「AE」)と3分煮沸後の低分子量袋角抽出物(「煮沸AE」)に応答した、BAE細胞の遊走。袋角抽出物は、100μg/mlと500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図9】袋角先端の前軟骨領域におけるVEGFプローブを使用するin situハイブリダイゼーションの写真。A)アンチセンス・プローブの明視野。B)ハイブリダイゼーションの領域を示すアンチセンス・プローブの暗視野。C)センス・プローブの明視野。D)バックグランドのみを示すセンス・プローブの暗視野。* 標識を有する前軟骨領域。V、血管。
【図10】ラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または低分子量袋角抽出物(食塩水中1mg/ml)(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。用量を、0、2、4、7および10日目に投与した。記載のデータは、創傷後の日の元々の創傷サイズのパーセントとしての平均創傷サイズである。2、4、7、10、14および17日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01である。
【図11】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の用量の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または食塩水中の低分子量袋角抽出物(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製し、(a)0.1mg/ml、(2)2mg/ml、(c)10mg/ml、(d)100mg/mlで投与した。用量を、0、2、4、6、8および10日目に投与したが、100mg/mlについては、10日目の投与はしなかった。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図12】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の投与頻度の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または食塩水中の低分子量袋角抽出物(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(a)では0、2、4、6、8および10日目に10mg/mlで複数回投与し、一方(b)では0日目に10mg/mlを単回投与した。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図13】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の異なる製剤の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、低分子量袋角抽出物を含有する(「治療」)または含有させない25μlの(「対照」)種々の製剤で治療した。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。治療創傷には、(a)リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、(b)メトセル(Methocel)E-4Mゲル、(c)プルロニック(Pluronic)F-127ゲル、または(d)カーボポル(Carbopol)-934Pゲル中2mg/mlで調製した抽出物を、0、2、4、6、および8日目に投与した。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図14】低分子量袋角抽出物(「治療」)またはPBS(「対照」)の単回投与後4日目の、創傷組織のマッソントリクローム染色により現れた創傷組織構造を示す画像。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(A)は、対照創傷の低倍率画像であり、パンチ生検(創傷)が水平線の右に明らかである。対照創傷のより高倍率の画像は、創傷の表面上の痂皮(S)と下の創傷組織(WT)を示す。低分子量抽出物による処理後のパンチ生検(創傷)が、(B)で明らかである。治療した創傷のより高倍率(D)は、血管スペースおよび形成している表皮(E)と思われるものと一緒に皮膚組織(DT)を明らかにする。(A)と(B)のスケール・バー=200μm、(C)と(D)のスケール・バー=100μm。
【図15】低分子量袋角抽出物(「治療」)またはPBS(「対照」)の単回投与後4日目の、創傷組織のラミニン免疫組織化学。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(A)対照創傷ではラミニンは、創傷の端の組織内でのみ検出され、パンチ生検内では検出されなかった。(B)治療創傷ではラミニンは、創傷の端と創傷内の両方に検出された。(C)(A)の対照創傷の高倍率であり、ほとんど血管が見えない。(D)(B)の治療創傷の高倍率であり、上皮の下にある基礎血管(basal vessels)と新しい血管が明らかである。(E)(A)の創傷の端の高倍率は、非創傷組織のみで血管を証明する。(F)ラミニン抗体のウサギIgG対照であり、シグナルは検出されない。(A)と(B)のスケール・バー=200μm、(C)と(D)のスケール・バー=100μm。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シカ(deer)の枝角(antler)抽出物に関する。特に本発明は、シカ枝角の袋角(antler velvet)から得られる血管形成性抽出物と、ヒトおよび動物の医療において創傷、損傷、および疾患の治療に使用される該抽出物を含有する組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷、特に治癒が困難な持続性の創傷は、創傷に栄養を供給し、治癒過程を仲介し、瘢痕形成を最小にする血管が必要である。一般に、持続性創傷を治療するために最も一般的に使用されている治療法は、自身の血液供給を助けることはなく、従ってその治癒過程は遅い。
【0003】
慢性の創傷の治療のための種々の治療法があるが、いまだに圧迫包帯の使用が一般的な治療法のようである(Marshallら、2001)。他の治療法が利用でき、酸素分圧の調節を含む機構で作用し、従って高圧酸素療法を支持するいくつかの自然の治療法が提唱されている(Senら、2992)。
【0004】
血管形成(組織の血管形成の過程)を増強することによる創傷の治癒は、いくつかの提唱された治療法で明らかである。最近の研究ではアデノシンが、アデノシンA(2A)受容体アゴニストとして作用して創傷が治癒される速度が上昇しているようである(Montesinosら、2002)。これは、治療された創傷中の微小血管の数を増加させた。血管形成の上昇は、この論文で示される治癒の改善の基礎となっていると考えられる機構である。
【0005】
公知の古典的血管形成増殖因子である血管内皮増殖因子(VEGF)は、局所的な持続的送達を確実にするために遺伝子治療により送達すると、血管形成と創傷治癒の増強を引き起こすことが証明されている(Deodatoら、2002)。Malindaら(1998)は、サイモシンα1が、内皮細胞遊走、血管形成、および創傷治癒を刺激することを見いだし、これが創傷治癒物質候補であることを確認している。
【0006】
シカ枝角は、毎年脱落し再生される。枝角は、成長期には1日で最大2cm成長し、その間これは「袋角」と呼ばれる。その成長は、枝角の先端にある間充組織中の幹細胞集団により支配される(Liら、2002)。袋角は高度に血管形成しており、枝角内の血管は、枝角成長を支えるために枝角と同じ速度で成長するはずである。我々は、このシステムを、創傷治癒過程を支持する血管形成因子源の候補であることを確認した。
【0007】
治癒しているかまたは再生している肉茎(pedicle)(かれらはこれを再生芽(blastema)と呼んだ)が、血管形成能力を有することを示唆する1つの論文がある(Auerbachら、1976)。この論文では、いくつかの組織が血管形成能力を有することを証明する目的で、著者が枝角の再生芽を含む種々の組織をスクリーニングした。しかし重要なことは、この論文は、実際の血管形成活性または創傷治癒活性を示すデータを含まないことである。再生芽は、枝角が脱落すると出現する治癒組織を意味し、本発明者らが研究し本明細書で概説したより成熟した成長する枝角とは異なる。
【0008】
血管形成作用に関連して研究されている成長しているシカ袋角についての公表された報告は無い。本発明者らは、成長している袋角の総タンパク質抽出物が血管形成因子を含有することを見いだした。
【0009】
本明細書に概説した研究は、これらの血管形成因子を含有するシカ袋角の抽出物が、枝角全体から抽出され、成長する枝角先端にのみ集中しているのではないことを証明する。
本発明者らは、血管形成作用を有し創傷治癒に使用できるシカ袋角から抽出された単離されたペプチドの組成物を調製した。
【0010】
本発明者らは、袋角を分画して血管形成能力を評価した。分画法の一部として彼らは、袋角の高分子量画分と低分子量画分を研究し、驚くべきことに低分子量画分が良好な活性を有することを見いだした。小分子はより安定であり創傷中で急速に分解しにくいため、これは有望な結果である。
【0011】
その分子量を基準にすると、ほとんどの古典的な血管形成増殖因子は、高分子量画分に存在すると考えられ、この1つの例外は、サイモシンファミリーのペプチドであろう。
【0012】
本明細書で引用されるすべての文献(特許または特許出願を含む)は、参照することにより本明細書に組み込まれる。これらの文献への参照は、決して先行技術であることを認めるものではない。文献の考察はその著者らが主張するものを記載し、本出願人らは、その引用文献の正確性と適切性に意義を申し立てる権利を留保する。多くの先行技術の文献が本明細書で参照されるが、この参照は、これらの文献がニュージーランドまたはその他の国において、当該分野の一般的知見の一部であることを認めるものではないことは、容易に理解されるであろう。
【0013】
用語「含む」は、種々の状況において排除的または包含的である。本明細書の目的において、特に明記しない場合は、用語「含む」は包含的意味を有し、すなわちこれを直接言及する成分のみでなく、他の記載されていない成分または要素も意味すると考えられる。これは、「含んだ」または「含んでなる」という用語が、方法またはプロセスの1つ以上の工程に関連して使用される時も使用されるであろう。
【0014】
本発明の目的は、前記問題に取り組むか、または少なくとも有用な選択肢を公に提供することである。
本発明のさらなる態様と利点は、例示目的にのみ与えられる以下の説明から明らかであろう。
【発明の開示】
【0015】
本発明のある態様において、実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する成分を含有する、シカ袋角の分離抽出物が提供される。
【0016】
本発明の別の態様において、実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、シカ袋角から得られたペプチドの分離抽出物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様において、成分を以下の方法(実質的に100℃で実質的に最大3分加熱;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露による滅菌;または凍結融解)の少なくとも1つに付した後でさえも、成分は内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記した分離抽出物が提供される。
【0018】
本発明の別の態様において、ペプチドを以下の方法(実質的に100℃で実質的に最大3分加熱;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露による滅菌;または凍結融解)の少なくとも1つに付した後でさえも、ペプチドは内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記した分離抽出物が提供される。
【0019】
本発明の別の態様において、創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出した成分の使用が提供される。
本発明の別の態様において、創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出したペプチドの使用が提供される。
本発明の別の態様において、持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出した成分の使用が提供される。
本発明の別の態様において、持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、シカ袋角から抽出したペプチドの使用が提供される。
【0020】
本発明の別の態様において、成分は内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記の抽出物からの少なくとも1つの成分を含有する分離抽出物が提供される。
本発明の別の態様において、ペプチドは内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進することを特徴とする、実質的に上記の抽出物からの少なくとも1つのペプチドを含有する分離抽出物が提供される。
【0021】
本発明の別の態様において、創傷の治療のための実質的に上記の成分の治療的有効量を含む組成物が提供される。
本発明の別の態様において、必要な動物に実質的に上記の組成物を投与することを含む、創傷の治療法が提供される。
本発明の別の態様において、創傷の治療のための実質的に上記のペプチドの治療的有効量を含む組成物が提供される。
【0022】
組成物は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の異なる製剤の形を取ることが企図される。例えば組成物は、当業者に公知のように、ゲル剤、ローション剤、バルム(a balm)、スプレー剤、経皮的包帯などとして調製される。
【0023】
本明細書において用語「ペプチド」は、アミノ酸のポリマーを含むペプチド、タンパク質、およびポリペプチドを含むシカ袋角中に存在する任意のペプチドまたはペプチドの組合せを意味し、特に限定されないが炭水化物および/または脂質成分を含むように修飾されたペプチド、タンパク質、およびポリペプチドを含む。
【0024】
本明細書において用語「成分」は、特に限定されないが、ペプチド、炭水化物、核酸、遊離のアミノ酸、脂質、および増殖因子を含む、シカ袋角中に存在する任意の成分または成分の組合せを意味する。
【0025】
本明細書において用語「増殖作用」は、細胞および/または組織が迅速に成長するか、または増殖して新しい細胞もしくは組織を産生するようにさせる、本発明の抽出物または組成物の能力に関する。
【0026】
本明細書において用語「内皮細胞」は、血管の内部表面を裏打ちする内皮を構成する細胞に関する。これは、静脈血管と動脈血管の両方、ならびに毛細血管、冠状血管、および心臓の内層を含む。
【0027】
本明細書において用語「創傷」は、皮膚、組織または臓器が、疾患、事故または手術の結果として、裂けたか、貫通したか、切断されたか、または分離もしくは破れた損傷を意味する。この用語は、ただれ病変に関し、潰瘍を含む。
【0028】
本明細書において用語「持続性創傷」は、治癒が遅く長期間続く創傷を意味する。この用語は、慢性創傷も意味する。
【0029】
本明細書において用語「凍結融解」は、本発明のペプチドを実質的に−20℃に付し、次に実質的に18〜25℃である室温まで上昇させることを意味する。
本発明のペプチドの分子量は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の異なる方法により測定される。
一般に本発明のペプチドの分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー、電気泳動、質量スペクトル法、または他の適当な方法により測定される。
【0030】
本明細書において用語「シカ袋角」、「袋角」、または[枝角」は、成長する枝角の部分を意味する。一般に枝角のすべての枝および完全な本幹が含まれる。しかし好適な実施態様において、血管形成抽出物を作製する時は袋角皮膚は取り出され、眉上弓枝に隣接およびその下ある本幹の基部も排除される。
【0031】
シカ袋角は複雑な組織であり、いったん乾燥されると、主にペプチド、タンパク質、およびミネラルからなり、また炭水化物、脂質および遊離のアミノ酸のような他の成分も含む。従ってシカ袋角の抽出物は、抽出溶媒中に溶解性のすべてかかる成分の混合物を含有する。水性抽出条件が使用される時、抽出物の主成分は当然、ペプチドまたはタンパク質であると予測される(Sunwooら、1995)。
【0032】
一般にシカ袋角はアカシカ(red deer)から取られる。しかし他の種のシカ(例えば、ワピチ(wapiti)、ダマジカ(fallow)、オジロジカ(white tail))もまた、シカ袋角の供給源として使用される。
【0033】
本明細書において用語「血管形成性」または「血管形成」は、血管の成長を誘導する物質の能力を意味する。
好ましくは袋角は、成長期に採取される。しかしこれは、本発明の範囲を限定するものではなく、成熟枝角からの袋角も採取され、本発明で使用することができる。
【0034】
袋角は、1つ以上の以下の方法により袋角を保存するように処理される:凍結乾燥、凍結、熱浸漬、またはオーブン乾燥。しかし、これは本発明の範囲を限定するものではない。
好ましくは、袋角は熱浸漬により処理される。
【0035】
当業者に公知のように、本発明の成分は、任意の薬剤学的または獣医学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、および/または他の製剤添加剤を含む。
シカ袋角は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の異なる方法により抽出される。
ある好適な実施態様において、抽出は有機溶媒を使用する。
別の好適な実施態様において、抽出は水溶液を使用する。
【0036】
本明細書において用語「総タンパク質抽出物」は、抽出物中に含有されるペプチドまたはタンパク質の分子量を制御する試み無しで調製される水性抽出物を意味する。定義により、総タンパク質抽出物はまた、ペプチドやタンパク質ではないがペプチドまたはタンパク質と同時に抽出されるシカ袋角の他の水溶性成分も含有するであろう。
【0037】
本発明のシカ袋角の抽出物は、種々の異なる方法、例えば限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、透析、または有機溶媒を使用する方法により分画されて、低分子量画分を与える。しかしこのリストは、本発明の範囲を限定するものではなく、他の方法も使用可能である。
【0038】
ある好適な実施態様において分画法は、有機溶媒として70%エタノールを利用し、ここにシカ袋角が浸漬された後、水性抽出される。本明細書において用語「エタノール前処理後の抽出」は、この方法を使用して調製される抽出物を意味する。
【0039】
別の好適な実施態様において分画法は、シカ袋角の総タンパク質抽出物の水溶液への冷エタノールの添加を利用して、高分子量タンパク質の沈殿を引き起こし、これは次に遠心分離またはろ過して除去される。本明細書において用語「エタノール沈殿した抽出物」は、この方法を使用して調製される抽出物を意味する。
【0040】
さらなる実施態様において、分画法は限外ろ過を利用する。
一般に本発明の最終的袋角抽出物は、水溶液、乾燥した不定形の固体または凍結乾燥粉末でもよい。しかしこれは、本発明の範囲を限定するものではない。
好ましくは水溶液は、水、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、または他の適当な水性溶媒中である。
【0041】
好適な抽出法について本明細書に含まれる開示内容以外に、当業者に有用な抽出に関する詳細は、NZ524868およびPCT出願NZ2004/000058に記載されている。
すなわち本発明の実施態様は、先行技術に対して以下を含む多くの利点を有する:
1. シカ袋角から血管形成組成物を得るための抽出法を提供する。
2. 血管形成作用を有するシカ袋角からの組成物を提供する。
3. 創傷または損傷で使用可能なシカ袋角からの組成物を提供する。
4. 持続性創傷の治療に使用できるシカ袋角からの組成物を提供する。
【実施例】
【0042】
発明を実施するための最良の形態
実験
方法
組織の採取:
前の枝角の脱落後の55〜60日の成長時期にある3週齢のオスのアカシカから、袋角を採取した。
【0043】
「枝角の脱落中のシカの健康のための勧告と最低基準の規約(Code of Recommendations and Minimum Standards for the Welfare of Deer during the Removal of Antlers)、1992年7月(1997改正)」(農務水産省(Ministry of Agriculture and Fisheries)、ニュージーランド)の規定に従って、袋角を取り出した。
【0044】
袋角は、工業的に熱浸漬または凍結乾燥により処理した。熱浸漬は伝統的な中国式方法を基準にして、枝角の棒を基部から吊し(すなわち、先端を下にする)、ほとんど沸騰している湯に短時間繰り返し浸漬する。浸漬後、冷却し、再度浸漬する。枝角の切断した基部からきれいな血漿の泡が出るまで、浸漬を続ける。次に枝角を、約15℃の低湿ドライヤー中に、乾燥するまで数週間入れる。
【0045】
処理した枝角(熱浸漬または凍結乾燥)を選択した。鋭いナイフを使用して枝角から袋角の皮膚を除去した。眉上弓枝までを含めて除去した枝角の主要な基部以外を除いて、55〜60日の成長時期のアカシカの枝角のすべての部分を含めた。帯のこを使用して袋角を1〜2cmの厚さに輪に切断し、次にたがねで数センチの大きさの小さいブロックに切り刻んだ後、0.5mmのふるいを取り付けたミル(トーマス(Thomas)、アメリカ合衆国)を使用して粉砕して粉末にした。
【0046】
抽出と分画
シカ袋角を抽出し分画して、血管形成増殖因子の豊富な低分子量画分を得る。この画分は、限外ろ過、透析、ゲルろ過クロマトグラフィー、有機溶媒(例えばエタノール)を使用して溶液から高分子量タンパク質の沈殿、またはシカ袋角を有機溶媒(例えば70%エタノール)で前処理後に水性抽出、を含む多数の方法により作製することができる。ここで使用した3つの方法は、限外ろ過、エタノールを使用する高分子量の沈殿、および70%エタノールによるシカ袋角の前処理後の水性抽出である。
【0047】
シカ袋角の抽出と限外ろ過による分画
シカ袋角の総タンパク質抽出物の調製
5gの凍結乾燥した袋角粉末から100mlのリン酸緩衝液を使用して、リン酸緩衝液抽出物を作製した。リン酸緩衝液は、オルトリン酸水素二ナトリウム(1.15g/l)、オルトリン酸二水素カリウム(0.24g/l)、塩化カリウム(0.2g/l)および塩化ナトリウム(8.0g/l)を含有した。混合物を室温で1時間攪拌し、グラスファイバーろ紙(ワットマン(Whatman)GF/A)でろ過した。ろ液を11,500rpmで4℃で30分遠心分離した。上清(93ml)を計量したショット瓶(Schott bottle)にデカントし、シェル・フローズン(shell frozen)した後、15℃で凍結乾燥した。
【0048】
限外ろ過によるシカ袋角の総タンパク質抽出物の分画
リン酸緩衝液袋角抽出物(15mg)を1mg/mlの濃度で脱イオン水に溶解し、公称分子量カットオフ10kDaを有する限外ろ過装置(Centriprep-YM10、アミコン(Amicon)、アメリカ合衆国)にデカントした。チューブを2,100gで4℃で40分遠心分離した。次に限外ろ過液を取り出し、チューブを同様に、ほんのわずかの高分子量保持物が残るまでさらに20分の遠心分離を2回行った。限外ろ過液を合わせ、新鮮なCentriprepチューブ中にデカントした。高分子量タンパク質の混入がなくなるまで、限外ろ過を繰り返した。低分子量画分を含有する最終的限外ろ過液を凍結乾燥し、計量し、将来の使用のために保存した。高分子量画分を含有する保持物を同様に操作した。
【0049】
エタノールを使用して総タンパク質抽出物の溶液から高分子量タンパク質を沈殿することによる低分子量抽出物の調製
乾燥したシカ袋角粉末(10g)を脱イオン水(100ml)中で室温で3時間静かに振盪することにより、シカ袋角の総タンパク質抽出物を調製した。混合物を2,100gで15分遠心分離し、上清をきれいな遠心分離ビン中にデカントした。上清をさらに21,000gで15分遠心分離して、総タンパク質抽出物溶液を完全に清澄化し、次にこれを4℃に冷却した。一定の攪拌をしながら冷(4℃)100%エタノール(3容量)を徐々に加えた。濁った混合物を21,000gで4℃で30分遠心分離して、沈殿した高分子量タンパク質を除去した。上清をブチ(Buchi)蒸発フラスコに移し、次にブチ(Buchi)ロータリーエバポレーター上で真空下で溶媒を留去した。低分子量袋角抽出物を含む不定形の乾燥残渣を、使用前に、蒸発フラスコ中に密封して室温で保存した。
【0050】
エタノールによる前処理後のシカ袋角の抽出による低分子量抽出物の調製
実験室スケールの調製
この抽出物を作製するための選択される方法は、70%エタノールによるシカ袋角粉末の前処理後の水性抽出である。この場合、100gの熱浸漬シカ袋角粉末を600mlの70%エタノール(食品グレード)と混合した。混合物を3時間攪拌し、焼結ガラスロートでろ過した。ブチ(Buchi)ロータリーエバポレーターを使用して袋角残渣から真空下で残りのエタノールの大部分を除去した。蒸発工程の間、30℃の水浴を使用して蒸発フラスコに軽く熱を与えた。乾燥した袋角に脱イオン水(2リットル)を加え、混合物を12時間攪拌した。この時間の後に、抽出混合物を順にワットマン(Whatman)No1ろ紙、次にNo6ろ紙、最後にグラスファイバーろ紙(ワットマン(Whatman)GF/A)でろ過した。袋角の残渣を捨て、ろ液を11,500rpmで20℃で10分遠心分離した。上清をシェル・フローズンし、15℃で凍結乾燥した。総収量4.10g(4.1%の収率)が得られ、後述のin vitroバイオアッセイ実験に使用した。
【0051】
パイロットスケールの調製
上記したように調製した熱浸漬したシカ袋角の粉末を、34個の異なるバッチで70%エタノールで前処理した。84.0〜172.6gの袋角粉末を周囲温度で6容量(w/v)の70%エタノールとともに3時間攪拌した。まず、30℃の水浴を取り付けたロータリーエバポレーター(ブッチロタベーパー−R(Buchi Rotavapor-R))を使用して真空下で溶媒の大部分を除去し、次にオイルポンプ(エドワーズスピーディバック(Edwards Speedivac)ED35)で除去した。次に、前処理したシカ袋角粉末をプラスチック容器中で凍結した後、凍結乾燥(クドン(Cuddon))して最後の残りの溶媒を除去した。
【0052】
合わせたエタノール前処理シカ袋角粉末(4.3kg)に飲用水(86リットル)を加え、混合物を周囲温度で3時間攪拌した。混合物をダイノコーン(Dynocone)モデル612連続固体ボール遠心分離機(クラークチャプマン(Clark Chapman)、ダービー(Derby)、英国)に通して、液体抽出物から固体残渣を除去した。袋角抽出物を、まず10μmのフィルターバッグで次に1μmのフィルターバッグ(両方ともガフ(GAF))でろ過し、次にステンレス鋼トレイ上で凍結し、凍結乾燥機(クドン(Cuddon))で乾燥した。凍結乾燥した低分子量袋角抽出物をドライヤーのトレイからはがして、92g(2.1%収率)を淡黄色の不定形の固体として得た。この物質の大部分(90g)をγ放射線照射(シェリング−プラウ(Schering-Plough)、アパーフット(Upper Hutt)、ニュージーランド)(この処理の間、最小量の2.5Mradを与えた)により滅菌し、後述の製剤とラット創傷治癒試験で使用した。
【0053】
ゲルろ過クロマトグラフィー
0.3M塩化ナトリウムと0.05%アジ化ナトリウムを含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH6.9)を溶出緩衝液として使用して、袋角抽出物をスーパーローズ12 HR 10/30カラム(アマシャムバイオサイエンシーズ(Amersham Bibosciences))でゲルろ過クロマトグラフィーにより分析した。試料を0.05Mリン酸緩衝液(pH6.9)に2〜5mg/mlの濃度で溶解し、各溶液の10μlをカラムに注入し、流速0.75ml/分で溶出した。280nmのUV吸収を測定して、溶出したタンパク質を検出した。
【0054】
分子量既知の既知のタンパク質の標準的混合物を、袋角抽出物で使用したものと同じ条件下で分離して、スーパーローズ12カラムの分子量較正を行った。混合物は以下を含有した:サイログロブリン(669kDa);ウシγ-グロブリン(コーン画分II、160kDa);ウシ血清アルブミン(66.7kDa);オボアルブミン(グレードVI、46kDa);カーボニックアンヒドラーゼ(ウシ)(29kDa);チトクロムC(ウマ心臓)(12.4kDa);L-チロシン(181Da)。すべての標準物質はシグマ(Sigma)から得られたが、L-チロシンのみはビーディーエィチ(BDH)から得られた。溶出したタンパク質ピークの見かけの分子量は、較正曲線(これは、タンパク質の分子量の対数を保持時間に対してプロットすることにより作製した)を使用して内挿法により測定した。
【0055】
SDS-PAGE電気泳動
シカ袋角の総タンパク質抽出物と低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を、16.5%のトリス−トリシンSDS-ポリアクリルアミドゲル(バイオラッド(BioRad))に流した。試料を2-メルカプトエタノールで変性させ、99℃に4分加熱した後、ゲルにのせた。10μlのマルチマーク(MultiMark)分子量マーカー混合物(インビトロゲン(Invitrogen))と5、10、25および50μgの各抽出物をゲルにのせた。ゲルを190ボルトで50分流した。ゲルを取り出し、0.25%のクマシーブリリアンドブルーG-250(ビーディーエィチ(BDH))(等量のメタノールと25%トリクロロ酢酸中で作製した)で45分染色した。次にゲルを5%トリクロロ酢酸溶液中で一晩脱染色した。ゲルを25%メタノール/1%酢酸中で5分間洗浄し、次に1%メタノール/0.5%酢酸中で5分間洗浄した後、1%グルタルアルデヒド溶液中で5分間固定した。脱イオン水(ミリQ)で6回洗浄(各洗浄について1.5分間)を行った。
【0056】
1.44mlの28%アンモニア溶液に92.5μlの10M水酸化ナトリウムを加え、ミリQ水で45mlに希釈して溶液Aを作製して、銀染色を行った。溶液Bは、2.5mlのミリQ水中の0.5gの硝酸銀からなる。使用直前に溶液AとBを混合し、ゲルを混合物中で10分間染色した。染色後ゲルをミリQ水中で3回、全部で10分間洗浄した。最後に、0.005%クエン酸/0.02%ホルムアルデヒド溶液中で約1分間ゲルを発色させ、25%メタノール/0.26%酢酸を2分間加えて発色を停止させた。次に提示用に、コダックDC120デジタルカメラを使用して写真を撮った。
【0057】
細胞増殖アッセイ
T75組織培養フラスコ(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))中の10%胎児牛血清(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))、50U/ml ペニシリン、50μg/ml ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、および1ng/ml 塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を補足した培地199(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))でヒト臍帯静脈内皮細胞を、5% CO2中で37℃で培養した。細胞をトリプシン処理(0.025%トリプシン、0.265mM EDTA、ギブコビーアールエル(Gibco BRL))し、96ウェルプレート(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))に3000細胞/ウェル/200μlの密度で接種し、3日間培養した。1%血清中で24時間細胞を栄養不足にし、次に1ng/ml bFGFを含有する1%血清を用いて、シカ袋角の抽出物の存在下または非存在下でさらに48時間処理した。インキュベーションの終了の2時間前に、各ウェルに20μlのセルタイター(Celltiter)96(登録商標)Aqueous One Solution Reagentを加えた。37℃で加湿した5% CO2雰囲気中でインキュベーション後、プレートリーダー(バイオテク(Bio-Tech))を使用して、490nmでウェルの光学密度(「OD490」)を記録した。
【0058】
ウシ大動脈内皮細胞の遊走
ウシ大動脈内皮(BAE)細胞を、12ウェルプレート(ヌンクロン(Nunclon)(登録商標))中の10%胎児牛血清(ギブコビーアールエル(Gibco BRL))を含有するダルベッコー改変イーグル培地(DMEM、ギブコビーアールエル(Gibco BRL)(登録商標))中で、コンフルエンスになるまで増殖させた。次にプレートをディスポーザブルピペットの先端で引っ掻き、単層を「創傷」させた。ダルベッコーPBS+カルシウム(0.1g/l)(ギブコ(Gibco)(登録商標)、インビトロゲン社(Invitrogen Corporation))で洗浄後、創傷した単層を、新鮮な1%血清中でシカ袋角の抽出物の存在下または非存在下で48時間培養した。これらは、総タンパク質袋角抽出物、ろ過して調製した低分子量抽出物、総タンパク質抽出物の溶液から高分子量タンパク質の沈殿により作製した低分子量抽出物、および袋角を70%エタノールで前処理後作製した低分子量抽出物である。後者の低分子量抽出物はまた、100℃で3分間煮沸した後に試験した。陽性対照としていくつかのウェルを含め、10%血清中で培養した。最初の創傷時と創傷後48時間目に顕微鏡写真を撮って、創傷単層中の細胞の移動の程度を測定した。顕微鏡写真は、オリンパスCK2倒立顕微鏡で20×の倍率で取り、横15cm×縦10cmの標準サイズでプリントした。写真の上にベースラインと平行に、1.5cm間隔で10cmの長さの格子を置いた。ベースラインは、元々細胞をはがした「創傷線」の上に置いた。各線で分けられた細胞の数を記録した。これにより、顕微鏡写真上でベースラインから1.5、3.0、4.5、6.0、7.5または9.0cmまで移動した細胞の数が評価できた。
【0059】
in situハイブリダイゼーション
プローブ産生
in situハイブリダイゼーションプロトコールは、Clarkら(1996)が記載した方法に基づいた。VEGFのエキソン1〜4をカバーするプローブを、転写ベクターpGEMT(登録商標)Easy(プロメガ(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)中にクローン化した。SacII、NcoI(ニューイングランドバイオラボズ(New England Biolabs)、ビバリー(Beverly)、マサチューセッツ州)またはSalI(ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)、ドイツ)を用いて、これを制限消化してセンス・プローブとアンチセンス・プローブとを得た。1本鎖のセンスおよびアンチセンス・リボプローブを、10μCi/μl[33P]UTPを用いて製造業者(プロメガ(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)の説明書に従って転写して標識した。
【0060】
切片調製
キシレン、次に低下する濃度のエタノール中で切片を脱蝋し、次に0.2M HCl中に20分間(室温)浸漬し、2×SSC(1×SSCは150mM塩化ナトリウムと15mM 塩素酸ナトリウム、pH7.0を含有する)で30分間洗浄した。200mM トリス−塩酸(pH7.2)、50mM EDTA(pH8.0)中2μg/mlのプロテイナーゼK(シグマケミカル(Sigma Chemical))で、37℃で15分間消化を行った。次にスライドを、100mM トリエタノールアミン(pH8.0)、0.25%無水酢酸の溶液中に2×5分間(室温)浸漬した。スライドを2×SSC(室温)中で5分間洗浄し、脱水し、乾燥させた。
【0061】
ハイブリダイゼーション
前記のプローブ産生で標識した1μlのリボプローブ(約2×106cpm/μl)を、20〜60μlのハイブリダイゼーション緩衝液と混合した。ハイブリダイゼーション緩衝液は以下を含有した:50%(v/v)の脱イオン化ホルムアミド、0.3M NaCl、10mM トリス−塩酸(pH6.8)、10mM リン酸ナトリウム(pH6.8)、5mM EDTA(pH8.0)、1×デンハルツ溶液(0.02%(w/v)ずつのBSA、フィコールおよびポリビニルピロリドン)、10%(w/v)の硫酸デキストラン、50mM ジチオスレイトール、および1mg/ml 酵母tRNA(ライフテクノロジーズ(Life Technologies))。プローブを含有するこの混合物を95℃で変性させ、前処理し乾燥した組織切片に適用し、次に小さいパラフィン片でカバーした;プレハイブリダイゼーションはしなかった。ハイブリダイゼーションは、50%ホルムアミドと0.3M NaClで加湿した密封容器中で54℃で18時間行った。
【0062】
スライドを5×SSC中で50℃で15分間(×2)洗浄し、次に50%ホルムアミドを有する2×SSC中で65℃で30分間洗浄した。それぞれ5分間の4回の洗浄を2×SSC中で37℃で行った。1×洗浄溶液(400mM NaCl、10mM トリス−塩酸、5mM EDTA、pH7.5)中の最終濃度20μg/mlのRNAseA(シグマケミカル(Sigma Chemical))とともに、スライドを37℃で30分間インキュベートした。50%ホルムアミドを含有する2×SSC中でスライドを65℃で30分間洗浄し、次に2×SSCと0.2×SSC中で15分間(いずれも37℃)洗浄して、RNAseAを除去した。0.3M酢酸アンモニウムを含有する30、60、80および95%エタノールで切片を脱水し、次に100%エタノールのみで最後に2回洗浄した。
【0063】
切片を空気乾燥し、オートラジオグラフィーエマルジョン(LM-1エマルジョン;アマシャムインターナショナル(Amersham International plc))でコーティングした。遮光箱中で4℃で3週間、エマルジョンコーティングスライドを乾燥して保存した。次にスライドを発色させ(D19発色剤;コダック(Kodak)、ローチェスター(Rochester)、ニューヨーク、アメリカ合衆国)、写真で固定(30%チオ硫酸ナトリウム)して、ハイブリダイゼーション部位の上に見える銀粒子を産生させた。ギルス・ヘマトキシリンで切片を対染色し、ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡で明視野と暗視野照射を使用して観察した。
【0064】
低分子量袋角抽出物を含有する製剤の調製
3つの異なる種類のポリマー、すなわちカーボポル(Carbopol)-934P、プルロニック(Pluronic)F-127、およびメトセル(Methocel)E-4Mを使用して、シカ袋角から血管形成抽出物の局所的ゲル製剤を調製した。カーボポル(Carbopol)-934Pは、ケミカラーニュージーランドリミテッド(Chemcolor New Zealand Limited)からの供与試料であり、プルロニック(Pluronic)F-127は、バスフニュージーランドリミテッド(BASF New Zealand Limited)からの供与試料であり、メトセル(Methocel)E-4Mは、ダウケミカルリミテッドオーストラリア(Dow Chemical Limited Australia)からの供与試料である。
【0065】
等張リン酸緩衝液の調製
1.295gの無水オルトリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、0.9125gのオルトリン酸二水素ナトリウム1水和物(NaH2PO4.H2O)、および1.199gの塩化ナトリウムを水に溶解して、等張リン酸緩衝液の調製(0.063M)(pH7.0)を調製した。次に容量を水で250mlにした。
【0066】
カーボポル(Carbopol)-934Pを用いる製剤
カーボポル(Carbopol)は、等張マンニトール水溶液中で調製した。
2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを調製するために、0.5gのカーボポル(Carbopol)-934Pを50mlの2倍濃度等張マンニトール溶液に加え、これを磁気スターラーを使用して30分間攪拌し、次に放置して気泡を表面まで上がらせた。マンニトール溶液は、5.07gのマンニトールを水に50mlまで混合して作製した。10%(w/v)の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを7.0に調整した。
【0067】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で蒸留水に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
対照製剤を作製するために、3gの2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを3mlの水に加え、これをスパテラで静かに混合した。次にこれを使用するまで4℃で保存した。
治療製剤を調製するために、3gの2倍濃度カーボポル(Carbopol)ゲルを3mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これをスパテラで静かに混合した。次にこれを使用するまで4℃で保存した。
【0068】
プルロニック(Pluronic)F-127を用いる製剤
プルロニック(Pluronic)F-127製剤を、等張リン酸緩衝液(pH7.0)中で調製した。
20gのプルロニック(Pluronic)F-127を50mlの冷等張リン酸緩衝液(これは磁気スターラーを使用して静かに攪拌した)に加えて、2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルを作製した。添加後、溶液をさらに10分間攪拌した。これは、4℃に一晩維持し、3時間超音波処理し、次に4℃で一晩保存した。
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で等張リン酸緩衝液に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
【0069】
4gの2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルを秤量し、ここに4mlの等張リン酸緩衝液を加えて、対照製剤を作製した。これをアイスボックス中で数分間維持して、プルロニック(Pluronic)ゲルを溶液に変換した(水中のプルロニック(Pluronic)は4℃で溶液であり、37℃でゲルである)。これを次に、スパテラで静かに混合し、使用するまで4℃で保存した。
【0070】
治療製剤を調製するために、4gの2倍濃度プルロニック(Pluronic)ゲルをバイアルに取った。ここに4mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これを次にアイスボックス中で数分間維持して、プルロニック(Pluronic)ゲルを溶液に変換した。これを次にスパテラで静かに混合し、使用するまで4℃で保存した。
【0071】
メトセル(Methocel)E-4Mを用いる製剤
メトセル(Methocel)E-4M製剤を、等張リン酸緩衝液(pH7.0)中で調製した。
2gのメトセル(Methocel)E-4M FGを25mlの攪拌等張リン酸緩衝液(これは80℃に加熱してあった)に加えて、2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルを作製した。追加の25mlの等張リン酸緩衝液(これは4℃に冷却してあった)をメトセル(Methocel)分散液に加え、さらに3分間攪拌した。次に混合物を4℃で5時間維持した。
【0072】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)を4mg/mlの濃度で等張リン酸緩衝液に溶解して、抽出物の2倍濃度溶液を調製した。
5gの2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルを秤量して、対照(製剤単独)を作製した。ここに55mlのリン酸緩衝液を加え、次に混合物をスパテラで静かに混合した。これを使用するまで4℃に保存した。
【0073】
治療製剤を調製するために、5gの2倍濃度メトセル(Methocel)ゲルをバイアルに取った。ここに55mlの2倍濃度抽出物溶液に加え、これをスパテラで静かに混合した。混合物を使用するまで4℃で保存した。
【0074】
ラット創傷治癒試験
これらの実験は、ウェリントン医学保健科学部(Wellington School of Medicine and Health Sciences)の動物倫理委員会(Animal Ethics Committee)が規定した条件下で行った。
【0075】
オスのルイスラット(19〜23週齢)を環境に馴化させ、実験期間中個々に収容した。実験の期間中ラットに通常の食物と水を与え、0日目からスタートして毎日ゼリー(4ml)を経口投与した。0日目に、ケタミン(100mg/kg体重)とキシラジン(5mg/kg体重)の注射(腹腔内)により、動物を麻酔した。各動物に、脊椎に沿って背中の表面に2つの8mlの全皮膚生検を行った。頭蓋の基部から6cmと8cm離れた部位に創傷を作製した。各生検は皮膚に対して直角になるように、注意した。創傷をガーゼでふき取って過剰の血液を除去し、次にスケールマーカーと識別番号とともに写真を撮った。次に治療溶液と対照溶液を創傷に添加した。回復後、テンギシック(Temgisic)を0.05mg/kg体重で皮下注射した。治療溶液と対照溶液の再投与は、図の凡例(図10〜13)に示すように2〜3日の間隔で行い、この操作の間、動物は3.5%ハロタンで軽く麻酔した。再投与の時、創傷の写真を撮り、次に完全な創傷閉鎖が起きるまで2〜3日毎に写真を撮った。
【0076】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)の投与速度と頻度を、ラット創傷治癒モデルで評価した。担体、投与法、および袋角の濃度は、図の凡例に記載されている(図10〜13)。各動物は25μlの治療物質を投与した1つの創傷と、25μlの対照物質を投与した他の創傷を有した。すべての実験は6匹の動物を使用して行ったが、1mg/ml(図10)の用量は4匹のみであった。各創傷の写真は、キャノン(Canon)EOS3000Nカメラ(F2.8 マクロレンズ)を用いて撮った。各露出のプリントをデジタル的に記録し、これらの画像からNIHイメージ1.63ソフトウェアを使用して創傷の面積を算出した。各時点の創傷のサイズは、元々のパーセントとして計算し、各時点について分散分析(ANOVA)により統計解析を行った。
【0077】
創傷組織構造
上記のようにラットの背中に創傷を作製した。0日の各ラットの対照創傷にPBSの単回適用を行い、治療創傷には、PBS中の低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出して調製した)の10mg/ml溶液を同じ日に適用した。創傷の4日後に動物(N=6)を安楽死させた。創傷を切り出し、4匹の動物について組織を10%中性緩衝化ホルマリンに24時間入れた後、70%エタノールに移した。他の2匹の動物からの組織は、コラーゲンの分析のために取って置いた。創傷を半分に切った後、パラフィンロウに包埋し、切断した表面を切片にした。切片を5μmで、APES(3-アミノプロピルトリエトキシ−シラン)でコーティングしたスライド上に切断した。
【0078】
マッソントリクローム染色法による創傷の染色
BancroftとStevens(1990)が記載したように、染色を行った。切片をキシレン(5分×2)で脱蝋し、低下する濃度の一連のエタノール溶液で再水和した。次に切片を、ヴァイゲルトヘマトキシリンで10分間染色した後、水道水で10分間洗浄した。これらを0.5%酸性フクシン溶液中に5分間入れ、次に蒸留水ですすいだ。1%のホスホモリブデン酸を5分間使用した後、2%メチルブルーで5分間染色し、蒸留水で洗浄した。1%の酢酸で2分間処理後、上昇する濃度の一連のエタノール溶液で切片を脱水し、キシレンで処理し、DePeX(ビーディーエィチ(BDH))でカバーグラスをかけた。
【0079】
ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡を使用して、キャノン(Canon)パワーショットG5(500万画素)デジタルカメラで写真を撮った。キャノン・リモートコントロール・ソフトウェア・プログラムにより72画素/インチの解像度で、画像を取り込み、アドビフォトショップ(Adobe Photoshop)(バージョン5.5)に移して、提示用にコメントを入れた。
【0080】
創傷上のラミニン免疫組織化学
切片をキシレン(5分×2)で脱蝋し、低下する濃度の一連のエタノール溶液で再水和した。特に明記しない場合は、すべての試薬、抗体および酵素は、ザイメドラボラトリーズインク(Zymed Laboratories Inc.)(カリフォルニア州)から購入した。切片をペプシン(カタログ番号20671651)で37℃で15分間処理した。以後の操作は室温で行った。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(5分×2)ですすいだ後、非特異結合部位を、1%BSA/PBS中の20%正常ヤギ血清で30分間処理してブロックした。次に切片を、ポリクローナルウサギ抗ラミニン抗体(1:1000希釈)(ノブスバイオロジカルズインク(Novus Biologicals Inc.)、カタログ番号300-144)で1時間インキュベートした。陰性対照のために、1次抗体の代わりに非免疫ウサギ免疫グロブリンIgG(10μg/ml)を使用した。切片をPBS(5分)、0.5%脱脂粉乳/0.1%Tween-20/2×PBS(10分×2)およびPBS(5分)で洗浄し、次にビオチン化2次ヤギ抗ウサギ抗体(5μg/ml)で30分間インキュベートした。
【0081】
切片を再度PBS(5分)、0.5%脱脂粉乳/0.1%Tween-20/2×PBS(10分×2)およびPBS(5分)で洗浄した。ザイメッドペロキソ(Zymed Peroxo)ブロックを9分間適用して内因性ペルオキシダーゼを不活性化させた。PBS(5分×2)で洗浄後、切片をHRP-ストレプトアビジン結合体(2.5μg/ml)とインキュベートした。切片をPBS(5分×2)で洗浄し、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)キットを用いて発色させた。水ですすいだ後、切片を増加する濃度の一連のエタノール溶液で脱水し、次にキシレンで処理し、DePeX(ビーディーエィチ(BDH))を使用してカバーグラスをかけた。ツァイス・アキシプラン(Zeiss Axioplan)顕微鏡を使用して、400ASAのコダック白黒フィルムに写真を撮った。画像をアドビフォトショップ(Adobe Photoshop)(バージョン5.5)に移して、提示用にコメントを入れた。
【0082】
結果
分画とゲルろ過クロマトグラフィー
Centriprep-YM10装置を用いる限外ろ過によってシカ袋角を分画すると、高分子量画分(図1)と低分子量画分(図2)が得られた。
総タンパク質抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー特性を図3に示す。これは、総タンパク質袋角抽出物中のタンパク質が種々の分子量を有することを示し、予測されるように高分子量タンパク質がほとんどであった。これと比較して、袋角を70%エタノールで前処理して得られた低分子量抽出物の同様の特性(図4)は、エタノール前処理が、主に10kDaより小さいタンパク質を含有する袋角抽出物を与えることを示す。この抽出物では6つの大きなピークが明らかである。
【0083】
SDS-PAGE電気泳動
総タンパク質抽出物と比較して低分子量袋角抽出物内に存在するタンパク質を視覚化しさらに解析するために、まずクマシー(図5A)で染色し次に銀(図5B)で染色したSDS-ポリアクリルアミドゲルを使用した。クマシー染色でも銀染色でも総タンパク質抽出物は、特に60kDaより上と20kDa付近に種々のタンパク質を示したが、低分子量抽出物レーンでは2つのバンドのみが明らかであった。これらは、約6kDaの見かけの分子量と60kDaを超える見かけの分子量であった。
【0084】
細胞増殖アッセイ
枝角抽出物は、1%血清と比較してヒト臍帯静脈内皮細胞の培養物の増殖を増強することができた(図6)。この増殖の増強は、低分子量抽出物(70%エタノールによる袋角の前処理後に作製)で最も顕著であった。総タンパク質袋角抽出物を3分間煮沸しても、内皮細胞に対する増殖活性は保持されたことに注意されたい。
【0085】
ウシ大動脈内皮細胞の遊走
抽出物の血管形成活性をさらに確認するために、ウシ大動脈内皮(BAE)細胞の遊走を調べた。限外ろ過とエタノール沈殿法の両方により作製した低分子量抽出物は、対照と比較して、細胞を引っ掻いた線から遊走する細胞の距離と数を有意に増加させた(図7)。
図8に示すように、低分子量抽出物(エタノール前処理法により得られた)の3分間の煮沸処理は、BAE細胞の遊走に対する増強作用を低下させることはなかった。
【0086】
in situハイブリダイゼーション
これ以外に我々は、枝角の血管形成活性が血管内皮増殖因子(VEGF)(最も良く知られている強力な血管形成因子)による可能性が小さいことを示した。VEGFのエキソン1〜4をカバーするプローブを使用して、in situハイブリダイゼーションを行い、すべてのスプライス変種を検出することができた。図9に示す結果は、VEGF mRNAが枝角の前軟骨細胞にのみ検出され、血管に隣接する細胞内には検出されないことを示す。VEGFのmRNAの量は、比較的少ないようである。
【0087】
我々はまた、in situハイブリダイゼーションを使用して他の古典的血管形成因子のいくつかの枝角mRNAを調べた(データは示していない)。驚くべきことに我々は、多量の酸性または塩基性線維芽細胞増殖因子mRNAを見つけることができず、これは他の因子が、枝角内の血管形成の支配に重要な役割を果たしているに違いないことを示唆する。
【0088】
ラット創傷試験
図10は、食塩水、または70%エタノールによる袋角の前処理後に作製した低分子量抽出物の1mg/ml溶液で治療した創傷の閉鎖パーセントを示す。治療された創傷は、食塩水のみで処理した対照創傷より有意に速い創傷治癒を示した。
【0089】
ラット創傷モデルを使用して、治療の用量範囲を試験した。低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)を、担体単独(これはPBSである)(対照治療)と比較した。いずれかの溶液25μl容量を創傷の上に置いた。0.1mg/mlの用量の袋角抽出物では、対照群と治療群にわずかな差があったが、どの時点でも差は統計的に有意ではなかった(図11a)。2mg/mlの用量で低分子量袋角抽出物は、2、4、6、8、10、および14日目に創傷閉鎖速度を有意に改善した(図11b)。低分子量袋角抽出物の10mg/ml用量は、8日と10日目に統計的に速い創傷閉鎖を示した(図11c)。非常に高用量の抽出物(100mg/ml)は同様に、6、8、10、12、14および16日目に創傷閉鎖速度を上昇させ、有意な改善を示した(図11d)。
【0090】
創傷の日に与えた10mg/mlの低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の単回投与の効果を、担体単独(対照)と比較した(図12)。抽出物の単回投与は創傷閉鎖速度を改善し、治療創傷と対照創傷の差は8日目に統計的に有意であった。
【0091】
低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の種々の製剤を、2mg/mlの用量で調べた(図13)。各場合に対照は、抽出物の無い担体単独である。メトセル(Methocel)を用いる抽出物の製剤は、担体単独と比較して2〜14日目に創傷閉鎖速度を有意に改善した。プルロニック(Pluronic)を用いて製剤化した抽出物は、測定したすべての日に創傷閉鎖速度を有意に改善したが、担体単独(対照)は、治癒の初期段階で負の影響があった(図13c)。カーボポル(Carbopol)を用いて抽出物を製剤化すると、創傷閉鎖の速度は、2、4、6、8、10および14日目に有意に改善された(図13d)。
【0092】
創傷組織構造
PBSの単回投与と比較して、低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後に抽出により作製した)の10mg/mlの単回適用後の治癒の4日目に、創傷の組織構造を調べた。この試験では6匹の動物を使用したが、組織構造のためには4匹のみを使用した。生検の左に位置する非創傷組織では、治癒しているパンチ生検部位が明らかであった(図14A, B)。対照創傷では、パンチ生検の領域は、表面の痂皮と下の創傷組織により区別された。この創傷組織は破壊され、細胞成分が点在する余分の細胞マトリックスから構成された(図14A, C)。治療した創傷は、顕著に異なる組織構造を示した(図14B, D)。痂皮(図14B)がところどころに現れ、上皮に似ていた。表面下には、我々が皮膚組織と呼ぶ構成された組織の層があった(図14D)。これは、瘢痕を形成するほどコラーゲンが豊富というわけではないようであった。これは良好な細胞構成を有し、天然の創傷治癒過程を仲介する血管の豊富なネットワークを有するようであった。4匹のうちの3匹の動物からの治療した創傷は、4番目のものと非常によく似ており、治療創傷と対照創傷の差は、図14で提示されたものより小さいことを示している。
【0093】
組織構造の試験の後に、基底膜タンパク質であるラミニンについての免疫組織化学試験を行った。対照創傷のラミニン免疫組織化学試験は、特に上皮表面下では、治療創傷と比較して、血管も血管の数の減少も示さなかった(図15A, C)。対照創傷では、ラミニンは創傷の端に検出され、抗体染色がこれらの切片で作用したことを示している(図15E)。治療創傷内では、基底血管ならびに上皮表面下の血管が明らかであった(図15B, D)。表面の血管は、基底血管と異なる形態を有し、上皮表面にかけてより弱く染色された。
【0094】
考察
この研究では、シカ袋角から得られる抽出物および画分中に含有されるペプチドとタンパク質のサイズに注目した。これは、乾燥したシカ袋角組織の主要な成分はタンパク質であり、古典的血管形成因子もまたタンパク質であるという知識によるものである。しかし、袋角抽出物および著者らが記載した画分では他の非タンパク質成分も明らかに含有されており、これらが、観察された活性に寄与しているかもしくは原因であることが認識される。
【0095】
血管形成活性を有する10kDaより実質的に小さいかまたはこれに等しい低分子量画分の発見は、多くの古典的血管形成増殖因子のサイズが10kDaより大きいことを考慮すると、驚くべきことである(表1)。
【0096】
ゲルろ過クロマトグラフィー分析とSDS-PAGE分析は、低分子量袋角抽出物の組成について一見矛盾する情報を与えた。クマシーブリリアンドブルーG250でそして次に銀で染色したSDS-PAGEゲル(図5)では、低分子量抽出物はゲルろ過クロマトグラフィー分析の結果から予測されるものより少ないバンドを示した(図4)。さらに10kDaより大きい分子量のタンパク質は、予測されたものより比較的強く染色された。しかし、SDS-PAGEゲル上のタンパク質の不完全な染色または染色されないことは、クマシーと銀染色のよく知られた特徴である(例えば、Smith, 2002;Kondratiukら、1982)。低分子量抽出物中の10kDa以下のタンパク質の予測より弱い染色強度は、この現象のせいかも知れない。
【0097】
シカ枝角組織上のin situハイブリダイゼーションにより検出される強力血管形成増殖因子であるVEGFのメッセンジャーRNA(図9)は、前軟骨領域に限定され、低レベルでのみ存在することが確認された。aFGFまたはbFGF mRNAのin situハイブリダイゼーションでは、血管形成が起きる領域に関連する転写体は見つからなかった(データは示していない)。これは、2cm/日までの枝角で血管の増殖を支配する因子についての疑問を引き起こした。
【0098】
抽出物に対するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖応答を測定した。総タンパク質袋角抽出物は、3分間煮沸した後でさえ、HUVECの増殖を引き起こすことがわかった(図6)。低分子量袋角抽出物(70%エタノールによる前処理後の抽出により調製した)は、HUVECの顕著な増殖を引き起こした。ウシ大動脈内皮(BAE)細胞を用いて内皮細胞遊走アッセイにより評価すると、総タンパク質袋角抽出物、エタノールによる沈殿により作製した低分子量抽出物、および限外ろ過により作製した低分子量抽出物はすべて、より多くの細胞を引っ掻いた領域に遊走させた(図7)。エタノールによる沈殿により作製した低分子量抽出物は、100μg/mlで最も大きな応答を示し、500μg/mlでは応答は少し弱く、用量応答を示している。
【0099】
70%エタノールによる前処理後の袋角抽出により調製した低分子量抽出物を、3分間煮沸の前および後に活性を試験した(図8)。結果は、試験したいずれの用量でも煮沸は何の影響を与えないことを示す。これは、血管形成活性に関与する分子が、最大3分間加熱しても安定であることを確認した。
【0100】
70%エタノールによる前処理後の袋角抽出により調製した低分子量抽出物を、ラットでin vivoで試験して、最大3日間創傷治癒を加速することがわかった(図10)。治療した創傷は、治癒過程の開始時および終了時に有意に速く治癒することがわかり、抽出物が治癒の全期間に対して影響することを示唆している。この推定を、さらなるin vivo実験で確認した(図11と13)。
【0101】
動物の創傷試験の結果は、低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後の抽出により作製した)の多くの肯定的な性質を示す。例えばこれは、γ放射線照射の滅菌用量(2.5Mrad)への暴露後も強力な活性を保持した。抽出物は、1mg/ml〜100mg/mlの改善された創傷閉鎖の有効な用量率を有するようである(図10と11)。どの用量率でも、負の影響は観察されなかった。創傷の日に低分子量袋角抽出物を用いて単回治療を行うことにより、応答を発生するのに必要な投与の回数を調べた(図12)。対照創傷と比較して、創傷閉鎖速度の上昇が観察され、ある時点(8日目)では、差は統計的な有意に達した。これは興味深い知見であり、最適な結果を与えるものを確認するには種々の投与法を試験することが必要であろう。
【0102】
2mg/mlの用量の低分子量袋角抽出物(エタノールによる前処理後の抽出により作製した)の種々の製剤を、ラット創傷治癒モデルで試験した(図13)。メトセル(Methocel)とカーボポル(Carbopol)を用いて作製した製剤は、PBSを担体として使用する製剤と非常によく似ており、ほとんどの時点で創傷閉鎖速度を改善した。担体単独は創傷閉鎖の初期速度に負の影響を有するため、プルロニック(Pluronic)製剤は禁忌かも知れない(図13c)。これらの結果は、抽出物が種々の製剤で送達でき、かつまだ活性を保持していることを示す。
【0103】
マッソントリクローム染色法(一般的な染色法であり、細胞外マトリックスタンパク質を有効に示すものである)を使用して創傷の組織構造を調べた。図14の画像は、創傷の4日後に、低分子量で治療した創傷内の皮膚組織は、正常皮膚で予測されるもののような構造を有することを示す。表皮が再形成され始め、血管および構成された細胞成分を含有する皮膚組織が創傷中に遊走したという証拠がある。対照の創傷は、創傷修復の初期段階に有り、主に特定の構成を持たない細胞成分が点在するコラーゲンである痂皮と皮膚創傷組織を有する。従ってこの組織構造は、低分子量抽出物で治療した創傷がより進行した治癒段階であることを示唆する。この組織構造はまた、抽出物が組織修復を仲介し、これは、正常な創傷閉鎖を引き起こし、コラーゲン性瘢痕を引き起こさないことを示唆する。
【0104】
基底膜タンパク質であるラミニンについて、創傷を免疫染色した。ラミニンは、内皮細胞の基底表面の基底膜に結合している。結果は、創傷の4日後に低分子量袋角抽出物で治療した創傷の創傷領域内では、対照(PBS治療)創傷内より多くの血管があることを証明した。最も顕著なのは、対照創傷と比較して、治療創傷の頂端/上皮下ゾーン内の血管の数の増加であった。対照創傷は、創傷領域内で血管がほとんどまたは全くなかった(図15A、D、E)。対照創傷の端では、非創傷領域で、血管が明らかであり、免疫染色がこれらの切片上でうまく働いていることを示している(図15E)。低分子量袋角抽出物で処理した創傷中では、マッソントリクローム染色により示唆されるように、創傷の上皮の下にある血管が明らかであるが、ラミニンの免疫染色は、図14に示すものとは異なる動物からであった。治療創傷の表面の血管は、上皮表面より弱く染色された(図15D)。血管はまた表面近辺で整列し、これはこれらが頂端表面に成長し、これらの血管の周りの基底膜が構成される過程であることを示唆している。ラミニンの免疫組織化学試験は、血管形成の増強が、創傷への低分子量袋角抽出物の投与に由来するかも知れないことを示唆する。
【0105】
結論としてこれらの結果は、シカ袋角から得られる組成物が血管形成活性を有することを証明する。特にエタノールによる前処理後の抽出により調製した低分子量袋角抽出物は、強力な創傷治癒活性を有する。これはin vitroで、内皮細胞の増殖と遊走を増強した。in vivoの創傷治癒モデルでは、低分子量袋角抽出物は、1mg/ml〜100mg/mlの用量範囲にわたって創傷閉鎖の速度を上昇させた。どの段階でも、動物に対する負の副作用は見られなかった。治療創傷の形態は、抽出物が、血管形成を含む健康な創傷治癒応答を誘導することを示唆する。これらの結果は、低分子量袋角抽出物による創傷の治療が創傷閉鎖速度を改善し、従って創傷治癒を助けるのに有効な方法であることを示している。
【0106】
【表1】
【0107】
本発明の態様を例としてのみ記載したが、添付の請求項に規定された本発明の範囲を逸脱することなく、変更と追加が可能であることを理解されたい。
【0108】
【化1】
【0109】
【化2】
【0110】
本発明のさらなる態様は、例示のためのみに記載される以下の説明と添付の図面を参照することにより明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】総タンパク質抽出物の限外ろ過により得られた、シカ袋角の高分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下に適当な分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図2】総タンパク質抽出物の限外ろ過により得られた、シカ袋角の低分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下に適当な分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図3】シカ袋角の総タンパク質抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下におよその分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図4】70%エタノールで袋角を前処理した後の水性抽出により得られた、低分子量画分のゲルろ過クロマトグラフィー特性。クロマトグラムの下におよその分子量スケールが示され、破線は10kDaタンパク質の予測される溶出位置を示す。
【図5】70%エタノールで袋角を前処理した後の水性抽出により得られた低分子量画分(「LMW抽出物」)と、シカ袋角の総タンパク質抽出物(「TP抽出物」)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動。(A)クマシーブリリアンドブルーG250で染色した。(B)次に銀で染色した。レーンは、5、10、25または50μgの抽出物を含有した。分子量マーカーの混合物(「MWマーカー」)を、ゲルの第1のレーンと最後のレーンにのせ、マーカータンパク質の分子量を画像の隣に示す。
【図6】1%血清(「対照」)、3分煮沸前の総タンパク質袋角抽出物(「総タンパク質抽出物」)と3分煮沸後の総タンパク質袋角抽出物(「煮沸総タンパク質抽出物」)、または低分子量抽出物(70%エタノールによる前処理後に抽出して調製した)(「低分子量抽出物」)に応答した、ヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖に及ぼす異なる枝角抽出物の作用を概説する棒グラフ。袋角抽出物は、500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図7】細胞遊走アッセイの結果を示すグラフ。1%血清(「対照」)、総タンパク質袋角抽出物(「総タンパク質」)、エタノール沈殿により作製した低分子量抽出物(「EtOH沈殿」)、限外ろ過により作製した低分子量抽出物(「限外ろ過物」)に応答した、BAE細胞の遊走。袋角抽出物は、100μg/mlと500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図8】細胞遊走アッセイの結果を示す別のグラフ。1%血清(「対照」)、または3分煮沸前の低分子量袋角抽出物(70%エタノールによる前処理後に袋角を抽出して調製した)(「AE」)と3分煮沸後の低分子量袋角抽出物(「煮沸AE」)に応答した、BAE細胞の遊走。袋角抽出物は、100μg/mlと500μg/mlの濃度で使用し、また1%血清を含有した。
【図9】袋角先端の前軟骨領域におけるVEGFプローブを使用するin situハイブリダイゼーションの写真。A)アンチセンス・プローブの明視野。B)ハイブリダイゼーションの領域を示すアンチセンス・プローブの暗視野。C)センス・プローブの明視野。D)バックグランドのみを示すセンス・プローブの暗視野。* 標識を有する前軟骨領域。V、血管。
【図10】ラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または低分子量袋角抽出物(食塩水中1mg/ml)(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。用量を、0、2、4、7および10日目に投与した。記載のデータは、創傷後の日の元々の創傷サイズのパーセントとしての平均創傷サイズである。2、4、7、10、14および17日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01である。
【図11】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の用量の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または食塩水中の低分子量袋角抽出物(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製し、(a)0.1mg/ml、(2)2mg/ml、(c)10mg/ml、(d)100mg/mlで投与した。用量を、0、2、4、6、8および10日目に投与したが、100mg/mlについては、10日目の投与はしなかった。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図12】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の投与頻度の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、25μlの食塩水(「対照」)または食塩水中の低分子量袋角抽出物(「治療」)で治療した。低分子量抽出物を、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(a)では0、2、4、6、8および10日目に10mg/mlで複数回投与し、一方(b)では0日目に10mg/mlを単回投与した。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図13】70%エタノールによる袋角の前処理後の水性抽出により得られた低分子量抽出物の異なる製剤の、創傷閉鎖速度に対する影響を調べるラットの創傷治癒試験の結果を示すグラフ。創傷を、低分子量袋角抽出物を含有する(「治療」)または含有させない25μlの(「対照」)種々の製剤で治療した。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。治療創傷には、(a)リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、(b)メトセル(Methocel)E-4Mゲル、(c)プルロニック(Pluronic)F-127ゲル、または(d)カーボポル(Carbopol)-934Pゲル中2mg/mlで調製した抽出物を、0、2、4、6、および8日目に投与した。記載のデータは、元々の創傷サイズのパーセントとしての、創傷後の日数の平均創傷サイズである。2、4、6、8,10、12、14および16日目に示すエラーバーは、平均間の差の標準誤差である。星印で示した有意水準は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001である。
【図14】低分子量袋角抽出物(「治療」)またはPBS(「対照」)の単回投与後4日目の、創傷組織のマッソントリクローム染色により現れた創傷組織構造を示す画像。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(A)は、対照創傷の低倍率画像であり、パンチ生検(創傷)が水平線の右に明らかである。対照創傷のより高倍率の画像は、創傷の表面上の痂皮(S)と下の創傷組織(WT)を示す。低分子量抽出物による処理後のパンチ生検(創傷)が、(B)で明らかである。治療した創傷のより高倍率(D)は、血管スペースおよび形成している表皮(E)と思われるものと一緒に皮膚組織(DT)を明らかにする。(A)と(B)のスケール・バー=200μm、(C)と(D)のスケール・バー=100μm。
【図15】低分子量袋角抽出物(「治療」)またはPBS(「対照」)の単回投与後4日目の、創傷組織のラミニン免疫組織化学。低分子量抽出物は、エタノールによる前処理後に抽出して調製した。(A)対照創傷ではラミニンは、創傷の端の組織内でのみ検出され、パンチ生検内では検出されなかった。(B)治療創傷ではラミニンは、創傷の端と創傷内の両方に検出された。(C)(A)の対照創傷の高倍率であり、ほとんど血管が見えない。(D)(B)の治療創傷の高倍率であり、上皮の下にある基礎血管(basal vessels)と新しい血管が明らかである。(E)(A)の創傷の端の高倍率は、非創傷組織のみで血管を証明する。(F)ラミニン抗体のウサギIgG対照であり、シグナルは検出されない。(A)と(B)のスケール・バー=200μm、(C)と(D)のスケール・バー=100μm。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する成分を含有する、シカ袋角の分離抽出物。
【請求項2】
前記成分がペプチドである、請求項1の分離抽出物。
【請求項3】
前記成分が、以下の方法:実質的に100℃で実質的に最大3分間加熱するか;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露によって滅菌するか;または凍結融解する、の少なくとも1つに供した後でも、内皮細胞に対する増殖作用および/または血管形成を促進する能力を維持する、請求項1または2に記載の分離抽出物。
【請求項4】
創傷の治療用の薬剤の製造における、請求項1または2に記載の分離抽出物の使用。
【請求項5】
持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、請求項1または2に記載の分離抽出物の使用。
【請求項6】
前記成分が、ペプチド、炭水化物、核酸、遊離アミノ酸、脂質、および増殖因子、またはこれらの組合せよりなる群から選択される、請求項1に記載の分離抽出物。
【請求項7】
内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する、請求項1に記載の抽出物中に存在する少なくとも1つの成分を含有するシカ袋角の分離抽出物。
【請求項8】
内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する、請求項2に記載の抽出物中に存在する少なくとも1つのペプチドを含有するシカ袋角の分離抽出物。
【請求項9】
創傷の治療のための、請求項7に記載の抽出物中に存在する成分の治療的有効量を含む組成物。
【請求項10】
創傷の治療のための、請求項8に記載の抽出物中に存在するペプチドの治療的有効量を含む組成物。
【請求項11】
創傷の治療のための、請求項2、3または6のいずれか1項に記載の分離抽出物の治療的有効量を含む組成物。
【請求項12】
請求項9、10、または11のいずれか1項に記載の分離組成物を、当該治療を必要とする動物に投与することを含む創傷の治療方法。
【請求項13】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書中に記載された創傷の治療のための分離抽出物。
【請求項14】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書に記載された創傷の治療のための薬剤の製造における分離抽出物の使用。
【請求項15】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書に記載された創傷の治療のための組成物。
【請求項1】
実質的に10kDa以下の分子量を有し、内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する成分を含有する、シカ袋角の分離抽出物。
【請求項2】
前記成分がペプチドである、請求項1の分離抽出物。
【請求項3】
前記成分が、以下の方法:実質的に100℃で実質的に最大3分間加熱するか;2.5Mradを超えるγ放射線への暴露によって滅菌するか;または凍結融解する、の少なくとも1つに供した後でも、内皮細胞に対する増殖作用および/または血管形成を促進する能力を維持する、請求項1または2に記載の分離抽出物。
【請求項4】
創傷の治療用の薬剤の製造における、請求項1または2に記載の分離抽出物の使用。
【請求項5】
持続性創傷の治療用の薬剤の製造における、請求項1または2に記載の分離抽出物の使用。
【請求項6】
前記成分が、ペプチド、炭水化物、核酸、遊離アミノ酸、脂質、および増殖因子、またはこれらの組合せよりなる群から選択される、請求項1に記載の分離抽出物。
【請求項7】
内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する、請求項1に記載の抽出物中に存在する少なくとも1つの成分を含有するシカ袋角の分離抽出物。
【請求項8】
内皮細胞に対する増殖作用を有するかおよび/または血管形成を促進する、請求項2に記載の抽出物中に存在する少なくとも1つのペプチドを含有するシカ袋角の分離抽出物。
【請求項9】
創傷の治療のための、請求項7に記載の抽出物中に存在する成分の治療的有効量を含む組成物。
【請求項10】
創傷の治療のための、請求項8に記載の抽出物中に存在するペプチドの治療的有効量を含む組成物。
【請求項11】
創傷の治療のための、請求項2、3または6のいずれか1項に記載の分離抽出物の治療的有効量を含む組成物。
【請求項12】
請求項9、10、または11のいずれか1項に記載の分離組成物を、当該治療を必要とする動物に投与することを含む創傷の治療方法。
【請求項13】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書中に記載された創傷の治療のための分離抽出物。
【請求項14】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書に記載された創傷の治療のための薬剤の製造における分離抽出物の使用。
【請求項15】
創傷の任意の例を参照することで実質的に本明細書に記載された創傷の治療のための組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2007−529417(P2007−529417A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532162(P2006−532162)
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/NZ2004/000101
【国際公開番号】WO2004/106372
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505438627)ベルベット アントラー リサーチ ニュージーランド リミティド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/NZ2004/000101
【国際公開番号】WO2004/106372
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505438627)ベルベット アントラー リサーチ ニュージーランド リミティド (1)
【Fターム(参考)】
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